知也(2)
著者不明
「何だよ、怖いのか? 兄貴如きが、怖いのかよ?」
「そっ、そんなことない!」
そう挑発すれば、弟はカッとしたのか、すぐさまそう返してきた。
尊敬できない兄に怯えている自分が許せないのだろう、その耳が赤く染まっていた。
「へぇ……怖くないんだ?」
弟との距離を詰めていく。
一歩一歩、そのたびに、弟の表情に含まれる怯えが強くなるのが分かった。
目の前まで来たとき、弟はそのつんとした唇を僅かにふるわせ、俺を見上げていた。
じっとこちらを見つめるその様は、行き場を無くした獲物のようで、俺の加虐心をそそる。
軽くその細い肩を叩くと、弟はいとも簡単に後ろへ倒れ込んだ。
そこには俺のベッドがある。
くしゃくしゃにまるまった布団の上へ倒れ込んだ弟は、怯える小動物の目をしていた……。
「兄貴……」
弟の口からこぼれた言葉は、珍しく弱々しく、よけいに俺の感情を高ぶらせる。
まだ発育途上の弟は、ほっそりとした体をベッドに投げ出して、じっと俺の動向を探っている。
まるで期待しているようにも見えるその無防備さに、俺は思わず唾を飲んだ。
肩に手を掛け体重を載せると、その重さと痛みに弟の表情が歪む。
痛いよ……とか細い声が聞こえた気がしたが、俺はそれが聞こえなかったふりをして、もう片方の肩もベッドに押しつけた。
完全にベッドに縫いつけられた弟は、驚きの眼差しで俺を見ている。
無駄に生意気で知識の豊富なこいつは、俺のやろうとしていることに気づいているのかも知れなかった。
けれど、それが現実と結びつかずに脳内でオーバーヒートを起こしているのだろう。
それならば好都合だと、俺は弟の足の間に自分の足を割り込ませ、そこを無理矢理に開いてやった。
「……! な、やめろよ兄貴!」
自分の取らされた体制に、弟は声を荒げた。
無理矢理に開脚された両足は、閉じようとして力を込めてくるが、
さすがに小学生に力負けする俺でもない。
逆に、開ける限界まで、その足を開いてやった。
「どうしたんだよ。兄貴如きに勝てないのか?」
そう言ってやると、弟は悔しそうにその顔を歪めた。