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街路脇に備え付けられたベンチ一人に腰掛けて、多いとは言えずとも絶え間なく過ぎてゆく人の流れをぼんやりと見つめていたティアは、ふと視界を遮る見慣れた影に頭を上げた。 「ルーク?」 さり気ない動作でティアの隣に座り込んだルークに、内心小首を傾げる。 宿屋に着くなりジェイドと部屋で何かしら話し込んでいたようだったけれど、その件はもう済んだのだろうか。 それを聞こうか聞くまいか少しばかり悩んでいる内に、ルークがずっと手にしていたらしき物が 目の前に差し出されて、ティアは幾度かぱちぱちと瞬きをした。 「ティア。これ、ジェイドから預かってきた」 「大佐から? これは……何かしら、薬?」 差し出されたのは、青い色が印象的な小瓶だった。 ガラス製の小瓶の中で、ゆらゆらと液体が揺れている。 「お前が辛そうだって、薬ちゃんと飲んでんのかなってちょっと言ったら、作ってくれたんだよ」 「……え? あ、有難う……わざわざそんなこと」 「あ、えーと……な、何か、昔医学もかじってたらしくてさ!  でもそんなイメージないっつーか、寧ろ医者なんて職業、ジェイドと結びつかないと思わねえ?」 自分よりも少し大きく骨ばった手から薬を受け取ると、ルークは照れたように視線と、そして会話を逸らした。 その見え見えなわざとらしさにおかしくなって、くすりと笑う。 「そんな言い方、大佐に失礼じゃない。言いたいことは……その、分からなくもない、けど」 確かに、あの一筋縄どころか二筋でも三筋でさえも上手く行かない気さえしてくる捻くれたあのマルクトの軍人が 医者を志していたなどと言われても、一体誰が信じるだろうか。 少なくとも共に旅をしている、ガイやアニス、ナタリアもすぐに信じられはしないに違いないし、実際今の自分がそうだ。 ティアの同意の言葉に、「だろ?」とルークもまた嬉しそうに笑った。 「痛み止めはちゃんと飲んでるから大丈夫よ。でも、折角だし頂くわね」 「ん」 小瓶と同じガラス造りの栓を抜く。 心配してくれているからか、はたまた中身に興味があるのか、じっと注がれるルークの視線を少し面映く感じながらも ティアは瓶に口をつけた。 一口喉を通すなり、今までに経験のない独特の味が口内に広がる。 薬物への知識は広くないティアにはよく分からないが、取り敢えず様々な種類の薬草が調合されていることだけは唯一確信できた。 「……おい?」 右手に握った小さな瓶をそのままに黙り込んでしまったティアを、ルークが訝しげに覗き込んでくる。 きっと今の自分の顔は小難しげに顰められているに違いない。 仄かに甘い、しかし薬草の苦味や強い酸味にどうしても気を取られてなかなか味わう気にはなれない。そんな味だ。 「も、もしかして……何か悪いモンでも入ってたとか?  まさか今のティアには幾らあのジェイドでも、んなろくでもないことする訳なんかねえって思ったんだけど!」 「ち、違うの。ただ……ちょっと、薬にしても独特な味でびっくりして」 「独特? ……どれ」 気がつくと、手元にあったひんやりとした感触がどこかに消えている。 ひょい、という言葉が似合うほど素早い仕草で小瓶はルークに奪われた。 声をかける間もなく先程のティアと同じように小瓶の中身を流し込んだ彼は、その顔を大いに顰めて呻くように文句を漏らした。 「うぐ……何だよこれ、超マズイ! ティア、ちょっとジェイドに文句言って来ようぜ!  ……って、なあ、どうかしたのかティア?」 「ば、ばか! 別にどうもしちゃいないわよ!」 「はぁ? 何で俺に怒んだよ!」

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