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「3000円」

マルボロを1カートン用意する。
10日に一度、夕方6時に来る客のためだ。

彼は1日1箱のペースで吸うらしく、決まって十日を空けて来るのだった。
うちの様な寂れた煙草屋には貴重な客のため、自然と6時前にカウンターにひと箱置いておくようになった。
店番を始めた10年前からそのペースで買いに来るが、その男とは口を聞いた事がない。
前任の老婆から、6時の男は千円札を三枚置いていくからそのまま渡すようにと言われていたので、
そういうものだと思い接していた。しかしある時、カートン買いをしていた男の声を初めて聞いた。

「マルボロ 9つ」
私は軽く驚きつつもカウンターの上の箱を爪で開き9つの煙草を渡した。彼以外の客に言うように、
「300円のおつりです。毎度ありがとうございます」と私も初めて声を出した。
カートン買いをしなくなったという事は、ゆとりが無くなったのかもしれない。
特に追求することでもないので、変だなとは思いつつその男の事はすぐに忘れる。

9日後に男はやってきた。
「マルボロ 8つ」
私は片眉を上げつつも、8つの煙草を渡す。
「600円のおつりです。毎度ありがとうございます」

やがて彼は1日にひと箱買いに来るようになった。
「マルボロ」と言いながら静かに代金をカウンターに置く。
「ありがとうございます」と私も手渡しながらつぶやく。

ある日の仕事時間が終わり、いつもの帰途の途中声がした。
「マルボロ 一本」
彼はそれ以来何も話さず、握った手を私の前に差し向ける。
不審に思ったし、仕事時間ではないので無視してもよかったが、
貴重な客だという事と、私も同じ物を長年吸っているので、
「今日だけですよ」と言いながら一本差し出した。
彼は無言で15円を手渡してきた。

家に帰り、簡単な夕食をとっていた時また声がした。
その時やっと、私は失敗に気がついた。

それから一時間に一度、どこからともなく声がするようになった。
私はことごとく無視した。男は店にはこなくなった。
煙草屋で働いている時は来ないのに、仕事があけると声がする。
そんな日が10日続いた後、声はしなくなった。
私は1日にふた箱、煙草を吸うようになった。
  

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