「しまったなぁ」
寒風吹きすさぶ中、僕は一人つぶやいた。
家の鍵を忘れてきて、締め出されてしまったんだ。
お母さんが帰ってくるのは遅いし、それまでどうしようかととぼとぼ歩いていると、
道のど真ん中で突っ立っているきーちゃんに出会った。
「きーちゃん、何してるの?」
ぼんやり空を見上げていたきーちゃんに声をかける。
「ん、ゆーちゃんか。雲の形が変わってくのを見てたんだ」
「こんなところで…寒くないの?」
「小松フォークリフト型だった雲が、豊田自動織機のフォークリフトに変わっていくのが面白かったものでつい」
「そ、そう…」
幼稚園の頃からの付き合いだけど、いまだにきーちゃんが分からないときがある。
「確かに寒くなってきた。風もきついし」
「あ、雪だ」
頭の上は晴れているのに、ちらちらと雪が舞い始めた。遠くの空に広がってる雲から風で飛んできたのかな。
「まずい。吹雪いてきた」
きーちゃんが深刻そうな顔で言う。……吹雪いて?
「このままだと遭難してしまう」
「こんなとこで遭難なんてしないよー」
「雪山を舐めるなー!」
「ええー?」
どうやらきーちゃんは、雪山遭難ごっこを始めたみたいだった。唐突になりきりごっこを始めるのはきーちゃんの癖だ。
「縦走路から外れたのかもしれない。窪地の積雪は危険だ。早くビバークするところを見つけないと」
やけに設定が凝っている。
「ぐずぐずしてると死んじゃうよ」
そう言ってきーちゃんはとっとこ歩き出した。仕方なく後をついていく。
到着したのはきーちゃんの家だった。
「ちょうどいい穴倉だ。ここでビバークしよう」
「お邪魔しまーす」
きーちゃんの家も親が共働きで、昼間の間はいないことが多い。それでもなんとなく一声かけてから家に入る。
「なんだか眠たくなってきた。もうだめだ」
部屋に入ってもきーちゃんの遭難ごっこは続いていた。
「ねるなー、ねたらしぬぞー」
適当に合いの手を入れる。
「寒いよー、ゆーちゃん裸であっためてー」
「はいはい」
って、きーちゃん、本当に服を脱いでる!?
「ね、本当にあったまるのかやってみようよ」
「ふえっ?」
それって、きーちゃんとスッポンポンで抱き合うってことだよね……。
「ボク、ゆーちゃんがどれくらいあったかいか、知りたいな」
と、僕の耳元でささやくきーちゃん。
「……いいよ」
僕はちょっとどきどきしながら答えた。
寒風吹きすさぶ中、僕は一人つぶやいた。
家の鍵を忘れてきて、締め出されてしまったんだ。
お母さんが帰ってくるのは遅いし、それまでどうしようかととぼとぼ歩いていると、
道のど真ん中で突っ立っているきーちゃんに出会った。
「きーちゃん、何してるの?」
ぼんやり空を見上げていたきーちゃんに声をかける。
「ん、ゆーちゃんか。雲の形が変わってくのを見てたんだ」
「こんなところで…寒くないの?」
「小松フォークリフト型だった雲が、豊田自動織機のフォークリフトに変わっていくのが面白かったものでつい」
「そ、そう…」
幼稚園の頃からの付き合いだけど、いまだにきーちゃんが分からないときがある。
「確かに寒くなってきた。風もきついし」
「あ、雪だ」
頭の上は晴れているのに、ちらちらと雪が舞い始めた。遠くの空に広がってる雲から風で飛んできたのかな。
「まずい。吹雪いてきた」
きーちゃんが深刻そうな顔で言う。……吹雪いて?
「このままだと遭難してしまう」
「こんなとこで遭難なんてしないよー」
「雪山を舐めるなー!」
「ええー?」
どうやらきーちゃんは、雪山遭難ごっこを始めたみたいだった。唐突になりきりごっこを始めるのはきーちゃんの癖だ。
「縦走路から外れたのかもしれない。窪地の積雪は危険だ。早くビバークするところを見つけないと」
やけに設定が凝っている。
「ぐずぐずしてると死んじゃうよ」
そう言ってきーちゃんはとっとこ歩き出した。仕方なく後をついていく。
到着したのはきーちゃんの家だった。
「ちょうどいい穴倉だ。ここでビバークしよう」
「お邪魔しまーす」
きーちゃんの家も親が共働きで、昼間の間はいないことが多い。それでもなんとなく一声かけてから家に入る。
「なんだか眠たくなってきた。もうだめだ」
部屋に入ってもきーちゃんの遭難ごっこは続いていた。
「ねるなー、ねたらしぬぞー」
適当に合いの手を入れる。
「寒いよー、ゆーちゃん裸であっためてー」
「はいはい」
って、きーちゃん、本当に服を脱いでる!?
「ね、本当にあったまるのかやってみようよ」
「ふえっ?」
それって、きーちゃんとスッポンポンで抱き合うってことだよね……。
「ボク、ゆーちゃんがどれくらいあったかいか、知りたいな」
と、僕の耳元でささやくきーちゃん。
「……いいよ」
僕はちょっとどきどきしながら答えた。