アレフの迷宮挑戦録 6話


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 守護者の部屋を後にしてからも、エルマはずっと、気力を失ったままだった。

 迷宮の帰り道にも、当然モンスターは出る。
 しかしエルマは、戦える精神状態になっていなかった。
 なのでエルマの代わりにグラベリアが、帰り道のモンスターとも戦った。

 冒険者はレベルが近い者同士でしかパーティを組んではならない。
 何故ならあまりに実力に差がありすぎると、弱い方が足手纏いにしかならないからだ。

 エルマと初めて会った時のアレフもその状態だった。
 しかしアレフは、この数ヶ月で戦い方を学び、エルマの隣で戦えるようにまで成長した。

 しかし、それでもアレフは、グラベリアの動きに全く付いて行く事は出来なかった。
 だからグラベリアが戦う際は、アレフは邪魔にならないように、ただそれを後ろで見ている事しか出来なかった。


 グラベリアが一人でモンスターを蹴散らし、その後ろにアレフとエルマが付いて行く形で、3人は迷宮の出口へと歩き続けた。
 歩き続けている間、3人は何も喋らなかった。


____


 しばらく歩き続けて、やがて野宿をする時間になった。

 周りの安全を確認し、3人で食事を食べる。

 食事をしている時、ずっと黙っていたエルマが、少しだけ口を開く。

「いつも偉そうにしてる癖に、一番肝心な所では立ちすくんで、情けない奴だと思うでしょ」

「そ、そんな……」

 アレフにとってエルマとは、自分にないものを沢山持っている、憧れの存在だった。
 しかし今のエルマの姿は、アレフが知っているエルマの姿とはあまりにもかけ離れている。
 そんなエルマに対してアレフは、ただ戸惑う事しか出来ない。

「あたしはね、本当は、凄く情けない奴なの」

 エルマはぼーっと天井を眺めながら、アレフへと話を始める。

「もっと小さかった頃、あたしは迷宮なんて全く縁のない平和な暮らしをしていたわ。
 けれどある日、あたしの家は大変な事になってしまった。
 そしてあたしの家に関連する人を全て殺す為に、あたしの家に沢山の人が乗り込んできた」

「その時あたしは、どうしたと思う……?」

 アレフが知っているエルマなら、例え死ぬことになったとしても勇敢に立ち向かうだろう。
 しかしエルマの答えは、それとは全く正反対のものだった。

「あたしはその時、怖くなって逃げ出したの。
 自分の命欲しさに、家族も、友達も、全て見殺しにする事でね」

「あの時は逃げるしか方法はありませんでした。
 それにあの時、お嬢様はまだ6歳だったではありませんか……」

 エルマとアレフの会話に、グラベリアが言葉を挟む。
 しかしエルマは耳を貸さず、ただ話を続ける。

「あたしは、あそこで逃げ出してしまった自分が、憎くて憎くてしょうがなかった。
 だから、あの時の最低な自分に勝つ為に、強くなろうと思ったの。
 そしてそれから9年間、あたしは同じく生き残ったグラベリアに剣の腕を鍛えてもらったり、偉そうな態度を取るようにしたり、勇気を付ける為に迷宮に潜ったり、そんな事をしてひたすら自分と戦ってきたわ」

 だからエルマは、あそこまで強くなろうとしていたのか……。
 アレフはそんな事を思う。

「けれどさっき、あんたの血を見た瞬間、動けなくなってしまった。
 父さんや母さん達が処刑されるのを隠れて見に行った、あの日の事を思い出してしまった。
 そしてあんたが死んでしまうかもしれないと考えたら、それだけで怖くなって、もう何も出来なくなってしまったの……。
 結局あたしはあたしのままで、あの頃から何も成長なんか出来なかったみたいね……」

 エルマは未だに、恐怖で体を震わせながら縮こまっていた。
 アレフはそんなエルマを見て、言葉をかける事が出来なかった。

 3人の間を、沈黙が支配する。

「今日はもう、休みましょう」

 グラベリアが、ただそんな事だけを言う。

「そう、ね……」

 そう言って、エルマは食事にそれ以上手を付けず、横になった。
 アレフも、その日はもう眠りに付くしかなかった。

____


 そして3人は、宿に戻った。
 エルマは部屋に篭もり、生気を失ったようにぼーっとしていた。


 アレフはエルマの過去を聞いた時から、ずっと、エルマの事を考えていた。
 そして宿へと付いて落ち着いた後、アレフは決心して、グラベリアの所へと向かったのだった。

「グラベリア。僕はもう一度、あの守護者のモンスターと戦いたい
 けれど、今の実力のままじゃあのモンスターには歯が立たない。
 だから、僕に修行を付けて欲しい」

「すいません、今はそのような事をしてる場合ではないのですけれど……」

 グラベリアの目をまっすぐ見ながら、アレフは言葉を続ける。

「僕は、エルマの事を何も知らない。まだ出会って少ししか経っていない他人でしかない。
 けれどエルマが言っていた、自分は弱いまま何も変わっていなかったって言葉だけは、そうは思わない。
 あの頃のエルマは本当に、気丈で、誇り高くて、強い人だった。そして僕は、そんなエルマに数え切れないくらいの勇気を貰えたんだ。
 あの時のエルマは嘘じゃなかったし、僕がエルマに勇気を貰えた事も嘘なんかじゃない。
 僕はそんな事を、今のエルマに証明したいんだっ!」

 グラベリアは、その言葉の真意を確かめるように、アレフの目を見つめる。
 その目はどこまでも真っ直ぐに澄んでいて、そして真っ直ぐに燃えていた。

「アレフ様……」

 グラベリアは嬉しそうに、少しだけ羽をパタパタさせる。

「分かりました。けれどその代わり、グランワイト流の修行は厳しいですよ」

「望む所です!」

 アレフは勢いよく、グラベリアへと返事を返すのだった。


____


 アレフとグラベリアは、宿屋から出て街の外へと来た。

 グラベリアの修行は、まずは座学からだった。

「あのサソリ型モンスターには、並大抵の攻撃は通じません。
  そんな相手にダメージを与えるには、どうすればいいと思いますか?」

 どんな攻撃も通じない、そんな相手にどう立ち向かえばいいのか。
 アレフは悩むが、なかなか思い付くことは出来ない。
 そんなアレフの様子を見て、グラベリアはもう少しだけヒントを与える。

「じゃあ、逆から考えてみましょう。
 私の攻撃はあのサソリ型モンスターに効いていました。それはどうしてだと思いますか?」

 アレフは、グラベリアが戦っていた時の光景を思い出す。
 グラベリアの攻撃の威力は凄まじく、あの硬いサソリ型モンスターの装甲ですら、グラベリアの前には無力だった。

「それは、グラベリアの攻撃が、サソリ型モンスターの装甲すらものともしないくらいに強かったから……?」

「正解です。
 それじゃあ、もう一度聞きますね。
 装甲が固く、並大抵の攻撃が通じない相手がいます。
 そんな相手にどうやったら、ダメージを与える事が出来ると思いますか?」

「その装甲よりも強い攻撃を、相手に与える……?」

「はい、正解です」

 グラベリアはそう言って微笑む。

「けど、そんな攻撃……」

 サソリ型モンスターと戦っていた時、アレフは一度、魔力を貯めて全力でウインドカッターの魔術を放った。
 戦闘中なので、完璧に集中出来たとは言い難かったものの、それでも戦闘中に出せる中では最大だと思えるような威力のものを放った。
 しかしそれでも、あのサソリ型モンスターに殆どダメージを与える事は出来なかった。

「確かに今のアレフ様には、そんなに威力のある魔術を放つのは無理です」

 アレフは一瞬落ち込むが、グラベリアはニコニコとしながら言葉を続ける。

「だったら、それを出来るようになるまで修行すればいいのですよ」

「あ、そうか……」

「という訳でアレフ様には、今から高威力の技を放つ修行をして貰いますね」

 そうしてアレフは、今まで以上に強い威力を持つ技を習得するための修行をする事になった。


____


 アレフに課せられた第一の修行。
 それは、かかる時間を気にせずに、自分の魔力をただ思いっきり放つ感覚に慣れるというものだった。
 それはあまり難しい事ではなかったので、そこまでの時間はかからなかった。

 アレフがその感覚に慣れた頃合を見て、グラベリアは次の修行へと移る。

「アレフ様は、魔法というものをご存知ですか?」

「魔法? 魔術じゃないの?」

「魔法とは、使い手が少ない希少な属性の魔術のことです。
 魔術は基本的には、人に研究され呪文が開発されそれが普及する事によって、人が使えるものとなります。
 希少な属性の魔術は、普通の魔術を覚えるのよりも難しく、多くのセンスや努力が要求されるものなのです。
 なのでそんな希少な属性の魔術達は、普通の魔術とは区別されて、魔法と呼ばれるのですよ」

「そうなんだ」

「これからアレフ様には、衝撃属性の魔法というのを覚えて頂きます」

 そう言った後、グラベリアは近くにあった岩の前へと移動する。
 アレフもそんなグラベリアへと付いて行く。

「私が今から、衝撃属性の魔法を使ってみせます。
 私とあの岩をよく見ておいてくださいね」

 グラベリアはそう言うと、無言で意識を集中させる。
 そして少し経ち、集中を終えたグラベリアが、岩の方へと手をかざす。
 すると、グラベリアの手からエネルギーの塊にしたようなものが放たれる。
 エネルギーの塊のようなものは、目の前にあった岩へと着弾する。
 そしてその岩は、粉微塵に砕け散った。

「何の性質も持たせず、ただ純粋なエネルギーの固まりとして魔力を放つ。
 火のように相手を熱することも、風のように応用を効かせる事も出来ませんが、攻撃の威力だけは他のどんな属性よりも高い。
 これが、衝撃属性の魔法です」

「す、凄い……」

「アレフ様には、今からこれを覚えてもらいますね」

 グラベリアはアレフへと向かって、優しく微笑みながら、そんな事を言うのだった。


____


 アレフが衝撃属性の魔法の修行を始めてから、30日程の月日が流れた。

 衝撃属性の魔法は、研究が進んでいないので呪文なども存在しない。
 それは、グラベリアという先人に教えてもらい、毎日懸命に努力しても、それでも簡単に出来る事ではなかった。
 アレフは未だに、衝撃属性の魔法を扱えないままでいた。


 アレフは訓練中に、魔力の枯渇による疲労で倒れていた。

「もういいでしょ、アレフ」

 そんなアレフに、エルマが声をかける。
 目標を失ったエルマは、毎日やる事もなく、ただアレフが修行する姿をぼんやりと眺める日々を送っていた。

「どうせ無理なのよ」

 エルマはただ冷たく、倒れているアレフへと言い放つ。
 その目は未だに、気力のようなものが失われたままだった。

「エルマ。僕、サーシャから来たって言ったでしょ。
 そこって本当に、何もない田舎だったんだ」

 そんなエルマへと、アレフは話を始める。

「そこに生まれた人は、小さな村で一生畑を耕して生きる。
 それがその村の常識で、僕の周りの人もみんな、何の疑問も持たずにそんな生き方をしていた。
 けれど僕は嫌だったんだ。そんな風に、何もしないまま一生を過ごす事なんて」

 エルマはただ、何も言わないで話を聞く。

「そんな事を周りに言っても、誰も同意なんかしてくれなかった
 だから僕は、いつか一人で村を出ていこうと思った。
 村を出た時に一人でも生きていける為に、毎日くたくたになるまでずっと修行もし続けた。
 けれど、一人だけそんな風に頑張っている僕は、ただ村の笑いものでしなかった」

「そして僕は村を出た。
 けれど自分に自信なんて全然持てなかったし、自分が本当に正しい事をしているのかも分からなかった。
 そんな時に、君は僕の前に現れたんだ」

「君に憧れて、君みたいになりたいと思った。
 君を見てるだけで、僕の気持ちは間違っていなかったんだって思えて、救われてた。
 僕は君に、数え切れないくらいの勇気を貰ったんだ」

 エルマはただ、複雑そうな顔をしてアレフを見つめる。

「だから君が前に進めなくなっているなら、今度は僕が、君に勇気を与えてみたい」

 アレフは、エルマの返事を待たずに立ち上がる。

「休息は取れましたか、アレフ様?」

「うん。修行の続きをしよう」

「ええ」

 グラベリアはニッコリと笑って、そしてまた、アレフへと修行の続きを始めるのだった。


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 そして、それから更に30日程が経過した。

 アレフは岩の前に立って、そして精神を集中させる。
 魂から魔力を取り出し、その魔力をただ純粋なエネルギーの塊にして、形を整えて、そして体の外に放出する。
 頭の中でそのイメージを完成させた後、アレフは手から魔力を放出する。
 アレフの手からは、純粋なエネルギーの塊となった魔力が放出さる
 そしてそのエネルギーは、アレフの前にあった岩を粉々に砕くのだった。

「どう、グラベリア?」

「十分です。頑張りましたね、アレフ様」

 アレフは完全に、衝撃属性の魔法を習得する事が出来ていた。

 「それではいよいよ、修行の最終段階に入ります」

 アレフはグラベリアに言われて、大きな岩の前へと移動していた。
 衝撃属性の魔法の威力は高く、岩ですら砕く事は出来る。
 しかし目の前の岩は、普段修行に使っている岩よりも更に一回り大きかった。
 流石にこの大きさの岩は、衝撃属性の魔法を使っても砕く事は出来ないだろうな。
 アレフはそんな事を思いながら、その岩を眺めていた。

「アレフ様、剣を持ってください」

 アレフは言われた通りに、剣を持つ。

「では次に、剣を縦に、思いっきり振りかぶってください。振り下ろしては駄目ですよ」

 アレフは言われたとおりに、剣を持つ手を頭の後ろまで持って行って、剣を思いっきり振りかぶった体勢になる。

「では次に、そのままの体勢で衝撃属性の魔法を使って、剣の周りに纏わせるようにエネルギーの塊を作ってください。もちろん全力でですよ」

「剣の周りに……?」

 アレフはこの行為にどんな意味があるのか疑問に思いつつも、とりあえずグラベリアの言葉に従う。
 しばらくの時間をかけ少しづつ意識を集中させて、そして剣の周りに纏わせるようにして、エネルギーの塊を作った。

「出来ましたね。
 では次に、そのまま剣を地面に叩き付けるように、全力で思いっきり振り抜いて下さい」

 アレフは言われたままに、全力で剣を縦に振り抜く。

「あっ……」

 剣を振り抜く事に集中してしまったせいで、頭の中で構築していた魔術式が崩れていく。
 そして魔術式が崩壊する事で、作ったエネルギーの塊も全て霧散してしまった。

 魔術式を構築するのには集中力がいる。
 なので、魔術式を構築しながら並行して別の事をやるのは難しい。
 アレフはエルマとの修行で、魔術の詠唱をしながら動き回る事くらいは出来るようになっている。
 しかし、せいぜい少し手と足を動かすくらいの事が出来るだけで、全力で剣を振る事などは出来ない。
 またアレフが今やっている魔法は、無詠唱での魔法なので、通常の魔術よりも多大な集中力を必要とする。
 なので魔術式が崩壊してしまうのは、当然の結果だった。


「失敗です、もう一度やってください」

 しかしグラベリアは、ニコニコとした笑顔のまま、そうとだけ言う。

「え、無理だよ……、魔法を使ってる時に全力で剣を振り抜くなんて」

「アレフ様、無理な事を無理じゃない事にするのが修行というものなのですよ」

 本当に出来るのだろうか……。
 不安に思いながらも、アレフはそれでも素直に、グラベリアの言葉へと従う。

「うん、まあやってみるよ……」

 そしてアレフはまた、時間をかけてゆっくりと、剣の周りにエネルギーの塊を作っていくのだった。


___


 挑戦し始めてから、3日目に突入した。

 失敗は、何度も何度も続いた。
 アレフは未だに、一度もその動作を成功させる事は出来ておらず、失敗の量はもう数え切れない程になっていた。
 しかしそれでも、アレフは諦めずに、何度でも何度でも挑戦をし続けていた。


 アレフは集中して、そして何時ものように、一連の動作を始める。

 剣を頭の後ろまで振りかぶる。
 その状態でしばらくじっと固まって、剣の周りにエネルギーの塊を作るイメージをする。
 そして魔術式を構築出来たら、実際にエネルギーの塊を剣の周りに纏わせる。
 そしてその魔術式を保ったまま、剣を全力で、思いっきり振り抜く。

 魔術式がギリギリの所でほんの少し綻びてしまい、それによって魔力も形を為さずに崩れていく。

「あと少し……」

 アレフはもう一度、剣を頭の後ろまで振りかぶる。
 その状態でしばらくじっと固まって、剣の周りにエネルギーの塊を作るイメージをする。
 そして、もう何度目作ったのかも分からない魔術式を構築する。
 そして今度こそ、その魔術式を保ったまま、剣を全力で、思いっきり振り抜いた。

「うわっ!」

 すると、剣の先に纏わせたエネルギーの塊が、剣を振った勢いによって、凄まじい速度で飛んでいった。
 そして速度の力が加わったエネルギーの塊は、目の前の巨大な岩を、凄まじい衝撃によって粉々にしてしまった。

 アレフはもう何度目の挑戦になるのかも分からなかったが、ついに、その技を成功させる事が出来ていたのだった。

 グラベリアが、今の技をアレフへと解説する。

「衝撃属性の魔法でエネルギーを発生させ、剣を振り抜く力でそれを飛ばす。
 すると、魔力の力とオーラの力の両方のエネルギーが加わり、凄まじい威力の攻撃になる。
 この技は、名前を魔法剣と言います」

「す、凄い……!」

 ついに放つ事が出来たその技は、アレフが覚えている他のどんな魔術などよりも、圧倒的な威力を秘めていた。

「こんなに凄い技があるなら、どうして普及していないの……!?」

「理由は2つ、ですね。
 1つは、アレフ様はたった60日で覚えてしまいましたが、本来は衝撃属性の魔法とは覚えるのがとても難しいものなのですよ。覚えられない人は一生かかっても覚えられない程に。
 そして2つ目は、魔力とオーラを同時に使う事になるこの技は、使いこなすのがあまりにも難しいのです」

 使いこなすのがあまりにも難しい。
 それは、この一発を打つために数日を要したアレフも実感していた。

「出したい時に必ず出せるようになれ、とまではいいません。
 ただアレフ様には、成功率を少しでも上げるために、この技、魔法剣の練習をし続けて貰います」

 そしてアレフの修行はその日から、魔法剣の練習を始めるのだった。


___


 アレフが魔法剣の練習を始めてから、更に数日が経った。

「お嬢様、お元気ですか?」

 アレフが魔力枯渇で倒れている間、グラベリアはエルマへと話かける。

「元気な訳ないじゃない……」

 エルマはただ、そんな事だけを答える。
 そんなエルマに優しく諭すように、グラベリアは話を続ける。

「私がアレフ様に教えている技、魔法剣は、長い時間集中しないと出せない技です。
 アレフ様が一人で迷宮の守護者と戦っても、この技を使う事は出来ないでしょう。
 けれどアレフ様は何の疑問も抱かずに、ずっと魔法剣の練習をし続けています。
 それがどうしてだかは、お嬢様にも分かりますよね」

 エルマは何も答えない。
 そんなエルマに変わって、グラベリアが言葉を代弁する。

「自分が頑張っている姿を見れば、お嬢様は必ず立ち直ってくれる。
 そしてこの魔法剣の技を習得出来れば、お嬢様はまた、一緒に守護者のモンスターへのリベンジに付き合ってくれる。
  アレフ様はただ、何も疑わず心からそう思っているのですよ」

 2人の間に、少しの沈黙が流れる
 そしてやがて、エルマが口を開く。

「あたしはこの9年間で、少しは強くなれたと思ってた。
 けれどそれは間違いで、あたしの心の奥底は弱いままだった。
 けれどそれでも、あいつはこんなあたしを、立ち直ると思ってくれているのね……」

「ええ、そうですね……」

 エルマは、少しだけ深呼吸をする。

「何時までも不貞腐れてても、しょうがないわよね……」

 そしてエルマは、やっとその場所から立ち上がる。

「グラベリア、あたしにも修行付けて。
 あいつが魔法剣を扱えるようになっても、あたしが今のままじゃ、あいつが魔法剣を撃つまで守ってあげられないもの」

 そしてエルマはグラベリアを見ながら、そんな事を言う。

「お嬢様……。
 やっぱりお嬢様は、私の大好きなお嬢様です」

「何よ、それ……」

 そうしてエルマは、もう前を向いていた。

 倒れながらそのやりとりを聞いていたアレフは、何時ものエルマが戻ってきてくれた事に、嬉しくて胸が一杯になっていた。