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Sturm und Drache」(2009/06/04 (木) 00:01:40) の最新版変更点

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*Sturm und Drache  イカデビルのマントの裏は鮮血のごとき赤に妖しく輝き、飢えた天使の欲情をかき立てる。狂気に満ちた奇声を上げて舞い降りてくる風のエルの振り下ろす刃を避けると、耳元の大気が異常な気配をはらんで震えた。  その刃に籠る振動、あるいは得体の知れないエネルギーと言うべきか。これが科学であるならば、この世にはまだ彼も知らない真理があるということだ。  ーーーーこの、時の摂理が乱れた世界には。  脅威を冷静に評価しながらも、死神博士は触手をふるって相手の腕に絡めた。踏みしめた足が、コンクリートの破片を微塵に砕く。  剣を掴んだ腕の自由を奪われ、血に飢えた御使いが必死に抗う。しめた、とおもった次の瞬間、相手は逆にひび割れた地面を蹴ってこちらに突進してきた。  突き出された剣先を交わした瞬間、わずかに緩んだ拘束を風のエルは見逃さない。弧を描いた空虚の刃がたわんだ触手を切り裂き、傷口から引きちぎられた絆を掴んだまま、二体の怪人は反動で後ずさった。  風のエルは再びゼクターの力を刃に込める。イカデビルが天を仰いだのは、あるいは嘆きにも見えたかもしれない。だが次の瞬間、天使の見えない翼を打ち据えようと上空から灼熱の塊が降り注ぐ。  ひと呼吸の後、衝撃に震え上がった辺り一面の窓ガラスが、掠れた悲鳴とともに砕け散った。           *  目の前に山をなし、なおも降り積もる瓦礫。護身の前に後ずさった影山の耳を、警報が激しく追い立てる。舞い上がった埃が穴と言う穴からなだれ込み、彼は思わずむせ返った。  繰り広げられる戦いの激しさに二の足を踏んでいたところ、そのまま足止めを食らってしまったというのが客観的な事実だろう。とはいえ、影山の内心にその『事実』を縦にしたいほどの恐怖心があったのもまた事実だった。  ザビーに見捨てられた苛立ちは、すぐさま周囲に渦巻く脅威への恐れに変わった。 逃げなければ。生き残らなければ。死にたくないという欲求をまるで下された命令のようにすり替える。  死神博士はきっとあの化け物を始末してくれるだろう。その後ならきっとザビーが取り戻せる。ザビーが逃げて行ったのは、あの怪物が持つわけのわからない道具に強制的に重用されたからだ。そうに違いない。  考えてみれば、ザビーを奪われたせいで怪物と戦う力のない自分が側にいた所で、戦える者にとっては足手まといにしかならない。だから自分は身の安全を考えるべきなのだ。それこそが、死神博士のためにもなろう。  身勝手な感情を都合のいい憶測でつなぎ止め、影山はひたすら廊下の奥へと走った。アルミ作りの安っぽい通用口を体当たりでこじ開けると、打ちっぱなしのコンクリートの帯が隣の建物へと続いているのが目に入る。彼は迷わずその建物に『身を隠した』、つまり逃げ込んだ。  よそよそしいほどの清潔感のある内装にほっとした瞬間、遠い爆音が壁を震わせる。  影山は悲鳴を飲み込むと、少しでも安全な場所を求めて辺りを見回した。  受付とおぼしきカウンターには紙が何枚か散乱したまま、ほこりを被った留守電のランプが虚しく点滅している。どことなくすえた臭いが漂うのは、この場所が放棄されてから時間がたったせいだろうか。  とりあえず身を隠そうとその先のトイレのドアを明けて脚を踏み入れた青年の足下に、赤茶けた砂粒と何かの影が映る。  彼はゆっくりと顔をあげ……悲鳴とともに廊下へ飛び出した。           *  一進一退、というところだろうか。  技で言えばイカデビルが勝っている。一方、風のエルは傷つき疲れているものの、その手に握る刃の切れ味は今だ鋭い。なにより、狂気の淵からわき上がる情動は、一度獲物と見定めたものをおいそれと投げ打ちはしない。  受け流すのは易いが、仕留めるにはこちらが決め手を欠く。瓦礫の山を築き上げながらも、死神博士は冷静に状況を分析していた。  獣の顎門を逃れさえすれば十分に勝算はある。ならばいっそ勝機のために、『餌』をくわせてやるか。  パーフェクトゼクターを引きずってこちらを見据える風のエルを誘導するように、イカデビルはゆっくりと位置を取る。瓦礫の間で足を止めると、視線を落とさぬままに爪先でそれを蹴り付けた。 「いつまで寝ているつもりだ。それでも仮面ライダーか!」  低く鋭い一喝に、風のエルが煽られたかのように身を弾ませる。  と同時に足下の瓦礫が僅かにゆらぎ、塵にまみれた人影が身を起こす。 「くっそ、油断したぜ……」  赤いスーツに身を包んだ戦士が、ゆっくりとその場で膝を立てた。背後の建物に残る硝子が、朱の鱗をまとう聖獣の姿を映し出す。  死神博士が内心口元を緩めたことに気づいたものはいなかったろう。龍と鳳、存分に噛み合えばいい。所詮役立たずなら、当て馬の労程度は果たしてもらわねば。  立ち上がり、体勢を整える城戸の傍らで、もう一つの人影が動き出す。こちらは既に変身を解かれ、惨めなほどに塵にまみれている。  対峙する風の使いと龍のあるじをよそに、風間大介は服の汚れを払った。なすすべもなく傍らで舞うドレイクゼクターをかまいもせずに呟く。 「花を渡る風ともあろうものが、惨めなものですね……」  それは単なる自虐に過ぎなかった。それ以上にも、それ以下にもなり得なかった。その言葉を発した者からしてみれば。  だが、言葉とは聞かれて初めて意味を持つ。  風のエルは、まるで己の名を呼ばれたかのように身を震わせた。感情はおろか本能ですらない、存在の根源に直接触れるその言葉が、瞬時に感覚を麻痺させた。  そもそも自分が風の力を得ていることなど、人間には知りようがないはずなのだ。それを見通され、あまつさえ己の行いを責められるとは。  常ならばそのような誤解も抱かなかっただろう。かかる拙い過ちを犯してしまうことそのものが、風のエルが主の御旨を踏み外したことの証明でもあった。むろん、それを当人が理解しているはずもない。  ただの一言に魂が芯まで凍てついたせいか、ふと辺りの光景が目に入る。  冷たいほどに白く清潔な壁はすでに隕石がまとった黒煙と亀裂とに穢されている。とはいえ、割れた硝子や開け放たれた扉の隙間から漂ってくる無機質な匂いが、その場所の性質を明確に物語る。  墜ちた人間たちを滅ぼすことを定めるまで、主が足を止めていた場所。病んだ人間たちが互いの傷を舐め合い、痛みを癒していた場所。  主がいたはずの場所で、主にしか語れないはずの言葉を聞く。その現実に、エルの意識は混濁した。  聖と汚れの感覚、畏れと嫌悪の感情。相対するそれらも、文明の初期においては同じ概念であったと言われている。人ならぬ御使いの身に、人間の持つ感情は本来無縁であったろう。それも人の血に汚れ、地に墜ちた天使となればことは違った。  汚れた人間に対する嫌悪と主に対する恐れ。対立する感情がないまぜになったまま、風のエルは衝動的に預言の主に飛びついた。先を失った腕でその身体を抱え上げると、露を払うかのように一度刃で振り払い、地を蹴る。  その聖なる鳥を撃ち落とさんばかりに天空から飛来した隕石は、赤紅の龍の身に阻まれた。 「何をしている!」  飛び去る影に迷いを残して空を舞うドラグレッダーの姿に、死神博士が怒号を浴びせる。 「だって、危ないじゃないか!あんなのが当たったら、大介だって無事じゃ済まない!」  言い返しながら変身を解く城戸の表情に、死神博士は苛立たしい絶望感を感じる。この男は役立たずなだけではない。足手まといを通り越して邪魔者だ。使い捨ての駒にすらならないとは。 「そんなことより、はやくあれを追いかけなきゃ……影山は?あいつはどこにいったんだ?」  人間としては真っ当かもしれないが、真司の言動はつくづく死神博士の神経を逆なでする。瓦礫の向うへと小走りに去る小柄な背中を、博士は苛立たしげに追った。           *   *   *  瓦礫と粉塵で廃墟の趣を漂わせる建物の裏、影山は渡り廊下に呆然と立ちすくんでいる。死神と城戸が鼻の先まで近づいて、ようやく彼は顔を上げた。 「なぜ逃げた。ここで何をしている」  追及の言葉に、影山は掠れ声で呟いた。 「……死体を、発見しました」  すっかり顔が土気色の影山からは、明らかにすえた臭いが漂ってくる。臭いが染み付くほどの腐乱死体であれば、時間的に他の参加者のものとは考えにくい。 「案内しろ」 「あ、はい……」  影山は消え入るような声でそう答えたものの、明らかに腰が引けている。 「なんだよ、どうしたんだよ」  洞察とは無縁なのだろうか、ストレートにいぶかしむ真司に、影山は怒りの視線を投げつけて向きを変えた。歪んだ通用口に歩み寄り、ドアノブに手をかけてまた顔をしかめる。  覚悟を決めて扉を押し開けると、きしみとともにかすかに死臭が漂ってきた。それと気づいた真司が眉をひそめるが、死神博士は表情一つ買えない。 「こちらです」  押し殺した声で呟き、影山が二人を廊下へと招き入れる。  辺りに漂う死臭の他には、さほど異様な気配のないごく普通の病棟だった。進むほどに異臭が強くなり、一層の違和感を醸し出す。  影山は女性用トイレの開け放されたドアの前で足を止めた。そのまま自分を追い抜いて行く死神博士の様子をちらりと横目で伺っている。  真司もジャケットの襟で口元を押さえたまま、中を覗き込んだ。と、眠気も疲労もすっかり醒めて息をのむ。  どす黒い塊が、個室の枠から釣り下がっていた。  死体の足下には褐色の小さな染みが残り、そこを中心に赤茶けた砂粒のようなものが散らかっている。その一部が動いているのに気づいた瞬間、真司の背筋を冷たい電撃が走った。  蛆だ。  ならば足下に散らばっているものはーーーー卵か蛹か、いずれにせよそういう類のものだろう。  それを理解した途端に彼の胃が疼いた。視線を移すためについ顔を上げて、死体がひからびてできた隙間にぎっしりとつまりっている蠅の蛹と、うごめいていまにも這い出そうとしている白い切れ端を見てしまう。  真司は顔をしかめ、口元を押さえたまま廊下へと出て行った。げんなりとした顔で呟く。 「ったく、しばらくはゴマシオ掛けたおこわが食えなくなりそうだな」 「想像させるな!本当に食えなくなるだろうが!!」  半ば裏返った声で真司を怒鳴りつける影山の目が微妙に充血して見えるのは気のせいではないだろう。明瞭な死、それもここまで醜い形に歪められた死を目にして、落ちついていられるほうがおかしい。  彼は改めて口元をジャケットの襟で覆いながら、中に一人残された死神博士の様子を伺った。  奇矯な黒装束の紳士は、表情を変えずに目の前の死体を観察している。  便器のふたは閉じられ、その上にスリッパが並べられている。便器を足台にしての首つり自殺といったところか。  手術着とおぼしき、膝上まで薄いローンの布を纏った『それ』の露出している下肢部分は、黒ずんだ筋肉組織の間から白い骨が見え隠れするほどに腐敗し崩落していた。足下の染みはおそらく脚部や内臓が腐敗したときに落ちた体液や組織によるものだ。  それにひきかえ上半身は黒ずんでこそいるが、ほぼ全体を残したまま縮れている。  通常、死体のミイラ化にはある程度条件が整っても三ヶ月かそれ以上かかる。この死体は換気を大切にするトイレの送風口の下にぶら下がっていたおかげか、風の当たる上半身だけが希代の好条件で『ひもの』にされたのだろう。下半身が腐敗しているのは、そこまで風が通り切らなかったせいだ。  としても一週間程度でここまで完全なミイラになるとは考えにくい。少なくとも一ヶ月、おそらく二ヶ月かそれ以上経っているに違いない。  加えて、トイレという場所も気になる。  病院にとって、衛生管理は最も重要な問題だ。加えて患者・スタッフ・来客、すべてに開放されているトイレと言う場所で患者が自殺などすれば大変な騒ぎになる。スタッフが慌てて片付けるだろう。  とはいえ迷い込んできた人間が、わざわざここで手術着に着替えて自殺したとは考えにくい。  もうひとつ、気になるのは死体の左肘の内側に固定された点滴用の針だ。  数日に渡って点滴がつづけられる場合、針だけはそのまま固定して輸液とチューブだけを交換することがある。とすればあそこで死んでいたのは、この病院で入院治療を受けていた患者と見て間違いない。  つまりーーーー。  患者がこの場で自殺したとき、この病院にスタッフはいなかった、ということだ。  通常の施設閉鎖なら患者は移送される。それが出来ないほどのどさくさにまぎれて自殺者が出たのか、それとも取り残されたのか。いずれにせよ、異常な事態だったことは想像に難くない。  死神は廊下に戻ると、そそくさと外に逃げ出そうとする影山を呼び止めた。 「他の部屋は調べたか」 「いえ」 「調べてこい」  冷たく命じられて、影山が一瞬身をちぢ込ませる。躊躇うというよりは怯えるように少しの間その場に立ち尽くしていたが、視線に促されてようやく奥へと歩き出す。 「じゃ、俺も行ってきます」 「お前はここにいろ」  どうせこいつを偵察に行かせた所で大した訳にも立つまい。その判断から、死神博士はあえて真司を入り口近くに残しておく選択をした。万が一侵入者があれば、身を以て警鐘を鳴らすくらいのことはしてくれるだろう。  廊下の奥には幾つか処置室が並んでいるが、診察室と書かれた部屋はない。奇妙に思いながらも進むと、広い階段に行き当たった。上の階からかすかに腐臭が漂ってくる。  廊下の突き当たりをうろちょろしている影山の姿を確かめると、死神は静かに階段を上った。  二階の廊下は想像以上に殺風景だった。所々開け放たれた部屋はすべて個室で、どこも大仰な医療器具が放置されたままだ。採尿袋に残った液体が茶色く濁るほどになっている様子から、その部屋の住人が退院したわけではないことがわかる。  閉め切られたままの扉を一つ開けてみると、途端に大量の蠅が飛び出してきた。死神はマントを振ってそれを払い、部屋の奥を見通す。  ベッドの上に、縮れて虫にたかられた腐乱死体が沈んでいた。虚しく動き続ける人工呼吸器の中にまで蛆が入り込み、空になった点滴の管はまだベッドの中に繋がったままだ。  死神博士はベッドに歩み寄り、点滴の袋を調べた。  つり下げられた輸液のバッグの一つには、マジックで鎮痛剤の名前と量が記入されている。それもただの鎮痛剤ではなく、麻薬に分類される代物だ。もう一つは高カロリー輸液のバッグ。これは食事が一切取れない時に栄養補給として使われる。  食事も自律呼吸もできず、麻薬で痛みを抑えている。明らかに死を待つだけの末期患者だ。ショッカーの技術を駆使すればいざしらず、通常の医術では救いようがなかったのだろう。  とはいえ、救いようがなかろうがどうであろうが、患者を放置し死なせるような病院があるわけがない。これは熟考すべき点だ。  博士はまとわりつく蠅を払いつつ、その部屋を後にした。           *  受付の書類を適当にひっくり返す真司を、影山は憎々しげに睨んでいる。お前一人楽をしやがって、とでも思っているのだろうか。だが死神の鳴らす足音に途端に姿勢を正すあたり、よほどの小心者だ。 「あ、博士。ちょっと面白いもん見つけたんすけど」  真司がカウンターの中から声をかける。死神は仕草で続けるよう促した。 「じゃ、ちょっとこの留守電聞いてくださいね」  青年がボタンを押すと、電話機から女声のメッセージが流れ出した。 『こちら、よつば療養所の小林です。井上研究室から受けたシュルトケスナー藻の薬理実験の結果が出ております。確認をお願いしたい、と米村先生にお伝えください』 「よつば療養所って、このボードにも貼ってありますけど、温泉のとこにあるみたいです。で、井上研究室ってのがこの大学」  伝言板に貼られた、色あせた地図を指差しながら真司が説明する。 「いつの伝言だ」 「えっと、この日付けからすると……二ヶ月ぐらい前、かな?」  簡潔な問いに、真司は携帯の日付けを見比べて答えた。  計算は合う。死神が深く頷くのを見て、真司が首をかしげた。 「あ、あの、何かわかったのでありましょうか!」  死神博士はちらりと影山の方を見ると、おもむろに口を開いた。 「おそらくこの病院は、数ヶ月前に放棄されている。それも患者を残したまま、だ。おそらくは、その伝言があった日の前後に放棄されたのだろうよ」 「え、ちょっとそれヤバくないすか?そんなことがあったら、絶対スクープになるからーーーーって、ああああああ!!」  出し抜けに城戸が大声を上げる。 「オレ、すごいスクープがあるってメールであの会社に呼ばれたんだった……」  頭を抱えて天を仰ぐその姿に、死神博士は小さく首を振った。 「それにホイホイ引っかかったというわけか」 「馬鹿だな」  頷いた影山に、真司がムキになってかみつく。 「死体見てちびってたお前に馬鹿言われたくねーよ!」 「ちびってなんかない!」  低レベルの争いをおっぱじめた二人をよそに、死神は地図を取り出し、改めて場所を確かめた。  伝言が言及していた二つの施設は、ともに島の西海岸に沿った道路に面している。幸い途中に設定された禁止エリアは一つだけ、それも簡単に迂回できる。  手がかりを探しに行く価値はあるだろう。そして行くのならば急ぐに越したことはない。死神博士はそう定めると、地図を畳んだ。 「療養所に向かうぞ。ついてこい」  言い放ち、確認もせずに外へ向かって歩き出す。 「あの、俺のザビーは……」  言いかける影山を押し退けて、真司は死神の前に立ちはだかった。 「そんなことより、大介はどうするんだよ!化け物に連れて行かれたんだぜ、あのまま放っておくわけにはいかないだろ!?」 「行方に関して、手がかりはあるのか?」 「それは……」  口ごもる真司を押し退けて、死神は再び歩き始める。 「ああ、そうだ。風間が残した荷物を回収してくるがいい。向うの瓦礫の中だ」  ぎろりと睨みつけられた影山が慌てて外に飛び出す。  実際のところ、今風のエルを追う価値はないのだ。こちらとしてはすぐには戦えない。なにより、役立たずに用はない。  もっとも、その本心を明かす義理はなかったが。           *   *   * 【G-4 病院】【日中】 【死神博士@仮面ライダー(初代)】 【時間軸】:一号に勝利後。 【状態】:擦り傷程度の傷多数  イカデビルに2時間変身不能 【装備】:鞭 【道具】:基本支給品一式、デスイマジンの鎌@仮面ライダー電王、ハイパーゼクター 【思考・状況】 基本行動方針:この殺し合いをショッカーの実験場と化す。 1:療養所、大学(研究室)を探索。現状を把握する。 2:集団を結成し、スマートブレインに対抗する。 3:影山や真司のような役立たずはいずれ切り捨てる。 4:首輪を外す方法を研究する。施設の候補は研究所か大学。首輪のサンプルが欲しい。 5:未知のライダーシステムおよびハイパーゼクターの技術を可能な限り把握する。 ※一文字隼人(R)の事を一文字隼人(O)だとは信じていません。 ※流れ星は一戦闘に六発まで使用可、威力はバイクがあれば割と余裕に回避できる程度。  尚、キック殺しは問題なく使えます。 ※変身解除の原因が、何らかの抑止力からではないかと推測しています。 ※風間と城戸の所持品、カブト世界、 龍騎世界について把握しました。 ※ハイパーゼクターはジョウント移動及び飛行が不可能になっています。マニュアルはありません。 【考察まとめ】 1.首輪の100%解析は不可だが、解除することは可能。 2.首輪を外せるのは罠で、タイミングが重要。 3.時空を超越して逃げても、追跡される。 4.会場に時の列車はない。あるとしてもスマートブレインの手の中。 5.ガオウから聞いた、デンライナーの持ち主は干渉を避けるために既に死んでいる可能性が高い。 6.ハイパーゼクターはカブトムシ型ゼクターで変身するライダーの強化アイテム。 7. この島では2ヶ月ほど前になんらかの異変が起きた。 【影山瞬@仮面ライダーカブト】 【時間軸:33話・天道司令官就任後】 【状態】:全身に若干の疲労。背中に軽い裂傷。 ザビーを失った悲しみ。 【装備】:ザビーブレス 【道具】:支給品一式×3、ラウズカード(◆J)、不明支給品0~2(確認済)、オロナミンC2本(ぬるめ) 【思考・状況】 基本行動方針:とりあえず死神博士についていく 1:ザビーを返してくれよぉ…… ※不明支給品は彼に戦力として見なされていません。 ※風間と城戸の所持品、龍騎世界について把握しました。 【城戸真司@仮面ライダー龍騎】 [時間軸]:劇場版、レイドラグーンへの特攻直前 [状態]:全身に大ダメージ。本郷、芝浦の死に悲しみ 。龍騎に2時間変身不能。 [装備]:カードデッキ(龍騎) [道具]:支給品一式 【思考・状況】 基本行動方針:早期に殺し合いを止めた上でのスマートブレイン打倒 1:仲間を集めて主催者打倒 。そのためにもなんとか風間を取り戻す。 2:金色の仮面ライダー(グレイブ)に注意する。茶髪の男?まさか…? 3:本郷の分まで戦う。 4:志村の後を追い、長田結花との合流を目指すついでに話を紐解く。 5:手塚に似てるなぁー。 [備考] ※不信感を多少持ちましたが、志村をまだ信用しています。 ※名簿に手塚、芝浦、東條、香川の名前がある事から、スマートブレインが死者蘇生の技術を持っていると考えています。 ※連続変身出来なかった事に疑問を感じています。 ※志村について話していません。 ※カブト世界について把握しました。           *   *   *  これほど眺めのいい場所は、島中を探してもそうそう見つからないだろう。  放送局の屋上にしつらえられた電波塔。鉄骨とアンテナとが複雑に入り組んだ建造物の一番高いところに彼は身を置いていた。とはいえ、自分の意志でそうしているわけではない。  彼、風間大介は、そこに吊るされているのだった。  下手人ーーーー人ではなかったがーーーーは、すぐ足下で彼を崇めるように見上げている。 「主よ、御身の望む通り、人の子の血を流そう」  『笑顔』としか言い得ない表情を口元に浮かべて、御使いは彼に告げた。 「我は地の塩を知った。人の子は我が火で塩の味を付けられるだろう。すべて、御身の望む通りに」  その手に異形の剣を握り、風のエルは大きく礼を施す。  話が通じる相手ではない、と大介は理解した。この怪物は狂っている。自分を誰かと誤解しているだけではない。その『誰か』の名に於いて、とてつもなく物騒な行動を起こそうとしている。  彼の身を案じるように、ドレイクゼクターが周囲を舞っている。名にし負う竜であればともかく、華奢なその身では人ひとりを背負ってどうこうすることもかなわない。風の精霊は、ただ翼に怒りをたたえて風の天使を睨み据えるばかりだった。           *   *   * 【G-3 放送局・屋上】【日中】 【風のエル@仮面ライダーアギト】 [時間軸]:48話 [状態]:頭部にダメージ。全身に大程度の負傷・行動原理に異常発生。左手首欠損。2時間能力発揮不可。 [装備]:パーフェクトゼクター(+ザビーゼクター) [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:優勝して帰る。 帰還した暁には、主に未知の力を報告。 1:「仲間」を持つ「強き者」を殺す。容赦する気はない。 2:人を殺すことに、快楽を覚えた。 3:人間の血から、主の人間へ抱く感情の一端を知りたい。 4:パーフェクトゼクター(名前は知らない)を有効活用したい。 [備考] ※デネブの放送、および第一回放送を聞いていません。 ※首輪の制限時間に大体の目星を付け始めました。 ※ショッピングセンター内に風のエルの左手首が落ちています。 ※パーフェクトゼクターの使用法を理解しました。 ※パーフェクトゼクターへの各ゼクターの装着よりも、基本的には各ライダーへの変身が優先されます。現在は資格者不在のザビーゼクターのみ装着されています。 ※風間をオーヴァロードと勘違いしています。 【風間大介@仮面ライダーカブト】 [時間軸]:ゴンと別れた後 [状態]:鼻痛(鼻血は止まっています)。 全身に大ダメージ。鉄塔に宙づり。ドレイクに2時間変身不能。 [装備]:ドレイクグリップ、ドレイクゼクター [道具]:なし 【思考・状況】早期に殺し合いを止めた上でのスマートブレイン打倒 基本行動方針:打倒スマートブレイン 1:目の前の怪人から逃げて、仲間と合流。 2:協力者を集める(女性優先) 3:謎のゼクターについて調べる。 4:あすかの死に怒りと悲しみ。 5:移動車両を探す。 6:影山瞬に気をつける ※変身制限に疑問を持っています。 ---- |096:[[顔]]|投下順|098:[[金色の戦士(前編)]]| |096:[[顔]]|時系列順|098:[[金色の戦士(前編)]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[風のエル]]|105:[[病い風、昏い道(前編)]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[死神博士]]|000:[[後の作品]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[影山瞬]]|000:[[後の作品]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[城戸真司]]|000:[[後の作品]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[風間大介]]|105:[[病い風、昏い道(前編)]]|
*Sturm und Drache  イカデビルのマントの裏は鮮血のごとき赤に妖しく輝き、飢えた天使の欲情をかき立てる。狂気に満ちた奇声を上げて舞い降りてくる風のエルの振り下ろす刃を避けると、耳元の大気が異常な気配をはらんで震えた。  その刃に籠る振動、あるいは得体の知れないエネルギーと言うべきか。これが科学であるならば、この世にはまだ彼も知らない真理があるということだ。  ーーーーこの、時の摂理が乱れた世界には。  脅威を冷静に評価しながらも、死神博士は触手をふるって相手の腕に絡めた。踏みしめた足が、コンクリートの破片を微塵に砕く。  剣を掴んだ腕の自由を奪われ、血に飢えた御使いが必死に抗う。しめた、とおもった次の瞬間、相手は逆にひび割れた地面を蹴ってこちらに突進してきた。  突き出された剣先を交わした瞬間、わずかに緩んだ拘束を風のエルは見逃さない。弧を描いた空虚の刃がたわんだ触手を切り裂き、傷口から引きちぎられた絆を掴んだまま、二体の怪人は反動で後ずさった。  風のエルは再びゼクターの力を刃に込める。イカデビルが天を仰いだのは、あるいは嘆きにも見えたかもしれない。だが次の瞬間、天使の見えない翼を打ち据えようと上空から灼熱の塊が降り注ぐ。  ひと呼吸の後、衝撃に震え上がった辺り一面の窓ガラスが、掠れた悲鳴とともに砕け散った。           *  目の前に山をなし、なおも降り積もる瓦礫。護身の前に後ずさった影山の耳を、警報が激しく追い立てる。舞い上がった埃が穴と言う穴からなだれ込み、彼は思わずむせ返った。  繰り広げられる戦いの激しさに二の足を踏んでいたところ、そのまま足止めを食らってしまったというのが客観的な事実だろう。とはいえ、影山の内心にその『事実』を縦にしたいほどの恐怖心があったのもまた事実だった。  ザビーに見捨てられた苛立ちは、すぐさま周囲に渦巻く脅威への恐れに変わった。 逃げなければ。生き残らなければ。死にたくないという欲求をまるで下された命令のようにすり替える。  死神博士はきっとあの化け物を始末してくれるだろう。その後ならきっとザビーが取り戻せる。ザビーが逃げて行ったのは、あの怪物が持つわけのわからない道具に強制的に重用されたからだ。そうに違いない。  考えてみれば、ザビーを奪われたせいで怪物と戦う力のない自分が側にいた所で、戦える者にとっては足手まといにしかならない。だから自分は身の安全を考えるべきなのだ。それこそが、死神博士のためにもなろう。  身勝手な感情を都合のいい憶測でつなぎ止め、影山はひたすら廊下の奥へと走った。アルミ作りの安っぽい通用口を体当たりでこじ開けると、打ちっぱなしのコンクリートの帯が隣の建物へと続いているのが目に入る。彼は迷わずその建物に『身を隠した』、つまり逃げ込んだ。  よそよそしいほどの清潔感のある内装にほっとした瞬間、遠い爆音が壁を震わせる。  影山は悲鳴を飲み込むと、少しでも安全な場所を求めて辺りを見回した。  受付とおぼしきカウンターには紙が何枚か散乱したまま、ほこりを被った留守電のランプが虚しく点滅している。どことなくすえた臭いが漂うのは、この場所が放棄されてから時間がたったせいだろうか。  とりあえず身を隠そうとその先のトイレのドアを明けて脚を踏み入れた青年の足下に、赤茶けた砂粒と何かの影が映る。  彼はゆっくりと顔をあげ……悲鳴とともに廊下へ飛び出した。           *  一進一退、というところだろうか。  技で言えばイカデビルが勝っている。一方、風のエルは傷つき疲れているものの、その手に握る刃の切れ味は今だ鋭い。なにより、狂気の淵からわき上がる情動は、一度獲物と見定めたものをおいそれと投げ打ちはしない。  受け流すのは易いが、仕留めるにはこちらが決め手を欠く。瓦礫の山を築き上げながらも、死神博士は冷静に状況を分析していた。  獣の顎門を逃れさえすれば十分に勝算はある。ならばいっそ勝機のために、『餌』をくわせてやるか。  パーフェクトゼクターを引きずってこちらを見据える風のエルを誘導するように、イカデビルはゆっくりと位置を取る。瓦礫の間で足を止めると、視線を落とさぬままに爪先でそれを蹴り付けた。 「いつまで寝ているつもりだ。それでも仮面ライダーか!」  低く鋭い一喝に、風のエルが煽られたかのように身を弾ませる。  と同時に足下の瓦礫が僅かにゆらぎ、塵にまみれた人影が身を起こす。 「くっそ、油断したぜ……」  赤いスーツに身を包んだ戦士が、ゆっくりとその場で膝を立てた。背後の建物に残る硝子が、朱の鱗をまとう聖獣の姿を映し出す。  死神博士が内心口元を緩めたことに気づいたものはいなかったろう。龍と鳳、存分に噛み合えばいい。所詮役立たずなら、当て馬の労程度は果たしてもらわねば。  立ち上がり、体勢を整える城戸の傍らで、もう一つの人影が動き出す。こちらは既に変身を解かれ、惨めなほどに塵にまみれている。  対峙する風の使いと龍のあるじをよそに、風間大介は服の汚れを払った。なすすべもなく傍らで舞うドレイクゼクターをかまいもせずに呟く。 「花を渡る風ともあろうものが、惨めなものですね……」  それは単なる自虐に過ぎなかった。それ以上にも、それ以下にもなり得なかった。その言葉を発した者からしてみれば。  だが、言葉とは聞かれて初めて意味を持つ。  風のエルは、まるで己の名を呼ばれたかのように身を震わせた。感情はおろか本能ですらない、存在の根源に直接触れるその言葉が、瞬時に感覚を麻痺させた。  そもそも自分が風の力を得ていることなど、人間には知りようがないはずなのだ。それを見通され、あまつさえ己の行いを責められるとは。  常ならばそのような誤解も抱かなかっただろう。かかる拙い過ちを犯してしまうことそのものが、風のエルが主の御旨を踏み外したことの証明でもあった。むろん、それを当人が理解しているはずもない。  ただの一言に魂が芯まで凍てついたせいか、ふと辺りの光景が目に入る。  冷たいほどに白く清潔な壁はすでに隕石がまとった黒煙と亀裂とに穢されている。とはいえ、割れた硝子や開け放たれた扉の隙間から漂ってくる無機質な匂いが、その場所の性質を明確に物語る。  墜ちた人間たちを滅ぼすことを定めるまで、主が足を止めていた場所。病んだ人間たちが互いの傷を舐め合い、痛みを癒していた場所。  主がいたはずの場所で、主にしか語れないはずの言葉を聞く。その現実に、エルの意識は混濁した。  聖と汚れの感覚、畏れと嫌悪の感情。相対するそれらも、文明の初期においては同じ概念であったと言われている。人ならぬ御使いの身に、人間の持つ感情は本来無縁であったろう。それも人の血に汚れ、地に墜ちた天使となればことは違った。  汚れた人間に対する嫌悪と主に対する恐れ。対立する感情がないまぜになったまま、風のエルは衝動的に預言の主に飛びついた。先を失った腕でその身体を抱え上げると、露を払うかのように一度刃で振り払い、地を蹴る。  その聖なる鳥を撃ち落とさんばかりに天空から飛来した隕石は、赤紅の龍の身に阻まれた。 「何をしている!」  飛び去る影に迷いを残して空を舞うドラグレッダーの姿に、死神博士が怒号を浴びせる。 「だって、危ないじゃないか!あんなのが当たったら、大介だって無事じゃ済まない!」  言い返しながら変身を解く城戸の表情に、死神博士は苛立たしい絶望感を感じる。この男は役立たずなだけではない。足手まといを通り越して邪魔者だ。使い捨ての駒にすらならないとは。 「そんなことより、はやくあれを追いかけなきゃ……影山は?あいつはどこにいったんだ?」  人間としては真っ当かもしれないが、真司の言動はつくづく死神博士の神経を逆なでする。瓦礫の向うへと小走りに去る小柄な背中を、博士は苛立たしげに追った。           *   *   *  瓦礫と粉塵で廃墟の趣を漂わせる建物の裏、影山は渡り廊下に呆然と立ちすくんでいる。死神と城戸が鼻の先まで近づいて、ようやく彼は顔を上げた。 「なぜ逃げた。ここで何をしている」  追及の言葉に、影山は掠れ声で呟いた。 「……死体を、発見しました」  すっかり顔が土気色の影山からは、明らかにすえた臭いが漂ってくる。臭いが染み付くほどの腐乱死体であれば、時間的に他の参加者のものとは考えにくい。 「案内しろ」 「あ、はい……」  影山は消え入るような声でそう答えたものの、明らかに腰が引けている。 「なんだよ、どうしたんだよ」  洞察とは無縁なのだろうか、ストレートにいぶかしむ真司に、影山は怒りの視線を投げつけて向きを変えた。歪んだ通用口に歩み寄り、ドアノブに手をかけてまた顔をしかめる。  覚悟を決めて扉を押し開けると、きしみとともにかすかに死臭が漂ってきた。それと気づいた真司が眉をひそめるが、死神博士は表情一つ買えない。 「こちらです」  押し殺した声で呟き、影山が二人を廊下へと招き入れる。  辺りに漂う死臭の他には、さほど異様な気配のないごく普通の病棟だった。進むほどに異臭が強くなり、一層の違和感を醸し出す。  影山は女性用トイレの開け放されたドアの前で足を止めた。そのまま自分を追い抜いて行く死神博士の様子をちらりと横目で伺っている。  真司もジャケットの襟で口元を押さえたまま、中を覗き込んだ。と、眠気も疲労もすっかり醒めて息をのむ。  どす黒い塊が、個室の枠から釣り下がっていた。  死体の足下には褐色の小さな染みが残り、そこを中心に赤茶けた砂粒のようなものが散らかっている。その一部が動いているのに気づいた瞬間、真司の背筋を冷たい電撃が走った。  蛆だ。  ならば足下に散らばっているものはーーーー卵か蛹か、いずれにせよそういう類のものだろう。  それを理解した途端に彼の胃が疼いた。視線を移すためについ顔を上げて、死体がひからびてできた隙間にぎっしりとつまりっている蠅の蛹と、うごめいていまにも這い出そうとしている白い切れ端を見てしまう。  真司は顔をしかめ、口元を押さえたまま廊下へと出て行った。げんなりとした顔で呟く。 「ったく、しばらくはゴマシオ掛けたおこわが食えなくなりそうだな」 「想像させるな!本当に食えなくなるだろうが!!」  半ば裏返った声で真司を怒鳴りつける影山の目が微妙に充血して見えるのは気のせいではないだろう。明瞭な死、それもここまで醜い形に歪められた死を目にして、落ちついていられるほうがおかしい。  彼は改めて口元をジャケットの襟で覆いながら、中に一人残された死神博士の様子を伺った。  奇矯な黒装束の紳士は、表情を変えずに目の前の死体を観察している。  便器のふたは閉じられ、その上にスリッパが並べられている。便器を足台にしての首つり自殺といったところか。  手術着とおぼしき、膝上まで薄いローンの布を纏った『それ』の露出している下肢部分は、黒ずんだ筋肉組織の間から白い骨が見え隠れするほどに腐敗し崩落していた。足下の染みはおそらく脚部や内臓が腐敗したときに落ちた体液や組織によるものだ。  それにひきかえ上半身は黒ずんでこそいるが、ほぼ全体を残したまま縮れている。  通常、死体のミイラ化にはある程度条件が整っても三ヶ月かそれ以上かかる。この死体は換気を大切にするトイレの送風口の下にぶら下がっていたおかげか、風の当たる上半身だけが希代の好条件で『ひもの』にされたのだろう。下半身が腐敗しているのは、そこまで風が通り切らなかったせいだ。  としても一週間程度でここまで完全なミイラになるとは考えにくい。少なくとも一ヶ月、おそらく二ヶ月かそれ以上経っているに違いない。  加えて、トイレという場所も気になる。  病院にとって、衛生管理は最も重要な問題だ。加えて患者・スタッフ・来客、すべてに開放されているトイレと言う場所で患者が自殺などすれば大変な騒ぎになる。スタッフが慌てて片付けるだろう。  とはいえ迷い込んできた人間が、わざわざここで手術着に着替えて自殺したとは考えにくい。  もうひとつ、気になるのは死体の左肘の内側に固定された点滴用の針だ。  数日に渡って点滴がつづけられる場合、針だけはそのまま固定して輸液とチューブだけを交換することがある。とすればあそこで死んでいたのは、この病院で入院治療を受けていた患者と見て間違いない。  つまりーーーー。  患者がこの場で自殺したとき、この病院にスタッフはいなかった、ということだ。  通常の施設閉鎖なら患者は移送される。それが出来ないほどのどさくさにまぎれて自殺者が出たのか、それとも取り残されたのか。いずれにせよ、異常な事態だったことは想像に難くない。  死神は廊下に戻ると、そそくさと外に逃げ出そうとする影山を呼び止めた。 「他の部屋は調べたか」 「いえ」 「調べてこい」  冷たく命じられて、影山が一瞬身をちぢ込ませる。躊躇うというよりは怯えるように少しの間その場に立ち尽くしていたが、視線に促されてようやく奥へと歩き出す。 「じゃ、俺も行ってきます」 「お前はここにいろ」  どうせこいつを偵察に行かせた所で大した訳にも立つまい。その判断から、死神博士はあえて真司を入り口近くに残しておく選択をした。万が一侵入者があれば、身を以て警鐘を鳴らすくらいのことはしてくれるだろう。  廊下の奥には幾つか処置室が並んでいるが、診察室と書かれた部屋はない。奇妙に思いながらも進むと、広い階段に行き当たった。上の階からかすかに腐臭が漂ってくる。  廊下の突き当たりをうろちょろしている影山の姿を確かめると、死神は静かに階段を上った。  二階の廊下は想像以上に殺風景だった。所々開け放たれた部屋はすべて個室で、どこも大仰な医療器具が放置されたままだ。採尿袋に残った液体が茶色く濁るほどになっている様子から、その部屋の住人が退院したわけではないことがわかる。  閉め切られたままの扉を一つ開けてみると、途端に大量の蠅が飛び出してきた。死神はマントを振ってそれを払い、部屋の奥を見通す。  ベッドの上に、縮れて虫にたかられた腐乱死体が沈んでいた。虚しく動き続ける人工呼吸器の中にまで蛆が入り込み、空になった点滴の管はまだベッドの中に繋がったままだ。  死神博士はベッドに歩み寄り、点滴の袋を調べた。  つり下げられた輸液のバッグの一つには、マジックで鎮痛剤の名前と量が記入されている。それもただの鎮痛剤ではなく、麻薬に分類される代物だ。もう一つは高カロリー輸液のバッグ。これは食事が一切取れない時に栄養補給として使われる。  食事も自律呼吸もできず、麻薬で痛みを抑えている。明らかに死を待つだけの末期患者だ。ショッカーの技術を駆使すればいざしらず、通常の医術では救いようがなかったのだろう。  とはいえ、救いようがなかろうがどうであろうが、患者を放置し死なせるような病院があるわけがない。これは熟考すべき点だ。  博士はまとわりつく蠅を払いつつ、その部屋を後にした。           *  受付の書類を適当にひっくり返す真司を、影山は憎々しげに睨んでいる。お前一人楽をしやがって、とでも思っているのだろうか。だが死神の鳴らす足音に途端に姿勢を正すあたり、よほどの小心者だ。 「あ、博士。ちょっと面白いもん見つけたんすけど」  真司がカウンターの中から声をかける。死神は仕草で続けるよう促した。 「じゃ、ちょっとこの留守電聞いてくださいね」  青年がボタンを押すと、電話機から女声のメッセージが流れ出した。 『こちら、よつば療養所の小林です。井上研究室から受けたシュルトケスナー藻の薬理実験の結果が出ております。確認をお願いしたい、と米村先生にお伝えください』 「よつば療養所って、このボードにも貼ってありますけど、温泉のとこにあるみたいです。で、井上研究室ってのがこの大学」  伝言板に貼られた、色あせた地図を指差しながら真司が説明する。 「いつの伝言だ」 「えっと、この日付けからすると……二ヶ月ぐらい前、かな?」  簡潔な問いに、真司は携帯の日付けを見比べて答えた。  計算は合う。死神が深く頷くのを見て、真司が首をかしげた。 「あ、あの、何かわかったのでありましょうか!」  死神博士はちらりと影山の方を見ると、おもむろに口を開いた。 「おそらくこの病院は、数ヶ月前に放棄されている。それも患者を残したまま、だ。おそらくは、その伝言があった日の前後に放棄されたのだろうよ」 「え、ちょっとそれヤバくないすか?そんなことがあったら、絶対スクープになるからーーーーって、ああああああ!!」  出し抜けに城戸が大声を上げる。 「オレ、すごいスクープがあるってメールであの会社に呼ばれたんだった……」  頭を抱えて天を仰ぐその姿に、死神博士は小さく首を振った。 「それにホイホイ引っかかったというわけか」 「馬鹿だな」  頷いた影山に、真司がムキになってかみつく。 「死体見てちびってたお前に馬鹿言われたくねーよ!」 「ちびってなんかない!」  低レベルの争いをおっぱじめた二人をよそに、死神は地図を取り出し、改めて場所を確かめた。  伝言が言及していた二つの施設は、ともに島の西海岸に沿った道路に面している。幸い途中に設定された禁止エリアは一つだけ、それも簡単に迂回できる。  手がかりを探しに行く価値はあるだろう。そして行くのならば急ぐに越したことはない。死神博士はそう定めると、地図を畳んだ。 「療養所に向かうぞ。ついてこい」  言い放ち、確認もせずに外へ向かって歩き出す。 「あの、俺のザビーは……」  言いかける影山を押し退けて、真司は死神の前に立ちはだかった。 「そんなことより、大介はどうするんだよ!化け物に連れて行かれたんだぜ、あのまま放っておくわけにはいかないだろ!?」 「行方に関して、手がかりはあるのか?」 「それは……」  口ごもる真司を押し退けて、死神は再び歩き始める。 「ああ、そうだ。風間が残した荷物を回収してくるがいい。向うの瓦礫の中だ」  ぎろりと睨みつけられた影山が慌てて外に飛び出す。  実際のところ、今風のエルを追う価値はないのだ。こちらとしてはすぐには戦えない。なにより、役立たずに用はない。  もっとも、その本心を明かす義理はなかったが。           *   *   * 【G-4 病院】【日中】 【死神博士@仮面ライダー(初代)】 【時間軸】:一号に勝利後。 【状態】:擦り傷程度の傷多数  イカデビルに2時間変身不能 【装備】:鞭 【道具】:基本支給品一式、デスイマジンの鎌@仮面ライダー電王、ハイパーゼクター 【思考・状況】 基本行動方針:この殺し合いをショッカーの実験場と化す。 1:療養所、大学(研究室)を探索。現状を把握する。 2:集団を結成し、スマートブレインに対抗する。 3:影山や真司のような役立たずはいずれ切り捨てる。 4:首輪を外す方法を研究する。施設の候補は研究所か大学。首輪のサンプルが欲しい。 5:未知のライダーシステムおよびハイパーゼクターの技術を可能な限り把握する。 ※一文字隼人(R)の事を一文字隼人(O)だとは信じていません。 ※流れ星は一戦闘に六発まで使用可、威力はバイクがあれば割と余裕に回避できる程度。  尚、キック殺しは問題なく使えます。 ※変身解除の原因が、何らかの抑止力からではないかと推測しています。 ※風間と城戸の所持品、カブト世界、 龍騎世界について把握しました。 ※ハイパーゼクターはジョウント移動及び飛行が不可能になっています。マニュアルはありません。 【考察まとめ】 1.首輪の100%解析は不可だが、解除することは可能。 2.首輪を外せるのは罠で、タイミングが重要。 3.時空を超越して逃げても、追跡される。 4.会場に時の列車はない。あるとしてもスマートブレインの手の中。 5.ガオウから聞いた、デンライナーの持ち主は干渉を避けるために既に死んでいる可能性が高い。 6.ハイパーゼクターはカブトムシ型ゼクターで変身するライダーの強化アイテム。 7. この島では2ヶ月ほど前になんらかの異変が起きた。 【影山瞬@仮面ライダーカブト】 【時間軸:33話・天道司令官就任後】 【状態】:全身に若干の疲労。背中に軽い裂傷。 ザビーを失った悲しみ。 【装備】:ザビーブレス 【道具】:支給品一式×3、ラウズカード(◆J)、不明支給品0~2(確認済)、オロナミンC2本(ぬるめ) 【思考・状況】 基本行動方針:とりあえず死神博士についていく 1:ザビーを返してくれよぉ…… ※不明支給品は彼に戦力として見なされていません。 ※風間と城戸の所持品、龍騎世界について把握しました。 【城戸真司@仮面ライダー龍騎】 [時間軸]:劇場版、レイドラグーンへの特攻直前 [状態]:全身に大ダメージ。本郷、芝浦の死に悲しみ 。龍騎に2時間変身不能。 [装備]:カードデッキ(龍騎) [道具]:支給品一式 【思考・状況】 基本行動方針:早期に殺し合いを止めた上でのスマートブレイン打倒 1:仲間を集めて主催者打倒 。そのためにもなんとか風間を取り戻す。 2:金色の仮面ライダー(グレイブ)に注意する。茶髪の男?まさか…? 3:本郷の分まで戦う。 4:志村の後を追い、長田結花との合流を目指すついでに話を紐解く。 5:手塚に似てるなぁー。 [備考] ※不信感を多少持ちましたが、志村をまだ信用しています。 ※名簿に手塚、芝浦、東條、香川の名前がある事から、スマートブレインが死者蘇生の技術を持っていると考えています。 ※連続変身出来なかった事に疑問を感じています。 ※志村について話していません。 ※カブト世界について把握しました。           *   *   *  これほど眺めのいい場所は、島中を探してもそうそう見つからないだろう。  放送局の屋上にしつらえられた電波塔。鉄骨とアンテナとが複雑に入り組んだ建造物の一番高いところに彼は身を置いていた。とはいえ、自分の意志でそうしているわけではない。  彼、風間大介は、そこに吊るされているのだった。  下手人ーーーー人ではなかったがーーーーは、すぐ足下で彼を崇めるように見上げている。 「主よ、御身の望む通り、人の子の血を流そう」  『笑顔』としか言い得ない表情を口元に浮かべて、御使いは彼に告げた。 「我は地の塩を知った。人の子は我が火で塩の味を付けられるだろう。すべて、御身の望む通りに」  その手に異形の剣を握り、風のエルは大きく礼を施す。  話が通じる相手ではない、と大介は理解した。この怪物は狂っている。自分を誰かと誤解しているだけではない。その『誰か』の名に於いて、とてつもなく物騒な行動を起こそうとしている。  彼の身を案じるように、ドレイクゼクターが周囲を舞っている。名にし負う竜であればともかく、華奢なその身では人ひとりを背負ってどうこうすることもかなわない。風の精霊は、ただ翼に怒りをたたえて風の天使を睨み据えるばかりだった。           *   *   * 【G-3 放送局・屋上】【日中】 【風のエル@仮面ライダーアギト】 [時間軸]:48話 [状態]:頭部にダメージ。全身に大程度の負傷・行動原理に異常発生。左手首欠損。2時間能力発揮不可。 [装備]:パーフェクトゼクター(+ザビーゼクター) [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:優勝して帰る。 帰還した暁には、主に未知の力を報告。 1:「仲間」を持つ「強き者」を殺す。容赦する気はない。 2:人を殺すことに、快楽を覚えた。 3:人間の血から、主の人間へ抱く感情の一端を知りたい。 4:パーフェクトゼクター(名前は知らない)を有効活用したい。 [備考] ※デネブの放送、および第一回放送を聞いていません。 ※首輪の制限時間に大体の目星を付け始めました。 ※ショッピングセンター内に風のエルの左手首が落ちています。 ※パーフェクトゼクターの使用法を理解しました。 ※パーフェクトゼクターへの各ゼクターの装着よりも、基本的には各ライダーへの変身が優先されます。現在は資格者不在のザビーゼクターのみ装着されています。 ※風間をオーヴァロードと勘違いしています。 【風間大介@仮面ライダーカブト】 [時間軸]:ゴンと別れた後 [状態]:鼻痛(鼻血は止まっています)。 全身に大ダメージ。鉄塔に宙づり。ドレイクに2時間変身不能。 [装備]:ドレイクグリップ、ドレイクゼクター [道具]:なし 【思考・状況】早期に殺し合いを止めた上でのスマートブレイン打倒 基本行動方針:打倒スマートブレイン 1:目の前の怪人から逃げて、仲間と合流。 2:協力者を集める(女性優先) 3:謎のゼクターについて調べる。 4:あすかの死に怒りと悲しみ。 5:移動車両を探す。 6:影山瞬に気をつける ※変身制限に疑問を持っています。 ---- |096:[[顔]]|投下順|098:[[金色の戦士(前編)]]| |096:[[顔]]|時系列順|098:[[金色の戦士(前編)]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[風のエル]]|105:[[病い風、昏い道(前編)]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[死神博士]]|106:[[龍哭(前編)]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[影山瞬]]|106:[[龍哭(前編)]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[城戸真司]]|106:[[龍哭(前編)]]| |095:[[完璧の名の下に]]|[[風間大介]]|105:[[病い風、昏い道(前編)]]|

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