「真実を追い求めて」(2008/09/16 (火) 11:49:27) の最新版変更点
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*真実を追い求めて
一軒の小屋の近くに立ちすくむ男が一人。
金の短髪を生やした男――葦原涼は肌を撫でるように吹く風に身を任せている。
理由はゆらゆらと吹き荒れる風が心地よいから――と、いうわけではない。
意識したわけでもない。只、結果的に身を任せる事になったにしか過ぎない。
自分が今、何処に立っているのかすらも特に気にせずに葦原はある事を考えていたから。
そう。視線の先に存在する一際大きく隆起した土の山の奥底に沈むもの。
それが少なくとも現時点まで葦原の意識を支配していた。
右腕に握るものは大きなシャベル。
先刻、ログハウスから見つけ出したものであり、柄に溶接されたスプーン状の刃には泥や砂がこびりついている。
そして、葦原が今まで何をしていたのかをシャベルは無言で物語っていた。
「すまない……あすか……」
洩れた言葉は謝罪の言葉。
浮かべた顔には一片の笑みすらあるはずもない。
悔しさと申し訳なさで一杯になった感情を内へ抑えきれずに、外界へ流れていこうとするのを寸前で我慢するように葦原の表情には確かな震えがある。
葦原がシャベルを振るって、簡素ながらも作り上げた仮初の墓に眠る一つの骸。
緑川あすかの死に対し、葦原は後悔の念を垂れ流す事しか出来なかった。
出会って数時間しか経っていない。
それほど仲が良かったわけでもなく、男女の関係などある筈もない。
だが、いつしか下の名前を呼ばれていた事は今となっては不思議な事であり、心地良かった。
惹かれあった――というよりも互いに必要としていたのだろうか。
当然あすかの全てを葦原は知っているわけではなく、彼女が自分に対してどんな想いを抱いていたかは計り知れない。
力を――常識を超えたギルスの力だけをあすかは当てにしていた可能性もある。
あの時、変身の後遺症でいつもの苦痛が襲った時に優しく介抱してくれた事も。
全ては自分の力を利用するために――そこまで考えてみるが、やがて葦原は静かに否定する。
そんな事はない。
その証拠にあすかは眠ってしまった自分を庇うように闘っていてくれたのだから。
慣れないだろうに、自分と同じように異形の者に成り――変身を行い、二人の襲撃者と闘っていた。
女性的な身体つきで、白鳥のような羽を生やした白い方はよくわからない。
只、既に闘う意思がなかったあすかを卑怯にも上空から狙撃した。
その事実だけはわかっており、葦原には充分過ぎる。
白い方に――葦原は知る由も無いが仮面ライダーファムに変身した城光に――どう対応するか。
いうまでもなく、あすかの仇を取るために次に出会ったときには必ず倒すという事。
その決定にはなんら躊躇う事はないが、葦原にはしこりのように引っかかった事があった。
「四号……お前は、お前は人間のために闘ったんじゃなかったのか……」
一人は何度か躯体の色を、得物を換えて葦原やあすか、そして彼を助けるように現れた黒の乱入者と闘った男。
未確認生命体四号と呼ばれ、クウガとも名乗っていた男――その名は五代雄介。
数年前、未確認生命体と呼ばれる集団から日本を守った一人の戦士。
その筈だったのに、どういうわけか五代はあすかと闘っていた。
わからない。信じられない。
見たところ人が良さそうな感じだった五代がどうして……以前、自分をも救ってくれたというのに。
自分の見間違えではないかと思ったが、直ぐにそれは間違いである事に葦原は気づく。
新聞やニュースで見た事もあり、助けられた時にもその姿を見ており、見間違いという事もないだろう。
ならば何故、五代は仲間と組んであすかと闘っていたのか。
数時間前、本郷猛に直ぐにでも止めをさそうとしたように、あすかの行動にも少し突発的な傾向が見られていて、それが仇となって五代達とトラブルを生んだのか。
確かにその可能性もあるが、流石に闘い沙汰になる事はないだろう。
あすかが恨みを抱いているのはあくまでも本郷只一人。
他の人物と接触する時は先ず話を持ちかける筈。
だったらどうしてあんな事に、平和のために闘ったであろう五代とあすかが――と、そこまで考えたところで、葦原の表情が一段と曇った。
一向に解けようとしなかった疑問の氷山が唐突に溶け始め、葦原に一つの考えを抱かせる。
信じたくない、だが受け入れてしまえばそれほど荒唐無稽ともいえない考えが葦原の意識を支配し始めた。
「まさか……あいつは最初から人間のためじゃなく、只、闘うのが好きで……未確認生命体を全滅させて……結果的に人間のために闘ったように見えただけ……。
俺を助けたのもあのアンノウンと闘いたかったから……そして闘えなくなった俺は見逃された、そういうコトだっていうのか……?」
五代を知る人間がこの場に一人でも居るのならば直ぐにでも否定しただろう。
人間の笑顔を愛し、誰よりも強く戦い抜き、そして誰よりも暴力を嫌った五代。
だが、葦原は生憎五代の事について良く知ってはいない。
所詮、新聞やニュースで知りえた情報しか持っておらず、五代がどういう経緯でクウガとなり、どんな想いで未確認生命体と闘ったのかをも。
だから、五代は手に入れた力を揮いたく、その矛先が未確認生命体へ向かっただけの事。
表向きは人間のために闘っていたように見えた、只の戦闘狂にしか過ぎなかったと葦原は考えた。
完全に騙された事に対し、思わず怒りのあまり両の拳を固く握り締める。
一度話をした事はあるが、あまりにも短い時間であり、五代が言った事を全て鵜呑みにする気は葦原にはない。
既にあすかを襲ったという事実がどうにも五代への不信感を強めていき、彼が言った事、彼から感じた人柄も全てが虚構のようなものに思え始めたから。
皆の笑顔を守る、自分に向けて行ったサムズアップ。
それら一つ一つの言葉や動作が今ではどこか疑心の眼で眺めてしまう。
勿論、五代が本当に人間のために闘っており、何らかの誤解であすかと闘っていたという可能性もある。
しかし、それならば自分が闘いの場に躍り出た時に何か声を掛けても良かったのではないだろうか。
自分が変身していた事に五代が気づいていなかったとしても、自分の声に聞き覚えはあった筈。
確かに戦闘時に平常通りの判断をするのも難しいが、それでも目の前に立つ人間が誰か確認する余裕はあっただろう。
だが、五代はしなかった。
自分の方も訳を聞いておけば良かったとは思うが、それ以上に葦原は五代の行動に不信感を覚える。
仲間に向けた言葉以外、一言も言葉を出す事はなかった五代。
何故何も言わなかったのか。
既にその答えは葦原には出ていた。
「闘えればそれでいい、誰が相手でも構わない……そういうコトか……!」
最早、偶然とは言い難い。
五代を疑う要因があまりにも多すぎたため、少し短絡的な考えに陥っている事に葦原は気づいていない。
無意識に語気が強まり、葦原が抱く怒りの大きさを示す。
出来るものならば信じたい、あの笑顔と言葉を信じてやりたい――だが、葦原は同時にある事も知っている。
それは人間の持つ汚さや言葉や信頼が時にはあまりにも脆く崩れ去る事を。
ある日、とてつもない力を手にすれば、そんな力の存在を認識してしまえば人間は割りと容易に変わってしまうものだ。
以前の自分や自分を取り巻いていた人々を――葦原は今も遠い記憶として覚えている。
ギルスとして覚醒し、何もかも失ってしまったあの時を忘れるはずも無い。
きっと五代も変わってしまった、もしくはこの場に来て変わってしまったのだろう。
ほんの少し五代の事を不憫にも思いながら、葦原は直ぐにその一抹の想いを捨て去った。
五代は既に仲間と共にあすかが死ぬ原因を作った。
ならば自分がやるべき事は一つしかない。
「……行くか」
仮初の墓から踵を返し、葦原はゆっくりとカブトエクステンダーへ向かう。
目的はこの殺し合いの阻止。
また、五代とその仲間に対しあすかの仇を取る事も追加している。
五代への不信感は完全に怒りと移り変わり、それは皮肉にも葦原を突き動かす原動力となっていた。
シャベルは持ち運びに不便なため、その辺に投げ捨てた。
心なしか乱暴に投げ捨ててしまったのは焦りを感じていたのかもしれない。
もう、誰も自分のように悲しみに沈んだ人を出さないためにも――想いを力に換えて、葦原は口を横一文字に固く閉める。
そして携えたものは一人分の荷物に納めなおしたデイバックとスーツケースに入れられたデルタギア。
デルタギア――三本のベルトの一つであり、装着者をデルタと呼ばれる存在に変える変身ツール。
あすかが生前使ったものであり、遺品代わりに一緒に埋葬しようかと思いはしたが踏み止まった。
どんな人間でも簡単に力を与えてくれるデルタギアの存在を葦原は快く思っていない。
こんなものがある限り人が争うのは目に見えており、まさにそれを見越してデルタギアが造られた気がしてならないからだ。
この殺し合いで更に死者を出すために――そう思うと怒りで頭が真っ白になりそうな心地すらする。
自分達を人間と思わず、実験動物のような扱いでこんな所に送り込んだスマートブレインに対する怒りは今も色褪せてはいない。
だが、この場ではきっと力を求めている人も居る。
勿論、自分の欲求や五代のように闘いへの楽しみのために求める奴も居るだろうが、そんな奴にはデルタギアを渡すわけにはいかない。
守りたいものがあるのに、どうしても突き通したい意思があるのに力がないばっかりに悔し涙を流した人間。
どうせ造られてしまったデルタギアを有効に活用するために、葦原はそんな人物にデルタギアを託す決意をした。
自分には既に力がある。受け入れてしまった力があるから。
使い方は生前、あすかが教えてくれたので問題はない。
自分の眼でしっかりと見定め、この殺し合いに対し心から反抗を目指す人間を探す。
葦原にまた一つ、譲れない目的が出来た。
やがてカブトエクステンダーに跨り、エンジンを掛けて葦原は真っ直ぐ前方を見据える。
「たとえ一人でも俺は闘う。俺はお前を、お前達を許しはしない……四号ッ!」
目的地はない。
今は兎に角周囲を走り、五代達を見つけよう。
何処へ行ったかもわからないがそれでも止まっているわけにはいかない。
それからあの黒いライダーを探すのも気に留めて置く。
見ず知らずの自分達を守るために闘い、何も言わずに立ち去った×印の仮面を被った男。
きっとこの殺し合いを憎んでいるため、自分の手助けをしてくれたのだろう。
そうでなければあそこまで闘ってくれる筈もない。
生憎あすかが死んでしまう結果とはなったが、それでも彼の行動には葦原は感謝していた。
デルタギアを上手く扱ってくれるかもしれない――そんな淡い想いを抱くほどに。
やがて決意を乗せた咆哮と同時にカブトエクステンダーが地を走ってゆく。
再び葦原は孤独な放浪を続ける事になった。
きっと笑っているだろう。
否、あまりにも滑稽過ぎて逆に笑えないかもしれない。
葦原が数時間前に体験した出来事の真実を知っている者ならば。
あすかを殺したのは五代達ではなく、二人の男女。
しかも女の方は葦原が保護しようと思っていた風谷真魚であり、彼女が撃った弾丸があすかの命を奪った。
そして男の方は澤田亜希といい、デルタに変身し、葦原に誤解を持たせ、そして何食わぬ顔で戻り、×印の仮面を被った黒いライダー――カイザに変身した。
五代達は只、デルタに変身した澤田に襲われたため、これに応戦しただけの事。
更に葦原が誰かに託そうとしているデルタギアにも問題がある。
装着者の神経を刺激し、凶暴化を引き起こすデモンズストレートいう特性を持つデルタギアは当に呪われた代物。
あすかもデルタギアに魅入られた事すらも葦原は知る由もない。
今の葦原には情報が足らず、これらの真実には気づいてはいない。
葦原がそれらに気づく時、もしそんな時期が訪れるまで彼が生き永らえていたら、彼はどんな事を想うのだろうか。
それは誰にもわからない。現時点ではそこまでの事は計り知れない。
わかっている事は一つ
ずっと周囲をうろつき、全てを見届けたのにも関わらずに笑おうとも呆れようともせずに葦原に追従する存在があるだけ。
葦原が墓を作っている最中に、彼のデイバックの奥底に潜り込んだ“彼”はじっと静かにしていた。
緑と赤茶色の体色を持つ飛蝗のような体躯を持つもの――ホッパーゼクターは興味を示している。
この男がこれからどんな運命を、地獄を歩むのか。
そんな事を彼はカブトエクステンダーの車体が揺れる振動に身を任せながら、深く考えていた。
【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【1日目 昼】
【現在地:D-7 小屋周辺】
[時間軸]:第27話 死亡後
[状態]: 全身負傷(中)、疲労(大)、30~60分間変身不可(ギルス)
腕部に小程度の裂傷、変身の後遺症、仇を討てなかった自分への苛立ち
[装備]:フルフェイスのヘルメット、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
[道具]:支給品一式(二人分)、ホッパーゼクターのベルト、デルタギア
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには加担しない。脱出方法を探る。
1:立花を殺した白い怪物(風のエル)、あすかを殺した白いライダー(ファム)未確認生命体4号(クウガ)に怒り。必ず探し出して倒す。
2:立花藤兵衛の最後の言葉どおり、風見の面倒を見る?
3:自分に再び与えられた命で、救える者を救う。戦おうとする参加者には容赦しない。
4:黒いライダー(カイザ)を探してみる。
6:五代雄介の話を聞き、異なる時間軸から連れて来られた可能性を知る。
白い怪物(ダグバ、ジョーカー)を倒す。
7:本郷(R)に対し、すこしすまなく思っている。
8:デルタギアを誰か、はっきりとこの殺し合いに反抗する者に託す。
※五代の話を聞き、時間軸のずれを知りました(あくまで五代の仮説としての認識です)。
※剣崎一真の死、ダグバの存在、ジョーカーの存在などの情報を五代から得ました。
※ホッパーゼクターが涼を認めました。(資格者にはすぐにでも成り得ます)また、デイバックの中に隠れています
※カブトエクステンダーはキャストオフできないため武装のほとんどを使えません。
今の所、『カブトの資格者』のみがキャストオフできます。
※五代(クウガ)は殺し合いに乗ったと勘違いしています。
※勿論、デルタギア装着によるデモンズストレートによる凶暴化などは知りません。(デルタギアの使い方は知っています)
※何処へ向かうかは次の方にお任せします
|084:[[夢路]]|投下順||
|084:[[夢路]]|時系列順||
|072:[[感情]]|[[葦原涼]]||
*真実を追い求めて
一軒の小屋の近くに立ちすくむ男が一人。
金の短髪を生やした男――葦原涼は肌を撫でるように吹く風に身を任せている。
理由はゆらゆらと吹き荒れる風が心地よいから――と、いうわけではない。
意識したわけでもない。只、結果的に身を任せる事になったにしか過ぎない。
自分が今、何処に立っているのかすらも特に気にせずに葦原はある事を考えていたから。
そう。視線の先に存在する一際大きく隆起した土の山の奥底に沈むもの。
それが少なくとも現時点まで葦原の意識を支配していた。
右腕に握るものは大きなシャベル。
先刻、ログハウスから見つけ出したものであり、柄に溶接されたスプーン状の刃には泥や砂がこびりついている。
そして、葦原が今まで何をしていたのかをシャベルは無言で物語っていた。
「すまない……あすか……」
洩れた言葉は謝罪の言葉。
浮かべた顔には一片の笑みすらあるはずもない。
悔しさと申し訳なさで一杯になった感情を内へ抑えきれずに、外界へ流れていこうとするのを寸前で我慢するように葦原の表情には確かな震えがある。
葦原がシャベルを振るって、簡素ながらも作り上げた仮初の墓に眠る一つの骸。
緑川あすかの死に対し、葦原は後悔の念を垂れ流す事しか出来なかった。
出会って数時間しか経っていない。
それほど仲が良かったわけでもなく、男女の関係などある筈もない。
だが、いつしか下の名前を呼ばれていた事は今となっては不思議な事であり、心地良かった。
惹かれあった――というよりも互いに必要としていたのだろうか。
当然あすかの全てを葦原は知っているわけではなく、彼女が自分に対してどんな想いを抱いていたかは計り知れない。
力を――常識を超えたギルスの力だけをあすかは当てにしていた可能性もある。
あの時、変身の後遺症でいつもの苦痛が襲った時に優しく介抱してくれた事も。
全ては自分の力を利用するために――そこまで考えてみるが、やがて葦原は静かに否定する。
そんな事はない。
その証拠にあすかは眠ってしまった自分を庇うように闘っていてくれたのだから。
慣れないだろうに、自分と同じように異形の者に成り――変身を行い、二人の襲撃者と闘っていた。
女性的な身体つきで、白鳥のような羽を生やした白い方はよくわからない。
只、既に闘う意思がなかったあすかを卑怯にも上空から狙撃した。
その事実だけはわかっており、葦原には充分過ぎる。
白い方に――葦原は知る由も無いが仮面ライダーファムに変身した城光に――どう対応するか。
いうまでもなく、あすかの仇を取るために次に出会ったときには必ず倒すという事。
その決定にはなんら躊躇う事はないが、葦原にはしこりのように引っかかった事があった。
「四号……お前は、お前は人間のために闘ったんじゃなかったのか……」
一人は何度か躯体の色を、得物を換えて葦原やあすか、そして彼を助けるように現れた黒の乱入者と闘った男。
未確認生命体四号と呼ばれ、クウガとも名乗っていた男――その名は五代雄介。
数年前、未確認生命体と呼ばれる集団から日本を守った一人の戦士。
その筈だったのに、どういうわけか五代はあすかと闘っていた。
わからない。信じられない。
見たところ人が良さそうな感じだった五代がどうして……以前、自分をも救ってくれたというのに。
自分の見間違えではないかと思ったが、直ぐにそれは間違いである事に葦原は気づく。
新聞やニュースで見た事もあり、助けられた時にもその姿を見ており、見間違いという事もないだろう。
ならば何故、五代は仲間と組んであすかと闘っていたのか。
数時間前、本郷猛に直ぐにでも止めをさそうとしたように、あすかの行動にも少し突発的な傾向が見られていて、それが仇となって五代達とトラブルを生んだのか。
確かにその可能性もあるが、流石に闘い沙汰になる事はないだろう。
あすかが恨みを抱いているのはあくまでも本郷只一人。
他の人物と接触する時は先ず話を持ちかける筈。
だったらどうしてあんな事に、平和のために闘ったであろう五代とあすかが――と、そこまで考えたところで、葦原の表情が一段と曇った。
一向に解けようとしなかった疑問の氷山が唐突に溶け始め、葦原に一つの考えを抱かせる。
信じたくない、だが受け入れてしまえばそれほど荒唐無稽ともいえない考えが葦原の意識を支配し始めた。
「まさか……あいつは最初から人間のためじゃなく、只、闘うのが好きで……未確認生命体を全滅させて……結果的に人間のために闘ったように見えただけ……。
俺を助けたのもあのアンノウンと闘いたかったから……そして闘えなくなった俺は見逃された、そういうコトだっていうのか……?」
五代を知る人間がこの場に一人でも居るのならば直ぐにでも否定しただろう。
人間の笑顔を愛し、誰よりも強く戦い抜き、そして誰よりも暴力を嫌った五代。
だが、葦原は生憎五代の事について良く知ってはいない。
所詮、新聞やニュースで知りえた情報しか持っておらず、五代がどういう経緯でクウガとなり、どんな想いで未確認生命体と闘ったのかをも。
だから、五代は手に入れた力を揮いたく、その矛先が未確認生命体へ向かっただけの事。
表向きは人間のために闘っていたように見えた、只の戦闘狂にしか過ぎなかったと葦原は考えた。
完全に騙された事に対し、思わず怒りのあまり両の拳を固く握り締める。
一度話をした事はあるが、あまりにも短い時間であり、五代が言った事を全て鵜呑みにする気は葦原にはない。
既にあすかを襲ったという事実がどうにも五代への不信感を強めていき、彼が言った事、彼から感じた人柄も全てが虚構のようなものに思え始めたから。
皆の笑顔を守る、自分に向けて行ったサムズアップ。
それら一つ一つの言葉や動作が今ではどこか疑心の眼で眺めてしまう。
勿論、五代が本当に人間のために闘っており、何らかの誤解であすかと闘っていたという可能性もある。
しかし、それならば自分が闘いの場に躍り出た時に何か声を掛けても良かったのではないだろうか。
自分が変身していた事に五代が気づいていなかったとしても、自分の声に聞き覚えはあった筈。
確かに戦闘時に平常通りの判断をするのも難しいが、それでも目の前に立つ人間が誰か確認する余裕はあっただろう。
だが、五代はしなかった。
自分の方も訳を聞いておけば良かったとは思うが、それ以上に葦原は五代の行動に不信感を覚える。
仲間に向けた言葉以外、一言も言葉を出す事はなかった五代。
何故何も言わなかったのか。
既にその答えは葦原には出ていた。
「闘えればそれでいい、誰が相手でも構わない……そういうコトか……!」
最早、偶然とは言い難い。
五代を疑う要因があまりにも多すぎたため、少し短絡的な考えに陥っている事に葦原は気づいていない。
無意識に語気が強まり、葦原が抱く怒りの大きさを示す。
出来るものならば信じたい、あの笑顔と言葉を信じてやりたい――だが、葦原は同時にある事も知っている。
それは人間の持つ汚さや言葉や信頼が時にはあまりにも脆く崩れ去る事を。
ある日、とてつもない力を手にすれば、そんな力の存在を認識してしまえば人間は割りと容易に変わってしまうものだ。
以前の自分や自分を取り巻いていた人々を――葦原は今も遠い記憶として覚えている。
ギルスとして覚醒し、何もかも失ってしまったあの時を忘れるはずも無い。
きっと五代も変わってしまった、もしくはこの場に来て変わってしまったのだろう。
ほんの少し五代の事を不憫にも思いながら、葦原は直ぐにその一抹の想いを捨て去った。
五代は既に仲間と共にあすかが死ぬ原因を作った。
ならば自分がやるべき事は一つしかない。
「……行くか」
仮初の墓から踵を返し、葦原はゆっくりとカブトエクステンダーへ向かう。
目的はこの殺し合いの阻止。
また、五代とその仲間に対しあすかの仇を取る事も追加している。
五代への不信感は完全に怒りと移り変わり、それは皮肉にも葦原を突き動かす原動力となっていた。
シャベルは持ち運びに不便なため、その辺に投げ捨てた。
心なしか乱暴に投げ捨ててしまったのは焦りを感じていたのかもしれない。
もう、誰も自分のように悲しみに沈んだ人を出さないためにも――想いを力に換えて、葦原は口を横一文字に固く閉める。
そして携えたものは一人分の荷物に納めなおしたデイバックとスーツケースに入れられたデルタギア。
デルタギア――三本のベルトの一つであり、装着者をデルタと呼ばれる存在に変える変身ツール。
あすかが生前使ったものであり、遺品代わりに一緒に埋葬しようかと思いはしたが踏み止まった。
どんな人間でも簡単に力を与えてくれるデルタギアの存在を葦原は快く思っていない。
こんなものがある限り人が争うのは目に見えており、まさにそれを見越してデルタギアが造られた気がしてならないからだ。
この殺し合いで更に死者を出すために――そう思うと怒りで頭が真っ白になりそうな心地すらする。
自分達を人間と思わず、実験動物のような扱いでこんな所に送り込んだスマートブレインに対する怒りは今も色褪せてはいない。
だが、この場ではきっと力を求めている人も居る。
勿論、自分の欲求や五代のように闘いへの楽しみのために求める奴も居るだろうが、そんな奴にはデルタギアを渡すわけにはいかない。
守りたいものがあるのに、どうしても突き通したい意思があるのに力がないばっかりに悔し涙を流した人間。
どうせ造られてしまったデルタギアを有効に活用するために、葦原はそんな人物にデルタギアを託す決意をした。
自分には既に力がある。受け入れてしまった力があるから。
使い方は生前、あすかが教えてくれたので問題はない。
自分の眼でしっかりと見定め、この殺し合いに対し心から反抗を目指す人間を探す。
葦原にまた一つ、譲れない目的が出来た。
やがてカブトエクステンダーに跨り、エンジンを掛けて葦原は真っ直ぐ前方を見据える。
「たとえ一人でも俺は闘う。俺はお前を、お前達を許しはしない……四号ッ!」
目的地はない。
今は兎に角周囲を走り、五代達を見つけよう。
何処へ行ったかもわからないがそれでも止まっているわけにはいかない。
それからあの黒いライダーを探すのも気に留めて置く。
見ず知らずの自分達を守るために闘い、何も言わずに立ち去った×印の仮面を被った男。
きっとこの殺し合いを憎んでいるため、自分の手助けをしてくれたのだろう。
そうでなければあそこまで闘ってくれる筈もない。
生憎あすかが死んでしまう結果とはなったが、それでも彼の行動には葦原は感謝していた。
デルタギアを上手く扱ってくれるかもしれない――そんな淡い想いを抱くほどに。
やがて決意を乗せた咆哮と同時にカブトエクステンダーが地を走ってゆく。
再び葦原は孤独な放浪を続ける事になった。
きっと笑っているだろう。
否、あまりにも滑稽過ぎて逆に笑えないかもしれない。
葦原が数時間前に体験した出来事の真実を知っている者ならば。
あすかを殺したのは五代達ではなく、二人の男女。
しかも女の方は葦原が保護しようと思っていた風谷真魚であり、彼女が撃った弾丸があすかの命を奪った。
そして男の方は澤田亜希といい、デルタに変身し、葦原に誤解を持たせ、そして何食わぬ顔で戻り、×印の仮面を被った黒いライダー――カイザに変身した。
五代達は只、デルタに変身した澤田に襲われたため、これに応戦しただけの事。
更に葦原が誰かに託そうとしているデルタギアにも問題がある。
装着者の神経を刺激し、凶暴化を引き起こすデモンズストレートいう特性を持つデルタギアは当に呪われた代物。
あすかもデルタギアに魅入られた事すらも葦原は知る由もない。
今の葦原には情報が足らず、これらの真実には気づいてはいない。
葦原がそれらに気づく時、もしそんな時期が訪れるまで彼が生き永らえていたら、彼はどんな事を想うのだろうか。
それは誰にもわからない。現時点ではそこまでの事は計り知れない。
わかっている事は一つ
ずっと周囲をうろつき、全てを見届けたのにも関わらずに笑おうとも呆れようともせずに葦原に追従する存在があるだけ。
葦原が墓を作っている最中に、彼のデイバックの奥底に潜り込んだ“彼”はじっと静かにしていた。
緑と赤茶色の体色を持つ飛蝗のような体躯を持つもの――ホッパーゼクターは興味を示している。
この男がこれからどんな運命を、地獄を歩むのか。
そんな事を彼はカブトエクステンダーの車体が揺れる振動に身を任せながら、深く考えていた。
**状態表
【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【1日目 昼】
【現在地:D-7 小屋周辺】
[時間軸]:第27話 死亡後
[状態]: 全身負傷(中)、疲労(大)、30~60分間変身不可(ギルス)
腕部に小程度の裂傷、変身の後遺症、仇を討てなかった自分への苛立ち
[装備]:フルフェイスのヘルメット、カブトエクステンダー@仮面ライダーカブト
[道具]:支給品一式(二人分)、ホッパーゼクターのベルト、デルタギア
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには加担しない。脱出方法を探る。
1:立花を殺した白い怪物(風のエル)、あすかを殺した白いライダー(ファム)未確認生命体4号(クウガ)に怒り。必ず探し出して倒す。
2:立花藤兵衛の最後の言葉どおり、風見の面倒を見る?
3:自分に再び与えられた命で、救える者を救う。戦おうとする参加者には容赦しない。
4:黒いライダー(カイザ)を探してみる。
6:五代雄介の話を聞き、異なる時間軸から連れて来られた可能性を知る。
白い怪物(ダグバ、ジョーカー)を倒す。
7:本郷(R)に対し、すこしすまなく思っている。
8:デルタギアを誰か、はっきりとこの殺し合いに反抗する者に託す。
※五代の話を聞き、時間軸のずれを知りました(あくまで五代の仮説としての認識です)。
※剣崎一真の死、ダグバの存在、ジョーカーの存在などの情報を五代から得ました。
※ホッパーゼクターが涼を認めました。(資格者にはすぐにでも成り得ます)また、デイバックの中に隠れています
※カブトエクステンダーはキャストオフできないため武装のほとんどを使えません。
今の所、『カブトの資格者』のみがキャストオフできます。
※五代(クウガ)は殺し合いに乗ったと勘違いしています。
※勿論、デルタギア装着によるデモンズストレートによる凶暴化などは知りません。(デルタギアの使い方は知っています)
※何処へ向かうかは次の方にお任せします
|084:[[夢路]]|投下順|086:[[おふろでやりたいほうだい]]|
|084:[[夢路]]|時系列順|086:[[おふろでやりたいほうだい]]|
|072:[[感情]]|[[葦原涼]]|000:後の話|
表示オプション
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