○文族一級試験

  • 結果
 合格者無し。
 敢えて合格に近い人を上げるとすると、はるさん、へぼGSさん、玲音さん。
 ただし、残りの人と比べても、それほど大きい差はなく、このへんはいくらでも入れ替わる範囲である。

 個別の評にも、(自分のことを棚にあげて)色々厳しいことを書いているが、立候補して、〆切までに書き上げたという点で、全員、群を抜いている。
 心から応援するので、各自精進してもらいたい。

 また、個別評に書ききれなかったこともたくさんある。聞きたいことがあったら、いつでも海法までご連絡を。

  • 採点基準について

 厳しい結果となった。今回は一級試験ということで評価基準を厳しくしたからである。具体的には、お客として見た場合の視点を前提とした。

 人が何かを読む時、書いた人との関係は重要になる。
 例えば、クラスメートからもらったラブレターは、大きなインパクトがあるだろう。見ず知らずの、どっかの作家が書いた小説が、かなりの名作であっても、そのインパクトを越えるのは、なかなか難しい。
 そういうものである。

 逆に言うと、見ず知らずの人、不特定多数に感動を与えるのは、相手が多数であればあるほど難しい。
 そういうものである。

 今回は、そういう作者と何も関係ない読者の視点で採点をした。
 知らない人にこれを読んでもらったら、どう思うか?
 である。

 その上で、最終的にはこれは海法一人の意見である。海法がつまらないと思っても、受けるかもしれないし、逆もあるだろう。アドバイスの内容を含め、自分で判断してもらいたい。

  • バナナと地上絵

 今回は、「26万7千tのバナナでナスカの地上絵を描く」という二つのキーワードが与えられた。

 「26万7千tのバナナでナスカの地上絵を描く」というシチュエーションからして、なかなか考えるのが難しい。その過程を一生懸命説明している作品が目立った。

 ところで。
 見ず知らずの読者の人には、そういう作者の事情は、あんまり関係ない。
 「これらの短編は、「26万7千tのバナナでナスカの地上絵を描く」というお題にそって書かれました」と注意書きがあったとして、目を通すかもしれないが、たいして気にはしないだろう。

 お題を、一生懸命説明すること、説明に筋が通っていること自体は重要ではない。
 内容が面白いことが重要なのだ。

  • どこに着目するか?

 お話を書く場合は、どこを中心に面白く見せるかを考える必要がある。

 例えばアイディア重視型がある。「バナナと地上絵」という奇抜な組み合わせを実現させることで、驚きや笑いを取ろうというものである。

 アイディア重視型は、まずアイディアが面白く、度肝を抜くようなものである必要がある。
 また、こうしたギャグというのは、基本、説明が長くなると滑るものであるから、できるだけ簡潔にやるのがコツだ。
 アイディアの説明に必要な最小限に絞って、それ以外は、削りこむのがいい。ショートショートに関しては、星新一の作品で様々に窮め尽くされているので、是非読んでほしい。

例:ある日、地上絵が……

 ある日、ナスカの地上絵が動き始めた。有名な尻尾の丸まったサルの絵である。地面の溝が、毎日少しずつ地形に沿って移動するのだ。
 この怪現象に、たちまち世界各国から科学者と野次馬が殺到し、観光増収にペルー政府が喜んだのもつかのま。
 サルの地上絵は動くほどに成長を始めていた。線はより太くなり、溝はより深くなった。
 サルが移動した先の木々は、文字通り根こそぎ崩れ落ち、そして、サルの前方にはペルー市があった。
 絵を破壊しても無駄だった。地面が壊れようとも溝は地形に沿って現れるだけだった。
 あらゆる案が出尽くした末、「サルにはバナナだ!」ということで、ペルー中のバナナが集められ、サルの前に投下されたが、これも失敗に終わる。集められた27万tのバナナは、サルの絵の中……地の底深くに落ちていったにとどまった。
 既に避難が終わり、ゴーストシティとなったペルー市の直前で、サルが停止した。サルの前にあったのは、一つの落書き。
 バナナの落書き、である。
「そうか! 絵のサルには絵のバナナだ!」
 思えば、単純なことだった。
 早速、国連軍によるバナナの地上絵がペルー市前に建設され、絵のサルは、絵のバナナをむさぼった末に、満腹したのか動きを止めた。
 人々は、人類の知性の勝利に歓呼の声をあげた。

 だが、安心するのは早かった。
 翌年のある日。クモの絵が……。
(565文字)

 面白いかどうかは読者諸氏の判断に任せるとして、必要なら、これくらい短くできる、という話だ。ま、これはかなり短めなので、もう少し長くして読み応えを出してもいいが、一発ネタは新鮮さが命であるということ。

 次にストーリー重視型がある。バナナと地上絵を登場させつつ、きちんとした起承転結のあるストーリーで読ませようというものだ。
 この場合は、お話であるから、納得のゆく結末、構成であることが重要である。例えば、事件があって解決する、とか、そういう構図である。

 アイディア型の場合、オチはぶっ飛んでていいんだが(ぶっ飛んでないといかんのだが)、ストーリー重視型の場合、ある程度の予定調和を持たせる必要がある。同様に、バナナや地上絵は要素としてあればいいのであって、無理に中心やオチにすえる必要はない。

プロット案:
 頻発する異常気象でナスカの地上絵が崩れた時、大地を割って巨大な怪獣が現れた。地上絵は古の封印だったのだ。
 バナナ型の怪獣は、あっというまに周りの物質を喰らって巨大化してゆく。
 わずか数時間で27万tに成長した怪物。
 このペースで巨大化するなら、怪物が地球を完全に同化するまで、2日間を切る。
 国連軍は、除草剤で怪獣を足止めした後に、その体表に、封印の地上絵を刻む作戦を実行する。
 地球がバナナ化するまで、あと30時間……

 このプロットの場合、オチが書いてないことに注目されたい。
 バナナ怪獣と国連軍がぶつかって、どちらかがちゃんと勝てば、無理に奇抜なオチはいらないのだ。そこがアイディア重視型と違うところである。

 最後に、キャラクター重視型がある。
 ストーリー重視型と同じく、お話を作るが、ちゃんとキャラを立て、キャラの視点や行動を中心にお話を描いてゆく。
 キャラクターの葛藤が、どう提示され、どう解決されるかが重要である。
 ストーリー、設定の解決+キャラクター個人の葛藤の解決の両方を入れる必要があるため、ストーリー中心型より長くなりやすい。

プロット案:
 集団知性を持つ宇宙由来の植物、バナナ。
 遥か昔、バナナは二つに分かれて戦った。人と共に生きようとする神のバナナ。人を支配しようとする悪魔のバナナである。
 悪魔のバナナは破れ、封印された。
 だが、バイオテクノロジーが封印を破り、悪魔のバナナが現代日本に蘇える。
 悪魔のバナナを食べた人間は、徐々にバナナ人間になってしまうのだ。

 巫女の家系に生まれた芭蕉葉子は、ある日、温室でバナナの声を聞き、声に導かれてインカへ飛ぶ。
 あらゆるバナナの原種たるインカバナナの園で、神のバナナは葉子に、悪魔のバナナの復活を警告する。バナナの加護を得て目を覚ました葉子の全身には、かの地上絵の紋章が刻まれていた。

 一方、東京。妹をバナナ人間に殺された武佐健二は、姿形を自在に変えることのできるバナナ人間達に孤独な戦いを挑んでいた。

 悪魔のバナナを増産し、世界中に届けようとするバナナ人間達。
 葉子と健二は、力を合わせ、絶望的な戦いを始める。

 一応、このプロットを膨らませれば、小説一本以上にはなる。さらに膨らませれば大河小説にもできる。

  • 個別

  • 多岐川佑華

 「バナナで地上絵を描く」の説明だけで、話が終わってしまっている例。

 回答例1の理由が弱いので、回答例2を書いたということだが、それなら回答例2だけ出してほしい。あるいは、回答例2を出して、補足として回答例1をつけるべきだろう。
 自分が一番面白いと思うものを正面においてください。

 アイディア重視型としてはオチが弱い。
 ストーリー型として見た場合、搾取される植民地、バナナに飢えた少年と少女は、どうなるのか?、というのが基本的な問題だが、「地上絵がなぜできたか?」のほうが優先されてしまっているんで、散漫な印象に。

 少年と少女は可愛いかったです。

  • 槙 雅福

 アイディアものだが、アイディアが弱い。安直なギャグで落とすのは難しい。
 僕と室長のパートと、隕石パート。二つに分けるなら、もっと絡めるべし。

 室長は好みです。

  • 深夜
~バナナ26万7千tでナスカの地上絵を描く方法~
http://hiki.trpg.net/wanwan/?banana

 前半、調べたことをそのまま使ってしまっている。衒学で煙に巻く手法は、ありだが、わかったことを書き並べるだけでは読者はついてこない。
 バナナ相転移エンジンのアイディアは面白い。相転移エンジンがあったらどうなるか、というところをこそ、もっと掘り下げてほしかった。
 二段オチの二段目は、最初のオチに自信がなかったので蛇足をつけたように見える。

 バカSFネタで攻めてきたのは深夜さん一人なので、独自性という点では合格。どう他人と重ならないか、というのも、重要な戦略である。

  • 吾妻 勲

 火星に地上絵。
 スケールが大きいのは良いこと。
 最初の閃きとしてはそれでいいが、もうちょっと消化したほうがよい。
 どういう過程で、火星にバナナの地上絵が出現するのか、というのと、それをどう見せたら面白いか、という点を、もう少し煮詰めてほしい。

  • 玲音

 面白い。
 26万7千tのバナナの処理の仕方は誰よりも洗練されてるし、ナスカ星人も雰囲気が出ている。
 お題に沿おうとして、ラストで地上絵を強調しすぎている。さらりと流して、もう一泣かせできたら良かったかも。
 あと一歩。

  • 黒霧

 堂々たるキャラクター重視型。
 基本プロットも設定も面白いが、今ひとつ一人一人の印象が薄い。
 もうちょい全体を整理し、緩急おいて見せ場を作り、シーンの順番を整理したら、ぐっとよくなると思う。

 恋愛というところに落としたいのだと思うが、神無城が告白する流れが、今一つプロットから浮いている。もうちょっと、心境がどう変化していったのかがわかるように意識して書くと良いかと。

  • 嘉納

 主人公の名前、「丹波笹掻き」。「き」も含めて名前? それとも誤字?
 まぁ仮に「き」も含めて名前だとして、そういう説明がなければ読者は誤字と取る。

 こういう落とそうとする試験の場合、誤字ほど不利なものはない。
 どっちが面白いか決めるというのは悩みどころだが、だいたい同じくらい面白くて片方に誤字があったら、明らかに気楽に落とせるわけだ。ここ以外にも、改行や句読点、単なる誤字など色々あった。

 アイディア型だが、地口というのはアイディアの中で、もっとも安直なものの一つ。それで読者を面白がらせるのは不可能ではないが、死ぬほど大変である。もうちょっと考えたほうがいい。

 不可能じゃないというのは、やってる人がいるからで、本当にこの道に進みたいなら「銀河帝国の弘法も筆の誤り」他、田中 啓文の作品などはお薦め。

  • はる

 映画の予告編という形で、細かい設定やつじつま等を無視して、全部どーんとやってしまい、かえって細部を想像させる技。短くてテンポが良いので、読める。フェードイン・フェードアウト等、もう少し脚本用語を入れると、より、それっぽくなるだろう。
 解説は、長すぎると蛇足になるので、そこに重点を置くつもりがないのなら、もうちょっと切りつめても良い。

 楽しく読めました。

  • えるむ


 ひとりよがりな点が多い。
「Let's Over the Rainbow」という英語はない。
(6/8 加筆:これに関しては海法の勘違いで、古英語で、こうした言い回しが存在します。えるむさんよりご指摘を受けて訂正します。えるむさんには、お詫び申し上げます。失礼しました)
「267000 × 1000 × 2.2046 / 3 / 365」が、何を表しているのかが、わからない。
 ストーリーは、ゴージャスタイムズの一場面として始まるが、ゴージャスタイムズの説明がない。
 ボロステーションのコンサートが、結局、どう地上絵と関係するのかもわからない。なぜ二倍体が嫌いなのか(自分が遺伝子制御受けてることからの連想だと思うが)。ネコリスは結局何だったのか等。

 海法の読みが浅いところもあると思うが、読者がみんな深く読み込んでくれるというものではない。

 謎を残して余韻をもたせたり、読者に考えさせることで没入を高めたり、という風に、わざとわかりにくくするテクニックはある。
 だが、単に説明不足なものは、単に説明不足なだけだ。

 それはそれとして文章力、創造力はかなりのもの。
 磨けばもっと光るので、頑張ってほしい。

  • へぼGS

 プロットが弱い。
 現在の考古学者、シンガーと、過去の技師の話が交互に描かれ、最後につながるわけだが、つながり方が弱い。
 「器」というのも、具体的にどういうモノなのかがわからなかったため、印象が薄かった。

 キャラクターの印象は、はっきりしていたので、その筆力はある。
 次回に期待。
最終更新:2008年06月08日 01:04