アレフの迷宮挑戦録 2話

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アレフの迷宮挑戦録 2話」(2015/07/18 (土) 13:47:40) の最新版変更点

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 アレフとエルマはしばらく歩き、やがて迷宮の外へと出た。 「流石に街までは帰れるわよね。それじゃさよなら」  そう言ってエルマは、アレフの元から去っていこうとする。 「あ、ちょっと待って」  しかしそれを、アレフは引き止める。   「まだ何かあるの……?」 「えっと、街に行くには、この道を真っ直ぐでいいんだよね?」 「……は?」    2人の間に、もう一度沈黙が流れた。 ____  アレフは街までの道を知らなくて、そしてエルマとアレフは同じ街へと向かう。  なのでエルマはしかたなく、アレフへと道案内をする事になった。  街道を2人で歩きながら、エルマはアレフへと話をする。   「あんた、どこから来たの?」 「えっと、サーシャっていう村なんだけど……」 「サーシャって、また凄い僻地ね……」 「うん、だから僕、知らない事が多くて……」 「あんた、それでよく迷宮に挑もうと思ったわね……」  エルマは呆れながら、道案内を続ける。 「ところでさ、これから行く迷宮都市ダイアハって、どんな場所なの?」 「え? あんた知ってて来たんじゃないの?」 「迷宮がある都市だって事は知ってたんだけれど、詳しくは知らなくて……」 「はあ……、まあ教えてあげるわ」  少しだけため息を吐いて、けれどエルマは律儀に説明を始める。 「迷宮都市ダイアハは、都市だけれど周りのどの国家にも所属していないっていう、変わった都市なの。  昔は近くの国に治められてたんだけれど、迷宮に挑戦するような人は無法者が多いから、いつしか国から見放された無法地帯みたいになってしまって、それでいっそこの都市だけ国から独立してしまおうという事になったらしいわ」 「だから、基本的には力を持つ人が優先される無法地帯みたいな場所になっているの。  一応昼間は最低限の治安は保たれてるけれど、夜道とかは絶対出歩かないようにした方がいいわね。  あんたみたいな頼りなさそうなのは絶好のカモだろうから」 「うん、気をつけるよ……」  勢いで村を出てきてしまったが、自分はこれからやって行けるのだろうか……。  そんな不安を抱きながら、きびきびと歩いていくエルマに、アレフは付いて行くのだった。 ____  2人はしばらく歩き続け、やがて迷宮都市へと付いた。 「この街に始めてくるなら、冒険者ギルドの位置も分からないでしょ。  あたしも冒険者ギルドには行くし、そこまでは案内してあげるわ」  エルマはそう言いながら歩き続けるが、アレフは立ち止まる。 「どうしたのよ?」 「えっと、冒険者ギルドって、何?」   一瞬の沈黙が流れる。  そしてエルマはまた、怒涛のように喋りだす。 「あんた、冒険者ギルドを知らないの!? じゃあ迷宮まで一体何しに行ってたのよ!?」 「えー……」  そんな事を言われても知らないものは知らないと、アレフはただ困惑する。 「はあ……」  ため息をついたあと、エルマはまた解説を始める。 「冒険者ギルドってのはね、迷宮に挑戦する冒険者の為の施設なの。  獲得した魔石を換金して貰ったり、迷宮に一緒に潜るためのパーティを探したり、あとお酒とかを飲んだりする為の場所ね」 「あの、魔石って何……?」  また少し、沈黙が流れる。 「あんた、洞窟の最初でモンスターを何体か倒たんでしょ?」 「うん」 「倒したモンスターは溶けるように消えたでしょ」 「うん」 「そしてモンスターが消えたあと、その場所には結晶が残ったでしょ?」 「あの石ころみたいなのの事?」 「そうよ。それ、どうしたの」 「どうしたって、そのまま放っといたけど……」 「あんたねえ……」  エルマは、自分の持っていた鞄に手を入れる。  そしてそこから、結晶を幾つか取り出す。 「これは魔石って言って、エネルギーの塊で、色んな使い道があるから冒険者ギルドに持っていけば買い取って貰えるのよ。  っていうかあんた、冒険者は迷宮に何をしに行ってると思ってたのよ……?」 「え、奥にあるクリスタルを手に入れるためじゃないの?」 「はぁ……」  そしてエルマは少し息を吸ってから、アレフへと解説をする。 「あのね、クリスタルっていうのは迷宮の一番奥にいる守護者って呼ばれるモンスターが落とす特別な魔石の事でね、けれど迷宮ってのは複雑に入り組んでいる上に奥に行けば行くほど危険な場所だから迷宮の一番奥にたどり着ける人なんて殆どいなくてね、しかも守護者はその迷宮の中で龍脈エネルギーを最も強く浴びたモンスターだからその迷宮の中のどのモンスターよりも強くてね、そんな守護者を倒せるような人は冒険者の中でもほんのひと握りでね、だからクリスタルっていうのはあんたみたいなのは天地がひっくり返っても手に入れられないようなものなのっ……!」  一気に解説を終えたエルマは、ぜえぜえと息を吐く。 「どう、分かった……?」 「う、うん、何となくは……」 「そう、じゃあ行くわよ……」  もしかしたらエルマって、口は悪いけれど凄く優しい子なんじゃないだろうか……?  何だかんだで1から10まで丁寧に解説してくれるエルマを見ながら、アレフはそんな事を思っていた。 ____  エルマはアレフを連れて、冒険者ギルドの中へと入った。  そして魔石を受付に差し出し、代わりに金銭を受け取った。   「え、こんなに貰えるの……?」 「こんなにって、たった銀貨8枚ちょっとじゃない」 「でもこれだけあれば、宿に4日は泊まれるよ……」  この世界の通貨は、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨の6つによって出来ている。  その価値は現実世界で換算すると、小銅貨が1円、銅貨が10円、小銀貨が100円、銀貨が1000円、小金貨が1万円、金貨が10万円といった感じだ。  たった銀貨8枚程度で騒ぐアレフを、エルマはじとーっと眺めながら質問する。 「どうてもいいけど、あんたどのくらいお金持ってんの?」 「えっと、これで全部なんだけど……」  アレフは自分のカバンから貨幣を取り出す。 「って、銀貨4枚くらいしかないじゃない! これでどうやって生きていくつもりなのあんた!?」 「えー、やっぱり大変かな……」  「本当に大丈夫なの……」  エルマは呆れながら、アレフを見て改めて不安な気分になっていた。 ____ 「冒険者ギルドってこんな感じなんだ……」  気を取り直したアレフは、冒険者ギルドの中を見渡す。  鎧を着込んだ大男から、獣族の亜人から、酒を運ぶ職員まで、様々な人がたむろしている。  そして壁には、粘土で出来た板が貼られていて、そこには沢山の文字が書かれていた。 「エルマ」 「何よ」 「何が書いてあるの、これ?」 「ああそっか、字読めないのねあんた」  この世界では、農村で育った人などは、字の読み書きが出来ない事はそこまで珍しい事ではない。  そしてアレフもその例に漏れずに、字の読み書きは出来ないのだった。 「あんたは知らないかもしれないけれど、迷宮は危険な場所だから、大抵は複数人で潜るものなのよ。  それでこの板は伝言板っていって、パーティ募集の要望が書いてるの。  だから迷宮に潜る時に仲間が欲しかったら、ここに、自分もパーティにいれて欲しいですって書いとけいいのよ」 「へー」  アレフはエルマの知識に関心するが、一つ疑問が生まれる。 「あれ、でもエルマも一人で迷宮に行ってたよね? なんで?」 「あのね、何でもあたしに聞かないで、少しは自分で考えなさいよ……」  アレフは少し悩み、そして結論を出す。 「あ、分かった。エルマも字読めないんでしょ」  言葉より先に蹴りが飛んだ。 「あたしは読めるわよっ!」 「え、じゃあどうして?」 はぁ……、とため息を付いた後、エルマは解説する。 「あたしはまだ子供だから、パーティに入れて貰っても必ず舐められるのよ。  あたし、どうでもいい人間に舐められるのは許せない性格なの」  男らしい理由だなぁ……、とアレフは思った。 「でもまあ僕にはどの道関係ない話だね。僕、字読めないし……」 「冒険者なんてやってる奴らの中じゃ、字が読めない奴なんて幾らでもいるわよ」 「え、じゃあみんなどうしてるの?」 「受付の人に頼むのよ」 「あ、そっか」  冒険者の中には、字の読み書きが出来ない者も珍しくない。  なので冒険者ギルドでは、そういうサービスも行われているのだった。 「じゃあ僕でも、他の人と一緒に迷宮に行ったら何とかなるのかも……!」  自分一人では実力不足だが、他の人に支えてもらえればなんとかなるのではないだろうか。  アレフはそんな事を思い、少し希望が湧いてきていた。 「まあ、あんたには字が読めても無理なんだけれどね」 「どうして?」 「パーティに入るのは一定の実力を認められないと駄目なのよ。  同じくらいの強さの人同士でないと、足を引っ張られるだけだからね。  あんたみたいなのがパーティに入れて欲しいって言っても、門前払いされるのがオチよ」 「そっか……」  少しだけ抱けた希望を一瞬でへし折られてしまい、アレフは再び落ち込んでしまう。  そんなアレフを見て、エルマは少しだけ申し訳なくなった。  エルマはこの段階になって、どれだけキツく接しても文句の一つも言わないアレフに、少しだけ愛着のようなものを抱くようになり始めていたのだった。 「そうね、あたしがあんたのテストをしてあげるわ」 「え、どうして?」 「その、ここまで付き合ったよしみよ」    エルマの思いがけない親切心に、アレフは嬉しい気持ちになる。 「な、何よ、文句あるの……?」   「いや、ありがと、エルマ」 「れ、礼なんて別にいいわよ……」  エルマはそう言いながら、冒険者ギルドの外へと向かって歩いていく。  アレフはエルマの気が変わらない内に、エルマの後ろへと付いて行った。 ____  エルマはアレフを連れて冒険者ギルドの外へと出た。  外の景色は、そろそろ夕方へとさしかかろうとしている所だった。 「まずは剣さばきね」  エルマは冒険者ギルドを出る際に、冒険者ギルドで貸し出しをしている木刀を借りてきた。  冒険者の実力を確かめる事はよくあるので、冒険者ギルドではこうやって木刀の貸出などもしているのだ。 「まずは、あたしに打ち込んでみなさい」 「うん、分かった」  そうして、エルマによるアレフのテストが始まった。  アレフは全力で、何度もエルマへと木刀を打ち込む。  しかしエルマは、アレフの攻撃を全て簡単にいなしてしまう。 「甘い……!」 「ぎゃっ!」  そして隙が出来る度に、エルマはアレフへと一方的に攻撃を打ち込む。 「ま、まだまだ……」  しかしアレフは根性で、何度打ち込まれても再び立ち上がって、そして自分が持てる全力でエルマへと向かっていくのだった。  そうして、しばらく打ち合った後。   「あっ」  アレフの木刀が、エルマによって弾き飛ばされる。 「よっと」  そしてアレフが次の判断に移るより先に、エルマは落ちた木刀の上へと移動した。 「あっ……」  そうしてアレフは、エルマに対抗する手段を完全に失ってしまったのだった。 「こんな所ね。どれだけ窮地でも剣だけは手放したら駄目よ」 「す、凄い……」  エルマはアレフをじーっと見ながら言う。 「あんた、意外と体力はあるし、身体能力も悪くないのよね。ただ剣の扱いに慣れてなさ過ぎるだけで」 「僕、村にいる時は、毎日ずっとトレーニングだけはしてたんだ。体力があるっていうのはそれのおかげだと思う。  けど、剣の扱いは教えてくれる人がいなかったから……」 「そっか……。ダンジョンで会った時は正直頼りないだけかと思ったけれど、鍛えれば案外なんとかなるのかもしれないわね」  アレフから見ればコテンパンにされただけだったが、エルマから見れば、自分と少しでもやりあえた事が称賛に値する事だった。 「あとはそうね……、あんた、何か一芸とかある?」 「一芸って?」 「単純な剣の技術だけが迷宮探索に求められるものじゃないのよ。  計算が出来るみたいな特技があるだとか、特別な加護を持ってるだとか、魔術が使えるだとか、何かそんな特技はない?」  この世界には、加護というものがある。  生まれついての特殊能力のようなもので、暗いところでも辺りが見渡せるといったものから、人より何倍も強い怪力を持っている、傷が治るのが凄く早い、動物と会話が出来る、体がゴムのように伸びる、などさまざまなものがある。 「なんかないの、目からビームが出せるみたいな面白い加護とか」 「えっと、目からビームは出せないけど、魔術は使えるよ」  そう言ってアレフは、呪文を唱え、自分の手の平に火を灯す。  この世界には、魔術という技術がある。  習得するだけならそれほど難しくはない技術なのだが、高度な魔術を習得している人はあまりいない。  魔術を使えば、火を出したり水を出したりする事が出来る。  しかしウォーランの世界には、明かりが欲しければ道具を使えばいい、水か欲しければ水を汲みに行けばいい、という文化が根付いているので、生活の為などに魔術を習得しようとする者は少ない。  また戦闘面においても、基本的には剣で戦う方が強いと言われているし、物語の主人公は魔術より剣を使っていることが多い事などもあり、人気は少ないのだ。 「問題はどのくらい使えるかよね」  エルマは、一度冒険者ギルドの中に戻る。  そして、冒険者ギルドから大きな樽を借りてきた。 「魔術で発生した水をこの中に貯めて、それでその人の持ってる魔力量を計るの。  これが、冒険者がする一般的な魔力量の測り方なのよ」  水を発生させる魔術は、もっとも無害でかつ誰にでも簡単に扱える魔術だ。  なので、この樽の中に水を貯めるというやり方は、その人の魔力量を計る為の最もポピュラーな方法として定着していた。  アレフは魔術を使う為の演唱をして、そして水を出す。 「これでいいの?」  樽の中は直ぐに、アレフが発生させた水で一杯になった。  魔術を使える人は沢山いるが、樽一杯に水を貯めれる程の魔力量を持っている人となると少なくなる。  なのでエルマは、アレフの意外な実力に関心していた。 「へー、結構本格的なのね。じゃあ、あとどのくらい出来る?」    エルマは樽を逆さにして中の水を全部出しつつ、アレフへとそんな質問をする。   「えっ、別にあと何回でも出来るけど?」  アレフはただ自然に、そんな事を答える 「えっ」  エルマは思わず聞き返す。 「えっ」  そして、自分が言っている事が驚かれるような事だと思っていなかったアレフもまた、エルマの反応に驚く。 「ねえあんた……、樽とか気にしないで、一回全力で思いっきり水を出してくれる?」 「え……、全力でって、大丈夫なの?」 「大丈夫も何も、危険がないように水の魔術でやってるんじゃない」 「うん、分かったよ」  そしてアレフは、詠唱を始める。  長く詠唱して、自分が出せる最大限の魔力を解き放つ。  すると、アレフの手からは波のように水が溢れて、アレフとエルマをあっという間に水浸しにした。 「あ、ご、ごめん……」  今までの経験から、アレフは怒られると思った。  しかし、エルマの目は輝いていた。 「す、凄い……!あんた凄いじゃない!!  こんなに凄い魔力量を持ってる奴なんて滅多にいないわよ!」 「そ、そうなのかな……」  アレフは、初めてエルマに褒められて照れる。 「というかあんた、そんなに凄い魔力量を持ってるなら、どうして実戦で魔術を使わなかったのよ?」 「僕、魔術でどうやって戦ったらいいのか分からないから、戦う時には全然使えないんだ。  剣と同じで、魔術も扱い方を教えてくれる人がいなかったから……」 「ああ、そっか……」  エルマは、そのなんともアレフらしい理由に少し落ち着く。  そして、アレフへとまた質問を続ける。 「っていうかあんた、何でそんなに凄い魔力量持ってんの? 簡単に身につくものじゃないわよそんなの」 「その、僕、魔術の修行も毎日ずっと魔力を使い切るまでやってたから……」 「使い切るまでって……、魔力って使い切ったら倒れるわよね?  じゃあ、毎日倒れるまで修行してたの?」 「う、うん、そうだけど……」  自分みたいな人間はやはり変なのだろうか……。  村でバカにされていた事を思い出し、アレフはエルマの反応が怖くなる。  しかし、少し悩んだエルマが口にした言葉は、アレフの全く予想しないものだった。 「決めたわ。あんた、あたしとパーティを組みなさい」  エルマは、先ほどから変わらない高圧的な態度で、アレフへとそんな事を言い放つのだった。
 アレフとエルマはしばらく歩き、やがて迷宮の外へと出た。 「流石に街までは帰れるわよね。それじゃさよなら」  そう言ってエルマは、アレフの元から去っていこうとする。 「あ、ちょっと待って」  しかしそれを、アレフは引き止める。   「まだ何かあるの……?」 「えっと、街に行くには、この道を真っ直ぐでいいんだよね?」 「……は?」    2人の間に、もう一度沈黙が流れた。 ____  アレフは街までの道を知らなくて、そしてエルマとアレフは同じ街へと向かう。  なのでエルマはしかたなく、アレフへと道案内をする事になった。  街道を2人で歩きながら、エルマはアレフへと話をする。   「あんた、どこから来たの?」 「えっと、サーシャっていう村なんだけど……」 「サーシャって、また凄い僻地ね……」 「うん、だから僕、知らない事が多くて……」 「あんた、それでよく迷宮に挑もうと思ったわね……」  エルマは呆れながら、道案内を続ける。 「ところでさ、これから行く迷宮都市ダイアハって、どんな場所なの?」 「え? あんた知ってて来たんじゃないの?」 「迷宮がある都市だって事は知ってたんだけれど、詳しくは知らなくて……」 「はあ……、まあ教えてあげるわ」  少しだけため息を吐いて、けれどエルマは律儀に説明を始める。 「迷宮都市ダイアハは、都市だけれど周りのどの国家にも所属していないっていう、変わった都市なの。  昔は近くの国に治められてたんだけれど、迷宮に挑戦するような人は無法者が多いから、いつしか国から見放された無法地帯みたいになってしまって、それでいっそこの都市だけ国から独立してしまおうという事になったらしいわ」 「だから、基本的には力を持つ人が優先される無法地帯みたいな場所になっているの。  一応昼間は最低限の治安は保たれてるけれど、夜道とかは絶対出歩かないようにした方がいいわね。  あんたみたいな頼りなさそうなのは絶好のカモだろうから」 「うん、気をつけるよ……」  勢いで村を出てきてしまったが、自分はこれからやって行けるのだろうか……。  そんな不安を抱きながら、きびきびと歩いていくエルマに、アレフは付いて行くのだった。 ____  2人はしばらく歩き続け、やがて迷宮都市へと付いた。 「この街に始めてくるなら、冒険者ギルドの位置も分からないでしょ。  あたしも冒険者ギルドには行くし、そこまでは案内してあげるわ」  エルマはそう言いながら歩き続けるが、アレフは立ち止まる。 「どうしたのよ?」 「えっと、冒険者ギルドって、何?」   一瞬の沈黙が流れる。  そしてエルマはまた、怒涛のように喋りだす。 「あんた、冒険者ギルドを知らないの!? じゃあ迷宮まで一体何しに行ってたのよ!?」 「えー……」  そんな事を言われても知らないものは知らないと、アレフはただ困惑する。 「はあ……」  ため息をついたあと、エルマはまた解説を始める。 「冒険者ギルドってのはね、迷宮に挑戦する冒険者の為の施設なの。  獲得した魔石を換金して貰ったり、迷宮に一緒に潜るためのパーティを探したり、あとお酒とかを飲んだりする為の場所ね」 「あの、魔石って何……?」  また少し、沈黙が流れる。 「あんた、洞窟の最初でモンスターを何体か倒たんでしょ?」 「うん」 「倒したモンスターは溶けるように消えたでしょ」 「うん」 「そしてモンスターが消えたあと、その場所には結晶が残ったでしょ?」 「あの石ころみたいなのの事?」 「そうよ。それ、どうしたの」 「どうしたって、そのまま放っといたけど……」 「あんたねえ……」  エルマは、自分の持っていた鞄に手を入れる。  そしてそこから、結晶を幾つか取り出す。 「これは魔石って言って、エネルギーの塊で、色んな使い道があるから冒険者ギルドに持っていけば買い取って貰えるのよ。  っていうかあんた、冒険者は迷宮に何をしに行ってると思ってたのよ……?」 「え、奥にあるクリスタルを手に入れるためじゃないの?」 「はぁ……」  そしてエルマは少し息を吸ってから、アレフへと解説をする。 「あのね、クリスタルっていうのは迷宮の一番奥にいる守護者って呼ばれるモンスターが落とす特別な魔石の事でね、けれど迷宮ってのは複雑に入り組んでいる上に奥に行けば行くほど危険な場所だから迷宮の一番奥にたどり着ける人なんて殆どいなくてね、しかも守護者はその迷宮の中で龍脈エネルギーを最も強く浴びたモンスターだからその迷宮の中のどのモンスターよりも強くてね、そんな守護者を倒せるような人は冒険者の中でもほんのひと握りでね、だからクリスタルっていうのはあんたみたいなのは天地がひっくり返っても手に入れられないようなものなのっ……!」  一気に解説を終えたエルマは、ぜえぜえと息を吐く。 「どう、分かった……?」 「う、うん、何となくは……」 「そう、じゃあ行くわよ……」  もしかしたらエルマって、口は悪いけれど凄く優しい子なんじゃないだろうか……?  何だかんだで1から10まで丁寧に解説してくれるエルマを見ながら、アレフはそんな事を思っていた。 ____  エルマはアレフを連れて、冒険者ギルドの中へと入った。  そして魔石を受付に差し出し、代わりに金銭を受け取った。   「え、こんなに貰えるの……?」 「こんなにって、たった銀貨8枚ちょっとじゃない」 「でもこれだけあれば、宿に4日は泊まれるよ……」  この世界の通貨は、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨の6つによって出来ている。  その価値は現実世界で換算すると、小銅貨が1円、銅貨が10円、小銀貨が100円、銀貨が1000円、小金貨が1万円、金貨が10万円といった感じだ。  たった銀貨8枚程度で騒ぐアレフを、エルマはじとーっと眺めながら質問する。 「どうてもいいけど、あんたどのくらいお金持ってんの?」 「えっと、これで全部なんだけど……」  アレフは自分のカバンから貨幣を取り出す。 「って、銀貨4枚くらいしかないじゃない! これでどうやって生きていくつもりなのあんた!?」 「えー、やっぱり大変かな……」  「本当に大丈夫なの……」  エルマは呆れながら、アレフを見て改めて不安な気分になっていた。 ____ 「冒険者ギルドってこんな感じなんだ……」  気を取り直したアレフは、冒険者ギルドの中を見渡す。  鎧を着込んだ大男から、獣族の亜人から、酒を運ぶ職員まで、様々な人がたむろしている。  そして壁には、粘土で出来た板が貼られていて、そこには沢山の文字が書かれていた。 「エルマ」 「何よ」 「何が書いてあるの、これ?」 「ああそっか、字読めないのねあんた」  この世界では、農村で育った人などは、字の読み書きが出来ない事はそこまで珍しい事ではない。  そしてアレフもその例に漏れずに、字の読み書きは出来ないのだった。 「あんたは知らないかもしれないけれど、迷宮は危険な場所だから、大抵は複数人で潜るものなのよ。  それでこの板は伝言板っていって、パーティ募集の要望が書いてるの。  だから迷宮に潜る時に仲間が欲しかったら、ここに、自分もパーティにいれて欲しいですって書いとけいいのよ」 「へー」  アレフはエルマの知識に関心するが、一つ疑問が生まれる。 「あれ、でもエルマも一人で迷宮に行ってたよね? なんで?」 「あのね、何でもあたしに聞かないで、少しは自分で考えなさいよ……」  アレフは少し悩み、そして結論を出す。 「あ、分かった。エルマも字読めないんでしょ」  言葉より先に蹴りが飛んだ。 「あたしは読めるわよっ!」 「え、じゃあどうして?」 はぁ……、とため息を付いた後、エルマは解説する。 「あたしはまだ子供だから、パーティに入れて貰っても必ず舐められるのよ。  あたし、どうでもいい人間に舐められるのは許せない性格なの」  男らしい理由だなぁ……、とアレフは思った。 「でもまあ僕にはどの道関係ない話だね。僕、字読めないし……」 「冒険者なんてやってる奴らの中じゃ、字が読めない奴なんて幾らでもいるわよ」 「え、じゃあみんなどうしてるの?」 「受付の人に頼むのよ」 「あ、そっか」  冒険者の中には、字の読み書きが出来ない者も珍しくない。  なので冒険者ギルドでは、そういうサービスも行われているのだった。 「じゃあ僕でも、他の人と一緒に迷宮に行ったら何とかなるのかも……!」  自分一人では実力不足だが、他の人に支えてもらえればなんとかなるのではないだろうか。  アレフはそんな事を思い、少し希望が湧いてきていた。 「まあ、あんたには字が読めても無理なんだけれどね」 「どうして?」 「パーティに入るのは一定の実力を認められないと駄目なのよ。  同じくらいの強さの人同士でないと、足を引っ張られるだけだからね。  あんたみたいなのがパーティに入れて欲しいって言っても、門前払いされるのがオチよ」 「そっか……」  少しだけ抱けた希望を一瞬でへし折られてしまい、アレフは再び落ち込んでしまう。  そんなアレフを見て、エルマは少しだけ申し訳なくなった。  エルマはこの段階になって、どれだけキツく接しても文句の一つも言わないアレフに、少しだけ愛着のようなものを抱くようになり始めていたのだった。 「そうね、あたしがあんたのテストをしてあげるわ」 「え、どうして?」 「その、ここまで付き合ったよしみよ」    エルマの思いがけない親切心に、アレフは嬉しい気持ちになる。 「な、何よ、文句あるの……?」   「いや、ありがと、エルマ」 「れ、礼なんて別にいいわよ……」  エルマはそう言いながら、冒険者ギルドの外へと向かって歩いていく。  アレフはエルマの気が変わらない内に、エルマの後ろへと付いて行った。 ____  エルマはアレフを連れて冒険者ギルドの外へと出た。  外の景色は、そろそろ夕方へとさしかかろうとしている所だった。 「まずは剣さばきね」  エルマは冒険者ギルドを出る際に、冒険者ギルドで貸し出しをしている木刀を借りてきた。  冒険者の実力を確かめる事はよくあるので、冒険者ギルドではこうやって木刀の貸出などもしているのだ。 「まずは、あたしに打ち込んでみなさい」 「うん、分かった」  そうして、エルマによるアレフのテストが始まった。  アレフは全力で、何度もエルマへと木刀を打ち込む。  しかしエルマは、アレフの攻撃を全て簡単にいなしてしまう。 「甘い……!」 「ぎゃっ!」  そして隙が出来る度に、エルマはアレフへと一方的に攻撃を打ち込む。 「ま、まだまだ……」  しかしアレフは根性で、何度打ち込まれても再び立ち上がって、そして自分が持てる全力でエルマへと向かっていくのだった。  そうして、しばらく打ち合った後。   「あっ」  アレフの木刀が、エルマによって弾き飛ばされる。 「よっと」  そしてアレフが次の判断に移るより先に、エルマは落ちた木刀の上へと移動した。 「あっ……」  そうしてアレフは、エルマに対抗する手段を完全に失ってしまったのだった。 「こんな所ね。どれだけ窮地でも剣だけは手放したら駄目よ」 「す、凄い……」  エルマはアレフをじーっと見ながら言う。 「あんた、意外と体力はあるし、身体能力も悪くないのよね。ただ剣の扱いに慣れてなさ過ぎるだけで」 「僕、村にいる時は、毎日ずっとトレーニングだけはしてたんだ。体力があるっていうのはそれのおかげだと思う。  けど、剣の扱いは教えてくれる人がいなかったから……」 「そっか……。ダンジョンで会った時は正直頼りないだけかと思ったけれど、鍛えれば案外なんとかなるのかもしれないわね」  アレフから見ればコテンパンにされただけだったが、エルマから見れば、自分と少しでもやりあえた事が称賛に値する事だった。 「あとはそうね……、あんた、何か一芸とかある?」 「一芸って?」 「単純な剣の技術だけが迷宮探索に求められるものじゃないのよ。  計算が出来るみたいな特技があるだとか、特別な加護を持ってるだとか、魔術が使えるだとか、何かそんな特技はない?」  この世界には、加護というものがある。  生まれついての特殊能力のようなもので、暗いところでも辺りが見渡せるといったものから、人より何倍も強い怪力を持っている、傷が治るのが凄く早い、動物と会話が出来る、体がゴムのように伸びる、などさまざまなものがある。 「なんかないの、目からビームが出せるみたいな面白い加護とか」 「えっと、目からビームは出せないけど、魔術は使えるよ」  そう言ってアレフは、呪文を唱え、自分の手の平に火を灯す。  この世界には、魔術という技術がある。  習得するだけならそれほど難しくはない技術なのだが、高度な魔術を習得している人はあまりいない。  魔術を使えば、火を出したり水を出したりする事が出来る。  しかしウォーランの世界には、明かりが欲しければ道具を使えばいい、水か欲しければ水を汲みに行けばいい、という文化が根付いているので、生活の為などに魔術を習得しようとする者は少ない。  また戦闘面においても、基本的には剣で戦う方が強いと言われているし、物語の主人公は魔術より剣を使っていることが多い事などもあり、人気は少ないのだ。 「問題はどのくらい使えるかよね」  エルマは、一度冒険者ギルドの中に戻る。  そして、冒険者ギルドから大きな樽を借りてきた。 「魔術で発生した水をこの中に貯めて、それでその人の持ってる魔力量を計るの。  これが、冒険者がする一般的な魔力量の測り方なのよ」  水を発生させる魔術は、もっとも無害でかつ誰にでも簡単に扱える魔術だ。  なので、この樽の中に水を貯めるというやり方は、その人の魔力量を計る為の最もポピュラーな方法として定着していた。  アレフは魔術を使う為の演唱をして、そして水を出す。 「これでいいの?」  樽の中は直ぐに、アレフが発生させた水で一杯になった。  魔術を使える人は沢山いるが、樽一杯に水を貯めれる程の魔力量を持っている人となると少なくなる。  なのでエルマは、アレフの意外な実力に関心していた。 「へー、結構本格的なのね。じゃあ、あとどのくらい出来る?」    エルマは樽を逆さにして中の水を全部出しつつ、アレフへとそんな質問をする。   「えっ、別にあと何回でも出来るけど?」  アレフはただ自然に、そんな事を答える 「えっ」  エルマは思わず聞き返す。 「えっ」  そして、自分が言っている事が驚かれるような事だと思っていなかったアレフもまた、エルマの反応に驚く。 「ねえあんた……、樽とか気にしないで、一回全力で思いっきり水を出してくれる?」 「え……、全力でって、大丈夫なの?」 「大丈夫も何も、危険がないように水の魔術でやってるんじゃない」 「うん、分かったよ」  そしてアレフは、詠唱を始める。  長く詠唱して、自分が出せる最大限の魔力を解き放つ。  すると、アレフの手からは波のように水が溢れて、アレフとエルマをあっという間に水浸しにした。 「あ、ご、ごめん……」  今までの経験から、アレフは怒られると思った。  しかし、エルマの目は輝いていた。 「す、凄い……!あんた凄いじゃない!!  こんなに凄い魔力量を持ってる奴なんて滅多にいないわよ!」 「そ、そうなのかな……」  アレフは、初めてエルマに褒められて照れる。 「というかあんた、そんなに凄い魔力量を持ってるなら、どうして実戦で魔術を使わなかったのよ?」 「僕、魔術でどうやって戦ったらいいのか分からないから、戦う時には全然使えないんだ。  剣と同じで、魔術も扱い方を教えてくれる人がいなかったから……」 「ああ、そっか……」  エルマは、そのなんともアレフらしい理由に少し落ち着く。  そして、アレフへとまた質問を続ける。 「っていうかあんた、何でそんなに凄い魔力量持ってんの? 簡単に身につくものじゃないわよそんなの」 「その、僕、魔術の修行も毎日ずっと魔力を使い切るまでやってたから……」 「使い切るまでって……、魔力って使い切ったら倒れるわよね?  じゃあ、毎日倒れるまで修行してたの?」 「う、うん、そうだけど……」  自分みたいな人間はやはり変なのだろうか……。  村でバカにされていた事を思い出し、アレフはエルマの反応が怖くなる。  しかし、少し悩んだエルマが口にした言葉は、アレフの全く予想しないものだった。 「決めたわ。あんた、あたしとパーティを組みなさい」  エルマは、先ほどから変わらない高圧的な態度で、アレフへとそんな事を言い放つのだった。

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