USS 小説20


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付与魔術を覚えよう20  ... 著 / 優有


貴族達が去った後、再びヴォダースカヤへの移動を再開した。
再開するまでに狐娘の説教と回復魔術があり、多少時間が経過していた。
どうやら猫の獣人は金の入った袋を蹴った際に足を痛めたらしい。
金属の詰まった袋はそれなりに頑強だったようだ。
金のありがたみを説教され、話が金の妖精に逸れた頃に彼は力尽きた。
単に緊張の糸が切れたのもあるが、説教しながら狐娘が足を踏んだりしていたのもあるだろう。
足を踏む度に森のほうから、
「やれっ。そこだっ。懲らしめろっ」
と小さな声が聞こえたらしく、白熊娘が声の主を探していたが。

「全部受け取るほど恥知らずではありませんわよ」
「袋を拾ったら受け取ったことになっちゃうから」
「あぁ? 金に汚くねぇ振りとか、まぁたなんか企んでんのか?」
「ちょっとお待ちなさい。汚いってなんですの? そもそも人をなんだと思ってますの?」
「小悪魔、さっきのあれ妖精かな?」
「お姉さま!? あぁもう! バカの方々に毒されてお姉さままで!」
「バッ…テメェ、他人のこと言えねぇだろ」
「ひゃっ!? し、尻尾掴まないでっ」

和気藹々と、あるいは喧々諤々と街道を歩く彼らの姿に、動物達が逃げていく。
変わらず斥候と周辺警戒をしている馬の獣人にはその様子もわかっていたが、
それより彼には気になっていることがあった。

「彼は知り合いかね?」

その問いに一同が言葉を止めるが、
「ぶん殴った」
白熊娘は迷いなく答えを返す。
「…よくそんな機会があったな? あんな取り巻き引き連れた奴相手に」

「いや、豚氏のほうではなく、部下のほうだ。何やら因縁でもありそうに感じたのだが?」
訂正しながら猫の獣人へと目を向ける。
猫の獣人は尻尾を奪い返して、狐娘に背を見せないように警戒しながら返す。
「昔、村に来た探索者の人です。次に来た時には冒険者になってましたけど」
「探索者ギルドを辞めて冒険者になったということですの?」
「さぁ。その辺はよくわかりません」
「うむ。問題はそこではないからね。彼は君とどういう知り合いかね?
どんなものかは知らないが、見知った相手の連れにいきなり魔術を使うというのは、
あまり普通ではないよ?」

指摘にうつむき、猫の獣人は思い返す。
「あの人は…獣人狩りです」

獣人狩り。
人は獣より優れた存在であり、獣人は獣より悪しき存在とするもの達だ。
その思想を持つものは人神信仰の一派に多い。
人神とは異なる姿である獣人は人ではなく、異界の生き物に毒されたものであり
、駆逐する事は救済であると公言している。
当然、獣人などの反感を買う事が多いが、一部の国で国教としている事もあり、
政治的には一般的な宗派として扱われている。

「獣人狩りが豚といるというのは奇妙な話だが。
スポンサーは狩らないということだろうか?」
「気持ちはわかりますけれど、先程の貴族は一応純粋な人間種ですわよ」
「下衆豚、人か?」
「まぁ、豚でも人でもクズには変わんねぇよな」
「ふむ。獣人狩りがこの辺りにいたとは。冒険者の宿と探索者ギルドにも、
注意しておいたほうが良いな」

明らかに差別を公言している一派ではあるが、街中でそうした行動に出る事は少ない。
思想の中に、獣は獣の住む場所で土に還すべき、というものがあるからだ。
それほど詳しく知らない彼等にすれば、いきなり襲って来る危険集団が街中にいる、
としか思えない。

最初に会った時は、獣耳が好きな探索者だった。
再び村に来た時は冒険者になっていて、そして…。

「よしよし」
「ふゃぁぁ~ッ!?」

昔を思い出して暗くなっているのを見て、白熊娘が頭を撫でる。
かなり振られたようで、考えも平衡感覚も吹き飛んだようだ。
ぐるぐると目を回して、ふらふらと歩く。

ヴォダースカヤの関所が見えて、少し様子を伺ってみたが、
既に私兵団はいなくなっていた。
普段詰めている兵士達が愚痴混じりに酒を飲みつつ、
冒険者らしい集団と話している。

「お、バカども。帰って来たか。お前も飲むか?」
「バカの連れの猫ってあんたか? ギルド職員の犬野郎が探してたぜ」
「誰がバカだ? テメェこら。瓶ごと寄越せ」

迷いなく酒を飲み始める前衛トリオ。
「酌してくれよ~」と絡まんでくる冒険者にため息をついて、
「私は獣人居酒屋に報告に向かいますわ」
と狐娘は距離を置く。

探索者ギルドの犬の獣人に、人探しをしている事を伝えていたのを思い出す。
その結果かな? でももう会っちゃったなぁ。
犬の獣人に無駄足を踏ませた気分になりながらも、素直にギルドへと彼は向かった。



今回の付与魔術


【特別なんだからねっ】
(エクストラ・チャージ)

素材:ダメージを受けた身体部位。
効果:同一箇所へのダメージを無くす代わりに対象が受ける痛みが倍増する。
効果中、素材となった身体部位は麻酔状態となる。
詠唱:「別にあんたのためじゃないんだから! 今回だけ、【特別なんだからねっ】!」
代価:効果終了後、対象の痛みに対する耐性が少し強くなる。
稀に対象が、痛みを受ける事で喜びを感じるようになることがある。