貴之と貴司(7)
著者不詳
やっぱり兄さんは家をでるんだろうか。なんだか絶望的な気持ちに
なってきた。
「アパートの話は?」
自分でもちょっと恥ずかしいくらいに声が震える。
「ん?それか、まだ決めたわけじゃないんだけどな」
家から会社までだって全然遠くないのに、なんで家をでちゃうの?
「家を、出たいの?」
もう、なんでか涙が次から次に沸いてきて、ちょっとしたパニック。
「そういうわけでもないんだけどな」
僕は顔を上げることもできず、ぐしぐしと涙をこすり続けた。
「じゃぁ、なんで!」
恥ずかしさを紛らわせようと、ついつい声が大きくなちゃった。
「まず落ち着けって」
「うん、ごめんなさい」
僕は自分が幼いってことをわかってる。そしてこうして泣いている。
兄さんにはさっぱり思っていることをちゃんと伝えられない。
僕は兄さんを困らせてばかりいる。それを僕は恥じている。
兄さん、僕が恥じて泣いているってことがわかってもらえてる?