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「肯定/否定――my answer」(2009/08/03 (月) 20:53:11) の最新版変更点
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*肯定/否定――my answer
出入りのため、既に五度跨いだ研究所の敷居。本来ならば回を重ねる度に軽くなっていくべき北條の表情は、これまでに無い深刻さを醸し出していた。
それもそうだろう。彼の横には過去五回の同行者以上の実力と、威圧感を兼ね備えた存在が帯同しているのだから。
ペースアップを促すように、彼の斜め下――すなわち、隣人の足元からはコン、コンと一定感覚で音が鳴る。
自分よりほんの僅か歩行速度で上回る男が、その歩みに合わせて杖をついているからだろうと、張り詰めた聴覚で判断する。
乃木にそういった意図が無いと理解していながらも、北條は少しだけ早く歩いてしまう。
少しでも、一つでも――たかが歩行ペースだとしても、何かしらの形で主導権を握りたい一心の現れだった。
工場での探索。ミスを侵し、目的達成に失敗すれば、次の瞬間には首が胴体から離れることが必至。逆に成功しても、度合い次第で北條は用済みと化してしまう。分の悪い賭けだ。
その悪い印象を自身から拭い去ろうと必死だからこそ、北條は実質的には歩行ペースを乃木に掌握されていると気付かないでいる。
その様子に乃木は一考し、冷めきった目を北條へ向け呟く。
「……それにしても」
「?」
「思った以上に、参加者の諸君に出くわさんな」
「……それだけ、他の方々が南に集中しているのでしょう。邪魔が入らず好都合ですよ」
それは本心の言葉ととれるだろう。実際問題、戦闘を繰り返していれば他の作業を行う余地は皆無。
ラットを見つけることができたのも、ファイルを入手できたのも、辛うじて述べられる程度の所見を捻り出せたのも、こうして更なる進展を求める段階へ移行しているのも――
――全ては、彼らの行動を妨げる存在が四半日現れなかったことに起因しているのだ。
「南に参加者が集まっているということは、お使いに出した君の仲間が他者と接触する可能性が高いということでもある。かえって不都合じゃないのか」
余裕を持った口調から、あくまでも「自分にとっては」都合が悪い訳ではないと示唆を与えてくる乃木に対し、北條の心内で嫌悪感が募る。
だがそれも否定できない現実だ。乃木の手に掛かれば、首輪の入手など苦にもならないだろう。
青い薔薇に関しては、正直なところ入手する気があるのかすら怪しいと言えた。
明確に「参加者から奪う」という入手法が明らかにされている首輪と違い、青い薔薇に関して御使いに出た四人は何も知らされていないのだ。
そんな状況で彼らが入手できるものならば、乃木自身の手でも入手できるだろうし、代役を立てても可能だ。
彼らが死んでも、乃木に大きな損失は無いのだ。
「確かに危険人物と遭遇する可能性もありますが、我々のような行動をとっている集団と合流することも考えられます。……私は、事態の好転に賭けますよ」
「ならば、この話はここで一度打ちとめにしておこう。一時間と経たずに次の放送が行われる。それで相手の出方を見るとしよう」
男達は駅へと向かう足を止めない。そこに纏わり絡みつく二つの思惑を知るのは、当事者たる彼らのみだ。
◆
「…………………スゥー…………ッハァーー……よいしょ、っと」
深く息を吸い込み、目一杯吐き出す。幾度か繰り返した後に、ダンッ、といった一際大きな足音と共に体を起こす。
曲がっていた膝が、ピンと一直線に伸びると、加賀美の視界がグラつきを見せた。
これも心身共に疲労が強まっている証か。片膝が再び折れ曲がろうとするのを堪えて、視点を安定させる。
未だ上下に振動して酸素を求める両肩は落ち着きを取り戻さないが、気にしている時間は残されていない。
右腕でデイパックを持つと、反対の袖で額を支配する汗を拭い去る。左腕が再び垂れ下がると、加賀美は列車の四両目を見やる。
今彼が立っているのは三両目だから、丁度進行方向の反対だ。戦闘があったこの車両と違い、ごく普通の景色が広がって――いるのだが、一つ違和感があった。
「……なんで、開いてるんだ……?」
一見平穏な四両目の中で、一箇所だけ窓が開いているのだ。 ――更に、その下方には放置されたデイパック。
それが意味することを頭で理解するよりも、早く。加賀美は両の足へと移動を促していた。
小走りで四両目へと入り込む。バイクに乗ったグロンギ――バダーが開けた三両目の大穴から入り込む強風は、列車が減速する最中も加賀美の追い風と化していた。
開いた窓、放置された荷物――……この列車を利用した誰かが、窓を開けて抜け出したと考えるのが普通だろう。
それも、デイパックを放置しなければならない程の状況であったことを想像するのも容易い。
加賀美の脳内を駆け巡るのは、それが「どのタイミングで起こったことなのか」という疑問。
いくら彼が先刻まで風間――と勘違いした風見志郎のことに集中していたとはいえ、この状況下で隣の車両に気を配らないなどということはありえない。
おそらくは自分達が乗る前なのだろうと予想しながら、空いている左手で置き去りのデイパックを拾い上げる。
「少し重いな……」
疲弊した加賀美の体にとっては、多少の重量差も死活問題である。
多少だが自分がこれまで持っていたデイパックより重いらしい。
利き腕である右腕と荷物を入れ替え、そのまま四両目最後尾のドアへ向けて歩く。
「早く風間を追っかけないとな……」
列車が止まった反動で、一瞬だがハッキリと分かる範囲で加賀美の体が大きく揺れ動いた。
身をもって己の疲弊振りに気付いたのか、彼は開いたドアからホームで出て数刻と跨がず、その場へ座り込む。
(こういう時になぁ……)
不意に孤独へと襲われると、どうしても天道のことを思いださずにはいられない加賀美だ。
自力では打ち倒せない強敵達、自身の命が掛かった局面で曝け出してしまう己の甘さ、逆立ちしても解き放つ手段が読めない首輪。
言葉や態度を用いての説得でも止められなかった仲間の決意に、再開という願いを叶えてやることも無く儚く散らせてしまった新たな友の命。
ここまでの半日を思い起こし、加賀美は思う。これらのメモリーに立ち会っていたのが自分ではなく、天道であったなら。
この中の幾つかは……いや、もしかしたら全てを解決していたかも知れない。
そして、今後似た場面に出くわした時、或いは継続されている問題と再び向き合わなくてはならなくなった時――
(――俺は、今度こそ俺自身の力でそれを解決できるのか?)
◆
時間通りにホームへと滑り込んでくるパンタグラフの無い列車を見て、北條が僅かに表情を固くする。
一両目に乗るため、彼らはホームの端側に立っていたのだ。
下手をすればこのタイミングで戦闘が発生する状況であり、万に一つの油断も防がなければならない。
停車と同時に両サイドへとドアがスライドすると、乃木が堂々たる態度でもって乗り込みにかかる。
慌てて北條もそれに合わせるように列車内へと入り込み、手近な椅子へと腰を掛けた。
奇しくも、この二人が入れ違うように列車の最後尾から下車した参加者に気付くことはなかったのだ。
動き出して間もなく、他の参加者が乗り合わせていないことを確認すると、北條は深く腰掛ける。
向かい側で腕を組む乃木との会話は、三両目に大きく開いた風穴の件のみで、それ以上両者が何かを話そうとはしなかった。
北條は「散歩」の具体的な目的を自分からは話さず、乃木もまた特別何かを問いただそうとはせず。
今は二人、微振動を繰り返す揺り篭の中で、各々の思考を行うのみだ。
最中、北條が一つの決心をつけた。そこから派生する今後の指針を組み立て、話を切り出すタイミングを計る。
工場前の駅で下車すると、ホームに据え付けられたベンチの前でデイパックを降ろし、至って真面目に、既にベンチへ座り込んでいた乃木へ話しかける。
「ところで、一つ希望したいことがあるのですが……」
「言ってみたまえ。……もっとも、内容次第だがな」
体中を駆け巡る寒気が偽りの存在でないと理解した上で、その感覚に身を委ねることも振り払うこともせず、北條は息を飲む。
内容次第では却下されるどころか、その場で紅く染まるのは北條とて承知の上だ。が、迷うことなく両唇を紐解く。
必ず提案は通る――確信を胸に抱いて、一字一句を正確に聞き取らせるように丁寧な発声を行う。
「しばらくの間、この場に留まりませんか?」
「ほう……」
乃木の射抜くような視線には、明らかに失望の一種が含まれていた。突拍子もない提案には流石に呆れたのだろうか――いや、違う。
態度とは裏腹に、その心理には要求への興味が隠蔽されている。一目見ただけでは真意の見えない笑みは、前回の嘲笑と一括りにできる類のものだと認め、北條は迷わず続ける。
前回同様間髪入れずに言葉を紡ぎ、それでいて発言に絶対的な自信を持っているということも態度でアピールするのだ。
「目の前の首輪に餌付けされるあまり、その奥で控えている問題に目を向けていなかったものですから」
ポケットから支給品の携帯を取り出し、待受画面を乃木へと向ける。
「貴方が先程言った通り、後三十分強で、調度良い機会が訪れます」
発言と合わせて、乃木は北條が正午に行われる放送を待っていることを理解した。
そして、その発端となる発言は自分が行っていたことも。
奥に潜む大事が主催だという思考が併せて沸き上がり、しばしの間顎を引く。
首輪を解除したとして、どのように在るべき処へと帰るのか。
ZECTのライダーシステムとは明らかに異なる変身機構を備えたカードデッキ、それにより使役される生命体。
ワームとは別の異形へ姿を変える、人間の姿をした参加者達。当然一つの世界、時間から集った訳ではないだろう。
(参加者の諸君を集めた「力」ならば、遊戯の最中でも脱出が可能か……?)
自問するが、自答は行わない。「力」の影も形も分からない状況で考えても無駄だからだ。
ZECTの切り札――忌ま忌ましいカブトの所有物であるハイパー・ゼクター――ならば。
……とも乃木は考えたが、島に来てゼクターやその資格者達との邂逅が無い状況で過度の期待を寄せることもできない。
(と、なれば……)
引いていた顎を元の角度に戻し――…………
まるで仮面でも被ったかの様に表情を固定しつつも、『早く答えろ』と言わんばかりに催促の意志を臭わす北條の瞳に焦点を合わせ、返事を返す。
「好きにしたまえ。俺としても、連中のスタンスを見極めるのは無駄では無いというのは前に話した通り……それにだ」
「……?」
「俺はこの散歩とやらの詳細を聞かされていないのだよ。……水源を辿るのに大事を諮る必要があるというのなら、止める理由は無い」
北條は乃木の発言を、今回の探索において自身へと全権を委譲するものとして受け止める。無論、責任も全て彼が負わされることも意味しているが。
今後はいかに時間を引き延ばし、それでいて有力な首輪解除の手掛かりを得るか、だろう。
携帯を再び展開、視線を一瞬だけ送るや否や、北條は両目を閉じ、ベンチの固い背もたれに身体を預けた。
「では放送まで、休ませてもらいますよ」
「この状況で寝ようとするとは……危機感があまり感じられんが」
うっすらと双眼を開き、緊張感を保持したまま北條は呟く。
「少なくとも……一人でいるよりは、貴方程の実力者に同行している方が私も開き直って振る舞えますからね」
「ククク……過度な信頼を寄せるのは止すべきだぞ?」
「ここまで何も聞かずに足を運んで来ておきながら、私をこの場で殺す程、貴方は愚かではないでしょう」
一秒でも時間が惜しい、という気を発する北條が沈黙したのを確認すると、乃木は地図と携帯を両手に、改めて現状の禁止エリアを確認する。
現時点で与えられている情報より、何か得られることはあるのか。
脱出への最短ルートは、当初の考え通り勝者となることか、或いは中途での離脱か――
乃木もまた、目の前の人間が探っている水源への道筋の深さ、複雑さに薄々気付き始めていた。
◆
『は~い、みなさんこんにちは……』
両肩の荷物が音を立て土着する。振動音に導かれるかの様に携帯電話を開いた加賀美は、そこから零れ出る軽はずんだ女の声にありありと不快感を示した。
自分達は殺し合いを継続させられている――加賀美にとって、己を取り巻き続ける現実と、未だその渦に流され続けている事実を突き付けられた結果となる。
「この野郎……」
放送の主――スマート・レディの声があまりにもカンに障るものだから、加賀美は思わず携帯電話を身近で直立した樹木へ投げ付けようとする。
それはキャッチャーのミットへと速球を投げ付けるピッチャーのフォームを彷彿とさせたが、彼の掌を球体ならぬ長方形が離れることは無かった。
『では、前回から今回の放送までに亡くなられた方のお名前を発表します……』
閉じられた状態でも引き続き流れていた放送の一要素、『死者の発表』。今回は何人の名がコールされるのか、そしてその中に知り合いは含まれているのか。
――前回の放送で最も信頼し、尊敬していた友の名を告げられた。そして今から、自分が守れなかった新たな同志の名を呼ばれることも知っている。
そんな加賀美が発表を無視できる筈も無い。案の定再び携帯は丁寧に開かれ、同時に女の口から、ハッキリ軽やかに死者達の名が紡がれた。
――二番目に、彼の知る名は呼ばれた。出会って四半日と僅かの縁なのに、その存在の喪失を認識するのは今が初めてでは無いのに、辛苦が彼に重くのしかかる。
だが、加賀美に送られた結果はそれだけで無い。いくつかの希望もまた、彼の背に身を宿す。
影山、風間という二名の仲間が健在だということ。
デネブが拡声器を使ってまで合流しようとした、彼にとってかけがえの無い存在である桜井侑斗、そして同様に彼の仲間であるハナもまた生存している――――。
これで何度目だったのろうか。思い出す度、確認する度に輩出される悲壮は、もう脱ぎ捨て無ければならない。
希望を宿し、次の段階へ進むべき時――進化を求められた瞬間は、今なのだから。
もし神がいるとするならば、それは彼の決意にどのような未来を見せようというのか――導かれるように研究所へ向かう加賀美に、知る由などありはしなかった。
◆
乃木は改めて北條へと視線を向ける。ほんの数分前まで完全に休息へ没頭していたかに見えた目の前の人間。
いつの間にか設定していた携帯電話のアラームで即座に目を開いてから、彼はその面影を微塵も残していない。
何かを呟き、地図に印をつけながら冷静に放送へと耳を傾ける姿は、「北條が弱い人間である」という前提を踏まえた上でなら、関心に値するものだ。
脱落した弱者達の名を聞きながら、駅周りに気配が無いか伺う乃木。死者の発表など、彼には全くもって意味の無いもの。
戦闘中に一度や二度聞いたかどうかというレベルの、ライダー資格者の断片的な呼名――
そんなものが仮に呼ばれたところで、彼に反応を求めるのは酷といえるのかも知れない。
乃木自身も、名を知る知らぬに関わらず自分から生死確認を望みなどしなかった。
彼にとって資格者達は、「邪魔をするなら容赦しない」程度の優先順位しか持たないのだから。
『…………何をしたって最後に生きて帰れるのは、どうせ一人だけなんだから。きゃは。』
放送が終わり、刹那の沈黙。どうしようもなく女の声、振る舞い、姿が二人の癇に障ったが、苛立ちを見せるのも勿体無いだろう。
「…………仲良くしていると、後からとっても辛くなるそうだぞ?」
「なら、今ここで私を殺しますか」
「遠慮しよう。空腹時にとる軽食など、余計腹を虚しくさせるだけだからな。
……放送を踏まえた上での君の意見を聞く方が、幾分かは価値がある」
言い終えたと同時に立ち上がり小規模かつ無人の駅員室へと、黒装束を翻し乃木は歩む。
最初からそちらへ行くつもりがあるのなら、何故ベンチに腰掛けたのかと北條は心底問い詰めたい衝動に駆られる。
一瞬と経たず後の祭だと気付くや、デイパックと共に移動する。
「…………とりあえず、手に入った情報を整理しましょう」
「今回呼ばれた死者は七人。「彼ら」は……無事だったのかね?」
「少なくとも、私が知る「彼ら」の名前は呼ばれませんでしたが」
「なら、良い……しかし、もう少し活発化するかと思ったがな」
「それには同感ですね。我々の周りではこの六時間、ほとんど戦闘行為はありませんでしたから」
二人が研究所に滞在していた期間、彼らが認知している交戦は二度。
一つは乃木が北條の同行者――和泉伊織、長田結花、城光に五代雄介を加えた四名に研究所内で勝利した戦い。
結果的に北條の介入によって、「脱落者」は出ていない。
もう一つはそれから数刻後、長田結花がトランシーバーで助けを求めたことから発覚した研究所外での戦闘。
これも一つ目と同様、死者が出ていないことは後の交信で二人の知るところとなっていた。
その後四名は南下しており、研究所周りは至って平穏だった。
「禁止エリアで都市部から別方面への列車移動を早々に潰し、南北の中央を横切るE、Fライン上から二つ封鎖……
西が丘陵だということを考慮すれば、必然的に連中が集まるのは都市部か東の駅周りか……」
乃木が北條の広げた地図上の研究所に、人差し指を突き立てる。
そこを始点とした爪先は、朱色で記された「道路」をなぞって行く。
午前九時に禁止エリアで指定されたE-5、そこから遡って二時間前の七時に指定されたF-7の間を通る様に進むと、ショッピングセンターに行き着く。
指は地図から離れ、その軌道を追っていた北條の視線は乃木の顔へと舞い戻る。
「……研究所――ショッピングセンター間に絞られそうなものだがな」
「…………実際問題、多くは挙げられたポイントに滞在しているか、そこを移動目標にしている筈です。
ただ、人が集まっても、殺しあうとは限りませんが」
「わざわざ参加者間で合流を行わせ、集団行動できるように仕組んでいるとでも?」
「それは判断しかねます。……が、単純に集団が結成されたり、首輪解除の手掛かりを探される
ということだけでは、彼らにとっては毒と成り得ない」
自分達が研究所で青いバラと鼠の灰化実験に関連性を見出しても、スマート・ブレインという会社が危険な組織だと判断しても。
こちら側から参加者へ放送を行うことを乃木が画策しようと、主催者から北條は一切の焦りや不安という要素を感じとれない。
ましてや逆に放送で、既に死人の首輪を外した参加者が存在していることを示唆してくる主催。
「首輪を外されて構わない」のか、「首輪を外させない自信がある」のか……真意へと切り込むには、駒が圧倒的に足りないと北條は思考する。
「これで一応は、ハッキリした訳だな」
「ええ、我々が一線を越えるまで、彼らは現状を崩さない……まあ当然と言えば当然ですが」
実のところ、まだ放送に関して気になる要素は存在している。
「殺し合いを促進させることが目的」としか表向きには思えない禁止エリアが、B-9などという僻地に指定される。
南から参加者が列車で北へ向かうのは阻止しておきながら、北で自分達が研究所を起点に行う列車移動には一切介入してこない。
それを北條が言わないのは、乃木の変調というものを察知してしまったからだろう。
「では行こうか、北條君! ……奴らは我々を軽視している――結構なことだ。次の放送の時には、必ず進展というものを見せてやろうじゃないか」
その言動は、自分達を監視しているであろう主催者へのものか、主催者の掌で踊らされることで傷つけられたプライドへの嘲笑か――いや、両方だろう。
故に、これ以上の問題定義は火に油を注ぐだけだと北條は判断。
何れにせよ、首輪の有無に関わらずゲームの優勝者に成り得る実力を持つ男が、首輪解除を最優先課題としているのは事実なのだから。
主催が動かないのなら、首輪の解除で動かす方向へ誘導するしかない。それが誘導させられているだけだとしても、死へのタイム・リミットを引き伸ばし続けている自分にはそれしかない。
相手の掌で踊らされているということは、同時に相手と既に触れ合っていることも意味する。
北條は誰よりも早く次の段階へ進もうとする。それも、可能な限り時間稼ぎを続けた上でだ。
不意に、一組の男女が北條の脳裏を過ぎる。思わずそんな自分に彼は苦笑しながら。
(私はここへ来て、貴方より優れていることを証明すると誓ったのですからね……)
(もはや早期の脱出だけでは満足しない。スマートブレイン――……この俺を嘲笑ったこと、この手で後悔させてやろう)
プライドを踏み躙った主催者への怒り。それが過去の方針を僅かながら否定するものだろうと、乃木は迷わない。
二人の男が心情を交錯させた駅は、再び静寂に包まれようとしていた――
**状態表
【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【1日目 日中】
【現在地:B-5 工場付近の駅】
[時間軸]:43話・サソードに勝利後(カッシスワーム・グラディウス)
[状態]:健康。
[装備]:カードデッキ(王蛇)
[道具]: 携帯電話、その他基本支給品×3(乃木、イブキ、結花)、ゼクトマイザー、トランシーバーC
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの早期決着及びスマートブレイン打倒
1:首輪解除のため、北條透と仲間の諸君をもう少し泳がせる。
2:主催者側に対して嫌悪感。
3:ZECTの諸君に関しては、接触した次第早めに始末をつける。
【備考】
※ライア・ガイのデッキが健在の為、王蛇のデッキには未契約のカードが2枚存在します。
※ユナイトベントは本編3体の場合しか発動しません。
※変身にかけられた時間制限をほぼ正確に把握しました。
※ZECTライダー資格者に関しての認識は「(TV版)ライダーの外見・名称」「(TV版)資格者の外見」を知っている程度です。
【北條透@仮面ライダーアギト】
【1日目 日中】
【現在地:B-5 工場付近の駅】
[時間軸]:最終話
[状態]:精神的に疲労。 現状に関する若干の恐怖。 主催に対する多大な不安。
[装備]:なし。
[道具]:携帯電話、地図、マグライト、研究所のファイル
【思考・状況】
基本行動方針:無事に帰還し、スマートブレインを摘発する。
1:スマートブレインの危険性を懸念。
2:乃木をうまくだまくらかし、救出を待つ。
3:工場に向かって実験道具の手がかりを探す。
4:長田結花を保護すべき民間人と認識。
5:友好的な参加者と合流、敵対的な参加者を警戒。
【備考】
※首輪の外見についてはほぼ正確に把握しました。ただし、肌に触れている部分を除きます。
※研究所の設備は基礎的な科学知識さえあれば扱える程度にマニュアル化されているようです。
ただし、あくまで分析結果が自動で出るだけで所見はついてきません。
※ファイルにまとめられた実験資料には、ネズミの灰化実験に
青いバラとケージに取り付けられた装置が関わっているという結論のみが明記されていました。
※ファイルの内容の真偽は未確認ですが、北條はとりあえず真実であるという前提で行動しています。
◆
「ここが研究所……だよな」
加賀美が研究所の室内に到達したのは、放送を終えて更に数十分後のことだった。
敷地内についた時点で、再び緊張の糸が切れ、疲労がどっと押し寄せた為だ。
天気が良かったものだから、外での休息にも嫌悪感を覚えず、今に至る。
ようやく対面したロビーで二つのデイパックを降ろし、身近にあった椅子へ腰掛ける。
一面を見渡し、二度の深呼吸。ガタックゼクターが辺りを旋回したところで、ようやく加賀美が疑問を持つ。
「誰も……いないのか?」
そう呟くが、反応は無い。北にある数少ない施設だというのに、人気が感じられない事実に加賀美は驚く。
「風間はここにくるつもりじゃなかったってことになるよな……あそこで降りない方が良かったのか……」
目的地への列車移動という加賀美の提案を受けた風見志郎は、北行きへの列車に乗り込んだ。
そして路線上に存在する地図上の施設は、研究所、工場、大学の三箇所だ。
(風間に工場は……似合わないよなぁ。そうなると大学かな)
何れにせよ、今の疲労具合と荷物で軽々しく出向ける場所でもない。
しばらくはまた足止めか、などとガタックゼクターを眺めた瞬間、ゼクターが回転を止め臨戦態勢へと入った。
直後にはゼクター特有の独特な電子音。地を跳ねる音。右腕を掲げ、対抗する様に自身の相棒をキャッチするが――
「……一度変身能力を行使すれば、二時間の間は制限が掛かる。ゼクターとてそれに変わりは無い」
同様に地面を飛び上がる飛蝗――ホッパーゼクターを掴んだ風見志郎が、抑え目の声で宣告する。
加賀美が途端に笑顔になり、ゼクターを持ったままで椅子から立ち上がる。
「風間……また逢えて良かったよ、本当に」
「身を案じられるのは、私で無くて貴方の方だ。……あの男は?」
あの男――バイクで列車に突入し、バイクで列車を離脱した男のことを聞かれていると分かって、加賀美は少し俯いた表情になる。
「逃げられた……あのバイクごとな」
「情けない……しかし、徒歩だと考えても駅から時間が掛かりすぎているように思えるが……」
「お前な、次から次へと……疲れたり考え事したりで動けなかっただけだっての」
「……そうか」
小さく、一言、風見は呟いて。
片手でゼクトバックルの前面を開き、もう片方に握りしめているホッパーゼクターを、何時でも受け入れられる態勢に。
再会を喜んでいた加賀美の表情が、唖然としたものへ瞬時に切り替わる。
「お前……」
「私に今ここで倒されるか……」
「!?」
一度風見は言葉を紡ぐことを止め、一層強く、ギリギリと音を鳴らしてホッパーゼクターを握り直し。
再び抑揚の無い声で、改めて冒頭から尋ね出した。
「私に今ここで倒されるか、私に今後協力すると誓うか――どちらか選ばせてやる」
加賀美が思わず後ずさりながら、未だ手中に存在していたガタックゼクターをベルトに通す。
無駄だと解ると即座にガタックゼクターを開放する加賀美。その瞳は真っ直ぐに風見を見据えていた。
「お前までそんなことを言うのか……」
「…………………………」
双方の視線は複雑に絡み付き、解けることを知らない。
「……言った筈だぜ。俺はお前を止めるってな」
「では……」
風見は加賀美が戦う覚悟を決めたと返答から解釈する。
戦力として計算していた面も否定できなかったとは言え、若干寂しさを覚えた自分を風見はすぐに振り払う。
「ああ。俺はお前に協力する」
風見が呆気にとられた顔で加賀美を見返した。
ハッタリだろうかと疑いを見せるが、本気で言っているらしい。
「……どういった風の吹きまわしで?」
ゼクターを手放した風見は、ハリケーンへ再び両手を戻す。そのまま返答を待たず、加賀美の横を通りながらそれを押していき、出入り口付近で停車させた。
「どうしたもこうしたも、さっき言ったばかりだ。俺はお前を止める。それが……俺に出来る協力だ!」
「風間」にこれ以上の人殺しをさせたくなくない。
天道の意思を継ぐためにも、デネブの願い通り桜井侑斗と合流する為にも、死ぬ訳にはいかない。
選択肢など元から一つしか存在していなかったのだ。
「……まあ、貴方との決着は直につけることになる。貴方が協力するというならば、それまではそうしてもらおうか」
風見は言い終えて、手近なソファに腰を落とす。それに合わせて加賀美もまた、もとの椅子に腰掛けた。
無理にここで襲うつもりは無い――ここまで加賀美を生かしてきた自分の過去を、風見は肯定したかったのかも知れない。
それに、これで一応は戦力が増えたことになるのだ。自分同様殺し合いに乗っている敵が現れた際には、連携して闘うことも不可能では無いと風見は判断する。
主催に、殺し合いに抗う為に研究所を訪れる参加者と邂逅することになれば、加賀美が交戦を妨げることも想定できる。
しかし、それらの者達に風見が自らの手で死を与える必要は無いのだ。
そう――彼には「切り札」がある。
ジャンクション駅で既に威力を確認し終えているFOX-7。風見はそれを研究室に仕掛けたのだ。
風見はゆっくりと支給品の携帯を開く。内臓アプリでコードを打ち込みさえすれば、好きなタイミングで研究室に甚大なダメージを与えることが可能だ。
例えば――首輪の解析の為に技術者を始めとする参加者が研究室に入った時。
起爆装置を作動させ、容易く仕留めることができるだろう。
そんな算段を描きながら、彼は再び携帯を閉じた。本体を見ていると、思わず先程行われていた放送を思い出す。
ショッカーの裏切り者、本郷猛の死。そしてまたもや名前を呼ばれなかった葦原涼。
少しばかり物思いにふけりながら、風見は待望する。次なる参加者の、来訪を。
【加賀美新@仮面ライダーカブト】
【1日目 日中】
【現在地:B-7 研究所ロビー】
[時間軸]:34話終了後辺り
[状態]:疲労と痛みはある程度回復。脇腹に刺し傷、頭部に打撲、肩に裂傷、背中に複数の打撲、右足にダメージ
強い怒りと悲しみ。新たな決意。ガタックに約三十分変身不能
[装備]:ガタックゼクター、ライダーベルト(ガタック)
[道具]:基本支給品一式 ラウズカード(ダイヤQ、クラブ6、ハート6)不明支給品(確認済み)2個。
放置されていたデイパック(基本支給品×2、ラウズアブゾーバー、V3ホッパー、首輪(一文字))
[思考・状況]
基本行動方針:桜井侑斗を始めとする協力者と合流する。
1:風間(風見)に同行する。風間(風見)と危険人物以外との戦闘は阻止する。
2:危険人物である澤田と真魚、バダー(名前は知りません)を倒す。
3:風間(風見)といずれは戦うことへの迷い。出来れば戦いたくない。
[備考]
※デネブが森林内で勝手に集めた食材がデイパックに入っています。新鮮です。
※首輪の制限について知りました。
※友好的であろう人物と要注意人物について、以下の見解と対策を立てています
味方:桜井侑斗(優先的に合流)
友好的:風間大介、影山瞬、モモタロス、ハナ(可能な限り速やかに合流)
要注意:牙王、澤田、真魚、バダー(警戒)
※風間大介(実際には風見志郎)が戦いに乗っていることを知りました。
※放置されていたデイパックの中身は確認していません。
【風見志郎@仮面ライダーTHE NEXT】
【1日目 早朝】
【現在地:B-7 研究所ロビー】
【時間軸:】THE NEXT中盤・CHIHARU失踪の真実を知った直後
【状態】: 疲労回復、全身打撲、中。両腕、腹部にダメージ中。
【装備】:ハリケーン 、ホッパーゼクター+ゼクトバックルB、デンガッシャー
【道具】:基本支給品×2セット、ピンクの腕時計、ラウズカード(ハートJ、クラブJ)、FOX-7+起爆装置(残り3)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、優勝してちはるに普通の生を送らせる。
1:研究室に設置したFOX-7を、最大の被害を与えることのできるタイミングで利用。
2:ショッカーに対する忠誠心への揺らぎ。
3:葦原涼が死んでいなかったことに驚きと僅かな安堵。
4:いずれあの男(加賀美)と決着を付ける。
【備考】
※モモタロスの死を受け止め、何か複雑な心境です。
※ホッパーゼクターを扱えます。
※FOX-7は基本的に、起爆装置を使った時にのみ爆発します。爆発の規模は使った量に比例します。
起爆装置は全携帯が内蔵している専用アプリに起爆装置のコードを打ち込んで操作するもの。
スイッチ式と時限式の両方の使い方ができます。
※加賀美のデイパックが二つになっていることにまだ気付いていません。
※研究所の研究室に、FOX-7が一つ仕掛けられています。
|089:[[それぞれの思考]]|投下順|000:[[後の作品]]|
|089:[[それぞれの思考]]|時系列順|000:[[後の作品]]|
|069:[[ステッピング・ストーン]]|[[北條透]]|106:[[龍哭(前編)]]|
|069:[[ステッピング・ストーン]]|[[乃木怜治]]|106:[[龍哭(前編)]]|
|076:[[キックの鬼]]|[[加賀美新]]|000:[[後の作品]]|
|076:[[キックの鬼]]|[[風見志郎]]|000:[[後の作品]]|
*肯定/否定――my answer
出入りのため、既に五度跨いだ研究所の敷居。本来ならば回を重ねる度に軽くなっていくべき北條の表情は、これまでに無い深刻さを醸し出していた。
それもそうだろう。彼の横には過去五回の同行者以上の実力と、威圧感を兼ね備えた存在が帯同しているのだから。
ペースアップを促すように、彼の斜め下――すなわち、隣人の足元からはコン、コンと一定感覚で音が鳴る。
自分よりほんの僅か歩行速度で上回る男が、その歩みに合わせて杖をついているからだろうと、張り詰めた聴覚で判断する。
乃木にそういった意図が無いと理解していながらも、北條は少しだけ早く歩いてしまう。
少しでも、一つでも――たかが歩行ペースだとしても、何かしらの形で主導権を握りたい一心の現れだった。
工場での探索。ミスを侵し、目的達成に失敗すれば、次の瞬間には首が胴体から離れることが必至。逆に成功しても、度合い次第で北條は用済みと化してしまう。分の悪い賭けだ。
その悪い印象を自身から拭い去ろうと必死だからこそ、北條は実質的には歩行ペースを乃木に掌握されていると気付かないでいる。
その様子に乃木は一考し、冷めきった目を北條へ向け呟く。
「……それにしても」
「?」
「思った以上に、参加者の諸君に出くわさんな」
「……それだけ、他の方々が南に集中しているのでしょう。邪魔が入らず好都合ですよ」
それは本心の言葉ととれるだろう。実際問題、戦闘を繰り返していれば他の作業を行う余地は皆無。
ラットを見つけることができたのも、ファイルを入手できたのも、辛うじて述べられる程度の所見を捻り出せたのも、こうして更なる進展を求める段階へ移行しているのも――
――全ては、彼らの行動を妨げる存在が四半日現れなかったことに起因しているのだ。
「南に参加者が集まっているということは、お使いに出した君の仲間が他者と接触する可能性が高いということでもある。かえって不都合じゃないのか」
余裕を持った口調から、あくまでも「自分にとっては」都合が悪い訳ではないと示唆を与えてくる乃木に対し、北條の心内で嫌悪感が募る。
だがそれも否定できない現実だ。乃木の手に掛かれば、首輪の入手など苦にもならないだろう。
青い薔薇に関しては、正直なところ入手する気があるのかすら怪しいと言えた。
明確に「参加者から奪う」という入手法が明らかにされている首輪と違い、青い薔薇に関して御使いに出た四人は何も知らされていないのだ。
そんな状況で彼らが入手できるものならば、乃木自身の手でも入手できるだろうし、代役を立てても可能だ。
彼らが死んでも、乃木に大きな損失は無いのだ。
「確かに危険人物と遭遇する可能性もありますが、我々のような行動をとっている集団と合流することも考えられます。……私は、事態の好転に賭けますよ」
「ならば、この話はここで一度打ちとめにしておこう。一時間と経たずに次の放送が行われる。それで相手の出方を見るとしよう」
男達は駅へと向かう足を止めない。そこに纏わり絡みつく二つの思惑を知るのは、当事者たる彼らのみだ。
◆
「…………………スゥー…………ッハァーー……よいしょ、っと」
深く息を吸い込み、目一杯吐き出す。幾度か繰り返した後に、ダンッ、といった一際大きな足音と共に体を起こす。
曲がっていた膝が、ピンと一直線に伸びると、加賀美の視界がグラつきを見せた。
これも心身共に疲労が強まっている証か。片膝が再び折れ曲がろうとするのを堪えて、視点を安定させる。
未だ上下に振動して酸素を求める両肩は落ち着きを取り戻さないが、気にしている時間は残されていない。
右腕でデイパックを持つと、反対の袖で額を支配する汗を拭い去る。左腕が再び垂れ下がると、加賀美は列車の四両目を見やる。
今彼が立っているのは三両目だから、丁度進行方向の反対だ。戦闘があったこの車両と違い、ごく普通の景色が広がって――いるのだが、一つ違和感があった。
「……なんで、開いてるんだ……?」
一見平穏な四両目の中で、一箇所だけ窓が開いているのだ。 ――更に、その下方には放置されたデイパック。
それが意味することを頭で理解するよりも、早く。加賀美は両の足へと移動を促していた。
小走りで四両目へと入り込む。バイクに乗ったグロンギ――バダーが開けた三両目の大穴から入り込む強風は、列車が減速する最中も加賀美の追い風と化していた。
開いた窓、放置された荷物――……この列車を利用した誰かが、窓を開けて抜け出したと考えるのが普通だろう。
それも、デイパックを放置しなければならない程の状況であったことを想像するのも容易い。
加賀美の脳内を駆け巡るのは、それが「どのタイミングで起こったことなのか」という疑問。
いくら彼が先刻まで風間――と勘違いした風見志郎のことに集中していたとはいえ、この状況下で隣の車両に気を配らないなどということはありえない。
おそらくは自分達が乗る前なのだろうと予想しながら、空いている左手で置き去りのデイパックを拾い上げる。
「少し重いな……」
疲弊した加賀美の体にとっては、多少の重量差も死活問題である。
多少だが自分がこれまで持っていたデイパックより重いらしい。
利き腕である右腕と荷物を入れ替え、そのまま四両目最後尾のドアへ向けて歩く。
「早く風間を追っかけないとな……」
列車が止まった反動で、一瞬だがハッキリと分かる範囲で加賀美の体が大きく揺れ動いた。
身をもって己の疲弊振りに気付いたのか、彼は開いたドアからホームで出て数刻と跨がず、その場へ座り込む。
(こういう時になぁ……)
不意に孤独へと襲われると、どうしても天道のことを思いださずにはいられない加賀美だ。
自力では打ち倒せない強敵達、自身の命が掛かった局面で曝け出してしまう己の甘さ、逆立ちしても解き放つ手段が読めない首輪。
言葉や態度を用いての説得でも止められなかった仲間の決意に、再開という願いを叶えてやることも無く儚く散らせてしまった新たな友の命。
ここまでの半日を思い起こし、加賀美は思う。これらのメモリーに立ち会っていたのが自分ではなく、天道であったなら。
この中の幾つかは……いや、もしかしたら全てを解決していたかも知れない。
そして、今後似た場面に出くわした時、或いは継続されている問題と再び向き合わなくてはならなくなった時――
(――俺は、今度こそ俺自身の力でそれを解決できるのか?)
◆
時間通りにホームへと滑り込んでくるパンタグラフの無い列車を見て、北條が僅かに表情を固くする。
一両目に乗るため、彼らはホームの端側に立っていたのだ。
下手をすればこのタイミングで戦闘が発生する状況であり、万に一つの油断も防がなければならない。
停車と同時に両サイドへとドアがスライドすると、乃木が堂々たる態度でもって乗り込みにかかる。
慌てて北條もそれに合わせるように列車内へと入り込み、手近な椅子へと腰を掛けた。
奇しくも、この二人が入れ違うように列車の最後尾から下車した参加者に気付くことはなかったのだ。
動き出して間もなく、他の参加者が乗り合わせていないことを確認すると、北條は深く腰掛ける。
向かい側で腕を組む乃木との会話は、三両目に大きく開いた風穴の件のみで、それ以上両者が何かを話そうとはしなかった。
北條は「散歩」の具体的な目的を自分からは話さず、乃木もまた特別何かを問いただそうとはせず。
今は二人、微振動を繰り返す揺り篭の中で、各々の思考を行うのみだ。
最中、北條が一つの決心をつけた。そこから派生する今後の指針を組み立て、話を切り出すタイミングを計る。
工場前の駅で下車すると、ホームに据え付けられたベンチの前でデイパックを降ろし、至って真面目に、既にベンチへ座り込んでいた乃木へ話しかける。
「ところで、一つ希望したいことがあるのですが……」
「言ってみたまえ。……もっとも、内容次第だがな」
体中を駆け巡る寒気が偽りの存在でないと理解した上で、その感覚に身を委ねることも振り払うこともせず、北條は息を飲む。
内容次第では却下されるどころか、その場で紅く染まるのは北條とて承知の上だ。が、迷うことなく両唇を紐解く。
必ず提案は通る――確信を胸に抱いて、一字一句を正確に聞き取らせるように丁寧な発声を行う。
「しばらくの間、この場に留まりませんか?」
「ほう……」
乃木の射抜くような視線には、明らかに失望の一種が含まれていた。突拍子もない提案には流石に呆れたのだろうか――いや、違う。
態度とは裏腹に、その心理には要求への興味が隠蔽されている。一目見ただけでは真意の見えない笑みは、前回の嘲笑と一括りにできる類のものだと認め、北條は迷わず続ける。
前回同様間髪入れずに言葉を紡ぎ、それでいて発言に絶対的な自信を持っているということも態度でアピールするのだ。
「目の前の首輪に餌付けされるあまり、その奥で控えている問題に目を向けていなかったものですから」
ポケットから支給品の携帯を取り出し、待受画面を乃木へと向ける。
「貴方が先程言った通り、後三十分強で、調度良い機会が訪れます」
発言と合わせて、乃木は北條が正午に行われる放送を待っていることを理解した。
そして、その発端となる発言は自分が行っていたことも。
奥に潜む大事が主催だという思考が併せて沸き上がり、しばしの間顎を引く。
首輪を解除したとして、どのように在るべき処へと帰るのか。
ZECTのライダーシステムとは明らかに異なる変身機構を備えたカードデッキ、それにより使役される生命体。
ワームとは別の異形へ姿を変える、人間の姿をした参加者達。当然一つの世界、時間から集った訳ではないだろう。
(参加者の諸君を集めた「力」ならば、遊戯の最中でも脱出が可能か……?)
自問するが、自答は行わない。「力」の影も形も分からない状況で考えても無駄だからだ。
ZECTの切り札――忌ま忌ましいカブトの所有物であるハイパー・ゼクター――ならば。
……とも乃木は考えたが、島に来てゼクターやその資格者達との邂逅が無い状況で過度の期待を寄せることもできない。
(と、なれば……)
引いていた顎を元の角度に戻し――…………
まるで仮面でも被ったかの様に表情を固定しつつも、『早く答えろ』と言わんばかりに催促の意志を臭わす北條の瞳に焦点を合わせ、返事を返す。
「好きにしたまえ。俺としても、連中のスタンスを見極めるのは無駄では無いというのは前に話した通り……それにだ」
「……?」
「俺はこの散歩とやらの詳細を聞かされていないのだよ。……水源を辿るのに大事を諮る必要があるというのなら、止める理由は無い」
北條は乃木の発言を、今回の探索において自身へと全権を委譲するものとして受け止める。無論、責任も全て彼が負わされることも意味しているが。
今後はいかに時間を引き延ばし、それでいて有力な首輪解除の手掛かりを得るか、だろう。
携帯を再び展開、視線を一瞬だけ送るや否や、北條は両目を閉じ、ベンチの固い背もたれに身体を預けた。
「では放送まで、休ませてもらいますよ」
「この状況で寝ようとするとは……危機感があまり感じられんが」
うっすらと双眼を開き、緊張感を保持したまま北條は呟く。
「少なくとも……一人でいるよりは、貴方程の実力者に同行している方が私も開き直って振る舞えますからね」
「ククク……過度な信頼を寄せるのは止すべきだぞ?」
「ここまで何も聞かずに足を運んで来ておきながら、私をこの場で殺す程、貴方は愚かではないでしょう」
一秒でも時間が惜しい、という気を発する北條が沈黙したのを確認すると、乃木は地図と携帯を両手に、改めて現状の禁止エリアを確認する。
現時点で与えられている情報より、何か得られることはあるのか。
脱出への最短ルートは、当初の考え通り勝者となることか、或いは中途での離脱か――
乃木もまた、目の前の人間が探っている水源への道筋の深さ、複雑さに薄々気付き始めていた。
◆
『は~い、みなさんこんにちは……』
両肩の荷物が音を立て土着する。振動音に導かれるかの様に携帯電話を開いた加賀美は、そこから零れ出る軽はずんだ女の声にありありと不快感を示した。
自分達は殺し合いを継続させられている――加賀美にとって、己を取り巻き続ける現実と、未だその渦に流され続けている事実を突き付けられた結果となる。
「この野郎……」
放送の主――スマート・レディの声があまりにもカンに障るものだから、加賀美は思わず携帯電話を身近で直立した樹木へ投げ付けようとする。
それはキャッチャーのミットへと速球を投げ付けるピッチャーのフォームを彷彿とさせたが、彼の掌を球体ならぬ長方形が離れることは無かった。
『では、前回から今回の放送までに亡くなられた方のお名前を発表します……』
閉じられた状態でも引き続き流れていた放送の一要素、『死者の発表』。今回は何人の名がコールされるのか、そしてその中に知り合いは含まれているのか。
――前回の放送で最も信頼し、尊敬していた友の名を告げられた。そして今から、自分が守れなかった新たな同志の名を呼ばれることも知っている。
そんな加賀美が発表を無視できる筈も無い。案の定再び携帯は丁寧に開かれ、同時に女の口から、ハッキリ軽やかに死者達の名が紡がれた。
――二番目に、彼の知る名は呼ばれた。出会って四半日と僅かの縁なのに、その存在の喪失を認識するのは今が初めてでは無いのに、辛苦が彼に重くのしかかる。
だが、加賀美に送られた結果はそれだけで無い。いくつかの希望もまた、彼の背に身を宿す。
影山、風間という二名の仲間が健在だということ。
デネブが拡声器を使ってまで合流しようとした、彼にとってかけがえの無い存在である桜井侑斗、そして同様に彼の仲間であるハナもまた生存している――――。
これで何度目だったのろうか。思い出す度、確認する度に輩出される悲壮は、もう脱ぎ捨て無ければならない。
希望を宿し、次の段階へ進むべき時――進化を求められた瞬間は、今なのだから。
もし神がいるとするならば、それは彼の決意にどのような未来を見せようというのか――導かれるように研究所へ向かう加賀美に、知る由などありはしなかった。
◆
乃木は改めて北條へと視線を向ける。ほんの数分前まで完全に休息へ没頭していたかに見えた目の前の人間。
いつの間にか設定していた携帯電話のアラームで即座に目を開いてから、彼はその面影を微塵も残していない。
何かを呟き、地図に印をつけながら冷静に放送へと耳を傾ける姿は、「北條が弱い人間である」という前提を踏まえた上でなら、関心に値するものだ。
脱落した弱者達の名を聞きながら、駅周りに気配が無いか伺う乃木。死者の発表など、彼には全くもって意味の無いもの。
戦闘中に一度や二度聞いたかどうかというレベルの、ライダー資格者の断片的な呼名――
そんなものが仮に呼ばれたところで、彼に反応を求めるのは酷といえるのかも知れない。
乃木自身も、名を知る知らぬに関わらず自分から生死確認を望みなどしなかった。
彼にとって資格者達は、「邪魔をするなら容赦しない」程度の優先順位しか持たないのだから。
『…………何をしたって最後に生きて帰れるのは、どうせ一人だけなんだから。きゃは。』
放送が終わり、刹那の沈黙。どうしようもなく女の声、振る舞い、姿が二人の癇に障ったが、苛立ちを見せるのも勿体無いだろう。
「…………仲良くしていると、後からとっても辛くなるそうだぞ?」
「なら、今ここで私を殺しますか」
「遠慮しよう。空腹時にとる軽食など、余計腹を虚しくさせるだけだからな。
……放送を踏まえた上での君の意見を聞く方が、幾分かは価値がある」
言い終えたと同時に立ち上がり小規模かつ無人の駅員室へと、黒装束を翻し乃木は歩む。
最初からそちらへ行くつもりがあるのなら、何故ベンチに腰掛けたのかと北條は心底問い詰めたい衝動に駆られる。
一瞬と経たず後の祭だと気付くや、デイパックと共に移動する。
「…………とりあえず、手に入った情報を整理しましょう」
「今回呼ばれた死者は七人。「彼ら」は……無事だったのかね?」
「少なくとも、私が知る「彼ら」の名前は呼ばれませんでしたが」
「なら、良い……しかし、もう少し活発化するかと思ったがな」
「それには同感ですね。我々の周りではこの六時間、ほとんど戦闘行為はありませんでしたから」
二人が研究所に滞在していた期間、彼らが認知している交戦は二度。
一つは乃木が北條の同行者――和泉伊織、長田結花、城光に五代雄介を加えた四名に研究所内で勝利した戦い。
結果的に北條の介入によって、「脱落者」は出ていない。
もう一つはそれから数刻後、長田結花がトランシーバーで助けを求めたことから発覚した研究所外での戦闘。
これも一つ目と同様、死者が出ていないことは後の交信で二人の知るところとなっていた。
その後四名は南下しており、研究所周りは至って平穏だった。
「禁止エリアで都市部から別方面への列車移動を早々に潰し、南北の中央を横切るE、Fライン上から二つ封鎖……
西が丘陵だということを考慮すれば、必然的に連中が集まるのは都市部か東の駅周りか……」
乃木が北條の広げた地図上の研究所に、人差し指を突き立てる。
そこを始点とした爪先は、朱色で記された「道路」をなぞって行く。
午前九時に禁止エリアで指定されたE-5、そこから遡って二時間前の七時に指定されたF-7の間を通る様に進むと、ショッピングセンターに行き着く。
指は地図から離れ、その軌道を追っていた北條の視線は乃木の顔へと舞い戻る。
「……研究所――ショッピングセンター間に絞られそうなものだがな」
「…………実際問題、多くは挙げられたポイントに滞在しているか、そこを移動目標にしている筈です。
ただ、人が集まっても、殺しあうとは限りませんが」
「わざわざ参加者間で合流を行わせ、集団行動できるように仕組んでいるとでも?」
「それは判断しかねます。……が、単純に集団が結成されたり、首輪解除の手掛かりを探される
ということだけでは、彼らにとっては毒と成り得ない」
自分達が研究所で青いバラと鼠の灰化実験に関連性を見出しても、スマート・ブレインという会社が危険な組織だと判断しても。
こちら側から参加者へ放送を行うことを乃木が画策しようと、主催者から北條は一切の焦りや不安という要素を感じとれない。
ましてや逆に放送で、既に死人の首輪を外した参加者が存在していることを示唆してくる主催。
「首輪を外されて構わない」のか、「首輪を外させない自信がある」のか……真意へと切り込むには、駒が圧倒的に足りないと北條は思考する。
「これで一応は、ハッキリした訳だな」
「ええ、我々が一線を越えるまで、彼らは現状を崩さない……まあ当然と言えば当然ですが」
実のところ、まだ放送に関して気になる要素は存在している。
「殺し合いを促進させることが目的」としか表向きには思えない禁止エリアが、B-9などという僻地に指定される。
南から参加者が列車で北へ向かうのは阻止しておきながら、北で自分達が研究所を起点に行う列車移動には一切介入してこない。
それを北條が言わないのは、乃木の変調というものを察知してしまったからだろう。
「では行こうか、北條君! ……奴らは我々を軽視している――結構なことだ。次の放送の時には、必ず進展というものを見せてやろうじゃないか」
その言動は、自分達を監視しているであろう主催者へのものか、主催者の掌で踊らされることで傷つけられたプライドへの嘲笑か――いや、両方だろう。
故に、これ以上の問題定義は火に油を注ぐだけだと北條は判断。
何れにせよ、首輪の有無に関わらずゲームの優勝者に成り得る実力を持つ男が、首輪解除を最優先課題としているのは事実なのだから。
主催が動かないのなら、首輪の解除で動かす方向へ誘導するしかない。それが誘導させられているだけだとしても、死へのタイム・リミットを引き伸ばし続けている自分にはそれしかない。
相手の掌で踊らされているということは、同時に相手と既に触れ合っていることも意味する。
北條は誰よりも早く次の段階へ進もうとする。それも、可能な限り時間稼ぎを続けた上でだ。
不意に、一組の男女が北條の脳裏を過ぎる。思わずそんな自分に彼は苦笑しながら。
(私はここへ来て、貴方より優れていることを証明すると誓ったのですからね……)
(もはや早期の脱出だけでは満足しない。スマートブレイン――……この俺を嘲笑ったこと、この手で後悔させてやろう)
プライドを踏み躙った主催者への怒り。それが過去の方針を僅かながら否定するものだろうと、乃木は迷わない。
二人の男が心情を交錯させた駅は、再び静寂に包まれようとしていた――
**状態表
【乃木怜治@仮面ライダーカブト】
【1日目 日中】
【現在地:B-5 工場付近の駅】
[時間軸]:43話・サソードに勝利後(カッシスワーム・グラディウス)
[状態]:健康。
[装備]:カードデッキ(王蛇)
[道具]: 携帯電話、その他基本支給品×3(乃木、イブキ、結花)、ゼクトマイザー、トランシーバーC
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの早期決着及びスマートブレイン打倒
1:首輪解除のため、北條透と仲間の諸君をもう少し泳がせる。
2:主催者側に対して嫌悪感。
3:ZECTの諸君に関しては、接触した次第早めに始末をつける。
【備考】
※ライア・ガイのデッキが健在の為、王蛇のデッキには未契約のカードが2枚存在します。
※ユナイトベントは本編3体の場合しか発動しません。
※変身にかけられた時間制限をほぼ正確に把握しました。
※ZECTライダー資格者に関しての認識は「(TV版)ライダーの外見・名称」「(TV版)資格者の外見」を知っている程度です。
【北條透@仮面ライダーアギト】
【1日目 日中】
【現在地:B-5 工場付近の駅】
[時間軸]:最終話
[状態]:精神的に疲労。 現状に関する若干の恐怖。 主催に対する多大な不安。
[装備]:なし。
[道具]:携帯電話、地図、マグライト、研究所のファイル
【思考・状況】
基本行動方針:無事に帰還し、スマートブレインを摘発する。
1:スマートブレインの危険性を懸念。
2:乃木をうまくだまくらかし、救出を待つ。
3:工場に向かって実験道具の手がかりを探す。
4:長田結花を保護すべき民間人と認識。
5:友好的な参加者と合流、敵対的な参加者を警戒。
【備考】
※首輪の外見についてはほぼ正確に把握しました。ただし、肌に触れている部分を除きます。
※研究所の設備は基礎的な科学知識さえあれば扱える程度にマニュアル化されているようです。
ただし、あくまで分析結果が自動で出るだけで所見はついてきません。
※ファイルにまとめられた実験資料には、ネズミの灰化実験に
青いバラとケージに取り付けられた装置が関わっているという結論のみが明記されていました。
※ファイルの内容の真偽は未確認ですが、北條はとりあえず真実であるという前提で行動しています。
◆
「ここが研究所……だよな」
加賀美が研究所の室内に到達したのは、放送を終えて更に数十分後のことだった。
敷地内についた時点で、再び緊張の糸が切れ、疲労がどっと押し寄せた為だ。
天気が良かったものだから、外での休息にも嫌悪感を覚えず、今に至る。
ようやく対面したロビーで二つのデイパックを降ろし、身近にあった椅子へ腰掛ける。
一面を見渡し、二度の深呼吸。ガタックゼクターが辺りを旋回したところで、ようやく加賀美が疑問を持つ。
「誰も……いないのか?」
そう呟くが、反応は無い。北にある数少ない施設だというのに、人気が感じられない事実に加賀美は驚く。
「風間はここにくるつもりじゃなかったってことになるよな……あそこで降りない方が良かったのか……」
目的地への列車移動という加賀美の提案を受けた風見志郎は、北行きへの列車に乗り込んだ。
そして路線上に存在する地図上の施設は、研究所、工場、大学の三箇所だ。
(風間に工場は……似合わないよなぁ。そうなると大学かな)
何れにせよ、今の疲労具合と荷物で軽々しく出向ける場所でもない。
しばらくはまた足止めか、などとガタックゼクターを眺めた瞬間、ゼクターが回転を止め臨戦態勢へと入った。
直後にはゼクター特有の独特な電子音。地を跳ねる音。右腕を掲げ、対抗する様に自身の相棒をキャッチするが――
「……一度変身能力を行使すれば、二時間の間は制限が掛かる。ゼクターとてそれに変わりは無い」
同様に地面を飛び上がる飛蝗――ホッパーゼクターを掴んだ風見志郎が、抑え目の声で宣告する。
加賀美が途端に笑顔になり、ゼクターを持ったままで椅子から立ち上がる。
「風間……また逢えて良かったよ、本当に」
「身を案じられるのは、私で無くて貴方の方だ。……あの男は?」
あの男――バイクで列車に突入し、バイクで列車を離脱した男のことを聞かれていると分かって、加賀美は少し俯いた表情になる。
「逃げられた……あのバイクごとな」
「情けない……しかし、徒歩だと考えても駅から時間が掛かりすぎているように思えるが……」
「お前な、次から次へと……疲れたり考え事したりで動けなかっただけだっての」
「……そうか」
小さく、一言、風見は呟いて。
片手でゼクトバックルの前面を開き、もう片方に握りしめているホッパーゼクターを、何時でも受け入れられる態勢に。
再会を喜んでいた加賀美の表情が、唖然としたものへ瞬時に切り替わる。
「お前……」
「私に今ここで倒されるか……」
「!?」
一度風見は言葉を紡ぐことを止め、一層強く、ギリギリと音を鳴らしてホッパーゼクターを握り直し。
再び抑揚の無い声で、改めて冒頭から尋ね出した。
「私に今ここで倒されるか、私に今後協力すると誓うか――どちらか選ばせてやる」
加賀美が思わず後ずさりながら、未だ手中に存在していたガタックゼクターをベルトに通す。
無駄だと解ると即座にガタックゼクターを開放する加賀美。その瞳は真っ直ぐに風見を見据えていた。
「お前までそんなことを言うのか……」
「…………………………」
双方の視線は複雑に絡み付き、解けることを知らない。
「……言った筈だぜ。俺はお前を止めるってな」
「では……」
風見は加賀美が戦う覚悟を決めたと返答から解釈する。
戦力として計算していた面も否定できなかったとは言え、若干寂しさを覚えた自分を風見はすぐに振り払う。
「ああ。俺はお前に協力する」
風見が呆気にとられた顔で加賀美を見返した。
ハッタリだろうかと疑いを見せるが、本気で言っているらしい。
「……どういった風の吹きまわしで?」
ゼクターを手放した風見は、ハリケーンへ再び両手を戻す。そのまま返答を待たず、加賀美の横を通りながらそれを押していき、出入り口付近で停車させた。
「どうしたもこうしたも、さっき言ったばかりだ。俺はお前を止める。それが……俺に出来る協力だ!」
「風間」にこれ以上の人殺しをさせたくなくない。
天道の意思を継ぐためにも、デネブの願い通り桜井侑斗と合流する為にも、死ぬ訳にはいかない。
選択肢など元から一つしか存在していなかったのだ。
「……まあ、貴方との決着は直につけることになる。貴方が協力するというならば、それまではそうしてもらおうか」
風見は言い終えて、手近なソファに腰を落とす。それに合わせて加賀美もまた、もとの椅子に腰掛けた。
無理にここで襲うつもりは無い――ここまで加賀美を生かしてきた自分の過去を、風見は肯定したかったのかも知れない。
それに、これで一応は戦力が増えたことになるのだ。自分同様殺し合いに乗っている敵が現れた際には、連携して闘うことも不可能では無いと風見は判断する。
主催に、殺し合いに抗う為に研究所を訪れる参加者と邂逅することになれば、加賀美が交戦を妨げることも想定できる。
しかし、それらの者達に風見が自らの手で死を与える必要は無いのだ。
そう――彼には「切り札」がある。
ジャンクション駅で既に威力を確認し終えているFOX-7。風見はそれを研究室に仕掛けたのだ。
風見はゆっくりと支給品の携帯を開く。内臓アプリでコードを打ち込みさえすれば、好きなタイミングで研究室に甚大なダメージを与えることが可能だ。
例えば――首輪の解析の為に技術者を始めとする参加者が研究室に入った時。
起爆装置を作動させ、容易く仕留めることができるだろう。
そんな算段を描きながら、彼は再び携帯を閉じた。本体を見ていると、思わず先程行われていた放送を思い出す。
ショッカーの裏切り者、本郷猛の死。そしてまたもや名前を呼ばれなかった葦原涼。
少しばかり物思いにふけりながら、風見は待望する。次なる参加者の、来訪を。
【加賀美新@仮面ライダーカブト】
【1日目 日中】
【現在地:B-7 研究所ロビー】
[時間軸]:34話終了後辺り
[状態]:疲労と痛みはある程度回復。脇腹に刺し傷、頭部に打撲、肩に裂傷、背中に複数の打撲、右足にダメージ
強い怒りと悲しみ。新たな決意。ガタックに約三十分変身不能
[装備]:ガタックゼクター、ライダーベルト(ガタック)
[道具]:基本支給品一式 ラウズカード(ダイヤQ、クラブ6、ハート6)不明支給品(確認済み)2個。
放置されていたデイパック(基本支給品×2、ラウズアブゾーバー、V3ホッパー、首輪(一文字))
[思考・状況]
基本行動方針:桜井侑斗を始めとする協力者と合流する。
1:風間(風見)に同行する。風間(風見)と危険人物以外との戦闘は阻止する。
2:危険人物である澤田と真魚、バダー(名前は知りません)を倒す。
3:風間(風見)といずれは戦うことへの迷い。出来れば戦いたくない。
[備考]
※デネブが森林内で勝手に集めた食材がデイパックに入っています。新鮮です。
※首輪の制限について知りました。
※友好的であろう人物と要注意人物について、以下の見解と対策を立てています
味方:桜井侑斗(優先的に合流)
友好的:風間大介、影山瞬、モモタロス、ハナ(可能な限り速やかに合流)
要注意:牙王、澤田、真魚、バダー(警戒)
※風間大介(実際には風見志郎)が戦いに乗っていることを知りました。
※放置されていたデイパックの中身は確認していません。
【風見志郎@仮面ライダーTHE NEXT】
【1日目 早朝】
【現在地:B-7 研究所ロビー】
【時間軸:】THE NEXT中盤・CHIHARU失踪の真実を知った直後
【状態】: 疲労回復、全身打撲、中。両腕、腹部にダメージ中。
【装備】:ハリケーン 、ホッパーゼクター+ゼクトバックルB、デンガッシャー
【道具】:基本支給品×2セット、ピンクの腕時計、ラウズカード(ハートJ、クラブJ)、FOX-7+起爆装置(残り3)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、優勝してちはるに普通の生を送らせる。
1:研究室に設置したFOX-7を、最大の被害を与えることのできるタイミングで利用。
2:ショッカーに対する忠誠心への揺らぎ。
3:葦原涼が死んでいなかったことに驚きと僅かな安堵。
4:いずれあの男(加賀美)と決着を付ける。
【備考】
※モモタロスの死を受け止め、何か複雑な心境です。
※ホッパーゼクターを扱えます。
※FOX-7は基本的に、起爆装置を使った時にのみ爆発します。爆発の規模は使った量に比例します。
起爆装置は全携帯が内蔵している専用アプリに起爆装置のコードを打ち込んで操作するもの。
スイッチ式と時限式の両方の使い方ができます。
※加賀美のデイパックが二つになっていることにまだ気付いていません。
※研究所の研究室に、FOX-7が一つ仕掛けられています。
|089:[[それぞれの思考]]|投下順|091:[[信じるモノ]]|
|089:[[それぞれの思考]]|時系列順|091:[[信じるモノ]]|
|069:[[ステッピング・ストーン]]|[[北條透]]|106:[[龍哭(前編)]]|
|069:[[ステッピング・ストーン]]|[[乃木怜治]]|106:[[龍哭(前編)]]|
|076:[[キックの鬼]]|[[加賀美新]]|108:[[男二人、虫二匹――――はぐれ虫]]|
|076:[[キックの鬼]]|[[風見志郎]]|108:[[男二人、虫二匹――――はぐれ虫]]|
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