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戦いの決断」(2008/07/06 (日) 13:33:23) の最新版変更点

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*戦いの決断 木々の隙間から漏れる朝の日差しが舗装された道を優しく照らす。 その穏やかな道をバイクで駆け抜ける青年がいた。 バイクに乗る青年、北崎の心は言葉に出来ないほどの高揚感に包まれている。 ほんの5分前まではコブラ男との戦闘で得た勝利の余韻に浸りながら駆け抜けていたが、 放送にて呼ばれた一条薫の名前、そして呼ばれなかった五代雄介への期待感。 この二つが北崎の心をどこまでも高揚させた。 この場に来て初めての獲物、一条。北崎は彼に感謝していた、含み無く、心の底から。 (こうして僕に勝利の喜びをくれただけじゃなく、仮面ライダーを、五代雄介って人を教えてくれた。本当に、感謝してるよ…一条くん…) にぃ、と笑いながらこれから先に待ち受ける出会いに心を躍らせる。 北崎が向かうは市街地。理由は単純に人が集まりそうだから、というものだ。 走り続けていくと木々の間隔は疎らになり視界も開けていく。 眼前に広がる市街地。さらにその先には雄大なる海が見える。 それら全てが朝日に照らされ、美しく輝いている。 北崎はバイクを止め、しばらくその風景を眺めていた。全てが美しいその風景が北崎にもたらす物とは―― (全部灰にしたら、楽しいかなぁ?) どこまでも純粋に、北崎は自らの破壊衝動に身を委ねる。これまでも、これからも。 眺めるのにも飽き、再びバイクを走らせ市街地へと入り込んでいく。ただひたすらに、自分を楽しませてくれる者を探すために。 市街地を走り続けてしばらく経つが、あいにく人の姿は一つも確認できなかった。 だがあちこちにある破壊の跡は紛れなくここで戦闘が行なわれた事を物語っている。 できれば自分も混ざりたかった、戦闘の跡を見かける度に北崎はそう思う。 そうやって辺りの光景を、人影を一つも見逃さないように集中していた為だろうか。 オルフェノクの優れた五感が、北崎に伝えていた。 (誰か、僕を見てる…) 十字路の中央でバイクを止め、ヘルメットを脱ぎ辺りを見渡す。同じような家ばかりが建ち並び、視線の主を特定するには至らない。 だがそれでも北崎には十分だった。何故ならこの近くに誰かがいるのは間違いないのだから。 (隠れても無駄だよ?だって僕には…これがあるもの) 牛のレリーフが飾られた緑のカードデッキを右手に持ちバイクのミラーに向けて突き出す。 突き出された右腕を左から右へとゆっくりと動かし―― 「変身」 腰へと装着されたVバックルにカードデッキを差し込む。 幾重もの虚像が重なり、北崎の身体を緑と銀の装甲で包み込む。 機械的な印象を持たせる銃の使い手、仮面ライダーゾルダ。 正義の為の力となるはずだったその力は、今や純粋すぎる破壊衝動の化身となり、この地を破壊しつくせんと現れる。 「さーてと…まずはどこにしようかなー」 ゆっくりと辺りを見渡すがさほど意味はない。結局は全て破壊するのだから。 「うん、あそこにしよーっと」 ――SHOOT VENT―― ゾルダの両肩に巨大なキャノン砲が装着される。その矛先を目標とした民家に向けて―― 「Fire」 破壊の光弾を撃ちこんだ。純粋に、破壊するために。           *   *   * ごく一般的な住宅内に、二人の男が同じ声に耳を傾けている。 そう言うと単なる日常に思えるが男達の身なりと今の状況がそれを異質な物としていた。 男は黒いスーツをしっかりと着こなし、中身を知らない人間には冷静な男という印象を持たせる。 もう一人の男は時代錯誤な軍服に身を包み左目には眼帯が施されている。 威風堂々としたその面持ちに畏怖の念を抱かぬ者はいないだろう。 この二人に接点は無い。本来ならば出会うこともなかったであろう二人が何故行動を共にしているか。 殺し合い、という異常な状況故だ。その異常な状況でこうして同じ声に耳を傾ける。 異常な中での日常の行動はどこか奇妙な物を感じさせるが、恐らくこの風景は他の場所でも見られたことであろう。 何故ならこの声はこの殺し合いにおいて重要な情報源となる『放送』という類の物であるのだから。 放送の内容を簡潔に言えば今現在までに出た死者の読み上げ、新たな禁止エリアの発表。そして鉄道の存在。 長いようで短い放送は声の主である派手な女のウインクを最後に終了を告げる。 スーツの男、橘朔也。 軍服の男、ゾル大佐。 彼ら二人がこの放送でまず抱いたものは奇しくも同じ物であった。即ち―― 「奴が死ぬ等、有り得ない…」 その呟きはゾル大佐から漏れた物だったが橘はその呟きから、ゾル大佐が自分と同じ思いを抱いた事を察した。 「誰が、死んだんだ?」 確認の為に名前を聞くがゾル大佐はそれを無視して携帯を操作する。どうやら名簿を眺めているようだった。 しばらく名簿を眺めるとフン、と鼻を鳴らして携帯を閉じた。 「やはりな。同じ名前があったわ。つまりは奴と同じ名前を持つ別の誰かが死んだというわけだ」 「…なるほど、一文字隼人か」 「うむ、なかなか察しがいいな。貴様も少しではあるが見たであろう?一文字隼人こそ倒すべき仮面ライダーの一人よ。  今まで数々の我々の作戦をことごとく潰してくれたあの邪魔者がこうもあっけなく死ぬはずがない。  どういうわけか知らないが同姓同名の者が紛れ込んでおった。おそらくはそちらの一文字が死んだのだろう」 ゾル大佐はどこかホッとした顔をしている、そう橘は思った。どういう心理が働いているのかわからないが、憎いゆえに情があるのだろうか。 ギラファアンデッドと対峙する直前にもわざわざ見逃した事があった事を思い出す。 合理的に考えればあそこで助ける必要等、例え自分の発言があったにせよ無いはずだ。 軍人というには少しばかり甘いというべきか、或いは一つの事に拘りすぎていると言うべきか。 (合理的すぎるのも印象を悪くするだけ、か。なるほど、よく出来た『人格』だ…) 何か考え事を始めたゾル大佐を品定めするかのような目で橘は見つめる。 その目の人に向けるものとは思えないほどに、冷たい。それもそのはず、ゾル大佐は人間ではないのだから。 人間ではなく、仮想現実に与えられた仮初の命。間違いない。 橘の仮想現実という考えは最早揺ぎ無いものとなっている。 先ほどの放送で呼ばれた名前の中にあった剣崎一真という男。 名前を聞いた瞬間こそ唖然としたが、仮想現実という事を考えるとむしろ笑いさえこみ上げてきた。 恐らくは自分の動揺を誘うために『死んだ』という事にしたのだろうが、剣崎の事を知らなすぎると指摘してやりたくなったほどだ。 (あいつは人を守る為に、自らを犠牲にし、そして友を封印した…どこまでも優しく、どこまでも強い男だ。  その剣崎が死ぬはずがない。託す、という事をせずに全部自分で背負い込む男だ。こんな早くから死ぬ事は有り得ない) 禍木と三輪に続き剣崎。例え仮想現実とはいえ『死んだ』とされるのは、やはりいい気はしない。 (スマートブレイン、お前達は少しばかり俺達を侮辱しすぎた。覚悟しておくんだな…) 到底許せるものではない。許せるはずも無い。必ず脱出して… (…そういえば他の名前を挙げたのは何故なんだ?) ふと思い当たる。単純に自分を嵌めるだけならば剣崎の名前だけでいいはず。 志村の交友関係を全て把握しているわけではないが、それでもまったく無関係そうな名前も挙げられている。 単純に考えるならば『演出』という奴なのだろう。このゾル大佐のライバルという『設定』の一文字という男のように。 だがそれにしては、数が多すぎる。その数の多さが物語るのはつまり… (俺以外にもやはり、居るということなのだろうな。現実の世界から呼ばれた者が) 正直な所自分の記憶の内どこからが仮想現実なのか橘には目星がつかない。 当初はあの広間で眠らされた時と考えていたが…あの広間にはアンデッドとすら呼べない異形な存在もあった。 あのような存在があの広間にいるという時点で既に異常だ。恐らくはあの広間から既に仮想現実だったのだろう。 ではどこから?という疑問にぶち当たるが残念ながらその答えは恐らく見つけられないだろう。 招待状を受け取った時かもしれないし広間への扉を開けた瞬間かも。或いはもっと前という可能性もある。 それに仮想現実なのだからある程度の記憶の操作もできるのだろう。あくまでデータ上の記憶、という話ではあるが。 ともかく今の問題はどこからが仮想現実、という話ではなく自分以外の誰が現実の参加者なのか、これだ。 しかしこの参加者の見極めは困難か、あるいは不可能と言い切ってもいいだろう。 仮に今目の前にいる仮想の参加者であるゾル大佐に「お前は現実の参加者か?」と聞けばイエスと答えるだろう。 同じ質問を自分と同じ現実の参加者かどうか問えば当然イエスだろう。答えは一つしかないのだ。 例えば…何かこの場を仮想現実という事を証明できるものを見せつけ、それに肯定的な態度ならば現実の参加者、否定的なら… (こんがらがってきた…というより一人で考えていてもこれは永遠に解決しない問題か) 考えを切り上げゾル大佐の方を見ると未だに何か考えているようだ。 いや、或いはこちらの反応待ちなのかもしれない。それならそれで好都合だ―― 「なぁ、大佐。そろそろ行動すべきだとは思うが…俺はより多くの参加者達と合流すべきだと思うのだが」 「ふむ…」 蓄えられた髭に手をやり、ゾル大佐は考える。 確かに部下が多いに越した事はないのは事実だが、多すぎてもただ邪魔なだけなのだ。 来るべき仮面ライダーとの決闘の時に下手な邪魔が入るようでは困る。 それゆえにゾル大佐は橘の提案に素直に頷く事ができなかった。 「どうした?誰かと合流するとまずい事でもあるのか?」 「橘、単純に数を増やせばいいというものではない。下手に数を増やすと内部に敵が入り込んだ時のダメージは計り知れない物となるのだぞ?」 ゾル大佐が仲間を増やす事に対する一番の懸念は、なによりもこれだった。 ある程度のグループを形成された場合、もっともダメージを与えられるのは内部からの工作なのだ。 それは人数が多ければ多いほど効果的で、事前に防ぐ事も困難となる。 ショッカー日本支部就任前、数多くの敵対組織を変装を用いた内部工作で崩壊に導いたゾル大佐だからこその懸念であった。 だが橘にとってはゾル大佐の言葉は単純に自分を他の参加者と戦闘以外で接触させたくない、という主催者側の意図のように感じられた。 「しかし二人ではやはり心もとないだろう?最低でも、あと二人は欲しい所じゃないか?」 「橘、逆に問うが何故そこまで他の者との協力を図ろうとする?」 ゾル大佐の目が鋭く光る。もしかしたら橘は自分を葬るつもりではないのか、その為の協力者が欲しいのでは?と考えたのだ。 可能性は十分に有り得る。当初は隙を見て一人でやろうとしたが自分の変身したその強さに恐れをなして一人では無理だ…と判断したのでは。 この殺し合いの場では裏切り等、当たり前の行為だ。やられた方が悪い。つまるところ…誰も信用等できはしないのだ。 一方の橘もゾル大佐の雰囲気が変わったことを感じ取る。 もしかしたらこのまま我を通せば邪魔者と判断し、消されてしまうかもしれない。 だがおめおめとやられるわけにはいかない。ギャレンバックルにそっと手を当てる。 「言ってるだろう?協力者は多いに越した事はない、と…」 「ふむ…橘、貴様はもう少し利口な男だと思っていたぞ?」 ゾル大佐と橘はお互いを睨みつけながらゆっくりと間合いを開け―― 「…?待て、何か聞こえるぞ」 二人の耳に聞こえてくるのは、独特の排気音。お互い聞きなれたバイクの音だ。 「誰か近くに来てるのか!」 橘が窓に近寄り辺りを見渡す。2階の窓から見える風景には変わりは、あった。 東の方角からバイクが一台姿を現した。遠目で詳しい容姿はわからないが、どうも男が乗っているようだ。 そうして見ていると男はバイクを十字路の真ん中に止め、ヘルメットを脱ぎ辺りを見渡し始めた。 何かを探しているのだろうか?恐らくは参加者か、はたまた別の目的か。 「ふーむ…男のようだな。橘、接触するのか?」 「いいのか?仲間を増やす事には反対だったはずじゃ…」 意外な言葉に橘は驚き、ゾル大佐の目を見つめる。 何か企んでいるのだろうか?真意は一体どこにあるのか?だがその目からは何もわからない。 「…やはり接触するのはよそう。それより橘。動くぞ」 「な!?何故そうコロコロと意見を変える!理由を言え!」 意見が一貫しないゾル大佐に苛立ち、思わず詰めかかる。 だが当の本人は驚く様子も無く、いやどこか諦めさえ感じさせながら答えた。 「ふぅ…もう遅い、か。接触しない理由はアレだ」 そうやってゾル大佐が窓を指差す。橘が振り返り、窓から外を眺めるとバイクの青年の姿はいつの間にか緑の戦士となっていた。 両肩にはどう見ても大砲としか思えない代物が装着され、その大砲は丁度こちらを向いており… 橘が青年の変貌に気づいたのと、大砲の口から火を吹いたのはほぼ同じタイミングで―― 「ボサッとするな!飛び降りるぞ!」 その声にハッとした時には既にゾル大佐は窓をぶち割り、脱出していた。 橘もそれに続くように割れた窓から飛び降りる。直後の着弾。 砲撃による爆風や瓦礫が橘の無防備な背中に襲い掛かった――           *   *   * ゆっくりと、砂利や吹き飛ばされた瓦礫の破片を踏み潰しながらゾルダは歩く。 埃を払いのけ、ちらりと瓦礫の山を見た後にゾル大佐はキッと歩いてくるゾルダを睨む。 ゾルダは構わず歩き続け、立ち止まる。二人の距離は5メートルといった所か。 「二人組みたいだったけど…一人はもう死んじゃったの?つまんないなぁ…」 瓦礫の山を指差しゾルダは残念そうに呟く。演技ではなく心から残念なのだ。 「ふん、不意打ちを食らえば並の者なら死んで当然。ましてやこれだけの威力の不意打ちならば、な」 ゾル大佐はデイパックを足元に置き、ゾルダとの距離を保ちつつ、ゆっくりと歩き出す。 丁度瓦礫の山とゾル大佐の間にゾルダが来る様な位置までくると立ち止まり、右手の平で左手の平を叩き出す。 つまりゾル大佐は拍手をしはじめたのだ。この状況で。 「見事だ。いや、流石といったところか」 「…なにそれ?命乞いのつもりなの?おじさん」 言葉の意味がわからずゾルダは少し苛立ちながらマグナバイザーの銃口を向ける。 「そんなことより、僕と遊ぼうよ…。ね、いいでしょ?」 「ふむ…よかろう。ほれ、こい」 ゾル大佐は拍手をやめるとすっ、と右手を突き出しクイクイと指先を動かしゾルダを挑発する。 「へぇー、変身しないの?それともできないの?何か企んでるのかなぁ?」 不穏な動きに警戒してゾルダは後ろに一、二歩下がる。 それを見てゾル大佐がにぃ、と笑う。まるで罠に掛かった、とでも言わんばかりに。 「逃げようとしても無駄だよ?見てわかるでしょ?僕には銃があるんだから」 「ふむ、そうだな…確かに逃げられないだろうな…」 「ただし、お前がだ!変身!」 ゾルダの背後の瓦礫の山から突如として聞こえてくる声、そして飛び出す光の板。 背後の事ゆえに咄嗟に反応できずゾルダはその光の板に吹き飛ばされる。 その吹き飛ばされたゾルダにいつの間にか変身を終えていたゾル大佐、いや、黄金狼男が唸り声を上げつつ右の重いストレートを放つ。 不意をつかれ、追撃も食らってしまったゾルダは地面で転がり、咳き込む。 瓦礫から変身を終えたギャレンが抜け出し、黄金狼男と並び立ち、ゾルダを睨みつける。 「橘、咄嗟にしてはよくやったぞ。よく私の意図を読み取れたな」 「瓦礫があいつの背後に来るように回り込んでいたからな…すぐにわかる」 指示せずとも的確に動いたのがよほど気に入ったのか、狼男は上機嫌だ。 だがその隣に立つギャレンは浮かれず、あくまで地に伏せるゾルダを睨みつけていた。 「ふぅー…ちょっと痛かった、かな?でもこれくらいが丁度いいよね…」 ゾルダはゆっくりと立ち上がり、ベルトからカードを引き抜きマグナバイザーへと差し込む。 ――ADVENT―― 先ほどの砲撃の衝撃を免れた民家の窓からゾルダの契約モンスター、マグナギガが現れその巨体を駆使し、狼男とギャレンを吹き飛ばす。 左右を民家の塀で囲まれた一本道で再び二人はゾルダと対峙する。先ほどと違うのはゾルダの側にマグナギガがいる点か。 「これで2対2、だね。あ!そうだ言い忘れてた…」 マグナバイザーを指一本でクルリと回し、銃口を突きつける。その姿はウェスタン映画のガンマンのようだ。 「僕は、世界一強いんだ」           *   *   * その言葉を皮切りに、ゾルダは思うままに乱射する。 左右を塀に阻まれ、狼男とギャレンはその身で銃撃を受け止める。だが好きにさせるつもりは毛頭無い。 狼男は自らの指先から、ギャレンはギャレンラウザーから銃撃を繰り出し対抗する。 その抵抗をあざ笑うかのようにゾルダはマグナギガの陰に隠れ、二人の銃撃をやり過ごす。 片方は銃撃をやり過ごせる遮蔽物があり、もう片方は遮蔽物と呼べる物は無く銃撃全てを身に受ける。 誰が見ても有利不利は明らかな状況に狼男が焦りの声を上げる。 「ちぃ、橘!あの牛をなんとかできんのか!」 その声に促されるようにギャレンは3枚のカードを引き抜き順番にラウズさせる。 ――BULETT―― ――RAPID―― ――FIRE―― ――Burning Shot―― コンボが成立し、ギャレンラウザーにアンデッドの力が漲る。 ゾルダの銃撃に間ができた隙に銃口をマグナギガへと向け、引き金を引いた。 炎に包まれ強化された無数の弾丸は、それこそ隕石のようにマグナギガへと降り注ぎ、その身を崩壊させていく。 辺りにはバーニングショットの衝撃による煙がたち込め、その威力を物語っていた。 「これで邪魔者は…っ!」 煙が徐々に晴れていき、ギャレンがそこで見たものは巨大な大砲を両手で抱えるゾルダだった。 この時、ゾルダは強力な攻撃(恐らくは射撃)が来る事を予測し、二つのカードをベントインさせていた。 まずガードベントを使い、マグナギガと自分の間に盾を呼び寄せ、次にシュートベントでギガランチャーを呼び寄せる。 マグナギガとギガアーマーによる2段の防御、即座のカウンターの用意を整えていた。 だがタイミング悪くマグナギガは役目を務める寸前で制限によりミラーワールドに帰ってしまう。 これにはゾルダも驚くが、ギガアーマーで防ぎきれなかった分はギガランチャーで対抗し、なんとかダメージは最小限で済ませる事ができていた。 もしもこの時ゾルダの思惑通りマグナギガで受け止めていれば恐らくマグナギガは倒れ、ゾルダはブランク体となっていただろう。 もっとも、当の本人はそんな事実は知らず、咄嗟に冷静に動けた自分はやはり最強だ、等と考えていたのだが… 「ふふ、お疲れ様」 ほんの数時間前に一つの命を奪ったギガランチャーを、今のお返しと言わんばかりに撃ちこむ。 回避が遅れ、砲撃を免れられないギャレンを狼男が突き飛ばし、砲弾を厚い胸板で受け止める。 「大佐!」 「ぬぅ…なるほど、少しは、やる!だが、この程度で倒れはしない!  この身体は世界最高の技術力であるショッカーによって造られているからな!」 「へぇ…仮面ライダーじゃないのに仮面ライダー守るんだぁ、面白いね」 異形の者と仮面ライダーが協力する、という構図がゾルダに木場勇治とファイズの関係を思い起こさせる。 どこまで我慢できるか試してやる、そんな思いで再びギガランチャーを撃とうとするが、迫りくる赤い影がその行為を中断させる。 「オォォォォッ!!」 「近づけば勝てると思ったの…?」 ゾルダはギガランチャーを捨て、ストライクベントのカードをベントインさせようとして――カードを弾き飛ばされる。 ギャレンが走りながらも正確にギャレンラウザーで銃撃したのだ。 そのままギャレンは飛び上がり、さながらライダーキックのような体勢でゾルダへと迫る。 「っ!調子に乗るなよ…!」 飛び上がったギャレンをゾルダは見上げ、マグナバイザーを連射する。この距離でこれだけの連射を食らえばダメージは計り知れないだろう。 だがギャレンを破壊せんと放たれた弾丸は全てギャレンをすり抜け、空の彼方へと消えていく。 「なっ!?」 「そっちは分身だ!」 ――UPPER―― ゾルダが自分の足元に視線を向けようと、下げたその顎にギャレンのフロッグアッパーが突き刺さる。 その勢いを殺さずにギャレンはゾルダの肩に両手をかけ、ゾルダを支点とするように縦回転する。 その最中に最後のAPを使い、トドメのカードをラウズする。 ――DROP―― 「ハァァリャァッ!」 フロッグアッパーを喰らったゾルダの後頭部に今度はホエールドロップの踵落しが炸裂する。 ギャレンが着地するとゾルダは少しフラフラとした後に、前のめりに倒れ動かなくなった。 最後のトドメの為にAPを回復させようとスペードのJをラウズさせようとするが、狼男がそれを制する。 「何故止める!」 「制限時間がある事を忘れるな、そろそろのはずだ…。それに奴にはまだ何か切り札が残されている、ここは退くぞ」 「…あぁ」 デイパックを手にすると狼男は即座に走り去ってしまう。 確かに狼男の言葉は正しい、だがこの戦いの最中で浮かんだある仮説が、その言葉に別の意図を感じ取る。 ギャレンは自分のデイパックを回収し、倒れたままのゾルダを一瞥した後、狼男を見失わないように追っていった――           *   *   * 「あ~あ、逃げられちゃった…」 ギャレン達が去った事を感じ取ったゾルダは何事もなかったかのように立ち上がると、クビをコキコキと鳴らしながら自分のバイクの元へと歩く。 「せっかく、準備してたのになぁ…」 マグナバイザーには既にファイナルベントが差し込まれており、あとはバイザー本体に装填するだけだった。 ギャレン達が勝利したと勘違いし、油断した所を一気に仕留めようとしたのだが、狼男にそれを遮られてしまった。 「あ~あ…あ~…」 ゆっくりと、既に出番を失ったファイナルベントのカードを装填する。 ――FINAL VENT―― マグナギガが眼前に現れ、その背中にマグナバイザーを差し込み、引き金を引く。 主の引き金を合図に、マグナギガはその身体に内蔵された武器全てを惜しみなく砲撃し、目の前に広がる住宅街を壊滅させていく。 だがその破壊の光景はゾルダの苛立ちを解消するにはあまりにもちっぽけすぎた。 エンド・オブ・ワールドの砲撃が終了し、変身が解かれた北崎はバイクに跨る。 「なんか、飽きちゃったなぁ…これ」 ゾルダのデッキをデイパックへと仕舞うと北崎はバイクで再び走り出す。 「そういえばさっきの人たち…橘に大佐…だったかな?」 風を受けながら北崎は先ほどまで対峙していた二人の男の顔を思い浮かべ、低く、重い声で呟く。 「次は逃さない」 自分はまるで本気を出していない、勝ちを譲ってやったようなものなのだ、いや、まだ決着はついていないとも言える。 だがその来るべき決着にはどうにもゾルダでは力不足らしい。やはり自分自身の力か、或いは―― (出番、そろそろ来るかもね…) デイパックの中で王のベルトが、北崎に答えるかのように、鈍く光っていた。           *   *   * 既に変身の解けた橘、ゾル大佐は今もあのバイクの青年から距離を取る為に移動を続けている。 徐々に民家もまばらとなり、辺りには背の高い草ばかり生えた、寂しい風景が広がりつつある。 地図で確認はしていないが北上し続けているので恐らくはF-4エリアに入ったところ、と大体の見当はついていた。 無言で先を行くゾル大佐を見て、橘の不信感は募る。というよりも既に確信しているのだが… (ゾル大佐はただの仮想の参加者じゃない…俺の監視役だ) 先ほどの戦闘の直前の出来事を思い出す。そう、仲間を増やす事に難色を示したゾル大佐のあの表情を。 やはり徒党を組まれてこの殺し合いに真っ向から反抗されるのは困るのだろう、その為の警告か、或いは危険と判断して… (呼んだんだろう?あのバイクの青年を) ゾル大佐が監視役ならあのバイクの青年は始末役、という役職だろう。 あの青年が砲撃する直前に一貫しない態度を取ったのは少しでもあの家に釘付けにするためだ。 万が一に生き延びた場合を考え、一応声だけは掛けておき自分は脱出した、というところか。 (現にあの青年と戦闘になった時、大佐は積極的に加わろうとしなかったからな…いくら距離があったからとはいえ、支援の一つも満足にしないとは。  トドメを止められたというのもあるが…決定的だったのはやはりあの大砲が直撃しても無事という所だな) 一見すると相当な火力だが実際にはそれほどでもなかったのだろう、自分の信用を確実にするためにあのような猿芝居を打った。 現に今も何事も無かったかのように歩いている。直撃で、あれだぞ?芝居としか思えない、そう橘は考えていたが――   (ぬかったわ…思っていたよりもダメージが大きい…相手を嘗めていたのは認めるが、何よりも自分の身体を過信しすぎた) ゾル大佐は橘には見えない位置で、胸に手を当て、じわじわと広がるダメージに耐えていた。 部下に対して惨めな姿は晒せない、常に上官は威風堂々としているべき。そう考えゾル大佐は平静を装っていた… (しかし、大佐が監視役とすると…迂闊な事は喋れないな…なんとかして、この仮想現実から脱出できる鍵を…) ピタ、と橘は足を止め考える。何か、とんでもない事に気づいてしまったような、そんな予感がした。 後ろを歩く気配がなくなったのを感じ取り、ゾル大佐が振り返る。 「どうした、橘」 だが橘はそれには答えず顎に手をやり、ひたすらに考えていた。 (考えてみると…仮想現実の中で現実の世界に脱出する鍵というのは…何が有り得る?  まさかどこかの地面をひっぺがすと電子機器がお出迎えとでも言うのか?  有り得るわけが無い。そう、ここは奴らの掌の上なんだ…  仮に脱出の鍵を見つけたと喜んでみても、それは西遊記の孫悟空と同じ事では…  どうする…どうすれば…いや、もう、よそう…本当はわかっているんだ。やはり、そういうことなんだ) 「橘、ぐずぐずしていると先ほどの奴に追いつかれるかもしれぬ。せめて再び変身できるようになるまでは動き続けるべきだ」 ゾル大佐の言葉も今の橘には届かない。橘は目を閉じ、考えるというよりは何か決意を固めている、そんなようにも見えた。 「橘…いい加減に―「ゾル大佐」―…なんだ?」 まっすぐに見つめてくる橘に何か奇妙な物を感じ取る。自分の無力さを思い知ってしまったというべきなのだろうか、この雰囲気は。 「ゾル大佐…仲間を集めると言ったが、すまん、予定変更だ。俺はこの戦いに、乗る」 「…ハッ、先ほどの奴に感化されたか?まぁ貴様がどう考えようと勝手だが…やる気か?」 変身できないこの状況でも、ゾル大佐はニッと笑い、自分の態度を崩さない。だが橘はその問いに首を振った。 「いや、『まだ』だ。その時がくるまでは共に行動したいのだが…」 「フッ…フッフッフッ…」 肩を震わせ、低い笑い声を出しながらゾル大佐は橘に近づき―― 「大s…っ!」 「調子に乗るなよ橘」 右手一本で橘の首を絞め、持ち上げる。 「決定権は私にある。貴様如きが意見する事は叶わぬ事と思え。わかったか?」 首を締め上げる右手に力がさらに込められていく。橘は顔を赤くしながら頷く。 その様子に満足したのか、右手をパッと開いて開放する。開放された橘は咳き込みながら必死に酸素を求めた。 「ぼやぼやするな。いくぞ」 ゾル大佐は踵を返すと市街地から離れるように歩き始める。首を押さえながら橘は立ち上がり、その背中を追う。 (これで、いいんだ…確実に現実の世界に返るには、勝ち残るしかない…  それにゾル大佐は主催者との内通者…一緒にいて損はない…) 勝ち残る。だが現実の世界に返れる保障もない、先ほどのバイクの青年のような者が他にもいれば、勝ち残る事自体難しいだろう。 だがそれでもやり遂げるしかない。勝ち残れなければ、主催者を倒す事など夢のまた夢なのだから。 (俺の他にも現実から連れてこられた者がいるのは間違いない…それを、例え仮想現実とはいえ…一度死なせてしまう事になる…  俺に…やれるか?やるしかないのは、わかっているが…) 心は多少、揺れ動いてはいたが…それでも橘朔也は決めた。このゲームに乗ることを。自らが信じる正義の為に―― **状態表 【北崎@仮面ライダー555】 【1日目 現時刻:朝】 【現在地:G-4北 住宅街】 【時間軸】:不明。少なくとも死亡後では無い。 【状態】:全身に疲労。頭部にダメージ。うやむやに終わった勝負に苛立ち。ゾルダに2時間変身不能。 【装備】: カワサキのZZR-250、オーガギア、カードデッキ(ゾルダ) 【道具】:基本支給品一式、不明支給品(0~1個) 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いを楽しんだ上での優勝。 1:強者と闘い、オーガギアを試したい。 2:五代雄介、「仮面ライダー」なる者に興味。 3:桜井侑斗、香川英行とはまた闘いたい。 4:ゾル大佐、橘朔也と会ったら今度はきっちり決着をつけ、揺ぎ無い勝利を手にする。 5:「仮面ライダー」への変身ツールを集めたい。 6:ゾルダのデッキに飽きてきちゃった。 ※変身回数、時間の制限に気づきましたが詳細な事は知りません。 ※桐矢京介を桜井侑斗と同一人物と見なしています。 ※三田村晴彦の生死に興味を持っていません。 【橘朔也@仮面ライダー剣】 【1日目 現時刻:朝】 【現在地:F-4エリア中央西寄り】 【時間軸】:Missing Ace世界(スパイダーUD封印直後) 【状態】:全身に疲労。 ギャレンに2時間変身不能。 【装備】:ギャレンバックル 【道具】:基本支給品一式、ラウズカード(スペードJ、ダイヤ1~6、9)、レトルトカレー、特殊支給品×? 【思考・状況】 基本行動方針:仮想現実から本当の現実に帰還し、主催者を打倒する為、勝ち残る。 1:とりあえず市街地からは離れる。 2:ゾル大佐と行動を共にし、利用する。 3:仮想現実とは言え本当に非情になり切れるか不安。 備考 ※今の自分は仮想現実の中に居ると確信しています。 ※自分以外にも現実世界から連れて来られた人物はいると考えてはいます。 ※ゾル大佐は主催者との内通者であり、自分の監視役と確信しています。 ※例え脱出の手がかり等があったとしてもそれらは全て仮想現実上の物であり、真に脱出する事は不可能と確信しています。 【ゾル大佐@仮面ライダー(初代)】 【1日目 現時刻:朝】 【現在地:F-4エリア中央西寄り】 【時間軸】:三十九話開始直後 【状態】:全身に疲労。胸に砲撃によるダメージ。黄金狼男に2時間変身不能。 【装備】:なし 【道具】:基本支給品一式、特殊支給品×? 【思考・状況】 基本行動方針:生き残ってショッカーを再興させる 1:とりあえず市街地から離れる。 2:橘の態度に不信感。 2:後ほど一文字と本郷を倒しに行く。 備考 ※基本支給品の携帯電話の使用方法を知りました。 ※参加者が別々の時間軸からつれて来られている事に気付きました。 ※変身制限に気付きました。 ※剣世界について大まかな知識を得ました。 ※死亡した一文字は同姓同名の別人と考えています。 |050:[[指し手二人(後編)]]|投下順|052:[[イプソ・ファクト(前編)]]| |050:[[指し手二人(後編)]]|時系列順|052:[[イプソ・ファクト(前編)]]| |030:[[決断の刻は目の前に]]|[[北崎]]|065:[[終わるのは遊び、始まるのは戦い]]| |043:[[Hypothesis and reality]]|[[ゾル大佐]]|059:[[全てを喰らう牙]]| |043:[[Hypothesis and reality]]|[[橘朔也]]|059:[[全てを喰らう牙]]|
*戦いの決断 木々の隙間から漏れる朝の日差しが舗装された道を優しく照らす。 その穏やかな道をバイクで駆け抜ける青年がいた。 バイクに乗る青年、北崎の心は言葉に出来ないほどの高揚感に包まれている。 ほんの5分前まではコブラ男との戦闘で得た勝利の余韻に浸りながら駆け抜けていたが、 放送にて呼ばれた一条薫の名前、そして呼ばれなかった五代雄介への期待感。 この二つが北崎の心をどこまでも高揚させた。 この場に来て初めての獲物、一条。北崎は彼に感謝していた、含み無く、心の底から。 (こうして僕に勝利の喜びをくれただけじゃなく、仮面ライダーを、五代雄介って人を教えてくれた。本当に、感謝してるよ…一条くん…) にぃ、と笑いながらこれから先に待ち受ける出会いに心を躍らせる。 北崎が向かうは市街地。理由は単純に人が集まりそうだから、というものだ。 走り続けていくと木々の間隔は疎らになり視界も開けていく。 眼前に広がる市街地。さらにその先には雄大なる海が見える。 それら全てが朝日に照らされ、美しく輝いている。 北崎はバイクを止め、しばらくその風景を眺めていた。全てが美しいその風景が北崎にもたらす物とは―― (全部灰にしたら、楽しいかなぁ?) どこまでも純粋に、北崎は自らの破壊衝動に身を委ねる。これまでも、これからも。 眺めるのにも飽き、再びバイクを走らせ市街地へと入り込んでいく。ただひたすらに、自分を楽しませてくれる者を探すために。 市街地を走り続けてしばらく経つが、あいにく人の姿は一つも確認できなかった。 だがあちこちにある破壊の跡は紛れなくここで戦闘が行なわれた事を物語っている。 できれば自分も混ざりたかった、戦闘の跡を見かける度に北崎はそう思う。 そうやって辺りの光景を、人影を一つも見逃さないように集中していた為だろうか。 オルフェノクの優れた五感が、北崎に伝えていた。 (誰か、僕を見てる…) 十字路の中央でバイクを止め、ヘルメットを脱ぎ辺りを見渡す。同じような家ばかりが建ち並び、視線の主を特定するには至らない。 だがそれでも北崎には十分だった。何故ならこの近くに誰かがいるのは間違いないのだから。 (隠れても無駄だよ?だって僕には…これがあるもの) 牛のレリーフが飾られた緑のカードデッキを右手に持ちバイクのミラーに向けて突き出す。 突き出された右腕を左から右へとゆっくりと動かし―― 「変身」 腰へと装着されたVバックルにカードデッキを差し込む。 幾重もの虚像が重なり、北崎の身体を緑と銀の装甲で包み込む。 機械的な印象を持たせる銃の使い手、仮面ライダーゾルダ。 正義の為の力となるはずだったその力は、今や純粋すぎる破壊衝動の化身となり、この地を破壊しつくせんと現れる。 「さーてと…まずはどこにしようかなー」 ゆっくりと辺りを見渡すがさほど意味はない。結局は全て破壊するのだから。 「うん、あそこにしよーっと」 ――SHOOT VENT―― ゾルダの両肩に巨大なキャノン砲が装着される。その矛先を目標とした民家に向けて―― 「Fire」 破壊の光弾を撃ちこんだ。純粋に、破壊するために。           *   *   * ごく一般的な住宅内に、二人の男が同じ声に耳を傾けている。 そう言うと単なる日常に思えるが男達の身なりと今の状況がそれを異質な物としていた。 男は黒いスーツをしっかりと着こなし、中身を知らない人間には冷静な男という印象を持たせる。 もう一人の男は時代錯誤な軍服に身を包み左目には眼帯が施されている。 威風堂々としたその面持ちに畏怖の念を抱かぬ者はいないだろう。 この二人に接点は無い。本来ならば出会うこともなかったであろう二人が何故行動を共にしているか。 殺し合い、という異常な状況故だ。その異常な状況でこうして同じ声に耳を傾ける。 異常な中での日常の行動はどこか奇妙な物を感じさせるが、恐らくこの風景は他の場所でも見られたことであろう。 何故ならこの声はこの殺し合いにおいて重要な情報源となる『放送』という類の物であるのだから。 放送の内容を簡潔に言えば今現在までに出た死者の読み上げ、新たな禁止エリアの発表。そして鉄道の存在。 長いようで短い放送は声の主である派手な女のウインクを最後に終了を告げる。 スーツの男、橘朔也。 軍服の男、ゾル大佐。 彼ら二人がこの放送でまず抱いたものは奇しくも同じ物であった。即ち―― 「奴が死ぬ等、有り得ない…」 その呟きはゾル大佐から漏れた物だったが橘はその呟きから、ゾル大佐が自分と同じ思いを抱いた事を察した。 「誰が、死んだんだ?」 確認の為に名前を聞くがゾル大佐はそれを無視して携帯を操作する。どうやら名簿を眺めているようだった。 しばらく名簿を眺めるとフン、と鼻を鳴らして携帯を閉じた。 「やはりな。同じ名前があったわ。つまりは奴と同じ名前を持つ別の誰かが死んだというわけだ」 「…なるほど、一文字隼人か」 「うむ、なかなか察しがいいな。貴様も少しではあるが見たであろう?一文字隼人こそ倒すべき仮面ライダーの一人よ。  今まで数々の我々の作戦をことごとく潰してくれたあの邪魔者がこうもあっけなく死ぬはずがない。  どういうわけか知らないが同姓同名の者が紛れ込んでおった。おそらくはそちらの一文字が死んだのだろう」 ゾル大佐はどこかホッとした顔をしている、そう橘は思った。どういう心理が働いているのかわからないが、憎いゆえに情があるのだろうか。 ギラファアンデッドと対峙する直前にもわざわざ見逃した事があった事を思い出す。 合理的に考えればあそこで助ける必要等、例え自分の発言があったにせよ無いはずだ。 軍人というには少しばかり甘いというべきか、或いは一つの事に拘りすぎていると言うべきか。 (合理的すぎるのも印象を悪くするだけ、か。なるほど、よく出来た『人格』だ…) 何か考え事を始めたゾル大佐を品定めするかのような目で橘は見つめる。 その目の人に向けるものとは思えないほどに、冷たい。それもそのはず、ゾル大佐は人間ではないのだから。 人間ではなく、仮想現実に与えられた仮初の命。間違いない。 橘の仮想現実という考えは最早揺ぎ無いものとなっている。 先ほどの放送で呼ばれた名前の中にあった剣崎一真という男。 名前を聞いた瞬間こそ唖然としたが、仮想現実という事を考えるとむしろ笑いさえこみ上げてきた。 恐らくは自分の動揺を誘うために『死んだ』という事にしたのだろうが、剣崎の事を知らなすぎると指摘してやりたくなったほどだ。 (あいつは人を守る為に、自らを犠牲にし、そして友を封印した…どこまでも優しく、どこまでも強い男だ。  その剣崎が死ぬはずがない。託す、という事をせずに全部自分で背負い込む男だ。こんな早くから死ぬ事は有り得ない) 禍木と三輪に続き剣崎。例え仮想現実とはいえ『死んだ』とされるのは、やはりいい気はしない。 (スマートブレイン、お前達は少しばかり俺達を侮辱しすぎた。覚悟しておくんだな…) 到底許せるものではない。許せるはずも無い。必ず脱出して… (…そういえば他の名前を挙げたのは何故なんだ?) ふと思い当たる。単純に自分を嵌めるだけならば剣崎の名前だけでいいはず。 志村の交友関係を全て把握しているわけではないが、それでもまったく無関係そうな名前も挙げられている。 単純に考えるならば『演出』という奴なのだろう。このゾル大佐のライバルという『設定』の一文字という男のように。 だがそれにしては、数が多すぎる。その数の多さが物語るのはつまり… (俺以外にもやはり、居るということなのだろうな。現実の世界から呼ばれた者が) 正直な所自分の記憶の内どこからが仮想現実なのか橘には目星がつかない。 当初はあの広間で眠らされた時と考えていたが…あの広間にはアンデッドとすら呼べない異形な存在もあった。 あのような存在があの広間にいるという時点で既に異常だ。恐らくはあの広間から既に仮想現実だったのだろう。 ではどこから?という疑問にぶち当たるが残念ながらその答えは恐らく見つけられないだろう。 招待状を受け取った時かもしれないし広間への扉を開けた瞬間かも。或いはもっと前という可能性もある。 それに仮想現実なのだからある程度の記憶の操作もできるのだろう。あくまでデータ上の記憶、という話ではあるが。 ともかく今の問題はどこからが仮想現実、という話ではなく自分以外の誰が現実の参加者なのか、これだ。 しかしこの参加者の見極めは困難か、あるいは不可能と言い切ってもいいだろう。 仮に今目の前にいる仮想の参加者であるゾル大佐に「お前は現実の参加者か?」と聞けばイエスと答えるだろう。 同じ質問を自分と同じ現実の参加者かどうか問えば当然イエスだろう。答えは一つしかないのだ。 例えば…何かこの場を仮想現実という事を証明できるものを見せつけ、それに肯定的な態度ならば現実の参加者、否定的なら… (こんがらがってきた…というより一人で考えていてもこれは永遠に解決しない問題か) 考えを切り上げゾル大佐の方を見ると未だに何か考えているようだ。 いや、或いはこちらの反応待ちなのかもしれない。それならそれで好都合だ―― 「なぁ、大佐。そろそろ行動すべきだとは思うが…俺はより多くの参加者達と合流すべきだと思うのだが」 「ふむ…」 蓄えられた髭に手をやり、ゾル大佐は考える。 確かに部下が多いに越した事はないのは事実だが、多すぎてもただ邪魔なだけなのだ。 来るべき仮面ライダーとの決闘の時に下手な邪魔が入るようでは困る。 それゆえにゾル大佐は橘の提案に素直に頷く事ができなかった。 「どうした?誰かと合流するとまずい事でもあるのか?」 「橘、単純に数を増やせばいいというものではない。下手に数を増やすと内部に敵が入り込んだ時のダメージは計り知れない物となるのだぞ?」 ゾル大佐が仲間を増やす事に対する一番の懸念は、なによりもこれだった。 ある程度のグループを形成された場合、もっともダメージを与えられるのは内部からの工作なのだ。 それは人数が多ければ多いほど効果的で、事前に防ぐ事も困難となる。 ショッカー日本支部就任前、数多くの敵対組織を変装を用いた内部工作で崩壊に導いたゾル大佐だからこその懸念であった。 だが橘にとってはゾル大佐の言葉は単純に自分を他の参加者と戦闘以外で接触させたくない、という主催者側の意図のように感じられた。 「しかし二人ではやはり心もとないだろう?最低でも、あと二人は欲しい所じゃないか?」 「橘、逆に問うが何故そこまで他の者との協力を図ろうとする?」 ゾル大佐の目が鋭く光る。もしかしたら橘は自分を葬るつもりではないのか、その為の協力者が欲しいのでは?と考えたのだ。 可能性は十分に有り得る。当初は隙を見て一人でやろうとしたが自分の変身したその強さに恐れをなして一人では無理だ…と判断したのでは。 この殺し合いの場では裏切り等、当たり前の行為だ。やられた方が悪い。つまるところ…誰も信用等できはしないのだ。 一方の橘もゾル大佐の雰囲気が変わったことを感じ取る。 もしかしたらこのまま我を通せば邪魔者と判断し、消されてしまうかもしれない。 だがおめおめとやられるわけにはいかない。ギャレンバックルにそっと手を当てる。 「言ってるだろう?協力者は多いに越した事はない、と…」 「ふむ…橘、貴様はもう少し利口な男だと思っていたぞ?」 ゾル大佐と橘はお互いを睨みつけながらゆっくりと間合いを開け―― 「…?待て、何か聞こえるぞ」 二人の耳に聞こえてくるのは、独特の排気音。お互い聞きなれたバイクの音だ。 「誰か近くに来てるのか!」 橘が窓に近寄り辺りを見渡す。2階の窓から見える風景には変わりは、あった。 東の方角からバイクが一台姿を現した。遠目で詳しい容姿はわからないが、どうも男が乗っているようだ。 そうして見ていると男はバイクを十字路の真ん中に止め、ヘルメットを脱ぎ辺りを見渡し始めた。 何かを探しているのだろうか?恐らくは参加者か、はたまた別の目的か。 「ふーむ…男のようだな。橘、接触するのか?」 「いいのか?仲間を増やす事には反対だったはずじゃ…」 意外な言葉に橘は驚き、ゾル大佐の目を見つめる。 何か企んでいるのだろうか?真意は一体どこにあるのか?だがその目からは何もわからない。 「…やはり接触するのはよそう。それより橘。動くぞ」 「な!?何故そうコロコロと意見を変える!理由を言え!」 意見が一貫しないゾル大佐に苛立ち、思わず詰めかかる。 だが当の本人は驚く様子も無く、いやどこか諦めさえ感じさせながら答えた。 「ふぅ…もう遅い、か。接触しない理由はアレだ」 そうやってゾル大佐が窓を指差す。橘が振り返り、窓から外を眺めるとバイクの青年の姿はいつの間にか緑の戦士となっていた。 両肩にはどう見ても大砲としか思えない代物が装着され、その大砲は丁度こちらを向いており… 橘が青年の変貌に気づいたのと、大砲の口から火を吹いたのはほぼ同じタイミングで―― 「ボサッとするな!飛び降りるぞ!」 その声にハッとした時には既にゾル大佐は窓をぶち割り、脱出していた。 橘もそれに続くように割れた窓から飛び降りる。直後の着弾。 砲撃による爆風や瓦礫が橘の無防備な背中に襲い掛かった――           *   *   * ゆっくりと、砂利や吹き飛ばされた瓦礫の破片を踏み潰しながらゾルダは歩く。 埃を払いのけ、ちらりと瓦礫の山を見た後にゾル大佐はキッと歩いてくるゾルダを睨む。 ゾルダは構わず歩き続け、立ち止まる。二人の距離は5メートルといった所か。 「二人組みたいだったけど…一人はもう死んじゃったの?つまんないなぁ…」 瓦礫の山を指差しゾルダは残念そうに呟く。演技ではなく心から残念なのだ。 「ふん、不意打ちを食らえば並の者なら死んで当然。ましてやこれだけの威力の不意打ちならば、な」 ゾル大佐はデイパックを足元に置き、ゾルダとの距離を保ちつつ、ゆっくりと歩き出す。 丁度瓦礫の山とゾル大佐の間にゾルダが来る様な位置までくると立ち止まり、右手の平で左手の平を叩き出す。 つまりゾル大佐は拍手をしはじめたのだ。この状況で。 「見事だ。いや、流石といったところか」 「…なにそれ?命乞いのつもりなの?おじさん」 言葉の意味がわからずゾルダは少し苛立ちながらマグナバイザーの銃口を向ける。 「そんなことより、僕と遊ぼうよ…。ね、いいでしょ?」 「ふむ…よかろう。ほれ、こい」 ゾル大佐は拍手をやめるとすっ、と右手を突き出しクイクイと指先を動かしゾルダを挑発する。 「へぇー、変身しないの?それともできないの?何か企んでるのかなぁ?」 不穏な動きに警戒してゾルダは後ろに一、二歩下がる。 それを見てゾル大佐がにぃ、と笑う。まるで罠に掛かった、とでも言わんばかりに。 「逃げようとしても無駄だよ?見てわかるでしょ?僕には銃があるんだから」 「ふむ、そうだな…確かに逃げられないだろうな…」 「ただし、お前がだ!変身!」 ゾルダの背後の瓦礫の山から突如として聞こえてくる声、そして飛び出す光の板。 背後の事ゆえに咄嗟に反応できずゾルダはその光の板に吹き飛ばされる。 その吹き飛ばされたゾルダにいつの間にか変身を終えていたゾル大佐、いや、黄金狼男が唸り声を上げつつ右の重いストレートを放つ。 不意をつかれ、追撃も食らってしまったゾルダは地面で転がり、咳き込む。 瓦礫から変身を終えたギャレンが抜け出し、黄金狼男と並び立ち、ゾルダを睨みつける。 「橘、咄嗟にしてはよくやったぞ。よく私の意図を読み取れたな」 「瓦礫があいつの背後に来るように回り込んでいたからな…すぐにわかる」 指示せずとも的確に動いたのがよほど気に入ったのか、狼男は上機嫌だ。 だがその隣に立つギャレンは浮かれず、あくまで地に伏せるゾルダを睨みつけていた。 「ふぅー…ちょっと痛かった、かな?でもこれくらいが丁度いいよね…」 ゾルダはゆっくりと立ち上がり、ベルトからカードを引き抜きマグナバイザーへと差し込む。 ――ADVENT―― 先ほどの砲撃の衝撃を免れた民家の窓からゾルダの契約モンスター、マグナギガが現れその巨体を駆使し、狼男とギャレンを吹き飛ばす。 左右を民家の塀で囲まれた一本道で再び二人はゾルダと対峙する。先ほどと違うのはゾルダの側にマグナギガがいる点か。 「これで2対2、だね。あ!そうだ言い忘れてた…」 マグナバイザーを指一本でクルリと回し、銃口を突きつける。その姿はウェスタン映画のガンマンのようだ。 「僕は、世界一強いんだ」           *   *   * その言葉を皮切りに、ゾルダは思うままに乱射する。 左右を塀に阻まれ、狼男とギャレンはその身で銃撃を受け止める。だが好きにさせるつもりは毛頭無い。 狼男は自らの指先から、ギャレンはギャレンラウザーから銃撃を繰り出し対抗する。 その抵抗をあざ笑うかのようにゾルダはマグナギガの陰に隠れ、二人の銃撃をやり過ごす。 片方は銃撃をやり過ごせる遮蔽物があり、もう片方は遮蔽物と呼べる物は無く銃撃全てを身に受ける。 誰が見ても有利不利は明らかな状況に狼男が焦りの声を上げる。 「ちぃ、橘!あの牛をなんとかできんのか!」 その声に促されるようにギャレンは3枚のカードを引き抜き順番にラウズさせる。 ――BULETT―― ――RAPID―― ――FIRE―― ――Burning Shot―― コンボが成立し、ギャレンラウザーにアンデッドの力が漲る。 ゾルダの銃撃に間ができた隙に銃口をマグナギガへと向け、引き金を引いた。 炎に包まれ強化された無数の弾丸は、それこそ隕石のようにマグナギガへと降り注ぎ、その身を崩壊させていく。 辺りにはバーニングショットの衝撃による煙がたち込め、その威力を物語っていた。 「これで邪魔者は…っ!」 煙が徐々に晴れていき、ギャレンがそこで見たものは巨大な大砲を両手で抱えるゾルダだった。 この時、ゾルダは強力な攻撃(恐らくは射撃)が来る事を予測し、二つのカードをベントインさせていた。 まずガードベントを使い、マグナギガと自分の間に盾を呼び寄せ、次にシュートベントでギガランチャーを呼び寄せる。 マグナギガとギガアーマーによる2段の防御、即座のカウンターの用意を整えていた。 だがタイミング悪くマグナギガは役目を務める寸前で制限によりミラーワールドに帰ってしまう。 これにはゾルダも驚くが、ギガアーマーで防ぎきれなかった分はギガランチャーで対抗し、なんとかダメージは最小限で済ませる事ができていた。 もしもこの時ゾルダの思惑通りマグナギガで受け止めていれば恐らくマグナギガは倒れ、ゾルダはブランク体となっていただろう。 もっとも、当の本人はそんな事実は知らず、咄嗟に冷静に動けた自分はやはり最強だ、等と考えていたのだが… 「ふふ、お疲れ様」 ほんの数時間前に一つの命を奪ったギガランチャーを、今のお返しと言わんばかりに撃ちこむ。 回避が遅れ、砲撃を免れられないギャレンを狼男が突き飛ばし、砲弾を厚い胸板で受け止める。 「大佐!」 「ぬぅ…なるほど、少しは、やる!だが、この程度で倒れはしない!  この身体は世界最高の技術力であるショッカーによって造られているからな!」 「へぇ…仮面ライダーじゃないのに仮面ライダー守るんだぁ、面白いね」 異形の者と仮面ライダーが協力する、という構図がゾルダに木場勇治とファイズの関係を思い起こさせる。 どこまで我慢できるか試してやる、そんな思いで再びギガランチャーを撃とうとするが、迫りくる赤い影がその行為を中断させる。 「オォォォォッ!!」 「近づけば勝てると思ったの…?」 ゾルダはギガランチャーを捨て、ストライクベントのカードをベントインさせようとして――カードを弾き飛ばされる。 ギャレンが走りながらも正確にギャレンラウザーで銃撃したのだ。 そのままギャレンは飛び上がり、さながらライダーキックのような体勢でゾルダへと迫る。 「っ!調子に乗るなよ…!」 飛び上がったギャレンをゾルダは見上げ、マグナバイザーを連射する。この距離でこれだけの連射を食らえばダメージは計り知れないだろう。 だがギャレンを破壊せんと放たれた弾丸は全てギャレンをすり抜け、空の彼方へと消えていく。 「なっ!?」 「そっちは分身だ!」 ――UPPER―― ゾルダが自分の足元に視線を向けようと、下げたその顎にギャレンのフロッグアッパーが突き刺さる。 その勢いを殺さずにギャレンはゾルダの肩に両手をかけ、ゾルダを支点とするように縦回転する。 その最中に最後のAPを使い、トドメのカードをラウズする。 ――DROP―― 「ハァァリャァッ!」 フロッグアッパーを喰らったゾルダの後頭部に今度はホエールドロップの踵落しが炸裂する。 ギャレンが着地するとゾルダは少しフラフラとした後に、前のめりに倒れ動かなくなった。 最後のトドメの為にAPを回復させようとスペードのJをラウズさせようとするが、狼男がそれを制する。 「何故止める!」 「制限時間がある事を忘れるな、そろそろのはずだ…。それに奴にはまだ何か切り札が残されている、ここは退くぞ」 「…あぁ」 デイパックを手にすると狼男は即座に走り去ってしまう。 確かに狼男の言葉は正しい、だがこの戦いの最中で浮かんだある仮説が、その言葉に別の意図を感じ取る。 ギャレンは自分のデイパックを回収し、倒れたままのゾルダを一瞥した後、狼男を見失わないように追っていった――           *   *   * 「あ~あ、逃げられちゃった…」 ギャレン達が去った事を感じ取ったゾルダは何事もなかったかのように立ち上がると、クビをコキコキと鳴らしながら自分のバイクの元へと歩く。 「せっかく、準備してたのになぁ…」 マグナバイザーには既にファイナルベントが差し込まれており、あとはバイザー本体に装填するだけだった。 ギャレン達が勝利したと勘違いし、油断した所を一気に仕留めようとしたのだが、狼男にそれを遮られてしまった。 「あ~あ…あ~…」 ゆっくりと、既に出番を失ったファイナルベントのカードを装填する。 ――FINAL VENT―― マグナギガが眼前に現れ、その背中にマグナバイザーを差し込み、引き金を引く。 主の引き金を合図に、マグナギガはその身体に内蔵された武器全てを惜しみなく砲撃し、目の前に広がる住宅街を壊滅させていく。 だがその破壊の光景はゾルダの苛立ちを解消するにはあまりにもちっぽけすぎた。 エンド・オブ・ワールドの砲撃が終了し、変身が解かれた北崎はバイクに跨る。 「なんか、飽きちゃったなぁ…これ」 ゾルダのデッキをデイパックへと仕舞うと北崎はバイクで再び走り出す。 「そういえばさっきの人たち…橘に大佐…だったかな?」 風を受けながら北崎は先ほどまで対峙していた二人の男の顔を思い浮かべ、低く、重い声で呟く。 「次は逃さない」 自分はまるで本気を出していない、勝ちを譲ってやったようなものなのだ、いや、まだ決着はついていないとも言える。 だがその来るべき決着にはどうにもゾルダでは力不足らしい。やはり自分自身の力か、或いは―― (出番、そろそろ来るかもね…) デイパックの中で王のベルトが、北崎に答えるかのように、鈍く光っていた。           *   *   * 既に変身の解けた橘、ゾル大佐は今もあのバイクの青年から距離を取る為に移動を続けている。 徐々に民家もまばらとなり、辺りには背の高い草ばかり生えた、寂しい風景が広がりつつある。 地図で確認はしていないが北上し続けているので恐らくはF-4エリアに入ったところ、と大体の見当はついていた。 無言で先を行くゾル大佐を見て、橘の不信感は募る。というよりも既に確信しているのだが… (ゾル大佐はただの仮想の参加者じゃない…俺の監視役だ) 先ほどの戦闘の直前の出来事を思い出す。そう、仲間を増やす事に難色を示したゾル大佐のあの表情を。 やはり徒党を組まれてこの殺し合いに真っ向から反抗されるのは困るのだろう、その為の警告か、或いは危険と判断して… (呼んだんだろう?あのバイクの青年を) ゾル大佐が監視役ならあのバイクの青年は始末役、という役職だろう。 あの青年が砲撃する直前に一貫しない態度を取ったのは少しでもあの家に釘付けにするためだ。 万が一に生き延びた場合を考え、一応声だけは掛けておき自分は脱出した、というところか。 (現にあの青年と戦闘になった時、大佐は積極的に加わろうとしなかったからな…いくら距離があったからとはいえ、支援の一つも満足にしないとは。  トドメを止められたというのもあるが…決定的だったのはやはりあの大砲が直撃しても無事という所だな) 一見すると相当な火力だが実際にはそれほどでもなかったのだろう、自分の信用を確実にするためにあのような猿芝居を打った。 現に今も何事も無かったかのように歩いている。直撃で、あれだぞ?芝居としか思えない、そう橘は考えていたが――   (ぬかったわ…思っていたよりもダメージが大きい…相手を嘗めていたのは認めるが、何よりも自分の身体を過信しすぎた) ゾル大佐は橘には見えない位置で、胸に手を当て、じわじわと広がるダメージに耐えていた。 部下に対して惨めな姿は晒せない、常に上官は威風堂々としているべき。そう考えゾル大佐は平静を装っていた… (しかし、大佐が監視役とすると…迂闊な事は喋れないな…なんとかして、この仮想現実から脱出できる鍵を…) ピタ、と橘は足を止め考える。何か、とんでもない事に気づいてしまったような、そんな予感がした。 後ろを歩く気配がなくなったのを感じ取り、ゾル大佐が振り返る。 「どうした、橘」 だが橘はそれには答えず顎に手をやり、ひたすらに考えていた。 (考えてみると…仮想現実の中で現実の世界に脱出する鍵というのは…何が有り得る?  まさかどこかの地面をひっぺがすと電子機器がお出迎えとでも言うのか?  有り得るわけが無い。そう、ここは奴らの掌の上なんだ…  仮に脱出の鍵を見つけたと喜んでみても、それは西遊記の孫悟空と同じ事では…  どうする…どうすれば…いや、もう、よそう…本当はわかっているんだ。やはり、そういうことなんだ) 「橘、ぐずぐずしていると先ほどの奴に追いつかれるかもしれぬ。せめて再び変身できるようになるまでは動き続けるべきだ」 ゾル大佐の言葉も今の橘には届かない。橘は目を閉じ、考えるというよりは何か決意を固めている、そんなようにも見えた。 「橘…いい加減に―「ゾル大佐」―…なんだ?」 まっすぐに見つめてくる橘に何か奇妙な物を感じ取る。自分の無力さを思い知ってしまったというべきなのだろうか、この雰囲気は。 「ゾル大佐…仲間を集めると言ったが、すまん、予定変更だ。俺はこの戦いに、乗る」 「…ハッ、先ほどの奴に感化されたか?まぁ貴様がどう考えようと勝手だが…やる気か?」 変身できないこの状況でも、ゾル大佐はニッと笑い、自分の態度を崩さない。だが橘はその問いに首を振った。 「いや、『まだ』だ。その時がくるまでは共に行動したいのだが…」 「フッ…フッフッフッ…」 肩を震わせ、低い笑い声を出しながらゾル大佐は橘に近づき―― 「大s…っ!」 「調子に乗るなよ橘」 右手一本で橘の首を絞め、持ち上げる。 「決定権は私にある。貴様如きが意見する事は叶わぬ事と思え。わかったか?」 首を締め上げる右手に力がさらに込められていく。橘は顔を赤くしながら頷く。 その様子に満足したのか、右手をパッと開いて開放する。開放された橘は咳き込みながら必死に酸素を求めた。 「ぼやぼやするな。いくぞ」 ゾル大佐は踵を返すと市街地から離れるように歩き始める。首を押さえながら橘は立ち上がり、その背中を追う。 (これで、いいんだ…確実に現実の世界に返るには、勝ち残るしかない…  それにゾル大佐は主催者との内通者…一緒にいて損はない…) 勝ち残る。だが現実の世界に返れる保障もない、先ほどのバイクの青年のような者が他にもいれば、勝ち残る事自体難しいだろう。 だがそれでもやり遂げるしかない。勝ち残れなければ、主催者を倒す事など夢のまた夢なのだから。 (俺の他にも現実から連れてこられた者がいるのは間違いない…それを、例え仮想現実とはいえ…一度死なせてしまう事になる…  俺に…やれるか?やるしかないのは、わかっているが…) 心は多少、揺れ動いてはいたが…それでも橘朔也は決めた。このゲームに乗ることを。自らが信じる正義の為に―― **状態表 【北崎@仮面ライダー555】 【1日目 現時刻:朝】 【現在地:G-4北 住宅街】 【時間軸】:不明。少なくとも死亡後では無い。 【状態】:全身に疲労。頭部にダメージ。うやむやに終わった勝負に苛立ち。ゾルダに2時間変身不能。 【装備】: カワサキのZZR-250、オーガギア、カードデッキ(ゾルダ) 【道具】:基本支給品一式、不明支給品(0~1個) 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いを楽しんだ上での優勝。 1:強者と闘い、オーガギアを試したい。 2:五代雄介、「仮面ライダー」なる者に興味。 3:桜井侑斗、香川英行とはまた闘いたい。 4:ゾル大佐、橘朔也と会ったら今度はきっちり決着をつけ、揺ぎ無い勝利を手にする。 5:「仮面ライダー」への変身ツールを集めたい。 6:ゾルダのデッキに飽きてきちゃった。 ※変身回数、時間の制限に気づきましたが詳細な事は知りません。 ※桐矢京介を桜井侑斗と同一人物と見なしています。 ※三田村晴彦の生死に興味を持っていません。 【橘朔也@仮面ライダー剣】 【1日目 現時刻:朝】 【現在地:F-4エリア中央西寄り】 【時間軸】:Missing Ace世界(スパイダーUD封印直後) 【状態】:全身に疲労。 ギャレンに2時間変身不能。 【装備】:ギャレンバックル 【道具】:基本支給品一式、ラウズカード(スペードJ、ダイヤ1~6、9)、レトルトカレー、特殊支給品×? 【思考・状況】 基本行動方針:仮想現実から本当の現実に帰還し、主催者を打倒する為、勝ち残る。 1:とりあえず市街地からは離れる。 2:ゾル大佐と行動を共にし、利用する。 3:仮想現実とは言え本当に非情になり切れるか不安。 備考 ※今の自分は仮想現実の中に居ると確信しています。 ※自分以外にも現実世界から連れて来られた人物はいると考えてはいます。 ※ゾル大佐は主催者との内通者であり、自分の監視役と確信しています。 ※例え脱出の手がかり等があったとしてもそれらは全て仮想現実上の物であり、真に脱出する事は不可能と確信しています。 【ゾル大佐@仮面ライダー(初代)】 【1日目 現時刻:朝】 【現在地:F-4エリア中央西寄り】 【時間軸】:三十九話開始直後 【状態】:全身に疲労。胸に砲撃によるダメージ。黄金狼男に2時間変身不能。 【装備】:なし 【道具】:基本支給品一式、特殊支給品×? 【思考・状況】 基本行動方針:生き残ってショッカーを再興させる 1:とりあえず市街地から離れる。 2:橘の態度に不信感。 2:後ほど一文字と本郷を倒しに行く。 備考 ※基本支給品の携帯電話の使用方法を知りました。 ※参加者が別々の時間軸からつれて来られている事に気付きました。 ※変身制限に気付きました。 ※剣世界について大まかな知識を得ました。 ※死亡した一文字は同姓同名の別人と考えています。 |050:[[指し手二人(後編)]]|投下順|052:[[イプソ・ファクト(前編)]]| |050:[[指し手二人(後編)]]|時系列順|052:[[イプソ・ファクト(前編)]]| |030:[[決断の刻は目の前に]]|[[北崎]]|065:[[終わるのは遊び、始まるのは戦い(前編)]]| |043:[[Hypothesis and reality]]|[[ゾル大佐]]|059:[[全てを喰らう牙]]| |043:[[Hypothesis and reality]]|[[橘朔也]]|059:[[全てを喰らう牙]]|

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