アレフの迷宮挑戦録 1話


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 少年の前には、洞窟の入口があった。

 その洞窟は、光源もないのに不気味に光り、そして禍々しい気配のようなものを放っている。
 普通の人ならばまず、こんな洞窟に入りたいとは思わないだろう。

「よし、やるぞ……!」

 しかし、その少年は自らを奮い立たせ、洞窟の中へと入ってゆくのだった。


____


 ここは剣と魔法の闊歩する世界、ウォーラン。

 ウォーランの地下深くには、特殊なエネルギーが流れている。
 そのエネルギーの流れは、龍脈と呼ばれている。
 そしてウォーランの地下には、その龍脈の影響で定期的に地殻変動が起き、あちこちで広大な地下洞窟が出来ている。
 その地下洞窟は、迷宮と呼ばれれている。

 迷宮には、龍脈エネルギーの力で活性化した、凶暴なモンスターが蔓延っている。
 また迷宮の最奥には、龍脈エネルギーの力を一身に浴び変異した、守護者と呼ばれるモンスターが生息している。
 そしてその守護者のモンスターは、龍脈エネルギーの結晶である、クリスタルというものを体内に宿している。
 そのクリスタルには莫大な価値があり、とても高い値段で取引される。

 迷宮の中には凶暴モンスターが蔓延っているので、常に死と隣り合わせの場所になっている。
 しかしそれでも、そんなクリスタルを手に入れる事を夢見て、迷宮に潜るものは後を絶えない。


「うう、やっぱり洞窟の中は寒いな……」

 そしてこの少年、アレフもまた、そんな迷宮に挑戦しに来た者の一人だった。


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 アレフは、迷宮の中をおどおどとしながら歩く。

「モ、モンスターだ……!」

 そしてしばらく歩くと、ダンジョンの中に巣食うモンスターへと出くわした。

 そのモンスターはスライム状の姿をしており、うねうねと小さく動きながら、アレフの動きを警戒している。

「や、やるぞ……!」

 アレフは持っていた剣を振り回し、スライム型モンスターへと攻撃する。
 しかし、弾力のある感触でアレフの攻撃は弾かれる。

「このっ……」

 しかし、アレフは手を緩める事なく何度も切りつける。

「やった!」

 そして何度も切りつけられたモンスターは、やがて生命力のようなものを失い、そのまま真っ二つに両断されたのだった。


「ダンジョンのモンスターって言っても、案外たいした事ないんだな……。
 これなら僕の村の近くに湧いてくるモンスターの方が強かったかも」

 その戦闘で自信を獲得したアレフは、少しだけ緊張を解いて、そのまま迷宮の先へと向かう。


____


 スライムを切って倒して、スライムを切って倒して、アレフは先へと進んでいく。

 「しかし、道が入り組んでるな……。ちゃんと帰り道を忘れないようにしないと」

 そんな事を呟いていると、アレフの前に、またモンスターが現れた。
 そのモンスターは、トカゲのような姿をしていた。

「うりゃっ!」

 アレフは、先ほどと同じように剣で切りつける。

「あ、あれ……?」

 しかしスライムの時とは違い、トカゲ型モンスターは素早く動き回り、その攻撃を避けてしまった。

「この……っ」

 アレフは何度も攻撃を加えるが、なかなか攻撃を当てる事が出来ない。

 そして、トカゲ型モンスターは隙を見て、アレフの体へと飛び移った。

「うわっ!」

 トカゲ型モンスターは、アレフの体にしがみつき、そして噛み付く。

「痛っ……」

 アレフは、なんとかそのモンスターを引き剥がす。

「な、なんで……? さっきのスライムは楽勝だったのに……!」

「キシャーー!!」

 トカゲ型モンスターは鳴き声をあげて、再びアレフの体へと飛びついてこようとする。
 その鳴き声に威圧されたアレフは、パニック状態へと陥ってしまった。

「に、逃げなきゃ……」

 アレフはそのモンスターに背を向け、そして足を絡ませながらも、必死にその場から逃げ出したのだった。


 しばらく走った後、アレフは振り返る。
 気が付けばそこにはもう、とっくにモンスターの姿はなかった。

 安全を確認出来たアレフは、一息を付く。
 そして冷静さを取り戻した後、自己嫌悪する。

「何やってるんだ僕は……。
 確かに攻撃は当たらなかったけれど、よく考えたら向こうの噛み付き攻撃も、そんなに効いてなかったじゃないか……。
 冷静に対処すればなんとかなったかもしれなかったのに……」

 アレフは自己嫌悪を続けながら、周りを見渡す。

「あ、あれ……? ここ、どこだっけ……?」

 そしてアレフは気が付けば、自分のいる位置がどこなのか、分からなくなってしまっていた。


____


「確かこっちの道から来たと思うんだけど……」

 そんな事を呟きつつ、アレフは歩き続けた。

 そして、しばらく歩き続けたあと。

「ギャオオオ!!!」 

 さっきのトカゲ型モンスターよりも更に一回り大きな、狼型のモンスターと遭遇していた。


「こ、今度は逃げないぞ……」

 アレフは持っていた剣を構えて、モンスターとの戦闘を始める。

 狼型モンスターは、トカゲ型モンスターよりも更に素早く、そして力強かった。
 アレフはパニックにこそなる事はなく、狼の素早い動きを剣で捌いていくが、少しづつ追い詰められていく。

 「ぐあっ……!」

 やがてアレフは、狼型モンスターの攻撃をまともに受けてしまった。

 アレフは衝撃で吹き飛ばされ、そして地面へと倒れる。
 そして倒れ伏すアレフを見て、狼型モンスターは一気に距離を詰めてくる。

 やられる。
 そう思った時、アレフの背後から、ふっと人影が現れた。
 そして現れた人影は、狼型モンスターに簡単に剣を当て、嘘のように簡単に倒してしまったのだった。


「あ……」

 目の前の展開にあっけに取られながらも、アレフはその人影を確かめる。
 その人物は、少女だった。
 何故迷宮にこんな少女がいるのだろうか。
 アレフは思わず、そんな事を思ってしまう。
 そのくらい、その少女は綺麗な姿をしていた。

「あ、あの、ありがとうございます……」

 アレフは自分が助けられた事をはっと思い出し、そして目の前の少女へと礼を言う。

「あんたっ、何やってんの!?」

「えっ……」 

 そしてその少女から返ってきた言葉は、激しい怒りなのだった。


「そんな実力で、ここのモンスターに勝てる訳ないじゃないのっ!」

 アレフは、少し遅れて自分が叱られている事を理解する。
 そして、ついとっさに目の前の少女へと反論する。

「で、でもっ、入口辺りのモンスターには勝てたんだよ!
 それなのに奥に行ったら、急にモンスターが強くなって……」

 その言葉を聞いた少女は、怒るのをやめて、代わりに疑問をぶつける。

「もしかしてあんた、迷宮は奥に行くほど強いモンスターがいるんだって知らなかったの……?」

「え、そうだったの……?」

 きょとんとするアレフに、少女は本当に知らなかったのだと確信し、はぁ……とため息を付く。

「いい? 迷宮にいるモンスターっていうのはね、龍脈エネルギーの影響で活性化しているの。
 そして龍脈エネルギーは地下を流れていて、迷宮は地下深くへと続いている。
 だから迷宮っていうものは、奥に進む程出てくるモンスターも強くなるものなのよ」

「そうだったんだ……」

アレフは素直に、少女の知識に関心する。

「はぁ、もういいわ……」

 そして少女は、そんなアレフの態度にすっかり毒気を抜かれていた。

「あんた、名前は?」

「アレフだけど」

「あたしはエルマよ。
 なんであんたみたいなのが迷宮に来たのかは知らないけど、こんなに奥まで来て、もう一人だと帰れないでしょ。
 このまま見殺しにするのも後味悪いし、出口まで付き添ってあげるわ」

 エルマはそう言って、そしてアレフの前を歩き始める。
 口はキツいけれど悪い人じゃないみたい。アレフはそんな事を思っていた。


____


「あんた、なんで迷宮に来たの?」

 2人で迷宮の出口へと向かって歩いている途中、エルマはアレフへと話しかける。

「えっと、それは……」

 アレフは言いたくなくて、一瞬言葉に詰まる。
 けれどエルマのプレッシャーに押されて、素直に本当の事を話す。

「その、自分を変えたくて……」

「自分を変えたい、か……」

 エルマは少しだけ考え込むようにして、それ以上は何も言わなかった。


 そしてまた、2人の間に沈黙が流れる。

「えっと、バカにしないの……?」

 アレフはその沈黙に耐えられず、おそるおそるそんな事を聞く。

「はあ? なんでよ!」

 エルマはむしろその発言が癪に触ったらしく、アレフへと再び怒る。

「だって僕、村でこんな事言うといつも笑われてたから……」

 アレフはそう言って、そして自分が村にいた頃を思い出し、俯く。

「自分を変えたい気持ちの何が悪いの?
 そんな奴ら、笑いたいなら笑わせとけばいいのよ」

 しかしエルマは、そんなアレフに対して、ただそんな事を言い放つ。

 かっこいいなぁ。
 アレフはエルマの後ろ姿を見ながら、そんな事を思っていた。



「あ、モンスターだっ!」

 そしてまた少し進むと、アレフが逃げ出してしまったのと同じ、トカゲ型モンスターが2人の前へと現れていた。

「下がってて」

 エルマはそれだけを言うと、モンスターに向かって剣を構える。

 トカゲ型モンスターは、勢いよくエルマへと飛びかかってくる。
 エルマは体を少しだけ動かして、トカゲ型モンスターの動きに合わせる形で剣を振り抜く。
 すると、剣は簡単にトカゲ型モンスターへと当たり、トカゲ型モンスターを一刀両断した。

 アレフが一撃すら浴びせられなかったそのモンスターは、そんなやりとりだけで、簡単に倒れてしまったのだった。


「やっぱり凄いな……」

 後ろで見守っていたアレフは、そんな感想を零す。
 エルマの背丈はアレフと同じくらいで、年齢も同じくらいに見える。
 だからこそアレフは、そんなエルマが自分より圧倒的に強いのを見て、感心していた。

「あんた、自分を変えたいって気持ちは悪い事じゃないと思うけど、もう少し鍛えてから迷宮に挑んだ方がいいと思うわよ」

「うん、そうかもしれない……」

 そしてアレフは、自分の無力さに落ち込んでいた。