USS 小説17


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付与魔術を覚えよう17  ... 著 / 優有

冒険者がダンジョンを踏破することは容易ではない。
限られた人数で、少ない情報を元にダンジョンへと挑む。
資金も少なく、食料や回復薬にも持てる限度がある。
体力と魔力が尽きれば、生きて帰ることさえ難しい。

だが、貴族のダンジョン踏破は根本から違う。
貴族には冒険者には無い資金力という力がある。
兵士の数と装備を整え、物資を満たす。
斥候も使い情報を集め、対策を講じる。
踏破の下準備に費やせる金額と人脈の違い。
それが最も大きな冒険者との違いだが、本質的な違いがある。

貴族は自らの命を賭けない。
そして、他者の命には頓着しない。

それが目に見える形で、今このダンジョンは踏破されつつあった。
私兵団らしき者達は、軽装とも言える程度の鎧を纏い、
魔物の群れへと突っ込んで行く。
腰に下げた剣は粗悪品で斬撃武器より打撃武器のように不恰好だ。
形状も整っていないため、どれだけ戦いに耐えられるかわからない。
剣を手に取っていない理由はそれもあるが、
既に両手が塞がれているからだ。
抱えた木箱や袋に詰まった食料を、魔物の群れへと放り投げる。
なるべく奥の魔物も食いつく様に、出来る限り近くに寄って。

斥候が得た情報では、このダンジョンの魔物は動物的だ。
魔術的な生物でもなく、ただの異形の群れだ。
他の生物に食いついて寄生する習性があることもわかった。
ダンジョンの作りも、ある程度は把握した。

それらの情報を得るために何人の斥候が犠牲になったのかは知らない。
貴族である彼には無駄な情報だからだ。
洞穴がさほど深くは無く、崩れたとしても掘り返すのも難しくない事が分かれば、それで良い。

元々は熊や盗賊などが住んでいた洞穴だったのだろう。
水場から森林地帯に分け入り、それでも街道側には背を向けた穴。
斜面が緩やかに入り口へと向かっているのは、
盗賊が荷物を運びやすい様にした名残か。
木々に囲まれていたその場所は、彼らの手によって切り拓かれ、
日の光を浴びている。
土であるはずの壁も肉色に変わり、這い出てくる蛇の様な魔物同様に蠢く。
撒き散らされた食べ物へと群がる姿に、貴族は鼻を鳴らし不快感を示す。
こんな場所だというのにソファの上に寝そべり、果物を齧りながら。

魔物が群がるのを確認し、ローブ姿の青年が魔術を放つ。
異形の洞穴内に霜が降り、肉色が白く染まって行く。
魔物達が異変に逃げようとするより先に、その身体が凍りつく。
当然、周囲にいた兵士達もその影響を受けている。
だが生物としての体格差と、服や鎧に守られている分、影響は少ない。
寒さに白い息を吐き身体を震わせ、彼らは剣を抜く。
足元を埋める凍りついた魔物と、ダンジョンの肉壁を砕きはじめる。

そこに無かった物が現れるのがダンジョンの基本とはいえ、
そこにある以上は破壊出来る。
洞穴が元になっているため崩落の危険もあるが、それは兵士達のみ。
先ほどの魔術を使った青年や、彼らを使う貴族には関係ない。
それに崩れたとしても彼らに掘らせれば良い。
死んでいれば餌になる。生きていれば続きをさせるだけだ。

砕いたダンジョンと魔物は用意された袋に詰められ、
切り拓かれた森林跡に運びだされる。
集められたそれらは先ほどとは別の魔術師により融かされ、
様々な液体が滲み出る。

その袋を再び担ぎ、ダンジョンから溢れる魔物の群れへと放り投げ、
凍りつかせて砕く。
それを繰り返しながらダンジョンそのものを破壊していく。

当然ではあるが、このやり方は効率的ではない。
魔術師達は魔力回復薬を飲んで魔力を回復しないと追いつかない。
兵士達は命懸けだ。
魔物に食いつかれたまま凍らされる者や、
振り払って肉が食いちぎられる者もいる。
魔物の餌になる者の隣で、時に崩落に巻き込まれながらも、
彼らは持ち場を離れない。
撤退の指示を受けて初めて彼らはダンジョンからその身を現世へと戻す。
入れ替わりに別の兵士達がダンジョンに向かうのと引き換えに。
傷を負い、腕を上げることすら出来ない兵士は後衛部隊へと送られ、
治療を受ける。

もしこの場に彼ら以外の者がいたならば、目を瞑り耳を塞ぐだろう。

ダンジョン踏破に必要な犠牲。
貴族である彼がそう決めた、生死を問わない兵士たち。
彼らは皆、自らの身体を震わせ絶望しながら、
ただひたすらにダンジョンを破壊していく。

恐怖に顔を強張らせ。
憤怒に雄叫びを上げ。
絶望に涙し。

ソファの上で退屈そうに眺める貴族と、破滅への運命を用意した神に、
怨嗟の声と命乞いを送りながら。

「最深部確認」
「核を視認」
魔術師達から無機質な報告があがる。

ダンジョンの肉壁はほとんどが砕かれ、疎らに残骸を残している。
最深部は魔物達が一つとなり、まるで華のように形を成していた。
その花弁の中央では無数の牙が誘うように揺れている。

それに応えたように、兵士の1人が近づいていく。
周囲の兵士が安堵の息を漏らす中、悲鳴をあげながら。

「生贄供与」
「供物捧呈」

無感情な言葉が捧げられ、彼の姿は肉華の中で砕かれていく。
痛みと恐怖で最後の言葉すら満足に残す事も出来ず、
食い千切られた腰袋から金貨をばらまいて。

「今度はどんなものが手に入るかのう?」

ソファの上で笑みを浮かべる貴族に、良心の呵責など欠片も無かった。




今回の付与魔術


【その身をひさげよ】
(バイアップ・スプリングセール)

素材:対象の年齢以上の枚数の金貨。

効果:金貨を受け取った相手の身体を自在に操れる。
自身の金でなくても施術可能だが、命令権は金の所有者になる。
施術時は対象と目が合った状態で詠唱が聞こえている必要がある。

詠唱:「充分な対価だろう? さあ【その身をひさげよ】」

代価:素材の半分を返されると効果が消える。
施術対象以外が素材を受け取った場合や、
施術対象が素材全てを受け取らないと発動しない。