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148 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 00:48:32.19 ID:stfpiCJJO
「失礼しま~す」
トントントン、いつものように3回ノックする。
ドア越しにパタパタと言う足音が聞こえ、目の前で止まる。
「どなたでしょうか」
ツンとすました声に思わず吹き出しそうになる。
「どなたでしょう?」
ついつい、意地悪をしてしまった。
「新聞でしたら間に合ってますので」
いや、こんな所に営業しにくる新聞屋いませんから。
「まぁまぁそうおっしゃらずに、洗剤お付けしますから」
合わせますけどもさ。
149 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 00:55:27.87 ID:stfpiCJJO
「でしたら、合い言葉をお願い出来ますか」
そう来ますか。
取りあえず適当に……
「ローズガーデン」
「ブッブー」
「彩華堂」
「ブッブー」
「志穂ちゃん」
「ブッブー」
うぅむ、何なんだろ……
「それではヒント」
お、助かった。
「あなたの好きな人の名前です」
……小学生ですか、アナタは。
150 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 01:01:03.07 ID:stfpiCJJO
いくら志穂さんでもこればっかりは言えないしなぁ……
「10、9、8――」
どうしましょ。
「5、4、3――」
よし、ここは一発。
「志穂さん」
「……」
……あちゃ、外したかな?
「志穂さん大好きって言ってみて」
はぁ?
「志穂さん、大好き」
はいはいこれでいいんでしょ。
151 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 01:05:20.00 ID:stfpiCJJO
「気持ちがこもってない、もう一度」
「志穂さんだぁい好きっ」
一体どこのバカップルですかまったく。
「……」
いい加減開けなさい。
カチャッ
あ、開いた。
「いらっしゃ~い!」
うわぁ、満足しきっちゃってるよこの人。よっぽど寂しかったんだな。
152 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 01:15:36.05 ID:stfpiCJJO
「もぅ何やってんですか……」
「ふふっ、息抜き息抜き~」
いつもの自分専用デスクに着き、足をブラブラさせてある。
「ホント甘えん坊ですね~」
「うん、家でも……」
嬉しそうに途中まで言いかけ、ハッと一瞬動きが止まった。
そして、真顔になったかと思ったら急にパソコンの方に向き直りキーを叩き始めた。
153 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 01:25:49.03 ID:stfpiCJJO
「あの……」
「何」
スパっと吐き捨てるように返事を返してきた。
「やっぱりご結婚……されてたんですか」
キーを打つ手が止まり、しばしの静寂の後河部チーフが小さくうなずいた。
そしてまたキーを叩き始める。
なんで結婚してる事、隠してるんだろ……
私に対してはともかくとして、薔薇っ子達にまで。
ぼんやりと、唇をぎゅっと閉じたままキーを叩き続ける横顔を眺める。
「辛いですよね、隠し事って」
無意識にそんな事を口走っていた。
154 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 01:38:22.08 ID:stfpiCJJO
キーを叩く音が止んだ。
「……そうだね」
いつもの、志穂さんの優しい声。
思わず、涙がこみ上げて来た。
「マユちゃん?」
「志穂さん、私、もう、どうしたらいいのか分からないよぉっ!」
胸が苦しい、涙が止まらない。
辛いよ、助けてよ、課長っ、諦めたく無いよおっ!
不意に温かい感触が私を包み込んだ。
「好きなだけ泣いていいよ」
耳元で志穂さんの声。
「ひっ、志穂さぁん、えぐっ、諦めたく無いよおっ!」
「大丈夫だから、志穂はマユちゃんの味方だから」
そして、頭を撫でてくれた。
155 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 01:55:43.78 ID:stfpiCJJO
「落ち着いた?」
まだ少し鼻水がズルズルしている私に、志穂さんが紅茶をいれてくれた。
「うん……」
「ねぇ、アドレス交換しよっか」
私に優しい視線を投げかけながら呟くように言った。
「えっ!いいんですか!?」
「うん、いいよ」
そう言って白衣のポケットから携帯を取り出す。
私のアドレスを志穂さんに教え、メールが送られてきた。
『気軽にメールしてね、私はいつだってマユちゃんの味方だから』
「志穂さん、ありがとう……」
「いいのよ、それより……」
志穂さんが唇の前で人差し指を立て、ウィンクをしてみせる。
「あの事はみんなに内緒にしてね」
「はいっ」
結婚の事はタブーっと、よし。
156 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 02:11:51.80 ID:stfpiCJJO
「あっ」
携帯の時計表示に視線を移す……もうそろそろ時間じゃん。
「ごめんなさい志穂さん、そろそろ行かないと」
「ちょっと待って」
立ち上がろうとする私を制し、志穂さんが赤いチェック柄のバニティボックスを持ってきた。
「これじゃ、人前には出られないでしょ」
子供を諭すようにささやきながら、メイク落としコットンで私の目元を拭き、
マスカラやシャドウを手際良く塗り付けていく。
「はい、これでいかがかしら?お嬢様」
こっちに向けられた鏡を覗きこむ。
うん、バッチリ私の趣味でしかも私より上手い。
「お見それしました」
さすが、ローズガーデン生みの親。
後ろを振り向くと、志穂さんがドアの隙間からぴょこんと首だけ出していた。
「志穂さんありがとね~」
「またいつでもおいでね~」
そしてお互いに手を振りつつ、私はローズガーデンを後にした。
157 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 02:28:56.25 ID:stfpiCJJO
「木戸さんこっちこっち」
居酒屋吉兆夢。すでにみんな座敷で卓を囲んでいた。
「はい、木戸さんの席ここね」
「ありがと~」
ホントありがとう、大泉君。
課長の隣空けといてくれるなんて!!!!!
「木戸君、怪我はもう大丈夫?」
「おかげさまで……あ、私がつぎますからっ!」
私のグラスにビールをつごうとする課長の手から、瓶を取ろうとする。
「あっ」
「おっと」
……手触っちゃった。
「はい、どうぞっ」
「ありがとう」
課長のグラスにビールを注いでいく。
はぁ……手、あったかかったな……
笑顔、素敵だな……
「ああ木戸君もういいよ、ありがと…いや、もういいって、ちょっ」
好きでいるだけなら……いいですよね?
「木戸さんビール溢れてるって!すいません、布巾を!布巾をぉぉっ!!」
室尾課長、大好きです……たとえ何があったとしても。
200 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 21:33:38.36 ID:vfh5xFPS0
(保守おつかれさまでした、それでは再開します。しかしVIP板ごと落ちるとは……)
「う~む」
自宅のコタツの上、束ねられたそれから1枚だけ抜き出された年賀状。
言わずと知れた、室尾誠課長にお送りする分なんだけど。
「どうしよ……う~ん、どうしよ」
めっちゃ悩んでいる訳なんですよ。
この印刷された謹賀新年の文字とわんこの絵の横に、
一筆そえようかどうしようか、と。
201 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 21:39:59.50 ID:vfh5xFPS0
やっぱり『今年も一年よろしくお願いします』だろうか……
それとも、もっとこう……
例えば、もっと仲良くなりたいな~……とか?
……さすがにそれはどうかと。
いや、それ以前に……あの人の目にも止まるだろうしなぁ、うん。
やっぱり新年は夫婦水入らずなんだろか……
ハァ……
あ~ダメだダメだ、気が滅入ってきた。余計な事考えちゃいかんわ。
202 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 21:43:35.31 ID:vfh5xFPS0
「今年も一年よろしくお願いします……っと、よし」
まぁ結局無難にコレ。
それにしても、我ながらヘタな字だなぁ。何か全体的に傾いてるし。
今更言っても仕方ないか、明日出社する時に出しちゃおっと。
それじゃおやすみなさ~い。
……ダメですってば課長~
それ食べられませんから、お尻欠けちゃいますから~
ムニャムニャ。
203 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 21:49:14.30 ID:vfh5xFPS0
「いくら僕でも乾燥剤は食べないよ、さすがに」
社食で課長と一緒にお昼を食べながら、昨日見た夢のお話。
「でもこの間、紙がついたまま食べてませんでしたっけ?カステラ」
「いや、だってアレはペラペラで気付かないし」
う~ん、照れる課長も可愛いなぁ~。
ほらほら、お箸からざる蕎麦逃げちゃってますよもぅ。
スルッ、スルスルッ
あ、でもお蕎麦食べるのは上手だなぁ~、すする音からして違うし。
……あら?
204 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 21:52:43.56 ID:vfh5xFPS0
「んぐ、ぐぐぐっ!!」
「え、課長!?何!?」
蕎麦をすすり上げた課長が急にもがき出した。
「ん~、ん~っ!!」
「水ですか?水ですねっ!!」
大急ぎで給水気の元に走り、コップに水を注ぐ。早く出ろ早く出ろ早く出ろぉぉっ!!
おっし、水入ったぁっ!!
「はいっ、課長っ!!」
水がこぼれるのも構わず私からコップを奪い取り、
ゴクッゴクッゴクッ
205 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 21:56:59.69 ID:vfh5xFPS0
「はぁ、はぁ……助かったよ、木戸君……」
「もぅ、初めて見ましたよ。蕎麦を喉につまらせる人なんて」
一体何をどうやったらそんな器用な事出来るのやら。
「でも……無事でよかった」
「ありがとう」
……え、あ、今の声に出てた!?
「あ、いやその、課長倒れたら、ほら、仕事がアレしちゃうし、その」
「……ありがとう、木戸君」
そんなまぶしい笑顔こっち向けないでくださいってばぁっ!
ほら、もう、ほっぺがカッカッて、あんもうやだぁっ!!
206 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 22:01:30.51 ID:vfh5xFPS0
あ~もうヤダヤダ、まだ心臓ドキドキしてる。
「ねぇねぇマユミ」
「ん~?」
何でしょうか香苗さん、また合コンの結果報告でも?
「サンダル、左右反対なんでない?」
「……あらホント」
いけねぇこりゃうっかりだ。
「なんかさぁ……」
机の下でゴゾゴゾとサンダルの左右を入れ替えてる私を、
片肘つきつつぼんやり眺ていた香苗さんがぽつりと。
「アンタ、最近課長に似てきた事無い?」
207 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 22:06:19.88 ID:vfh5xFPS0
頭、一気に大沸騰。
「ひぇ、か、かちょ、え、や、そ、へ、あ」
「相変わらず分かりやすいわねぇ……」
もしかして……
「し、知ってたの?」
「ま、隣で見てりゃね」
頭が大噴火いたしました。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!
「……まるでゆでダコだわこりゃ」
208 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 22:13:37.10 ID:vfh5xFPS0
「あ~別に心配しなくてもバラしたりしないから」
香苗さんが隣の席でパタパタと手のひらを動かす。
「あ、ありがと……」
とりあえず書き物でもしよっと。顔下に向けてれば真っ赤になってんのも分からないだろうし。
「でもさ」
「ん?」
「正直結構お似合いだと思うよ、アンタら」
「そ、そ、そ、そ、そう?」
いかん、品川区の川の字が縦線4本になってしまった。
209 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 22:17:27.85 ID:vfh5xFPS0
「それじゃ、お先~」
「ほいお疲れ様~」
もう、変な事言うから微妙に残業する羽目になっちゃったじゃないのよ。
えっと、あと出荷票の写し入力するだけだから……
「珍しいな、木戸君が残業だなんて」
「あ、課長」
いやまぁ色々ありましてね。
「無理しないようにな」
「はい、ありがとうございます」
210 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/18(土) 22:23:24.63 ID:vfh5xFPS0
「そういえば課長も残業なんですか?」
「いや、もう帰るけど……」
ん?なして香苗の席に座ります?
「……せっかくだから、木戸君の仕事が終わるまで残ってようかな」
え、え、え、え、えぇぇぇぇえぇぇぇえっっっっっ!!!!!!!!!!
「や、そんな、悪いですってばっ!!」
「いいからいいから」
背もたれ側を前にし、その上に覆いかぶさるようにしながらニコニコする室尾課長。
返って邪魔ですから、いや嬉しいですけど、ああもう、はぁ。
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