USS 小説16


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付与魔術を覚えよう16  ... 著 / 優有

近くにあった冒険者の宿には、多くの冒険者たちがいた。
依頼を探してみたものの、ヴォダースカヤへと向かうような依頼は無く、
ダンジョン踏破に関するものも無かった。
ダンジョン踏破中の貴族について話を聞きたかったが、
店員は冒険者たちの相手で忙しい。
鹿の獣人と白熊娘もそれに混ざっていたが、早々に引き上げる。
「準備運動くらいにはなったな」
「雑魚」
ろくな事をしてないのは明らかだが、
狐娘はホクホク笑顔のためツッコミが入らない。
猫の獣人は髪も服も乱れていて半泣きになっているが、
「彼らはスキンシップが激しいな」
と馬の獣人に一蹴された。

再び関所に訪れた彼らの前には、この街に来た時とは違い、
私兵団らしきもの達がいた。
関所に普段詰めている兵士職員もいるが、明らかに機嫌が悪い。

不満を抱えながらも何も言えない兵士職員に憐れみを感じながら、
私兵の指示に従う。
荷物のチェックなどはなく、人数を数えた程度だ。
それしかせずに、
「こんな簡単な仕事に何で時間がかかるんだ?」
などと後ろで聞こえたが、彼らは関所を素通りする。
楽に済むならそのほうが彼らも良いのだ。

険悪さが増して、誰も近寄らない関所を後にして街道を進む。
来た時とは違い護衛対象がいないため、多少気楽に構えているようだ。
天気の良さもあり、のんびりと周辺で取れる動植物や先ほどの露店、
これまでに経験したダンジョンなどの話が交わされる。

「本を買おうなんて、珍しいですわね?」
「結局、何も買いませんでした」
「転売するには露店の本は不向きですわよ?」
「いや、お金目的じゃないです」
金儲けが基本行動の狐娘には、彼の行動はあまり理解できない。
露店売りの本や巻物は大抵が写本を繰り返された粗悪品のため、希少性など無い。
内容も生活に根差したものに偏る。
料理や農作業のノウハウならマシなほうで、日記や家系図なども混ざる。
あまり冒険者には意味の無いものばかりだ。

「昨日も本を読んでらしたけれど、何か調べてますの?」
だがそこに金儲けの匂いがすると、彼女は敏感に反応する。
「付与魔術の勉強…かな?」
「その本、見せてくださいません?」
「…え」
明らかに嫌そうな彼の反応に、彼女は確信する。
「私も魔術は勉強中ですから、参考にしたいのですわ」
「浄化結界が出来るのに、まだ勉強を?」
昨日の依頼中に魔物討伐を行ったが、その後処理として周辺の清浄化を行ったのは狐娘だ。
彼女が使う術の系統は一般的に僧侶系と言われる。神聖魔術や祈祷魔術などとも呼ばれるが、
基本的には神の力を借りて効果を成すものだ。
神の力が行使された結界は強力で、魔物だけでなく野生生物も寄り付かず、その効果期間も長い。

彼の場合は僧侶系ではなく魔術師系に区分される。
魔術師系の術は自身や自然、物品などに宿る魔力を用いるものが多い。
どちらも混雑している部分があるため、別系統の使い方を知ることは無駄にはならない。

「幅が広がれば、出来る事が増えますでしょう?」
「そうですね。僕もなんとか幅を広げたいんですけど…」

通常の魔術師系ならば、様々な攻撃魔術を扱い、威力や範囲も自由度が高い。
だが彼の場合は付与魔術に特化したため、攻撃魔術が使えない。
攻撃力や防御力を変動させたり、特殊な効果をもたらすことには長けている。
万屋のほうが向いている能力で冒険者稼業を務める以上、工夫は怠れない。

話をそらそうとしているのを感じたのだろう。
「見せていただけないなら、あらゆる手を尽くしますわよ?」
「何する気!?」
釘を刺した瞬間、先ほどの冒険者の宿の様子を思い出したのか、青くなり耳を伏せる。

そんな話をしながら進んでいたが、水場に着いた彼らの足が止まる。
昨日の浄化結界がまだ残っているため、水場だというのに動物の気配はない。
元々森に近い静かな場所に浄化結界が使われているため、更に静寂は濃くなるはずなのだが。
周囲の様子は全く静寂とは言えない状態になっていた。

「回復が済んだやつらは3人1組で現場に戻れ! 回復役はもっと手早く回復しろ!」

一番近い光景は野戦病院だろうか。
土の上にはマントが敷かれ、その上では怪我人が呻いている。
周囲にいるのは僧侶系らしい。回復魔術をかけたり、傷口の処置をしている。
手足などを魔物に食いつかれたのだろう。
血塗れで倒れている彼らの姿は痛々しい。
それでも治療が済んだ者から立ち上がり、再び森の奥へと駆けていく。
ダンジョン踏破のために作られた道なのか、それとも獣道を切り開いたのか。
勇ましいその姿を目で追うと、すれ違いこちらへと向かう新たな怪我人の姿が見えた。

「おいおい、なんだありゃ?」
「魔術によるものかな? だが少し悪趣味だね」
「多分、【世界樹の歩き方】です。こういう使い方もあるんですね」

気味の悪い物を見た。
そんな感想を持った彼らのことは気にもとめず、
「次が来たぞ! 早く回収して並べろ!」
回復担当は自分たちの仕事を全うしていた。



今回の付与魔術


【世界樹の歩き方】
(オートパイロット)

素材:目的地までの道のりを記した地図。
効果:地図に記した目的地まで、施術対象を強制的に移動させる。
     移動速度は施術者が全力で走る速度。途中で障害物などにぶつかるか目的地に到着すると術が解ける。
詠唱:「危険な道でも突き進む。それが【世界樹の歩き方】」
代価:地面を引きずられて移動するため、対象が汚れたり壊れたりする事がある。
   対象が生物の場合、頑張れば走れるかも。