アラヒカ国滅亡記 一話

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ある王宮の一室にて、十数人の男女が円卓を囲みこんでいた。 その内の一人、最も煌びやかな装飾がほどこされた椅子に座る、四十歳程度の男が口を開く。 「それで、事故が起こった原因は掴めたのか? ゼグンメカルロ軍事大臣」 「……い、いえっ。い、未だに詳しい事故の原因は掴めていません。 す、数日前に事故の原因究明に向かわせた人達が失踪しましてっ!」 四十歳前後の男の問いに、三十歳前後に見える、横長の耳を持った男が答える。 その返答を聞いた男は苛立たしそうに円卓へ拳を叩きつけ、気弱そうな顔をした二十歳前後の、頭に獣耳が生えた男に話しかけた。 「ちっ……使えん奴め。 まぁいい、テニラキホット国政大臣よ、戦争のための国の財源はどうなっている?」 「そ、それは……。 一昨年の戦争、それと、軍の倉庫で起きた大火災のせいで失われた軍事用品などが大量に失われており、未だにこちらの軍には十分な数が配備されておりません」 「まあいい、税を引き上げて、その損失の穴埋めを行っておけ。 まったく、無能だったお前の父親を処刑して、その座にお前を据えてやったというのに……父親同様、貴様も無能か」 「あ、あの……すでに国民には重税を課しており、これ以上税を引き上げれば、ぼ、暴動が起こる可能性が──」 「そんなことはどうでもいい、俺の言うことが聞けんのか? ……ならば、お前も父親と同じ目に合わせるぞ?」 「ひ、ひぃっ!」 そう言ったまま、二十歳前後の獣耳の男性がうなだれて動かなくなる。 だが、そのことについて、周りの人が反応を示すことはなかった。 ──これが、現国王、コスタリア王の参加する会議では、いつもの出来事だからである。 と、ここで四十歳程度の男性──コスタリア王──が三十前半の、赤髪の男へ話しかける。 「まぁいい、次だ。 ウィリス、傭兵騎士団の隊長を任せたはずだが、それはどうなっている?」 「どう……といいますと?」 「傭兵は集まっているのか? という意味だ。 まさか、集まっていない……なんていうことはあるまい?」 「傭兵は、十分な数を集めることが出来ています。 後は、十分な物資と傭兵へ支払う賃金さえあれば、問題なく戦争へ投入することが可能です」 「そうな、ならいい。 お前のことだからな、問題はないと信じている」 「わかっていますよ、コスタリア様の期待にそえて見せます」 そして、その後は淡々と会議は進み、一時間ほど時間が経過した所で会議は終了し、円卓を囲みこんでいた面々はそれぞれの仕事場へと戻っていく。 と、そんな中で、二人の男性がこの一室に残ったまま、お互いがお互いに厳しい視線を送りあっていた。 「……ゼグンメカルト、少し残れと言ったが、用件は何だ? 俺としては、早く仕事を片付けたいんだが──」 「なぁ、ウィリスよ。 私は、お前がコスタリア王の遠い親戚だということを知っている。 ……その上で聞くが、お前はコスタリア王のことをどう思っているのだ?」 「どう……というと? しかし、お前が俺に話しかけてくるというのは珍しいな。 生憎だが、俺がコスタリア様に忠告したとしても、コスタリア様はそれを聞き入れないだろうな」 と、ここで耳長の男──ゼグンメカルト軍事大臣──が苛立ちながら口を開く。 だが、それより先に、赤髪の男は部屋の扉を潜り抜けていた。 結果として、耳長の男の口にしようとした言葉を、赤髪の男が聞くことはなかった。 ◇◇◇ まったく、俺は忙しいというのに、あのエルフの男──ゼグンメカルト軍事大臣──は何を考えているのだろうか? ──もっとも、たまたま今日は仕事が少なかったため、話を聴いたとしてもさほど問題はないのだが。 と、そんなことを考えながら王宮の廊下を歩き続けていると、ここ数ヶ月で見慣れた顔とすれ違った。 「グラベリア、なぜこんなところを歩いているんだ? それもメイドの姿で」 今、俺とすれ違った女性の姿は人とはかけ離れている。 頭には山羊の角、背中からは蝙蝠のような羽、腰からは矢印のような尻尾が生えている、明らかな亜人族の女性。 だが、どういうわけかメイドの制服が似合うのは、やはり美人だからなのだろうか? と、そんなことを考えているうちに、その凛とした表情の女性は、俺の方を向いて口を開く。 「傭兵騎士団の隊長様は、なぜこのようなところを歩いているのですか?」 「まぁ、臨時の会議があってな。 そんなお前は見たところ、第一皇女様のお世話か。 お前は長年あのろくでなし王に仕えているから、どうも気に入られているんだよな……まったく出世してるなよな、お前は」 「傭兵騎士団長様、口が過ぎていますよ。 これをコスタリア様に聞かれたら、どういう処分が下されるかはわかったものではありませんよ」 そう言った末、グラベリアは去っていく。 ……おそらく、あいつが向かったのは第一皇女の所だろう。 数年前から、コスタリア王から直々に「自分の娘を守ってくれ」的なことを言われてから、メイド姿で第一皇女の世話をし続けている。 ちなみに、グラベリアという女性は、長い期間この国に使えている関係で、それなりの地位にいる。 であれば、他のメイドに身の回りの世話はさせておいて、自分は暗殺者とかから守るだけしておけばよいのに……と思うが、どうやら個の趣味のようだし、俺が口出しすることではないだろう。 「さて、俺は仕事を片付けないとな……」 一代前の傭兵騎士団の団長は、あの国王──コスタリア王──に歯向かって処刑された。 結果、なし崩し的にまだ若い俺がその座に据えられてしまってから六年。 この国は戦争ばかりしているため──更にいえば、今やっている戦争がおこってから妙に事故が多く──俺の仕事は山済みだ。 だが、悪い気はしない。 あの王から俺は信頼されているし、仕事にやりがいはある。 すでに信頼できる部下もできたし、結婚できないこと以外は、充実した人生を送っている。 そんなことを考えながら、俺は王宮の一室にある、仕事部屋へと向かうのだった。
ある王宮の一室にて、十数人の男女が円卓を囲みこんでいた。 その内の一人、最も煌びやかな装飾がほどこされた椅子に座る、四十歳程度の男が口を開く。 「それで、事故が起こった原因は掴めたのか? ゼグンメカルロ軍事大臣」 「……い、いえっ。い、未だに詳しい事故の原因は掴めていません。 す、数日前に事故の原因究明に向かわせた人達が失踪しましてっ!」 四十歳前後の男の問いに、三十歳前後に見える、横長の耳を持った男が答える。 その返答を聞いた男は苛立たしそうに円卓へ拳を叩きつけ、気弱そうな顔をした二十歳前後の、頭に獣耳が生えた男に話しかけた。 「ちっ……使えん奴め。 まぁいい、テニラキホット国政大臣よ、戦争のための国の財源はどうなっている?」 「そ、それは……。 一昨年の戦争、それと、軍の倉庫で起きた大火災のせいで失われた軍事用品などが大量に失われており、未だにこちらの軍には十分な数が配備されておりません」 「まあいい、税を引き上げて、その損失の穴埋めを行っておけ。 まったく、無能だったお前の父親を処刑して、その座にお前を据えてやったというのに……父親同様、貴様も無能か」 「あ、あの……すでに国民には重税を課しており、これ以上税を引き上げれば、ぼ、暴動が起こる可能性が──」 「そんなことはどうでもいい、俺の言うことが聞けんのか? ……ならば、お前も父親と同じ目に合わせるぞ?」 「ひ、ひぃっ!」 そう言ったまま、二十歳前後の獣耳の男性がうなだれて動かなくなる。 だが、そのことについて、周りの人が反応を示すことはなかった。 ──これが、現国王、コスタリア王の参加する会議では、いつもの出来事だからである。 と、ここで四十歳程度の男性──コスタリア王──が三十前半の、赤髪の男へ話しかける。 「まぁいい、次だ。 ウィリス、傭兵騎士団の隊長を任せたはずだが、それはどうなっている?」 「どう……といいますと?」 「傭兵は集まっているのか? という意味だ。 まさか、集まっていない……なんていうことはあるまい?」 「傭兵は、十分な数を集めることが出来ています。 後は、十分な物資と傭兵へ支払う賃金さえあれば、問題なく戦争へ投入することが可能です」 「そうな、ならいい。 お前のことだからな、問題はないと信じている」 「わかっていますよ、コスタリア様の期待にそえて見せます」 そして、その後は淡々と会議は進み、一時間ほど時間が経過した所で会議は終了し、円卓を囲みこんでいた面々はそれぞれの仕事場へと戻っていく。 と、そんな中で、二人の男性がこの一室に残ったまま、お互いがお互いに厳しい視線を送りあっていた。 「……ゼグンメカルト、少し残れと言ったが、用件は何だ? 俺としては、早く仕事を片付けたいんだが──」 「なぁ、ウィリスよ。 私は、お前がコスタリア王の遠い親戚だということを知っている。 ……その上で聞くが、お前はコスタリア王のことをどう思っているのだ?」 「どう……というと? しかし、お前が俺に話しかけてくるというのは珍しいな。 生憎だが、俺がコスタリア様に忠告したとしても、コスタリア様はそれを聞き入れないだろうな」 と、ここで耳長の男──ゼグンメカルト軍事大臣──が苛立ちながら口を開く。 だが、それより先に、赤髪の男は部屋の扉を潜り抜けていた。 結果として、耳長の男の口にしようとした言葉を、赤髪の男が聞くことはなかった。 ◇◇◇ まったく、俺は忙しいというのに、あのエルフの男──ゼグンメカルト軍事大臣──は何を考えているのだろうか? ──もっとも、たまたま今日は仕事が少なかったため、話を聴いたとしてもさほど問題はないのだが。 と、そんなことを考えながら王宮の廊下を歩き続けていると、ここ数ヶ月で見慣れた顔とすれ違った。 「グラベリア、なぜこんなところを歩いているんだ? それもメイドの姿で」 今、俺とすれ違った女性の姿は人とはかけ離れている。 頭には山羊の角、背中からは蝙蝠のような羽、腰からは矢印のような尻尾が生えている、明らかな亜人族の女性。 だが、どういうわけかメイドの制服が似合うのは、やはり美人だからなのだろうか? と、そんなことを考えているうちに、その凛とした表情の女性は、俺の方を向いて口を開く。 「傭兵騎士団の隊長様は、なぜこのようなところを歩いているのですか?」 「まぁ、臨時の会議があってな。 そんなお前は見たところ、第一皇女様のお世話か。 お前は長年あのろくでなし王に仕えているから、どうも気に入られているんだよな……まったく出世してるなよな、お前は」 「傭兵騎士団長様、口が過ぎていますよ。 これをコスタリア様に聞かれたら、どういう処分が下されるかはわかったものではありませんよ」 そう言った末、グラベリアは去っていく。 ……おそらく、あいつが向かったのは第一皇女の所だろう。 数年前から、コスタリア王から直々に「自分の娘を守ってくれ」的なことを言われてから、メイド姿で第一皇女の世話をし続けている。 ちなみに、グラベリアという女性は、長い期間この国に使えている関係で、それなりの地位にいる。 であれば、他のメイドに身の回りの世話はさせておいて、自分は暗殺者とかから守るだけしておけばよいのに……と思うが、どうやら個の趣味のようだし、俺が口出しすることではないだろう。 「さて、俺は仕事を片付けないとな……」 一代前の傭兵騎士団の団長は、あの国王──コスタリア王──に歯向かって処刑された。 結果、なし崩し的にまだ若い俺がその座に据えられてしまってから六年。 この国は戦争ばかりしているため──更にいえば、今やっている戦争がおこってから妙に事故が多く──俺の仕事は山済みだ。 だが、悪い気はしない。 あの王から俺は信頼されているし、仕事にやりがいはある。 すでに信頼できる部下もできたし、結婚できないこと以外は、充実した人生を送っている。 そんなことを考えながら、俺は王宮の一室にある、仕事部屋へと向かうのだった。

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