著者不詳
夏が来ます。
競い鳴く蝉たちは音を支配し、
白く輝く入道雲は空を支配する。
バケツの中の水が宝石のような輝きを宿し、
力強い影達は大地に真っ黒な染を作る。
時々思い出したように吹く風が風鈴を奏で、
あの人の面影をそっと思い出させてゆく。
ちくりとした痛みにも似た想いが駆け抜け、
じんわりとした幸福感が押し寄せてくる。
貴方が酷く激しいやりかたで僕に刻み付けていった記憶は
いつまでも僕をあの夏に縛り続ける。いつまでもいつまでも。
兄さん、また夏が来ます。