『まじっく⊆仝⊇ろ~ど』(1)

この世界は古来より4つの神々が作った世界・・それぞれの神は生命、大陸、海、気候といった必要な要素をそれぞれ創り上げてこの惑星を創った。そして神々は自らの特権であった知恵と心を人類と呼ばれる無数の生命体に宿していった、彼らは神から譲られた知恵と心で自らの潜在能力を活用した魔法を生み出し、それぞれの文明を築き上げて破壊と再生を繰り返していった。しかし魔法は発展したのと同時に天才大賢者はその膨大かつ強力な魔法で己が邪悪な心を具現化した9つの悪魔を産みだす、悪魔達は生みの親である大賢者を抹殺するとその強大な力と魔法で無数のモンスターを産みだし、人類達に戦いを挑んだ。
人類達は多大なる犠牲を払いながらも神々の力を借りて悪魔を各地に強固な封印を施して地下に沈めた。

しかし悪魔の脅威が去っても繰り返される破滅と再生で疲弊する惑星に危惧した神々は人類に女体化という試練を与え、度重なる争いを停滞させるのと同時に人類を試したのだ。やがて神々は4つの大陸で自らの存在を封印しながら自ら作り出した人類を見守り続けていた。



これはそんな世界に住む人々のお話・・






まじっく⊆仝⊇ろ~ど









豊かな自然と巨大な大陸が広がるフェビラル王国、この国家は元来として魔法によって自然と共存して大きな繁栄を築いていった魔法国家である。4大大陸の一つであるこの広大なライン大陸一帯を統治しており、人々は王家を慕いながら平和に暮らしていた。
そんな広大な大陸の一角にあるどこにでもあるような田舎町、160センチぐらいの青年が巨大な鍬で畑を耕しながら腰に巻きつけてある袋から作物の種を取り出してばら撒いていく、彼の名はフェイ=ラインボルト・・今年で12歳の誕生日を迎えた青年である、フェイはいつものように魔法を駆使しながら家業である農業に勤しんでおり1ヘクタールはある農場の種まきを終えると20キロある巨大な鍬を片手に自分の畑一帯を見遣る。

「ふぅ~、種まきは終わったから後は大地の魔法で成長を促進させよう。“大地よ・・その恵みを作物に注いだまえ! ガイア・パワー!!”」

フェイが魔法と唱え終えると、畑一帯は光り輝いて様々な作物が芽を出して成長していくと大小様々な実を付ける。そのままフェイは鍬を片付けると今度はこれまた自分の身の丈の倍はある巨大なカゴを楽々と背負いながら実った作物を収穫していく、こればかりは手作業でやらないと作物が傷んで売り物にならないのだ。
もっとも上質で味が良い作物を大量に魔法で作り出すのはかなり難しいことで並の人間ならば魔法に頼るよりも普通の農業をしていたほうが比較的簡単に作れる。

「これだけ魔法が発展すると便利なのは確かだけど・・頼りすぎはいけないよね」

作物の味を確かめながらフェイは商品になりそうなものだけを選び抜きながら作物の収穫を続けていく、彼の中で魔法はあくまでも日常生活においての補助に過ぎない・・魔法に頼りすぎてしまうと人としての生活を失ってしまうのだという両親の教えが彼の行動原理となっている、だからフェイは必要以上に魔法を使わずにこうして自分の身体を駆使しながら農業を行っている。カゴ一杯に作物を収穫し終えたフェイはそのまま畑の外に出ると今度は残った作物を外敵から守るために柵を準備する。

「さて、今日はこんなものかな。“母なる大地の源よ・・その大いなる生命を与えたまえ! ガイア・ソウル!!”」

今度は平原から土で出来たゴーレムが4体ほど現れる、彼(?)達はフェイから魔力を貰っているので1体ずつ各自に分かれて行動することが出来る。ちなみに魔力とはご存知のとおり魔法を使う際に絶対必要な力のことでその許容量(キャパシティ)は人によって様々・・訓練を積んだ人間であれば魔力の許容量も増やすことは出来るのだが稀に高い潜在能力の影響かとてつもないキャパシティの持ち主がいることもある。フェイもその例外に漏れず比較的魔力の消費の激しい大地の魔法を連発しているのだが、本人はいたって無自覚である。
ゴーレムたちは各自に散って畑の周りを見張るように動きながらフェイの命令通りに畑の守護を開始する。そのまま仕事を終えたフェイは大量の作物が入ったカゴを抱えながらそのまま家へと戻っていく、家の前には馬車が止まっており1人の女性がフェイを出迎える。

「あら、フェイ」

「兄さ・・じゃなかった、姉さん」

彼女はフランソア=ラインボルト・・通称フラン、彼女はこのとおり列記とした女性であるが彼女は元は男性でフェイの実の兄であったが童貞だったために15歳の時に女体化してしまったのだ。そんな彼女の職業は医者、治療の魔法を特化してあらゆる怪我や病気を治し続けている、彼女も例に漏れずに魔力のキャパシティは常人と比べるとかなり高いほうなので高レベルの魔法を連発しても何ら問題はない、持ち前の魔法の腕に女体化してからの美貌も手伝って彼女はちょっとした人気者なのだ。

「姉さん、仕事はいいの? 前の台風で患者さんが増えたんじゃ・・」

「まぁ、大概は王宮が各地に医者を派遣しているから問題ないわ。重傷者もあらかた治療したけど・・問題なのは薬に使う薬草を取りに行かないと」

大概の病気や怪我は魔法で治るとはいってもこの世界でも薬というのは大変重宝されているので医者としてフランも調合にはかなりの心得がある、事実フェイが病気になったときはフランの薬のお陰で何事もなく完治している。

「だったら、僕が街に行くついでに取ってくるよ。どこに行けば見つかるの?」

「・・ナンメル山脈よ」

「ええっ!! あそこはモンスターが大量に生息しているじゃん!!」

この世界にも例に漏れずモンスターが生存しているのはお約束なのだが、生み出している悪魔自体が滅んでいないのでモンスターは当然生存をしている。しかし力の源である悪魔が封印されていた影響もあってかモンスターの力はそこらへんに生息している野生動物よりも弱いので今ではたいした驚異ではない、魔法を覚えた子供でも容易に倒せるほどだ。フェイが行きたがらないのは単にめんどくさいだけ、それにナンメル山脈と言えば余りいい思い出がない。

「あそこは昔のトラウマが甦るよ・・まだ魔法を覚えたてだった僕と姉さんをナンメル山脈に放り込んだのは父さんと母さんだよ!!」

「それは幼かった時の話でしょ、確かにナンメル山脈を始め死の谷やバーン火山に群島の無人島にも放り込まれたけど2人で何とか耐えたお陰でこうして強くなったものだしね」

彼らの両親はフェビラル王国では知らぬものさえいないと言われる魔道戦士、産まれたときから並々ならぬ魔力と才覚を持った2人は幼い頃からこの両親に様々な修行をさせられてその力を開花させるに至っているのだが当事者である彼らにとってはトラウマ以外何者でもない。

「まぁ、そうだけどさ・・やっぱり嫌なものは嫌だよ」

「ウジウジ言わない! いい、2人が行方不明になってから半年・・兄弟2人で助け合って生きていこうって誓い合ったの忘れたの?」

「うん・・」

2人の両親は子供たちの成長を見届けたのを確認すると今度は別の大陸へと旅立っていったのだが、度々届いていた手紙もばったりと消えて今では行方知らず・・しかし並みの人物ならばいざ知らず、生きる伝説とまで言われている両親の実力はこの2人が一番よく知っているので息絶えているとは思えないのだが、行方が知らないのでそれを確かめる術は今のところない。

両親が行方不明になってからも2人はこうして力をあわせて助け合いながら懸命に生活をしている、それに両親から鍛えられた力と魔法に伝授された知識も相まって苦労は今のところない。

「というわけで私の馬車使って良いから売るもの売ってさっさと出かけなさい。これが必要な薬草のリストね」

「わかったよ・・行ってくる」

少しばかり気分が落ちながらもフェイは収穫したばかりの作物を売りに街へと向かうのであった。




首都・中央市場

フェイが収穫した大量の作物はこの中央市場に納品されて各市場に売りさばかれる、最初はフェイ個人で販売していたものの一回での収穫する量が多すぎたので今はこうして中央市場で販売を一任してもらっている、販売を統括している店主とも今では顔なじみの間柄だ。

「んじゃ、今日は16000TSだな」

「ええ!! 今日は出来が良かったんだからもう少し値上げしてよ~」

「ダメだダメだ。先月の台風でどこの農家も軒並みやられて厳しいんだよ! いくらフェイでもここばかりは譲れねぇな」

頑なにフェイの交渉を跳ね除ける店主、どうやら先月の巨大台風でどの農家も凶作なので市場の台所事情も厳しいようだ。ちなみにTSとはフェビラル王国で流通している通貨の単価であり命名も女体化から来ている。

「今じゃ他所も一緒だよ。これだけの作物に16000TSを出すのはウチぐらいだ」

「う~ん、16000TSがあれば今月はギリギリ生活できけど・・仕方ない、飲むよ」

「毎度あり!! そんじゃこれが代金な」

店主から代金を受け取るもののフェイはどこか不満顔・・それもそのはず今回の作物はどれも出来が良くて自信作だっただけに今回の収入は少しばかり悔しいところだが先月のフェビラル国家を襲った台風で畑を立て直すのにはかなり苦労したのを思い出す、あの時はあまりにもの膨大な惨状に絶望したフェイはフランにも協力してもらったお陰で短期間で畑の建て直しと自宅の修復に成功したのにこの現状はとてもじゃないがフランに伝えられない。

あの台風での損害の穴埋めは今回の収入である16000TSではとてもじゃないが足しにはならない、家の修復だけじゃなく逃げ出してしまった馬や家畜の費用はとてもバカにはならない、新しく家畜を飼いなおすのもお金と手間が掛かるし交配させて成長させるのにも時間が掛かる。いくら魔法でも動物の成長を促すことはできない、せいぜい上質な餌を生産することだけしか関の山だ。

「はぁ・・これじゃ、姉さんに叱られるよ」

「お~い、フェイ!!」

「あっ、翼君」

当然フェイの目の前に声を掛けたのは1人の青年の名は大前 翼。このフェビラル国家は他国との貿易は盛んに行われており、お隣のデスバルト共和国の文学を祖に漢字と言う独自の言語にまで発展させており今では人の固有名詞までに使われているぐらいの普及率を誇る、このフェビラル国家は魔法国家としても名高いが独自の文化を形成している側面もあり世界でも注目されているぐらいだ。

そんな翼の職業はフェビラル国家お抱えの戦士、恋人である魔法使いのつつじ、相棒の明とパーティを組んでいる。彼らとフェイの関係は前に飛来してきた巨大ドラゴンとその集団を退治した時に共闘した間柄である、いつもなら一緒にいる明とつつじが見当たらないのを見るとどうやら翼1人のようだ。

「今日も農業? よくあの台風の後で畑を立て直せたね、滅茶苦茶だったんじゃない?」

「まぁ、姉さんに色々手伝ってもらってね。つつじちゃん達が見当たらないようだけど・・」

「2人は各地の復旧作業に当たっている。凄い台風だったからね、王宮は大慌てで魔法で色々直したりしているよ」

「そっちも大変だったんだね」

台風当日の日はフェイも畑と家には通常よりも上位な大地の魔法で守りを固めていたのだが畑は無残な姿に成り果てて家のほうも原形は留めているもののあちこちが壊れてしまって今でも修理しているのが現状だ、それに家畜小屋にも直撃して丹精込めて育て上げた家畜たちは散り散りバラバラ・・フランにも協力して魔法で何とか探したのだが大概は野生動物とモンスターの餌になっていて生き残っているのが今の馬一頭だけである。

フランの方は仕事に必要な薬品や薬草などは無事だったのだが、足である馬がいないので仕事にも支障をきたしている、一応魔法で空を飛んで移動することは可能ではあるがそれだと無駄に魔力を消費してしまうのでいざと言うときに魔力不足で治療が出来なくなってしまうのだ。今はフェイと共同で馬車を使っているのだが馬を早く揃えないとこっちも仕事にならない。

「それにしても何でフェイは農家してるの? 前にドラゴンの親玉を一瞬で退治した腕前なんだから王宮で働きなよ、その腕だったら隊長クラスは確実なのに」

「う~ん・・前にも言ったけど両親が反対してるからダメなんだ」

フェイの両親は日に日に力をつけていく子供たちの強大な力を目の当たりにして2人にある言いつけを守らせている、“国に絶対に属するな! その力は常に困っている人たちのためだけに使え”2人の強大な力が国同士の戦争に利用されるのを危惧した両親は常日頃から2人にはこの言葉を修行をつけた時から常に言い聞かせておりフェイとフランはこの両親の言いつけをきちんと守り通している。それに彼ら2人からすればドラゴン退治など幼い頃から両親に何度もやらされていたし、修行の一環でお隣のデスバルト共和国の最北端にある凶暴なドラゴンの魔窟で名高いクラフト・キャニオンへ装備も何もなしに4ヶ月間放り込まれたのでドラゴン退治など何ら抵抗など感じない。

ふとフェイは昔のトラウマを思い出してしまって閉口してしまっているが、翼はそんなフェイの気持ちなどお構いなしに残念そうな顔つきである。

「勿体無い話だね。でも無理強いするのはよくないし・・」

「ハハハ・・ゴメンね。こっちも台風で家畜や馬がいなくなって困ってるんだよ」

「馬なら、兵舎に一頭ぐらいなら余ってるよ。何なら僕が話をつけようか?」

「いいの!? 牡馬がいれば何とか繁殖できるから助かるよ」

思わぬ収穫にフェイは思わず歓喜してしまう、今の馬は牝なので牡馬さえいれば何とか繁殖にこぎつけることが出来るので馬車もフランと共有しなくて済む。

「ああ、確か余っているのは牡だったからねそれにフェイにはドラゴン退治のときにも手伝ってもらったからお安い御用だよ」

「ありがとう、それじゃ早速王宮に行こう」

「そうだね、僕も報告がてら行かなきゃいけないから一緒に行こうか」

翼はフェイの馬車に乗り込むと2人は王宮に向けて馬車を進める、ホクホク顔のフェイはこれから起こる困難など知らず馬車を王宮に向けて進めていくのであった。



フェビラル王国・DT宮殿

翼と一緒に王宮に着いたフェイはそのまま離れにある兵舎で貰う予定の馬を観察する、体格や健康状態ともに問題はないのだが肝心の性格が臆病で戦闘用には向いていないようで軍馬としては使えないのだ。なのでこのままフェイに貰われても軍としては何ら問題はないし後ろめたさがないので大助かりである、後は馬を管理する軍団長と翼の話し合いが終わればこの馬は正式にフェイに委譲されるのだ。

「うちの馬と相性も良さそうだし・・あの時はドラゴン退治に参加して良かったよ。あっ、翼おかえり」

「フェイ・・」

再びフェイの元に翼が現れるのだがその表情は先ほどとは打って変わってどこか申し訳なさそうな感じだ。

「ど、どうしたの・・なんかあったの?」

「すまん、馬は上げるが・・条件がついた」

「え・・条件?」

なにやら嫌な予感が思い浮かんでしまうが既に翼に頼んだ手前として断るわけにはいかない、もし断って薬草を取りに帰ったとしてもフランの怒る顔が目に浮かぶのでそれだけは出来ることなら避けておきたい。そのまま覚悟を決めたフェイは翼から条件を問い質す。

「翼、条件ってなんだい?」

「それは・・盗賊退治だ。詳しいことは国王から話があるはずだ」

「こ、国王って・・そんな大きな話なのかい!!!」

どこかのRPGのように一庶民が国王との拝見など本来ならばありえない、自分の両親はどうなのかはわからないが・・とりあえずやることはやって馬を受け取って帰ろう、翼には悪いが両親の教えもあるのでこれからは国とは出来るだけ関係を絶っておいたほうが良さそうだ。

「とりあえず、宮殿の中に案内するよ。国王陛下がお待ちだからね、馬はこっちで預かっておくから安心して良いよ」

「わかった」

そのまま翼の案内の元フェイは宮殿の中を進んでいき国王の待つ客間へと通される、これはフェイが一般人のために翼が配慮したもの・・一応一国の主であるので周囲のしがらみとかが色々あるのだ。



「それじゃ、待ってて。もうすぐで来られると思うから」

「うん、ありがとう」

翼が退室した後、1人残されたフェイは異様のない緊張感に包まれる。これからこの国の指導者と会うのだからそれは無理もない話しだろう、それから数分後・・使用人に伴われて見た目とは裏腹に簡素な衣装を纏った2人の男女が現れる、というか女性のほうは簡素と言うか女性の戦士に支給される制服である、彼らがこのフェビラル王国を統べる国王とその女王で名をシンジュ=フェビラル、ルリ=フェビラルといった。

「待たせて悪かったな。俺が国王のシンジュだ」

「私はこの国を守る戦・・じゃなくて女王のルリです」

「どうも・・フェイ=ラインボルトです。この度は国王陛下及び女王陛下にお招き頂いて大変光栄であり・・」

「硬い硬い、ご両親みたいにタメ口で結構だぜ。何せ先の大戦では2人によって救われて・・」

「シンジュ、その話はまた今度の機会で・・フェイ君が困ってるよ」

ルリに止められてシンジュは一呼吸置くと改めて今回の依頼をフェイに説明する。

「実は台風の騒動に便乗して略奪をする盗賊を退治してほしいんだ。一味の名前はサガーラ盗賊団、自然の要塞とも言われるナンメル山脈に潜んでおりその被害はかなりのものだ」

「あの・・失礼ながら盗賊退治であれば何も僕じゃなくて軍がやればいいのではないのでしょうか?」

「こっちもそれなりの手馴れを要して鎮圧部隊を編成して退治に向かったけど結果はすべて返り討ち・・兵の被害は少なく見積もっても一個師団以上に相当するわ、中には熟練の魔法使いや剣士もいたから国とすればかなりの損害よ」

「というわけだ。相手はただの盗賊ではない、こんな時に君の両親がいればいいのだが残念ながら行方知らず・・その偉大なる魔道剣士の血を引いた君に依頼したと言うわけだ、聞くところによると以前に飛来したドラゴン集団を瞬殺したと聞いている」

どうやら翼たちによって以前のドラゴン退治の話しも耳に入っているようだ、下手に断ったら自分の身が危ない気がする。自分はバリバリの戦闘派である両親とは違って平穏に暮らしたいほうなのでなるべくなら穏便に済ませておきたい、それにナンメル山脈の薬草を取りに行かないとフランに叱られてしまう。

「わかりました、お引き受けします。丁度ナンメル山脈には用事もありますし・・」

「ありがとう! お礼はたっぷりと弾むわ」

「馬一頭だと不釣合いだしな。それにこれから戦いに行くのだから武器や防具も必要だ」

「いえ、馬一頭だけで充分です。それに武器や防具も必要ありません、魔力増幅装置の類は身につけてますから」

フェイの右手の親指に装備されている指輪には魔力増幅装置と制御装置を兼ねており、下手なアイテムよりもかなり効果がある。これは両親がフェイだけのために作ってくれた特注品で他人がつけてもただの指輪い過ぎない。
それにあまり無茶な要求をして国との関係を結ぶとまずいのでここは当初の予定通りに馬一頭だけにしておいたほうが利口である、もし両親が帰ってきて国と繋がっているのがバレてしまえばあの地獄以上の日々を当分過ごさなければならないだろう。

「では、ナンメル山脈へ向かいます。見送りは不要ですので馬車を預かってもらえますか?」

「わかった、責任を持って預からせて貰うよ」

「気を付けてね」

シンジュとルリの見送りを受けながらフェイはそそくさと外に出るとそのまま力を念じて詠唱を唱え始める。

“風よ・・我が身を包み委ねたまえ!! 飛翔せよ!!”

そのままフェイの身体は重力を無視して空に浮かび上がると鳥のように大空を駆け巡って天空を駆けてナンメル山脈へと向かう、この魔法は風の魔法の一つで文字通り飛翔。その単純かつシンプルな魔法であるが習得にはかなり難しく数ある魔法の中でも上位に相当する、魔法国家であるフェビラル王国でも飛翔の魔法が使えるのはほんの少数・・若いながらも楽々と扱うフェイの実力は計り知れないものがある。

久々の魔法にフェイも僅かなブランクを感じながらも身体のうちにあふれ出す魔力にかつてフランと行ったあの修行の日々を思い出す。

「久々に農業以外で魔法を使うけど・・威力を制御しないとね」

いざと言う時のために姉のフランと一緒に修行しているフェイであるが久々の実戦なので制御できるかどうかは心配なのところ、相手は同じ人間なのだから極力戦闘は避けておきたい。そんなことを考えているとあっという間にナンメル山脈へと到着するとそのまま魔法を解除して降り立つ、この美しい自然と山々の数々を見ていると幼い頃ここで両親に叩きのめされたことを思い出す。

「ここは相変わらずだなぁ・・2人とも容赦なかったし」

盗賊団のアジトを探すために幼き頃の記憶と照らし合わせながら険しいナンメル山脈を歩き続ける、ついでにフランの探していた薬草を収穫するのも忘れない。しかし盗賊もこんなところにアジトを構えるとは困ったものである、いくらフェイでもこんな天然の魔窟の中から盗賊を探し当てるのは骨が折れる。

(全く、戦闘を考えたら街中よりかはマシだけど探す身にもなって欲しいよ)

生い茂る草木を掻き分けながらフェイは盗賊探しを続ける。




盗賊団アジト

ナンメル山脈にあるとある洞窟、ここがサガーラ盗賊団のアジトである。構成員は意外にも2人だけ、見た目は世の女性ならば誰もが羨む超絶プロポーションを誇る盗賊団首領の相良 聖と女性と思わしき顔立ちのこの人物、その名は・・

「お芋たん言うなッ――!!」

「うるせぇんだよ!! ちょっとは黙ってろチビ助!!!!」

「す、すんません・・」

聖に怒鳴られてすぐに小さくなってしまった彼の名はお芋たん。よく周囲からは女性と間違えられるのだが・・信じがたいことに男性であり、ついてるものはきちんとついている、そんな彼の得意としているのは魔法であり常人では習得するのに時間が掛かる上位魔法をそれなりに扱える。

そんな彼らはこのアジトを基点にフェビラル王国を始めとして様々な諸国の貴族達を中心に荒しに荒しまわっているイケイケの盗賊団だ、現にフェビラル王国の軍隊を退けた実力は業界の中でもかなり評価されているほうだ。

「親分、貴族ばかり狙うのはやめませんか」

「あのなぁ、弱っちぃ奴等からぶん取ったって高が知れてるだろ。ボンボン貴族のほうが取った時の収入が大きいじゃねぇか」

「そりゃそうですけど・・親分が強いのは知っていますけど、折角綺麗な姿で女体化したんだから女として余生を生k――フベラッ!!」

魔力を帯びた拳がお芋たんの顔面に直撃して非常に硬い岩壁に叩きつけられてしまう、聖の得意技は自身の魔力を女体化してからも変わらないその強大な力と合わせて叩きつけるパワーファイト、しかも女体化してから俊敏さが増しておりタイマンであれば無類の強さを誇る。お芋たんの魔法と聖の格闘のコンビネーションによって2人は今日までにこの弱肉強食の盗賊家業を続けられたのである。

「うるせぇ!! 俺は昔から野郎たちを叩きのめしてここまでやってこれたんだよ!!」

「ずびばぜん・・」

聖の気性の激しさにお芋たんは手を焼くもののこれもコンビの宿命としてもはや諦めている。

「ったく、この前はあの男女如きに手こずりやがって・・」

「仕方ないでしょ、あまりにも強かったんだから・・ウチの魔法も万能じゃありません」

前に貴族の屋敷に忍び込んで金品を強奪した2人であったが、貴族お抱えの夫婦剣士であった光と明に思わぬ苦戦を強いられてた苦い記憶がある。あの時は2人とも完全に逃走スタイルであったので力をセーブして戦ったのは辛かったのだが決死の逃亡劇の末に何とか逃げ出すことには成功したのだが奪った金品の一部を失わざる得なかったのだ。

「本気でやれば楽勝ですけど盗む時は力を抑えないと後々考えたら面倒ですし・・」

「最近は派手に暴れまわったお陰で警備も堅くなってやがるしな」

「名前が売れれば売れるほど仕事がやりづらい・・盗賊家業の因果ですよね」

このアウトローの世界は非常に厳しく彼らを襲うのは何もフェビラル国家の軍だけではない、時には同業者である盗賊の縄張り争いにも巻き込まれることもあるのだ。某仲良し4人組の一角で盗賊狩りを趣味とする赤き眼の魔王の魔法を放ったりする物騒な人物がどこかの世界にいるとかいないとか・・

しかし彼らも一生盗賊を続けていくにも無理はあるのでどこか見切りをつけるのも大事である。

「ま、蓄えはあるし暫くは休業しても大丈夫だろうな」

「そうですね、後はアジトを変えるのとちょっかいかけてくる輩達を排除しましょう。いつまでもこうして洞窟に篭っているわけにも行きませんし・・」

「面倒くせぇがしかたねぇな。んじゃ明日に備えて今日は寝るか」

そのまま彼らは食事を終えるといつものように穴倉生活を脱するためにも行動を開始するまでだ。


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最終更新:2012年01月12日 22:22
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