最近、風邪が冷たくなってきた。葉は鮮やかに紅葉し、一部は地面に舞い散った後がある。
バイトの帰りには先輩と二人でそれを眺めながら帰るのがお決まりになってきた。
思えば、先輩と付き合ってそろそろ3ヶ月程になる。
遊園地の時はいろいろあったが、今では良い思い出と言えるかもしれない。
俺の睾丸がダメになるようなこともあの二人組に因縁をつけられることもなかったわけだし。
だが、未だに解決していない問題が一つだけある。
俺の童貞のことだ。
タイムリミットまであと4ヶ月。
それなのに俺と先輩の関係はほとんど進展していない。
せいぜい、『仲の良い先輩と後輩』だったのが『友達以上恋未満』になったくらいだ。
あの時抱きしめただけで、あとはたまに手を繋いだり腕を組むくらいだ。
正直なところまだキスもしていない。
出来ないことに何かと理由をつけるのは簡単だ。
お互い初めての恋人だからだとか、先輩がもうすぐ受験生になるからだとか、先輩は女体化してるから俺は気を使ってるだけだとか。
だが、それは言い訳でしかない。
俺がキッカケを見つけられず、先輩を誘えない。それだけなのだ。
「リョウくーん、なんかぼんやりしてるけど大丈夫?」
「大丈夫ですよ。考えごとしてただけです」
どうやったら先輩とセックスできる雰囲気に持っていけるか考えてました、とは口が裂けても言えない。
先輩はいつも通りだ。悩みのなさそうな屈託のない笑顔。
逆に俺の心とシンクロするかのように空は一面灰色に曇っている。今にも雨が降り出しそうな空模様だ。
「なんかそうは見えないんだよなぁ……明日から連休だっていうのに。何かバイトであったっけ? それとも学校関係とか?うーん……」
先輩はああでもないこうでもないと一人議論を始めている。
その時、鼻に水滴が落ちた。
「…………雨?」
「うわっ、雨かー。どんどん強くなってるし…………結構やばくない?」
そんなことを言っている間にも雨脚はどんどん強くなっていく。
このままでは間違いなくびしょ濡れコースだ。
小さいビー玉のような水滴が容赦無く俺と先輩を濡らしていく。
「とりあえず俺の家にきてください!」
とにかく雨宿りできる場所が必要だ。
俺は先輩の手を掴み走り出した。
ここからなら走れば俺の家まで5分か10分でつくだろう。
「えっ、ちょちょ、ちょっとリョウくん!まった!タイム!」
「何ですか!?雨の音と走る音ででよく聞こえません!」
「もういい!とりあえず走ろ!」
既に道路には水たまりができ始めている。
もしかしたら夜の間ずっと続くんじゃないだろうな、この雨。
最終更新:2014年04月19日 15:03