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契約スレ

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契約スレ
1 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/01/30(日) 17:35:50

ココは多分恐らくきっと私専用スレです。他の方は書き込まないようお願いします。
設定などは大方別の場所に投げたりするのでそちら参照で。

んでは言葉足りてるかどうか分かりませんがスタートの咆哮(誤字)でー。


2 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/01/30(日) 17:37:34


―――夢を、見ていた。


埃が舞い、荒れ果てた街。聞こえる銃声、それに次いで飛び交う銃弾。血と硝煙の臭い。転がる死骸。遠くで聞こえる叫び声。
紛争。数日前にゴーストタウンになったばかりのこの街の所有権を争うものだったらしい。
―――『生き地獄』とはこの事か。
食べる物も、水も無い。あるのは空になった薬莢、死骸が保持する銃器、そして、迫りつつある自分の限界。
腐った死体に烏が集り、腐肉を啄ばむ。ギャア、ギャアと聞こえる嫌な鳴き声。羽ばたく音。
あまりの空腹に、一度は腐った人肉を口にした。が、胃が受け付けず、すぐに胃液と共に吐き出した。
―――誰か。誰でもいい。助けて。
声を出そうにも出せない。水分が足りずに喉が枯れ、掠れた声が出るだけ。それはもはや声とは呼べない『音』だった。
細く、正に骨と皮だけの腕と脚で歩き、彷徨った。
少しずつ遠くなる意識。自分が何をしているかさえ分からない。


ざくり。

ぎっ、ぎっ。

ぶちっ。

びちゃっ。

くちゃ、くちゃ。

―――何をしているか、分からない。

がちゃり。

ばん、ばん。

ぐちゃっ。

ちん、ちりん。

むしゃ、むしゃ。

――――――ナニヲシテイルカ、オシエテ。ボクニ、オシエテ。


その街には知り合いの伯父が1人居て、伯父は後に「半ば夢遊病みたいだった」と言っていた。
確かにそうなのかもしれない。何をしているか、どういう状況なのか、眼で見えていたとしても頭に「記憶」として残っていない。
だが、うっすらと覚えてはいる。この後、小さな小屋に入った。そこで物音を聞いた。

ゴトン。

木箱がずれた音。音から察するのは、箱には少量の物しか入っておらず、箱のサイズは大型。跳び箱の7~8段くらいの大きさ。
少しだけ意識が戻り、調べてみようとする。一歩、また一歩と、箱との距離を詰める。

箱との距離がほぼ零距離になると、微かに開いた上蓋に手を当て、奥にずらした。

「……ぅ……………。」

中に居たのは同年代の女の子だった。綺麗な碧色の長髪、小さい身体。小さく蹲り、悪夢に魘されながらなのか、苦しそうに寝ている。
―――そして、自分は飢えている。
いつの間にか手に持っていた血染めのナイフ。これで彼女の喉を掻っ捌き、息の根を止めてから新鮮な人肉をまた再度喰う事も出来た。
だが、何故か出来なかった。怖いからではない。もっと、もっと別の「何か」が、そうさせなかった。

だが、考えただけで飢えが満たされるわけではない。鼠でも猫でもいい。とにかく食べられそうなものを探そうとした。
すると、負傷した大人が次々とその小屋に入ってきた。老若男女問わず、兵隊が。
そいつらはこちらを見るなり驚いていた様子だったが、別に危害を加えるような真似はしてこなかった。
先ほどの伯父はこの兵隊の中に居て、こちらを見るなり「元気だったか、怪我は無いか」などと話しかけてきた。
幸いその小屋は食料庫だったらしく、食料と水、寝床には困らなかった。

数日が経ち、周りの環境以外は今まで通りの自分がそこに居た。ここからの情報は全て「記憶」にある。

意識が完全に戻った自分が一番最初に気にした事。それはあの女の子だった。
何日もの間眠りから覚めず、小さな身体は更に細くなっていった。
箱の側面を壊し、中にいる女の子を抱き上げ、自分の寝床の上に寝かせる。木箱で寝るより、毛布の上で寝たほうがいいと思ったから。
自分の寝床が無くなる為、伯父の隣で寝ようと思ったが、伯父はこう言った。

「その女の子には、お前が付いていなさい。」

何でだろう、と思ったが、その頃はまだ深く考えなかった。その夜は女の子と同じ毛布で寝た。
少し、頬が緩んだ。


次の日、何日も眠っていた女の子が目を覚ました。綺麗な青の瞳。見ているだけで吸い込まれそうなほど透き通った色。
女の子が目覚めてから数時間程度は何も話さなかった。話す必要、話題が無かった。

時間も昼を過ぎた頃だった。彼女が口を開き、その小屋の中にいる人間の中で初めて彼女のちゃんとした声を聞き、質問をされた。

「あなた、だぁれ?」

小鳥が囀るように綺麗な声。無性に嬉しくなった。彼女の声を初めに聞いたからなのだろうか。それとも、質問されたからか。
どちらでもいい。とにかく、嬉しかった。

「僕の、僕の名前は―――」

夢の中で少女に自己紹介をした。「瀬」という、自分を表す言葉を何度も口にしながら。
すると、少女も笑顔で自分の名前を告げた。

「私ね、夢月。よろしくね、瀬君。」

―――少し昔、10年ほど前の事。


3 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/02/03(木) 12:22:26


目を開ける。眩しい光が目に射し込み、思わず目を細める。空は青く、日照りも心地よい。早朝から日向ぼっこをしていた。
普通の一軒家、自室の開けたベランダに置いてある椅子に腰掛け、そのまま寝たらしい。まるで老人だな、と思いつつ苦笑を漏らす。
近くの小さな丸テーブルの上に置いてある携帯電話を手に取る。時刻はAM9:59。その時間を見た瞬間に寝惚けた頭が覚めた。
時計の表示が変わり、AM10:00を知らせた。それと同時に部屋の扉が勢い良く開き、少女の声で怒号が聞こえた。

「いつまで寝てんのよこンの馬鹿ァッ!!」

両人差し指で2つの耳に栓をする。ベランダと室内とを隔てるガラス戸がガタガタという音を発している。
入り口の方を見ると、エプロン姿の少女が立っている。その右手には何故か鍋の蓋が握られている。
声だけで戸を揺らすこの少女、実は今まで見ていた夢に登場している。
その少女の髪は長く、翠色。目は青で、透き通った色。あの荒れ果てた街で一番最初に見つけた生存者。姓は白泉、名は夢月。
何度も話しているうちに分かった事なのだが、彼女は10年前以前の記憶―――7歳より前の記憶が無い。
親の名前も、家族も、思い出も、生まれた場所も、友達も、全て忘れていた。覚えていたのは自分の名、「白泉 夢月」という名前だけ。
それでも、出会ったばかりの頃は彼女がリードし、引っ張って行ってくれるお姉さんのような存在だった。
彼女は自分が興味を持った事は何でも学び、学習し、自分の糧としていた。そのため、いろんな人と話す事が毎日の日課だったようだ。
そのころの自分はというと、なるようになれ、という思考か強く、自分からは殆ど何もしなかった。
世間に無関心で、伯父や伯母、その知り合いの話でさえ聞く気になれなかった。だが、彼女―――夢月との話は、楽しかった。
そういうわけで、今の俺があるのは十中八九夢月のおかげだと思う。その点では彼女に感謝しなければいけない。
と、唯の夢を一つ見ただけでこんな事を思い出し、考える自分に老いを感じ、また苦笑を漏らす。

「何が可笑しいのよッ!!」

少女が右手に持っていた鍋の蓋がスライサーの如く飛び、「くゎん」と言う音と共に俺の額に命中した。



突如飛来した鍋の蓋によって額に出来た赤い横線を気にしながら、歪んだ鍋の蓋を持つ少女の後に着いて階段を下る。
普通の人間なら気絶していてもおかしくはない衝撃なのだが、子供の頃に何度も頭をぶつけたりしているので慣れたものだ。
2階から1階へと続く階段の踊り場で、不意に少女が足を止めた。こちらへと向き直り、質問を飛ばす。

「……またいつもの夢?」

その質問をする少女の顔はどこか悲しそうな雰囲気を感じる。眉を下げ、目をほんの少しだけ細めた表情。
対する自分の表情は、「今更何言ってんだよ」という感じの表情。
無言で彼女の横を通り過ぎ、踊り場を通過して1階へと向かう。すると、背後で小さな声が聞こえた。

「……黙ってちゃ分からないよ……。」

聞こえていないフリをする。右足から1階に下りると、踊り場からは小急ぎで階段を下る足音が聞こえた。


4 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/02/03(木) 12:23:12

3

リビングだけで40畳の家。正直、2人だけで住むには馬鹿広すぎる家だ。実はこの家、今では既に他界した伯父が住んでいた家である。
10年前、夢月を連れてこの家に来たとき「2人になったら好きなように使いなさい」と言われていたのである。なんて伯父だろう。
そして、当時「子供が出来て3人になったらどうするの?」と聞いたことまで思い出してしまった。口に手を当て、何かから目を逸らす。
すると伯父は笑って「じゃあこうしよう。伯父さんが居なくなってしまったら、好きなように使いなさい。」と言い換えた。

その8年後、今から2年前に伯父は他界した。
夢月が1日中泣き喚いていた記憶が脳裏に蘇る。まるで大事な物を取り上げられた子供のように泣いていた。
次の日は泣き疲れ、一言も喋らなかった。目も真っ赤になっており、食事もとらなかった。
1週間ほどして、少しずついつもの生活に戻っていった。夢月も今ほど明るく、そして乱暴な性格へと戻っていった。
そして、自分は変わらなかった。無関心なのも、人の話を聞くのが面倒臭いのも、喋ることですら面倒臭いと思ったことも。
だが、それも自分の在り方だ、と自分で決め付ける事で他は何も考えなくて良かった。
そんな自分を変えた存在が居た。それも夢月だ。おかげでよく喋る方にはなったし、少し難があるが性格も変わった。

リビングを通り過ぎ、隣にあるのがキッチン。これもまた広く、30畳ほどか。この広さは無駄だとも思う。
ダイニングキッチンであるそこには、木製の大きな4脚テーブルが真ん中に置いてあった。
その上には、既に冷め始めた料理がたくさん並んでいた。祝いの席でもないのに1ラウンドのケーキが置いてあるところが謎だ。
しかも良く見ると、和食、中華、洋食がまとめて出されている。どれか1つに統一してほしいものだ。

「さ、遠慮せずに食べなさいな。」

―――遠慮はしないが、お前のセンスに疑問を感じるぞ。

夢月がテーブルに備え付けの椅子に座る。残り3つある椅子のうち、夢月が座った椅子の対角線上にある椅子に座る。

「……私が何かするとでも思ってる?」

―――この前は噎せただけでフォークが飛んできたのですが。
そのフォークが穿った4つの穴が、後方の壁に痛々しく残っている。

「大丈夫、何もしないから。2人しかいないのに向き合わないってのも嫌じゃない?」

渋々夢月と向かい合う席に座る。出ている料理は既に冷めてはいるが、微かに温かいため、食べられないと言うことはない。
―――それに、食べなかったら食材にされそうだ。

何か食べようと思い、目の前においてある肉まんに手を伸ばしたときだ。

「あ、それは流石に温めた方が良くない?」

確かにそうだ、と思い、無言で頷く。すると夢月は肉まん数個を皿に取り、電子レンジの前に立って質問してきた。

「どれくらいの温度がいい?」
「お前の肌温で。」

間髪入れずに答えると、それこそ間を置かずにこちら目掛けて包丁が飛び、壁を穿った。


5 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/02/19(土) 18:25:52

4

夢月の殺意が満ちた食事を終え、逃亡と休憩を兼ねて自室に戻った。
難を逃れ、安心したところに携帯電話に着信があった。急に鳴り響いた着信音に、瀬は一瞬だけ身をビクつかせる。
恐る恐る携帯電話に近づくと、サブディスプレイに相手の名前が表示されていた。
携帯電話を手に取り、通話ボタンを押す。

「……もしもし?」
『ちッ……生きてたのか馬鹿。』

電話の向こうに聞こえるのは、瀬と同じくらいの少年の声。
部屋の中にある椅子に腰を下ろし、通話を続ける。

「いきなり馬鹿とはご挨拶だなキザ野郎。」
『誰がだ。で、さっきの音……また夢月にちょっかい掛けたんだろ。』

電話の相手、浅河 翔は、ついさっき起きた事件のことを何故か知っていた。瀬はそのことに疑問を感じ、聞いてみた。

「お前今何処に居るんだよ?」
『お前の家の前だ。』

その答えを聞いて瀬は納得。そして、先ほど投げかけられた話題に対して自分の意見を言う。

「だけどよ、俺はちゃんとアイツの質問に答えたぞ?」
『その質問ってのは?』
「ん?冷めた肉まんの温度をどの程度まで温めるか、っていう質問。」

電話の向こうで物凄く深い溜息が聞こえた。少しの時間を置いて翔は言う。

『……で、なんて答えた?』
「『お前の肌温で』って答えた。」
『……そうか。そこまで堕ちたかこの変態め。』
「やかましい。……それにしても、そっちから電話してくるなんて珍しいな。いつもは『通話料の無駄だ』とか言って掛けないくせに。」
『『無駄話するのに金は払えない』って意味だ馬鹿野郎。……ちょっと話がある。外に出て来い。』

と言うなり向こうが電話を切った。切られるなりメールの受信履歴を開き、独り言を呟く。

「……メールは無駄話に入らないのか?」

そのディスプレイに表示されている送信者名には、「浅河 翔」という名前がズラリと並んでいた。



言われるがままに玄関を通り外へと赴く。時刻はもうすぐ午前11時、太陽も昇り詰めようとしていた。

「で、人をわざわざ外に呼び出して何の用だ?中に入って話そうぜ?」
「いや、この後行きたいところがあるからな。そんな暇は無い。」

翔の姿を見ると、肩には1.7mはあろう長い袱紗を掛け、動きやすそうな軽装。

「そんな物騒なものを持って何処へ行きなさるね、若いの。」
「……その変な言葉遣いはどうにかならんのか。」

無理、と言う様に首と右手を横に振る。この喋り方は、10年以上前にいろいろな所に行って、そこで聞いた言葉を使っている。
山に面した村、訛りが激しい街、野生動物が生息する草原のド真ん中で住んでいた人など、様々である。
昔の懐かしい思い出に浸っていると、突然玄関脇の窓から夢月が顔を出した。

「瀬ー、お使い頼んでも良いー?……あら、久し振りじゃないの翔。どうかした?」
「あぁ、この馬鹿を借りていこうと思ってな。お使いもついでにできると思うが……良いか?」
「どうぞどうぞ、お使いさえしてもらえれば大丈夫だから。」

玄関を出て走り寄りながら夢月は言う。右手に持った紙切れを瀬に手渡し、念を押す。

「お使い失敗時は……分かってるわよね?」

笑顔で、しかし底知れない殺気を放ちながら瀬に告げる。すると瀬は、

「任せろ。―――そうだな、それが楽しみでわざと失敗しても良いんだな?」

そういった瞬間、意識が闇に落ちる。鳩尾辺りに強烈なアッパーを受けたのを最後の感覚として認識しながら。


6 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/02/19(土) 18:27:20

5

「馬鹿だろお前。」
「五月蝿い。」

車通りも多く、人通りも多い昼の街。車道には陽炎が見える。2人の少年は日の当たる歩道を歩いていた。

「で、どうするんだ?まさか本当に失敗する気か?」
「…………。」

顎に手を当て、黙って考え込む。その顔は嬉しそうな表情になったり、血の気が引いて真っ青になったりしている。
呆れた表情の翔は、一つの提案を持ち出した。

「……まぁ、今はその話は置いておく。」

瀬が考えるのを止め、翔の方に向き直る。身長差は約20cm、少し見上げる形になる。

「お前もどうだ?最近運動不足だろ?」

袱紗をひょいと前に出し、瀬の前に出す。すると瀬は面倒臭そうに、

「やだ。」

と一言。翔が差し出した袱紗を手で除ける。
翔はやれやれと言わんばかりに袱紗を肩に掛ける。

「ったく……太るぞ?」
「俺はどれだけ食っても太らない体質だからなー。」

確かに、先ほどの昼食も殆どが瀬1人で平らげている。しかもほぼ毎日あのような食事だ。常人なら太っていてもおかしくは無い。
先日、翔の家に遊びに行ったときに昼食も出されたのだが「少ない」と言ったおかげで翔に強制的に黙らされていた。

「それに、俺はああいう所で戦うのは嫌だし、見るのも嫌いだ。」

重い雰囲気の言葉に、翔も黙る。

「……悪い。」
「いや、元はといえば俺が誘ったんだ。無理矢理付き合わせるのは、な。」



その後、軽い雑話をしながら暫らく歩いているうちに、目的の場所が見えてきた。
ロボットっぽい巨大な彫像が両手に剣を持っている。その近くには入り口が見える。

「……お前はどうする?やっぱ帰るか?」
「んー……じゃ、少しくらい見ていこうかね。」
「無理しなくて良いんだぞ?」
「いや、せっかく誘われたのを無下に断るわけにもいかんやろ。」

と言い、歩を進める瀬。それに続き、翔も入り口をくぐる。

中に入ると、剣やら斧やらを持った多くの男性がおり、受付のような場所で何かの登録をしていた。
どうやら選手エントリーらしい。なぜならここは闘技場、乱入は厳禁である。

「じゃ、俺はエントリー済ませてくるから。」

と言い、翔は1人で行ってしまった。
前にも一度来たことはあるが、初戦を見た後は一番後ろの席で寝ていたため、そのときの内容は殆ど覚えていない。
確か翔が優勝していたような記憶もあるが、自分にはあまり関係の無いことなので深く考えるのはやめた。
観戦席の方へ向かい、前回と同じく最後列の席に座ろうとするが、

「……今回くらいは一番前の席で見るかな……。」

というわけで最前列に移動。
広さは野球場を一回り小さくしたような感じで円形、走り回ったりするのにはちょうど良い広さだ。
足下は整備されておらず、土がむき出しになったり、草木が生えていたりする。地形を考えて戦うのも重要だろう。
天井は無く、筒抜けになっている。今日は天気が良く、日の光が差し込んでいるため、影で戦う側は有利なはずだ。
瀬が座ったのは円のちょうど真ん中、両者を見渡せる位置である。

すると、開催を告げるアナウンスが鳴った。


7 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/02/19(土) 18:28:08

6

『ぇー、皆様どうもこんにちわー。司会進行、および実況を勤めさせていただく瑞山 紫苑ですー。』

まだ幼い感じの少女の声がエコー掛かって聞こえ、会場が沸く。この少女目当てのファンも会場に居るらしい。

『私ってば今回こういう所でしか出番無いんだけどねー。っとまぁ、さっさと進めちゃいましょう。』

……幼く、とても軽い性格だな、と思う男が最前列に1人。

『「本日は対人戦ではなく、養殖……量産?とにかくそんな感じのモンスター戦ですよー。』

―――それってもしかして「人工」って事が言いたいんじゃ……。

『皆様ご存知の通り、対モンスター戦は勝ち抜き制ではなく、倒したモンスターに予め設定されたポイントで順位が決定されます。弱いモンスターを多く倒すもよし、強いモンスターを少しだけ倒すのもよし、って事ですね。でもでも、本当に強くなりたいんなら、強いモンスターをたくさん倒すのがいいと思いまーす。ぁ、出てくるモンスターは私がダーツで決定しますので、弱いモンスターだけを狙っている人にはちょーっと厳しいかな?でもご安心。挑戦者がギブアップサインを出した場合、こちらでモンスターの駆除を行いますので、怪我はしても命がなくなることは無いですよー。致命傷の場合も大丈夫。ベテランの術師さんが傷の治療を行ってくれます。勿論サービスですからねー。んじゃ、無駄話はこれ位にして本番ですよー。今日の最初の挑戦者は……ぉ、期待の新星、浅河 翔さんですねー。では入場ー。』

瀬から見て左側のゲートが開き、見知った顔が出てきた。金の長髪が風に靡く。

『さて。続きましてはモンスターの登場ですよー。でぃわ……ルーレット・スタートッ!』

瀬の目の前の観客席の上部が派手なバックライトとネオンでライトアップされており、そこへオレンジ髪をツインテールにした少女がまるで魔法少女のような服を着てリフトアップされて出てきた。

――――……ぅゎ、頭が痛ェ……。

『最初のモンスターは……コレだーっ!』

勢いよく振りかぶり、ダーツを投げる。ダーツは一直線に飛び、回転しているルーレットの『縁に』直撃する。
きぃん、という間抜けな音が鳴り響き、ダーツが床に転がる。

『……えへへー。気を取り直してもう一回ッ。』

急いでダーツを拾い、もう一度投げる。ダーツは真っ直ぐに飛ばず、山なりの軌跡で飛ぶ。
とすっ、とダーツの針が刺さった所には「メカ武蔵」などと訳の分からない文字が書かれていた。

『はい、メカ武蔵ですね。これはモンスターって言うよりロボットです。人気の高いRPGでもロボットがモンスターと同様に扱われているので問題はありません。そして何と!この「メカ武蔵」、世界広し、闘技場多しと言っても、この闘技場でしか扱っていない貴重なロボットモンスターです!この闘技場の入り口にも立派な彫像がありましたね?メカ武蔵です!もうここの闘技場のシンボルなんです!って訳で、限定発売の「1/32メカ武蔵携帯ストラップ」、税込み420円で入り口すぐの受付にて販売しておりますので――――』
「……なぁ、とっとと進めてくれないか?」

待ちくたびれたと言わんばかりの口調で告げる翔。
すると紫苑は慌てて紙を取り出す。

『おぉっと、挑戦者側はヤル気満々ですねっ!では、ご希望にお答えしましょう!メカ武蔵、スタンバーイッ!』

翔と反対側のゲートからがっちゃ、がっちゃという音が聞こえ、プシューという音と共に止まる。
ゲートが開き、再度がっちゃ、がっちゃという音が響く。中から現れたのは、桃色の装甲に覆われた人型のロボット。身長は大体翔と同じ程度で、翔を32分割したらストラップのサイズになるな、と思う馬鹿が最前列にいた。

『……ん?―――あーッ!!ちょっと!アレ私が面白カスタムして戦闘能力ゼロな私専用のメカ武蔵じゃない!早く回収してッ!!』

会場に設置されたスピーカーから少女の怒鳴り声が響いた。数秒後、作業員らしき人間が数名駆けつけ、メカ武蔵を回収していった。
そして、さっきと同じ登場の仕方で今度は鉄色のゴツい装甲を持ったメカ武蔵が現れた。

『さて、ちょっとハプニングがありましたが万事解決したので進めちゃいましょう!んじゃ、レディー…………』

カァン、とゴングが鳴り響いた。


8 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/04/09(土) 00:27:31

7


がっちゃ、がっちゃという機械音を響かせ、メカ武蔵が走る。意外と素早い動きなのだが、どこか間抜けな感じがする動きだ。
メカ武蔵が両手に持っている両刃の剣は厚みがあり、機械の力で振り回している状態で直撃したら骨が砕けるのはまず間違いない。
そう思っているうちにこちらから右側、つまりメカ武蔵の左腕が振り上げられた。大振りな動きで、自分から見て左側にワンステップ。
次にさっきまで自分がいた位置から轟音が聞こえた。砕かれた地面が宙に舞い、僅かながら視界を遮る。
すると、今度は相手の右腕が振られていた。横の動き、当たれば内臓破裂・粉砕骨折でほぼ即死。少し力を入れて跳躍し、剣の腹に乗る。

「おい、積んでるAIは高性能なのか?全然話にならねぇぞ。」

すると更に跳躍、メカ武蔵の角ばった頭部に乗る。幸いその形状のためか、足場は安定している。
軽く足を上げる。そして思い切り踏みつける。ピーッ、という音と共にメカ武蔵の機能が停止した。

「さって、終わった終わった。おーい、次の相手は?」
『……ぇ?ぇ?もう終わり?』

きょとん、とした表情で素っ頓狂な発言をかました紫苑。

「あぁ。煙吹いて動かなくなって―――」

きゅいーん、ぴこーん。
ぴぴぴぴぴぴぴぴ、ぴーん。
ごぅんごぅん、ぷしゅー。

――――おい、もしかしてひょっとしてまさかこれは……。

「……冗談だろ?」
『うん、戦闘続行ですねー。メカ武蔵はまだまだ動いてますから。』

――――いや、暴走してるって気付けよ。

『テキ、カクニン。ハイジョ、カイシ。』

機械音声がそう告げた。すると、両手に持っていた剣を投げ捨て、先ほどとは見違えるほど俊敏な動きで突進してきた。
辛うじて回避する。だが、信じられないほどの切り返しの速さで反転、後ろからショルダータックルを喰らった。
自動車に撥ねられたのに近い感覚。全身の空気が一気に吐き出される。数メートル吹っ飛び、柔らかい草の上で停止する。

「……ッのやろ……!」

腕で体を支え、体を起こそうとするが、うまく力が入らない。鞘に収め、左手に掴んだままの剣を支えにしながら起き上がる。
もう一度突進してきた。今度は剣の鞘で受け止め、ダメージを少しでも減らす。ただ、それでも数メートル吹っ飛ぶ。
一度地面に右肩から全身をぶつけた後、衝撃で跳ね上がった体を何とか着地の体勢に持ち直す。

「……おい、聞いておきたいんだけどよ、この機械は普通の機械だよな?」
『そーですー。他に質問は御座いませんかー?』
「……いや、十分だ。」

暴走したメカ武蔵は、もう一度突進の構えを見せる。痛む右腕に少しばかり無理をさせ、剣を鞘から引き抜く。
日の光を受け、白銀の刀身が光を反射する。言葉を挟むまもなく、メカ武蔵が鬼のような速さで向かって来る。

「今度から手加減ってものはしないようにしておく。最初から全力で、だ。」

突進体制になると、上半身を前に突き出した形で走らなければならない。下半身を前に突き出して走るのは変態野郎で十分だ。
上半身には人間、機械双方にとっても大事なものが集まっている。ということは、突進をするということは死ぬ覚悟がある、という事だ。
だから、猪の様に向かって来る機械に対し、翔はある行動をとった。
剣を前に突き出す。ただそれだけ。
すると次の瞬間、メカ武蔵の頭部が自ら進んで銀の剣に刺さった。
剣の根元まで深々と刺さった頭部からは機械油が漏れ、配線がショートしながら飛び出た。

「あ。」

ショートしている配線と油が接触し、爆発した。


9 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/04/09(土) 00:30:15

8


「お前も馬鹿か。」
「黙れ。」

ここは休憩室、そして怪我の治療室も兼ねている。怪我をした挑戦者達が、それぞれの敗因を研究したり、愚痴ったりしている。
隅に配置された4つのベッド、その一番奥、窓側にあるベッドには、全身に大きな打撲と軽い火傷を負った翔がベッドに腰掛けている。
術師による法術で痛みは取り除かれ、後は痣が直るのを待つだけらしい。
先ほどの戦闘はメカ武蔵の爆発によって翔が気を失ったために、次の者に移った。会場の方では大きな歓声が聞こえる。

「あーあ、機械如きの爆発のせいでリタイヤか。ついてねぇな。」
「ぅんにゃ、リタイヤじゃないぞ。ポイント制だから、あのロボットのポイントが高ければお前が優勝するかも。」
「ふーん……。でも一体じゃあな……。」

すると、アナウンスが入った。どうやら挑戦者が全員戦闘を終えたらしい。

『えーっと、面倒なので結果発表いきますねー。』

――――なんてアナウンサーだ。

『まずは第3位―――』

一体しか倒してない上に途中でリタイヤしたため、自分の名前が呼ばれることは無いと確信し、別の事を考える。
この後どうしようか、瀬の家に行ってまた3人で馬鹿騒ぎでもするかなー、などと考えていると―――

『で、第1位。浅河 翔さんでーす。なお、賞品授与は1位のみとなっております。他の皆さん、次回もよろしくお願いしますねー。』

呼ばれた。しかも1位。

「……どういうことだ?」
「俺に聞くなや。」

突然追加アナウンスが入った。

『ぁー、言い忘れてたけど、賞品授与はどっかテキトーなところで行いますので、どっかテキトーにぶらぶらしててくださいねー。』

――――こんなテキトーなヤツがアナウンサーやってていいのかこの闘技場……。


10 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/04/09(土) 00:31:53

8



テキトーなところ、と言われたものの、そんな場所が見つかるはずも無かった。
なるがままに一時的な休憩時間に入っている観客席へと赴くと、紫苑が居た。あの悪趣味な服は着ていない。ごく普通の服だ。

「ぁ、ちょーどいいところに。そだ、どうせだからフィールドの真ん中で賞品受け渡ししちゃおっか。」
「……勝手にしてくれ。」

ルンルンと楽しそうにフィールドの真ん中に歩いていく紫苑の後ろに、呆れた表情の少年2人が着く。

「……なんでお前も着いてくるんだ?」
「気にしない気にしない。」

コイツの行動原理は一体何なのか追求したいが、結局最後は「謎」で終わるのは目に見えている。謎なら謎のままで良い。

「……で、何で俺が優勝してんだ?」
「ふぇ?あー、メカ武蔵にはポイント設定されてないから。」

……は?言っていることが理解不能だ。

「いや、ポイント設定されてないって事は0ポイントなんだろ?」
「んーん。ボーナスエネミーだから倒したら無条件で優勝なんだって。今まで倒されたことが無いみたいだからねー。」

――――――えぇ?

「ちょっと待て。何でそんな他人事のように……。」
「だって私が仕切ってるわけじゃないしー。ただのアナウンサーだしー。今回ロクに出番ないしー。」

…………開き直ったぞコイツ。ホントにコイツがアナウンサーでいいのか……?

「っとまぁ、そんなこんなで賞品受け渡しでーす。」

頭上では5~6回ドカーンと花火が鳴り、いつの間にか用意されていた楽団による演奏が始まった。

――――――いい加減にしてくれー。

「えー、今回の賞品はモノじゃないので宜しくー。」
「じゃあ何か?(到底言えない)とかだったら遠慮せずにここで真っ二つにするからな。」
「ゎー怖ーい。ってそんなワケないよー。ほいじゃ、入場ー。」

待て。何だよ入場って。生き物か?

紫苑の背後、鋼鉄製の扉が重い音と共に開く。その奥に見えるのは真っ暗な空間のみ。何かが居るようには見えない。

「……冷やかしか?」
「あ、後ろの扉から入ってきたみたい。」

不意打ちか、などとワケの分からないことを考え、ぐるりと後ろを振り返る。
そこには、冷たい視線をこちらに向ける狼が居た。

――――――喰われるッ!?

すると、狼はぷい、と視線を逸らした。
その狼は他のどの動物とも雰囲気が違った。
体毛の色は白く、目の色も黄色。なにより一番気になるのは、全身から白い煙を上げている。

「犬?」
「狼だ。」
「どっちも変わらねーだろが。おーよしよし。」

と、瀬が狼の頭を撫でた瞬間だった。


11 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/04/09(土) 00:34:01

10


「冷たァッ!?」

何故かそう叫び、撫でようとしていた右手に息をかけている。

「……頭だけじゃなく温度感覚までおかしくなったか。」
「いや、マジで。」
「馬鹿かお前。冷たけりゃ死んでるだろ。」
「ぁー、精霊って聞いたことありますー?」

精霊。あー、そういえばこの前何かの本で見たことがあるな。
人と精霊とで契約し、契約した人間は契約相手の精霊の力を行使できるとか何とか。
でも、契約はお互いが認め合った状態じゃないと成り立たない、とも書いてあった。
それぞれ基本4種の属性のいずれかを司り、それぞれ得意属性と苦手属性が……と、ゲームのようだ。
なるほど、この狼は火、水、風、地の属性のうち、水に近い属性を持った狼だろう、と推測する。
となりでパチパチと手を叩く音が聞こえた。

「おめでとーございますー。」
「おめでとーございますー。」

一緒になって手を叩いてる馬鹿も居るがイタくて突っ込みたくないので無視。

試しに狼に向かって一歩を踏み出してみた。狼は怖じず、逃げようともしない。
更に歩を進め、手で触れることが出来る位置まで近づいた。狼はじっとこちらを見ている。

「――――――――」

手を差し出してみた。
すると、先程より冷たい感じでそっぽを向いた。

「――――――――?」

この狼は、俺に興味を示していない。俺を認めてはくれないようだ。

「……行くか。」
「は?この犬はどうすんだよ?」
「犬じゃないって言ってんだろが。……どうやら俺には興味が湧かないらしい。」
「ふーん……じゃ帰るか?」
「ああ。」

紫苑が「ぇー」と声を上げたが、相性が合わないものはしょうがない。
どんなに好きな人が居ても、相性が合わなければ関係がうまくいかなくなるのと同じだ。
ということで帰ろうとした。

すると、狼が急に唸りだした。敵対心と闘争心をむき出しにし、敵を見据えているかのように。

「…………?」

その後に何かが砕ける音が聞こえた。闘技場の真上、筒抜けになっている天井付近だ。
そこから、何かが身を乗り出しているのが見える。

「……モンスター?」

直後、「それ」は降ってきた。


12 名前: 白泉 夢月 投稿日: 2005/04/09(土) 00:35:06

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広大な闘技場のど真ん中に、黒い異形の巨躯が降ってきた。頭は3つ、尻尾も3つ、4速歩行の神話にしか出てこないようなモンスターだ。

「な……ッ?」

突然の出来事に頭が上手く回ってくれない。上手く回らない思考は混乱する。そして冷静さを欠いてしまう。
冷静さを欠いた思考は物事の判断が出来ていない。目の前で物が動くと、更に混乱してしまう。
その状態になった。

目の前の黒い巨躯は、その体格に見合わない俊敏さでこちらへと距離を詰めてくる。

自分の意思は「剣を抜け、応戦しろ」と考えても、思考がその情報を処理できず、体も動かない。
思考が落ち着いてきたときには、既に遅かった。
黒く巨大な右前足が振り上げられていた。

そして、頭に重い衝撃を感じた。

ガッ。

自動車に撥ねられたかのような動きで十数メートルの距離を吹っ飛ぶ俺の体と意識。痛みの伝わりも少々鈍っているかもしれない。
芝生に叩きつけられ、2、3メートル転がる。起き上がろうとしても、今の一撃の衝撃で体が痺れて動かない。

「…………。」

ここで死ぬな、と思った。ズン、ズンという重い足音が近づいてくる。ゆっくり、しかし確実に。
数分が経ったかと思うと、黒の巨躯は目の前に立っていた。

もうだめだ、と目を閉じた瞬間、黒いモンスターの物と思われる咆哮が聞こえた。






目の前で翔が吹っ飛ばされた。黒く巨大な獣の前足で一撃。軽く20メートル近く飛んだ。
転がりも止まり、立ち上がると思った。
だが、ピクリとも動かない。

「――――――」

まさか、死んだ?
アレだけの大きさの前足が物凄い勢いで頭に直撃したのだ、首の骨が折れていてもおかしくは無いだろう。
翔が立ち上がらない理由については納得が出来た。

だが、心の中でまだ納得できていない部分――――いや、感情の歪みがある。
どう説明したらいいのかは分からない。だが、分かることは最低でも一つはある。

目の前の獣を生かしておく訳には行かない。

それだけを考えた。許せない、とでも言うのだろうか。そういった感じ。
感情に突き動かされるがままに走ろうとしたとき、思わぬ声が聞こえた。

『武器も何も持たずに……死ぬ気か?』

頭の中に声が聞こえる。耳で聞いたわけではないので位置の特定は出来ないはずだが、何故か感じ取ることが出来た。
その声の主は自分の足元に居た犬。翔が狼と言っていた「精霊」とか言うモノ。今はその鋭い眼光をこちらに向けている。

『……あの男はまだ死んでおらん。だが……そう永くは保つまい。』

じゃあ助けてやってくれ、と言おうとしたとき、犬が先に話しかけてきた。

『私単体ではあの獣を打ち倒せるほどの力は無い。私の力を使役する者……即ち、契約者が必要だ。』

喋る犬?翔がまだ死んでない?契約者?
―――――ワケが分からない。

『あのまま放っておけば確実に喰われるな。……友なのだろう?助けたいとは思わぬか?』

この犬が何を言いたいのか分からない。だが、この犬がいないと翔を助けることが出来ないというのは分かった。

「助けたいさ……でも、どうやって!」
『簡単なことだ。私と契約を結べば良い。―――――お前とは気が合いそうだ。なに、呪術の類ではない。』
「契約を結ぶったって……あぁもう、ゴチャゴチャ言わずに簡潔に話せ!!」
『……契約する気があるなら我が名を呼べ。その後は我に手を向けるだけで良い。それだけだ。』

犬が獣に目をやった。それに釣られて獣を見ると、残り数メートルの位置まで来ている。

『早くしろ。契約するか、友を見殺しにするか。』

一瞬の判断を要求された。翔を助けるか、見殺すか。
だが、その応えは既に決まっていた。この犬と契約とやらをした後はどうなるか分かりはしないが、今やることは一つしかない。

犬が再びこちらに視線をよこした。

『……決めたようだな。ならば呼べ。我が名はフェンリル。……氷狼だ。』
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