アレフの迷宮挑戦録 3話


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 それからアレフとエルマは、宿に泊まって1日休んだ。
 そして次の日の朝、さっそくエルマはアレフを、街の外へと呼び出していたのだった。

「さて、これから迷宮だね」

「何言ってんのあんた?」

「えっ、迷宮に行くんじゃないの?」

「あんたね……今のまま行ってもあたしの足を引っ張るだけじゃない」

「え……、じゃあなんで僕とパーティを組んだの?」

「今のままのあんたじゃ駄目って事よ。
 けれどあんたには潜在能力がある、だからそれを使いこなせるように、あたしが修行してあげるのよ」

「え、修行してくれるの?」

「嫌なら帰ってもいいのよ」

「そんな訳ないよ! ありがとうエルマ!」

「……言っとくけど、弱音を吐くようだったり、やっぱり見込みがないと感じるようだったら、直ぐ打ち切らせて貰うから」

 こうしてアレフは、エルマと修行をする事になった。


____


「まずあんたは、魔術に付いてどれくらい知ってるの?」

「えっと、火とか水とか出せるんだよね」

「いやまあそうなんだけれど、もっと具体的な事よ」

「具体的……?」

 アレフは頭を傾げる。

「はぁ……。分かった、1から説明してあげるわよ」

 そしてエルマはアレフへと、解説を始めるの。

「魔術ってのは簡単に言えば、魔力を使って現象を起こす術の事よ。
 人の魂には、魔力っていう力が溜まっているの。
 そしてその魔力を水とか火とかに変換して体の外に放つ事を、魔術を使うって言うのよ。
 流石にこれくらいは分かるわよね?」

「うん、まあそれくらいは……」

「じゃあ次ね。
 魔術を使う為には、自分の中にある魔力を水や火などに変換する必要があるわ。
 それをする為にどんな事をすればいいのか、それは分かる?」

「イメージをする事、だよね」

「そう。例えば水の魔術を使うのならば、自分の魔力を水に変換するイメージをしながら、魔力を外に出せばいいの。
 そしてこの魔術を使う為のイメージの事を、魔術式と呼ぶわ。
 じゃあアレフ、魔術式を誰でも簡単に構築する為には、どうすればいいか分かる?」

「えっと、詠唱をするんだよね」

「そう、詠唱。
 水の魔術を使う時は、水に関連する呪文を唱えて、それでイメージを固めるの。
 じゃあどうして詠唱をすればイメージが固まるのか、それは分かる?」

「言葉で喋れば、集中出来るからでしょ?」

「半分正解で半分不正解。
 確かに、言葉で喋れば集中出来るというというものあるわ。けれどそれだけじゃないの。
 この世界には、言霊っていう言葉に宿る精霊がいるのよ。
 そして正しい呪文を唱えれば、その言霊の力を借りられるから、誰でも正確なイメージが出来て魔術式を構築する事が出来るのよ」

「そうだったんだ……」

 自分が何時も何気なく唱えていた呪文にそんな効果があったのだと、そんな事をアレフは初めて知り、そしてエルマの解説に関心していた。

「次に行くわよ。
 魔術には、人によって得て不得手があるものなの。
 例えば火の魔術を使うのが得意だけれど水の魔術を使うのが苦手な人もいれば、火も水もさっぱりだけれど氷の魔術だけは凄く得意な人もいるわ。
 これはどうしてか、分かる?」

「どうしてもこうしても、そういうものだからじゃないの……?」

 アレフは、人によって得意な魔術と苦手な魔術がある事は知っていたが、その事について深く考えた事などはなかった。

「不正解。
 魔術式を構築する力っていうのは、イメージの力なの。
 例えば、川に近い所で生まれた人などは、水へのイメージが強いから水の魔術式を構築するのが得意になって、その結果水の魔術を使うのが得意になったりするわ。
そしてその逆もしかりで、小さな頃に火で大火傷をした事がある人とかは、火に対して潜在的な恐怖を抱いてしまっているから火をイメージするのが苦手になってしまっていて、その結果火の魔術式を上手く作れなくなったりするの。
 だから、人は魔術の性質によって得て不得手があるのよ。分かった?」

「そうだったんだ……」

「次に行くわよ。
 魔術は、その魔術が起こす現象によって、それぞれが属性として区分されているわ。
 水を起こす系統の魔術だったら水属性。火を起こす系統の魔術だったら火属性、みたいな感じにね。
 そして火と水と風と土の4つの属性が、基本の属性だと言われていて、大抵の人はこの4つの内のどれかの魔術を使っているわ。
 氷とか雷みたいな属性もあるけれど、そういうの使っている人は稀ね。
 魔術は基本的には、魔術師や錬金術師みたいな魔力を研究している人が呪文を考えて、そして開発された呪文をみんなで共有する事で、使えるようになっていくものなの。
 だからマイナーな属性になるほど、研究をしている人が少なくなるから、極めようとするのも難しくなるのよ。
 例えば、重力の属性の魔術があるんだけれど、これはあまりにも使える人が少なすぎて全く研究がされていないから、重力属性の魔術の呪文はあたしでも聞いたことがないわ」

「そうなんだ……」

 自分が全く知らないような事を平然と解説するエルマに、アレフは改めて尊敬の念を抱く。

「魔術を使う為の方法っていうのもまた幾つかあって、基本である呪文を唱える方法の他にも、無詠唱で脳内だけで魔術式を構築してしまうっていう方法と、魔道具を使うっていう方法があるんだけれど……。
 まあ、これはあんたには関係ないから置いておくわ」

「え? どうして関係ないの?」

エルマは軽く流そうとしたが、アレフは疑問に思い質問をする。

「まあ、一応説明だけはしといてあげる。
 世の中には、魔道具っていう魔術式が書かれた道具があるの。
 これを使えばただ魔力を込めるだけで魔術を使えるんだけれど、魔道具に書かれた魔術しか使えないから、基本的には本格的な魔術師が使うものじゃないのよ。だから魔道具を使うのは除外。
 そして無詠唱は、出来れば色々と便利なんだけれど、言霊の力を借りずに魔術式を構築するってのは凄く難しくて、才能もいるし一夕一丁で身につくものでもないの。だから無詠唱も除外。
 だからあんたにはとりあえず、普通の詠唱方式の魔術を学んで貰うわ」

「あ、でも……」

「何よ?」

「その、僕お金持ってないから、魔術書が買えなくて……」

 魔術の呪文とは、魔術書を見ることによって覚える。
 しかしアレフには、それを買う為のお金がなかった。
 魔術書は高価なもので、アレフのように魔術を学びたいが魔術書を買うお金がないというような事も、この世界ではよくある事なのだ。

「魔術書くらい、あたしが持ってるのを貸したげるわよ」

「え、い、いいの……!?」

 アレフにとって、魔術書とは憧れても手が届かないものの一つだった。

「あたしが修行を付けるって言ったんだから、そのくらい当然じゃない」

「あ、あ、ありがとう!! エルマ……!!」

 今のアレフには、尊敬と感謝の気持ちが混じり合って、エルマが輝いて見えていた。

「べ、別に礼なんかいいわよっ……」

 そしてここまでの好意を人にあまり向けられた事がないエルマは、そんなアレフに少しだけたじろいていた。


「こほんっ……。
 まあ、説明する事は大体そのくらいね。
 あんたには魔力量だけはあるから、これから、その魔力量を活かせるようになる為の修行を二つさせて貰うわ。
 一つは、あたしが持ってる魔道書を読んで、その量だけはある魔力量を活かせるような魔術をちゃんと覚え事。
 そしてもう一つは、実戦で魔術を使える為の修行をする事よ」

「実戦で魔術を使う為には、相手の動きに対応しながら正確に呪文を唱える必要があって、これはまた専用の訓練がいるのよ。
 だからあんたには、あたしが加える攻撃に対応しながら呪文を唱えるっていう、そんな修行もして貰うわ」

「そっか……、よろしくね、エルマ!」

 アレフは、これからエルマに修行をして貰えるという事に改めて感動していた。

「言っとくけど、生半可なプレッシャーじゃ意味ないし、思いっきり妨害させて貰うからね」

 エルマは、自分に感謝をするアレフからまた少し目線を逸らしつつ、そんな釘を刺していた。


____


 宣言通り、エルマの修行には容赦はなかった。
 エルマは絶妙なタイミングでアレフへと何度も攻撃を加える。
 アレフは、詠唱に集中しすぎて少しでもエルマから気を逸らせば攻撃されて、そしてエルマの動きに集中し過ぎて魔術式の構築がおろそかになる度にも、エルマから攻撃された。
 そうしてアレフは、エルマにひたすら木刀で滅多打ちにされ、正午になった頃には打ち傷だらけになっていた。

「そろそろ一旦休憩にしましょう」

 エルマがそう言って、そして一旦修行が打ち切られる。

「うう、痛い……」

 やっと休憩時間になり、アレフはその場に倒れこむ。

 そしてそんなアレフの元に、近寄ってくる人影があった。 

 その人影は、頭に山羊の角、背中に蝙蝠の羽、腰から矢印のような尻尾が生えていて、まるで悪魔のような姿をしている。
 そしてそれ以上に特徴的なのは、そんな悪魔のような人影は、綺麗な女性の姿をしていて、しかもメイド服を着こなしていた。

「大丈夫ですか、アレフ様」

「な、なんとか……」

 傷付いたアレフは、その角と羽と尻尾が生えていてメイド服を着ている女性に介抱される。

「グラベリア、それも修行なんだから一々気を使わなくてもいいわよ。それより昼食は出来た?」

「はい、出来ましたよ」

 そういってグラベリアは、持ってきたカゴを差し出す。
 その中には、丁寧に作られた食事が入っていた。
 アレフはその食事を、一口手に取って食べる。

「お、美味しい……」

「当たり前よ、グラベリアが作ったんだから」

 エルマは当然といったように、そんな事を言う。
 そんなエルマの仕草は、エルマとグラベリアの間にある、確固たる信頼関係を感じさせていた。


 グラベリアは、エルマのメイドだ。

 アレフは昨日、パーティを組むという事で、エルマと同じ宿に泊まる事になった。
 そして、グラベリアはエルマの泊まっている宿で待機していたので、アレフはその時にグラベリアと知り合っていたのだった。


 少しだけ元気を取り戻したアレフは、エルマへと話しかける。

「それにしても、エルマにメイドがいるなんて驚いたよ。
 エルマってもしかして、貴族とかだったりするの?」

 メイドと言えば貴族、そんな先入観でアレフはエルマへと質問する。

「まあ、貴族って言えば貴族ね」

 エルマはあっけからんと、そんな事を答える。

「ええ、本当にそうなの!? じゃあ凄く偉い人じゃないか!
 それなのにどうして、迷宮なんかに行ってるの?」

「そ、それは……」

 エルマは少しだけ言葉に詰まる。

「お嬢様にも、色々あるのですよ」

 そして代わりにグラベリアが、はぐらかすようにそんな事だけを答える。

 もしかして、あんまり詮索したら駄目な事なのかな……。
 そんな事を思ったアレフは、聞きたい気持ちはあったが、それ以上その話題を続けるのはやめておく事にしたのだった。


「あと、それともう一つ、ずっと気になってた事があったんだけど……」

 アレフは、グラベリアの背中に生えた、メイド服にはあまりに不釣り合いな、悪魔のような羽や尻尾を見ながら言う。

「グラベリアって、その、グランワイト人だよね」

「ええ、そうですよ」

 グランワイト人とは、山羊の角と蝙蝠の羽と矢印状の尻尾を持つ亜人族だ。

「グランワイト人なのに、どうしてエルマのメイドをしてるの?」

 グランワイト人と言えば、種族全員が戦争民族であり、戦いを何よりの喜びとする。
 そんな事が、アレフの中にあるグランワイト人の知識だった。
 しかし目の前にいるメイド服を来た女性は、アレフの知識からは明らかに外れた雰囲気を纏っている。

「アレフ様は私の国に付いて、どのくらいの事をご存知なのですか?」

「えっと、グランワイト人っていう戦いが好きな人たちが住んでる場所だっていう事を知ってるくらいで、後は特には……」

「じゃあまずは、そこから説明致しますね。
 私の国、古王国グランワイトは、厳しい山脈地帯にあるせいで国が貧しいのです。
 けれどその代わり、私たちグランワイト人は生まれつき体が強く、また土地には沢山のモンスターが住んでいて国民の殆どがモンスター討伐に参加させられている為、戦闘能力だけは高いのです。
 だから私達グランワイト人は、国の中で農作業などをして過ごす人も勿論いますが、傭兵として外資を稼ぎに出る人も多いのですよ。
 私達が戦闘民族だという認識は、だいたいその辺りから来ているのでしょうね」

「そして私もまた、国の外に出て傭兵として働いていた者の一人だったのです。
 最初は国が運営する傭兵騎士団に所属して、そこから斡旋される仕事だけをやっていたのですが、エルマお嬢様の家に仕えることになった時に、エルマお嬢様の家に愛着が湧いてしまいまして。
 そして何年もエルマお嬢様の家に仕えている内に、気が付けばすっかり、私はお嬢様の家に居ついてしまったのですよ」

「そうなんだ……」

 アレフは一瞬納得しかけたが、まだ一つ疑問があることに気が付く。

「あれ、でもそれじゃ、グラベリアは傭兵としてエルマの家に仕えているんだよね? それなのにどうしてメイドをしてるの?」

「ああ、これは趣味です」

「趣味!?」

 驚くアレフに、エルマが解説を挟む。

「グラベリアがあたしの家に仕えている時に、ついでに身の回りの世話もさせてたの。
 そうしたらなんか、楽しさに目覚めちゃったらしくて……」

「ええ。メイドのお仕事をするって、とっても楽しいですよ」

「グラベリア、あんたの祖国の人が今のあんたの姿を見たら、滅茶苦茶驚くと思うわよ……」

 そんな事を言うエルマに、グラベリアは口に手を当てて優雅に笑う。

 悪魔のような格好をしているのに、穏やかそうな美人で、メイド服が似合う、とても奇妙な人。
 アレフはグラベリアへと、そんな印象を抱いていた。


____


 そしてそんな日々が、10日ほど続いた。
 たった10日ほどの時間だったが、既に基礎は出来ていたアレフの飲み込みは早く、見違えるように成長していた。

 昼まで修行して、そして昼になったらグラベリアが作ってくれた昼食を3人で食べる。

「そういえば、あんたって今何歳なの」

「14歳だけど」

「じゃああたしの方が一つ年上ね、あたし15歳だから」

 少しだけ誇らしそうに、エルマがそんな事を言う。
 エルマは見栄っ張りで、人の優位に立っている事が好きならしい。
そしてそのための努力も決して怠らない。
 アレフを修行している間も、エルマも毎日ずっと修行を続けているのだ。
 この頃になるとアレフもすっかり、エルマの性格を把握出来るようになっていた。

「グラベリアは何歳なの?」

 外見からして、だいたい20代後半くらいだろうか。
 そんな事を思いながら、アレフはグラベリアへと質問する。

「アレフ様、女性に年を尋ねるのは失礼ですよ」

 グラベリアは、ニッコリと笑いながらそんな事を答える。

「あ、ご、ごめんなさい……」 

 アレフは思わず謝るが、グラベリアは気にした様子はなく話を続ける。

「冗談ですよ。私は62歳です」

「へー。ってえ!? 62!?」

 あまりにも予想外な答えにアレフは衝撃を受ける。
 エルマがアレフへと解説をしてくれる。

「グランワイト族は戦闘民族だから、年をとっても姿は若いままなのよ」 

「へー……」

「こう見えても私、結構おばあちゃんなんですよー」

 上品に笑いながら、グラベリアはそんな事を言う。
 ますます奇妙な人だなと、アレフはそんな事を思うのだった。


____


 その日の午後も、アレフは何時も通りに、戦いながら呪文を唱える練習をする。
 初日の頃は全く上手く出来なかったアレフだったが、エルマの指導と本人のひたむきな努力によって、かなり実践的な動きを出来るようになるまで成長していた。

 「はっ!」

 エルマがアレフに向かって、木刀を縦に振る。
 アレフは呪文を完璧に唱え続けながら、同時に手を動かし、自分の持っていた木刀でエルマの木刀を受ける。
 そしてそのまま、水属性の魔術による水流弾を思いっきりエルマに向かって放つ。

「っ……!」

 エルマはそれを避ける事が出来ずに、正面からまともに受けてしまう。
 アレフはついに、魔術をエルマへと打ち込む事へと成功していた。

「だ、大丈……」

 アレフはとっさに、エルマの体を心配する。
 しかしエルマは直ぐに体制を立て直す。
 そして、再びアレフへと追撃を加える。
 完全に不意をつかれたアレフは、そのまま木刀で叩き伏せられ地面に倒れる。
 エルマはそのままアレフの上に馬乗りになって、木刀をアレフの首元へと突きつける。

「戦ってる時は油断しない。やったと思った時が危ないの」

「ごめんなさい……」

「それとあたしは、人に心配されるとムカつく性格なの」

「ご、ごめんなさい……」

 言いたいことを言ったエルマは、そのままアレフの上からどく。

「けれど、さっきの一撃はよかったわ。……そろそろかしらね」

 そしてエルマは、木刀を構える事はせずに、服に付いた泥を軽く叩いて落とし始める。

「あれ、続きは?」

 まだまだ修行する気まんまんだったアレフは、毒気を抜かれながら疑問に思う。

「とりあえず基礎的な事はこれで大丈夫だと思うわ。明日からは、もう実戦に行って貰うから」

「……? 実戦って?」

「あんたは、あたしと迷宮に行くために修行してたんでしょうが……っ!」

「あ、そっか」

 エルマとの修行が楽しくてすっかり迷宮の事を忘れていたアレフは、やっと本来の目的を思い出していた。

「しかし結構厳しくしたつもりだったんだれど、よく弱音の一つも吐かずに付いて来たわね。あんたやっぱり根性だけはあるわ」

「確かに大変だったけど、でも楽しかったからね」

「え、楽しかった……?」

「うん、楽しかったよ」

「1日に1度は気絶して、3日に1度は筋肉痛で動けなくなってたのに?」

「うん。ありがとエルマ、修行に付き合ってくれて」

 屈託のない笑顔で、アレフはエルマへと感謝の言葉を述べる。

「さっきの言葉は訂正。あんたは根性あるとかじゃなくて、ただバカなだけなのね……」

 言葉こそトゲトゲしいが、エルマの言動の節には、そんなアレフを認めているものがあったのだった。