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「アレフの迷宮挑戦録 4話」(2015/07/18 (土) 14:05:08) の最新版変更点
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そうして再び、アレフはエルマと共に、迷宮へと挑戦する事になった。
「じゃあ行ってくるわね、グラベリア」
「ええお嬢様、お気をつけて」
グラベリアは宿に待機して、2人を見送る。
「そういえば、グラベリアは一緒に来ないの?」
エルマの護衛ならしいし戦闘能力はある筈なのに、どうして一緒に行かないのだろう。
アレフはそんな事を思いながら、質問をする。
「あたしは、修行をする為に迷宮に潜っているの。
グラベリアがいたら、あたしはどうしても心のどこかでグラベリアに甘えてしまうから、修行にならないのよ」
エルマはそんな事を答える。
しかしアレフには、エルマが甘えてしまう程にグラベリアが強いという言葉がしっくり来なかった。
「というか今更だけど、グラベリアって強いんだよね?」
「強そうに見えますかー?」
グラベリアは、冗談めかしながらそんな事だけを答える。
「いやまあ、エルマの護衛だし、グランワイト人だし、強いんだろうけど……」
なんだかぽわぽわした人だし、戦っている所がいまいち想像できないな。
グラベリアに見送られながら、アレフはそんな事を思っていた。
____
そしてアレフとエルマの2人は、再び迷宮へと到着し、入って行った。
「この辺の敵はザコだから、先に進むわよ」
エルマは入り口にいるスライム型モンスター達を、意にも解さないといった感じで蹴散らしながら先へと進んでいく。
やっぱりエルマは凄いなと、アレフは改めてそんな事を思っていた。
そして少し進めば、アレフが最初にこの迷宮に来た時に逃げ出してしまった、トカゲ型モンスターが現れた。
「あんた、そいつと一人で戦ってみなさい」
エルマにそう言われて、アレフは一人でモンスターと戦う事にする。
トカゲ型モンスターが、アレフへと向かって飛びかかってくる。
そのモンスターの動きを見たアレフは、あれ……? と思った。
モンスターの動きが、記憶にあるものよりもずっと遅く見えたのだ。
もちろん、そのモンスターの動きが遅くなった訳ではない。
10日間の修行の中でmアレフはエルマの素早い動きを見慣れたので、それと比べたら遅く見えてしまったのだ。
アレフは冷静にカウンターを合わせて、剣でトカゲ型モンスターを撃退する。
アレフは魔術を中心として修行をしたが、剣の扱い方もそれなりにエルマから教わっていた。
なのでアレフは、最初に迷宮に来た時のデタラメな振り方ではなく、エルマに教わったしっかりとした振り方で剣を振り下ろす。
するとモンスターは簡単に両断されて、そして魔石だけが残るのだった。
「僕、凄く強くなってる……」
「当たり前じゃない、あたしが修行付けてあげたんだから。
さ、先行くわよ」
「あ、待ってよ」
アレフは道に落ちた魔石をちゃんと拾い、そしてカバンの中へと入れると、先に進むエルマに付いて行くのだった。
____
モンスターが現れたら、まずはエルマが前で戦う。
そしてエルマを補助する形で、後ろでアレフが魔術を撃って援護する。
もし2体以上モンスターが現れた場合は、アレフも剣を取って個別に戦う。
そんな陣形で、アレフとエルマはダンジョンを進んでいった。
そうして、しばらくの時間が流れた。
少しだけ開けた場所に出て、エルマはそこで足を止める。
「今日はこの辺で野宿ね」
エルマはそう言って、そして石の上へと座る。
「あれ、もうそんな時間……?」
「そんな時間よ。
あんたは迷宮に慣れてないからしょうがないけれど、迷宮の中じゃ時間が分からないから、冒険者ってのは体内時計も大切なのよ」
そしてエルマは、そのまま疲れを取るためにリラックスし始める。
この世界の迷宮とは、1日で奥まで行ける程短いものではない。
なのでこの世界の迷宮探索は、野宿をしながら何日もかけて行うのが基本的なのだ。
アレフとエルマは、カバンからコップを取り出し、水の魔術でその中に水を注ぐ。
そしてカバンから食事を取り出し、火の魔術で簡単な調理を施し、食事を済ませた。
そしてあとは、眠る時間になった。
「石がゴツゴツしてる……」
「文句言わない。
食事くらいならまだしもベットなんて持ってくる訳にはいかないし、これに慣れないと迷宮探索なんて出来ないのよ」
エルマはその場所に座り込んだまま、辺りを軽く見渡す。
「じゃああたしが起きてるから、あんたは寝てていいわよ」
「あれ? エルマも寝ないの?」
「あのね……、ここは迷宮なのよ。何時モンスターが出てくるか分からないとっても危険な場所なのよ。
そんな場所で全員がすやすや寝てていいと思う?」
「あ、そっか……」
エルマが自分よりも頼りになる事は分かっているので、アレフは指示に従って、素直に自分だけ寝させて貰う事にする。
「あれ? でもじゃあエルマは寝られないんじゃないの?」
「あたしは半分起きながら半分寝れるから大丈夫よ」
「え、そんな事出来るの?」
「まあ、普通の人には出来ないでしょうね」
やっぱりエルマは凄いな。
そんな事を思いながら、アレフは眠りに付くのだった。
____
アレフとエルマは、迷宮の中でしばらくの時間を過ごした。
そして2日と少し程度の時間が経った後、迷宮の外へと戻って来た。
迷宮の外はまだ昼間で、アレフ達へと太陽の光が照りつける。
「うわ、明るい……」
「迷宮の中は暗いものね……」
迷宮の中には龍脈エネルギーが漂っており、そして龍脈エネルギーは輝いて見えるので、迷宮の中では 最低限の光源は確保されている。
しかし、状況を確認するのに不自由はしないという程度の薄暗い光しかないので、迷宮の外と比べたらやはり暗い。
なのでエルマもまた、この感覚には慣れているので驚きこそしないものの、少しだけ目を細めていた。
____
そして二人は道を歩き、また迷宮都市の城門を潜る。
そして冒険者ギルドへと入り、今回取ってきた魔石を受付へと渡した。
そしてしばらく待つと、小金貨4枚程度(現実の価値で言うと4万円程度)の金銭が支払われたのだった。
「凄い、小金貨4枚なんて……」
「いや、このくらい普通よ。
というか、今回はあんたが迷宮になれる為に抑え気味にやってたから、むしろ少ないくらいよ」
「え、迷宮ってそんなに儲かるものなの……?」
この世界の労働者の日当は、平均的には銀貨3枚(現実で言うと3千円程度)くらいだ。
なので小金貨4枚(現実で言うと4万円程度)という金額は、かなり高かった。
「迷宮探索は命の危険がある事だし、それに誰にでも出来る事でもないから、その分魔石は高額で売れるのよ」
「ああ、なるほど……。
けどそれでも、たった数日で小金貨が何枚も貰えるのは凄いなぁ」
「でもまあ、普通の冒険者はあたし程は稼げないわね」
「え、どうして?」
「だってあたし、冒険者の中でも上位の実力だもの。
魔石は、強いモンスターを倒すほど価値の高いものが手に入るから、強い冒険者ほど沢山のお金を稼げるの。
逆に言えば、弱くて入口近くのモンスターしか倒せないような人は、迷宮に行ってもそんなに稼げないのよ」
「そうなんだ……」
アレフがエルマの知識に感心していると、エルマは近くのテーブルの席へと座った。
そして今回稼いだ金を全て袋から出し、テーブルの上に広げて、それを半分に分けていく。
「何してるの?」
「何って、お金を分けてるのよ。報酬は山分けでいいわよね」
「え、半分も貰っていいの!?」
アレフはエルマの補助をしているだけだったので、半分も貰えるとは思ってはいなかった。
「冒険者同士の報酬の分配は、山分けが基本なのよ」
「ありがと、エルマ」
「べ、別にいいわよ、お礼なんて……」
こんな事で感謝されるとは思っていなかったエルマは、少しだけ照れていた。
____
そしてそれから、更に3ヶ月程の時間が流れた。
アレフは迷宮にも戦いにも更に慣れて、より的確な動きが出来るようになっていた。
アレフとエルマが迷宮を歩いていると、熊型のモンスターが現れた。
戦闘が始まる。
まずはエルマが前へと出て、そしてアレフがエルマを盾にする形で後ろへと陣取る。
これが、この2人が戦う時の基本的なフォーメーションだった。
前に出たエルマは、熊型モンスターに向かって距離を詰める。
そして剣の届く位置まで距離を詰めると、剣を振り下ろし、攻撃を加える。
エルマの剣は、硬いものを叩いたように弾かれる。
熊型モンスターは、手を振り上げてエルマへと反撃する。
エルマはその攻撃を腕で受け止める。
そして熊型モンスターの攻撃もまた、硬いものを叩いたように弾かれる。
普通の人間がこの熊型モンスターの攻撃を受ければ、一撃で重症を負うだろう。
しかしエルマには、その一撃だけではそこまでのダメージにはならない。
何故ならエルマは、オーラという力を纏っているからだ。
この世界には魔術と同じように、現実の世界にはない力として、オーラというものがある。
オーラとは、一言で言えば生命エネルギーのようなものだ。
人もモンスターも、生きているものは全て、このオーラという力を纏っている。
オーラの力には生命力を活性化させるという機能があり、この世界の人々は通常ではありえないような力を出す事が出来る。
そしてこのオーラの力は、魔力量と同じように、鍛える事によって増やす事が出来る。
この世界にはこのオーラの力があるので、鍛えていれば女性でも超人的な運動能力を有する事が出来るのだ。
そしてこのオーラには、生命力を活性化させる力の他に、もう一つの機能がある。
それは、例えるなら緩衝材のような機能だ。
オーラには、外部からの衝撃などを和らげる性質がある。
なのでオーラを纏っていれば、強い衝撃を受けても体へのダメージを和らげる事が出来る。
またオーラには、外部の環境から身を守るという機能もある。
例えば激しい熱などを浴びせられた場合、オーラは防火服のような役割を果たす。
なのでこの世界の生物は、オーラを纏っている限り、剣で切られてもいきなり切れる事はないし、火で燃やされてもいきなり燃えてしまう事もない。
ただしオーラは、衝撃や熱などを浴びせられた場合、その分量に応じて減ってしまう。
そしてオーラが薄くなってしまえば、鎧を剥ぎ取られたのと同じ状態になってしまうので、その時は衝撃に晒されれば無防備にダメージを受けてしまう。
エルマは、熊型モンスターへと何度も剣で攻撃する。
そしてその度に、エルマの攻撃は硬い物に当たったようにはじかれる。
しかしこの行為は無駄な事ではなく、例えるならRPGゲームで敵のHPを削る作業のように、熊型モンスターのオーラを削るという意味があるのだ。
そしてそれを後ろで見ているアレフもまた、熊型モンスターの隙を見ては、風の魔術による攻撃を浴びせていく。
熊型モンスターは何度も風の刃に切り裂かれ、切り傷が付いていくが、オーラに守られているのでいきなり致命傷になる事はない。
しかしその代わりに、熊型モンスターの纏っているオーラは、攻撃によって確実に削られていく。
そうしてやがて、熊型モンスターの纏っているオーラはどんどん薄くなってゆき、攻撃を受ける事がダメージに直結していくようになっていく。
また、オーラには生命力を活性化させている役割もあるので、熊型モンスターのオーラが減っていくのに従って、熊型モンスターの動きも鈍くなってゆく。
「はぁっ……!」
そしてエルマは、頃合を見て渾身の一撃を加える。
熊型モンスターは、薄くなったオーラではその攻撃に耐え切れず、一刀両断されてしまう。
そして熊型モンスターは絶命し、魔石だけを残し消滅するのだった。
エルマは一息を付き、アレフへと話しかける。
「あんた、大分戦えるようになってきたわね」
「そうなのかな……? 僕はエルマに守られててこそ戦えてるから、あんまり強くなった実感がないんだけれど」
「あたしに付いてこれてるだけで凄いのよ」
「エルマがそう言うなら、そうなのかな」
「正直あたしも、あんたがここまで役に立つとは思わなかったわ。
あんた本当に、潜在能力はあったのね」
アレフは知らないが、先ほどアレフとエルマが倒した熊型モンスターは、とても一般的な冒険者が倒せるようなレベルのモンスターではない。
エルマは一般的な冒険者のレベルを超越しているが、それに付いていけるアレフもまた、既に一般的な冒険者のレベルは超越していた。
____
「止まって」
何時ものように迷宮を進んでいる途中、エルマは唐突にそう言って立ち止まった。
「どうしたの?」
「この先の道、何か感じない……?」
「えっと……」
アレフは改めて、その先の道を観察してみる。
すると、その先の道は何故か他の場所よりも明るくなっていて、そして迷宮全体に漂っている禍々しい気も濃くなっていた。
「迷宮は龍脈エネルギーの影響で光ってるって話はしたでしょ。
そしてこの先は、龍脈エネルギーが凄く濃くなっている場所だから、他の場所よりも光が強くなってるのよ。
「どうしてこの先だけ、龍脈エネルギーが濃くなってるの?」
「それは、この先がこの迷宮の一番奥だからよ」
龍脈エネルギーには、迷宮の奥へと流れていく性質がある。
そして迷宮の一番奥の部分には、それ以上奥の部分がないので、その場所だけ他と比べて圧倒的に沢山の龍脈エネルギーが貯まるのだ。
「一番奥……、えっと、じゃあこの先には……」
「そう、この迷宮の守護者がいるわ」
守護者とは、その迷宮の一番奥に溜まった龍脈エネルギーを一身に浴びたモンスターの事だ。
守護者は一つの迷宮に何匹もいることはなく、またいない事もない。一つの迷宮に必ず一匹だけ存在する。
「それじゃ、引き返さないとね」
守護者のモンスターは、必ず圧倒的な力を持っている。
なので迷宮の最奥まで潜ってこれたアレフとエルマをしても、守護者のモンスターと戦う事はあまりに危険過ぎる事だった。
「いや、このまま進むわ」
しかし、エルマは先に進もうとする。
「駄目だよ、危険過ぎる」
この場面では珍しく、アレフの方がまともな判断を下していた。
「あたしは、どうしても強くならなきゃいけないの。だからこんな所で退いてちゃ駄目なのよ」
しかしそれでも、エルマは先へと進もうとする。
アレフは、エルマのその意固地な態度を見て、グラベリアから言われていた事を思い出す。
エルマは強くなる為に焦っている所がある。
なのでもしかしたら、冷静な判断をせずに無茶な事をしようとしてしまう時があるかもしれない。
もしそんな時が来れば、アレフにエルマを止めて欲しい。
そんな事を、アレフはグラベリアから頼まれていた。
「グラベリアに頼まれたんだ。エルマがもし無茶をしようとしたら、それを止めて欲しいって」
「けど、あたしは……っ!」
エルマはそれでも食い下がる。
アレフは、普段は冷静なエルマが何故無茶な事をしようとするのか分からず困惑する。
「いや、駄目だ」
しかしそれでも、アレフはそこだけは譲らなかった。
そしてしばらく睨み合いをした後、やがてエルマの方が折れる。
「あんたが付いて来ないんじゃ、しょうがないわ……」
そしてエルマは、しぶしぶといった様子で、その場を後にするのだった。
___
そして少し経って、アレフとエルマは今回の迷宮探索を終えた。
そしてエルマは宿に戻った後、直ぐにグラベリアの所へと直行した。
「あたし達、守護者の部屋を見つけたわ」
「そうですか」
「グラベリア、あたし、あの迷宮の守護者と戦う」
グラベリアは、少しだけ沈黙する。
「お願い、グラベリアだって分かってるでしょ!?
あたしはどうしても、強くならなきゃいけないのよ……っ」
アレフは、エルマ達の事情を知らない。
どうして貴族だと言っていたエルマがこんな生活をしているのか。
どうしてエルマは、ここまで熱心に強くなろうとしているのか……。
それはどうしても、エルマもグラベリアも教えてはくれなかった。
アレフが分かる事は、そのエルマの姿からは焦燥のようなものが漂っている、という事くらいだった。
「一つ、条件があります。
次の迷宮探索は、私も同行させて貰います」
「……そう、分かったわ。
でも、手出しはしないで見てるだけでいてね」
「ええ。これはお嬢様の修行ですものね」
守護者のモンスターは尋常ではない強さだと聞く。
なのでアレフは、グラベリアは何があっても反対するものだと思っていた。
しかしグラベリアは何故か、自分が付いて行くという条件だけであっさり了承してしまった。
その事についてアレフは疑問に思ったが、流石にグラベリアまで同意したとあっては、もう自分が口を挟む余地はなかった。
そうしてアレフとエルマの次の迷宮探索には、グラベリアも付いて来る事になった。
____
アレフ達は、また何時もの迷宮へと向かう。
グラベリアは、先端が3つ又になった槍を持ち、普段来ているメイド服を動きやすく改造したような服を来て、アレフ達へと付いて来ていた。
「グラベリアって、槍で戦うの?」
アレフは、グラベリアが持っている武器を見ながら言う。
この世界では、武器は圧倒的に剣が普及している。
槍や弓や鎚など他にも様々な武器はあるが、剣以外で戦うというのは珍しい事だった。
「ええ、私達の種族は宗教上の理由などがあり、この武器を使って戦うのです。
私はあまりそういう事にこだわらない性格なので、別に剣で戦ってもいいのですけれど、幼い頃からこの武器で特訓を受けてきたので、やはりこれが一番使いやすいのですよ」
「そうなんだ……」
言っているこそ理解出来るものの、アレフは槍で人が戦う所を見たことがないので、どんな風に戦うのかあまりイメージが沸かなかった。
「まあ私は、あくまでいざという時の為の保険ですから、この武器も使う時が来なければそれが一番なのですけれどね」
グラベリアは自身の槍を眺めながら、そんな事を呟くのだった。
そして、アレフとエルマとグラベリアは、もうすっかり慣れた何時もの迷宮に入る。
少し歩けば、モンスターと戦闘になった。
しかしグラベリアは、宣言通り後で見守っているだけで、何も手出しはしなかった。
____
この世界の迷宮は、複雑に入り組んだ形をしている。
なので迷宮に挑戦するものは、最初のアレフのような何も知らないごく例外を除いては、地図を付けながら先へと進む。
迷宮は入り組んでいるので、最奥にある守護者の部屋を見つける為には何ヶ月もの時間がかかる。
そして迷宮を隅から隅まで回ろうとしたら、更にその何倍もの時間がかかるだろう。
しかし一度最短ルートさえ発見してしまえば、その道の通りに行けば長くても3日程度で一番奥までは付く。
なのでアレフ達も、地図を見ながら2日程度で、再び迷宮の奥へとたどり着いたのだった。
「じゃあ、行くわよ」
そう言ってエルマは、守護者の部屋へと入っていく
アレフとグラベリアも、それに続いて進んでいく。
守護者の部屋は、他の場所とは違い明るい。
そして迷宮の性質として、他の場所とは違い、縦にも横にも広く開けたドーム状のような空間が広がっている。
そしてそこには、巨大なサソリ型のモンスターがいた。
「こいつが、この迷宮の守護者……」
グラベリアは無言で、部屋の入口で待機する。
「じゃあ、行くわよ……!」
エルマが、モンスターへと先陣を切る。
アレフはエルマを盾にするように位置取って、魔術の詠唱を始める。
そうして、この迷宮の守護者との戦いが始まった。
まずエルマは何時ものように、サソリ型モンスターに向かって距離を詰める。
そして素早く側面へと回り込み、まずは一撃、剣を振り下ろす。
しかしエルマの剣は、まるで鉄を叩いたかのように、何の手応えもなく弾かれる。
「なっ……」
エルマがその感触に驚いている間に、サソリ型モンスターは両手のハサミを振り回す。
エルマはその攻撃を剣で受け止めるが、体ごとその場から弾き飛ばされてしまう。
防御力も攻撃力も、これまでのモンスターとはケタが違う。
そんな印象を、アレフとエルマの2人は感じ取っていた。
そして次は、アレフが詠唱を完成させる。
アレフの手から、火の弾がサソリ型モンスターへと飛んでいく。
しかしサソリ型モンスターは、エルマに攻撃された時と同じように、その攻撃を全くものともしない。
「ど、どうしようエルマ、全然効いてないみたいだけど……!」
「どうもこうも、やるしかないでしょっ!」
エルマはそう叫びながら、先ほどよりも更に強い攻撃を浴びせていく。
「そ、そうだよね……っ!」
そしてアレフも、この魔術で駄目なら他の魔術をと、先ほどとは違う魔術の呪文を唱え始めるのだった。
____
戦闘が始まってから、5分程が経過していた。
アレフもエルマも攻撃を打ち込み続けているが、サソリ型モンスターの防御力は圧倒的で、まだ殆ど相手のオーラを削る事は出来ていない。
そしてそれなのに、サソリ型モンスターの攻撃を受け続けたエルマのオーラは目に見えて減っていて、明らかに消耗していた。
なんとかしなければならない。
そんな事を考えて焦るアレフに、エルマが指示を出す。
「アレフ、あんた魔力を貯めて打つ事って出来るでしょ!」
「えっ、で、出来るけど……!」
「他のことは気にせず、あんたが出来る限界まで魔力を貯めなさい! 今から直ぐに!」
「け、けど……!」
「それしか方法ないでしょ、早くやる!」
「う、うん!」
魔術師は魔術を使う際、魔力を貯めれば貯める程、強い魔術を放つ事が出来る。
しかし、沢山の魔力を貯めるのには長い時間がかかる。
そして基本的には、実戦で時間をかけて魔力を貯めるような余裕はない。
なのでアレフは、普段はある程度の魔力しか溜めずに魔術を放っている。
しかし、このサソリ型モンスターには生半可な攻撃は通用しない。
なのでアレフとエルマは、エルマが敵を引きつけその間にアレフが限界まで魔力を貯めて魔術を放つ、という戦法にシフトしたのだった。
アレフはゆっくりと、一つ一つの言葉をかみしめるように丁寧に、時間をかけて呪文を唱えていく。
そしてその間、エルマはアレフの援護を一切受けずに、一人だけでサソリ型モンスターの攻撃をいなし続ける。
そして、30秒程が経った後。
アレフが魔力を貯めきるよりも先に、エルマがサソリ型モンスターの攻撃をまともに受けてしまった。
アレフはその事に、一瞬気を取られてしまう。
「あっ……」
集中が途切れてしまったせいで、アレフが構築していた魔術式が崩れていく。
そしてそれに伴って、アレフが長い時間をかけて貯めていた魔力も形をなさないまま崩れていった。
「バカ! あたしはあんたを待ってこらえてんのに、そのあんたが集中切らしてどうすんのよ!」
「ご、ごめん!」
「あたしの心配なんかしなくていいから、もう一回やる!」
「うん!」
そしてアレフはまた、全力で集中をしながら、時間をかけてゆっくりと呪文を唱えるのだった。
そして、40秒程が経過した。
とうとうエルマは、サソリ型モンスターの攻撃を捌ききれずず、吹き飛ばされて倒れてしまった。
「このっ……」
エルマは急いで立ち上がったが、目の前には既に、今まで戦っていたサソリ型モンスターの姿はなかった。
サソリ型モンスターは、魔力を貯め続けているアレフの方を警戒して、そちらに向かって突進していた。
「しまっ……」
エルマの位置からはもう、サソリ型モンスターがアレフへと攻撃を加えるのを止められない。
しかしその時、アレフはサソリ型モンスターを正面から見つめ、貯めた魔力を全て開放させていた。
アレフの詠唱は、ギリギリの所で間に合っていたのだ。
「ウィンドカッター!!」
アレフの手から、魔力によって作られた巨大な風の刃が飛んでゆく。
その攻撃は、サソリ型モンスターに正面から直撃した。
しかしサソリ型モンスターは、その攻撃が直撃してもなお、少しも怯まなかった。
その攻撃すら、殆どダメージにはならなかったのだ。
「くそ……これでも駄目なのかっ……!」
アレフのいる位置へと距離を詰めたサソリ型モンスターは、両手のハサミを全力で振り回す。
「がっ……」
全力で魔術を唱えたばかりで隙だらけだったアレフは、無防備なまま、その攻撃を真正面から受けてしまう。
アレフはその場所から弾き飛ばされ、床へと叩きつけられた。
どうすればこいつに勝てる。
アレフは倒れ、頭から血を流ながらも、そんな事を考える。
そして辺りの状況を見渡す。
すると、血だらけで倒れるアレフを見たエルマが、何もせずその場で呆然と立ち尽くしていた。
「エルマ! 何してるんだよ!」
なんとか次の一手を打たないと。
そんな事を思い、アレフはエルマへと声を掛ける。
「あ、アレフ……」
しかし、エルマは何故か、その場から一歩も動かない。
アレフが血を流している姿を見た瞬間から、まるで金縛りにあったかのように、その場で硬直してしまっていた。
「くそっ……」
地面に倒れ伏すへアレフと、守護者のモンスターが再び迫ってくる。
アレフはなんとか、必死に立ち上がろうとする。
「え……?」
すると突然、アレフの後ろから、稲妻のようなものが飛んでいった。
その稲妻のようなものは、サソリ型モンスターと衝突する。
部屋の中に、凄まじい衝撃音が響く。
そしてその稲妻のようなものは、サソリ型モンスターと衝突した事によって、一瞬だけ動きを止めた。
「あっ……」
アレフはその時、一瞬だけその稲妻のようなものの正体を捉えた。
それは、3つ又の槍を構えたグラベリアだった。
グラベリアは狙いを定めると、また直ぐに動き出す。
そしてまた、アレフの目には稲妻のようなものしか映らなくなった。
稲妻のようなものは、サソリ型モンスターに何もさせないまま、何度も何度もサソリ型モンスターへと激突する。
アレフの目には、グラベリアが何をしているかすら捉えられない。
ただどうやら、激しい攻撃を加えているらしい。
守護者のモンスターのオーラだけが、目に見えて減っていく。
「あ……」
気が付けば、サソリ型モンスターはオーラの枯渇によって疲労困憊していた。
そしてその稲妻のようなものの激突によって、サソリ型モンスターはなすすべなく吹き飛ばされていた。
「嘘……」
アレフとエルマが、どれだけ苦労しても殆どダメージすら与えられなかった迷宮の守護者。
そんなモンスターを、グラベリアはたったそのやりとりだけで、圧倒してしまったのだった。
グラベリアは、サソリ型モンスターが動かなくなったのを見て、動きを止めた。
そしてグラベリアは、もうそれ以上の追撃はしなかった。
グラベリアは、部屋の中心辺りへと歩みを進める。
そこには、エルマがいた。
エルマは未だに、アレフが血を流している光景を見た時のまま、ずっとその場に立ち尽くしていた。
「お嬢様、帰りましょう……」
そう言ってグラベリアは、エルマの肩へと手を置く。
その何時もの優しい動作に、エルマは危機が去ったことをやっと理解する。
そして緊張の糸が解けたエルマは、その場にへたり込む。
「エルマ……?」
アレフの前で、エルマは何時でも気丈で誇り高い姿をしていた。
なのでアレフには、そのエルマの姿は、まるで別人のようにしか見えなかった。
「わ、私……は……」
エルマはまるで臆病な少女のように、縮こまりながら恐怖で震えていた。
そうして再び、アレフはエルマと共に、迷宮へと挑戦する事になった。
「じゃあ行ってくるわね、グラベリア」
「ええお嬢様、お気をつけて」
グラベリアは宿に待機して、2人を見送る。
「そういえば、グラベリアは一緒に来ないの?」
エルマの護衛ならしいし戦闘能力はある筈なのに、どうして一緒に行かないのだろう。
アレフはそんな事を思いながら、質問をする。
「あたしは、修行をする為に迷宮に潜っているの。
グラベリアがいたら、あたしはどうしても心のどこかでグラベリアに甘えてしまうから、修行にならないのよ」
エルマはそんな事を答える。
しかしアレフには、エルマが甘えてしまう程にグラベリアが強いという言葉がしっくり来なかった。
「というか今更だけど、グラベリアって強いんだよね?」
「強そうに見えますかー?」
グラベリアは、冗談めかしながらそんな事だけを答える。
「いやまあ、エルマの護衛だし、グランワイト人だし、強いんだろうけど……」
なんだかぽわぽわした人だし、戦っている所がいまいち想像できないな。
グラベリアに見送られながら、アレフはそんな事を思っていた。
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そしてアレフとエルマの2人は、再び迷宮へと到着し、入って行った。
「この辺の敵はザコだから、先に進むわよ」
エルマは入り口にいるスライム型モンスター達を、意にも解さないといった感じで蹴散らしながら先へと進んでいく。
やっぱりエルマは凄いなと、アレフは改めてそんな事を思っていた。
そして少し進めば、アレフが最初にこの迷宮に来た時に逃げ出してしまった、トカゲ型モンスターが現れた。
「あんた、そいつと一人で戦ってみなさい」
エルマにそう言われて、アレフは一人でモンスターと戦う事にする。
トカゲ型モンスターが、アレフへと向かって飛びかかってくる。
そのモンスターの動きを見たアレフは、あれ……? と思った。
モンスターの動きが、記憶にあるものよりもずっと遅く見えたのだ。
もちろん、そのモンスターの動きが遅くなった訳ではない。
10日間の修行の中でmアレフはエルマの素早い動きを見慣れたので、それと比べたら遅く見えてしまったのだ。
アレフは冷静にカウンターを合わせて、剣でトカゲ型モンスターを撃退する。
アレフは魔術を中心として修行をしたが、剣の扱い方もそれなりにエルマから教わっていた。
なのでアレフは、最初に迷宮に来た時のデタラメな振り方ではなく、エルマに教わったしっかりとした振り方で剣を振り下ろす。
するとモンスターは簡単に両断されて、そして魔石だけが残るのだった。
「僕、凄く強くなってる……」
「当たり前じゃない、あたしが修行付けてあげたんだから。
さ、先行くわよ」
「あ、待ってよ」
アレフは道に落ちた魔石をちゃんと拾い、そしてカバンの中へと入れると、先に進むエルマに付いて行くのだった。
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モンスターが現れたら、まずはエルマが前で戦う。
そしてエルマを補助する形で、後ろでアレフが魔術を撃って援護する。
もし2体以上モンスターが現れた場合は、アレフも剣を取って個別に戦う。
そんな陣形で、アレフとエルマはダンジョンを進んでいった。
そうして、しばらくの時間が流れた。
少しだけ開けた場所に出て、エルマはそこで足を止める。
「今日はこの辺で野宿ね」
エルマはそう言って、そして石の上へと座る。
「あれ、もうそんな時間……?」
「そんな時間よ。
あんたは迷宮に慣れてないからしょうがないけれど、迷宮の中じゃ時間が分からないから、冒険者ってのは体内時計も大切なのよ」
そしてエルマは、そのまま疲れを取るためにリラックスし始める。
この世界の迷宮とは、1日で奥まで行ける程短いものではない。
なのでこの世界の迷宮探索は、野宿をしながら何日もかけて行うのが基本的なのだ。
アレフとエルマは、カバンからコップを取り出し、水の魔術でその中に水を注ぐ。
そしてカバンから食事を取り出し、火の魔術で簡単な調理を施し、食事を済ませた。
そしてあとは、眠る時間になった。
「石がゴツゴツしてる……」
「文句言わない。
食事くらいならまだしもベットなんて持ってくる訳にはいかないし、これに慣れないと迷宮探索なんて出来ないのよ」
エルマはその場所に座り込んだまま、辺りを軽く見渡す。
「じゃああたしが起きてるから、あんたは寝てていいわよ」
「あれ? エルマも寝ないの?」
「あのね……、ここは迷宮なのよ。何時モンスターが出てくるか分からないとっても危険な場所なのよ。
そんな場所で全員がすやすや寝てていいと思う?」
「あ、そっか……」
エルマが自分よりも頼りになる事は分かっているので、アレフは指示に従って、素直に自分だけ寝させて貰う事にする。
「あれ? でもじゃあエルマは寝られないんじゃないの?」
「あたしは半分起きながら半分寝れるから大丈夫よ」
「え、そんな事出来るの?」
「まあ、普通の人には出来ないでしょうね」
やっぱりエルマは凄いな。
そんな事を思いながら、アレフは眠りに付くのだった。
____
アレフとエルマは、迷宮の中でしばらくの時間を過ごした。
そして2日と少し程度の時間が経った後、迷宮の外へと戻って来た。
迷宮の外はまだ昼間で、アレフ達へと太陽の光が照りつける。
「うわ、明るい……」
「迷宮の中は暗いものね……」
迷宮の中には龍脈エネルギーが漂っており、そして龍脈エネルギーは輝いて見えるので、迷宮の中では 最低限の光源は確保されている。
しかし、状況を確認するのに不自由はしないという程度の薄暗い光しかないので、迷宮の外と比べたらやはり暗い。
なのでエルマもまた、この感覚には慣れているので驚きこそしないものの、少しだけ目を細めていた。
____
そして二人は道を歩き、また迷宮都市の城門を潜る。
そして冒険者ギルドへと入り、今回取ってきた魔石を受付へと渡した。
そしてしばらく待つと、小金貨4枚程度(現実の価値で言うと4万円程度)の金銭が支払われたのだった。
「凄い、小金貨4枚なんて……」
「いや、このくらい普通よ。
というか、今回はあんたが迷宮になれる為に抑え気味にやってたから、むしろ少ないくらいよ」
「え、迷宮ってそんなに儲かるものなの……?」
この世界の労働者の日当は、平均的には銀貨3枚(現実で言うと3千円程度)くらいだ。
なので小金貨4枚(現実で言うと4万円程度)という金額は、かなり高かった。
「迷宮探索は命の危険がある事だし、それに誰にでも出来る事でもないから、その分魔石は高額で売れるのよ」
「ああ、なるほど……。
けどそれでも、たった数日で小金貨が何枚も貰えるのは凄いなぁ」
「でもまあ、普通の冒険者はあたし程は稼げないわね」
「え、どうして?」
「だってあたし、冒険者の中でも上位の実力だもの。
魔石は、強いモンスターを倒すほど価値の高いものが手に入るから、強い冒険者ほど沢山のお金を稼げるの。
逆に言えば、弱くて入口近くのモンスターしか倒せないような人は、迷宮に行ってもそんなに稼げないのよ」
「そうなんだ……」
アレフがエルマの知識に感心していると、エルマは近くのテーブルの席へと座った。
そして今回稼いだ金を全て袋から出し、テーブルの上に広げて、それを半分に分けていく。
「何してるの?」
「何って、お金を分けてるのよ。報酬は山分けでいいわよね」
「え、半分も貰っていいの!?」
アレフはエルマの補助をしているだけだったので、半分も貰えるとは思ってはいなかった。
「冒険者同士の報酬の分配は、山分けが基本なのよ」
「ありがと、エルマ」
「べ、別にいいわよ、お礼なんて……」
こんな事で感謝されるとは思っていなかったエルマは、少しだけ照れていた。
____
そしてそれから、更に3ヶ月程の時間が流れた。
アレフは迷宮にも戦いにも更に慣れて、より的確な動きが出来るようになっていた。
アレフとエルマが迷宮を歩いていると、熊型のモンスターが現れた。
戦闘が始まる。
まずはエルマが前へと出て、そしてアレフがエルマを盾にする形で後ろへと陣取る。
これが、この2人が戦う時の基本的なフォーメーションだった。
前に出たエルマは、熊型モンスターに向かって距離を詰める。
そして剣の届く位置まで距離を詰めると、剣を振り下ろし、攻撃を加える。
エルマの剣は、硬いものを叩いたように弾かれる。
熊型モンスターは、手を振り上げてエルマへと反撃する。
エルマはその攻撃を腕で受け止める。
そして熊型モンスターの攻撃もまた、硬いものを叩いたように弾かれる。
普通の人間がこの熊型モンスターの攻撃を受ければ、一撃で重症を負うだろう。
しかしエルマには、その一撃だけではそこまでのダメージにはならない。
何故ならエルマは、オーラという力を纏っているからだ。
この世界には魔術と同じように、現実の世界にはない力として、オーラというものがある。
オーラとは、一言で言えば生命エネルギーのようなものだ。
人もモンスターも、生きているものは全て、このオーラという力を纏っている。
オーラの力には生命力を活性化させるという機能があり、この世界の人々は通常ではありえないような力を出す事が出来る。
そしてこのオーラの力は、魔力量と同じように、鍛える事によって増やす事が出来る。
この世界にはこのオーラの力があるので、鍛えていれば女性でも超人的な運動能力を有する事が出来るのだ。
そしてこのオーラには、生命力を活性化させる力の他に、もう一つの機能がある。
それは、例えるなら緩衝材のような機能だ。
オーラには、外部からの衝撃などを和らげる性質がある。
なのでオーラを纏っていれば、強い衝撃を受けても体へのダメージを和らげる事が出来る。
またオーラには、外部の環境から身を守るという機能もある。
例えば激しい熱などを浴びせられた場合、オーラは防火服のような役割を果たす。
なのでこの世界の生物は、オーラを纏っている限り、剣で切られてもいきなり切れる事はないし、火で燃やされてもいきなり燃えてしまう事もない。
ただしオーラは、衝撃や熱などを浴びせられた場合、その分量に応じて減ってしまう。
そしてオーラが薄くなってしまえば、鎧を剥ぎ取られたのと同じ状態になってしまうので、その時は衝撃に晒されれば無防備にダメージを受けてしまう。
エルマは、熊型モンスターへと何度も剣で攻撃する。
そしてその度に、エルマの攻撃は硬い物に当たったようにはじかれる。
しかしこの行為は無駄な事ではなく、例えるならRPGゲームで敵のHPを削る作業のように、熊型モンスターのオーラを削るという意味があるのだ。
そしてそれを後ろで見ているアレフもまた、熊型モンスターの隙を見ては、風の魔術による攻撃を浴びせていく。
熊型モンスターは何度も風の刃に切り裂かれ、切り傷が付いていくが、オーラに守られているのでいきなり致命傷になる事はない。
しかしその代わりに、熊型モンスターの纏っているオーラは、攻撃によって確実に削られていく。
そうしてやがて、熊型モンスターの纏っているオーラはどんどん薄くなってゆき、攻撃を受ける事がダメージに直結していくようになっていく。
また、オーラには生命力を活性化させている役割もあるので、熊型モンスターのオーラが減っていくのに従って、熊型モンスターの動きも鈍くなってゆく。
「はぁっ……!」
そしてエルマは、頃合を見て渾身の一撃を加える。
熊型モンスターは、薄くなったオーラではその攻撃に耐え切れず、一刀両断されてしまう。
そして熊型モンスターは絶命し、魔石だけを残し消滅するのだった。
エルマは一息を付き、アレフへと話しかける。
「あんた、大分戦えるようになってきたわね」
「そうなのかな……? 僕はエルマに守られててこそ戦えてるから、あんまり強くなった実感がないんだけれど」
「あたしに付いてこれてるだけで凄いのよ」
「エルマがそう言うなら、そうなのかな」
「正直あたしも、あんたがここまで役に立つとは思わなかったわ。
あんた本当に、潜在能力はあったのね」
アレフは知らないが、先ほどアレフとエルマが倒した熊型モンスターは、とても一般的な冒険者が倒せるようなレベルのモンスターではない。
エルマは一般的な冒険者のレベルを超越しているが、それに付いていけるアレフもまた、既に一般的な冒険者のレベルは超越していたのだった。