アレフの迷宮挑戦録 8話

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 守護者を倒し、しっかり休息を取った後。  アレフとエルマとグラベリアは、迷宮の出口へと向かって進んでいた。 「なんか、迷宮の中が暗くなってない?」 「迷宮の中は龍脈エネルギーの力で光ってたの。  その迷宮の龍脈エネルギー中心であったクリスタルを私達が持って帰るから、龍脈エネルギーが弱くなってるのよ」 「じゃあしばらくたったら、迷宮の中は真っ暗になっちゃうのか」 「いや、その前にこの迷宮自体がなくなるわ。  迷宮は龍脈エネルギーの力で形を保ってたから、クリスタルを持って帰ったら、しばらく経ったら自重で潰れてしまうの」 「え、大変じゃないか……! このままだと生き埋めになっちゃうよ!」 「それは大丈夫よ。  クリスタルがなくなっても、迷宮の中に残っている龍脈エネルギーがあるから、それが尽きるまで迷宮が潰れてしまう事はないの。  だから出ていく時間くらいは十分にあるのよ」 「そして迷宮が潰れたら、その場所にはまた地下から少しづつ龍脈エネルギーが貯まるの。  そしてやがて新しいクリスタルが出来て、そのクリスタルを中心に、またその場所に新しい迷宮が出来るのよ」 「へー」  少しだけ高圧的に、けれど丁寧に、エルマはアレフへと解説する。  もうすっかり何時ものエルマが戻ってきていて、アレフもグラベリアも、安堵していた。 ____  そうしてアレフ達は、また2日と少しかけて宿へと戻った。 「これがクリスタルかぁ……」  アレフは、自分達が持って帰ったクリスタルを眺める。  龍脈エネルギーの力を一身に溜め込んだ、白く輝く特別な魔石。  このクリスタルを手に入れる為には、危険な迷宮の中を踏破しなければならない。  最奥までたどり着き守護者を倒せる程の実力を持っていなければならないし、たとえ実力があったとしても、複雑に入り組んだ迷宮の中で守護者の部屋を見つけるのには、相当な時間とそして運が必要となる。  なのでクリスタルは、通常の魔石とは比較にならない程の価値があるという。 「その、エルマ、報酬は山分けでいいんだよね……?」  どのくらいの大金が手に入るのか想像も付かないアレフは、少しだけ尻込みしてしまう。 「アレフが欲しかったらあげるわよ。  あたし、クリスタルなんて幾らでも持ってるし」 「えっ!?」  クリスタルとはとても貴重なものなので、個人が幾つも所有出来るものではない。  しかしアレフには、エルマが嘘を付いているようにも見えなかった。 「なんでクリスタルを幾つも持ってるの?」 「あたしの家が潰されてしまう時、奪われるくらいならって、グラベリアが高価なものは全部持ち出したのよ。  その時にクリスタルも大量に持ち出したから、あたし達は幾らでも持ってるの」  理由は分かったが、しかし次の疑問が出てくる。 「いやでも、家にクリスタルが幾らでもあったなんて、幾ら貴族だったとしても普通じゃないよね……」  エルマの家ってどういう家だったの……?  アレフはとっさにそんな事を聞いてしまいそうになったが、エルマが自分の事を詮索されたがっていなかった事を思い出し、引き留まった  アレフは未だに、エルマの家の事情をよく知らない。  聞いてもはぐらかされるし、詮索して欲しくなさそうな雰囲気も纏っているので、未だに聞けずにいるのだ。  そしてそんなエルマとアレフのやりとりを見ていたグラベリアが、隣から口を挟む。 「お嬢様、もうアレフ様になら、私達が何者なのか教えてもよろしいのではないでしょうか?」  エルマは少し悩み、そしてグラベリアの意見へと同意する。 「そうね、アレフなら他の人に言いふらしたりしないでしょうし」 「教えてもらっていいの?」 「ええ、今まで隠してて悪かったわね」  そしてエルマは、アレフへと自分たちの事を話し始めるのだった。 「あたし達はアラヒカという国から来たの。アレフは、アラヒカ国の事を知っているかしら?」 「えーっと、名前くらいは聞いた事はあるけれど、どんな所なのかはあまり……」 「まあそんな所だと思ったわ。じゃあ1から説明するわね」  そうしてエルマは、いつもの解説モードに入る。 「あたしの国アラヒカは、昔はそれなりに豊かな国だったわ。  けれど、前の王様であるコスタリア王は、史上最悪とも言われる程の暴君だった。  コスタリア王はあちこちに戦争をふっかけまわって、アラヒカ国は瞬く間に世界中から恨まれるようになったわ」 「そして今から9年前、ついにアラヒカ国は周辺諸国から攻め入られ、王城が落とされた。  コスタリア王は戦争犯罪者として処刑され、またコスタリア王に関連する人物達も、全て処刑された。  そうして、アラヒカ国からは王政が撤廃されて、代わりに国政大臣と軍事大臣が2人で国を治めるという政治体制になったわ……」  エルマはその話をしながら、辛そうにする。  言葉に詰まったエルマに代わり、グラベリアが少しだけ補足を加える。 「コスタリア王の最後は、国民からも全く同情はされず、自業自得だと罵られ石を投げられながら火炙りにされるという、とても凄惨なものでした……」    アレフは、エルマの家族は全て処刑されたのだという話を思い出す。 「エルマの家ってひょっとして、その王様に関連する家だったの?  だから、家族全員が処刑されてしまった……?」  エルマは少しだけ息を付き、そして言葉を続ける。 「関連するというか……、あたしが王族そのものだったのよ」 「えっと、それってどういう……」  グラベリアが、エルマの解説に補足を加える。 「エルマお嬢様の本当の名前は、アラヒカ=フラフィニエス=エルモネア。  今は亡きコスタリア王の血を引く、アラヒカ国の正当な第1皇女なのです」 「つまり……それって……」 「要するに、あたしはアラヒカ国の姫だって事よ。元だけれどね」 「え……、えええええええええええ!!!」  アレフはその時、エルマ、エルモネアと出会ってからもっとも驚いていたのだった。 「えっと、話を続けるわよ」 「う、うん……」  アレフはとりあえず、エルマの話を大人しく最後まで聞く事にする。 「あたしの父さん、コスタリア王は、最低の暴君だったと言われている。  けれど昔は、とても心優しい人だったらしいの。  それがある日から、まるで人が変わったかのように凶暴で残忍な正確になってしまった。  あたしは父さんの暴君としての姿しか知らないけれど、昔のコスタリア王を知る人なら、誰もが戸惑うような変化だったらしいわ」 「権力を手にしておかしくなってしまったのだと、みんなそんな事を思っていた。  けれどあたしとグラベリアは見たの。  父さんが処刑される日、父さんはまるで付き物が落ちたように、泣きながら自分がやった事を後悔していた……。  すまない……、すまない……、ただそんな事だけを、死ぬ最後の時までずっと呟き続けていた……」   グラベリアが、話の補足をする。 「私は長い間アラヒカの国に仕えていたので、おかしくなってしまう前のコスタリア様を知っていました。  そして処刑される日のコスタリア様は、おかしくなる前の、優しくて穏やかだった性格に戻っていました。  それを見た時、私には疑問が沸いたのです。  コスタリア様の性格が変わってしまったのは、本当に、権力に目が眩んでしまったからだったのかと。  あの戦争の裏には、私達の及び知らない何かがあったのではないか、と……」 「私はコスタリア様が処刑されたその日から、コスタリア様の背景と、そしてコスタリア様が起こしていった戦争に付いて調べ始めました。  すると、不審な点が数多く見つかりました。  アラヒカ国の兵士は、事故死をする人の数がとても多かったのです。   集団で落石事故にあったり、行進中にモンスターと出くわして全滅してしまったり、謎の失踪事件を遂げたりなどです。  そして更に調べると、戦争をしている途中にその事を不審に思った人も少なからずいたようで、そしてその事について調べた人達もまた、事故で死んだり行方不明になったりしていたのです」 「まるで、誰かが意図してアラヒカ国の戦力をコントロールしているかのようでした。  私はそれでまずます確信を持って、その事に付いて深く調べました。  そしてある日、私はついに、その事に関わっていた人物を一人捉える事に成功しました」 「その人物は、自分をケイオスギルドというものに所属している者だと言いいました。  そして、アラヒカ国の戦争はケイオスギルドが手引きしていたものだったと自白しました。  しかしその言葉を言った瞬間、まるで何者かから攻撃されたように、その人物は口から血を吐いて倒れ、そのまま絶命してしまいました」  そして、エルマが再び口を開く。 「あたし達はそれ以来、そいつらの尻尾を掴むことは出来ていない。  ケイオスギルドとは何なのか、どうして私の国で戦争を起こしていたのか、そんな事は何も分からないわ。  けれど、父さん達が殺されてしまったのはそいつらのせいで、そして私の国はそいつらの操り人形にされていたのよ……っ!」  エルマのその言葉には、伺い知れない程の憎しみが込められていた。 ____  そうしてエルマの説明は終わり、3人は一息を付いた。 「エルマ……えっと、エルモネアはこれからどうするの……?」 「エルマでいいわよ。見つからないようにわざと偽名を名乗ってるんだから」  エルマは宿の窓から、迷宮都市の街並みを見つめる。  そしてその景色を眺めながら、言葉を続ける。   「そうね……。あたしもあんたのおかげで強くなれたし、そろそろこの迷宮都市からも旅立つつもりよ。  とりあえず世界を旅して、ケイオスギルドの情報を探りながら、今の世界情勢でも見てまわろうと思っているわ」 「そっか……」 「あんたはどうするのよ?」 「どうしようかな……。  僕、ただ勢いで村から出てきただけだったから、もう村には戻りたくないけれど、やりたい事のあてとかはないんだよね」 すると、グラベリアが会話に割り込んでくる。 「じゃあアレフ様も、私達の旅に一緒に付いて来るどうでしょうか?」  エルマは、そんなグラベリアの提案に苦言を呈する。 「こんな事いうのもなんだけど、アレフは部外者なのよ?  アラヒカ国にも関係はないし、ケイオスギルドにも関係はないわ」 「いいじゃないですか。  アレフ様なら、私達がこれまで会ってきたどんな方よりも信頼出来ますよ」 「けど、あたし達の旅は、きっとこれからも過酷なものになるわ。  それなのに、アレフに付いて来て貰うだなんて……」  そしてそこで、アレフが会話に割り込む。 「エルマ、もしエルマがよかったらでいいいんだけれど、その旅に僕も付いて行っていいかな」 「え、でも……」 「前に言ったでしょ、僕はエルマに救われたんだ。  エルマがいなかったら、僕は今頃どうしていたのか分からないよ。  だから僕は、エルマに少しでも恩返しがしたいんだ」  エルマも本心を言えば、これからもアレフに付いて来て欲しかった。  しかしエルマは、アレフを自分達の旅に巻き込むという、その判断がどうしても出来ずにいた。  そんなエルマに、グラベリアが言葉を挟む。  「いいじゃないですかお嬢様。だって、このままお別れだなんて寂しいですよ」  その言葉は理屈ではなかったが、今の3人の気持ちを最も代弁していた。 「しょうがないわね……」    エルマは少し悩んだが、やがて承諾した。  アレフとグラベリアは、その言葉に安堵する。 「ただし、一つだけ勘違いしてる所があるわ」  そしてエルマは、何時もの高圧的で、そして気取った態度で言い放つ。 「あんたがあたしに付いて来てくれるんじゃなくて、あたしがあんたに付き添ってあげるのよ。  あんた、本当に何も知らないし、その、あたしが付いていてあげないと心配なんだからね!」  その高圧的な態度とは裏腹に、エルマは少しだけ、顔を赤くして照れていた。  「うん、これからもよろしくね、エルマ!」   アレフはエルマへと、笑いかける。  そしてそんな様子を、グラベリアはニコニコと、微笑ましそうに眺めていた。 ____  そうして、アレフとエルマとグラベリアの3人は、迷宮都市を後にした。  彼らの旅がどんな所へ向かうのか、そんな事はまだ、誰も知らない。  ここは剣と魔法の闊歩する世界、ウォーラン。  この世界はまだまだ、どこまでも広がっているのだから。

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