《芸術(歌)》リーズバイフェ&ライダー ◆HOMU.DM5Ns





ここは……いや、私は……誰だろう。
何もかも、識りすぎて分からない。

……いやだな、そういうのは、私の好きな私じゃないのに。



辺りは暗く、夜よりも濃い闇で満たされている。
夜が生き物とするなら真っ黒い鯨で、私は今そんな鯨の体の中にいるようだ。
なにせ手足もろくに見えない。
長い間胃に収まっていたから、欠片も溶けてしまっていた。


……しかし、それならなぜ私はここにいるのだろう。
体はないのに、自己を認識し、考える知性は残っている。
さて、そういうのを教会(わたしたち)の間ではなんと言ったのだろうか。



「そうか。死んでいるんだ私は」



理解してしまえば、事は簡単だった。
己の名。己の素性を思い出す。
私の、既に終わった録音を思い出す。
魂の存在は教会でも協会でもとうに認識されている。
死者と会う機会は仕事柄多いが、死者の気持ちは分からないので、まあこんな感じなんだろうと納得しておく。
信徒として、そういう考え方はよろしくないとは思うけれど。




さて。かといってどうしよう。
いや、どうするかは決まっている。
肉の身から解き放たれた魂はすべからく天に昇り、主の許に還られる。
信徒の中の信徒だなんて言い方は他人の誇張だけど、人並みの信仰心は持ち合わせているつもりだ。
だから……本当は、こんなことを思っちゃいけないんだけど。


取り残してしまった少女がいる。
蘇った記憶は私の最期の映像もまざまざと見せつける。
あの日守れなかった友人が、今も苦しんでいるかと思うと、亡くなった心臓に幻痛が走る。

そう思ったところで、何も見えないこの有り様じゃ彼女の元に向かう事も出来ない。
手足も地面も存在しない場所には、"進む"という選択が介在しない。
入口もなければ出口もない、閉じた円環(メビウス・リング)だ。
ここから抜け出す方法というものが、てんで浮かばない。


でもそれなら、それでいいとも思う。
せめてもの贖罪として、この闇で永遠に微睡むことになろうとも構わない。
肉体は灰に消え、魂は地獄に煉獄にも往かず。
どこかの聖女の末路を辿るのも、仕方ないと。




意識(ひとみ)を閉じれば、おそらくすぐにまた眠る。
蒼い空も傾ける首もないままに上を見上げるような動作を想像だけして――――――その"音"を聴いた。


ソレは闇の中においても、ぽっかりと穴を空けたと分かるほど濃い場所に浮かんでいた。
あるいはそれは単なる臓器で、闇そのものがソレなのかもしれない。


下劣な太鼓のくぐもった狂おしき連打、
かぼそく単調なフルートの音色。
それを聞いているモノは、拍子に合わせて身悶えを繰り返し、冒涜的な言葉を喚き散らしながら大笑いしている。



……酷い演奏だと、率直に感想を抱く。
下手、だなんて言葉で済ませる規模(レベル)じゃない。
オウムが繰り返し同じ言葉を吐き続けるのだってここまで不快じゃない。
練習不足とか、音感のズレだとかで説明出来る範囲を超えている。
ある意味で才能、いや、これはもう異能の域だ。

神経を直接掻き毟るような弦の擦れ、
野良猫を鍋で煮殺しでもしない限り出ない音階、
乱数と砂嵐の螺旋地獄。



「……………………………………………………うん」
 文句を言おう」


ありもしない体が吐き気を催す。
ただでさえ著しい安眠妨害だ。住居内で音楽をする時は場所に気を付けろと言われてないのか。
何より一介の音楽家としてもこの蛮奏は見過ごせない。
とりあえず一言、出来れば指導までやらなければ今後に差し障る。


発声するための口はなく、息を取り込む器官もない。
とにかく残っている意識だけでも音源に向けようとして、

目の前に物体が見えている事と、伸びていた自分の腕がある事に気付く。




手には、光もないのに銀色に照らされた古い鍵。










捻じる。








繋がる。










題目を外典(アポクリファ)に変え、演者(アクトレス)は揃う。
止まっていた歌劇(カデンツァ)が再演(アゲイン)する。





 ○






「あ、起きた?おはよマスター。気分はどう?」

目を覚ましたら、柔らかく微笑む少女の顔と対面した。
髪にかかった羽飾りが良く映えている。

―――なんて眩しい、朝の光。


「ああ、おはよう―――ええと、
 君が、私のサーヴァント?」

柔らかなソファーに横たえていた体を起こす。
……体に鈍い痛みがする。そんなにも長い間、眠っていたのだろうか。

「そうだよ。ボクはライダー、真名はアストルフォ、よろしくね!」

当たり前のように脳に溜まった知識をするりと紐解く。
アストルフォと名乗った少女は、咲き誇る花の笑顔で手を差し伸べた。

「うん、よろしく。
 私の名前は―――ええと、そう、リーズバイフェ・ストリンドヴァリだ。
 長ければリーズでも構わない」

眠っていて頭がまだ覚醒してないのか、薄ぼんやりとした記憶から、自分の名前を引っ張り出す。

「わかった、リーズだね。うん、いい名前だ!
 いやあ、召喚されたらマスターが寝てるし、いつまでも起きないからどうしようかと思ったけど、
 これなら大丈夫そうだな!」

握り返した手を、サーヴァントは上下に元気よく振る。親愛の証らしい。
フランクに伝説を残すシャルルマーニュ十二勇士が一騎、アストルフォ。
教会騎士としても、その名は知っている。
騎士としての実力の中では下位、はっきりと弱いと書かれる程。
だが多くの友人から様々な魔道具を譲り受け、その仁徳で多くの活躍をした。





「それでリーズ、さっそくだけどお願いがありまーす!」
「ん。なに?」
「服、買ってくれない?流行取り入れたコケティッシュなやつ!」

そして、途轍もなく奔放な性格をしているという。
理性が蒸発しているとまで言われ、実際にある事件で理性を取り戻した事があったが
本当に蒸発たように再び元の性格に戻ってしまった、などという伝説もある。
戦いの指針より先に服を所望するところからして、どうやら偽りではないようだ。

「街の調査に使う、ということじゃ……ないんだろうな」
「うん、ようはただ街に出て遊びたいだけなのである!」
「正直なのは良い事だけど、まだ私はここでの役割(ロール)が上手く思い出せていない。
 買う資金があるかは分からないんだ」

高級邸宅地、フレンチ・ヒルの洋館に住まうヴァイオリニスト。
そんな設定だけは思い出せる。

「えー、でもこんな広い屋敷にいるならお金持ってるんじゃないの?もしくはクローゼットとか」
「もしあっても、君みたいな少女に合う服はないと思うけどな」
「えっ」
「え?」



…………………………………………

(誤解が解かれるまでの僅かな間)



「……なるほど、事情は把握した。
 失恋で狂乱したローラン伯を鎮める為にした仕方ない不可抗力だと。
 けどそのまま性別を偽るのは騎士としてどうかと思うよ、私は」
「偽ってないもん!ただ好きで着た服がたまたま女物っぽかっただけだもん!
 それにリーズだって、ボク言われるまでカッコイイ系のお兄さんかと思ってたし!
 ぶっちゃけるけど、多分他の人が見たらボクよりマスターの方が強そうに見えるよ?」
「面と向かって言われると少し傷つくな……」
「そう。ボクも傷ついてる。だからこれでおあいこってことでいいじゃないか」


可愛らしい声でかんらかんらと笑うライダー。
少量の悩みであれば吹き飛ばしてしまいそうな爛漫さ。
そこにいるだけで元気が湧いてくる、陽だまりのような温かさを感じる。
生前、周りにいた騎士もこんな気持ちだったのだろうか。

「よし、部屋を確認したら外に出よう。任務でも足を使った虱潰しなのは変わらないし。
 とりあえずガマリエルの調律から……ヴァイオリンのケースに入ってるんだが、知らないかな?」
「ヴァイオリン?ああ、あったあった!そっかあれマスターが使うのか!
 ボクも笛持ってるし今度セッションでもしてみようか!ペンペン草も生えなくなるけど」

自分の家だというのに、慣れない手つきでタンスを探る。
どの場所に何があるかは手探りで見つけていくしかないのは困りものだ。
ライダーとの相乗で部屋は強盗に荒らされたとしか思えない惨状に変り果てるのは、およそ三分後のことだった。




聖杯という最上位の神秘の聖遺物。
教会に属する以上は、命令はないとはいえ無視できるものではない。
邪な者に渡る危険もあるのを考えれば、積極的に事態に介入していくべきかもしれない。

けど、そもそも自分はどうして招かれたのか。
以前の記憶がはっきりしない。何をしていたかの前後が抉られたみたいになくなっている。

何故だかは全然分からないけど。
今は何よりも、それをどうしても取り戻さなければいけない気が、した。




「……あ、いっこ思い出した。エステの予約もしていたんだった」
「エステ!そういうのもあるのか、いいなそれ!ボクもやってもらいたいなあ。
 あとヒポグリフにも出来るかな?」







【出展】
Fate/Apocrypha

【CLASS】
ライダー

【真名】
アストルフォ

【属性】
混沌・善

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力C 幸運A+ 宝具C

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではアストルフォに傷をつけられない。
 宝具である『本』によって、ランクが大きく向上しており、通常はDランクである。

騎乗:A+
 騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。

【固有スキル】
理性蒸発:D
 理性が蒸発しており、あらゆる秘密を堪えることができない。
 味方側の真名や弱点をうっかり喋る、大切な物を忘れるなど最早呪いの類い。
 このスキルは「直感」も兼ねており、戦闘時は自身にとって最適な展開をある程度感じ取ることが可能。
 理性がない故、正気度の喪失が起きることはない。邪神が相手でも臆することなく立ち向かう。

 月にある理性の詰まった瓶を取った逸話から、月のない夜―――新月の日になると理性が取り戻される。
 これにより下記の宝具の真名解放が可能になるが、理性がある故に恐怖心も戻る事になる。

怪力:C-
 筋力を1ランクアップさせることが可能。
 ただし、このスキルが発動している場合は1ターンごとにダメージを負う。
 人間のアストルフォがこのスキルを所有しているのは、
 理性蒸発によって筋力のリミッターが外れているからである。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【宝具】
『恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100人
 竜の咆吼や神馬の嘶きにも似た魔音を発する角笛。
 レンジ内に存在するものに、爆音の衝撃を叩きつける。
 対象のHPがダメージ以下だった場合、塵になって四散する。
 善の魔女・ロゲスティラがアストルフォに与え、ハルピュイアの大群を追い払うのに使用された。
 通常時は腰に下げられるサイズだが、使用時はアストルフォを囲うほどの大きさになる。

『魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)』
ランク:C 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 さる魔女から譲り受けた、全ての魔術を打ち破る手段が記載されている書物。
 所有しているだけで、自動的にAランク以下の魔術をキャンセルすることが可能。
 固有結界か、それに極めて近い大魔術となるとその限りではないが、
 その場合も真名を解放して、書を読み解くことで打破する可能性を掴める。

 ……が、アストルフォはその真名を完全に忘却している。
 魔術万能攻略書も、適当につけた名である。
 本当の真名は『破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)』。
 思い出すには理性が返却する時刻―――新月を待たねばならない。

『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大捕捉:1人
 騎士アルガリアの馬上槍。金の穂先を持つ。
 殺傷能力こそ低いものの、傷をつけただけで相手の足を霊体化、
 または転倒させることが可能。
 この転倒から復帰するためにはLUC判定が必要なため、失敗すれば
 バッドステータス「転倒」が残り続ける。
 ただし1ターンごとにLUCの上方修正があるため、成功はしやすくなる。
 単に触れるだけでは効果はなく、穂先に触れるまでが必要。

『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:100人
 上半身がグリフォン、下半身が馬という本来「有り得ない」存在の幻獣。
 神代の獣であるグリフィンよりランクは劣るものの、その突進による粉砕攻撃はAランクの物理攻撃に匹敵する。

 その真の能力は、餌と捕食者の混血という存在自体があやふやな特性を活かした、次元の跳躍。
 存在を一瞬だけ抹消させることで現世界からのあらゆる干渉を回避する事が出来る。


【人物背景】
イングランド王の息子にして、シャルルマーニュ十二勇士の一人。
この世に並ぶもの無き美形ながら、「理性が蒸発している」と例えられるほどのお調子者。
冒険好きのトラブルメーカーで、どこにでも顔を出し、トラブルに巻き込まれ時には巻き起こす。
悪事を働くという概念がなく好き放題暴れまわるが、最悪の事態には踏み込まないというお得な性格。

【サーヴァントとしての願い】
とりあえずマスターについていこう。ファッション!セッション!エステ!
後のこと?そんなもんなるようになるさ!



【出展】
MELTY BLOOD Actress Again

【マスター】
リーズバイフェ・ストリンドヴァリ

【参加方法】
憶えていない。
残っていない。

【マスターとしての願い】
僅かな時間だが知己を得た友人の記憶ともども、今は忘れている。

【weapon】
『正式外典ガマリエル』
せいしきげてん、と読む。
対吸血鬼用の『滅び』の純粋概念による概念武装。
ヴァイオリンを思わせる形状で、パウロの黙示録とエジプト人による福音という二つの外典によって鍛えられた聖盾。
銃盾にして槍鍵、そしてパイルバンカー。
最大解放を直撃させれば、サーヴァントとて滅せられる。

【能力・技能】
異端討伐の専門として、人間の中では上位の身体能力を誇る。
具体的に言えば、月姫のシエルと同等かそれ以下―――つまり平均的なサーヴァントと防戦が可能。
パンチ力は本人曰く平均2トン。

【人物背景】
正堂教会所属、ヴェステル弦楯騎士団団長。
聖堂騎士。盾の乙女。ゲッセバルネ枢機卿の寵児。法の奏者、信徒の中の信徒。
正式外典ガマリエルに選ばれし、音と法律の調停者。
しかしてその実態は何も考えてなく自堕落でずぼらな駄目人間の類型。
達観している様に見えるのは、何も考えていない様子を周囲の人が勘違いしているだけ。
可愛いもの、キモいネコ、メカメイドが好き。健気な女の子とかも好き。


■年前の吸■■討■など■■に■■■れ■いない。
■■■など何■にも発■していない。
あなたは■んでいない。
あなたは■んでいない。
あなたは■んでいない。
あなたは■んでいない。

あなたは、■と■ってすらもいない。



【基本戦術、方針、運用法】
マスターが前線に出て、サーヴァントがサポートに回るという戦術が基本となるだろう。
リーズはマスターとしてはかなりの上級とはいえ、宝具も含めたサーヴァント相手にはやはり分が悪い。
しかしアストルフォの宝具はその穴を埋めるに足る性能がある。

触れるだけで機動力を奪う槍。
回避しにくい広範囲の音波攻撃。
持つだけで対魔力A、さらに条件を満たせば固有結界級でも完全無効の魔術書。
マスターも乗せて飛行できるうえ、絶対回避も備えた幻想種。

とにかくどれも集団戦で有用なものばかり。
リーズ自身リーダーの経験もあるためコンビネーションも組みやすいだろう。

リーズが防衛を務め、脇からアストルフォが攪乱、隙を突いてガマリエルをブチ込む。
これが最良の必勝戦術である。

ただ当面は失った記憶を得るのに終始することになる。
ある意味アストルフォが二人いるようなもの。つまり悪夢。ブレーキ役求む。

なお記録がないのは彼女がすでに