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流されやすい者達」(2008/05/29 (木) 18:57:55) の最新版変更点

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*流されやすい者達  「一体どういうつもりだ、スマートブレインは…」  唐突に殺し合いを要求され、リゾートアイランドとされる場に飛ばされ、携帯で見せられたのは二人の人間の死―  この冗談にもならない一連の流れが終わり、しばしの沈黙後に放たれた第一声がそれだった。我ながら平凡な一言だと思う。  これは現実だ。そう自分に言い聞かせると、面識ある女に説明された、デイ・パックの中身を確認する。  といっても辺り一面には漆黒が広がり、この状態ではろくに確認もできない。  既に取り出し、先ほどの惨劇を自分に見せつけた携帯を明かりにする。  最初に出てきたのはマグライト。これを光源として再びパックを見ると、出てくるのは飲食物、筆記用具…説明通りだ。更にコンパスと地図。  いわゆる「必需品」という物ばかりなのだが、一つ明らかにこれらと比べて違和感を醸し出す物が存在した。  「これは、カードかな?」  自問してみるが、言うまでもなくカードだ。しかし硬い。人に投げつければ刺さってしまうかもしれない程だ。  よく見ると隅には◆の字が確認できた。一見凝ったトランプの様だが、「FUSION」といった文字や、+2400といった数字もある。  まるでトレーディング・カードだ。用途は分からないが、とりあえず持っていた方が良いに越したことがないのは理解できる。  そして最後に、自分自身の意思をハッキリさせなくてはならない。脱出を目指すか、言われるがまま殺し合いに参加するか。  ここで「殺し合いには乗らない」と即決できない自分の弱さが憎い。  葛藤するが、それは頭の中に自分とよく似た存在、乾巧が描かれたことで終了する。  彼は今苦しんでいる。オルフェノクと人間の狭間で。  名簿に彼やその名前達の名前は無かった。が、今の彼の相談相手になれるのは、  似た苦しみを味わっている自分やその仲間だけだ。  だがその仲間の名前は名簿に記されてしまっている。ならば答えは簡単だ。  「殺し合いを止め、ここから脱出する」  一連の確認を終え、荷物を持ち歩きだす。コンパスを頼りに、まずは東を目指す。  理由は二つ。自分の現在地はH-1。この空間の西端にあたる。  そしてこの地の東に都市部が存在する点。仲間達と合流するには、人が集まるであろう都市部に行くのが一番だからだ。グズグズしている暇は無い。  マグライトで足元を確保しつつ、土を踏みしめるように歩を進めた。 ◆  「………くそ、移動手段があれば」  影山瞬は、思わずぼやいた。暗闇の中ガソリンスタンドに着いたにも関わらず、肝心の乗り物が無いのだ。  1時間程前、彼は放送で説明された、『入っちゃ行けない秘密のエリア』が自分の現在地だと知り自分の運の無さを嘆いた。  その上、彼はデイ・パックの中に「とってもスペシャルな便利グッズ」の姿を認めることができなかった。  尤も、彼の想定した「殺傷能力を持つ武器」「自らの姿を戦闘に適した姿へと変えるツール」が存在しなかっただけで、支給はされているのだが。  散々な思いで南下してきた結果が、これだった。  我慢にも限界というものがある。今の彼には、この世の全てが敵に思えた。  ザビーの資格者となってから目立った戦果は上げられず、任務は失敗続き。  挙句の果てには敵であるカブト―天道総司が自分の上司になり、今度は訳の分からない連中の命令で殺し合いを強制され、死ぬかもしれない―  冗談では無かった。彼はこんな場所で野垂れ死にする気は毛頭無いのだから。  極限まで追い詰められた彼の精神状態で導き出せた結論はただ一つ。  「この戦いに、勝ち残ってやる…」  そうとなれば早速行動に移す。先手必勝という言葉の如く。  この南には倉庫街があった。身を隠しておくには丁度良い場所といえる。  いきなり参加者が集まるであろう市街地の中央に出向く必要はない。  まずは殺し合わせ、自分自身は安全な場所で倒せる敵のみを確実に狙う。  これが彼にとって参加者達に求める理想系――パーフェクト・ハーモニーなのだ。 ◆  歩き出してどのくらい経っただろうか。  道なりに進まず、真東に進んで来たのだから、そろそろ倉庫街の筈だ。  ここまで歩く間、携帯を確認してみたが、あのどうしようもなく人を不快に陥れる女の言う通り、通話やメールの送信はできない様だった。  もう一つ自分が保有している携帯電話、ファイズフォンの通話機能も遮断されている様だ。  そのままただ真っ直ぐに進むと、前方に僅かだが光が感じられる。  気付けば辺りは暗闇に包まれた倉庫街その場所であり、光はその中の一角から漏れているようだ。  中に人がいるのか、いるならそれは味方か、敵か――  様々な推測が脳内を駆け巡り、その光へと自分を歩ませるのが分かった。  「すみません、誰かいますか?」  倉庫の壊れかかった戸を開け、まずは一言。しかし、反応は無い。  何歩か進み、辺りを見回す。無造作に放置された機材やダンボールに目がいく。  緊張を解いた瞬間、室内の明かりが弱まり、何かが飛び回る音が体を駆け抜けた。  移動する音の向かう方向、右斜め後ろを振り向く。  スーツのような何かを着た小柄の男が一人。右手には……蜂が握られている。  そして―  「変身!」  蜂が左腕へと移動し、  ――HENSHIN――  電子音が鳴り響いた。 ◆    (狙い通りっていうのは、正にこういうことかな…)  口元が微笑を浮かべていることが分かる。  伊達にシャドウの隊長を務めている訳じゃない。  幾度も実践してきたように、己の気配を絶つ。  獲物はごくごく普通の姿をした青年。  神経を研ぎ澄ませ、相手から見て右後ろから接近する。  静かに合図を送る。苦を共にしてきた相棒に。  室内の明かりをいくつか壊しながら、自らの右掌に相棒―ザビーゼクターが収まる。  それを左手首に取り付け……    「変身!」    ―HENSHIN―    左手首周辺から装甲が順に形成され、俺はザビーへとその姿を変える。  男には明らかに動揺が見えた。始めからこの隙を突くのが狙いだ。  一撃で、倒す。そう念じながら右腕を突き出していく。  ザビーのパンチは、クリーンヒットすればワームすら粉砕する威力を持つ。  こんな人間一人、訳無い筈だ。  それなのに…男はそれを、回避した。  普通の人間なら、こちらの変身を目にした時点でこちらには十分な期間の隙が生じる。  だがこいつは動揺を早期に断ち切った。まるで奇襲が、日常茶飯事であるかのように、だ。  間合いをとった男は銀色のトランクを開き、中からベルト状の何かと、円柱型の物体を取り出した。  更に素早い動きで、腰に取り付ける。どこと無くカブトのそれに似ている。  もっとも、カブト―天道なら、予めベルトを装備しておくだろうが。  この瞬間、ゼクターの出現を警戒するが、その気配も、音も感じられなかった。  その事実を確認した次の瞬間、更に距離を広げた男は、左側のポケットから携帯を取り出す。  しかしその形状は俺が支給された物とは異なる。その存在を疑問視する間は無く。    ――Standing by――    男は携帯を開き何かを入力し、更にこの電子音声が鳴り止むより早くそれを閉じた。そして――  「変身」    ―Complete―    ベルトの時点で大体の予想はついていたが、やはりこいつもライダー。  だが男を包み始めたのは装甲ではなく真紅の光線で、それが更に輝くことでライダーが出現した。  ZECTの新型か、それともこの闘いを開いたスマートブレインとかいう組織のライダーか、また別の物なのか?  (そんなことはどうだって良い。こいつは…参加者は、俺の敵だ!)  そう心に決め、構えを取り直した。 ◆  お互いの右腕から放たれた渾身の一撃が、相手の首輪の少し上、左頬を包む装甲を軋ませる。    片や、兄の様に慕った男の示した完全な調和を目指す洗練された構えから突き出される拳。    対して、以前の自分が味わった苦しみに囚われている友に道を示すために纏った姿からの攻撃。    この二人に共通するのは、本当の自分をまだ導き出せていないところだろうか。  故に彼らは揺るぎ無き信念を既に確立している者達に敗れ、時に躍らされる。  そこで自分を強く持てないから、何度も終わらないジレンマから抜け出すこともない。  そんな自身を否定するかの如く、両者の攻防は一撃毎に重みを増していくのだ。    変身してどの位経っただろうか――木場は冷静に思考する。  攻撃の停止を求める前に変身したのがミスだったのは誰が見ても明白だった。  ワンクッション挟まなかったことが彼を影山に敵と認識させ、その後の説得は全て聞き流された。  勿論彼とてこの状況で説得を続けられる程温くは無い。  戦闘状態での説得が無理ならば、その能力を奪えば良い。そう方針転換する。  幾度かファイズとして戦う内に、ようやく体にスーツが馴染んできたことを彼は感じ取っていた。  そして動きが鋭くなったことで、木場はより正確に戦力差を計ることが可能となる。  認めたくは無かったが、一撃の重さ、それに耐える防御力でファイズが明らかに劣る。  それならば、とファイズの脚が地面を蹴る。素早い跳躍で背後を奪うと、後頭部目掛けて左の拳を突き付け―――  ――Cast off――  ―――られることは無かった。目の前で弾け飛んだ白銀の装甲が視界を遮り、本能的に両腕を防御態勢へと移行させた。  辺りの瓦礫はその破片、もしくはそのアクションにより狂わされた疾風に吹き飛ばされ。    そして眼前に現れたのは、先程までの「蜂の巣」では無く、その中に潜んでいた「蜂」そのものだ。  一呼吸置く間も無いまま、彼を死へと誘うべく、影山なりの完全調和の最終章が幕を開けた。  ――Clock up――    姿を消した「蜂」はファイズが次の瞬間に到達するよりも早く体を刺し始める。  一点を襲う痛みは、膝を付くことすら許さずに一瞬で体全体を飲み込み、やがて来る最期を予感させる。  この時木場は、本来ならば左手首に存在する筈の対抗手段が姿を消していた事実を呪った。  だがそれから然程間を空けず、自身が次の瞬間へと到達したという事実にも気付いた。  目の前に再び現れた「蜂」は、一瞬の躊躇の後、向かって右側の毒針を突き出してくる。  この一撃が命運を分けることを把握するや否や、ファイズは前方へ踏み込む。  避ける時間が無いなら、防ぐ自身が無いなら、攻撃そのものを阻止すれば良い。  ギリギリの間合いから踏み込み、右拳を打ち上げる。首輪の前を抜け顎へと直撃した一閃は、彼を死から遠ざけた。  更に左足で胸板を蹴り飛ばす。ここまで相手に合わせるかのように、全撃を腕で行ってきたことが、結果的に吉と出た格好となる。  そのままザビーが立ち上がるより早く、ポインターが右足首に取り付けられ―― ◆  (あれ、どうして俺は……)  朦朧とする意識の中、状況を整理する。  キャストオフで隙を作り、クロックアップへと繋げ、痛め付けたところでライダースティングをチャージ。  そこで終わる筈が、独立していた時間の流れがいつもより早く元に戻り、最後の一発が回避された。  そこで逆に一発もらい、続けざまに蹴り飛ばされて……    ようやく焦点が合う。が、そこに広がったのは見たく無かった光景だった。    ――Exceed charge――    ベルトから出現した光が、僅かな明るさを保つ倉庫全体を輝かせ、右足へ到達する。  間違いない。俺はこの光景を今まで目にしている。  苦難の日々を取り込んだ、頭の端末からその情報を探し出していくと、一つの経験が検索にヒットする。  『――ライダー……キック』  そうだ。ライダーキック。今の工程は正にそれだ。ならどうする?  ――突っ込むな。体中がそう働き掛けているのが分かる。  当然だ。今まで何度そうやって爆散したワームを見てきた?  間合いを広げ、死角から一撃で仕留るしかない。  「クロックアッ……」  左手がベルトに添えられるよりも、早く……奴の右足は突き出された。  そしてそれと同時に眼前で花開く真紅。身動きが取れない。  跳躍する敵。その態勢は飛び蹴り以外の何者でもない。  何となくだが自分の末路が読めた。理由は定かじゃないが、前世、或は夢中の自分辺りがこんな攻撃を受けたことがあるのかもかも知れない。  でもこんな場所で死にたく無い。ZECTに、自分の居場所に帰りたい。  辛うじて動く左手の動きを再開させ、スライドさせる。再び空間の流れが変わることを実感する。  神様はまだ俺を見捨ててはいないようだ。そのまま右手を懸命に左手首へ向かわせる。  こうしている間も、銀色のライダーはこちらへとスローモーションで距離を縮めている。  そんな中でようやく再開を果たす両手。キャストオフの際と逆の手順を踏む。    ――Put on――    普段と何も変わらない機械音に、どうしようもなく感動を覚えるのは何故なのだろうか。  再び集まった金属片は俺を護る鋼の鎧となり、真紅の突入を阻止する。弾き飛ばされる銀色。  「俺の……勝ちだ!」    再び間合いを詰め、渾身の殴撃を放とうとしたその瞬間、無常にも携帯が鳴り響く。  次の瞬間には相棒がブレスから離れた。  それはあちらも同様なようで、険しい顔をした青年がその姿を現した。 ◆    「どういうことだ!?」  影山は激昂する。ようやく、この戦いに自分の手で終止符を打つところだったのだ。それを阻止されたことで、昇華しつつあった苛立ちが再燃する。  消化不良のザビーゼクターが再びブレスに収まるが、変身する様子は無い。  「落ち着いてください、話し合いましょう」  一方の木場は、戦闘が自分のベストとする展開で終結したことに安堵した。  少しずつ影山へと向かって歩を進める。  「クッ……こんなところで、死んでたまるか!」  相手の話は何も聞こえていない割に、影山はどこにそんな力が残されていたのか、と言わんばかりの勢いで正面に見える腰へ手を伸ばすと、白銀のベルトを引き剥がす。  「ザビーが駄目なら、こいつで」  ファイズフォンを開く影山。ご丁寧にコードは表示されている。  素早くコードを入力し、再びそれをベルトに収めようとする。  木場の顔に馬を模る紋様が出現するが、彼はそれをすぐに打ち消す。  何故ならば。  ――Error――    影山瞬に、このベルトはどう足掻いても扱えないのである。  吹き飛ぶ彼に木場が近づき。  「とりあえず、話を聞いてくれませんか」 ◆    「……つまり、影山君はZECTという組織に所属するエリート部隊長で、その……蜂、ザビーゼクターで変身するってことなんですね」  「そういうことだ。それと、敬語は鬱陶しいだけだ。タメ口でいい。それより、主催者がお前と同じオルフェノクって奴なのは間違いないな?」  話し始めてからこの男……木場が危害を加えることはなかった。  こいつや主催者の村上は、オルフェノクとかいうワームとは違う元人間で、だからこのベルトを使い、ファイズというライダーに変身できる。ただ一つ疑念が残った。  「じゃあ何でお前は、オルフェノクに変身しなかったんだ」  オルフェノクがワームに近い能力を有しているなら、俺を殺すのは簡単な筈だ。だがこいつはそれをしない。  「……俺は、この殺し合いに乗らない。この島から脱出したいと思っている」  そう簡単に信じられるか、と言い返してやろうとも思ったが、真剣な顔を見る限り本気のようだ。  「脱出するにしても、何か心当たりはあるのか?」  「主催者の村上社長は同じ世界の人間だ。仲間達と合流して、彼を倒すことができれば…」  本気で言っているのだろうか。主催者を倒す。そんなことが簡単にできれば苦労なんてしない。正直戸惑ったが、この闘いに勝ち残るよりはマシな選択肢かも知れない。  「誰か協力できそうな人間はいるのか?」  携帯で名簿を開き、尋ねてみる。  「海堂と、長田さんは俺と同じ様に、スマートブレインと敵対しているオルフェノクだ。信頼できる」  示された指先を目で追う。同じ様に知り合いを紹介しようと思うが、天道に頼るのは気が引ける。  「加賀美って奴なら使えるかも知れない」  と素っ気無く話すと、水を取り出し、口に含む。  「とりあえず休ませてくれ。俺は疲れているんだ」  自分を偽れない奴は付き合い難いけど、信頼はできるんだよな…… **状態表 【木場勇治@仮面ライダー555】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:H-2 倉庫街南東の小倉庫】 【時間軸:39話・巧捜索前】 【状態】:全身に疲労。外傷は特に無し。ファイズに約2時間変身不可。 【装備】:ファイズギア 【道具】:支給品一式、ラウズカード(◆J) 【思考・状況】 基本行動方針:主催者及びスマートブレインの打倒、脱出 1.影山と共に海堂・長田・加賀美の捜索 2.首輪の解除 3.事情を知らない者の前ではできるだけオルフェノク化を使いたくない 【影山瞬@仮面ライダーカブト】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:H-2 倉庫街南東の小倉庫】 【時間軸:33話・天道司令官就任後】 【状態】:全身に疲労。外傷は特に無し。ザビーに約2時間変身不可。 【装備】:ザビーゼクター、ブレス 【道具】:支給品一式、不明支給品(確認済) 【思考・状況】 基本行動方針:木場に協力し、脱出 1.木場の行動に協力する。 2.単独行動は避ける。 3.自分に使用可能な武器・変身ツールの確保 ※午前1時過ぎの時点でG-2のガソリンスタンドに乗り物はありませんでした。 ※不明支給品は彼に戦力として見なされていません。 |006:[[そういう・アスカ・腹黒え]]|投下順|008:[[Action-DENEB]]| |005:[[歪んでいる時間の道]]|時系列順|008:[[Action-DENEB]]| ||[[木場勇治]]|000:[[]]| ||[[影山瞬]]|000:[[]]|
*流されやすい者達  「一体どういうつもりだ、スマートブレインは…」  唐突に殺し合いを要求され、リゾートアイランドとされる場に飛ばされ、携帯で見せられたのは二人の人間の死―  この冗談にもならない一連の流れが終わり、しばしの沈黙後に放たれた第一声がそれだった。我ながら平凡な一言だと思う。  これは現実だ。そう自分に言い聞かせると、面識ある女に説明された、デイ・パックの中身を確認する。  といっても辺り一面には漆黒が広がり、この状態ではろくに確認もできない。  既に取り出し、先ほどの惨劇を自分に見せつけた携帯を明かりにする。  最初に出てきたのはマグライト。これを光源として再びパックを見ると、出てくるのは飲食物、筆記用具…説明通りだ。更にコンパスと地図。  いわゆる「必需品」という物ばかりなのだが、一つ明らかにこれらと比べて違和感を醸し出す物が存在した。  「これは、カードかな?」  自問してみるが、言うまでもなくカードだ。しかし硬い。人に投げつければ刺さってしまうかもしれない程だ。  よく見ると隅には◆の字が確認できた。一見凝ったトランプの様だが、「FUSION」といった文字や、+2400といった数字もある。  まるでトレーディング・カードだ。用途は分からないが、とりあえず持っていた方が良いに越したことがないのは理解できる。  そして最後に、自分自身の意思をハッキリさせなくてはならない。脱出を目指すか、言われるがまま殺し合いに参加するか。  ここで「殺し合いには乗らない」と即決できない自分の弱さが憎い。  葛藤するが、それは頭の中に自分とよく似た存在、乾巧が描かれたことで終了する。  彼は今苦しんでいる。オルフェノクと人間の狭間で。  名簿に彼やその名前達の名前は無かった。が、今の彼の相談相手になれるのは、  似た苦しみを味わっている自分やその仲間だけだ。  だがその仲間の名前は名簿に記されてしまっている。ならば答えは簡単だ。  「殺し合いを止め、ここから脱出する」  一連の確認を終え、荷物を持ち歩きだす。コンパスを頼りに、まずは東を目指す。  理由は二つ。自分の現在地はH-1。この空間の西端にあたる。  そしてこの地の東に都市部が存在する点。仲間達と合流するには、人が集まるであろう都市部に行くのが一番だからだ。グズグズしている暇は無い。  マグライトで足元を確保しつつ、土を踏みしめるように歩を進めた。 ◆  「………くそ、移動手段があれば」  影山瞬は、思わずぼやいた。暗闇の中ガソリンスタンドに着いたにも関わらず、肝心の乗り物が無いのだ。  1時間程前、彼は放送で説明された、『入っちゃ行けない秘密のエリア』が自分の現在地だと知り自分の運の無さを嘆いた。  その上、彼はデイ・パックの中に「とってもスペシャルな便利グッズ」の姿を認めることができなかった。  尤も、彼の想定した「殺傷能力を持つ武器」「自らの姿を戦闘に適した姿へと変えるツール」が存在しなかっただけで、支給はされているのだが。  散々な思いで南下してきた結果が、これだった。  我慢にも限界というものがある。今の彼には、この世の全てが敵に思えた。  ザビーの資格者となってから目立った戦果は上げられず、任務は失敗続き。  挙句の果てには敵であるカブト―天道総司が自分の上司になり、今度は訳の分からない連中の命令で殺し合いを強制され、死ぬかもしれない―  冗談では無かった。彼はこんな場所で野垂れ死にする気は毛頭無いのだから。  極限まで追い詰められた彼の精神状態で導き出せた結論はただ一つ。  「この戦いに、勝ち残ってやる…」  そうとなれば早速行動に移す。先手必勝という言葉の如く。  この南には倉庫街があった。身を隠しておくには丁度良い場所といえる。  いきなり参加者が集まるであろう市街地の中央に出向く必要はない。  まずは殺し合わせ、自分自身は安全な場所で倒せる敵のみを確実に狙う。  これが彼にとって参加者達に求める理想系――パーフェクト・ハーモニーなのだ。 ◆  歩き出してどのくらい経っただろうか。  道なりに進まず、真東に進んで来たのだから、そろそろ倉庫街の筈だ。  ここまで歩く間、携帯を確認してみたが、あのどうしようもなく人を不快に陥れる女の言う通り、通話やメールの送信はできない様だった。  もう一つ自分が保有している携帯電話、ファイズフォンの通話機能も遮断されている様だ。  そのままただ真っ直ぐに進むと、前方に僅かだが光が感じられる。  気付けば辺りは暗闇に包まれた倉庫街その場所であり、光はその中の一角から漏れているようだ。  中に人がいるのか、いるならそれは味方か、敵か――  様々な推測が脳内を駆け巡り、その光へと自分を歩ませるのが分かった。  「すみません、誰かいますか?」  倉庫の壊れかかった戸を開け、まずは一言。しかし、反応は無い。  何歩か進み、辺りを見回す。無造作に放置された機材やダンボールに目がいく。  緊張を解いた瞬間、室内の明かりが弱まり、何かが飛び回る音が体を駆け抜けた。  移動する音の向かう方向、右斜め後ろを振り向く。  スーツのような何かを着た小柄の男が一人。右手には……蜂が握られている。  そして―  「変身!」  蜂が左腕へと移動し、  ――HENSHIN――  電子音が鳴り響いた。 ◆    (狙い通りっていうのは、正にこういうことかな…)  口元が微笑を浮かべていることが分かる。  伊達にシャドウの隊長を務めている訳じゃない。  幾度も実践してきたように、己の気配を絶つ。  獲物はごくごく普通の姿をした青年。  神経を研ぎ澄ませ、相手から見て右後ろから接近する。  静かに合図を送る。苦を共にしてきた相棒に。  室内の明かりをいくつか壊しながら、自らの右掌に相棒―ザビーゼクターが収まる。  それを左手首に取り付け……    「変身!」    ―HENSHIN―    左手首周辺から装甲が順に形成され、俺はザビーへとその姿を変える。  男には明らかに動揺が見えた。始めからこの隙を突くのが狙いだ。  一撃で、倒す。そう念じながら右腕を突き出していく。  ザビーのパンチは、クリーンヒットすればワームすら粉砕する威力を持つ。  こんな人間一人、訳無い筈だ。  それなのに…男はそれを、回避した。  普通の人間なら、こちらの変身を目にした時点でこちらには十分な期間の隙が生じる。  だがこいつは動揺を早期に断ち切った。まるで奇襲が、日常茶飯事であるかのように、だ。  間合いをとった男は銀色のトランクを開き、中からベルト状の何かと、円柱型の物体を取り出した。  更に素早い動きで、腰に取り付ける。どこと無くカブトのそれに似ている。  もっとも、カブト―天道なら、予めベルトを装備しておくだろうが。  この瞬間、ゼクターの出現を警戒するが、その気配も、音も感じられなかった。  その事実を確認した次の瞬間、更に距離を広げた男は、左側のポケットから携帯を取り出す。  しかしその形状は俺が支給された物とは異なる。その存在を疑問視する間は無く。    ――Standing by――    男は携帯を開き何かを入力し、更にこの電子音声が鳴り止むより早くそれを閉じた。そして――  「変身」    ―Complete―    ベルトの時点で大体の予想はついていたが、やはりこいつもライダー。  だが男を包み始めたのは装甲ではなく真紅の光線で、それが更に輝くことでライダーが出現した。  ZECTの新型か、それともこの闘いを開いたスマートブレインとかいう組織のライダーか、また別の物なのか?  (そんなことはどうだって良い。こいつは…参加者は、俺の敵だ!)  そう心に決め、構えを取り直した。 ◆  お互いの右腕から放たれた渾身の一撃が、相手の首輪の少し上、左頬を包む装甲を軋ませる。    片や、兄の様に慕った男の示した完全な調和を目指す洗練された構えから突き出される拳。    対して、以前の自分が味わった苦しみに囚われている友に道を示すために纏った姿からの攻撃。    この二人に共通するのは、本当の自分をまだ導き出せていないところだろうか。  故に彼らは揺るぎ無き信念を既に確立している者達に敗れ、時に躍らされる。  そこで自分を強く持てないから、何度も終わらないジレンマから抜け出すこともない。  そんな自身を否定するかの如く、両者の攻防は一撃毎に重みを増していくのだ。    変身してどの位経っただろうか――木場は冷静に思考する。  攻撃の停止を求める前に変身したのがミスだったのは誰が見ても明白だった。  ワンクッション挟まなかったことが彼を影山に敵と認識させ、その後の説得は全て聞き流された。  勿論彼とてこの状況で説得を続けられる程温くは無い。  戦闘状態での説得が無理ならば、その能力を奪えば良い。そう方針転換する。  幾度かファイズとして戦う内に、ようやく体にスーツが馴染んできたことを彼は感じ取っていた。  そして動きが鋭くなったことで、木場はより正確に戦力差を計ることが可能となる。  認めたくは無かったが、一撃の重さ、それに耐える防御力でファイズが明らかに劣る。  それならば、とファイズの脚が地面を蹴る。素早い跳躍で背後を奪うと、後頭部目掛けて左の拳を突き付け―――  ――Cast off――  ―――られることは無かった。目の前で弾け飛んだ白銀の装甲が視界を遮り、本能的に両腕を防御態勢へと移行させた。  辺りの瓦礫はその破片、もしくはそのアクションにより狂わされた疾風に吹き飛ばされ。    そして眼前に現れたのは、先程までの「蜂の巣」では無く、その中に潜んでいた「蜂」そのものだ。  一呼吸置く間も無いまま、彼を死へと誘うべく、影山なりの完全調和の最終章が幕を開けた。  ――Clock up――    姿を消した「蜂」はファイズが次の瞬間に到達するよりも早く体を刺し始める。  一点を襲う痛みは、膝を付くことすら許さずに一瞬で体全体を飲み込み、やがて来る最期を予感させる。  この時木場は、本来ならば左手首に存在する筈の対抗手段が姿を消していた事実を呪った。  だがそれから然程間を空けず、自身が次の瞬間へと到達したという事実にも気付いた。  目の前に再び現れた「蜂」は、一瞬の躊躇の後、向かって右側の毒針を突き出してくる。  この一撃が命運を分けることを把握するや否や、ファイズは前方へ踏み込む。  避ける時間が無いなら、防ぐ自身が無いなら、攻撃そのものを阻止すれば良い。  ギリギリの間合いから踏み込み、右拳を打ち上げる。首輪の前を抜け顎へと直撃した一閃は、彼を死から遠ざけた。  更に左足で胸板を蹴り飛ばす。ここまで相手に合わせるかのように、全撃を腕で行ってきたことが、結果的に吉と出た格好となる。  そのままザビーが立ち上がるより早く、ポインターが右足首に取り付けられ―― ◆  (あれ、どうして俺は……)  朦朧とする意識の中、状況を整理する。  キャストオフで隙を作り、クロックアップへと繋げ、痛め付けたところでライダースティングをチャージ。  そこで終わる筈が、独立していた時間の流れがいつもより早く元に戻り、最後の一発が回避された。  そこで逆に一発もらい、続けざまに蹴り飛ばされて……    ようやく焦点が合う。が、そこに広がったのは見たく無かった光景だった。    ――Exceed charge――    ベルトから出現した光が、僅かな明るさを保つ倉庫全体を輝かせ、右足へ到達する。  間違いない。俺はこの光景を今まで目にしている。  苦難の日々を取り込んだ、頭の端末からその情報を探し出していくと、一つの経験が検索にヒットする。  『――ライダー……キック』  そうだ。ライダーキック。今の工程は正にそれだ。ならどうする?  ――突っ込むな。体中がそう働き掛けているのが分かる。  当然だ。今まで何度そうやって爆散したワームを見てきた?  間合いを広げ、死角から一撃で仕留るしかない。  「クロックアッ……」  左手がベルトに添えられるよりも、早く……奴の右足は突き出された。  そしてそれと同時に眼前で花開く真紅。身動きが取れない。  跳躍する敵。その態勢は飛び蹴り以外の何者でもない。  何となくだが自分の末路が読めた。理由は定かじゃないが、前世、或は夢中の自分辺りがこんな攻撃を受けたことがあるのかもかも知れない。  でもこんな場所で死にたく無い。ZECTに、自分の居場所に帰りたい。  辛うじて動く左手の動きを再開させ、スライドさせる。再び空間の流れが変わることを実感する。  神様はまだ俺を見捨ててはいないようだ。そのまま右手を懸命に左手首へ向かわせる。  こうしている間も、銀色のライダーはこちらへとスローモーションで距離を縮めている。  そんな中でようやく再開を果たす両手。キャストオフの際と逆の手順を踏む。    ――Put on――    普段と何も変わらない機械音に、どうしようもなく感動を覚えるのは何故なのだろうか。  再び集まった金属片は俺を護る鋼の鎧となり、真紅の突入を阻止する。弾き飛ばされる銀色。  「俺の……勝ちだ!」    再び間合いを詰め、渾身の殴撃を放とうとしたその瞬間、無常にも携帯が鳴り響く。  次の瞬間には相棒がブレスから離れた。  それはあちらも同様なようで、険しい顔をした青年がその姿を現した。 ◆    「どういうことだ!?」  影山は激昂する。ようやく、この戦いに自分の手で終止符を打つところだったのだ。それを阻止されたことで、昇華しつつあった苛立ちが再燃する。  消化不良のザビーゼクターが再びブレスに収まるが、変身する様子は無い。  「落ち着いてください、話し合いましょう」  一方の木場は、戦闘が自分のベストとする展開で終結したことに安堵した。  少しずつ影山へと向かって歩を進める。  「クッ……こんなところで、死んでたまるか!」  相手の話は何も聞こえていない割に、影山はどこにそんな力が残されていたのか、と言わんばかりの勢いで正面に見える腰へ手を伸ばすと、白銀のベルトを引き剥がす。  「ザビーが駄目なら、こいつで」  ファイズフォンを開く影山。ご丁寧にコードは表示されている。  素早くコードを入力し、再びそれをベルトに収めようとする。  木場の顔に馬を模る紋様が出現するが、彼はそれをすぐに打ち消す。  何故ならば。  ――Error――    影山瞬に、このベルトはどう足掻いても扱えないのである。  吹き飛ぶ彼に木場が近づき。  「とりあえず、話を聞いてくれませんか」 ◆    「……つまり、影山君はZECTという組織に所属するエリート部隊長で、その……蜂、ザビーゼクターで変身するってことなんですね」  「そういうことだ。それと、敬語は鬱陶しいだけだ。タメ口でいい。それより、主催者がお前と同じオルフェノクって奴なのは間違いないな?」  話し始めてからこの男……木場が危害を加えることはなかった。  こいつや主催者の村上は、オルフェノクとかいうワームとは違う元人間で、だからこのベルトを使い、ファイズというライダーに変身できる。ただ一つ疑念が残った。  「じゃあ何でお前は、オルフェノクに変身しなかったんだ」  オルフェノクがワームに近い能力を有しているなら、俺を殺すのは簡単な筈だ。だがこいつはそれをしない。  「……俺は、この殺し合いに乗らない。この島から脱出したいと思っている」  そう簡単に信じられるか、と言い返してやろうとも思ったが、真剣な顔を見る限り本気のようだ。  「脱出するにしても、何か心当たりはあるのか?」  「主催者の村上社長は同じ世界の人間だ。仲間達と合流して、彼を倒すことができれば…」  本気で言っているのだろうか。主催者を倒す。そんなことが簡単にできれば苦労なんてしない。正直戸惑ったが、この闘いに勝ち残るよりはマシな選択肢かも知れない。  「誰か協力できそうな人間はいるのか?」  携帯で名簿を開き、尋ねてみる。  「海堂と、長田さんは俺と同じ様に、スマートブレインと敵対しているオルフェノクだ。信頼できる」  示された指先を目で追う。同じ様に知り合いを紹介しようと思うが、天道に頼るのは気が引ける。  「加賀美って奴なら使えるかも知れない」  と素っ気無く話すと、水を取り出し、口に含む。  「とりあえず休ませてくれ。俺は疲れているんだ」  自分を偽れない奴は付き合い難いけど、信頼はできるんだよな…… **状態表 【木場勇治@仮面ライダー555】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:H-2 倉庫街南東の小倉庫】 【時間軸:39話・巧捜索前】 【状態】:全身に疲労。外傷は特に無し。ファイズに約2時間変身不可。 【装備】:ファイズギア 【道具】:支給品一式、ラウズカード(◆J) 【思考・状況】 基本行動方針:主催者及びスマートブレインの打倒、脱出 1.影山と共に海堂・長田・加賀美の捜索 2.首輪の解除 3.事情を知らない者の前ではできるだけオルフェノク化を使いたくない 【影山瞬@仮面ライダーカブト】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:H-2 倉庫街南東の小倉庫】 【時間軸:33話・天道司令官就任後】 【状態】:全身に疲労。外傷は特に無し。ザビーに約2時間変身不可。 【装備】:ザビーゼクター、ブレス 【道具】:支給品一式、不明支給品(確認済) 【思考・状況】 基本行動方針:木場に協力し、脱出 1.木場の行動に協力する。 2.単独行動は避ける。 3.自分に使用可能な武器・変身ツールの確保 ※午前1時過ぎの時点でG-2のガソリンスタンドに乗り物はありませんでした。 ※不明支給品は彼に戦力として見なされていません。 |006:[[そういう・アスカ・腹黒え]]|投下順|008:[[Action-DENEB]]| |005:[[歪んでいる時間の道]]|時系列順|008:[[Action-DENEB]]| ||[[木場勇治]]|038:[[蜂の乱心!!]]| ||[[影山瞬]]|038:[[蜂の乱心!!]]|

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