「白い悪意」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

白い悪意」(2008/05/19 (月) 08:03:00) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

*白い悪意 彼女はなぜ自分がこのような場所にいるのか理解できなかった。 彼女の名は長田結花。 以前はごくごく普通の女子高生だった。 いや、それは語弊があるのかもしれない。 彼女の生活には常に暗い影が掛かっていた。 彼女はいつもいじめられていた。 家庭でも学校でもいじめられる日々。 所詮は義理の家族、父と母は妹の方ばかり気に掛け、妹も彼女を虐げる。 学校でも浴びせられるのは悪意に満ちた罵声。 彼女はそんな日々に絶望していた。 そしてそんなある日……彼女は死んだ。 雪の降りしきる日、彼女はその若き命を散らした―― ――はずだった。 確かに死んだはずだった。 だが彼女は偶然か必然か二度目の生を手に入れる事になる。 それは人あらざる者である証拠。 彼女は蘇った――人あらざる進化した者、オルフェノクとして。 しかし、二度目の生を手に入れたところで彼女に帰る場所など無かった。 家も学校も彼女に安息を齎してはくれなかった。 だから彼女は激情の赴くままに――人間を憎んだ。 自分を蔑んだ人間を、自分に害する人間を、何の感傷もなく殺した。 ――孤独―― そう、当時の彼女は孤独の中にいた。 もとよりいじめられていた日々、彼女を気遣うものなど誰もいなかった。 メールで優しい言葉をかけてくれる人がいた事はいた。 そんな事をしても情けなくて嘘つきな自分を見るだけというのに。 だがそんな彼女にも手を差し伸べてくれる者が現われた。 名前は木場勇治。 彼女と同じくオルフェノクとなった者だ。 彼は初めて出会った時に言った――「君の仲間だ……」と。 それからの彼女は一人ではなくなった。 そして様々な人と出会った。 海堂直也、乾巧、園田真理、菊池啓太郎………… 彼女はここに来てやっと安息の場所を手に入れる事ができたのだ。 時には自分達を裏切り者として狙うスマート・ブレイン社が幾度となく襲ってくる事もあった。 だがそれでも彼女にとって今は心休まる時間だった。 こんな時間がいつまでも続けばいい、そう願っていた。 願いは、幸せな時間は、唐突に終わりを告げた。 「あなた、何人もの人間を襲っているって聞いたけど……」 そう語りかけてくる人が現われて、いきなり襲われて、逃げた先には―― 「生きたまま捕獲するんだ!」 そう叫ぶ声と共に放たれる弾丸。 彼女は生存本能の示すままに周りにいる人をオルフェノクの力で―― そして気づけばこの地にいた。  ◆ ◆ ◆ 「私は……」 そう、自分は警官に囲まれて、銃で撃たれて、それから―― 記憶はそこまでだった。 なぜ自分がいきなり見知らぬ場所にいるのか。 あの警官はどこへ行ったのか。 全く分かりはしなかった。 分かる事は、これがスマート・ブレイン社の主催する殺し合いだという事。 「……殺し合い……」 社長の村上とかいう人はそう言った。 だがそう言われて素直に従う人がいるとはあまり思えない。 実際、早々に抜け出る人がいた――すぐに殺されてしまったが。 それからしばらく私は考えていた。 地図によれば、工場らしき建物の位置からこの場所はB-5辺りらしい。 一応デイパックの中身と名簿には目を通しておいた。 デイパックには言われた通り食料などと共に見慣れぬ道具が入っていた。 見たところカードデッキのようで、なにやら白板に金色の模様があしらっている。 使い道が分からないので、他のアイテムと共にデイパックに戻しておく。 そして名簿。 見知った名前は自分も含めて3つ。 木場勇治、海堂直也、そして自分――長田結花の名。 乾さん達がいない事から、最初はスマート・ブレイン社が自分達のような裏切り者のオルフェノクを始末するために、このような事を計画したと思った。 だがすぐにその可能性は低いという結論に至った。 自分達を気づかれないように集めたのなら、その時点で始末する方が簡単だ。 わざわざこのような手間を踏む理由が無い。 結局のところ、私にはそれ以上の事は検討もつかなかった。 とりあえず自分の身の振り方を決めなくては……つまり―― 幸せな時間は、場所は、あの瞬間崩壊した。 もう以前のようにはいかないだろう。 あれほど輝いていたものは何の前触れもなしに壊されてしまった。 ――悪意に満ちた人間の手によって。 私は何か悪い事をしたのだろうか。 確かに以前はこの手で人間を襲った事もある。 だがもうそんな事はしていない。 木場さんは言っていた――「人間として人間を守りたい」と。 だが果たして一方的にオルフェノクを敵視する人間に守る価値などあるのだろうか。 オルフェノクの中にだって木場さんや海堂さんのように人間を襲うのを好しとしない者もいるのに。 間違っているのは果たして自分達の方だろうか。 いや、それは違う気がする。 私達はなろうと思ってオルフェノクになったのではない。では―― マチガッテイルノハワタシタチデハナク、セカイノホウ? 「いけない、こんな考えじゃ……」 だが一度頭に浮かんだ考えはなかなか離れない。 今この瞬間にも木場さんや海堂さんが人間に騙されて後ろから―― 「大丈夫。海堂さんはともかく、木場さんは……」 でも、それでも不安は徐々に心の内を占めていく。 それは白き翼を持つ者には相応しくない色。 闇のように暗い黒。 いや、白だからこそ少量の黒でも毒と成り得るのだろうか。 そんな時だった。 どこからか声が聞こえてきた。 オルフェノクに覚醒すると、五感が高まるという特徴がある。 よって自分の聴力は常人より優れている――なぜかいつもより聞こえ難くなってはいるが。 その声は東の方から聞こえてくるようだ。 『……………………………………………………』 しかしさすがに遠くて聞こえない。 そこで声のする方に向かおうと思い、東へと足早に移動を始めた。 『……………………………………………………』 まだ聞こえない。 それなりに距離があったのか。 『……俺………はデネブ――』 「きゃっ」 暗い夜道で足元をよく見ないで急いでいたせいだろう。 地面の凹凸に足を取られて、派手に転んでしまった。 自分でも気付かないうちにかなり焦っていたようだ。 『…………から…………………がい…………………』 しかも転倒したせいで頭を打って少しクラッとなり、声も少しくぐもって聞こえる。 症状は軽いので段々元通りに聞こえるようになってきているのは幸いだった。 さっきの声も再び―― 『――侑斗に会う時は注意してくれ!』 「え!?」 その言葉を聞いた途端、私は動きかけた身体を止めた。 目の前に川が流れていて渡るのが大変という事もあったが、それはこの際些細な事だった。 ――侑斗に会う時は注意してくれ! これはどういう意味だろう。 その前には『害』とか言っていた気がする。 この状況で注意しなければいけない人間とはどういう人だろう。 他人に『害』を及ぼす、もっと極端に言えば『殺し合いに乗っている』人間!? 確かに名簿にはそれに該当する人物『桜井侑斗』の名前がある。 じゃあこの……デネブさんはその事を皆に教えようと―― 『侑斗はとっても――――――お! おわぁ!? だ!誰!?モ、モガモガ…………』 それっきりデネブさんの声が聞こえてくる事はなかった。 デネブさんがどうなったのか容易に想像がつく。 声を聞きつけた人間に口封じのために殺されてしまったのだろう。 では誰が? 今の発言を聞かれては都合の悪い人物――桜井侑斗しかいない。 「木場さん……海堂さん……」 急いで来た道を引き返し始める。 どうせ目の前の川を渡るのは時間がかかるだろう。 それより早く二人にこの事を知らせないと。 もうすでに殺し合いに乗っている人間はいるのだ。 もしかしたら他にも悪意ある人間が――  ◆ ◆ ◆ 「……ふう、そろそろ移動するか」 闇夜に紛れて潜む人物――彼の名は志村純一、またの名をアルビノジョーカー。 ブレイドとクウガとの戦闘を終えて数時間。 彼は人目の付かない場所でこの時間を休憩に充てていた。 まだ殺し合いは始まったばかりだ。 無理して下手に動くよりコンディションを万全にする事の方が望ましい。 だからといって彼にはいつまでもこうしているつもりは毛頭なかった。 痛みと疲労がだいぶ取れたところで当初の考え通り市街地へと移動を開始しようとする。 「さてまずはチーフと合流できれば――ん?」 ふと見ると誰かがこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。 音から察するにかなり余裕がないように思えるが―― (今からやり過ごすのは難しいか……とりあえず怪我をした振りをして様子を見るか。  いざとなったら殺せばいいだけの話だ) そして数秒後、走ってきた人物――長田結花は木に凭れかかっている志村と出くわす事となる。 結花としては一刻も早く木場や海堂と合流したかったが、そのまま素通りする訳にもいかない。 時間を惜しみながらも怪我をしていると思しき彼に声をかける。 「あの、大丈夫ですか」 「ああ、なんとかね」 もちろん志村の方は演技である。 実際志村は痛みと疲労がだいぶ取れていて動くのに支障はないくらいに回復していた。 これまでも演技を続けてきたのだ、彼にとってこれくらいなんて事はない。 「俺は志村純一、もちろん殺し合いには乗っていない」 「長田結花です。私も乗っていません」 「よかった。ところで急いでいたみたいだが、何かあったのか?」 「ええ、実は……」 結花はさっき聞いたデネブにまつわる顛末をできる限り話した。 志村もその話を興味深く熱心に聞いていた。 そして次第に彼の顔には笑みが浮かんできていた。 暗いせいで結花はその笑みに最後まで気づく事はなかった。 「そうか。なら君は急いでその情報を他の殺し合いに乗っていない人達に知らせてくれ。  俺も一緒に行けたらよかったんだが、まだ動けるには時間がかかりそうだ」 「でも……志村さん一人じゃ……」 「君を一人で行かせるのは気が進まないが、許してくれ。  俺の事はいいから、早く!」 「……わかりました」 「すまない。それともう一つ言っておく事がある。  俺を襲った奴らの事だ」 そこで志村は『殺し合いに乗った二人組に襲われた状況』を結花に教えた。 開始早々出会った人物、剣崎一真。 彼は殺し合いには乗っていないと言い、共に行動しようとしていた矢先だった。 カミキリムシのような外見の白い怪物が襲いかかってきたのは。 二人で応戦しようとした瞬間、そこで剣崎一真が牙をむいてきた。 剣崎と白い怪物は組んでいて自分は不意を突かれて怪我を負わされてしまった。 なんとか奴らの目を逃れて、やっとここまで落ちのびてきたと―― 「たぶん奴らは俺にかなりの怪我を負わせたと思って興味を失ったんだろう。  だが運よく傷の方は予想に反してそれほど深手じゃなかった。  すまないが、誰かに会ったらその二人にも気をつけるように言ってくれ。頼む」 「……はい」 そう言って結花はその場を足早に去っていった。 後に残ったのは偽りの仮面をつけた志村純一のみ。 彼が言った事は嘘である――白い怪物、アルビノジョーカーが殺し合いに乗っている点を除いてだが。 彼が望むのはお人好し共で勝手に潰し合ってくれる事。 これはそのための布石であった。 もし今の情報がクウガの耳に入ったら―― ブレイドは先程の戦闘で自分を追撃してこなかった。 理由は定かではないが、これを聞いたらクウガは次のような仮説に至るだろう。 『自分を騙すための一芝居では?』 ブレイドにとって先の戦闘は信頼を得るための芝居であり、追撃しなかったのは白い怪物こそが真の協力者であったから。 その考えに至らずとも、ブレイドとクウガの間に不信感が生じるのは大いに期待できるだろう。 いずれその溝は決定的な亀裂へと昇華される可能性も高い。 他の人物に知られても、二人の不利になる事は変わりない。 こちらとしては労せずに潰し合いが誘発されるのだから願ったり叶ったりだ。 唯一の懸念は自分の嘘がばれた時。 だがそのような状況でも自分への痛手は少ないだろう。 白い怪物が殺し合いに乗っている事は事実であるし、自分を騙したのは『剣崎一真』と名乗る人物だと彼女には言ってある。 偽名を使ってきたと言い逃れする事は十分可能だ。 「加えてデネブとかいう奴の話……」 自分なりにこの話を検討してみた結果、桜井侑斗に関しては何とも言えないが、デネブは死んでいないという結論に至った。 決め手はデネブが口をふさがれて消息を絶ったという点だ。 もし桜井侑斗が殺し合いに乗っていてデネブを発見したなら、すぐに殺しにかかるはずだ。 口をふさぐ必要などどこにも存在しない。 おそらく彼女は気が動転してそこまで考えが至らなかったのだろう。 「さてこの情報もどうするか」 彼女はメッセンジャーとして市街地の方へ向かって行ったようだ。 途中で誰かに殺されてしまう可能性もあるが、結局は殺す事になるのだからどうでもいい。 できる事なら可能な限り多くの人に誤解を振り撒いてほしいところだが……贅沢も言っていられない。 自分もこの偽りの知らせを皆に振り撒いていこう。 市街地に行くのもいいが、これなら市街地は彼女に任せて自分は別の場所に行くのも一考か。 途中でアルビノジョーカーとして誰かを襲うのもいいかもしれない。 白い怪物の話が広がれば、話の信憑性も上がるだろう。 相対的に集団の中で信頼を勝ち取れば、志村純一=白い怪物という考えには至らないはずだ。 白い悪意は闇の夜に紛れて蠢きだす。 【1日目 黎明】【D-4 丘陵地帯】 【志村純一@仮面ライダー剣・劇場版】 【時間軸】剣崎たちに出会う前 【状態】封印エネルギーによる痛み(普通に動ける程度まで回復) 【装備】グレイブバックル 【道具】支給品一式(未確認支給品×1) 【思考・状況】 基本行動方針:人間を装い優勝する。 1:移動して集団に紛れ込む。(市街地に拘らない) 2:橘チーフに合流。 3:『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』という情報を流す。 4:誰にも悟られず、かつ安全な状況でならジョーカー化して参加者を殺害or襲ってアルビノジョーカーの存在をアピールする。 ※デネブの放送について(長田が聞いた範囲で)知りました。  桜井侑斗は危険人物(?)、デネブは生きていると考えています。 ※どこへ向かうかは後続の書き手にお任せします。 その頃、市街地に向かっていたはずの長田結花は立ち止まっていた。 彼女は考えていた――『人間なんて本当に守る価値などあるのだろうか』と。 危険人物を皆に知らせようとしたデネブさんは桜井侑斗に殺されてしまった。 志村さんも剣崎という人に騙されて襲われた。 人間はなんて身勝手で愚かな生き物だろう。 いつでも自分の都合を押し付けて他人を蹴落とそうとする。 「……人間なんてッ」 なら自分はどう動くべきか。 今まで通り人間のために動くべきか否か。 しかしいきなり銃で撃たれた事実は結花の心に確かな歪みとして重くのしかかる。 いっそ木場さんや海堂さん以外全員を皆殺しにした方がいいのではないか。 そんな考えも頭をよぎる。 一方でそれはいけないと訴える自分もいる。 「私は――」 それは白い翼に広がる黒い悪意―― 【1日目 黎明】【E-5 丘陵地帯】 【長田結花@仮面ライダー555】 【時間軸】本編第41話終了直後(武装警官を一掃する直前) 【状態】健康、人間への不信感・憎悪(軽度)、疾走による小程度の疲労 【装備】なし 【道具】支給品一式(不明支給品1~2)、カードデッキ(ファム) 【思考・状況】 基本行動方針:木場さんと海堂さんの無事が最優先。 1:人間は守る価値などあるのだろうか。 2:殺し合いに乗っていない人物に自分の知っている事(↓参照)を教える。 3:いざとなったら木場と海堂以外の人間を皆殺しにする? ※長田の知っている事:『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物でデネブを殺害した』 ※これからどこへ向かうかは後続の書き手にお任せします。 |016:[[囚われの虎と蛇]]|投下順|018:[[吼える]]| |000:[[前の作品]]|時系列順|019:[[想いを鉄の意志に変えて]]| ||[[長田結花]]|033:[[ワインディング・ロード]]| |012:[[「誰か」のためのライダー]]|[[志村純一]]|026:[[切り札の在処は]]|
*白い悪意 彼女はなぜ自分がこのような場所にいるのか理解できなかった。 彼女の名は長田結花。 以前はごくごく普通の女子高生だった。 いや、それは語弊があるのかもしれない。 彼女の生活には常に暗い影が掛かっていた。 彼女はいつもいじめられていた。 家庭でも学校でもいじめられる日々。 所詮は義理の家族、父と母は妹の方ばかり気に掛け、妹も彼女を虐げる。 学校でも浴びせられるのは悪意に満ちた罵声。 彼女はそんな日々に絶望していた。 そしてそんなある日……彼女は死んだ。 雪の降りしきる日、彼女はその若き命を散らした―― ――はずだった。 確かに死んだはずだった。 だが彼女は偶然か必然か二度目の生を手に入れる事になる。 それは人あらざる者である証拠。 彼女は蘇った――人あらざる進化した者、オルフェノクとして。 しかし、二度目の生を手に入れたところで彼女に帰る場所など無かった。 家も学校も彼女に安息を齎してはくれなかった。 だから彼女は激情の赴くままに――人間を憎んだ。 自分を蔑んだ人間を、自分に害する人間を、何の感傷もなく殺した。 ――孤独―― そう、当時の彼女は孤独の中にいた。 もとよりいじめられていた日々、彼女を気遣うものなど誰もいなかった。 メールで優しい言葉をかけてくれる人がいた事はいた。 そんな事をしても情けなくて嘘つきな自分を見るだけというのに。 だがそんな彼女にも手を差し伸べてくれる者が現われた。 名前は木場勇治。 彼女と同じくオルフェノクとなった者だ。 彼は初めて出会った時に言った――「君の仲間だ……」と。 それからの彼女は一人ではなくなった。 そして様々な人と出会った。 海堂直也、乾巧、園田真理、菊池啓太郎………… 彼女はここに来てやっと安息の場所を手に入れる事ができたのだ。 時には自分達を裏切り者として狙うスマート・ブレイン社が幾度となく襲ってくる事もあった。 だがそれでも彼女にとって今は心休まる時間だった。 こんな時間がいつまでも続けばいい、そう願っていた。 願いは、幸せな時間は、唐突に終わりを告げた。 「あなた、何人もの人間を襲っているって聞いたけど……」 そう語りかけてくる人が現われて、いきなり襲われて、逃げた先には―― 「生きたまま捕獲するんだ!」 そう叫ぶ声と共に放たれる弾丸。 彼女は生存本能の示すままに周りにいる人をオルフェノクの力で―― そして気づけばこの地にいた。  ◆ ◆ ◆ 「私は……」 そう、自分は警官に囲まれて、銃で撃たれて、それから―― 記憶はそこまでだった。 なぜ自分がいきなり見知らぬ場所にいるのか。 あの警官はどこへ行ったのか。 全く分かりはしなかった。 分かる事は、これがスマート・ブレイン社の主催する殺し合いだという事。 「……殺し合い……」 社長の村上とかいう人はそう言った。 だがそう言われて素直に従う人がいるとはあまり思えない。 実際、早々に抜け出る人がいた――すぐに殺されてしまったが。 それからしばらく私は考えていた。 地図によれば、工場らしき建物の位置からこの場所はB-5辺りらしい。 一応デイパックの中身と名簿には目を通しておいた。 デイパックには言われた通り食料などと共に見慣れぬ道具が入っていた。 見たところカードデッキのようで、なにやら白板に金色の模様があしらっている。 使い道が分からないので、他のアイテムと共にデイパックに戻しておく。 そして名簿。 見知った名前は自分も含めて3つ。 木場勇治、海堂直也、そして自分――長田結花の名。 乾さん達がいない事から、最初はスマート・ブレイン社が自分達のような裏切り者のオルフェノクを始末するために、このような事を計画したと思った。 だがすぐにその可能性は低いという結論に至った。 自分達を気づかれないように集めたのなら、その時点で始末する方が簡単だ。 わざわざこのような手間を踏む理由が無い。 結局のところ、私にはそれ以上の事は検討もつかなかった。 とりあえず自分の身の振り方を決めなくては……つまり―― 幸せな時間は、場所は、あの瞬間崩壊した。 もう以前のようにはいかないだろう。 あれほど輝いていたものは何の前触れもなしに壊されてしまった。 ――悪意に満ちた人間の手によって。 私は何か悪い事をしたのだろうか。 確かに以前はこの手で人間を襲った事もある。 だがもうそんな事はしていない。 木場さんは言っていた――「人間として人間を守りたい」と。 だが果たして一方的にオルフェノクを敵視する人間に守る価値などあるのだろうか。 オルフェノクの中にだって木場さんや海堂さんのように人間を襲うのを好しとしない者もいるのに。 間違っているのは果たして自分達の方だろうか。 いや、それは違う気がする。 私達はなろうと思ってオルフェノクになったのではない。では―― マチガッテイルノハワタシタチデハナク、セカイノホウ? 「いけない、こんな考えじゃ……」 だが一度頭に浮かんだ考えはなかなか離れない。 今この瞬間にも木場さんや海堂さんが人間に騙されて後ろから―― 「大丈夫。海堂さんはともかく、木場さんは……」 でも、それでも不安は徐々に心の内を占めていく。 それは白き翼を持つ者には相応しくない色。 闇のように暗い黒。 いや、白だからこそ少量の黒でも毒と成り得るのだろうか。 そんな時だった。 どこからか声が聞こえてきた。 オルフェノクに覚醒すると、五感が高まるという特徴がある。 よって自分の聴力は常人より優れている――なぜかいつもより聞こえ難くなってはいるが。 その声は東の方から聞こえてくるようだ。 『……………………………………………………』 しかしさすがに遠くて聞こえない。 そこで声のする方に向かおうと思い、東へと足早に移動を始めた。 『……………………………………………………』 まだ聞こえない。 それなりに距離があったのか。 『……俺………はデネブ――』 「きゃっ」 暗い夜道で足元をよく見ないで急いでいたせいだろう。 地面の凹凸に足を取られて、派手に転んでしまった。 自分でも気付かないうちにかなり焦っていたようだ。 『…………から…………………がい…………………』 しかも転倒したせいで頭を打って少しクラッとなり、声も少しくぐもって聞こえる。 症状は軽いので段々元通りに聞こえるようになってきているのは幸いだった。 さっきの声も再び―― 『――侑斗に会う時は注意してくれ!』 「え!?」 その言葉を聞いた途端、私は動きかけた身体を止めた。 目の前に川が流れていて渡るのが大変という事もあったが、それはこの際些細な事だった。 ――侑斗に会う時は注意してくれ! これはどういう意味だろう。 その前には『害』とか言っていた気がする。 この状況で注意しなければいけない人間とはどういう人だろう。 他人に『害』を及ぼす、もっと極端に言えば『殺し合いに乗っている』人間!? 確かに名簿にはそれに該当する人物『桜井侑斗』の名前がある。 じゃあこの……デネブさんはその事を皆に教えようと―― 『侑斗はとっても――――――お! おわぁ!? だ!誰!?モ、モガモガ…………』 それっきりデネブさんの声が聞こえてくる事はなかった。 デネブさんがどうなったのか容易に想像がつく。 声を聞きつけた人間に口封じのために殺されてしまったのだろう。 では誰が? 今の発言を聞かれては都合の悪い人物――桜井侑斗しかいない。 「木場さん……海堂さん……」 急いで来た道を引き返し始める。 どうせ目の前の川を渡るのは時間がかかるだろう。 それより早く二人にこの事を知らせないと。 もうすでに殺し合いに乗っている人間はいるのだ。 もしかしたら他にも悪意ある人間が――  ◆ ◆ ◆ 「……ふう、そろそろ移動するか」 闇夜に紛れて潜む人物――彼の名は志村純一、またの名をアルビノジョーカー。 ブレイドとクウガとの戦闘を終えて数時間。 彼は人目の付かない場所でこの時間を休憩に充てていた。 まだ殺し合いは始まったばかりだ。 無理して下手に動くよりコンディションを万全にする事の方が望ましい。 だからといって彼にはいつまでもこうしているつもりは毛頭なかった。 痛みと疲労がだいぶ取れたところで当初の考え通り市街地へと移動を開始しようとする。 「さてまずはチーフと合流できれば――ん?」 ふと見ると誰かがこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。 音から察するにかなり余裕がないように思えるが―― (今からやり過ごすのは難しいか……とりあえず怪我をした振りをして様子を見るか。  いざとなったら殺せばいいだけの話だ) そして数秒後、走ってきた人物――長田結花は木に凭れかかっている志村と出くわす事となる。 結花としては一刻も早く木場や海堂と合流したかったが、そのまま素通りする訳にもいかない。 時間を惜しみながらも怪我をしていると思しき彼に声をかける。 「あの、大丈夫ですか」 「ああ、なんとかね」 もちろん志村の方は演技である。 実際志村は痛みと疲労がだいぶ取れていて動くのに支障はないくらいに回復していた。 これまでも演技を続けてきたのだ、彼にとってこれくらいなんて事はない。 「俺は志村純一、もちろん殺し合いには乗っていない」 「長田結花です。私も乗っていません」 「よかった。ところで急いでいたみたいだが、何かあったのか?」 「ええ、実は……」 結花はさっき聞いたデネブにまつわる顛末をできる限り話した。 志村もその話を興味深く熱心に聞いていた。 そして次第に彼の顔には笑みが浮かんできていた。 暗いせいで結花はその笑みに最後まで気づく事はなかった。 「そうか。なら君は急いでその情報を他の殺し合いに乗っていない人達に知らせてくれ。  俺も一緒に行けたらよかったんだが、まだ動けるには時間がかかりそうだ」 「でも……志村さん一人じゃ……」 「君を一人で行かせるのは気が進まないが、許してくれ。  俺の事はいいから、早く!」 「……わかりました」 「すまない。それともう一つ言っておく事がある。  俺を襲った奴らの事だ」 そこで志村は『殺し合いに乗った二人組に襲われた状況』を結花に教えた。 開始早々出会った人物、剣崎一真。 彼は殺し合いには乗っていないと言い、共に行動しようとしていた矢先だった。 カミキリムシのような外見の白い怪物が襲いかかってきたのは。 二人で応戦しようとした瞬間、そこで剣崎一真が牙をむいてきた。 剣崎と白い怪物は組んでいて自分は不意を突かれて怪我を負わされてしまった。 なんとか奴らの目を逃れて、やっとここまで落ちのびてきたと―― 「たぶん奴らは俺にかなりの怪我を負わせたと思って興味を失ったんだろう。  だが運よく傷の方は予想に反してそれほど深手じゃなかった。  すまないが、誰かに会ったらその二人にも気をつけるように言ってくれ。頼む」 「……はい」 そう言って結花はその場を足早に去っていった。 後に残ったのは偽りの仮面をつけた志村純一のみ。 彼が言った事は嘘である――白い怪物、アルビノジョーカーが殺し合いに乗っている点を除いてだが。 彼が望むのはお人好し共で勝手に潰し合ってくれる事。 これはそのための布石であった。 もし今の情報がクウガの耳に入ったら―― ブレイドは先程の戦闘で自分を追撃してこなかった。 理由は定かではないが、これを聞いたらクウガは次のような仮説に至るだろう。 『自分を騙すための一芝居では?』 ブレイドにとって先の戦闘は信頼を得るための芝居であり、追撃しなかったのは白い怪物こそが真の協力者であったから。 その考えに至らずとも、ブレイドとクウガの間に不信感が生じるのは大いに期待できるだろう。 いずれその溝は決定的な亀裂へと昇華される可能性も高い。 他の人物に知られても、二人の不利になる事は変わりない。 こちらとしては労せずに潰し合いが誘発されるのだから願ったり叶ったりだ。 唯一の懸念は自分の嘘がばれた時。 だがそのような状況でも自分への痛手は少ないだろう。 白い怪物が殺し合いに乗っている事は事実であるし、自分を騙したのは『剣崎一真』と名乗る人物だと彼女には言ってある。 偽名を使ってきたと言い逃れする事は十分可能だ。 「加えてデネブとかいう奴の話……」 自分なりにこの話を検討してみた結果、桜井侑斗に関しては何とも言えないが、デネブは死んでいないという結論に至った。 決め手はデネブが口をふさがれて消息を絶ったという点だ。 もし桜井侑斗が殺し合いに乗っていてデネブを発見したなら、すぐに殺しにかかるはずだ。 口をふさぐ必要などどこにも存在しない。 おそらく彼女は気が動転してそこまで考えが至らなかったのだろう。 「さてこの情報もどうするか」 彼女はメッセンジャーとして市街地の方へ向かって行ったようだ。 途中で誰かに殺されてしまう可能性もあるが、結局は殺す事になるのだからどうでもいい。 できる事なら可能な限り多くの人に誤解を振り撒いてほしいところだが……贅沢も言っていられない。 自分もこの偽りの知らせを皆に振り撒いていこう。 市街地に行くのもいいが、これなら市街地は彼女に任せて自分は別の場所に行くのも一考か。 途中でアルビノジョーカーとして誰かを襲うのもいいかもしれない。 白い怪物の話が広がれば、話の信憑性も上がるだろう。 相対的に集団の中で信頼を勝ち取れば、志村純一=白い怪物という考えには至らないはずだ。 白い悪意は闇の夜に紛れて蠢きだす。 【1日目 黎明】【D-4 丘陵地帯】 【志村純一@仮面ライダー剣・劇場版】 【時間軸】剣崎たちに出会う前 【状態】封印エネルギーによる痛み(普通に動ける程度まで回復) 【装備】グレイブバックル 【道具】支給品一式(未確認支給品×1) 【思考・状況】 基本行動方針:人間を装い優勝する。 1:移動して集団に紛れ込む。(市街地に拘らない) 2:橘チーフに合流。 3:『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』という情報を流す。 4:誰にも悟られず、かつ安全な状況でならジョーカー化して参加者を殺害or襲ってアルビノジョーカーの存在をアピールする。 ※デネブの放送について(長田が聞いた範囲で)知りました。  桜井侑斗は危険人物(?)、デネブは生きていると考えています。 ※どこへ向かうかは後続の書き手にお任せします。 その頃、市街地に向かっていたはずの長田結花は立ち止まっていた。 彼女は考えていた――『人間なんて本当に守る価値などあるのだろうか』と。 危険人物を皆に知らせようとしたデネブさんは桜井侑斗に殺されてしまった。 志村さんも剣崎という人に騙されて襲われた。 人間はなんて身勝手で愚かな生き物だろう。 いつでも自分の都合を押し付けて他人を蹴落とそうとする。 「……人間なんてッ」 なら自分はどう動くべきか。 今まで通り人間のために動くべきか否か。 しかしいきなり銃で撃たれた事実は結花の心に確かな歪みとして重くのしかかる。 いっそ木場さんや海堂さん以外全員を皆殺しにした方がいいのではないか。 そんな考えも頭をよぎる。 一方でそれはいけないと訴える自分もいる。 「私は――」 それは白い翼に広がる黒い悪意―― 【1日目 黎明】【E-5 丘陵地帯】 【長田結花@仮面ライダー555】 【時間軸】本編第41話終了直後(武装警官を一掃する直前) 【状態】健康、人間への不信感・憎悪(軽度)、疾走による小程度の疲労 【装備】なし 【道具】支給品一式(不明支給品1~2)、カードデッキ(ファム) 【思考・状況】 基本行動方針:木場さんと海堂さんの無事が最優先。 1:人間は守る価値などあるのだろうか。 2:殺し合いに乗っていない人物に自分の知っている事(↓参照)を教える。 3:いざとなったら木場と海堂以外の人間を皆殺しにする? ※長田の知っている事:『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物でデネブを殺害した』 ※これからどこへ向かうかは後続の書き手にお任せします。 |016:[[囚われの虎と蛇]]|投下順|018:[[吼える]]| |016:[[囚われの虎と蛇]]|時系列順|019:[[想いを鉄の意志に変えて]]| ||[[長田結花]]|033:[[ワインディング・ロード]]| |012:[[「誰か」のためのライダー]]|[[志村純一]]|026:[[切り札の在処は]]|

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー