USS 小説22


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付与魔術を覚えよう22  ... 著 / 優有

この屋敷の下男と一頻り談笑し、昔話に花を咲かせる。
その内容はほとんどが
「昔はワルだったなぁ」
「随分と丸くなったなぁ」
のどちらかだった。

鹿の獣人は元々この街の住人だ。
悪さをしていた頃の仲間が、真面目に仕事をしている現場を見つけた。
それは喜ばしい事でもあり、気恥ずかしいものでもあるようだ。
照れ隠しもあって、だんだん話がお互いの過去の暴露が混ざってくる。

「金持ち狙いのスリやってた奴が、こんなとこでなぁ。なんか盗んでんのか?」
「恩人を背中から刺した奴が女を仲間にしてんのか。ウリか?」

仲良く笑いあっているような、今にも掴みかかりそうな笑みを浮かべている二人に対して、
彼らの反応は様々だ。
猫の獣人は引いているし、白熊娘は眠りかけている。
当時を知る馬の獣人は懐かしそうにしながら、無意識に背中に手を当てていた。
「で、貴方は依頼についてご存知ですの?」
若干苛立ち混じりに狐娘が問う。
「あ? 知らねえな。つうかお前、胸ねぇな? 売れねぇだろ?」
苛立ちが殺意に変わるのを感じても、彼らの反応は変わらない。
「待ちたまえ、槍は良くない」
「大丈夫、死ななければ直せますわ」
「…何をしてるんですか」
メイドの呆れた声で、一同が止まる。

依頼主の
「獣人なんぞに納得のいく仕事を出来るとは思えん」
という言葉を裏付けるような様子に触れる事なく、メイドは去って行った。
下男に対しては蔑むような目をしていたが。

食事は簡素なもので、彼らには物足りない量だった。
普段携帯している保存食をつまみながら、音が鳴るのを待つ。
「明日も仕事があるからな」
と言って下男が食器を持ち去って少し。
白熊娘が完全に熟睡し、狐娘と猫の獣人が船を漕ぎ始めた頃。

ピピピピッ。
ピピピピッ。
ピピピピピピピピピピピピッ。

音が鳴った。
音量はそれほどには大きくないが、彼らの目を覚ますのには充分だった。
「鳥?」
その音は鳥の鳴き声に似ていたが、抑揚も無く同じリズムを繰り返す。
どうやらリズムを繰り返す毎に、少しずつ音量が大きくなっているようだ。
特に物が無い部屋の中には、その音源となるような物は無い。
反響しているため音源がわかりにくいが、動いている気配も無く生き物の気配も無い。
「…地下?」
それでも聞き分けたのは白熊娘に、馬の獣人が同意を返す。
「そこと、他にも空いているが、床の隙間から音が漏れているな」

五回同じリズムを繰り返し、次のリズムの途中で、

カシッ。

と強めの音が鳴った。
同時に鳥の声のような音は止まり、静寂に包まれる。

「…止みましたね」
「みてぇだな。床に穴空けりゃ、何が鳴ってんのかわかりそうだな」
「そんなこと、依頼主が許可しませんわよ」
「んじゃあ、音が漏れねぇように穴を塞ぐか?」
「いや、それは根本的な解決じゃないと思います」
「この下には何処かから入れるのだろうか?」
「階段は無かったと思いますけど」

一般的には地下は一階までしか造らない。
だが、屋敷の規模や家主の嗜好などで、更に下の階層が造られる場合がある。
「依頼人に穴を開けて良いか聞きますか?」
「あー、だとしても、明日にしようぜ。もう寝てんだろうし、急ぐ理由もねぇしな」
依頼を早く解決した方が、依頼主は早く安心出来るだろう。
だが、そうなれば再び酔客の相手をさせられる事になる。
心の中で、
「ごめんなさい。もう少し時間をかけて仕事をします」
と猫の獣人が謝っていたが、気づく者はいなかった。

野営をしている訳では無いので、見張りはいらないだろう。
そう結論づけ、その部屋の中で雑魚寝をする事になった。
早くも寝直して熟睡してしまった白熊娘を運ぶのが難しいという理由もあったが、
寝床の提供自体が無かった。
夜間に音が鳴る原因の調査なのだから、現場を離れる訳にもいかない。
一応、日が登れば外の井戸を使って良いと言われている。
普段は宿で湯浴みをしている狐娘にとっては文句の言いたいところではあったが、
依頼である以上は口に出さなかった。
代わりに猫の獣人を睨んでいたが。

皆よりも早く寝入っていた白熊娘が目を覚まし、ぼんやりした頭で
「ここどこだっけ?」
と寝ぼけながら猫の獣人を抱きしめて二度寝。
その力に猫の獣人がうなされ始めた頃、
一同を目覚めさせたのは昨夜聞こえた鳥の鳴き声のような音では無く、
屋敷中に響くほどの怒声だった。



今回の付与魔術


【昔々あるところに】
(ロンロン・タイム・アゴー)

素材:対象の所有物
効果:所有物を持っていた時の思い出を語らせる。
黒歴史や忘れていた記憶なども語らせる事がある。
詠唱:「【昔々あるところに】斧を手にした血気盛んな青年がいました」
代価:対象の記憶力によっては思い出が美化されていたり、
創作が混ざる事がある。