アラヒカ国滅亡記 二話

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王宮の一室。 家具の色を黒で統一されたこの一室が、俺の仕事部屋だ。 一応、騎士団長という肩書きを持っているが、部下の鍛錬を見張る。などということはまったくない。 団員への稽古を付けるのはグラベリアとかいう魔族の女がやっているし、そもそも俺は感覚で物事を覚えるタイプなので、人にものを教えるのはあまり得意ではない。 そんな生活が数年続いたためか、かなり腕が衰えてしまった。 そのせいか、一部では無能と呼ばれたり、人に物事を押し付ける人、というイメージが定着しているようである。 ……もっとも、戦場に赴こうとする騎士団が立て続けに事故に巻き込まれてるのを見ると、これでよかった気がしないでもない。 「まったく……今日は数人の兵士が報酬を持って失踪……か」 格部隊からの報告書を確認しながら呟く。 最近、雇った傭兵が失踪することが多い。 見下げ果てた連中だ。 どうしても、傭兵というものは、国の正式な騎士と比べると信用に欠ける。 もっとも、戦争をするのであれば傭兵を雇うのは避けられない未知なので、いたし方ないのだが。 その後も、何枚かの重要書類を確認し、他の部署に提出する書類を作成していく。 と、その途中で、書類の束の中に怪しい報告書が混じっていることに気が付いた。 「傭兵の一人が、部隊に不審な動きをする男がいたと供述。捕まえて詳しく事情聴取をしようとしたが、血を吐いて死亡……か」 報告者は、先日魔物の群れに襲撃されて死んだと思われている傭兵団の体長格の男のようだ。 これが本当だとしたら、その男は何をやっていたのだろう? 他国のスパイだろうか? ……ありえない話ではない。 現在戦争中だ。 この国も相手の国に何人かスパイを送り込んでいるし、相手の国もこちらにスパイを送り込んでいるとしてもなんら不思議ではない。 だが、気になるのは何をやっているのかということだ。 最近起きている不審な事故が、このスパイによって引き起こされたことだとしたら、間違いなく複数犯だろう。 怪しいのは、戦争に備えて雇った傭兵団だ。 もっとも、こういうスパイを炙り出したりするための機関があるのだから、俺がそのスパイを見つけ出そうと躍起になる必要はまったくない。 桶は桶屋……ということだ。 その後、俺は何枚かの書類を片付け、その内の数枚を手に隣の部屋へと向かう。 「ウィリス団長……少し遅かったのではないですか?」 声を掛けてきたのは、ネコような獣耳を持つ獣族の女性だった。 基本的にこの部屋にいるこの女性は、一応、俺の秘書である。 「あぁ……少し書類に手間取った。 悪いが、この書類をスパイ対策の部隊と、格傭兵団の体長の方に届けておいてくれ」 「了解しました。ところで、連日酒場に出入りしているとグラベリアさんから聞かされましたが、本当ですか? 毎日毎日、酒の飲みすぎには気をつけろと注意していますよね? ウィリス団長は唯でさえ酒癖が悪いのですから、注意してください」 「まぁまぁ、怒るな怒るな。 戦争が起こっていて唯でさえ仕事が増えてるってのに、最近怪しい失踪事件とかが増えててさ、こっちも仕事の量が増えて酒でも飲まないとやってられないんだって。 じゃ、書類よろしく!」 秘書の子からの注意をなななあで済ませ、急いで部屋を出る。 「……しかし、これからどううするかね」 少し考え、このまま行き着けの酒場まで行くことにする。 明日は給料日だ。 酒に使う以外はなるべく節約しているので、店で一番高い酒を買ったとしても懐はさほど痛まない。 「はぁ……」 王宮を抜け、城下町を歩いていると、若い男女とすれ違った。 見たところ、彼氏と彼女の関係に見える。 どういうわけか、俺には昔から女運が無い。 気に入った女性と付き合おうとしても振られるばかりで、たまたま交際までたどり着いた女性も浪費癖などがひどく、関係は長続きしない。 さっき俺に酒を飲みすぎだと注意したあの獣族の秘書も、俺が交際を申し込むも断られた、数多い女性の一人だ。 確か、自分より酒が弱い男とは付き合わない……というのが理由だったはず。 別にそこまで酒に弱いわけではない。 むしろ、あの女の方が異常なのだ。 あの化け物の酒で勝てる男なんて、そうそう居るはずが無い。 下手をしたら、三十台まで結婚できない……いや、一生独身かもしれない。 美人なのに、もったいないことだ。 と、そんなことを考えているうちに、目的の店に到着した。 店の名前は『狐の酒場』。 この妙な名前の店は、大通りから少し離れた、裏路地にある隠れ家的なバーである。 その店の扉を開けると、店のカウンターの方から声を掛けられた。 「ウィリス……お主、また夜にもならないうちに着たのか。 まぁ、今誰も客がいなくて暇だったから別に構わないんだが……そうだ、毎日来てくれてるお主に感謝して、何か一つ酒をサービスしてやらんこともないぞ?」 そう言った女性の頭に生えるのは狐の耳。 おそらく店名に狐の文字があるのは、つまりそういうことだ。 と、そんなことを考えつつ、カウンターの近くの椅子に座ってどの酒を頼むか考える。 サービスしてくれるというので、安すぎず、かつこの店主に不快になられないレベルの酒をサービスしてもらうことにしよう。 「そうだな……サービスしてもらうのなら、どの酒にするかね」 「今日、いい酒が届いたんだ。 酒好きのドワーフが造ったラム酒だが……どうだ?」 「じゃ、それで頼む」 「よし、ちょっと待っていろ」 そういい残し、狐耳の店主が店の奥の厨房へ向かう。 そして、狐耳の店主が酒瓶を手にこちらに戻ってきた瞬間、店の扉が乱暴に開かれ、チンピラ、と表現する他ない男達が店の中に入ってくる。 「よーコリーナちゃーん。 今夜、俺達と楽しいことしよーぜー?」 「お断りだ」 下衆な表情で楽しいこと……といえば、何をしようとしているのか大体察しが付く。 今は戦時中で少々治安が悪くなっており、ここは美人の店主が経営している店……だとは言っても、このようなチンピラがここまであからさまな態度で店に入ってくるとは珍しい。 と、荒事になれた俺はそんなことを考えていたが、当の店主にとってはそうはいかないようだ。 よく見ると、頭についている狐耳が、少し震えているように見える。 と、その震えを見ていけると踏んだのか、チンピラ達は更に強気になって店主へと迫る――俺を差し置いて。 「ほらほら、こんな弱っちい男なんて放っておいて、俺達と楽しいことしようじゃないか。 ちょっと店の裏まで来てもらうぜ」 そう言い、指をポキポキと鳴らしながら近づいてくるチンピラ達を見て、狐耳店主──コリーナさん──がすがるような目でこちらへと視線を移す。 「あぁ、ちょっと待ってろ」 椅子に座ったまま右腕をチンピラの一人へと向け、右腕に装着した腕輪へと魔力を流し込み――男の体が吹き飛ばされる。 「痛ってぇ! くそっ、こいつ弱そうな見た目の癖して魔術を使いやがる。 お前ら、こいつを取り押さえやがれ!」 痛みに顔を歪ませながら、チンピラは残る二人に向けて叫び散らす。 「うっす、兄貴」 「あぁ、覚悟しとけよ、おっさん」 まったく、舐められたものだ。 腕は衰えたが、それでも王国の騎士団の団長をやっているこの俺に勝てるとでも思っているのだろうか。 ……もっとも、こいつらがそんなことを知っているはずがないのだが。 再度、腕に装着している腕輪に魔力をこめ、魔術が発動する。 すると、魔術によって生成された風の弾丸を腹に叩き込まれ、俺に迫ってきた二人のチンピラの片方が吹き飛ばされる。 そして、もう片方のチンピラのパンチを椅子に座ったまま素手で受け止め、がら空きになった腹に拳を叩き込む。 結果、チンピラはあっさりと地面に倒れ伏した。 と、それを見た狐耳店主が口を開く。 「すまない、お主がいなかったら危なかったよ。ありがとう」 「あぁ、いいってことよ。今度はツマミでもサービスしてもらうかな」 「あ、あぁ……大丈夫だ。それくらいはさせてくれ」 礼を言ってきた店主に軽口を叩き、椅子から立ち上がって、可能な限り威圧しながらチンピラ達を睨み付ける。 「あ、あぁ、す、すまない。これ以上はこの店の店主に手を出さない。だ、だから……見逃してくれっ!」 「本当に、この店の店主には手を出さないんだな?」 「あ、あぁ、約束する。だ、だから見逃してくれ。 ず、ずらかるぞ、お前ら!」 最初に魔術で吹き飛ばしたチンピラがそう言うと残る二人の男も立ち上がり、予想外の速度でこの店から逃げ出していった。 「少し怖かったよ……それで、お主よ。酒のツマミは何がいいんだ? 今日は炒めたナッツがおすすめだが」 「じゃ、それで」 「……はい。どうぞ」 やはり怖かったのだろうか。 頭の狐耳がふにゃんと萎れているように見える。 と、そんなことを考えながら炒めたナッツとコップに注がれたラム酒を口に運ぶと、狐耳店主が口を開く。 「ところで、さっきあれを吹き飛ばしたのって魔術だろう。 お主は魔術も使えるのか?」 「いや、この腕輪に魔術式……まぁわかりやすく言えば魔術を発動させる術式が刻まれていて、それに魔力ってのを流し込むことで、魔術を発動させることができるんだ。 けっこう高いから、冒険者でも持っている人は少ないだろうな」 「ほう、そんなものがあるのか。 どれ、ちょっと触らせてくれんかの?」 「あ、あぁ」 狐耳店主に腕をとられ、腕輪を指でつつかれる。 「うーむ、この刻印がマジュツシキなるものなのか。少し手にとってよく見てみたいのだが」 「高いから、丁寧に扱ってくれよ」 腕から腕輪をはずし、狐耳店主にこれを渡してナッツを口に含んでから、それをラム酒で押し流す。 うん、美味い。 この一杯のために生きているようなものだ。 その後、店主と他愛ない話をしながら酒をチビチビと飲み続けいくつか別の酒も頼み、それも飲み干したころには外は夕暮れに染まってきた。 もうそろそろ、別の客がくるころだろう。 「美味かった。またくる。もうそろそろ帰ることにするよ」 「あぁ、また来てくれ。これを忘れるでないぞ」 「おっと、忘れるところだった。悪いな。 そういえば――」 「そういえば、なんじゃ?」 「コリーナ。 これから、戦争は激しくなってくる。そうしたら、この店にはしばらく来れないかもしれない。 それでだ、もし、この戦争が終わって、生きて帰ることが出来たら──」 「む、これ以上は言うでない。そんなことを言った物語の主人公は皆死んでおるのだぞ? これから戦場に行くかも知れぬというのに、そのような不吉なことは言うでない。 その続きは、お主が戦場から生きて帰って来た時に聞くことにするさ。楽しみにしておるからな?」 狐耳の店主はニヤリと顔を歪め、ビシビシと俺の叩きながらそう言った。 「……あぁ、わかったよ。 戦場から帰ったら、この続きを言うことにするさ」 「おう、待っておるから、必ず生きて帰れよ」 「あぁ、じゃあな」 酒の代金を渡し、ニヤニヤと俺の顔を見てくる常連のおっさんとすれ違いながら店を出る。 そして、酔いをさますために風にでも当たろうと裏路地を適当に歩いていると、目の前を変な格好をした男が立ちふさがってきた。 「……悪いな、そこを通してくれ」 「……」 男は何も答えない。 その男の立ち姿は一見、隙だらけに見える。 だが、間違いなく。こちらを切ろうとしているのがわかった。 こうして相手を油断させて切り伏せるような手を使う奴は、ろくなやつではない。 そんなことを考えながら、右腕にはめた魔道具の腕輪に魔力を流そうとした瞬間だった。 この男が動いたのは――

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