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「はぁ、はぁ……あ」

  アゲハが我に返った時には、すでに少年は眼下の海へと落下してしまっていた。

「しまった!」

  波間に輝羽の破片がキラキラと黄金色の光を反射しながら漂う。
  少年は海中に沈んでしまったのか、姿を見て取る事が出来ない。

(ま、大丈夫でしょ)

  頭の中に精霊のあっけらかんとした声が響く。

「また適当な事を……」
(これでもちゃんと考えてるんだから!角度とか。そんな事よりほら、救助隊来たし)

  精霊が指し示す方角へと視線を向ける。
  なるほど。
  確かに精霊機関を搭載した小船が数隻、
  こちらへと猛スピードで向かってきている。

「あの子はあいつらに任せておけばいいか」
(そうだね。それよりも……)
「ああ、分かっている」

  船がやって来た方角からいくつもの精霊力を感じて取れる。
  この数、この規模……間違いない、アレが本隊だ。

『我々が復活させたのは、聖霊機関を超えた、真の聖霊機関だ!』

  不意に少年の言葉が頭をよぎる。

「くそっ、聖霊機関の復活だと!まだそんな事を考えている奴がいるのか!」

  海の向こうを見据えたまま、小声ではき捨てるようにつぶやいた。

(そうよそうよ、私たち精霊を何だと思っているのかしらまったく!)
「絶対に、そのような事をさせはしない……」

  羽を大きく広げ、姿勢を整える。
  無数の光の粒が蝶の燐粉の如く舞い散る。

(行くわよっ!)
「おうっ!」

  そして、全速力で飛んだ。
  敵が待ち構えているであろう、その方角へ。


                                        ■


「申し上げます。重症なれどツバメ殿下ご存命、ご存命にございます!」
「そうか、分かった」

  通信室より甲板へと出てきた兵士が眼帯の男へと声高く報告する。
  それを聞き、わずかに表情がゆるむ……が、即座に険しい顔へと戻る。

「可及的速やかに王子を本国へと!大急ぎで!即攻でっ!!
  そう伝えろ!!!」
「はっ、か、かしこまりました。マダラ特佐」
「敵の位置、どこだぁっ!!」

  通信室へと戻っていく兵士に代わり、他の同輩が怒号に答える。

「八時方向、距離三千四百。三十分後に接触の見込みです」
「今すぐ十時方向に向かえ!」
「し、しかしそれでは第四補給場からあまりに……
「王子の御身が最優先だ!我々で奴を引き付けるっ!!」

――奴の速さとこの船の足で……四十分後って所か。

  険しい表情のまま、頭の中で方向転換後の接触タイミングを割り出す。
  ツバメ墜落位置とソーマ本国近隣港を結ぶ線上から大きく外れた位置だ。

――よし、王子を巻き込む恐れは無い……

  さらに頭の中で海図の範囲を広げる。
  接触地点と第四補給基地との距離が、
  本来予定していたそれよりも三倍以上開いてしまった。

――アンドレアルフースに乗せてこちらに向かわせたとしても十時間以上かかるか……

「くそっ」

  この時点で、元々の作戦であった第四補給基地よりの
  決戦兵器投入は実質的に不可能な物となった。
  隻眼で青く澄み渡る空を睨み付け、きびすを返し通信室へと向かう。

「補給基地に連絡しろ!」
「はっ」
「早急にアスモデウスをアンドレアルフースに搭載、
  追って交戦位置を連絡する!」
「追って交戦位置を連絡する……了解しました」
「次いでゴエティア港湾駐留隊に連絡!」
「はっ」
「近隣海域にて交戦予定、A級配置にて準備せよ!」
「A級配置にて準備せよ……了解しました」

  連絡事項を怒鳴りつけ、再度甲板へと戻る。
  その足で甲板上にワイヤーでくくりつけられた巨大な銃と手甲の元へと歩み寄る。

「こうなった以上、コイツに賭けるしかねぇな……」

  巨漢の部類に入るマダラがまるでその銃の弾丸程の、
  いやそれにすら満たない程の大きさにしか見えない。
  その銃を撃つために作られた手甲もまた、
  指の一本一本がマダラと同程度の大きさを誇っている。

「頼むぜ、ライコウ」

  角ばった銃口を持った発掘兵器『ライコウ』をコツンと叩く。

「カルバリン、お前もだ」

  そしてもう一方の手で腰に下げた大型銃『カルバリン』を撫でてやる。

――こいつらと真精霊機関ガルーダローブ……勝ち目の無い戦いじゃねぇっ!

  戦いの時が、刻一刻と近づいていた。


                                        ■


「このままだと町の側で戦う羽目になるな」
(まぁ敵は海の上みたいだし、大丈夫なんじゃない?)

  方向転換をした精霊力を追いかけ、アゲハもまたその軌道を変えていた。
  海上の精霊力群と、前方に見える港町から感じ取れる精霊力群とが
  引かれあうようにして混ざっていく。

(それにしても準備万端って感じね)
「ああ、まさかソーマがこれほどまでに……」

  三年前に戦ったシンラの精霊機関兵器達、
  それと大差無い規模の精霊力が前方から感じて取れる。

(ホントねぇ、アレなんてよく出来てるわ)

  前方に赤い鉄塊が姿を現した。光り輝く翼を纏って。

「来たかっ」

  問答無用でこちらへと光弾を打ち出す。
  それを大きく避け、反撃の精霊力を浴びせる。
  数秒で鉄塊の精霊機関が悲鳴をあげ始めた。
  爆炎に包まれながら墜落。

  だが、新たな鉄塊が、小型戦闘機の群れが襲い掛かる。
  さらに海上の武装作業艇から砲台を搭載したボートが次々と吐き出されて来た。

「とぁっ!」

  一斉砲撃が始まるのと同時に、アゲハの体が閃光に包まれた。
  それに伴い現れた魔法陣がソーマ軍の鉄壁の布陣を飲み込む。

「それっ、えいっ、味わいなさいっ」

  アゲハに成り代わり現れた精霊の指先から、碧色の光線が放たれた。
  緩慢な流れの時の中で戦闘機に、武装作業艇に、
  赤い鉄塊に次々と精霊力が注ぎ込まれていく。
  そして、光線を放つ際に意識を向けられた方向に存在していた
  精霊力を根源としていた光の砲弾がことごとく金塊へと変性させられていく。

「はい、交代~」
(ああ)

  そして再度閃光。
  魔方陣が消滅し、本来の時の流れに戻るのと同時に
  アゲハを取り囲んでいた光弾が錬金され海面へと落下し、
  その源であった精霊機関達も一斉に爆発を起こした。

「本隊は向こうか」

  混ざり合っていた精霊力の一部を破壊した事により、
  先刻まで感じていた大きい群れを再び鮮明に捕らえられるようになった。

  堤防の上から砲撃してくる戦車へと光を浴びせながら沖合いへと向かう。
  断崖に囲まれた湾から飛び出して程なく、
  武装された大型の船が目に飛び込んできた。
  さらにその向こうには、より巨大な輸送艇が。

(あの船の中、数はたくさんいるみたいだけど大物はいないみたいね)
「と言うことは、この軍艦が奴らの主力兵器か……」

  眼下の軍艦が一斉にこちらへと砲塔を向けてきた。

「覚聖、いけるか?」
(ん~ダメぽ。精霊力微妙に足りない)

  次々と砲塔の先から光がほとばしる。

「ならば……」

  それらの間を縫うように羽ばたきながら光線を放つ。

「避けながら叩くのみ!」
(がんばれがんばれ~)

  まず最初に一際大きな砲台を破壊。
  これにより致命傷になりえそうな攻撃は無くなった。
  軍艦の縁に一列に並んだ小型砲台が矢継ぎ早に光弾を放つ。
  それを左右にすばやく切り返しながら回避。
  と同時に軍艦から吐き出された武装ボート達を次々と撃破。

(ん、何か出てきたぞ~)
「むっ」

  精霊が微小な精霊力を嗅ぎ取った。
  その方向へと視線を移すよりも早く、精霊力の主の声が耳に飛び込んできた。

「ウェーッハッハッハッハーッ!!」

  太陽を背に、異様なシルエットが浮かび上がる。
  巨大な輝羽を背負い、左手に長身の銃。ここまではいい。
  右手……その男の身長の十倍はあろうかという金色に輝く機械仕掛けの右手に、
  それに見合ったサイズの銃――と、思しきものが握られていた。

「な、な」
(……すごいの来ちゃったね、アゲハ君)
「なななんなんだ、お前はっ!!」

  驚愕し、軽くパニックを起こしているアゲハへと異形の男が長身の銃を振りかぶり構える。

「我が国に歯向かう者の末路は!死!だ!」

  チャキッ。
  不安定な中空にも関わらず、銃口が的確にアゲハを捕らえてきた。

「我が国に、敵なしぃぃっ!」

  そして雄たけびと共に銃口が引かれた。