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差し出されたデパートの紙袋を見て、成歩堂は(やっぱり・・・・・・)と思った。 「君には安物かも知れないが」 「あ、いや、それは・・・・・・」 口篭もった成歩堂を見て、御剣がフッと笑った。彼にはお見通しなのだ。 (こんな時にも皮肉かよ) 成歩堂はそうそう思ったが、あえて口に出すことでもないし、そもそも御剣が素直でないのは充分に思い知らされているので、彼なりの謝罪なのだと思うことにした。 「・・・・・・その、すまなかった・・・・・・」 御剣がぽつりと言った。 彼が買ってきた新しいカップに早速、紅茶を淹れて差し出したときだった。 「え?ああ、いいよ。本当に気にしてないから。逆に申し訳ないっていうか、ぼくがあんな事聞かなければ・・・・・・」 そこまで言って、成歩堂は自分の発言を後悔した。 御剣はわずかに身を硬くしたが、今度は何も落とさなかった。その代わり、二人の間に硬質の沈黙が降りる。 (まぁつまり、御剣には好きな人がいるわけだ) ちらりと向かい側を見ると、御剣は手に持ったカップの中に視線を落として身動きしない。ここは新しい話題を振るべきなんだろうな、と思いつつも成歩堂の思考は止まらなかった。 この手の話には慣れてなさそうだよなとか、どんなタイプが好みなんだろうとか、矢張じゃないけど案外モデルとかもいてそうだよなとか、あの性格で長続きするんだろうかとか。 沈黙に耐える顰められた眉。カップを持つ華奢ではないが形の良い綺麗な手。 恋人の前ではどんな顔をするのか。その手はどれほど優しく差し伸べられるのか。 凪いでいた心に波が起こる。 (いやいやいや!何を考えてるんだ、ぼくは・・・・・・) 「・・・・・・成歩堂」 「あ、はい?」 自分の考えに没頭して、御剣本人を忘れそうになっていた。 「何か話せ」 睨まれた。 「お前のそのすぐ睨む癖、直さないと女の子が逃げちゃうぞ」 「ム?」 茶化せば、心外だと言わんばかりの顔をされた。気付いていないのか。 一年経っても、仕事以外のことに関しては鈍感なやつだ、と成歩堂は思った。思って、一年の空白に改めて気付いた。 「お前がいなかった一年はさ・・・・・・」 言葉が零れだす。心の波が高くなっていくのを感じた。 「それについて君に語ることは無い」 御剣ははっきりと言った。拒絶の意思は感じられない。語りたくないのではなく、語ることに意味は無いからだ。 「うん。それでいいよ。お前は戻ってきたんだから」 何かを手に入れて。そして今よりも高いところへ行こうとしている。 置いていかれたくない。今度はもう二度と追いつけない。 「お前に謝らなくちゃいけないんだ、御剣」 ずっと伝えたかったこと。 荒波は心をかき混ぜ、底深く沈んでいた気持ちを浮かび上がらせた。 「一年前のぼくは、お前とちゃんと向き合ってなかった。昔の思い出の中のお前しか見てなくて、自分の理想を押し付けようとしてたんだ」 嫉妬なんてみっともないな、と成歩堂は語りながら思った。 そうだ、自分は嫉妬している。彼の中に自分はいないであろうことに。 先へと歩きつづける御剣。彼が何を見てきたかなんて知らなくてもいい。ただ、彼が今、何を見ているのかを知りたい。何を思っているのかを知りたい。彼のすべてが知りたい。 「だからお前が失踪した時も、裏切られたとしか思えなかった。でも、この間の事件で法廷に立ったときに、上手く言えないけどさ、感じたんだ。お前がぼくのこと信頼してくれてるって。それで初めて、自分が間違ってたことに気付いたんだ」 「そんな事を私が気にしているとでも?」 御剣が静かに言った。いつの間にかテーブルに戻されたカップ。俯きがちな顔からは表情が読み取れない。 「いや、なんか、言わないと気が済まなくって。ぼくもお前のこと信頼してるし、それに・・・・・・」 言葉は止まらなかった。 きっと自分じゃない他の誰かを好きな御剣。けれど伝えずにはいられない。 いつだって隣にいたい。彼の全てが欲しい。 「好きなんだ。御剣、愛してる」 御剣が顔を上げた。その目は驚きを隠せないでいる。彼の右手が拳を作るのを、成歩堂は確認した。殴られても仕方ない。 「馬鹿か、貴様は・・・・・・」 「軽蔑するんなら、しても別に・・・・・・」 いいよ、と言おうとして、今度は言葉が止まった。 「今頃そんな事に気付いたのか!」 厳しい口調とは裏腹に、俯いた御剣。耳まで赤く染め上げて。 「・・・・・・うん。ごめん」 成歩堂はテーブルを飛び越えるようにして、御剣を抱き締めた。 fin. [[戻る>逆転裁判]]
差し出されたデパートの紙袋を見て、成歩堂は(やっぱり・・・・・・)と思った。 「君には安物かも知れないが」 「あ、いや、それは・・・・・・」 口篭もった成歩堂を見て、御剣がフッと笑った。彼にはお見通しなのだ。 (こんな時にも皮肉かよ) 成歩堂はそう思ったが、あえて口に出すことでもないし、そもそも御剣が素直でないのは充分に思い知らされているので、彼なりの謝罪なのだと思うことにした。 「・・・・・・その、すまなかった・・・・・・」 御剣がぽつりと言った。 彼が買ってきた新しいカップに早速、紅茶を淹れて差し出したときだった。 「え?ああ、いいよ。本当に気にしてないから。逆に申し訳ないっていうか、ぼくがあんな事聞かなければ・・・・・・」 そこまで言って、成歩堂は自分の発言を後悔した。 御剣はわずかに身を硬くしたが、今度は何も落とさなかった。その代わり、二人の間に硬質の沈黙が降りる。 (まぁつまり、御剣には好きな人がいるわけだ) ちらりと向かい側を見ると、御剣は手に持ったカップの中に視線を落として身動きしない。ここは新しい話題を振るべきなんだろうな、と思いつつも成歩堂の思考は止まらなかった。 この手の話には慣れてなさそうだよなとか、どんなタイプが好みなんだろうとか、矢張じゃないけど案外モデルとかもいてそうだよなとか、あの性格で長続きするんだろうかとか。 沈黙に耐える顰められた眉。カップを持つ華奢ではないが形の良い綺麗な手。 恋人の前ではどんな顔をするのか。その手はどれほど優しく差し伸べられるのか。 凪いでいた心に波が起こる。 (いやいやいや!何を考えてるんだ、ぼくは・・・・・・) 「・・・・・・成歩堂」 「あ、はい?」 自分の考えに没頭して、御剣本人を忘れそうになっていた。 「何か話せ」 睨まれた。 「お前のそのすぐ睨む癖、直さないと女の子が逃げちゃうぞ」 「ム?」 茶化せば、心外だと言わんばかりの顔をされた。気付いていないのか。 一年経っても、仕事以外のことに関しては鈍感なやつだ、と成歩堂は思った。思って、一年の空白に改めて気付いた。 「お前がいなかった一年はさ・・・・・・」 言葉が零れだす。心の波が高くなっていくのを感じた。 「それについて君に語ることは無い」 御剣ははっきりと言った。拒絶の意思は感じられない。語りたくないのではなく、語ることに意味は無いからだ。 「うん。それでいいよ。お前は戻ってきたんだから」 何かを手に入れて。そして今よりも高いところへ行こうとしている。 置いていかれたくない。今度はもう二度と追いつけない。 「お前に謝らなくちゃいけないんだ、御剣」 ずっと伝えたかったこと。 荒波は心をかき混ぜ、底深く沈んでいた気持ちを浮かび上がらせた。 「一年前のぼくは、お前とちゃんと向き合ってなかった。昔の思い出の中のお前しか見てなくて、自分の理想を押し付けようとしてたんだ」 嫉妬なんてみっともないな、と成歩堂は語りながら思った。 そうだ、自分は嫉妬している。彼の中に自分はいないであろうことに。 先へと歩きつづける御剣。彼が何を見てきたかなんて知らなくてもいい。ただ、彼が今、何を見ているのかを知りたい。何を思っているのかを知りたい。彼のすべてが知りたい。 「だからお前が失踪した時も、裏切られたとしか思えなかった。でも、この間の事件で法廷に立ったときに、上手く言えないけどさ、感じたんだ。お前がぼくのこと信頼してくれてるって。それで初めて、自分が間違ってたことに気付いたんだ」 「そんな事を私が気にしているとでも?」 御剣が静かに言った。いつの間にかテーブルに戻されたカップ。俯きがちな顔からは表情が読み取れない。 「いや、なんか、言わないと気が済まなくって。ぼくもお前のこと信頼してるし、それに・・・・・・」 言葉は止まらなかった。 きっと自分じゃない他の誰かを好きな御剣。けれど伝えずにはいられない。 いつだって隣にいたい。彼の全てが欲しい。 「好きなんだ。御剣、愛してる」 御剣が顔を上げた。その目は驚きを隠せないでいる。彼の右手が拳を作るのを、成歩堂は確認した。殴られても仕方ない。 「馬鹿か、貴様は・・・・・・」 「軽蔑するんなら、しても別に・・・・・・」 いいよ、と言おうとして、今度は言葉が止まった。 「今頃そんな事に気付いたのか!」 厳しい口調とは裏腹に、俯いた御剣。耳まで赤く染め上げて。 「・・・・・・うん。ごめん」 成歩堂はテーブルを飛び越えるようにして、御剣を抱き締めた。 fin. [[戻る>逆転裁判]]

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