「・・・と、・・うと?しゅうとー?」
「んっ・・・」
いつの間にか眠ってしまったのか、瞼をこすりながらソファーから身を起こす。
「お母さん?おかえ・・っふへ!?」
視界から人が消えたと思った瞬間、体の自由がなくなる。お母さん?・・・いや違う、母は今日は仕事で遅くなると言っていた。それにいきなり抱きついたりしない。
「・・・誰?」
まだ意識がはっきりしないまま怪訝そうに尋ねると、抱きついている主はクスクスと体を震わせている。
「修斗君はま~だ寝ぼけてるんですかぁ?」
声と同時に体に自由が戻る。
目の前には自分と同じ顔が笑っていた。
「にっ・・兄ちゃん!」
「ん?」
「なんで・・なんでここに!」
兄とは両親が離婚してからはそれぞれの親の元で暮らしていた。
父は兄が母と会うのを嫌っており。
その為に僕と兄が会うことも父は禁じていると聞いた。
「鍵がかかってなかったから入っちゃった」
「そうじゃなくて!・・・って何やってんの!?」
「だめですよ?ちゃんと鍵はかけないと」
クスっと笑いながら兄が答える。
あんたが言えた立場か?笑ってないでちゃんと人の話を聞け!
「大丈夫、父さんは今出張中で居ないから」
「あ、そうなんだ。」
求めていた質問の答えが返ってきて少しほっとする。
何時も兄は人の聞きたい事をわかっててとぼける所がある。
顔も声も背の高さも変わらないのに、性格だけは違うなんてちょっと可笑しい。と思った
「そうそう、さっき母さんから電話があったよ」
「電話にもでたの?」
「うん、やっぱり双子だとばれないものだね」
呆れた。いくら声が一緒といってもばれたらどうするつもりだったんだろう
「で、お母さん何だって?」
「今日は帰れそうに無いって。」
「そっか・・・」
電話と聞いて予想はしていた。
離婚してからと言うもの、生活費を稼ぐ為に母は働きっぱなしで帰れない事もある。
仕方ないと分かっていてもやはり家に一人というのは寂しかった。
「じゃぁ今日は泊まっていっちゃおうかな~」
「は?」
「修斗が寂しくないように!」
クスクスと笑いながらまた抱きついてくる。
「ちょっと重いー!それに別に寂しくなんてないし!」
「ふーん?本当かな?」
「ほんと・・・ふや!やめ!あはっ・・あははは!」
兄お得意のこちょこちょ攻撃だ。