真夜中の街路は静まり返っていた。
 ほんの1時間前までの、あの馬鹿げた狂騒の名残は欠片もない。全てはまるで、夜闇が見せた幻であったかのように。

 静かだった。およそ〈新宿〉の夜とは思えないほどに。少なくとも、荒垣真次郎が認識する周囲においては。
 都会の喧騒、暴力と享楽のざわめき。総じて短絡的な感情の生み出す熱量だが、そうした類のものは今も〈新宿〉のどこかには確かに根付いている。しかし、世に存在するあらゆる事象に共通するように、これにもまた【二面性】というものがあった。
 その一つが、この夜闇の静寂さであった。今この街は死んでいる。そう表現できてしまうほどに、それは死体の放つ澱んだ負の静けさだった。

 無論、それが治安の正常化を示しているのかと言えば全くそうではなく。
 嵐の前の静けさどころか、嵐が過ぎ去った後の爪痕の静寂ですらなく。
 今この瞬間にも加速度的に膨れ上がりつつある異常性の、臨界点に到達し全てが爆発四散する寸前における無音の空隙であるなどということは。
 言われずとも、荒垣は承知の上であった。


 先の一件からこうして自分の寝床に戻ってくるまでに聞いたのは、自分の靴音を除けば自動車のエンジン音と風に揺れる街路樹の枝葉くらいなものだった。
 神楽坂から西落合まで、ちょうど新宿の端から端までを1時間と少しで移動し、荒垣は閑散とした通りの外れに佇む教会の前に立っていた。
 『聖セラフィム孤児院』。それが、この教会の名前であり、荒垣が生まれ育った場所という【設定】になっている場所だ。

 昨今はあらゆる物事に利権や損益―――いわゆるビジネスが絡むようになり、孤児院という名称は廃れ児童養護施設と名を変えることが多くなってきているが、そのような世情において尚、この教会は孤児院という名称から連想される普遍的なイメージをこれ以上なく体現した施設であった。
 宗教施設が福祉を兼ねるというのは世界各地に見られる様式で、日本に作られた初期の孤児院の多くも、宗派は様々であるがキリスト教系であったということは、他ならぬここのシスターに聞かされたことではあったが。それでも、このご時世では珍しい部類に入るのだろうと荒垣は考えていた。
 まあ、そうした施設に共通する宗教教育が、この聖セラフィム孤児院には無かったということは、荒垣にとってはありがたいことではあったのだが。

 木組みの門を無造作に潜り抜け、慣れた様子で足を進める。入って左手のほうには三角屋根の赤茶けた聖堂があって、入口の扉は当然のことながらぴっちりと閉ざされていた。右手のほうには聖堂より少し大きい白塗りの四角い建物があって、並んだ窓の向こうには閉じられたカーテンが顔を覗かせている。荒垣が向かうのは、言うまでもなく右手の生活スペースのほうであった。
 正面のほうはとっくに施錠されているから裏口から入る。勿論こちらも本来ならば施錠されているのだが、シスターや他の子供たちが寝静まったのを見計らって鍵を持ち出したのは他ならぬ荒垣だ。夜目を利かせて鍵を開け、かちゃりという小さな金属音を聞くとするりと中に体を滑り込ませる。別段バレたところでどうということはないのだが、お説教シスターやおせっかいな馬鹿共が逃げても逃げても追っかけてくる光景は想像するだけでも頭が痛くなってくるので、目指すは隠密行動である。
 裏手を抜け、階段を前に立つ。今夜は月が明るいから、その青白い光のおかげで足元に迷うということもない。あとは素知らぬフリで部屋に戻れば何事もなかったかのように朝を迎えられると考えて。

「よう。朝帰りにしちゃ早かったじゃないか、シンジ」

 頭上から、そんな声が浴びせられた。
 目を向ければ、階段の踊り場にひとつの影があった。頭髪が夜の帳に白く映え、線の細い体躯は、あまりにも見慣れてしまっている故に直接見るまでもなく誰のものか理解できた。

「……アキか」
「アキか、じゃないだろ。おいシンジ、お前今までどこに行ってた」

 ツイてねえな、と荒垣は内心舌打ちしたい気分になった。今最も会いたくなかった人物の片割れ、おせっかい馬鹿こと真田明彦がこいつだった。
 この〈新宿〉と聖杯戦争というものはどこまでも人をバカにしくさっているようで、どうやら聖杯戦争参加者の周囲にいた人物たちを、〈新宿〉を構成するNPCとして再現・利用しているのだ。一体どのような技術を使えばそうなるのか、荒垣をして「本物」なのではないかと疑うほど精巧に作られたそれは、ロールとして荒垣に割り振られた日常の周囲にも多数存在していた。
 こいつもそのうちの一人だ。そして、真田以外にもS.E.E.Sの面々を始めとした、どこかで見たことのあるような連中がそこかしこにいることを、荒垣はここ数日で嫌というほど目にしてきた。

 裏方にいる連中はよほど死にたいらしいな―――という憤激の念を覚えた過去のことはさて置いて。

 今置かれている、悪戯を咎められる子供のような状況を、正直荒垣は苦手としていた。推測するまでもなく、こいつは今の今まで自分の帰りをこうして待っていたのだろう。糾弾ではなく心配の念が、黙っていても痛いほどに伝わってくる。
 今更萎縮する心など持ち合わせてはいないが、それでも愉快なものでないことは確かだ。こういう状況に、荒垣はどうも弱かった。

「てめえには関係ねえことだ。
 ……まあ、別に危ねえ真似してるわけじゃねえから心配すんな」
「心配すんなって、お前な」

 切って捨てても問題ないだろうと最初に思って、けれど良心が咎めたのかフォローの末尾を付け加えた。そんな一言を告げて横を通り過ぎようとした荒垣に、明彦の呆れた声が降りかかる。
 それもある意味当然だろう。夜中勝手に出歩いた人間を散々待って、その言い訳がこれなのだから、それで納得しろというほうが難題である。
 だが、荒垣としてはそうとしか言えないのもまた事実であった。明彦が聖杯戦争の参加者でないということは、アサシンと邂逅したその日のうちに確かめている。ならば彼に仔細打ち明けるなどできるはずもないし、話したところで理解が得られるとも思ってはいない。

「すまないが、今言っても仕方のねえことだ。言っても、多分理解できやしねえ」
「……どうしても言えないことか?」
「わりぃな」
「……まあ、いいさ。けど、俺はともかく他のみんなを心配させるようなことはするな。分かったな?」

 呆れ声が、ふと苦笑したかのような響きが真田の口から洩れた。
 黙って横を通り過ぎようとしていた荒垣は、思わず立ち止まり、視線を向けないまま問う。

「……なんだよ」
「いやなに、俺がお前の心配するなんて珍しいこともあったもんだって思ってな。いつもはお前がみんなの心配して世話焼いて、俺なんか特に小言ばっかだったからな」

 ……彼の言うことは、恐らくは荒垣が記憶を取り戻す以前の【設定】なのだろう。何故なら荒垣は、記憶を取り戻して以降は焦燥に駆り立てられるように〈新宿〉へと赴いていたのだから。
 いくら精巧に似せようと、偽物は偽物だ。それはきちんと理解しているし、だからこそこの仮初の平穏を作り上げた聖杯に対する怒りも尚更こみ上げてくるのだが。
 けれど、そこに元の世界の面影を感じてしまうことも、嘘ではなかった。

「ともかくだ。今回のことは俺が黙っておいてやるから、これからはちゃんと断ってから行くか、本当にバレないようにやれよ」
「……チッ」

 明確な答えを返すことはせず、荒垣はただ舌打ちだけで今の感情を示した。
 別に真田の言葉が気に入らなかったとか、頭にきたとか、そういうことではなかった。

 ただ、真摯にこちらを心配する彼に、何も真実を告げられないやるせなさだとか。
 自分で吐いた言葉すら守れる確約ができないということへの不甲斐なさだとか。
 未だにこんな張りぼての感傷を捨てきれない自分に対する情けなさだとか。

 そういう諸々に対しての、これはそんな舌打ちだった。





   ▼  ▼  ▼





 結論から言うと、全部バレてた。

 雑に寝転がって仮眠を取ること暫し、そろそろ起きようかと思い始めた朝方に、突如として大音響の歓声が自室のドアを蹴破って雪崩れ込んできた。その正体は孤児院の子供たち。狭いドアから出るわ出るわ、一斉に飛び出した10人ばかりの子供たちはあっと言う間に荒垣を取り囲み、ベッドにダイブし、てんでバラバラに騒ぎ始めた。

「シンジにーちゃんどこいってたんだよー!」
「あたしさみしかったんだから!」
「ほんとだよー!」
「わたしねないでずっと待ってたのにー!」
「のにー!」
「夜中にあそんじゃだめなんだってシスターがいってた!」
「おにーちゃん悪いんだー!」
「ねえおみやげはー?」
「僕おなか減った……」
「ごはん作ってごはん!」
「ごはんごはんごはん!」

 ひとしきり騒いだ後には、最後にはみんなでごはんの大合唱。はっきり言ってうるさいことこの上ない。
 一瞬の忘我から立ち直り、一体何がどうなってるんだと逡巡して、ドアの向こうに誰かが立っていることに、そこでようやく荒垣は気付いた。
 栗色の長い髪を無造作に伸ばした、荒垣と同じくらいの年ごろの少女。黒地に白い縁取りのぞろっとした修道服に、大きな丸レンズの眼鏡。十字架の形をした金色のペンダントを揺らして、両手は腰のあたりに添えられている。
 仁王立ちという言葉を体現した佇まいだった。

「それでシンジくん。何か言い訳、あるかな?」

 その言葉は、子供たちの大合唱の中にあって、しかし不思議とすんなり耳に入ってきた。
 表情は笑顔の少女は、しかし眼鏡の奥の目は全く笑っていなかった。





   ▼  ▼  ▼





 荒垣真次郎は、自身の持つ"力"を心底忌み嫌い、そして同時に頼みとしていた。
 ペルソナ、力ある精神ヴィジョン。それはかつて、決して消えない罪業の象徴たるものであり、文字通り死んでも切り離せない自罰と茨の具現であった。
 だが同時に、それは現状の荒垣がサーヴァント以外で有する、超常に抗うためのたったひとつの手段でもあるのだ。朽ちるだけの死人であったはずの自分を呼び起こし、更なる罪業に手をかけろとその身に令呪を刻み込んだ支配者を引き摺り下ろすための、それは憤怒と復讐の牙。
 既にサーヴァントというこれ以上ない戦力を与えられているとはいえ、荒垣は自身の手を動かさず安寧に甘んじるような男ではない。サーヴァントには敵わずとも、自分の手で立ち塞がる障害物をぶちのめし、ただ胸に去来する怒りをぶつけたいというどうしようもない欲求が、荒垣の中にはあった。
 そのためならば、どれだけ自らの体が傷つこうとも、荒垣は頓着しないだろう。切り刻みたくば斬るがいい、蜂の巣にしたくば撃つがいい。だがその程度のことで俺の歩みが止まると思っているならそれは間違いだと、猛る思いが全てを壊せと叫んでいる。
 ペルソナの原動力が精神に由来し、心の強さがペルソナの強さであるというのなら、今の荒垣は間違いなく、過去最大級の力を有していた。怒りという負の想念が元になっているとはいえ、力としての絶対値に事の正邪など関係ないのだから、それは自明の理として現れる。
 後のことなど完全に度外視して、屑共を叩きのめすと吠える彼は言わば暴走機関車だ。その進撃が止まることはなく、あらゆる敵に対する攻撃に一切躊躇などしない。

 ―――それはともかくとして。

「……」

 今の荒垣が何をしているのかと言えば、居住寮の台所で忙しなく手を動かしていた。やっていることと言えば朝食の準備だ。とはいえ仕込みの大半は昨晩のうちに済ませておいたようで、今やっているのはちょっとした一品料理の追加くらいである。
 掃除に洗濯に子供の相手、料理の手伝いに家計簿の整理を一週間。それがシスター見習いの少女……イリーナに言い渡された罰の内容だった。

 真夜中の無断外出に対する罰則としては、まあ妥当なところ……なのだろうか。今までそこらへんを咎められた経験のない荒垣にとっては判断がつかないところではあるが、少なくとも外出の禁止だとか言われるよりは随分と穏当な処分であることは間違いない。
 とはいえ、積極的に聖杯戦争に関わっていきたいと考えている荒垣にとって、単純に時間と手間が取られるというのは中々頭の痛い話だった。いっそここから出て野宿でもするかなどと、そんなことを一瞬考える程度には。

【そう焦る必要もないと思うんやけどなぁ。お前が色々やってる間はおれが動くなんてこともできるんやし、そう難しく考えることもないんと違うか?】
【それとこれとは話が別だろ、鬱陶しいったらありゃしねえ。つーかなんで聖杯とやらはこんなまだるっこしいことを強制しやがるんだ、戦わせるにしてもバトルロワイアルだのトーナメントだの、もっとやりようがあんだろ】
【あー……考えられるとしたら、何かしらの"状況"の再現あたりになるんかなぁ。というかお前さんホンマにイラついとるんやな】
【……別に、怒ってるわけじゃねえさ】

 ひらひらと手を振って降参のポーズをするアサシンの姿を幻視しながら、荒垣は自分でも苦しいと分かりきっている言い訳をする。とはいえ、単に身動きの取りづらいこの状況が煩わしいというだけで、別に彼女らに対して怒っているというわけではないというのは本当のことだ。

 規則的に包丁を動かしながら、ふと思索に沈む。手慣れた作業を繰り返していると、どうにも雑多な考えが浮かんできて仕方がない。それは先の「役割(ロール)の存在意義」についてもそうだが、昨晩の遠坂邸やシャドウすらも凌駕するおぞましいバケモノに変生した女のことであるとか、討伐令の課されたバーサーカー陣営のことであるとか、そもそも何故自分がここに呼び寄せられたのかであるとか。そんな諸々の事項が曖昧靄とした雑念として浮かんでは消えていく。
 そんなことはここでいくら考えても答えが出ないなどということは理解しているし、ならばこそこんなことは放って早いところ街に繰り出したいところではあるのだが、ロールの全てを放棄するというのが下策であることも十分理解している。

 つまるところ、今の自分にできることは程々の妥協と速やかな作業くらいなのだ。そこらへんの不満を胸にしまい込みながら、とりあえず出来上がった分を皿に移そうと視線を横にやって。

「……」

「……」

 目が合った。
 テーブルを挟んだ向こう側、目より上だけを縁から出して、じーっとこちらを見つめる子供が一人。
 明彦と同じ白い髪の、碧眼の少女。いつもの無駄に元気な有り様は鳴りを潜め、獲物を付け狙う猫のように微動だにしていない。
 そんな彼女が、じっと視線をこちらに送ってくる。

「…………」

「むー」

「…………」

「むぅー」

「…………ほれ」

「ういうい」

 試しにローストビーフを一切れ与えると、満足そうに咥えながらパタパタと走り去っていった。
 ペルソナ使いであるはずの荒垣ですら思わずたじろぐほどの、それは目にも止まらぬ早業であった。

【随分嫌われたもんやなぁ。いや、むしろ好かれとるんか?】
【ほっとけ】

 念話越しでも笑いをこらえているのが丸わかりのアサシンに、荒垣は無視を決め込んだ。





   ▼  ▼  ▼





『いや、俺も何がどうなってこんなことになったのか見当もつかないんですよこれが。朝来てみたらやたら大勢集まってて、そんで中を覗いてみたらこの惨状ですよ。
 ……困りますかって、そりゃ当然困りますよ。でもそれ以上に、俺も何がなんだか分からないってのが正直なところですね、ええ』
『私が思いますに、近頃繁盛して調子に乗ってこんな場所に店を移したのが原因ではないかと。きっと神罰が下ったのですよ』
『うだつの上がらないマスターには似合いませんからねぇ、こういう一等地は。今までみたく下町の場末でのんびり居酒屋半分みたいな経営してるほうが性に合ってたんですよ、きっと』
『……雇うか、もっと優しい店員』

 束の間の朝食の時間が終わり、現在。
 各々が食器を片づける音がリビングに響き、そんな中いち早く片した荒垣が共用のソファに座り込んで何ともなしにテレビを見ていた。
 そこに映されていたのはニュース番組のインタビューだ。話を聞くにどうやら生放送のようで、神楽坂の飲食店に突如として現れ放置された巨大な怪物の死骸についての報道だった。
 完全に、昨夜の自分がしでかした一件である。流石にこっちはバレていないと思いたいが、聞いていてなんとなく居心地が悪い。

 とはいえ、そのニュースは単に荒垣の気分を損ねるだけではなく、有用な情報も彼にもたらした。荒垣の手で殺害した怪物の他にも、新大久保のコリアタウンにて発見された鬼のような怪物の死骸という文字が、目に飛び込んできたのだ。流石に公共の電波に映像を流すことはなかったが、これを単なる偶然や見間違いで済ませる愚鈍は、荒垣には存在しなかった。
 死骸が残っているということから、その正体がサーヴァントであるということはないだろうと即座に考える。そして、"鬼"が荒垣の殺した蜘蛛の怪物と同じ存在であるとするなら、マスターであるということも恐らくない。
 かつて自分が多く戦ってきたシャドウとも、あるいはアサシンが生きていた時代のあらゆるものとも相似しないそれ―――あえて命名するならば"悪魔"であろうか。その悪魔は、推測でしかないが、恐らくはキャスターの手によって作られた、あるいは改造されてしまった存在なのだと認識している。
 つまるところ、この新宿において既に幅広く暗躍している主従が存在しているということの証左なのだ、これは。それが何者であるかは知らないし、別に事情を知りたいわけでもないが、仮に遭遇したとするならば問答無用で打倒すべき相手だということだけは、荒垣は理解していた。
 遠巻きにテレビを眺める子供たちは、目尻に涙をためて怖がる者もいれば、怪物という表記に心躍らせている豪気な者もいる。この新宿に安全地帯などない以上は無駄に心労を重ねても益などなく、ならばかえってそれくらい図太いほうがいいのかもしれないと、そんなことを思った。

 ちなみに、昨晩のことを黙ってると言っていた明彦はもうこの孤児院にはいない。問い詰めようと部屋まで赴いたところ、今朝早くに弁当片手に外出したと美紀―――明彦の妹だ―――が教えてくれた。恐らくはランニングついでにそのまま登校するつもりなのだろう。脳筋は放っておくに限ると、なんだかもう諦めた。

【で、これからどないする気や】
【同盟相手を探す。できれば魔術師あたりのな】
【ま、それが妥当なところやろな】

 じゃれる子供たちを適当にあしらいながら、念話でこれからの方針を確認する。
 自分たちの最終目標は聖杯及び聖杯戦争を仕掛けた何者かの打倒である。その願いの性質如何を問わず、自分たちを蘇らせた報いを受けて貰うというのが誰にも譲れない第一の方針であった。
 これはつまり、極論してしまえば、荒垣たちは他のマスターやサーヴァントの排除という行為を積極的に行わなくてもいいということでもある。無論のこと、討伐令を下された二人のような常識知らずも会えば叩き伏せるつもりではいるし、襲ってくるなら容赦はしないが、それだけだ。話が通じるというのであれば、何も目の色を変えてまで戦う必要はない。
 そしてこれが最も重要なことになるのだが、荒垣とアサシンは揃って魔術的な知識が皆無なのだ。聖杯というものに対しては申し訳程度に知識が割り振られてこそいるが、それだって聖杯を名乗る何者かに与えられたものでしかない以上、一から十まで信用しろというほうがおかしい。
 サーヴァントの全滅を除いた聖杯への到達方法や聖杯の解体方法はおろか、そもそも自分たちは聖杯が何なのかということすら知らないという有り様だ。端的に言って、そんなザマで聖杯戦争の破壊などという大仰な目標を達成できるとは、微塵も思えない。
 だからこそ、求めるのは魔術師の協力相手。何も仲良しこよしで一緒に頑張ろうとか言うつもりはなく、単に聖杯に関する知識を共有したいという、それだけの理由だ。
 勿論目標の共有ができるに越したことはないが、流石にそれは高望みというものだろう。討伐令のバーサーカー然り、街中に悪魔をばら撒いている奴然り、願いを叶えようと聖杯を求める連中はどいつもこいつも碌な奴がいない。
 最悪の場合は―――というよりはほぼ確実にそうなるだろうが―――無理やりに言うことを聞かせることも辞しはしない。

【そういうわけでだ。俺はさっさと"使えそうな奴"を探しに行きたいんだがな】

 そこで一旦言葉を切って、ちらりと後ろを垣間見る。
 視線の先には、今朝方荒垣に一週間の懲罰を言い渡した丸眼鏡の少女の姿。

 監視するように片時も目を離さずこちらを見つめてくる笑顔の彼女からは、「この期に及んで学校サボったら容赦しないぞ」という声が、鼓膜を介さずとも聞こえてくるようだった。

【……まあ、さっきも言うたけど、そんな焦る必要もないと思うで。お前の用事が終わるまではおれが色々やっとくからな】
【……すまん、頼んだ】

 苦笑するような響きに、荒垣は心底疲れたような様子で返した。






【落合方面(聖セラフィム孤児院)/1日目 午前七時】


【荒垣真次郎@ペルソナ3】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]召喚器
[道具]遠坂凛が遺した走り書き数枚
[所持金]孤児なので少ない
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を企む連中を叩きのめす。自分の命は度外視。
1.ひとまずは情報と同盟相手(できれば魔術師)を探したい。最悪は力づくで抑え込むことも視野に入れる。
2.遠坂凛、セリュー・ユビキタスを見つけたらぶちのめす。ただし凛の境遇には何か思うところもある。
3.襲ってくる連中には容赦しない。
4.人を怪物に変異させる何者かに強い嫌悪。見つけたらぶちのめす。
5.ロールに課せられた厄介事を終わらせて聖杯戦争に専念したい。
[備考]
  • ある聖杯戦争の参加者の女(ジェナ・エンジェル)の手によるチューナー(ギュウキ)と交戦しました。
  • 遠坂邸近くの路地の一角及び飲食店一軒が破壊され、ギュウキの死骸が残されています。



【アサシン(イリュージョンNo.17)@ウィザーズ・ブレイン】
[状態]健康、霊体化
[装備]
[道具]
[所持金]素寒貧
[思考・状況]
基本行動方針:荒垣の道中に付き合う。
0.日中の捜索を担当する。
1.敵意ある相手との戦闘を引き受ける。
[備考]
  • 遠坂邸の隠し部屋から走り書きを数枚拝借してきました。その他にも何か見てきてる可能性があります。詳細は後続の書き手に任せます。



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