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*正義のためなら鬼となる 貪るような勢いで読んでいた紙芝居に目を通し終えたそいつはあまりよろしそうに見えない頭なりにどうにか現状を理解したようだった。 やれやれ親切なこったねぇと、歌舞鬼は目に見えぬ敵に向かって唸り声を上げるアマゾンを眺めながら心中で息を吐く。 与えられた情報をどう受け止めたかは分からぬにせよ、これで畜生のようなこの人間も定められたルールの上でどう振舞うかの選択を迫られる訳だ。 諦めて従うか敢えて反抗するかを選ぶことはできる。逆に言えば居間の歌舞鬼達に与えられた自由はその程度のものでしかない。 歌舞鬼自身はどのなのかと言えば、気持ちは未だに中途半端なままだ。ツクヨミに食われ意識を失う寸前まで、荒れ狂う感情は身を削るようだった。いきなり仕切り直しを告げられても気持ちの整理がつかない。 あの鬼どもならどうするだろうか。守るというのだろうか。このような状況になっても、人間を。 歌舞鬼がこれまで見てきたような、汚い大人どもならどうするだろう。こちらは決まっている。自分のことしか考えずに醜く行動するのだろう。 歌舞鬼は人間が嫌いだ。自分達に都合の良い事ばかり主張し、大した考えもなく鬼を迫害する。 鬼ではなくかといってまともな人間にも見えないこいつの場合は、この状況において一体どのような行動をとるのだろうか。 「大体理解したかい?俺たちが今どうなっちまってるかをよぉ?」 膝を曲げアマゾンと視線を合わせながらなるたけ軽い調子で聞く。 「がうぅ……。たた……かい……うぅ」 思った以上にすんなりと状況を理解している。どうやら専用に用意された紙芝居は全くの無駄ではなかったらしい。 あるいは、それこそ野獣のようにこいつにとっては生き残るための他者と戦うことなど特別ではないのかも知れない。 「そうよ。闘い、殺し合いよ。事情はさっぱり分かんねぇが、どうやら俺たちは偉ぇたちの悪い連中に目を付けられちまったらしい」 ぐいと大げさな仕草で顔を突きつける。語っている内容とは裏腹に声に暗い影はないが、その代わりどこか他人事のような突き放した空気があった。 「で、お前さんはどうする?やんのかい?」 歌舞鬼は己の迷いは一時棚上げにすることにした。人とも野獣とも付かないアマゾンの答えには純粋に興味がある。 「がうぅ……」 「殺すかい?手始めに俺でも?」 「こ、ろす……うぅ……こぉさか……がぅう」 「こおさか?」 地名、それとも人の名前だろうか。その言葉を呟いたとたん何かを悔やむようにアマゾンが呼吸を荒げ始めた。 「うぅ……こおさか……ころ、された」 人名だったようだ。余程心の傷になっているのか先ほどまでの意識の定まらない態度とは違い、はっきりと何かへ向けて怒りをむき出しにしている。 「アマゾン……人間殺さない……でも、敵、倒す」 思い出した記憶が何かの決起となったのだろう。アマゾンはそう決意表明のようにそう言うと、目の前の歌舞鬼を押し退けるようにして立ち上がった。 そのまま、何かを辿るように歩き始める。まるで動物の匂いでも嗅ぎ付けたかのようだ。 歌舞鬼も山歩きには慣れているつもりだが、それとはまた違った意味でアマゾンの動きは危なげがない。跳ぶやらはねるやらしながらすいすいと進んでいく。 言われるままに人を襲ったりはしない。ただ、危険と判断したときには戦う。 とりあえずは、そういうことに決めたようだ。 人間何て守る程のものじゃないぞ、とか。 戦ったって馬鹿を見るばっかりだぞ、とか。 それなりに思い浮かべる言葉はあったけれど。 「そうかい。まぁやってみるこった」 何となく今は、それぐらいしか言う気にならなかった。 頭を掻きながらアマゾンの後に続く歌舞鬼の頭に、ちらりと響鬼の姿が浮かんだ。 ◇ 「ちゅちゅう。やっぱり俺ぁ駄目だなぁ……。アマゾォン……」 「まぁたそれかよ。いくら泣き言いっても会えんもんには会えんのだ。ちゅうか俺様がついてるだろー?」 ひとまずの休憩を終えた海堂とモグラ獣人は丘陵地帯を肩を並べて歩いていた。舗装こそされていないものの自然の力で整地された道は歩き難いということはなく、じゃりじゃりと砂粒を踏む感触がむしろ心地良いくらいだ。 しかし、そのような快適な道行に反して移動速度自体は家に帰るのを嫌がる酔っ払いのように遅々として進んでいない。うだうだと悩んでいるモグラ獣人に合わせた結果がこれだ。 行き先も定まっておらず、たださっきの敵にに合わなさそうな方向を何となく選んでいるに過ぎない。 方角的にはいつか道路に突き当たるはずなのだが、そうすると始めにいた森に逆戻りするしかないのではないかと海堂は密かに思っている。 「そりゃかいどーは頼りにしてるけど、アマゾンだって凄いんだぜ。どんな危険にも負けずに立ち向かっていくんだ」 「俺だって、そうだろ?」 徐々に白み始めた空の下、無意味にかっこつけたポーズで言ってみたが無視された。 海堂が戦闘の疲れから立ち直って以来、モグラ獣人はふさぎこんだままだ。短い時間に連続して命の危険にさらされたことが心身ともに余程堪えたらしい。 海堂としては自分が頼りにされていないように思えてあまり面白くない。 「ま、どこにいるか分からない、連絡もとれないちゅーんじゃ仕方ねぇわな」 「ちゅちゅ……」 その辺りの感情が出てしまったのか、思いの他冷たい口調になった。 目に見えて落ち込みだしたモグラ獣人に何とも言えぬ決まりの悪さを感じ、海堂はばたばたと手首を振る。 このまま嫌な沈黙が二人の間に満ちる――かと思えた。 「でもよお……」 それを防いだのは意外にもモグラ獣人だった。視線は相変わらず下を向き、山道に転がる小石達に注がれている。 しかし、一切の光沢を持たないそれらとは対照的につぶらなその瞳は子供が宝物を見るかのような純粋な輝きを放っていた。 「アマゾンは……仮面ライダーなんだ」 「仮面ライダー?何だそりゃ?」 耳慣れない言葉に海堂が聞きなおすと、モグラ獣人はいかにも驚いたとばかりに大げさに体を仰け反らせ甲高い声をさらに大きく張り上げて声を挙げた。 「ええ!?かいどーは仮面ライダーを知らないのかい?」 「知らんし知らん。なんだ?その、なんちゅうか胡散臭い……」 「よぉし!なら特別にこのモグラ獣人が説明してやるよぉ!よっく聞きなよ!」 海堂に最後まで言わせず、モグラ獣人が語り始める。嬉々として胸を張り、それについて話すのが楽しくてどうしようもないという風だ。 遅々として進まなかった行軍も俄然その勢いを増しはじめた。 「仮面ライダーってのは何てったってそりゃあ凄いんだ。ゲドンがどんあ卑怯な作戦を使ったって絶対に阻止しちまうんだぜ」 「ほほう、それでそれで」 現実味の感じられない話に正直余り興味は持てなかったのだが、まぁ元気が出るならそれも良かろうと適当に相槌を打って聞き流しておく。 川岸に辿り着いたのでそれに沿う形に方向を変えた。 気付くと周囲は朝焼けに照らし出されていた。川の流れる音と共に、独特の冷気が肌を刺す。 「困ってる人は絶対に見捨てないし、助けを求める人がいたらどこへだって飛んでいくんだ」 「あ~電話でも掛かってくるんか?大変だなそりゃ」 「そんなんじゃないよ!アマゾンが行くところに自然とケドンに苦しめられてる人達がいるんだ」 「そりゃ凄いぐう……」 「そう!それがアマゾンの凄いところさぁ!かいどーも尊敬するだろ?」 海堂の言葉を都合の良いところで再び遮ってモグラ獣人が歓喜する。 聞けば聞くほどに現実味のない話だ。喋っているモグラ獣人が子供のようにはしゃぐせいで空想を聞かされているような印象ばかりが強くなっていく。 モグラ獣人がどれ程アマゾンとやらを尊敬しているかは知らないが、所詮そんなヒーローのような都合の良い存在など夢物語でしかない。 「それにさぁ」 「あん?」 それでも、まぁ。 「アマゾンはどんな奴が相手だって絶対に負けないんだ」 「絶対に、か」 いつか夢から醒めるときがくるとしてもだ。 「そう!だからアマゾンは絶対に来てくれる!それまで俺たちで頑張ろうぜ、かいどー!」 わざわざ夢の続きを取り上げるくらいなら、一緒にそれに乗っかるくらいのことはしてやる。 「ああ……そだな」 海堂は答えた。彼らしくない真剣な口調に、非常に彼らしい優しい感情を乗せて。 川にさしかけられた道路の向こう、二人が出会った森がすぐ近くまできていた。 「ちゅちゅ……?あ、ありゃあまさか!」 そして、海堂は仮面ライダーという在り方の真髄を目の当たりにする。 「アマゾン!間違いない、ありゃあアマゾンだ!お~~~~い!」 モグラ獣人が駆け出した先には丁度森を抜けてきたばかりと見える二人の男がいた。 年のころはどちらも海堂のと大差ないだろうが一人は毛皮のような粗雑な衣装、もう一人に至っては半裸と海堂から見ても実に特徴的な格好をしている。 「お~~い!!俺だよ~~モグラ獣人だよ~~!!」 「まじか。無茶くちゃっちゅうかなんちゅうか……」 短い足を懸命にばたつかせて走る様子からしてどちらかがモグラ獣人の言っていたアマゾンなのだろう。 都合の良すぎる展開に半ばあっけにとられながら、海堂はどたばたと駆けるモグラ獣人の背中を目で追う。 信じがたいことではある。参加者として招かれていないにも関わらずスマートブレインの管理下にあるこの場所を僅か数時間で突き止めたというのか。 常識で考えれば絶対に不可能だ。 仮に、本当にそんなことを可能にする存在がいるのだとしたら。 (仮面ライダー、な) 悲劇が拡大する前に必ず現われ、それを食い止めるような存在があり得るのだとしたら。 (すげぇ奴がいたもんだ) それは、正に夢物語のヒーローそのままではないか。 モグラ獣人とアマゾン達との距離はもう殆どなくなっていた。向こうもとっくにこちらに気付いているようだ。 おもむろに、半裸の男が両手を挙げる。飛び込まんばかりの勢いのモグラ獣人を歓迎するかのようにも見えた。 「ちゅちゅう……!アマゾン、来てくれると思ったよぉ……!」 半裸の男の前でモグラ獣人が息継ぎする時間も惜しいとばかりに告げた。 急ぐ必要もなく、海堂は大分開けられた距離をゆっくりとした歩みで詰めていく。 視線の先では歓喜に咽ぶモグラ獣人の前で、仮面ライダーアマゾンが高らかにその名を叫んでいた。 「うぅ……ア~!マ~!ゾォ~~~ン!!」 まばゆい光がまきおこり、それが収束した後に立っていたのは半裸の男ではなく森林に溶け込むような斑模様の怪人だった。 オルフェノクともライダーギアとも違う変身を見せられ海堂は一瞬ぎょっとしたが、それもすぐに収まった。 そもそも人間どころかオルフェノクですらなく、怪人としか言い様のないモグラ獣人が仲間と慕っていた人物だ。これぐらいのエキセントリックさはむしろあって当然なのかも知れない。 オルフェノク意外にも生身で変身できるものがいたこと事態は驚きだが、今の海堂にはむしろそれが頼もしく思えた。 理想の体現者たる仮面ライダーはゆっくりと手を頭上えと掲げ── 「ええい、もう言葉が出てこないよ!ああ、アマゾン紹介するよ、あっちがかいどー。俺の……」 「ケケー!」 奇声とともにモグラ獣人へと飛び掛かるとその腕を一刀の下に切り飛ばした。 「はぁ!?」 「ちゅ……?」 今度こそ全く理解不可能の事態に思わず海堂は足を止める。 モグラ獣人はそもそも起きた現象を認識すらできていないようで、海堂へと差し伸べられるはずだった腕が途中ですっぱりなくなっているのを何とも不思議そうに眺めていた。 「どうして腕がなくなっているんだろう」と言う疑問を顔全体に浮かべ、吹き出る血にも構わず素朴な表情で首を傾げながら腕の切断面とアマゾンの顔を交互に見比べている。 「ケケー!」 そんなモグラ獣人の口から上を、再度勢い良く振るわれたアマゾンの腕が綺麗に削り取った。 何が起きたのかとうとう最期まで理解できなかったのだろう、純粋な疑問の表情を浮かべたままのモグラ獣人の首が海堂の足下にぼとりと音を立てて転がった。 混乱した頭で静かに視線を下ろす。つぶらでかわいらしい形に固定された一対の瞳と目が合った。 「な……」 「ケケケケケー!ケケケケケー!」 仮面ライダーであるはずの男が両腕をめちゃめちゃに振り回し気色の悪い音を立てている。 海堂にはその姿が見えているようで見えておらず、その声が聞こえいてるようで聞こえいていない。焼け付くように熱っされた頭が五感の能力をどんどんと奪っていくからだ。 「何を……」 オルフェノクの姿で海堂は言葉を絞り出す。いつ変身したのか自分でも定かではない。体の震えが止まらなかった。 「何をやってんだてめぇはああああ!!」 ◇ アマゾンの後を付いて歩き、森を抜けた矢先に出会ったのはモグラの化け物と奇天烈な格好をした男の二人連れだった。 本当に匂いを辿っていたのだろうか。都合の良い出会い方に歌舞鬼がそう訝る間もなく、こちらに気付いたモグラが何やら叫びながら駆け寄ってきた。 攻撃の意思ありかと身構えた歌舞鬼だったが、その必要はなかった。雄叫びと共に異形に姿を変えたアマゾンがすぐさまそいつを葬ったからだ。 明らかに見知らぬ化け物を警戒している様子は感じられていたが、まさかここまで躊躇なく攻撃に移るとは思わなかった。 まるで何か激しい恨みをぶつけるかのような、恐怖さえ覚える鋭い腕の一閃。 鬼とも魔化魍とも違うアマゾンの姿を疑問に思うより、むしろその一撃の荒々しさに気を持っていかれる程だ。 化け物の様子はともすれば再開を喜んでいるように見えなくもなかったのだが、アマゾンのこの怒りようからするとそれは不幸な勘違いだったのだろう。 たしかに敵は倒すと言っていたが、それにしたって余りに血生臭い。野獣のような、どころではなくこれは歌舞鬼が何度も見てきた畜生どもの争いそのままだ。 高らかな勝利の雄叫びを終えたアマゾンは、今度はこちらも姿を変えて殴りかかってきた新たな異形へとその標的を移している。 目まぐるしく移り変わる状況への対処を考えながら、歌舞鬼は知らぬ内に冷や汗をかいている自分がいることに気が付いていた。 &color(red){【モグラ獣人@仮面ライダーアマゾン 死亡】} &color(red){【残り44人】} **状態表 【1日目 早朝】 【山本大介@仮面ライダーアマゾン】 【現在地:F-7 道路】 [時間軸]:アマゾン本編1話終了後 [状態]:健康。アマゾンライダーに変身中 [装備]:ギギの腕輪、コンドラー [道具]:治療用の植物、ルール説明の紙芝居、不明支給品x1、基本支給品 [思考・状況] 1:敵……倒す! [備考] ※1:言葉は人と会話をしていけば自然と覚えます。 ※2:コンドラーはナイフやロープ代わりになります。 ※3:ギギの腕輪を奪われるとアマゾンは死にます。 【歌舞鬼@劇場版仮面ライダー響鬼】 【現在地:F-7 道路】 [時間軸]:響鬼との一騎打ちに破れヒトツミに食われた後 [状態]:健康。 [装備]:変身音叉・音角、音撃棒・烈翠 [道具]:基本支給品(ペットボトル1本捨て)、歌舞鬼専用地図、音撃三角・烈節@響鬼 [思考・状況] 0:目の前の状況に対処 1:アマゾンと行動を共にする……つもりだが 2:モモタロスがここまで来たら…戦闘か、共闘か。来ないでほしいものだが。 3:響鬼に会ったらその時は… [備考] ※1:歌舞鬼専用地図はアルファベットの部分が歌舞鬼にもわかるよう当て字の漢字が使われているだけです ※2:モモタロスに同情の念は抱いていません。虚をついて水容器の毒味をさせたぐらいにしか思ってません。 【海堂直也@仮面ライダー555】 【時間軸】: 34話前後 【状態】:健康。激しい怒り。スネークオルフェノクに変身中 【装備】:なし 【道具】:基本支給品、ディスクアニマル(ニビイロヘビ)、戦国時代のディスクアニマル(イワベニシシ) 【思考・状況】 1:モグラああああ!! 2:モモタロスに会ったらとっちめる。 3:モモタロスとカイザの危険性を会った奴に伝える。 ※ 澤田の顔はわかりますが名前は知りません。また、真魚の顔は見ていません。 ※ モグラ獣人の支給品一式は死体の側に転がっています。 |040:[[Riders Fight!(後編)]]|投下順|042:[[暗雲]]| |040:[[Riders Fight!(後編)]]|時系列順|042:[[暗雲]]| |029:[[駆ける海堂]]|[[海堂直也]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]| |029:[[駆ける海堂]]|&color(red){モグラ獣人}|| |024:[[桃の木坂分岐点]]|[[歌舞鬼]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]| |024:[[桃の木坂分岐点]]|[[山本大介]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]|
*正義のためなら鬼となる 貪るような勢いで読んでいた紙芝居に目を通し終えたそいつはあまりよろしそうに見えない頭なりにどうにか現状を理解したようだった。 やれやれ親切なこったねぇと、歌舞鬼は目に見えぬ敵に向かって唸り声を上げるアマゾンを眺めながら心中で息を吐く。 与えられた情報をどう受け止めたかは分からぬにせよ、これで畜生のようなこの人間も定められたルールの上でどう振舞うかの選択を迫られる訳だ。 諦めて従うか敢えて反抗するかを選ぶことはできる。逆に言えば居間の歌舞鬼達に与えられた自由はその程度のものでしかない。 歌舞鬼自身はどのなのかと言えば、気持ちは未だに中途半端なままだ。ツクヨミに食われ意識を失う寸前まで、荒れ狂う感情は身を削るようだった。いきなり仕切り直しを告げられても気持ちの整理がつかない。 あの鬼どもならどうするだろうか。守るというのだろうか。このような状況になっても、人間を。 歌舞鬼がこれまで見てきたような、汚い大人どもならどうするだろう。こちらは決まっている。自分のことしか考えずに醜く行動するのだろう。 歌舞鬼は人間が嫌いだ。自分達に都合の良い事ばかり主張し、大した考えもなく鬼を迫害する。 鬼ではなくかといってまともな人間にも見えないこいつの場合は、この状況において一体どのような行動をとるのだろうか。 「大体理解したかい?俺たちが今どうなっちまってるかをよぉ?」 膝を曲げアマゾンと視線を合わせながらなるたけ軽い調子で聞く。 「がうぅ……。たた……かい……うぅ」 思った以上にすんなりと状況を理解している。どうやら専用に用意された紙芝居は全くの無駄ではなかったらしい。 あるいは、それこそ野獣のようにこいつにとっては生き残るための他者と戦うことなど特別ではないのかも知れない。 「そうよ。闘い、殺し合いよ。事情はさっぱり分かんねぇが、どうやら俺たちは偉ぇたちの悪い連中に目を付けられちまったらしい」 ぐいと大げさな仕草で顔を突きつける。語っている内容とは裏腹に声に暗い影はないが、その代わりどこか他人事のような突き放した空気があった。 「で、お前さんはどうする?やんのかい?」 歌舞鬼は己の迷いは一時棚上げにすることにした。人とも野獣とも付かないアマゾンの答えには純粋に興味がある。 「がうぅ……」 「殺すかい?手始めに俺でも?」 「こ、ろす……うぅ……こぉさか……がぅう」 「こおさか?」 地名、それとも人の名前だろうか。その言葉を呟いたとたん何かを悔やむようにアマゾンが呼吸を荒げ始めた。 「うぅ……こおさか……ころ、された」 人名だったようだ。余程心の傷になっているのか先ほどまでの意識の定まらない態度とは違い、はっきりと何かへ向けて怒りをむき出しにしている。 「アマゾン……人間殺さない……でも、敵、倒す」 思い出した記憶が何かの決起となったのだろう。アマゾンはそう決意表明のようにそう言うと、目の前の歌舞鬼を押し退けるようにして立ち上がった。 そのまま、何かを辿るように歩き始める。まるで動物の匂いでも嗅ぎ付けたかのようだ。 歌舞鬼も山歩きには慣れているつもりだが、それとはまた違った意味でアマゾンの動きは危なげがない。跳ぶやらはねるやらしながらすいすいと進んでいく。 言われるままに人を襲ったりはしない。ただ、危険と判断したときには戦う。 とりあえずは、そういうことに決めたようだ。 人間何て守る程のものじゃないぞ、とか。 戦ったって馬鹿を見るばっかりだぞ、とか。 それなりに思い浮かべる言葉はあったけれど。 「そうかい。まぁやってみるこった」 何となく今は、それぐらいしか言う気にならなかった。 頭を掻きながらアマゾンの後に続く歌舞鬼の頭に、ちらりと響鬼の姿が浮かんだ。 ◇ 「ちゅちゅう。やっぱり俺ぁ駄目だなぁ……。アマゾォン……」 「まぁたそれかよ。いくら泣き言いっても会えんもんには会えんのだ。ちゅうか俺様がついてるだろー?」 ひとまずの休憩を終えた海堂とモグラ獣人は丘陵地帯を肩を並べて歩いていた。舗装こそされていないものの自然の力で整地された道は歩き難いということはなく、じゃりじゃりと砂粒を踏む感触がむしろ心地良いくらいだ。 しかし、そのような快適な道行に反して移動速度自体は家に帰るのを嫌がる酔っ払いのように遅々として進んでいない。うだうだと悩んでいるモグラ獣人に合わせた結果がこれだ。 行き先も定まっておらず、たださっきの敵にに合わなさそうな方向を何となく選んでいるに過ぎない。 方角的にはいつか道路に突き当たるはずなのだが、そうすると始めにいた森に逆戻りするしかないのではないかと海堂は密かに思っている。 「そりゃかいどーは頼りにしてるけど、アマゾンだって凄いんだぜ。どんな危険にも負けずに立ち向かっていくんだ」 「俺だって、そうだろ?」 徐々に白み始めた空の下、無意味にかっこつけたポーズで言ってみたが無視された。 海堂が戦闘の疲れから立ち直って以来、モグラ獣人はふさぎこんだままだ。短い時間に連続して命の危険にさらされたことが心身ともに余程堪えたらしい。 海堂としては自分が頼りにされていないように思えてあまり面白くない。 「ま、どこにいるか分からない、連絡もとれないちゅーんじゃ仕方ねぇわな」 「ちゅちゅ……」 その辺りの感情が出てしまったのか、思いの他冷たい口調になった。 目に見えて落ち込みだしたモグラ獣人に何とも言えぬ決まりの悪さを感じ、海堂はばたばたと手首を振る。 このまま嫌な沈黙が二人の間に満ちる――かと思えた。 「でもよお……」 それを防いだのは意外にもモグラ獣人だった。視線は相変わらず下を向き、山道に転がる小石達に注がれている。 しかし、一切の光沢を持たないそれらとは対照的につぶらなその瞳は子供が宝物を見るかのような純粋な輝きを放っていた。 「アマゾンは……仮面ライダーなんだ」 「仮面ライダー?何だそりゃ?」 耳慣れない言葉に海堂が聞きなおすと、モグラ獣人はいかにも驚いたとばかりに大げさに体を仰け反らせ甲高い声をさらに大きく張り上げて声を挙げた。 「ええ!?かいどーは仮面ライダーを知らないのかい?」 「知らんし知らん。なんだ?その、なんちゅうか胡散臭い……」 「よぉし!なら特別にこのモグラ獣人が説明してやるよぉ!よっく聞きなよ!」 海堂に最後まで言わせず、モグラ獣人が語り始める。嬉々として胸を張り、それについて話すのが楽しくてどうしようもないという風だ。 遅々として進まなかった行軍も俄然その勢いを増しはじめた。 「仮面ライダーってのは何てったってそりゃあ凄いんだ。ゲドンがどんあ卑怯な作戦を使ったって絶対に阻止しちまうんだぜ」 「ほほう、それでそれで」 現実味の感じられない話に正直余り興味は持てなかったのだが、まぁ元気が出るならそれも良かろうと適当に相槌を打って聞き流しておく。 川岸に辿り着いたのでそれに沿う形に方向を変えた。 気付くと周囲は朝焼けに照らし出されていた。川の流れる音と共に、独特の冷気が肌を刺す。 「困ってる人は絶対に見捨てないし、助けを求める人がいたらどこへだって飛んでいくんだ」 「あ~電話でも掛かってくるんか?大変だなそりゃ」 「そんなんじゃないよ!アマゾンが行くところに自然とケドンに苦しめられてる人達がいるんだ」 「そりゃ凄いぐう……」 「そう!それがアマゾンの凄いところさぁ!かいどーも尊敬するだろ?」 海堂の言葉を都合の良いところで再び遮ってモグラ獣人が歓喜する。 聞けば聞くほどに現実味のない話だ。喋っているモグラ獣人が子供のようにはしゃぐせいで空想を聞かされているような印象ばかりが強くなっていく。 モグラ獣人がどれ程アマゾンとやらを尊敬しているかは知らないが、所詮そんなヒーローのような都合の良い存在など夢物語でしかない。 「それにさぁ」 「あん?」 それでも、まぁ。 「アマゾンはどんな奴が相手だって絶対に負けないんだ」 「絶対に、か」 いつか夢から醒めるときがくるとしてもだ。 「そう!だからアマゾンは絶対に来てくれる!それまで俺たちで頑張ろうぜ、かいどー!」 わざわざ夢の続きを取り上げるくらいなら、一緒にそれに乗っかるくらいのことはしてやる。 「ああ……そだな」 海堂は答えた。彼らしくない真剣な口調に、非常に彼らしい優しい感情を乗せて。 川にさしかけられた道路の向こう、二人が出会った森がすぐ近くまできていた。 「ちゅちゅ……?あ、ありゃあまさか!」 そして、海堂は仮面ライダーという在り方の真髄を目の当たりにする。 「アマゾン!間違いない、ありゃあアマゾンだ!お~~~~い!」 モグラ獣人が駆け出した先には丁度森を抜けてきたばかりと見える二人の男がいた。 年のころはどちらも海堂のと大差ないだろうが一人は毛皮のような粗雑な衣装、もう一人に至っては半裸と海堂から見ても実に特徴的な格好をしている。 「お~~い!!俺だよ~~モグラ獣人だよ~~!!」 「まじか。無茶くちゃっちゅうかなんちゅうか……」 短い足を懸命にばたつかせて走る様子からしてどちらかがモグラ獣人の言っていたアマゾンなのだろう。 都合の良すぎる展開に半ばあっけにとられながら、海堂はどたばたと駆けるモグラ獣人の背中を目で追う。 信じがたいことではある。参加者として招かれていないにも関わらずスマートブレインの管理下にあるこの場所を僅か数時間で突き止めたというのか。 常識で考えれば絶対に不可能だ。 仮に、本当にそんなことを可能にする存在がいるのだとしたら。 (仮面ライダー、な) 悲劇が拡大する前に必ず現われ、それを食い止めるような存在があり得るのだとしたら。 (すげぇ奴がいたもんだ) それは、正に夢物語のヒーローそのままではないか。 モグラ獣人とアマゾン達との距離はもう殆どなくなっていた。向こうもとっくにこちらに気付いているようだ。 おもむろに、半裸の男が両手を挙げる。飛び込まんばかりの勢いのモグラ獣人を歓迎するかのようにも見えた。 「ちゅちゅう……!アマゾン、来てくれると思ったよぉ……!」 半裸の男の前でモグラ獣人が息継ぎする時間も惜しいとばかりに告げた。 急ぐ必要もなく、海堂は大分開けられた距離をゆっくりとした歩みで詰めていく。 視線の先では歓喜に咽ぶモグラ獣人の前で、仮面ライダーアマゾンが高らかにその名を叫んでいた。 「うぅ……ア~!マ~!ゾォ~~~ン!!」 まばゆい光がまきおこり、それが収束した後に立っていたのは半裸の男ではなく森林に溶け込むような斑模様の怪人だった。 オルフェノクともライダーギアとも違う変身を見せられ海堂は一瞬ぎょっとしたが、それもすぐに収まった。 そもそも人間どころかオルフェノクですらなく、怪人としか言い様のないモグラ獣人が仲間と慕っていた人物だ。これぐらいのエキセントリックさはむしろあって当然なのかも知れない。 オルフェノク意外にも生身で変身できるものがいたこと事態は驚きだが、今の海堂にはむしろそれが頼もしく思えた。 理想の体現者たる仮面ライダーはゆっくりと手を頭上えと掲げ── 「ええい、もう言葉が出てこないよ!ああ、アマゾン紹介するよ、あっちがかいどー。俺の……」 「ケケー!」 奇声とともにモグラ獣人へと飛び掛かるとその腕を一刀の下に切り飛ばした。 「はぁ!?」 「ちゅ……?」 今度こそ全く理解不可能の事態に思わず海堂は足を止める。 モグラ獣人はそもそも起きた現象を認識すらできていないようで、海堂へと差し伸べられるはずだった腕が途中ですっぱりなくなっているのを何とも不思議そうに眺めていた。 「どうして腕がなくなっているんだろう」と言う疑問を顔全体に浮かべ、吹き出る血にも構わず素朴な表情で首を傾げながら腕の切断面とアマゾンの顔を交互に見比べている。 「ケケー!」 そんなモグラ獣人の口から上を、再度勢い良く振るわれたアマゾンの腕が綺麗に削り取った。 何が起きたのかとうとう最期まで理解できなかったのだろう、純粋な疑問の表情を浮かべたままのモグラ獣人の首が海堂の足下にぼとりと音を立てて転がった。 混乱した頭で静かに視線を下ろす。つぶらでかわいらしい形に固定された一対の瞳と目が合った。 「な……」 「ケケケケケー!ケケケケケー!」 仮面ライダーであるはずの男が両腕をめちゃめちゃに振り回し気色の悪い音を立てている。 海堂にはその姿が見えているようで見えておらず、その声が聞こえいてるようで聞こえいていない。焼け付くように熱っされた頭が五感の能力をどんどんと奪っていくからだ。 「何を……」 オルフェノクの姿で海堂は言葉を絞り出す。いつ変身したのか自分でも定かではない。体の震えが止まらなかった。 「何をやってんだてめぇはああああ!!」 ◇ アマゾンの後を付いて歩き、森を抜けた矢先に出会ったのはモグラの化け物と奇天烈な格好をした男の二人連れだった。 本当に匂いを辿っていたのだろうか。都合の良い出会い方に歌舞鬼がそう訝る間もなく、こちらに気付いたモグラが何やら叫びながら駆け寄ってきた。 攻撃の意思ありかと身構えた歌舞鬼だったが、その必要はなかった。雄叫びと共に異形に姿を変えたアマゾンがすぐさまそいつを葬ったからだ。 明らかに見知らぬ化け物を警戒している様子は感じられていたが、まさかここまで躊躇なく攻撃に移るとは思わなかった。 まるで何か激しい恨みをぶつけるかのような、恐怖さえ覚える鋭い腕の一閃。 鬼とも魔化魍とも違うアマゾンの姿を疑問に思うより、むしろその一撃の荒々しさに気を持っていかれる程だ。 化け物の様子はともすれば再開を喜んでいるように見えなくもなかったのだが、アマゾンのこの怒りようからするとそれは不幸な勘違いだったのだろう。 たしかに敵は倒すと言っていたが、それにしたって余りに血生臭い。野獣のような、どころではなくこれは歌舞鬼が何度も見てきた畜生どもの争いそのままだ。 高らかな勝利の雄叫びを終えたアマゾンは、今度はこちらも姿を変えて殴りかかってきた新たな異形へとその標的を移している。 目まぐるしく移り変わる状況への対処を考えながら、歌舞鬼は知らぬ内に冷や汗をかいている自分がいることに気が付いていた。 &color(red){【モグラ獣人@仮面ライダーアマゾン 死亡】} &color(red){【残り43人】} **状態表 【1日目 早朝】 【山本大介@仮面ライダーアマゾン】 【現在地:F-7 道路】 [時間軸]:アマゾン本編1話終了後 [状態]:健康。アマゾンライダーに変身中 [装備]:ギギの腕輪、コンドラー [道具]:治療用の植物、ルール説明の紙芝居、不明支給品x1、基本支給品 [思考・状況] 1:敵……倒す! [備考] ※1:言葉は人と会話をしていけば自然と覚えます。 ※2:コンドラーはナイフやロープ代わりになります。 ※3:ギギの腕輪を奪われるとアマゾンは死にます。 【歌舞鬼@劇場版仮面ライダー響鬼】 【現在地:F-7 道路】 [時間軸]:響鬼との一騎打ちに破れヒトツミに食われた後 [状態]:健康。 [装備]:変身音叉・音角、音撃棒・烈翠 [道具]:基本支給品(ペットボトル1本捨て)、歌舞鬼専用地図、音撃三角・烈節@響鬼 [思考・状況] 0:目の前の状況に対処 1:アマゾンと行動を共にする……つもりだが 2:モモタロスがここまで来たら…戦闘か、共闘か。来ないでほしいものだが。 3:響鬼に会ったらその時は… [備考] ※1:歌舞鬼専用地図はアルファベットの部分が歌舞鬼にもわかるよう当て字の漢字が使われているだけです ※2:モモタロスに同情の念は抱いていません。虚をついて水容器の毒味をさせたぐらいにしか思ってません。 【海堂直也@仮面ライダー555】 【時間軸】: 34話前後 【状態】:健康。激しい怒り。スネークオルフェノクに変身中 【装備】:なし 【道具】:基本支給品、ディスクアニマル(ニビイロヘビ)、戦国時代のディスクアニマル(イワベニシシ) 【思考・状況】 1:モグラああああ!! 2:モモタロスに会ったらとっちめる。 3:モモタロスとカイザの危険性を会った奴に伝える。 ※ 澤田の顔はわかりますが名前は知りません。また、真魚の顔は見ていません。 ※ モグラ獣人の支給品一式は死体の側に転がっています。 |040:[[Riders Fight!(後編)]]|投下順|042:[[暗雲]]| |040:[[Riders Fight!(後編)]]|時系列順|042:[[暗雲]]| |029:[[駆ける海堂]]|[[海堂直也]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]| |029:[[駆ける海堂]]|&color(red){モグラ獣人}|| |024:[[桃の木坂分岐点]]|[[歌舞鬼]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]| |024:[[桃の木坂分岐点]]|[[山本大介]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]|

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