ぼくらはなぜ本を出せたか? ~コケないプロジェクトとは :一色靖
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口はばったい事を書くのは非常に恥ずかしいのですが、「本なんか簡単に出るんだなあ」というような大きな勘違いをされると、いざその人がこの手のプロジェクトに加わることになったときにかなり困ると思うので、老婆心を思いっきり絞り出して書くことにします。意図的に多少、厳しい側にバイアスをかけて書きます。今回、第八回文学フリマにSSE本を出せたのは、あらゆる要素が何から何までうまくいった結果なのです。運も味方してくれました。
ぼくは仕事で、いくつものプロジェクトをひとりの部下として経験してきました。三年間で予算六千万円というような大型プロジェクトに取り組んだこともあります。どれ一つコケたことはありません。当たり前です。コケると首が飛ぶからです。そんな目に遭いたくないので真剣にもなるというものです。
何人ものリーダーを見てきましたが、それぞれタイプは違っていても、共通するものがありました。「どうやったらコケるかを知っている」という点です。他山の石という言葉がありますが、よそでプロジェクトをコカして詰め腹を切らされた人を大勢見てきたからですね。
ぼくは仕事で、いくつものプロジェクトをひとりの部下として経験してきました。三年間で予算六千万円というような大型プロジェクトに取り組んだこともあります。どれ一つコケたことはありません。当たり前です。コケると首が飛ぶからです。そんな目に遭いたくないので真剣にもなるというものです。
何人ものリーダーを見てきましたが、それぞれタイプは違っていても、共通するものがありました。「どうやったらコケるかを知っている」という点です。他山の石という言葉がありますが、よそでプロジェクトをコカして詰め腹を切らされた人を大勢見てきたからですね。
たかが同人本と侮るなかれ
これを読んでいる人は「たかだか160ページの本を数人で出すのに何を大げさに言ってるんだろう」と思うかも知れません。そこが落とし穴です。小規模になるほど、プロジェクトを最後まで走らせるのは難しくなっていきます。プロジェクトというものには確定要素と不確定要素があって、大きなプロジェクトでは不確定要素の割合は小さいことが多いし、さらにリーダーがセーフティーネットを張って、不確定要素のせいで全体に影響が及ばないように手を打つので滅多なことでは問題にならないのです。
たとえば一回に百万円かかる実験があるとします。これを失敗してデータが出せなかった場合、大きなプロジェクトならお金もたくさんあるので、やり直しをすることができます。しかし、もともと百万円しか実験予算を持っていないプロジェクトではそこですべて終わりです。
また、誰かが病気で倒れたとします。大きなプロジェクトでは大抵、ひとつの小テーマに複数の人数を割り当てられるので、他のメンバーがカバーできます。ところが少人数のプロジェクトでは、誰か倒れたら大変な事態になります。
プロジェクトの規模が小さくなるほど、不確定要素の割合が大きくなっていき、予測通りに事が運ばず、ちょっとしたことで全体が頓挫する危険性が高くなります。
たとえば一回に百万円かかる実験があるとします。これを失敗してデータが出せなかった場合、大きなプロジェクトならお金もたくさんあるので、やり直しをすることができます。しかし、もともと百万円しか実験予算を持っていないプロジェクトではそこですべて終わりです。
また、誰かが病気で倒れたとします。大きなプロジェクトでは大抵、ひとつの小テーマに複数の人数を割り当てられるので、他のメンバーがカバーできます。ところが少人数のプロジェクトでは、誰か倒れたら大変な事態になります。
プロジェクトの規模が小さくなるほど、不確定要素の割合が大きくなっていき、予測通りに事が運ばず、ちょっとしたことで全体が頓挫する危険性が高くなります。
人はすべての礎
って、なんだか松下幸之助が言いそうな言葉ですが、ぼくはずっとそうだと思ってきたし、今回、本が出せて、それが確信に変わりました。プロジェクトには確定要素と不確定要素があると書きましたが、この不確定要素の中では「人的要因」というのが大きな位置を占めます。前項で誰かが病気で倒れたら……なんて書きましたが、これも人的要因の最たるものです。人間は機械とは違います。むしろいつかは倒れると思っていた方が間違いないです。今回のプロジェクトでは誰も病人は出ませんでした。ぼくがキシリトールガムで奥歯を折ったくらいでしょうか?(笑)
それから、少人数になると人間関係が非常に重要になってきます。大型プロジェクトなら、誰かと誰かが不仲になったら、片方を別のチームに移して距離を置かせるということもできますが、数人のプロジェクトではそんなことはできません。今回うまく行ったのが、どの人も基本的に良い人な上にプロジェクトが今どこを走っているかよく理解していて多少の事は辛抱してくれた点でした。
ぼくは成り行きでプロジェクトマネージャーになりましたが、このメンバーのおかげで、最初のレール引きがスムーズに行き、結果的に全体的に常に無理のないペースで作業が進みました。
それから、少人数になると人間関係が非常に重要になってきます。大型プロジェクトなら、誰かと誰かが不仲になったら、片方を別のチームに移して距離を置かせるということもできますが、数人のプロジェクトではそんなことはできません。今回うまく行ったのが、どの人も基本的に良い人な上にプロジェクトが今どこを走っているかよく理解していて多少の事は辛抱してくれた点でした。
ぼくは成り行きでプロジェクトマネージャーになりましたが、このメンバーのおかげで、最初のレール引きがスムーズに行き、結果的に全体的に常に無理のないペースで作業が進みました。
ブレイクダウン=企画はタスクの集まりであることを自覚する
本全体のコンセプトが明らかになり、各企画が確定し担当者も決まったところで、ぼくはそれぞれのみなさんに慣れないことをお願いしなければなりませんでした。それがブレイクダウンです。
○○さんが△△の担当に決まったから後はよろしく、ではダメなのです。なぜダメかというと、これではプロジェクトマネージャーはどの企画がいつ終わるのか分かりません。このために、プロジェクト全体が何週目に入った時に何パーセント終わっているというような見通しをたてることができません。とどのつまり印刷所に何日に版下を渡せるか、皆目検討がつかないでしょう。
では、丸投げされて任された方の担当者は分かっているかというとそんなことはなくて、とにかく思いついたことから順番にこなしていこうとします。すると思わぬところで予想外に時間を食って、あわてて遅れを挽回しようと焦り、ミスを誘発します。
プロマネも見通しが立たず、各担当者も行き当たりばったりで作業する……典型的なコケるパターンです。
各企画は複数のタスクの集まりでできています。そして各タスクはそれぞれ必要な時間が違います。自分の企画をタスクに分解して、それぞれ何日を要するか予測すること、それがブレイクダウンという作業です。(他の呼び方をする人もたくさんいますが、やろうとしていることは同じです)
これによる大きなメリットが三つあります。
一つ目。各企画からブレイクダウンされた工程が提示されることによりプロマネは全体の工程を立てられる上に、プロジェクトの細部にわたってどんなことが行われているか、常に把握できるという点です。
二つ目。これがとても大事なのですが、各担当者がタスクと日数を自覚することで、自分の中で無理のないペースで作業を進められるという点です。
三つ目。もし担当者が不測の事態で作業できなくなっても、タスクが明確になっているので他の人が容易に代わりを務められるという点です。
今回のSSE本で、具体的にどんなことが行われたかを見てみましょう。雨上さんが、自分の担当する自薦企画をブレイクダウンしたものです。→SSE自薦企画 何にどのくらい期間が必要か、非常にはっきりしています。
このように各企画担当者のみなさんは始めに「何それ?」というようなものを作るように要請されたので、面食らったかも知れません。ぼくは上に利点を三つ挙げましたが、とくに、二つ目である自分のこれからの予定を自覚してもらいたかったのです。そうすれば、元々能力のある人たちですから、着実に企画を仕上げてもらえるという思いがありました。
○○さんが△△の担当に決まったから後はよろしく、ではダメなのです。なぜダメかというと、これではプロジェクトマネージャーはどの企画がいつ終わるのか分かりません。このために、プロジェクト全体が何週目に入った時に何パーセント終わっているというような見通しをたてることができません。とどのつまり印刷所に何日に版下を渡せるか、皆目検討がつかないでしょう。
では、丸投げされて任された方の担当者は分かっているかというとそんなことはなくて、とにかく思いついたことから順番にこなしていこうとします。すると思わぬところで予想外に時間を食って、あわてて遅れを挽回しようと焦り、ミスを誘発します。
プロマネも見通しが立たず、各担当者も行き当たりばったりで作業する……典型的なコケるパターンです。
各企画は複数のタスクの集まりでできています。そして各タスクはそれぞれ必要な時間が違います。自分の企画をタスクに分解して、それぞれ何日を要するか予測すること、それがブレイクダウンという作業です。(他の呼び方をする人もたくさんいますが、やろうとしていることは同じです)
これによる大きなメリットが三つあります。
一つ目。各企画からブレイクダウンされた工程が提示されることによりプロマネは全体の工程を立てられる上に、プロジェクトの細部にわたってどんなことが行われているか、常に把握できるという点です。
二つ目。これがとても大事なのですが、各担当者がタスクと日数を自覚することで、自分の中で無理のないペースで作業を進められるという点です。
三つ目。もし担当者が不測の事態で作業できなくなっても、タスクが明確になっているので他の人が容易に代わりを務められるという点です。
今回のSSE本で、具体的にどんなことが行われたかを見てみましょう。雨上さんが、自分の担当する自薦企画をブレイクダウンしたものです。→SSE自薦企画 何にどのくらい期間が必要か、非常にはっきりしています。
このように各企画担当者のみなさんは始めに「何それ?」というようなものを作るように要請されたので、面食らったかも知れません。ぼくは上に利点を三つ挙げましたが、とくに、二つ目である自分のこれからの予定を自覚してもらいたかったのです。そうすれば、元々能力のある人たちですから、着実に企画を仕上げてもらえるという思いがありました。
工程管理人は有名無実だった
各企画が作業をスタートさせてからは、ぼくは工程管理人として、それぞれの企画がいま何をやっているか、よくよく把握しなければならなかったのですが、それは非常に容易でした。すでにブレイクダウンされたタスクを提示されているので、それと実際の作業の間に齟齬がないか眺めるわけですが、ほとんど出る幕はありませんでした。みなさん、いったん、何をいつすべきか自覚されているので、テキパキと事が進み、結局、四月に入った時点で全体の工程が予定より十日も前倒しで進んでいるという理想的な状況。このメンバーだから実現できたと思います。
セーフティーネット
セーフティーネットの事を上の方に少し書きましたが、実は今回も張っていて、ぼくが担当する組版のところに二週間も割り当てていました。もちろん自信がないというのもあるのですが、どこかの企画にトラブルが出てもこの二週間の日数で吸収できると思いました。
そしてやっぱり木本さん
やはり木本さんの存在は大きかったです。本を出すのはぼくも含めて初心者ばかりでしたから、微に入り細に入りアドバイスをもらえて、色々な落とし穴やら地雷やらを避けて進むことが出来ました。ありがたかったです。
リーダーと世話役の違い
最初に書いたように、ぼくは色々なリーダーを見てきました。今回、良いと思うものは積極的に真似しました。しかし、ぼくはリーダーではありません。ぼくは世話役のつもりでした。リーダーはみんなを引き連れて進みますが、世話役というものは歩いているみんなの先回りをして、道に落ちている石をどけたり窪みを埋めたりして、みんなが楽に歩けるようにするのが役目です。人は礎です。メンバーにはいつも感謝し、それを言葉にすることが大事だと思います。
大集団には必ずリーダーが必要だと思います。常にリーダーシップを発揮して全体を動かしていく才覚が大切だと思います。
少人数でも、たがいにいがみ合っているなど問題を抱えている場合は、やはりリーダーは必要かも知れません。
しかし、今回のように、良い人で有能でさらにプロジェクトの動静を敏感に感じ取っているメンバーばかりなら、少人数にリーダーは不要だと思います。
ただ、リーダーにせよ世話役にせよ、苦労もあるし嫌な目にも遭います。それでも、その立場には自ずと求められるものがあります。そしてそれは最後まで全うすることを期待されているのだと思います。手を挙げた時点で、そういう責任が自動的に発生するものだと考えるのが妥当でしょう。忍耐も必要ですし、みんなのテンションを上げ、さらにやりがいを実感できるよう工夫も必要です。当然、プロジェクトの隅々まで常に把握できていることが要求されます。自分がそういったことを最後までやり遂げられるかよくよく考えてから手を挙げた方がいいと思います。
大集団には必ずリーダーが必要だと思います。常にリーダーシップを発揮して全体を動かしていく才覚が大切だと思います。
少人数でも、たがいにいがみ合っているなど問題を抱えている場合は、やはりリーダーは必要かも知れません。
しかし、今回のように、良い人で有能でさらにプロジェクトの動静を敏感に感じ取っているメンバーばかりなら、少人数にリーダーは不要だと思います。
ただ、リーダーにせよ世話役にせよ、苦労もあるし嫌な目にも遭います。それでも、その立場には自ずと求められるものがあります。そしてそれは最後まで全うすることを期待されているのだと思います。手を挙げた時点で、そういう責任が自動的に発生するものだと考えるのが妥当でしょう。忍耐も必要ですし、みんなのテンションを上げ、さらにやりがいを実感できるよう工夫も必要です。当然、プロジェクトの隅々まで常に把握できていることが要求されます。自分がそういったことを最後までやり遂げられるかよくよく考えてから手を挙げた方がいいと思います。
ぼくらはなぜ本を出せたか
最初に、今回SSE本を出せたのは、あらゆる要素が何から何までうまくいった結果だと書きました。ここまで読んで頂けたら、その意味が分かってもらえるかと思います。
ですから、これが当たり前だとは思わない方が良いです。繰り返しますが少人数になればなるほど、プロジェクトというものはコケやすくなるのです。
今回は特別であって、このメンバーだからこそ、本はできるべくしてできたのです。そして何より楽しかった。得るものも多く、その上楽しいのだから、幸せなことですね。
この駄文を読んで「そんなことは分かっている。それでもやる」と思ってもらえるなら、そのチームはまず大丈夫です。それから「それはお前が不器用で無能だからだ。オレはそんなことを超越したカリスマ性を持っている」という人ならこれまたまず大丈夫。
プロジェクトの進め方というのは一通りではありません。状況によって、メンバーによって、違ってくるのは当たり前。ぼくたちがやったことは一例に過ぎません。形となる結果(本など)を出す、みんなが楽しくやりがいをもってできるように事を運ぶ、この二つを見失わなければ、それでいいのです。
ですから、これが当たり前だとは思わない方が良いです。繰り返しますが少人数になればなるほど、プロジェクトというものはコケやすくなるのです。
今回は特別であって、このメンバーだからこそ、本はできるべくしてできたのです。そして何より楽しかった。得るものも多く、その上楽しいのだから、幸せなことですね。
この駄文を読んで「そんなことは分かっている。それでもやる」と思ってもらえるなら、そのチームはまず大丈夫です。それから「それはお前が不器用で無能だからだ。オレはそんなことを超越したカリスマ性を持っている」という人ならこれまたまず大丈夫。
プロジェクトの進め方というのは一通りではありません。状況によって、メンバーによって、違ってくるのは当たり前。ぼくたちがやったことは一例に過ぎません。形となる結果(本など)を出す、みんなが楽しくやりがいをもってできるように事を運ぶ、この二つを見失わなければ、それでいいのです。
さて、何だか、散々脅かすようなことを書きましたがそれはわざとそうした訳で、ぼくらは、まず広瀬さんが出資をすると共に「やろう」と声を上げて、何だか知らないけどぼくがプロジェクトマネージャーになり、いつの間にか走り出していました。そんな、ある意味行き当たりばったりでも、本をまとめあげることができました。
言ってみれば、フツーの人がフツーの感覚で取り組んでも本は出るんだからやってみようよと思ってもらえると嬉しいです。その時に、ちょっとだけ、ここに書いたことを念頭に置いてくれれば、落とし穴や地雷は避けられます。
どんな形であれ、夢束本を出し続けることでブランド力のようなものが生まれてくれればしめたもの。次なる勇者に期待しつつ、この駄文をおしまいにします。
言ってみれば、フツーの人がフツーの感覚で取り組んでも本は出るんだからやってみようよと思ってもらえると嬉しいです。その時に、ちょっとだけ、ここに書いたことを念頭に置いてくれれば、落とし穴や地雷は避けられます。
どんな形であれ、夢束本を出し続けることでブランド力のようなものが生まれてくれればしめたもの。次なる勇者に期待しつつ、この駄文をおしまいにします。
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