TOAのティアタンはメロンカワイイ SS > スレ12 > 706-712

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ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ…。
…親愛をこめて、仲間へ作る、甘い菓子。
19年生きてきた中で、4度目となる作業。
先代導師へ天へ語りかけることに、この溶ける菓子でいいものか。
そもそも、どうしてコレなのか。
…再びの疑問を頭の中でめぐらせながら、カカオを砕いていく。

ハートやチーグル、ブウサギをあしらった型。
甘美な調味料。満ちる麻薬めいた甘い香り。

……ああ、…… …懐かしい。


「…これは?」
「は…、ご、ご気分を害されましたか?申し訳ございませ…」
「そうではないの。」

祝辞を述べたカードを見て、親愛なる教官は、
怪訝に眉を顰めた。ばくりと高鳴る心臓に声を上ずらせながら、
思わず頭を下げる。彼女がやんわりとたしなめてはくれたが、
十数年繰り返してきた習慣を、訝しげに見られては…拒否された、と
取ってしまうのも、無理はない…早合点はらしくないが、
それだけ。 彼女は自分にとって、特別だったのだ。
たった一人の肉親である、兄。
自分達の身元を引き取ってくれた、血のつながらぬ祖父。
…そして彼女は、
どちらに抱く憧れとも、想いとも違う、自分の理想。
ローレライの騎士。
…だから、冷静さを欠いた。

「…そうか、此処は…」
ドーム状の天井、あばら骨のような枠に張り巡らされた窓に映りこむ、
赤い空。 地殻。 それを見上げて、彼女は
口の中で幾度か呟く。そして直ぐに、合点がいったようだった。
「あの…」
「…ごめんなさい、少しばかり、外殻大地とは違う習慣だったものだから。
 無知は私のほう。ごめんなさい、ティア」
優しく低く凛々しい声に、私は見上げる瞳を間抜けに瞬かせることしか出来なかった。
問い返すことも、首を横に振ることもする前にも。


―――食料に乏しく、一片の無駄もならないユリアシティでは、
外殻につながる唯一の道、ユリアロードという連絡手段はあれど、栄え、実る大地とは
文化の違いが生じることもある。
最たる例は、食べ物に纏わる行事だ。
もともとコレは、創世記時代からの伝統らしい。そして、外殻の文化は
2月14日。 オールドラントでは、女性が男性…最愛の人に、チョコレートを送る、という。
対して魔界では。 バースデイ・スコアに記された祝辞を模したカードのように、
敬愛する者。親しい間柄の者。家族。数限りなく分け隔てもなく、カードを送るのだ。
さまざまなことを祈り、そしてその人のしあわせを願う。
預言に読まれていることを忠実に。 辛い現実にも堅実に。

「閣下は、あなたが此方へ…軍人になるということを最初に反対しておられた。
 そう帰ってくることもなくば、あなたに伝えそびれたのだろう。」
「……ええ」
「閣下は、カードを受け取られたのだろう?昨年も」
「はい」


「…きっと、あなたが軍人になり、外殻に行くときは。
 今以上の強さも、軍人としての考えも求められ、余裕は無いことだろう。
 だが、あなたたちが兄妹である、という事実は変わりはしない…。
 …閣下はあなたに祝われるのを待っておられるわ。きっとね」
「……はい、教官。」
穏やかに告げるアルト。
…しかし、それを聞けば。胸にひっかかったことが、ある。
ちがう。
…この感情は、可笑しいのかもしれない。彼女が告げた説明と、大切な場所が違っているのだから。
でも。

「…長くなってしまったな。準備はいいか?」
「はい、大丈夫です。」
「よろしい。 …では、第七音素譜術応用の―――」

「………これは?」
彼女の沈黙は、1年の時を隔ててより長くなったようだ。
私が差し出すものが、そんなに不思議なのか、と自分で考えてみると即座に頷けるのが悲しい。
「予め学ぶことは、礎の大事なひとつだと教官が教えてくださいましたから。
 分量も、きちんとちょうどになるように測り、あまりは出ませんでした。
 行程は順調に追え、試食の際にも何の問題もありませんでしたし…
 ……その、ご迷惑であれば、破棄しますが」
「そうではない。」
自分の差し出した箱の感触が、手から消えた。
優しくそれが胸に抱かれるのを見て、思わず、律していた感情が零れる。


「ありがとう」
足がふらり、と、引き寄せられる際に一瞬重力を忘れる。
耳元で響いた、誘惑にも似た澄んだアルト。
背に回される温もり。
丁寧に丁寧を重ねたラッピングされた箱は、丁重に背を過ぎて、彼女の手の中に。



―――想いを偽らない、ということは、律さない、ということだろうか。
―――人をあやめた際。見捨てた際。募る想いを律することを。
―――背徳であり非常識な劣情が、軍人である己に赦されるか。
―――理想である彼女は、軽蔑するだろうか。見捨てるだろうか。
―――今ならほんの少しだけわかる気はするが、未だに、そのあたりは…困難だ。


最後。
…そんなわけはないと思っていたあの時、何故だか焦燥にかられたから。
愛している、などと言えるわけがない。
敬愛にその感情を隠して、想いを伝えただけのこと。



一月後。その想いの果てか末か。
感じた熱も。暖かさも。柔らかさも。近すぎてくらくらする美しい声も。瞳も。浮遊感も…。
自分の想いへの返事という姿を借りた、私を手ごまにするための手だと。
推測には難くない。
彼女にとって、「ヴァンを殺すための憎悪で作られた駒」であった、ことも。事実だ。
それが氷解していったことをあの人は教えてくれた。
それでも、それを「嫌」と考えてしまう弱さを思えば、私はあの人に対して、より申し訳なくなる。



何も取り払えずに、手が届かなくなったこと。
喪失が、痛い。
…取り戻した、収束していく未来への足がかりを、失うまいと思わせてくれる。

仲間たちへの、恒例の型。
それぞれのイメージを模したかたち。
…少しだけ大きいハート型は、焔の光の名を持つ少年へ向けた、特別の中の特別。
羽根は、彼女の操る手、舞うように輝いたイメージの、同じくそれ。

それにチョコレートを丁寧に流し込みながら、私は回顧を終えた。
冷蔵庫にしまえば、今日はおやすみ。
…明日に。

幸せ。
壮健であること。
辛いことや苦しいことばかりだけれど、それでも。
初恋のあなたを、忘れないで生きてゆける。
失った大事なもの、その欠片が刺さっても、抱きしめたまま生きてゆける。
預言などなくても、自分の足で立てる。
ともに手を取り合って、生きていける人がいる。

強くなれたのか。あなたに恥じない程―――。
…甘美な、試食の名残り。指先についたチョコレートは答えてはくれない。
…だから、絶対に忘れないことを、決意として。



ハッピーバレンタイン。
チョコレートにこめて。



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