USS 小説12


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付与魔術を覚えよう12  ... 著 / 優有


「…僕の知ってる猪と違う」
弁当箱を抱えて動けない猫の獣人と、
座り込んだまま声も出ない商人。
それ以外の四人は既に戦闘態勢に移り、
三人が前衛に、狐娘が二人を庇う位置に立つ。
馬車に繋がれた馬たちが怯えて嘶くが、
そちらには興味がないのか、猪は彼らの方へと足を向ける。

「猪ってあんなんだっけか?」
「もしそうなら私は一生猪肉は食べませんわよ」
「芋?」

確かに猪ではあるのだろう。
だがその体のあちこちから、触手の様な赤い肉が蠢いている。
形だけで言うなら猪よりも芽が出た芋のほうが近い。

「よし、あのイモシシは二人に任せよう。後続は私が引きつけておく」
「イモシシってなんですの…後続?」
確認する暇もなく、馬の獣人がイモシシの横をすり抜ける。
それに気をとられるのに合わせ、反対側から鹿の獣人が斧を顔面に叩きつける。
「流石に一撃ってわけにゃいかねぇか」
だが斧の一撃は左目を潰し、牙も折っていた。
攻撃に反応したのか、肉芽の動きが活発になる。
ざわざわと蠢くのに合わせてイモシシが身体をよじり、呻くような声を漏らす。

再び斧を構えた鹿の獣人が、一瞬馬の獣人の様子に目を向けた隙。

「ごふっ!」

それだけの隙を見せただけで、鹿の獣人が吹き飛ばされた。

「うわぁ!」
「猛き者に再臨の力を! 【中治癒】!」
その姿に背後から悲鳴が上がるが、即座に狐娘が回復魔術を施す。

「悪魔どもすまん!」
空中で体勢を整えて着地した鹿の獣人が、再度斧を構える。
派手に吹き飛ばされたのは、自身で飛んだせいでもあるようだが、衝撃は強い。
常人なら死にかねない一撃だが、持ち前の打たれ強さと回復魔術により、
ダメージは残っていない。

革鎧の腹部に一筋、引き裂かれた跡が残っているが、これは折れた牙の跡だ。
激突の前に白熊娘がイモシシの顔を横殴りしたことで、
硬い額や鋭い牙が当たらずに済んでいた。

そのフォローと回復魔術への礼のつもりなのだろうが、二人にはいたく不評だった。
「次は回復しませんわよ」
「見捨てる」
「なんでだっ!」
鹿の獣人は全く理解していないが。


「よっ! はっ! なんとーっ!!」
そんな攻防を繰り広げている間、馬の獣人は後続の只中で一人奮闘していた。
取り囲まれた状況は自ら作り上げたもの。
手にしたスピアも使って攻撃をいなし、かわし、動き続ける。

彼を攻め続けるのは、イモシシの身体に生えていた肉芽。
一見すると赤色の蛇に見えるが、目も鱗も無い。
頭部らしい場所は切り落とされたかのように平たく、円形に歯が並んでいるのが見える。

彼は先の倒木跡で見た痕跡が、この肉芽であることに気づいていた。
その数が猪に食いついている数では足りないことにも。

猪に食いつき、寄生して一体化した肉芽を差し引いた数。
その十匹を相手取り、彼は囮役をこなしていた。


「お姉様、馬の方が危険ですわよ!?」
「アニキは平気だ! それよりもこいつを先に潰すぞっ!」
イモシシが鹿の獣人に突進したことで後続というものが視界に入り、
危険はイモシシだけではないことを皆が理解した。
攻撃に移ることも出来ずに襲われ続けている馬の獣人の様子に、狐娘が声を上げる。

馬の獣人と付き合いの浅い彼女には、バカが突っ走って自爆したとしか見えないが、
弟分は任せるべきと判断する。
イモシシから意識をそらさぬよう、自身にも言い聞かせる言葉だったが、
白熊娘は全くイモシシから視線を外していなかった。

鹿の斧、白熊娘の拳、自身の突進により積み重なったダメージは、
イモシシの左目だけでなく周辺の骨をも砕いていた。
だが痛みを感じている様子もなく、イモシシは肉芽のうねりに合わせて身をよじる。
肉芽に寄生された影響で痛覚が薄くなっているか、興奮状態になっているのだろう。
顔半分を血に染めながらも、全く怯むことなく白熊娘を睨む。

不意を突かれた一撃をやり返し、今度は白熊娘に一撃を返そうとしている。
後ろで見ている猫の獣人はそう思ったが、実際は違う。

目を逸らした方が負け。

単純な野生の理論。
それを意識してはいないだろうが、白熊娘はイモシシから目を逸らさなかった。
反応出来たのは、そのためだろう。
商人の目にはイモシシが消えたようにしか映らなかった。

先ほどのように突進した訳では無い。
立木をへし折るだけの巨体でありながら、イモシシは宙を舞っていた。
助走すらつけずに白熊娘の視線から外れ、その身長よりも高く飛び上がったのだ。

だが商人はその様を目には出来なかった。
何かが起きた事に気づいたのは、
「ぬわーっ!?」
悲鳴を上げた馬の獣人に目を向け、イモシシがそちらに滑って行くのが見えてからだった。
「あ」
「あ、アニキーッ!」

飛んで来たイモシシを殴り飛ばした。
言葉にすると単純に聞こえるが、実際に行うのは容易では無い。
あの巨体が落下するのを、受け止めたり弾き返すことは彼女でも出来ない。
見れば彼女の立ち位置は後ろにかなり押し下げられている。
巨体に押し潰されないように下がりつつ
、左手で落下方向を下方修正。
地面と垂直まで流れを変えて、そこまで下がったバネを使って拳を撃ち込んだ。
「流石はお姉様ですわ」
背筋に薄ら寒いものを感じながら狐娘が褒めるが、白熊娘は気まずそうだった。

予期せぬ攻撃だったが彼はイモシシを飛び越え、弟分達に合流する。
幸いにも肉芽に食いつかれることもなく、一匹をスピアで仕留めさえしている。
地面を滑ったことでイモシシは後続の肉芽をも巻き込み、その身に寄生した肉芽諸共にすり潰していく。
勢いがなくなり止まったイモシシに待っていたのは、生き残った肉芽の襲撃だった。
「はぁっ、はぁっ…お、囮…ゲホッゲホッ!」
あれだけの数を捌き続けた疲労からか、何かを言いかけてむせ返る馬の獣人。
「アニキ、大丈夫だ。後は任せて休んでてくれ」
「殲滅」
起き上がろうとするが肉芽に邪魔され、思うように動けないイモシシ。
その巨体に食らいつき寄生していく肉芽。
それらは容易く駆逐され、猫の獣人が安堵の息を漏らす。
「お、お疲れ様でした…」
未だに声も出ない商人が立てるようになるには、まだ時間がかかりそうだった。




今回の付与魔術


【放って置けば直る】
(ライフ・スティーラー)

素材:破損した装備品。(付与対象)
効果:装備品の破損を修復し、破損前の状態に復元する。
   修復が終了するか、装備を外すと効果は消失する。
詠唱:「この程度の傷、【放って置けば直る】」
代価:装備品の破損状態に応じて装備している者の体力が奪われ続ける。
   死亡することもある。