TOAのティアタンはメロンカワイイ SS > スレ8 > 832-836

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全てが終わってから、もうどれだけの時間が経ったのだろうか。
あのときの崩壊。
かつての言葉で栄光の大地とそう呼ばれたその場所、エルドラントが崩れ落ち、そしてその崩落と共にローレライが軌道上に浮かぶ音譜帯に飛び出してから、もうどれくらいの時間が立ったのだろうか。
あの日以来、ティアは目が回る程の忙しさの中にいた。
エルドラントの突然の浮上と墜落、レプリカの存在、導師イオンの死。
目まぐるしく移り変わる状況に付いて行くのが精一杯だったが、いざその道を振り返ると、そこには世界が引っくり返ってしまいそうな大きな問題が山と積まれていた。
そして、その栄光の大地から帰還したティア達の中に、その山を呆然と見上げているだけで良いような人物は、残念ながら一人もいなかった。
それがティアにとって、幸せだったのか不幸なことだったのか。それはわからない。
ただ、帰還したティア達はそれぞれ各個に散り、己の果たす役割を果たすべく、帰るべき場所に帰っていった。そしてそれは、当然ながらティアも同じだった。
今回の騒動でズタズタになってしまったローレライ教団の再建。音譜帯へと飛び出したローレライの観測。墜落したエルドラントの回収撤去。
やらねばならぬことは目の前にうず高く積まれ、そしてそれを行うことにティアはなんの疑問も抱かなかった。浮かべる必要も無かった。
そうすることがもっとも楽な方法だと、ティアは無意識の内にそんなことを考えていたから。自分でも気付かないような、何気ないところで。
そしてその日から、ティアは日付を数えることをやめた。まるでそうすることで、なにかから逃げるように。
だが、それでも終わりはやってくる。
気が遠くなるような膨大な作業も、日を追うごとに減っていき、気付けば後始末と言って差し支えの無いような簡単な書類整理しか、ティアの目の前には残っていなかった。

夜。自分の部屋の机に座り作業を進めながら、ティアはふとその手を止める。
また背中に、視線を感じたからだ。いや、正確にはそれは視線というよりも気配。誰かがいるのではないのかという、得体の知れない感覚。
あの日、あの時、エルドラントから帰って来た日から、自分の大切だった人が消えてしまってから、よく陥るその感覚。
ティアも、自覚している。これは幻覚だ。振り向けばもしかしたら、目の前に彼がいるかもしれないという、有りもしない期待。
頭を過ぎるのは、あのときの言葉。必ず帰って来てと言った自分に、頷いてくれた彼の顔。
「っ」
手に、力がこもる。顔を伏せた動きに連動して、ティアの長い栗色の髪がサラサラと肩からこぼれた。
なにかに耐えるように、ティアはそのまま動かない。背後から忍び寄る、もしもという期待の悪魔を振り切るように、ティアは動かない。
自分に言い聞かせるように、幾つもの言葉を並べ連ねる。
例えば今本当に後ろにいる曖昧な気配の持ち主がいたとして、そしてもしそれが彼ならば、きっとすぐにでも自分に声を掛けてくれるはずだ。
こんなにも長い間、ただ黙っているはずがない。
他にも、数え上げればキリが無いほど言い訳なんて思いつく。バカバカしい。
そう思い、伏せていた顔を上げ、再び目の前の書類整理に戻ろうと手を動かしたその瞬間。
コトリと、背後で音がした
気付いたときには、全力で振り返っていた。その顔には、期待による微かな笑みが浮かんでいる。
だが振り返ったその目に飛び込んできたのは、なにもない、見慣れた自分の部屋だけだった。
「・・・・あ」
落胆と絶望と共に紡がれるのは、言葉にもならないただの音。
灯った笑みが、見る見る内に萎んでいく、自分を恥じるように顔を伏せ、膝の上に置いた両手をきつく握り締める。
「バカ・・・・みたい」
呟いたその言葉は、震えていた。

翌日。珍しく寝坊したティアを迎えたのは、来客の報だった。
起き抜けの頭のまま、鏡を覗き込む。映りこんだその顔は、随分とやつれているように思う。
髪はほつれ、目の下には濃い隈が出来ている。
だが、昨日の出来事の後、不貞寝するように眠りに落ちたティアは、どうしてもそれを整える気になれなかった。
乱雑に櫛で髪を整え、顔を洗う。旅のときの自分からは考えられないような適当さだった。緊張の糸が切れたのか、それとも。
(意味、無いもの・・・)
見てくれる相手が、見て欲しい相手がいない。ふと過ぎったそんな考えを、ティアは自嘲こそすれ、否定する気にはなれなかった。
扉を開け、外に出る。清々しい朝の空気とどこまでも突き抜けるような青空が目に入る。
「良い、天気ね」
その光景に少しだけ救われた気がして、ティアは安心したような吐息を漏らした。思えばずっと部屋にこもって作業をしていたから、こうして明るい内に外に出るのは久しぶりのことかも知れない。
そのまま散歩でもしようかと思い、自分に来客があったことを思い出す。乗らない気持ちを無理矢理押し込め、足を会議室へと向ける。
が、その必要は無かった。
「いやあ、お久しぶりですねえ」
目の前の通路、その柵に腰掛けていたのは、マルクト軍の軍服に身を包んでいる一人の男だった。
「大佐?」
その意外な来客に、ティアは驚く。アニスやガイ、それにナタリアが、公務や仕事の合間を縫って会いに来てくれたことは今までたくさん会った。
だが元々その手の馴れ合いが嫌いなこの男が、こうして自分に会いに来たのは、あの日以来初めてだ。
そこまで思い出して、ティアの胸がチクリと痛む。あの日。もはやその単語を想像しただけで反応する自分に苦笑しながら、目を向ける。
ジェイドは腰を預けていた柵から身を剥がし、いつものように悠然と佇むと、そのままこちらに歩み寄って来た。
「顔色が悪いですね。いけませんよ。ちゃんと食べないと」
告げられた言葉の内容とは裏腹に、その言葉は軽い。心配していない訳ではないだろうが、この男はいつもこんな感じだったことを思い出す。
懐かしさと共に、また胸が痛んだ。
「食事は、キチンと三食取っています」
「そうですか。それは結構」
眼鏡に手を当て、ジェイドはそれだけ告げる。淡白な言葉。
それに耐えかねたように、ティアは尋ねた。
「ところで、そちらの方の作業はどうなっていますか?確かエルドラントの回収を」
墜落したエルドラントの撤去は、マルクト軍が行っていた。
元々ホドはマルクト領に近い。そのためキムラスカと協議した結果、マルクト側が進み出る形で、エルドラントという巨大な夢の産物の撤去を申し出た。
だが、何分物が大きすぎる。一つの国と言っても差し支えないような巨大な物体の回収など初めてなため、作業は延々として進まないと聞いた。
このままのペースでは、後十年掛かって作業の半分が終わるかどうかという、酷く気の遠くなるような大掛かりな物らしい。
だが、意図もなにもないその言葉に、微かにジェイドが息を詰める気配を感じた。
不思議そうに首をかしげるティアに苦笑を向けながら、ジェイドは手持ち無沙汰に懐に手を突っ込む。
「まあ作業の方は、相変わらずと言ったところでしょうか。軍だけでなく民間からも希望者を集って作業に当たっていますが、物が物ですから」
懐に手を入れたまま、なにか間を持たせるようにジェイドはそう言う。
その彼らしくない、言いたいことがあるのにそれを躊躇っているような気配に、ティアはさらに困惑を深める。
「なにか、あったんですか?」
尋ねた言葉に、返答は無かった。相変わらずなにかを躊躇うような表情のまま、ジェイドは息を吐く。
だが、まるでそれを振り払うように首を振る。私らしくない、と小声で呟くのを、ティアは確かに聞いた。
そうして、ジェイドはなにかを振り切るように、懐に押し込めていた手を引き出した。その手には、一つの冊子が握られている。
なんの変哲も無い。どこにでもあるような冊子だ。町の道具屋にでも行けばごまんとあるような、そんな有り触れた冊子。
だが、それを見たティアの目が、見開かれた。驚きと戸惑いに。
そのジェイドの手に握られている冊子は、酷く汚れていた。
まるで何年も使い込まれているような分厚いそれは、土と泥に汚れ、しかし記された文字を決して掠れさせてはいなかった。
その表紙には、ただ一人の男の名前が記されている。


ルーク・フォン・ファブレ
自分の、待ち人の名。
「それ・・・」
「エルドラントの最深部に降りた調査隊が発見、回収して来た物です。本来これも遺留品として、マルクトに収めるのが筋なのですが」
そこまで言って、ジェイドはそれを示すようにティアへと差し出した。受け取れという無言の行動に、ティアは呆然としたままその手にそれを収める。
渡されたそれは、重い。回収されてから、一応復元作業は行われているのだろう
もう何ヶ月も瓦礫の下に放置されていた物とは思えない。だが、それでも取りきれなかった染みや汚れが、随所に見られる。
「私の独断です。先程も申しましたが、本来それはマルクトに収められるべき物。他言は無用でお願いしますよ?」
ジェイドの独断という言葉に、ティアは再び顔を上げる。
「し、しかしそれでは大佐が」
「私の独断、と言ったでしょう?大体そんな子供が書いたような日記など、調査の役には立ちません。ならば、持つべき人が持っているべき、私がそう判断しただけの話です」
それだけ告げると、ジェイドはさっさと背を向けた。話は終わりとでも言うように、そのまま歩き出す。
その胸に日記を抱きしめるティアは、ただ歩み去っていくその姿を見つめる。と、不意にその背中が立ち止まり、言葉を紡いだ。
「それとティア」
「あっ、はい」
反射的に背筋を伸ばし、返事をした。それは彼の日記を届けてくれたという感謝の念が、そうさせたものだった。
「泣け、とは言いません」
「え?」
急に飛び出してきた、この男らしくない脈絡の無い言葉に、ティアは戸惑う。
だが、それを知ってか知らずか、ジェイドは相変わらず背中を向けたままだ。
「しかし、泣くなとも言いません」
ジェイドの言いたいことが掴めず、ティアはどうするべきか迷い、無意識の内に胸に抱いている日記を持つ両手に力を込めた。
「その日記が落ちていた近辺に、他に遺留品らしきものは見つかりませんでした。彼の音素が乖離したときに、おそらく彼の身に付けていた物も、一緒に消えていったのでしょう」
「っ」
その言葉に、思わず顔を伏せる。もう何度も聞いたはずのその言葉、彼は消えたというその言葉に、それでも割り切れない胸のどこかが痛む。
だが、ジェイドは続けて言った。
「しかし、それはアナタの元に来ました。彼の身に付けていた剣も服も、なにもかもが消え、しかしそれはアナタの元へやって来た」
その顔には、私らしくないという自嘲のような、苦笑のような、曖昧な表情がありありと浮かんでいる。が、背中を向けているティアには当然見えていない。
「その意味を・・・良く考えてみなさい」
それだけ告げると、ジェイドは今度こそそのまま、振り向きも立ち止まりもせずに歩み去った。
だからその背中と、そして掛けられた言葉に向けて、ティアが無言で頭を下げていたのを、ジェイドは知らない。


夜。いつもと変わらない夜。殺風景な部屋に置かれている机の上。しかしいつもと違う光景がそこにはあった。
無言のまま机に座るティア。その前には、一冊の日記が置かれている。
表紙に、ルーク・フォン・ファブレと綴られているその日記を前に、先程からティアは無言のまま。
震える手を何度もその表紙に掛け、そして引き戻す。
その顔には、不安と恐怖がありありと張り付いている。その日記を見ることで、なにかがはちきれてしまいそうな、そんな不安が呼ぶ表情。
出来ることなら、見たくなかった。怖かった。恐ろしかった。
泣かないと決めた。泣いてもなにも変わらないから、そしてなにより、自分のどこかで嫌な予感めいたものがあった。
兄が死んだときも、自分は泣かなかった。教官が死んだときも、自分は泣かなかった。今までの旅で、自分達のために死んでいった人達がいた、しかし彼らの死を前にして、ティアは絶対に泣かなかった。
何故なら自分は、兵士だから。感情を律することが出来なければ、兵士としては失格。それは教官が死んだとき、気遣ってくれた彼に告げた自分の言葉だ。
だが、もし今この日記を見て泣いてしまえば、自分は兵士では無くなってしまう。そうなれば、自分はただの小娘だ。
そして、そうなってしまった自分に、彼がいない日々を乗り越えていける力があるとは、思えなかった。
だから、怖かった。もしこれを読んで泣いてしまえば、自分は
―――その意味を・・・良く考えてみなさい
不意に思い浮かんだのは、昼間に再会したジェイドの言葉。
なにもかもが消えて、しかしこれは自分の元へ来たと言っていた。随分と彼らしくない、感傷的な言葉。
「っ」
ティアは、息を詰めた。手を伸ばす。ジェイドの言葉が本当かは知らないし、おそらくそれは自分の感傷だろう。ただそれでも、無視することは出来なかった。
思い込みでもなんでも良い。ただ目の前に彼が残してくれた物があるのなら、逃げ出したくは無いと、そう思った。
震える手でそっと触れ、そして一枚一枚ページを捲って行く。
そこには、確かに自分と共に歩んだ。彼の残した言葉と想いがあった。
あの日、タタル渓谷へ飛ばされた日から、全ては始まった。あのときは、まさか彼が自分の中でこんなにも大きな存在になるとは、夢にも思っていなかった。
そしてそこには、おそらく彼の人生の中でもっとも大きな転機となった、アクゼリュス崩壊の事実も記されていた。
ミュウが代わりに書いた内容が少し混ざり、そして彼の苦悩と悩みと、後悔が綴られる。
今思うと、自分の言ったことは随分と酷かったということに気付く。
彼は、生まれてまだホンの七年だったのだ。そしてその間に出会った、両親よりも尊敬していた兄の命令で、アクゼリュスのパッセージリングを消し去った。
仕方が無いと、言えることではない。だが、彼だけに責任を押し付けたあのときの自分は、確かに最低だった。
そう考える自分に、苦笑する。
おそらく今こんな風に考えられるのは、事態が全て終わり冷静になったことと、なにより自分の気持ちが、彼に対して寄り添っているからこそそう思うだけだろう。
さらにページを捲ると、そこには確かに、あのときの日々が綴られていた。
パッセージリングを停止するとき、自分の体が瘴気に蝕まれていくのを、そしてそれを受け入れて作業を進めようとする自分を、許してくれた彼。
兄との決着。一ヶ月の空白。世界規模のレプリカの出現。
そして、レムの塔。

ルークの思い思いに語られていく彼の物語に、ティアは口元に笑みを浮かべながら、そして時に描かれている内容に顔を赤らめながら、ただ黙って手を進めた。
そして物語は、終焉を迎えた。
乖離しかけた体を引き摺り、兄に挑むところで、日記は終わりを告げていた。それ以降のページは、どれも白。なにも描かれていない。
その事実に、ティアは視界が歪むのを感じた。
慌てて口元を噛み締める。流れそうになる涙を必死に押さえて、ティアはただ耐えるように上を向く。
彼の物語は、終わった。終わってしまった。今までの彼の全てが記されている日記には、もうなにも描かれていない。
そして、これからも。
「・・・ちがう」
考えるよりも前に、言葉は漏れていた。
「・・・・ちがう。帰って来る・・・・約束、したもの」
そう、約束した。彼は、帰って来ると。
その言葉は、今でも信じている。だが、それでもふとした隙間に入り込む不安と恐れを、消すことは出来ない。
日記を抱きしめ、ティアは顔を伏せる。
溜まった涙を顔を左右に振ることで弾き飛ばし、ティアはただ日記を抱きしめる。
喉まで、ある単語が出掛かった。大切な人の名前。約束してくれた人の名前。
だが、それを必死に飲み込む。確信があった。今その名前を口にしてしまうと、自分は崩れてしまう。
喉を鳴らし、肩を震わせ、それでもティアは泣かなかった。
だが
「ルー・・・ク・・・・」
溜め込んでいた言葉が、ついに漏れた。
「ルークゥ・・・」
日記を抱きしめ、子供のように体を丸め、ティアはただ呼び続けた。
待ち人を、自分の大切な人を。
返事は無く、ただ小さな部屋に、いつまでもその言葉は響き続けた。
返答の無い呼びかけは、しかし終わることなく、ずっと続いていく。

その日。とある薄汚れた日記に、およそ一年振りに新たな文字が綴られた。
およそ日記などと呼ぶには程遠いその堅苦しい文章は、しかし懸命にある想いを綴っていた。

信じている。だからずっと待っている。と



  • 悲しい・・・が、GJ! -- 名無しさん (2006-08-05 23:42:13)
  • ルークを待つティアのきもちがすっごい伝わる!!
    ないちゃいましたぁ!! -- 瑠紅 (2006-09-17 15:09:34)
  • 強い女です -- ななし (2008-01-05 02:26:48)
  • ぜひ、続きを見たい! -- タケヒロ (2008-03-17 20:07:51)
  • やばい・・これは泣ける・・
    ほんと強いな・・ティア・・
    -- 茶味 (2008-10-26 21:30:58)
  • これを書いた人、アビスの色良くわかってる!素晴らしい! -- アカツキ (2011-11-20 00:54:48)
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