狂気と侠気

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狂気と侠気



 朝日が昇り、闇が晴れて光が現れる。空も白から青へと変化していき、雲の切れ目から降り注ぐ陽光に男は目を細める。
 風が運ぶ臭いには血臭が混じっており、無愛想な表情がさらに厳しくなる。
 川の流れる音を耳にしながら、石を踏みしめて男は先を進んでいた。
 逆立つ金髪に人を厳しく射る瞳と黒い眉。肉付きの少ない骨ばった輪郭の痩躯の持ち主であった。
 名は葦原涼という。
 五代と別れた葦原は、風のエル―― 彼は名を知らず、アンノウンとしか認識していないが ――を探し出し、立花藤兵衛の仇を討つ。
 決して揺らがない意思を持って歩みを進める彼の身体が止まる。
 支給されていた携帯が鳴ったのだ。この殺し合いで使われるのにふさわしく、川に落ちても防水対策が施されているらしい。
 この分では、衝撃対策もされているのだろう。頑丈な携帯だと感想を持つと同時に、画面が勝手に点滅しているのを目撃する。
 甲高い甘い声が葦原の耳朶を打ち、やがて放送が告げられる。
 死んでいった者の名を告げる女に葦原は不快感を示しながら、その内容を一言一句漏らさず聞き入った。
 聞こえてくる声に、葦原の知っている名は一人しかいない。
 立花藤兵衛、アンノウンに殺された、ここで出会った仲間。
 真魚が無事であることに葦原は安堵のため息を漏らす。携帯をポケットにねじ込みながら、再び南の方向へと歩く。
 あのアンノウンがどこに消えたかは葦原は知らない。
 血を覚えた狂獣。立花のような犠牲を二度と出すわけにはいかない。
 恩師に疎まれ、父親を失い、恋人から離れられたこの力。ただ人を守る。
 そのためにあるのだと葦原は思う。血の臭いを運ぶ風を前にしながらも、葦原の視線は揺るがない。
 光がいずれ沈もうとも、死ぬまで生きるのをやめるわけにはいかなかった。


 葦原が土手を越えると地に伏せる人影が視界に入る。
 砂利道に突っ伏している女の姿。黒い髪が肩よりも先に流れており、整った眉の下の瞳を血走らせていた。
 息も荒くし、右手に機械のベルトを持っている。白いスーツはところどころ砂埃にまみれており、一心不乱に走っていたことを示していた。
 瞳に見える狂気に、葦原は眉をしかめる。この殺し合い、巻き込まれて精神を保てる人間はどれほどいるだろうか。
 風見も、妹のことがあるとはいえ修羅の道を行った。あの女は関わるには危険が大きすぎる。
(だからどうした?)
 葦原は内心毒づき、一歩女へと歩みを進める。
 確かに、この殺し合いで精神を保つのは難しいのかもしれない。
 葦原の力を知り、去っていった恩師や恋人を思う。彼等は日常を壊されることを恐れた。
 それは当然のことだと思う。誰も、今いる場所を破壊などしたくないのだ。
 葦原とて、この力さえなければと何度思ったか、数え切れない。
 突然、見知らぬ土地につれてこられて、殺しあえと言われるなど、自分が変身能力を得たと同じくらい、理不尽な状況だろう。
 人として、大事なものを失う人間が出るかもしれない。
 誰かを殺すことも、自分も守ることも、等しく恐ろしい。孤独こそが人を殺せる手段だ。
 そのことを理解している葦原だからこそ、関わることを決める。
 孤独にも負けず、変身能力にも負けない。そのことを誰かにも知ってほしいと思う。風見にも。
 だからこそ、放っておけなかったのだ。目の前の女の狂気を。
「どうした?」


 携帯電話より聞こえる放送すらも耳に入らず、走り続ける女が一人。
 緑川あすか。黒い髪を流した彼女は、不幸だといえる。
 彼女は本郷猛を恋人の仇だと、頑なに信じていた時期より現れ、狂気をもたらすデルタのベルトを手に入れた。
 あすかを守るために戦う、二人の男本郷猛、一文字隼人の思惑を超えて、暴走するしか道はなかった。
 彼女がもう少し、本郷と話を交わせていたのなら。
 彼女がもし、一文字と出会っていたのなら。
 今の状況も少しは、改善したのかもしれない。
 機会は失われ、デモンズスレートと呼ばれる毒にあすかは身体を任せる。
 ギュッ、と握ったデルタのベルトを、胸元に引き寄せた。
 まるで恋人のエンゲージリングのごとく。デルタのベルトこそが、あすかのより所だった。
 恋人を殺した本郷猛を殺すための。
 恋人の偽者を殺すための。
 血に塗れた歪んだエンゲージリング。愛の証と信じて疑わない。
 その狂気こそが、デルタの毒とは知らずに。
(克彦。絶対、私が仇を討つから。本郷猛と、あなたの偽者を殺して……!)
 何度目か分からない後方確認をあすかは行い、誰も追ってこないことに安堵をする。
 いや、聞こえてくるバイクの排気音だけが、恐怖を覚えるのに充分だった。
 追われている。変身が解けたいまでは、太刀打ちできない。
 変身が解けたあと、何度か変身を試したが、もう一度身体が変わることはなかった。
 そういえば、風間やヒビキがもう一度変身できるまでに、時間を置かねばならなかった事実を思い出す。
 このベルトもおそらくそうなのだろう。
 まずい。生身同士の戦いで、本郷を殺せる自信はない。
 あすかはさらに速度を上げようとする。その瞬間、足がもつれて、身体が土手へと踊る。
 転がり落ちて、受身も取れず体中に擦り傷が生まれていく。
 ようやく止まったころには、あすかは息も荒く上半身を両腕で支えるのが精一杯だった。
 惨めな自分の姿に、涙が出る。これでは克彦の仇を取るどころではない。
 一滴の涙が、瞳より零れ落ちそうになったあすかに、声がかかった。
「どうした?」


「禁止エリア……?」
「そうだ。ここが今回指定された禁止エリアだ」
 呆然とするあすかを、見つけた小屋に連れて行き落ち着かせた。
 ログハウスの木の香りが室内に漂う中、葦原が自分の名と放送の内容をあすかに伝えたのだ。
 禁止エリアを書き写したあすかはデルタのベルトを抱きしめるように、引き寄せる。
 すがるような態度に、葦原はいつか見た亜紀の瞳を思い出した。
「何があった?」
 葦原が声をかけると、話するべきかどうか迷っている態度が目に入る。
 葦原を信頼できるかどうか、迷っているのだろう。
 無言で答えを葦原は待つ。立花なら、安心できるように声をかけたのかもしれない。
 自分にはせいぜい、相手が切り出すのを待つしかできない。そのことに歯がゆく思いながらも、あすかが口を開いてきた。
「恋人を……克彦を殺されたのよ」
「この殺し合いでか?」
 葦原の問いに、あすかが否定の意味で首を振る。
 ここにつれて来られる前に人が死ぬ機会に遭遇した。
 つまり……
「犯人がこの殺し合いに参加しているということか」
 と、なる。肯定するようにあすかが首を縦に振った。今度は肯定の意味だ。
 話はここで終わりではない。
「それに……克彦の偽者まで出て、何がなんだか……」
「偽者?」
「克彦と……克彦と同じ顔をした男が、私のことを知らないといったのよ。
克彦ならそんな酷いことを言わない。きっとあれは克彦の偽者よ!!」
 語尾がだんだんと強くなっていき、必死に言い切るあすか。
 その姿を見て、葦原はやはり彼女の状態が望ましくないことを知る。
 葦原は自分のように、死んで生き返ったのではないかと一瞬疑ったが、携帯の電話帳に克彦らしき人物の名はない。
 おそらく、よく似た他人であろう。
 どう落ち着かせるか。あすかは明らかに冷静ではない。
 単純な結論さえ見落とすほど、視野が狭くなっている。このままでは、あすか本人の命も、彼女に関わる人間の命も危うい。
 悩む葦原の耳に、バイクの排気音が聞こえる。音から察するに、よほどの馬力があるのだろう。
 窓から外の様子を覗くあすかの表情が険しくなる。
「私を追ってきたのね……本郷猛!」
 デルタのベルトにあすかの手が伸びる。
 葦原は女の手にふさわしい、力を入れれば折れてしまいそうなほどの細くて白い、たおやかな手をつかむ。
「やめておけ」
「離してよ!!」
「……俺が行く」
 葦原の言葉に、あすかが目を見張る。
 葦原は無言でドアを開けた。


 カブトエクステンダーを走らせ、本郷は走り去ったあすかを探索していた。
 途中、聞こえてきた放送にいったん足を止める。仲間は無事だ。
 しかし、聞きなれた名前が二人、呼ばれていた。
「一文字……けど、あいつは無事だった。……同姓同名の、誰かか? ……立花さん」
 かつて、サイクロン号を与えてくれた人。大人の顔になったと呟いた、彼の声が蘇る。
 もはや、彼に会えることはない。悲しみを持ちながらも、本郷はフルフェイスのヘルメットのバイザーを下げる。
 グズグズしていられない。このままでは、あすかが二回目の放送で呼ばれる羽目になるかもしれないのだから。
 彼女がなぜ変身を果たし、自分を襲ってきたかは謎だ。
 確かに、彼女は一時自分のことを恋人を殺した男だと勘違いをしていた。
 その誤解については解かれ、和解したはずである。
 本郷はあすかにほのかな恋心を抱いた。ショッカーの魔の手から救い出したいと思い、奮い立った。
 綺麗なものを守る。
 命も、愛した人も、すべて本郷にとっては綺麗なものだ。
 確かに、黙って消えたのは悪いと自覚はしている。
 しかし、ショッカーと戦わずにはいられない運命の自分の隣では、ただ不幸に巻き込まれるだけだと思ったのだ。
 彼女に対しての想いは、いまだに燻っている。
 できることなら、そばにいて支えてあげたい。その想いで、カブトエクステンダーのアクセルグリップを捻った。
 一段と高く唸る排気音。砂利道を乗り越えてカブトエクステンダーが走る。すでに、この道は何度も行ったり来たりを繰り返していた。
 人の足とバイクでは、移動速度が違う。
 あすかの足の速さを計算に入れるなら、まだこのエリアに留まっているはず。
 見つからないのは、隠れているのか、それとも、殺されたのか。
 本郷の背筋がゾッとした。
 彼女を失いたくない。純粋にその想いから、本郷のハンドルグリップを握る手に力が入る。
 本郷は走るカブトエクステンダーの上で、あすかの身を案じていた。


 やがて、一軒のログハウスを本郷は見つけた。
 このログハウスに、あすかが隠れているのかもしれない。淡い希望をもって、駆け寄ろうとする。
 本郷がドアの五メートルほど手前まで進むと、ドアが開いた。
 現れたのは、金髪の青年。
「あの……」
「お前、克彦という男を殺したのか?」
「え!?」
 本郷は青年が尋ねてきた内容に驚く。
 かつて、過去に同じことをあすかに言われたのだ。
 なぜ、今更過去の事実が、ショッカーとして暗躍していた罪が自分を襲うのか。
 いや、それは正しいのかもしれない。自分がショッカーの改造人間として暗躍していた事実は、罪は簡単には拭えない。
 とはいえ、なぜ目の前の青年がそういってきたのか。疑問を口にしようとした。
「本郷猛、言い逃れはできない。私は見たんだから! あなたが克彦を殺すところを!」
「あすかさん!!」
 青年の後ろから乗り出したあすかが、憎しみのこもった視線をぶつけてきた。
 訳が分からず、本郷は戸惑う。その件については、誤解は解けたはずなのだから。
 青年があすかを制して、前に出る。
「…………いくぞ」
「待ってください! あすかさんと話を……」
「いったい、何を話すというの!?」
 かけられる拒絶の言葉に、本郷の心が抉られる。かつて、同じことを言われた。
 なぜ、今また同じことを繰り返すのか。本郷には知る余地もない。
 やがて、青年が両腕を交差する。
 光が青年の身体から発して、緑の異形が青年の隣に並んだ。

「変身!」

 青年が叫ぶと同時に、本郷へ向かって突撃を開始する。
 緑の異形―― アギトの力を持つ、ギルスという存在 ――が青年の身体に重なった。
 驚く本郷を前に、ギルスは跳躍、右拳を繰り出してきた。
 本郷は身を捻って辛うじて避ける。本郷がいた地面を、ギルスが砕いた。
「やめてください!」
「あいつに引く気はない。ここは大人しく去れ」
 ギルスはそう告げて、再度殴りつける。殺気がないことから、自分を殺すつもりはないのかも知れない。
 本郷は彼があすかのそばにいてくれたことを感謝する。
 同時に、誤解を解くことをやめるわけにはいかないと、決意を強くした。
 ギルスの右ストレートを捌いて、本郷は後方に跳躍。ギルスと十メートルほどの距離を作る。

「俺も……引くわけには行かない……」

 本郷の言葉に感応するように、ベルトが顕在する。
 風車が回ると同時に、強化スーツが本郷の身体を包んで、一瞬にしてホッパー1号としての姿を見せた。
 ライダーヘルメットを被り、クラッシャーを装着。
 ホッパー1号、彼はギルスと対峙する。大事な人の誤解を解くために。


「ウォォォォォォォォォォォォォ!!」
 ギルスの咆哮をきっかけに、二人の地面が爆発。
 疾風のごとく勢いで互いに右脚を振り上げ、激突する。
 衝撃が走り、ギルスは後方に下がった。追い討ちをかけるホッパー1号をギルスは冷静に見つめ、迫る右拳を首を捻って紙一重で躱す。
 あいたホッパー1号の胸板に、ギルスの鋭い突きが打ち込まれる。
 咳き込むホッパー1号を尻目に、ギルスは回転、鳩尾に後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
 ギルスの身体が、蹴りを打ち込んだ体勢で止まる。ギルスの右足を、ホッパー1号が掴んでいたのだ。
 片腕で身体全体を支える怪力にギルスは戦慄する。ホッパー1号はギルスが振りほどく動作に入る前に、思いっきり大木へと投げ飛ばした。
 木をへし折る衝撃が、ギルスの全身に駆け巡る。息をするのもきつい。しかし、休んでもいられない。
 ギルスはホッパー1号にV3と似た戦闘方法だと感じ取っていた。
 変身方法が、V3と似ていたこともある。ホッパー1号とV3では多少の差異があったが、戦闘スタイルは似ている。
 つまり、次の動作の予測がつく。
 ギルスは前も見ず、地面を全力で蹴って跳躍する。

「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ホッパー1号の蹴撃―― ライダーキックと呼ばれる技 ――が、ギルスが数秒前まで存在していた、地面を木の根ごと抉りぬいた。
 舞い上がる土砂に紛れて、ギルスの瞳が輝く。
「なにっ!?」
 避けられたことに戸惑うホッパー1号を見下ろし、ギルスが天を仰いで獣の叫び声をあげる。
 振り上げたギルスの右脚が上半身と密着した。

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」

 落下に合わせて、鉄槌のごとく右足をホッパー1号の胸板の中央にめがけて振り下ろす。
 ギルスのトンを超える衝撃を生み出す踵が、上半身を逸らそうとするホッパー1号の右胸を叩く。
「がはっ!」
 ホッパー1号が五メートルほど吹き飛んで、地面を転がる。
 身体を震わせるホッパー1号を前に、ギルスは腰を落として油断なく構えていた。


 あすかは戦うギルスとホッパー1号の戦いを見て心を躍らせる。
 異常な力を持つ本郷に、葦原は勝っている。
 さすがに本郷も並ではなく、ほぼ同等の戦いを見せているが、ギルスが優勢である。
 ここで、そろそろ制限が解けたであろうデルタを使えば、ギルスの勝利は確定する。
 それに、克彦の敵討ちは譲りたくない。あすかがゆっくりとデルタのベルトを取り出した。
「よせ! こいつとの戦いは、俺が決着を着ける!!」
 ギルスの鋭い声が、あすかを射抜く。
 何を馬鹿なことを。そういって変身を続けようとしたが、ギルスの無言の視線が押しとどめた。
 変身しようとしたあすかの身体が止まる。
 偉そうなことを言って、と言い返し、反発する力を奪われていった。
 仕方なく、あすかは目の前の戦いを見届ける。
 再度、ギルスとホッパー1号の影が交差した。


 二人の右ストレートがぶつかり合い、衝撃を生む。
 数秒の拮抗の後、互いに吹き飛んだ。ギルスはすぐに直進、ホッパー1号にワンツーを繰り出す。
 ギルスの一発目の右拳が捌かれ、左拳がホッパー1号の脇腹を捉えた。
 怯むホッパー1号に向かって跳躍し、右足と左足を時間差で身体を捻りながら打ち込んだ。
 ギルスが地面に着地した瞬間、ホッパー1号はその隙を狙っていたかのごとく突進してくる。
 V3とホッパー1号の突進がギルスの脳内で重なった。
「はぁぁぁぁっ!」
 ホッパー1号の拳が唸りを上げてギルスに迫る。立花藤兵衛が生きていれば、ライダーパンチと呼んだその技が。
 ギルスは掌で腕の横っ腹を叩いて逸らした。驚くホッパー1号に膝蹴りで鳩尾を強打する。
「かはっ」
 続けて、ギルスは両腕でホッパー1号を猛打した。
 吹き飛ぶホッパー1号を前に、ギルスは咆哮をあげる。

「オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 ギルスのY字の角が伸び、エネルギーを身体中に充満させる。
 跳躍、振り上げた踵を再度ホッパー1号へと振り下ろす。
 ホッパー1号の仮面にギルスの踵が当たった。直撃したホッパー1号は仮面が外れ、放射状に地面を飛び、地面に叩きつけられた。
「あ……すか…………さん……」
 震える手をホッパー1号の仮面が外れた本郷が伸ばす。
 そのまま力尽き、意識を手放していった。


「やったわ……ありがとう」
「いや、いい」
 変身を解いた葦原を前に、あすかは礼を言う。
 ホッパー1号こと本郷猛を倒すことに協力してくれた。恋人、克彦の敵討ちを助けてくれたのだ。
 いくら感謝しても足りない。あすかは葦原を味方と認識した。
「克彦……いま仇を討ってあげる……」
 ログハウスから取り出した包丁を手に、あすかは本郷の前に立つ。
 本郷猛、人殺しの彼だけは許しておけない。
 太陽の光を、包丁の刃が反射してあすかの狂気を浮き彫りにする。
 逆さに両手で包丁を構えたあすかは振り下ろすために持ち上げた。

「やめろ!」

 葦原が押しとどめた。あすかはなぜ彼が止めたのか、分からず戸惑う。
「なんでよ! やっと、やっと克彦の仇を討てるのよ!?」
「……人を殺して、得るものなんてない。奴はしばらく身動きが取れないようにした。いくぞ」
「離して!」
 しかし、葦原の力は強い。女の腕では振り解けなかった。
 葦原に感謝はするが、復讐の機会は逃がしたくない。
 それでも、葦原の鋭い眼光があすかの行動を縛る。下手に動いて、葦原を敵に回したくない。
 あすかは歯噛みしながら、本郷を倒す次の機会を伺うことにする。
 葦原に引っ張られるまま、流されるように彼の後をついていった。
 まだ、狂気に蝕まれたままの想いを持ちながら。


 葦原はあすかの手を引きながら、カブトエクステンダーへと近寄る。
 これは借りていく。なぜなら、風のエルを追わねばならないからだ。
 内心、本郷にあすかを守るからそれで勘弁してほしいと謝罪を告げる。
 葦原は本郷があすかの恋人を殺したことは誤解ではないか、疑っている。
 本郷の拳に、自衛の意思はあっても人殺しの殺気はなかった。動き自身は修羅場を潜り抜けたそれではあったのだが。
 風見のことも話として聞きたいが、今はまずあすかを落ち着かせる必要がある。
 そのために、この二人は長く同じ場所にいてはいけない。
 あすかに時間を与えるため、カブトエクステンダーのエンジンをかける。
 同時に、葦原の全身に激痛が走った。
「っ!?」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
 葦原は強がり、バイクのアクセルを全開にする。唸りを上げたエンジン音を耳に、加速を続けた。


 風に木の葉がそよいでいる、森の中に赤いカブトムシを模したバイク、カブトエクステンダーが道路沿いを走る。
 人里はなれた薬局が寂れた様子をかもし出しながら存在していた。
 葦原の細く、それでいて筋肉のついた背中に頬をつけながら、あすかは思考を進ませる。
 やはり、戻って本郷を殺すべきかどうか、迷いを見せているのだ。
 本郷が無防備をさらすのは、数少ないチャンスなのだ。
 葦原を味方につけることのメリットと合わせて、彼に従ったのだが後ろ髪を引かれる。
 葦原を説得するべきか。あすかが正面の葦原の顔を覗くと、玉のような汗が葦原から流れていた。
 しかも、顔色が悪い。
「どうしたの?」
「……いや、大丈夫だ」
「嘘! 顔色が悪いわよ!?」
 あすかが心配で声をかけると同時に、カブトエクステンダーが止まる。
 振り返る葦原の息が荒い。
「大……丈夫……と……いって……」
 葦原はそう呟くと、バイクから崩れ落ち、地面へと倒れた。
 あすかは主を失ったバイクを支え、スタンドを立てて固定してから葦原に寄る。
「ちょっと、ねえ! あなた! 葦原さ……涼! しっかりして!!」
 あすかが必死で呼びかけるも、葦原の震えは酷くなる一方だ。
 腕の皮膚がそこだけ年をとったように皺だらけになる。葦原が激痛に眉をしかめていた。
「何……? これ……」
「この力の…………反動だ……。すぐに……収まる…………」
「それだけ……辛いのに私を助けるために、変身をしたの……?」
 葦原は答えなかった。答える力もないのだろう。すぐに意識を落としていった。
 あすかの心が揺れる。
 葦原は、命を削ってまで自分を助けてくれた。こんなにも、辛いのに。
 彼がどうして、自分のためにここまで戦ってくれるかはあすかは知らない。
 それでも、あすかのために、誰かのために命を懸ける葦原を無碍には扱えなかった。
 あすかの中に、一時的だが本郷も克彦の偽者も消える。その瞬間、彼女の瞳に狂気だけでない光も宿った。
(涼……あなたは私を守るために力を貸してくれた。今度は、私の番)
 あすかはデルタのベルトを巻きつける。

「変身!」

 ―― Complete ――

 白いラインがデルタのベルトから生み出される。
 まとわりつく三角を示すラインが、黒い強化スーツを生成した。
 デルタと化したあすかは葦原を担いで、目の前の薬局へと進む。
「涼、あなたは殺させない。私が……デルタの力で守る。だから、生きて!
克彦のように死なないで! お願いだから…………」
 デルタは葦原を幼子を抱く母親のように抱いた。
 その怪力で押し潰さないように、そっと大切に。
 生まれた感情が、亡くした恋人の代用品なのか、それとも異常な環境に追い詰められた中で生まれた歪なものかは、誰も知らない。
 それでも、彼女が抱いた感情は、ただ一つの真実であった。
 たとえ、それがデモンズスレートという毒に塗れていても。


 葦原は揺れる意識の中で、虚無に手を握っては開いた。
 あの時、狂気に満ちた瞳を持って、葦原を守ると宣言した亜紀を守ることはできなかった。
 同じ言葉が耳に入り、葦原は思う。
(亜紀。俺を守る必要なんてない。俺が守る。だから、君はそんな眼をしないでくれ)
 ただ一つの願い。
 狂気から、愛する人を解放したい。
 その思いがあるから、この力にわずかながら価値を見出せる。
 葦原涼。
 野生のごとき戦いをする、ギルスへとなるもの。
 彼の想いは、見た目よりも純白の雪のごとく、優しかった。

状態表



【本郷猛@仮面ライダーTHE-NEXT】
【1日目 朝】
【現在地:D-7中央道路】
[時間軸]:THE-NEXT終盤(ショッカー基地壊滅後)
[状態]:全身に激しい痛み、全身負傷中。疲労中。気絶中。二時間変身不可(一号)
[装備]:ホッパーマスク@仮面ライダーTHE-NEXT、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
[道具]:なし
【思考・状況】
基本行動方針:戦いには乗らない。目指すは脱出。
1:あすかを追いかける。
2:葦原(金髪の青年)はいったい?
3:戦いを止め、主催と対決。
4:スマートブレインに対する強い怒り。
5:志村の後を追い、長田結花との合流を目指す。
[備考]
※志村を信用しています。彼から『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』という話を聞きました。
※名簿に自分の名前と一文字の名前が二つずつある事、連続変身出来なかった事に疑問を感じています。
※サソードゼクターに認められていないため、ゼクターは現れません。




【緑川あすか@仮面ライダーTHE FIRST】
【1日目 朝】
【現在地:D-8東道路】
[時間軸]:本郷を疑っている時(トラック事故後)
[状態]:軽い疲労、精神汚染(軽度)、葦原に依存? デルタに変身中
[装備]:デルタギア@仮面ライダー555
[道具]:なし
【思考・状況】
基本行動方針:本郷殺害後、脱出するか生き残る
1:葦原涼を死なせはしない
2:本郷をはじめとした仮面ライダーに復讐
3:護身のために仲間を増やす
4:牙王、影山瞬に気をつける
[備考]
※精神汚染は凶暴化、被害妄想などです(ストレスなどで悪化する危険性も)。
※D-6エリアのどこかにデンカメンソードの欠片が散乱しています。
※電撃を出す能力を得ましたが、威嚇程度にしか使えません。
※本郷よりも先に手塚を先に始末しようと考えています。




【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【1日目 朝】
【現在地:D-8東道路 】
[時間軸]:第27話 死亡後
[状態]: 全身負傷(中)、疲労(大)、2時間変身不可(ギルス)
    腕部に小程度の裂傷、変身の後遺症、仇を討てなかった自分への苛立ち
[装備]:フルフェイスのヘルメット、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト(道路傍に放置)
[道具]:支給品一式、ホッパーゼクターのベルト
[思考・状況]
1:殺し合いには加担しない。脱出方法を探る。
2:立花藤兵衛の最後の言葉どおり、風見の面倒を見る?
3:自分に再び与えられた命で、救える者を救う。戦おうとする参加者には容赦しない。
4:立花を殺した白い怪物(風のエル)に怒り。必ず探し出して倒す。
6:五代雄介の話を聞き、異なる時間軸から連れて来られた可能性を知る。
  白い怪物(ダグバ、ジョーカー)を倒す。
7:本郷(R)に対し、すこしすまなく思っている。
※五代の話を聞き、時間軸のずれを知りました(あくまで五代の仮説としての認識です)。
※剣崎一真の死、ダグバの存在、ジョーカーの存在などの情報を五代から得ました。
※ホッパーゼクターが涼に興味を持ちました。(まだ資格者とはなり得てません)
※カブトエクステンダーはキャストオフできないため武装のほとんどを使えません。
 今の所、『カブトの資格者』のみがキャストオフできます。


044:ウェイクアップ・コール 投下順 045:かげやまのなく頃に~仕切り直し編~
044:ウェイクアップ・コール 時系列順 045:かげやまのなく頃に~仕切り直し編~
040:Riders Fight!(後編) 本郷猛(リメイク) 055:The flames of destiny/炎の果てに(前編)
040:Riders Fight!(後編) 緑川あすか 072:感情(前編)
034:不屈 葦原涼 072:感情(前編)
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