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「アレフの迷宮挑戦録 7話」(2015/07/18 (土) 14:14:13) の最新版変更点
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それからまた、50日程の時間が流れた。
グラベリアの的確な指導と自身のひたむきな努力を重ねたアレフは、驚異的なペースで成長を続た。
アレフの魔法剣は、5回打ったらその内の4回は成功する程の精度になっていた。
そしてエルマもまた、敵を倒すのではなく敵の攻撃を受け止め続ける為の戦い方を改めて学び、前よりも一段と強くなっていた。
「そろそろ、また迷宮に行かない、アレフ?」
エルマがアレフへと、そんな事を切り出す。
「もう大丈夫なの、エルマ?」
「ええ、あたしは大丈夫よ。
あんたの魔法剣ももうかなりの確率で成功するようになったし、もう一度リベンジしに行きたいの」
アレフは意見を仰ぐように、グラベリアの方へと視線を移す。
「そうですね。もうお嬢様もアレフさまも十分に修行はしましたし、そろそろ本番でもいいのではないでしょうか。
それにもし駄目そうでも、私が付いていれば助けてあげられますから」
グラベリアは、何時ものニコニコとした笑みを浮かべながら、エルマの提案へと賛成する。
「そうだね、行こうか……!」
「ええ……っ!」
そうしてアレフとエルマは、一旦修行を終えて、また迷宮の守護者へと挑戦する事になった。
____
その日の夜、アレフは迷宮に行く前にじっくりと休息を取っていると、グラベリアに呼び出されていた。
「アレフ様のおかげで、お嬢様は自分の弱さと向き合う事が出来ました。
けれどそれは、ただ向き合う事が出来たというだけで、トラウマを克服した訳ではありません。
アレフ様が傷ついているのを見れば、お嬢様はまた直ぐに、ショックで動けなくなってしまうと思います。
なのでそうなったら、私は直ぐにでも加勢させて貰いますね」
「そうだよね……」
エルマはまたあの迷宮に行くと行った時、何気なく言ったように見えるが、きっと計り知れない程の勇気をふりしぼっていたのだろう。
アレフは、そんな事を改めて思う。
「何度もトラウマを呼び起こされていれば、お嬢様の心は今よりも更に磨り減ってしまいます
だから、これはお願いなのですが……。
アレフ様、どうか、お嬢様の前では傷付いた姿を見せないようにしてあげてください。
あの迷宮の守護者に勝って、お嬢様に勇気を与えてあげてください」
「うん……!」
グラベリアの話を聞いて、アレフは改めて、自分を奮い立たせていた。
____
そして、アレフ達はまた迷宮の最奥まで来ていた。
「さ、行くわよ」
「うん」
そうしてまた守護者の部屋へと、エルマが先陣を切って足を踏み入れていく。
「頑張ってくださいね、2人とも……」
そしてグラベリアは、前の時と同じように、部屋の入口に待機しているのだった。
何時も通りに、エルマが前衛、アレフが後衛に別れる。
そしてエルマが、サソリ型モンスターの所へと突っ込んでいった。
作戦通り、エルマはサソリ型モンスターへとダメージを与える事は考えない。
ただひたすら相手の攻撃をいなし、アレフの盾になる事にだけ徹する。
そしてアレフは、剣を頭の後ろまで振りかぶり、その状態で静止する。
アレフもまた作戦通りに、エルマへの援護などは一切考えずに、ただ魔力を貯める事だけに集中する。
そうして1分間程、エルマは相手の攻撃を持ちこたえ続けた。
エルマは、相手の攻撃を受け止めるタンクとしての戦い方を学ぶことで、前よりも確実に、サソリ型モンスターの攻撃を持ちこたえられるようになっていた。
「出来たっ!」
アレフがそう叫ぶ。
そしてその言葉を合図にして、攻撃に巻き込まれないように、エルマは全力でその場から飛び退く。
「魔法剣!!」
そしてアレフは、一発目の魔法剣を放った。
つい先ほどまでエルマの相手をしていたサソリ型モンスターには、それを避ける事は出来ない。
魔法剣の攻撃は、サソリ型モンスターに真正面から直撃した。
「キシャアアアアア!!」
サソリ型モンスターは、予想外の衝撃に悲鳴を上げる。
誰の目から見ても、その攻撃がダメージになっている事は明らかだった。
アレフはまた直ぐに、地面に叩きつけた剣を頭の後ろに構える。
そしてエルマもまた、再びサソリ型モンスターの前に戻ってくる。
そしてアレフはまた、2発目の魔法剣を撃つ為の準備に入るのだった。
エルマがひたすら攻撃を耐え続ける。
攻撃を受け続けるエルマには、疲労とダメージが溜まっていく。
「ぐっ……」
やがてエルマは、サソリ型モンスターの攻撃をまともに受けてしまう。
サソリ型モンスターは、直ぐにアレフの方へと向かおうとする。
「まだまだ……!」
しかしエルマは一瞬で立ち直り、またサソリ型モンスターを足止めする。
アレフの魔法剣が完成するまで、エルマはひたすら、サソリ型モンスターとそんなやりとりを続けた。
そして、アレフが魔力を貯め始めてから、また1分程が経過した頃。
「出来た!!」
アレフがそう叫ぶ。
エルマはその瞬間、全力でその場から飛び退く。
「魔法剣!!」
そしてサソリ型モンスターに、またも魔法剣が直撃する。
「キシャアアアアア!!」
サソリ型モンスターは、また悲鳴を上げて、大きく仰け反るのだった。
アレフの魔法剣は、2発とも成功した。
サソリ型モンスターのオーラも、目に見えて最初の時よりも減っている。
しかし、既に2分以上サソリ型モンスターの攻撃を受け続けているエルマもまた、そのオーラは目に見えて減っている。
そしてエルマのオーラが減るペースの方が、サソリ型モンスターのオーラが減るペースよりも早かった。
このままでは、サソリ型モンスターのオーラを削りきる前に、エルマのオーラが尽きてしまう。
エルマが倒れてしまえば、アレフ一人では魔法剣を放つことが出来ないので、もう勝ち目はない。
「くそ、やっぱり駄目なのか……!」
アレフは思わず、そう叫ぶ。
エルマは、アレフのその発言が、自分のオーラを見て出たものだと気が付く。
そしてエルマは、アレフへと怒る。
「あんた、まだあたしの事なんか気にしてんの!」
「えっ……」
このタイミングで罵声が飛ぶと思っていなかったアレフは、思わず困惑する。
エルマはサソリ型モンスターの攻撃をいなしながら、アレフへと叫ぶ。
「言ったでしょ!あたしは人に心配されるのが嫌な性格なの!
例え嘘でも、それがあたしなの!
今度あたしの心配なんかしたらはっ倒すわよ!」
魔術式を作る力とは、イメージの力だ。
より正確で強いイメージをする為には、他の事を一切気にしない状態に入らなければならない。
もっと自分を信用して、魔法を使う事だけに集中しろ。
エルマはアレフに向かって、そんな事を叫んだのだ。
アレフは今まで、エルマの体を気遣いながら戦っていた。
エルマがどれだけサソリ型モンスターの攻撃に耐えられるか、そんな事を考えながら戦っていたのだ。
そんな雑念は、魔術式を構築する際に邪魔にしかならない。
「そうだよね、僕、どうかしてた……っ!」
他人に対して、そして自分に対して、無理矢理にでも虚勢を張るエルマの姿は、アレフが憧れたエルマの姿そのものだった。
アレフはそんなエルマを見て、自分がエルマの心配なんてするのはおこがましい事だと思った。
なのでアレフは、エルマの戦いをもう見ない事にした。
アレフは、目を閉じた。
エルマを完全に信頼し、そして目の前の光景を意識から失わせたのだ。
もしこんな状態でサソリ型モンスターから攻撃されれば、ただでは済まないだろう。
しかしそんなプレッシャーも、エルマへの信頼によって、アレフは全て打ち消していた。
アレフは目を閉じたまま、剣を頭の後ろへと構える。
そしてただ、剣の周りにエネルギーの塊が溜まっていく光景だけをイメージする。
その間エルマは、ただひたすらサソリ型モンスターの攻撃に耐え続ける。
完全に没入状態に入ったアレフは、1分を経過させてもまだ魔力を貯め続けた。
そして1分30秒程が経過した。
アレフは、ついに目を開く。
「出来たっ!!」
そのタイミングに合わせて、エルマはその場から飛び退く。
「魔法剣!!」
先ほどまでよりも更に強い衝撃が、サソリ型モンスターに直撃する。
サソリ型モンスターは、更に深いダメージを追う。
しかし自身の放った魔法剣を見たアレフは、まだ足りないと思った。
まだ足りない。
まだ、もっと強い魔法剣を出せる。
アレフはそんな事を思う。
「あたしは何時までも耐えてみせるわ!
だから、あたしの事なんか気にせずに思いっきりやりなさい!」
エルマはアレフへと、そう叫ぶ。
エルマなら、まだまだ耐えてくれる。
アレフはそんな確信を持って、そして再び目を瞑り、魔法剣の構えに入るのだった。
そして、更に長く、長く、長く、アレフは集中をし続けた。
1分が経過した。
アレフはまだ、魔力を貯め続ける。
エルマの体力は、既に限界ギリギリになっていた。
しかしエルマは、ボロボロになりながら、それでもサソリ型モンスターの攻撃に耐え続けた。
1分30秒が経過した。
エルマにとっての恐怖とは、自分が傷つく事ではなく、自分の周りの人が傷つく事だった。
だからエルマは、例えどれだけ自分が傷ついても、サソリ型モンスターを決してアレフの所へだけは行かせなかった。
やがて、2分間が経過した。
「出来たっっ!!」
アレフの剣には、今までで間違いなく最高の魔力が溜まっていた。
エルマは残りの力を全て振り絞って、その場所から飛び退いた。
「魔法剣!!」
今までで最大の魔法剣が、凄まじい勢いで飛んでいく。
「いっけええええええええええええ!!!!!!!!」
アレフとエルマは同時に叫ぶ。
そしてその魔法剣は、サソリ型モンスターの体を貫いた。
サソリ型モンスタは、そのまま力を失い、地面へと倒れる。
そしてサソリ型モンスターは、空気中へと溶けるようにして消えていった。
そして、後はその場所には、白い輝きを放つ魔石、クリスタルだけが残ったのだった。
「勝った……の……?」
まだ実感のないエルマは、ただそんな事を呟く。
アレフは、エルマの所へと近づいていく。
「終わったよ、エルマ」
そしてアレフは、そんな言葉をかける。
「そっか、勝てたんだ……」
エルマも、少しづつ実感が湧いてくる。
「あたし達、勝てたのよ!!」
エルマは感動して、アレフへと抱きつく。
「お疲れ様、エルマ……」
そうして2人は、充足感に包まれていたのだった。
そして少し経ち冷静になった後。
アレフは急に、動きがぎこちなくなった。
「エルマ、その……」
「……? どうしたのよ?」
エルマはまだ、興奮冷めやらぬと言った感じでアレフへと抱きつき続けている。
「その、抱きしめられてると、動けないから……」
「あっ……」
エルマはそこで初めて、密着しているアレフが赤面している事に気が付いた。
そしてエルマも同じように、赤面しながら手を離すのだった。
「いいですね、若いって……」
グラベリアは、そんな2人の様子を微笑ましそうに眺めていたのだった。