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想いを鉄の意志に変えて」(2009/07/02 (木) 20:11:31) の最新版変更点

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**想いを鉄の意志に変えて  星の明かりを頼りに、土手の景色が照らされている。  さらさらと静かな音をたてて流れる川。大小さまざまな石が並ぶ川沿い。  キャンプに適したような場所にて、小さな炎が光を作っていた。  炎の上には鍋があり、壮年の男性がお玉で中身をかき混ぜている。  肉、たまねぎ、にんじんを炒めて、水を注ぎ込む。  ぐつぐつ軽快な音を立てるのを十分程度待ち、再びお玉でかき混ぜる。  そろそろ頃合かと、男はカレールーを投入し同時にジャガイモを投入する。あまり早く煮すぎると、形が崩れるためだ。  かき混ぜてルーが解けていくと、カレー特有の匂いが鼻を刺激する。  その味を小皿に移して確認。カレールーよりもたらせた香辛料の刺激が舌に広がる。  鍋に煮込んだ野菜や肉の味がしみ、香辛料の刺激をまろやかに緩和させていた。  野菜もそれぞれ、一個ずつ取り出し、噛み砕いていく。  まずはにんじん。  にんじんにしみたカレーソースが吹き出て、にんじんの甘味との調和を生み出し、男の口を駆け巡る。  柔らかさも指でつつけばフニッと弾力を示すほど、煮込みきった。  続けては、ジャガイモ。  噛み砕いてみると、口の中で粉を吹いてあっさりと崩れ落ちる。  ジャガイモの味が、カレーソースに刺激され、男の舌を楽しませた。  充分なできに満足して、カレーをさらにかき混ぜる。ぐつぐつと美味しそうな音は男のすいた腹を鳴らしていた。  しばらくして、男はよし、と呟く。  飯ごうに入れた輝く白いご飯を三つ出した皿に盛り、カレーをかける。  男は振り返り、彼と道を共にする仲間に声をかけた。 「涼、志郎、できたぞ」  標なき道を共にする男が三人。  一人は金髪にナイフでそぎ落としたような痩躯――それでいながら、筋肉は無駄なくついていたが――の男。  チェックのシャツに茶色の革ジャンを着こなし、カレーを礼を言って受け取った。  彼の名は葦原涼。  一人は茶髪に涼しげな視線を持つ、一見やさな印象を見受ける男。  ただ、今は影を背負っている印象を見受ける。差し出されるカレーを拒否して、二人と距離をとった。  彼の名は風見志郎。  最後の一人は、白髪が多少混ざった、壮年の男性。  オレンジのライダースーツを身にまとい、二人にカレーを振る舞っている。  彼の名は立花藤兵衛。  三人はたまたま出発地点が近かった。ただそれだけの関係だ。  しかし、立花藤兵衛にとっては、風見志郎はそれだけではない。 「ほら、遠慮せずにちゃんと食え!」  立花はホカホカの湯気を立ち昇らせるカレーを風見に差し出す。  彼の知る『風見志郎』なら喜んで受け取ったが、目の前の『風見志郎』はやんわりと断る。 「いえ、今は食欲がないので……」 「そんなことじゃ身体は出来あがらないぞ。だいたい、ちゃんと飯を食っているのか? 涼をみてみろ。ガツガツ食っているじゃないか。作ったかいもあるってもんだ」  話を振られた涼は一旦スプーンをおき、立花に対して頭を下げた。  別に構わないと立花は右手で制し、再び風見へと向き直る。 「なあ、志郎。何を悩んでいるか、俺に打ち明けれくれないか? 俺に力になることなら、なんでもするからさ」 「いえ、特に。それに、あなたではどうしようもありませんよ」 「おい、お前。少しは……」 「いや、いいんだ、涼。そういや食後にはコーヒーが必要だよな……。 こいつらはあのスマートブレインという連中からの配給だし……さっき見た喫茶店で鍋だけじゃなく、豆とかも取っておくんだった」 「いや、そこまで気を使ってもらわなくても……」 「気にするな! 今からスマートブレインを叩き潰さないといけない。 そうなると、俺に出来ることっていったら、これくらいだしな。 俺には志郎や涼みたいに、仮面ライダーになれない。だがな、俺は諦めないぞ」  立花はニイッと、輝くような笑顔を二人へと向ける。  風見も涼も目を伏せたが、立花は涼の頬が僅かに上がっていたのを見逃さなかった。  立花は名簿を確認し、仮面ライダーがいることに希望を持っている。何より、久しぶりの再会だ。  本郷と一文字に会う日が待ち遠しい。もっとも、それぞれ二組名前が並んでいたのが気になるが。 「喫茶店でコーヒーを作ってくるから、ちょっと待っていてくれ」 「一人じゃ危ない。俺も一緒に……」 「大丈夫だ。いろんな悪の組織と渡り合ったんだぞ。それにだ……」  立花は涼を引き寄せ、耳打ちする。志郎を頼む、と。  涼は無言で頷き、その様子に安堵して立花は立ち上がる。 「じゃあ、待っていろよ。こう見えても喫茶店のマスターをやっていたんだぜ。 美味しいコーヒーを入れて戻ってくるからな」  立花はそういい残し、土手を駆け上がる。  きっと風見は、彼の知る風見と同じく、仮面ライダーとして戦い抜いてくれると信じて。 □  登山客用にまばらに雑貨店が立ち並ぶ街を影が一つ訪れる。  黒き青年、人が神とあがめる者の使い、風のエルが駆け続けていたのだ。  疾走する風のエルは、アギト以外の力を示す先ほどの男に戸惑っている。  自分たち、使いに対抗できるものは、忌々しい白い青年の力を宿す『アギト』だけのはずだった。  主は人間を殺すことを決意した。その張り裂けんばかりの痛みを身近に感じ、風のエルは静かに憤る。  たしかに、人は主の意思を拒絶し、力を得ていた。  アギトだと気づかれないような、異能をだ。  風のエルは憤慨する。人間は生み親を忘れ、彼を悲しませるような真似ばかりする。  主が人間を見捨てたのは正解だ。人間など、度し難い生き物。  自分が人間を殺し、アギトを殺し、少しでも主の心の痛みを和らげてやらねばならない。  だからこそ、早く優勝して帰らねばならない。  本来なら、彼らが持ちえない感情を、風のエルは持ってしまった。  かつて、頭部にダメージを受けて、無差別に人を殺すアンノウンが出たことがある。  風のエルは、威吹鬼の蹴りを頭部にくらい、その精神に変調をきたしていたのだ。  ふと、かすかなアギトの気配を感知して、立ち止まる。  本来ならすぐにアギトを感知して、駆けつけることができる風のエルの感覚が鈍っていた。  忌々しいことだと吐き捨てたくなったが、堪える。  今の自分は人を殺さねばならない。なら、人に発見される確率を上げるのはまずい。  思考している風のエルの視界に、人が入った。 「豆はどこだ? あいつらに美味しいコーヒーをやらんとな」  そう呟く壮年の男の背中を見つけ、風のエルはこっそりと近付く。  距離は二十メートル。間には机や椅子、カウンターが立ちふさがっていた。  人間を苦しめることは主は望まない。ゆえに、人を殺すことに風のエルは禁忌の感情を持っている。  手の甲にZ字に印を刻み、風のエルは右手を突き出し、立花へと向かって一直線に迫った。  瞬間、風のエルは立花のそばの鏡に自分が映っているのを知る。立花は身を捻って、避けようとする。  とっさに軌道修正をした風のエルの右突きは、立花の左腕を引き千切った。 「ぐぁぁぁ!!」  立花の悲鳴を聞きながら、風のエルは体勢を整える。身体に流れる立花の血が、温かかった。 「抵抗をするな。楽に殺してやる」 「グゥ……怪人のいうことなんか……聞けるか……」  風のエルは立花の声を無視して、一瞬で間を詰める。  振り下ろした手刀が、タックルを仕掛けた立花によって体勢が崩れ、立花の右脚を斬り裂く結果となる。  再度あがる悲鳴。先程よりも勢いよく血が風のエルの口元にかかる。  初めて味わう人の血は、鉄の味がした。  地面に転がって悲鳴をあげる立花を見下ろし、風のエルは初めて人を蔑むように見つめた。  醜い。主が愛する資格はない。  なら、主が愛するものが誰なのか、知らせる必要がある。  風のエルは、冷酷に立花の首に足を乗せる。 「アマ…………ゾ…………」  ゴキリ、と最後の言葉は、首の骨が折れる音に邪魔をされた。  ぴくぴく痙攣して、やがて動かなくなった立花の死体を前に、風のエルは身体を震わせる。  以前の彼なら、罪悪感ゆえに身体が震えたことだろう。  人を殺すことは、主から強く禁止されていた。  しかし、今は違う。風のエルは、鉄の味を舌で転がし、感情の宿らない瞳で死体を見ている。  無抵抗な相手をただ嬲るその行為。  風のエルは、ニタァ……と笑う。立花の手が千切れたとき、立花が悲鳴をあげたとき、どうしようもない快楽の電流が背筋を走ったのだ。  どんどん血が抜けていき、白くなっていく立花が気に入らず、顔を斬り裂く。  肌がめくりあがり、剥き出しになる筋肉。またも飛び散った血が風のエルの顔にかかる。  再び、風のエルは顔を流れる血を舐めとる。愉悦が彼の顔に浮かぶ。  この快楽を再び味わいたい。風のエルは瞬時に反転、人を求めようとして街を駆ける。  もっとも、身体に上手く力が入らないことは気づいていた。だからこそ、誰かを見つけたら尾行。  力を取り戻し次第、襲う。できれば、無抵抗な相手がいい。  そのほうが、己の快楽を満たせることができる。 (いや、違う。これは主のためなのだ。主のため、生き残る価値のない人間に引導を渡している。それだけだ……)  知らず、風のエルは低く笑っていた。返り血を浴び、凄惨な表情が浮かぶ。  そこには、ただ人の血を覚えた、飢えた獣がいた。 □  涼は静かに流れる川を見つめながら、背後の風見を警戒していた。  初めに会ったときは立花を襲い、今また何かと気にかけてくる立花に頑なな態度。  自分も心を開くのが苦手な方だが、風見は最初の行動もあり、隙を見せることができない。  やがて、風見のほうから口を開いた。 「奴らの言っていた人を生き返らせる……あれは真実だと思うか?」 「さあな」  興味ないと言いたげに涼は会話を終えようとする。  ふと振り返って風見の表情を見ると、桃色の腕時計を見つめながら、泣きそうな表情をしていた。  意外な表情に涼は驚き、風見の意外な面を見つける。  立花に頼む、といわれたことを思い出し、ため息を吐きながら風見に声をかける。 「真実かどうかは知らないが……少なくとも俺を生き返らせてはいる」 「な……に?」 「俺はここに来る前、たしかに殺されたはずだった。だが、今はなんともない……つまり、そういうことなんだろう」 「そうか」  それっきり、二人には沈黙が訪れた。  もともと涼は人と触れ合うことが苦手な性質だ。これ以上風見のことを気にかける必要もないとも思える。  風見もそう思うのだろう。こちらに声をかけてこない。  傍から見ると風見は迷っているようにも見受けられたが、こちらを襲う様子はない。  涼は立花の帰りを待った。 「遅すぎる……」  涼は呟いて、腰を上げて喫茶店のある方向を見つめた。  焦燥感に包まれ、いても立ってもいられない。かれこれ、立花が立ち去って一時間は経っている。  傍に止めてあったジャングラーに乗り込み、キーを回す。背後に体重を感じ振り返ると、風見が乗っていた。  涼は無言で前方を向き、アクセルグリップを回す。  排気音が土手に響き、唸りと共にギアをチェンジする。  タイヤが土砂を巻き上げて、坂を駆け上り涼ははやる気持ちを抑えてジャングラーを進ませる。  後輪が道路を噛んで、甲高い音をたてて滑りながら、ギアの回転を上げて再びギアをチェンジ。  スピードを次々上げていきながら、涼はジャングラーの馬力に感心する。  しかし、もたもたしていられない。 (無事でいてくれ……立花さん)  その願いが叶うように。  背後に乗る風見の様子すらも、気にかける余裕すら失うほどに。 □ 「クッ!」  その光景をなんといえばいいのか。  涼が喫茶店へと駆けつけたときには、立花は凄惨な死体となっていた。  血が温かい、ということはまだ犯人はそう遠くに行っていないのだろう。  ぬちゃ……と糸を引く血を手の平に、涼は憤る。  左腕と右脚が引き千切られ、それぞれバラバラに落ちている。  顔は引き裂かれ、筋肉が剥き出しになっている。まるで死体の尊厳を奪うかのような行為だ。  ここまでやられているなら、明らかにこの殺し合いを楽しむ外道がいる。  じっとはしていられない。立花の無念を晴らすために、下手人をすぐに探しに行かねば。  涼は軽く立花に黙祷して、振り返る。だが、ジャングラーの前に風見が涼の前に立ちふさがっていた。 「そこを退け」  風見は涼の言葉に数秒の沈黙。やがて迷うように、搾り出すように口を開いた。 「……すまないな」  呟いて、拳を涼の腹に打ち放つ。涼は喫茶店の壁に叩きつけられた。  急き込み、正面を見つめると、風見が強化スーツをまとい、V3のヘルメットを左腕に抱えている。 「どういう……つもりだ……」 「あれから何度……ベルトを起動させようとしたが、一向に起動しなかった。 どうやら、一度起動させるともう一度起動させるまで、二時間必要らしい」 「俺が言いたいのは!」 「お前も見ただろう。その人の死体を」 「だったら……どうした?」 「私も、この殺し合いに乗る」  宣言する風見を涼は睨みつける。風見の顔は、今にも泣き出しそうだった。  涼と対峙しながら、風見は妹のちはるのことを考える。  彼女は、風見の妹は国民的アイドルの地位を自分の力で得た。  そこのことを誇りにして、自分に嬉しそうに話しかけてきたことを覚えている。  売り上げの報告、アイドルとしての苦悩を打ち明け、相談に乗ったこともあった。  風見にとって、失いたくなかったたった一人の家族だった。  なのに、風見は彼女の苦悩を気づいてやれなかった。  ちはるはライバルのアイドル歌手の悪戯により、顔を醜く焼かれてこの世に絶望して命を絶った。  自分に知られるのを恐れたのだろう。親友だけに辛さを告白して、飛び降りたのだ。  自分がショッカーの一員として暗躍している間に。  これほど、自分を呪ったことはなかった。何が選ばれしショッカーの一員か。改造人間か。  妹一人を救えない人間が。  しかし、今は違う。主催者、村上は生き返らせることもできる、といった。  事実、涼は生き返ったといった。真実を確かめるすべはない。それでも、風見は縋る。  ちはるを救える。  ちはるの顔を元に戻してやれる。  ちはるに普通の女の子としての人生を歩ませてやれる。  すべては、自分しだいで。  この改造された身体を、妹のためだけに使う。風見はマスクを持ち上げ、ゆっくりと被る。  涙が流れていた。 (ちはる。ごめんな、駄目なお兄ちゃんで。俺が必ず救うから、待っていてくれ……)  カチャリと、クラッシャーを装着して、風見は修羅となる。  V3、ショッカーの改造人間でも、仮面ライダーでもない。  たった一人の兄として。涙を仮面に隠して。 (風見……お前……)  泣いている理由は知らない。風見が何を背負っているか知らない。  それでも、涼は風見を見つめる視線に、殺気だけでない感情を込める。 「お前が……生き返ることに何の価値を持っているかは知らない。 だが、これだけは言える。死んだ人間が生き返ったとして、それは本当に幸せか?」 「黙れ! あなたに何が分かる!!」  涼は答えず、静かに目をつぶる。瞼に映るのは、亜紀の笑顔。  自分は彼女を生き返らせるために、この殺し合いに乗るのか?  答えはNoだ。どんな環境だろうと、失っていく辛さがあろうとも、折れてはいけない。  失い続けても、折れずに理不尽と戦い続けた涼だからこそ、導けた答え。  涼は左右の腕を交差させると同時に、右隣に緑の異形が並ぶ。  昆虫のような複眼に、額には植物のように生えるY字の角。  生物的な緑のアーマーを黒い皮膚の上に被せる獣。  異形と涼の姿が重なり、変化を果たす。 「ウァァァァァァァァァァァッァァァァアァァァァ!!!」  アギトと同じく、白き青年の力を宿す未完成の獣。  ギルスの咆哮が、立花藤兵衛へのレクイエムとして轟いた。 □  V3は咆哮を上げるギルスの鋭い右ストレートを辛うじて捌く。  鋭い連撃を受け止めるので精一杯のため、V3は一旦距離をとる。  そのまま後方に跳躍、追撃してくるギルスを視線に入れながら、空中で体勢を整え、壁を蹴って飛び蹴りでギルスの胸を貫く。 「ガァッ!」  勢いよく吹き飛び、椅子や机を巻き込んで地面に叩きつけられたギルスに、V3は距離を詰める。  たたみ掛けるチャンスだ。V3は逃してたまるかと、踏み潰すように右脚を振り下ろす。  ギルスは両手で受け止めるが、衝撃に呻く。  V3は構わず、二撃、三撃と攻撃の手を緩めない。床が砕け、ギルスの身体が埋め込まれた。  V3は脚を引き上げようとするが、戸惑う。床の穴から出てきたギルスが、息も荒くこちらを睨みつけていた。 「ウォォォォオォォォォォォォォォォォ!!」  ギルスのクラッシャーが開き、耳をつんざくような咆哮が響く。  同時にV3の身体が浮き上がり、ギルスの手から抜け出す暇もなく壁へと叩きつけられた。  さらに咆哮。二度目の衝突をV3は身体を亀にして耐えた。  三度、四度とギルスの叩きつけは止まらない。五度目の叩きつけのとき、V3の瞳が光る。  V3は右手で叩きつけられる衝撃を吸収。続けて、反動で飛びあがり、脚を上に向けたまま、ギルスの顎を打ち貫く。  脳が揺さぶられて後退するギルスにそのまま手刀を咽に放つ。  体勢と勢いが崩れたギルスに、V3は容赦なく拳の連撃を身体に打ち続ける。  三発、四発、五発、六発。  一回一回拳の速さを上げながら、V3の連打は止まらない。止められない。  負けられないのだ。妹のため、ちはるのため、彼女の人生のため。  止まらない想いを拳にこめて、V3は正拳をギルスの腹に思いっきりぶち込む。  外へと吹き飛んでいくギルスは壁を破壊していく。逃がさないと、V3は後を追った。  移動しながらお互いに攻撃し、やがては再び、土手へ舞い戻る。  ギルスは咆哮と同時に地面を蹴り、爪を形成して切り裂きにかかる。  袈裟切りの刃を潜られ、懐に潜ったV3のアッパーがギルスの脳を揺らし、川原に背中から着地する。  激痛を感じながらも、ギルスは背筋を全力駆動させ、バネのように跳ね起きる。  すぐさま体勢を整えて、V3の疾風のような拳を捌き、右頬に拳を叩き込んだ。  V3は後ろに吹き飛びかけるが、耐え抜いてギルスに拳を叩き返す。  後方にたたらを踏む直前、ギルスは爪を逆袈裟に振り、V3の装甲に斜めの傷を作る。  しかし、一向にV3は怯まない。  死を恐れない進行に、鬼気迫る修羅の気迫に、ギルスは唾を飲み込む。  V3は、風見は本気でこの殺し合いを優勝するつもりなのだ。 「ちはるは……もっと痛がっていた」  悠然と近付くV3に、ギルスは拳を打ち放つ。  V3の歩みを止めるには、力不足だった。 「ちはるは……もっと絶望していた!」  ギルスは鞭のようにしなる蹴りを放ち、V3の脇腹を叩く。  V3は僅かに身じろぎをしながらも、さらに距離を詰める。 「ちはるは……もう、死んでいたんだ!!」  ギルスの右ストレートに合わせるように、V3も右ストレートを放つ。  拳と拳がぶつかり、力が拮抗するが、天秤はV3へと傾いた。  ギルスの右拳が弾かれ、額にV3の拳をまともにくらい、再び地面に叩きつけられる。  背中の痛みに悶えていると、V3の搾り出すような独白が聞こえてきた。 「私は……ちはるに何もしてやれなかった。ちはるの異常に気づいてやれなかった……教えてくれ、葦原。 私は……ちはるのためにここを優勝して生き返らせる以外……何をしてやれる?」 「スマートブレインと戦い、お前がお前として生きてやれ。たとえ生きるのが辛くても……俺たちは生きていかなくちゃいけないんだ」 「そんなのは……奇麗事だ!!」  V3は……風見は言い捨て、ベルトの風車を回す。  二つの風車に夜風が吸い込まれ、V3の身体を強化していく様が見て取れた。 「う……おぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!」  V3の咆哮が土手に響き、稲妻が轟いたような音が周囲に響く。  跳躍をしたV3の飛び蹴りが、ギルスの右胸を貫いたのだ。  全身をバラバラにするような衝撃に、ギルスは辛うじて耐える。  そのギルスを二度目の蹴りが襲う。V3が空中で、回転して再び蹴撃を放ったのだ。  再び右胸を貫く衝撃。  のけぞるギルスの身体。  足は耐え切れず、地面を離れ、身体は宙へと浮く。  視界が回転しながら、ギルスは川へと着水した。  懐かしい水の感覚を全身で感じながら。  予想以上に流れの早い川を見つめながら、風見はマスクを取る。  瞳に映る感情はなかった。いや、ちはるのことだけを、その瞳に映していた。  あれほど心酔していたショッカーに対する尊敬の念も、そのショッカーに対抗する本郷への関心も、今はない。  ちはるがショッカーの計画を阻止したがっていると知ったときに、ショッカーへの疑念は生まれていた。  本来の流れなら、ちはるのためにできることはショッカーの計画を阻止することだと悟るはずだった。  今の風見は、本来の流れの彼と違い、死者を蘇らせる手段を知った。  もっとも、主催者の甘言かもしれない。涼の勘違いかもしれない。  それでも妹の、ちはるの苦しみを、万分の一でも理解できるなら……そこまで考えて頭を振るい、必ずちはるを蘇らせると決意する。 「そして、今度こそ幸せに生きてくれ……ちはる。汚れ役は、血を被るのは私が……俺がすべて引き受けるから……」  夜空に吸い込まれそうなほど、か細い風見の呟き。  星は瞬き、赤いマスクを脇に抱える男を照らす。  踵を返し、ジャングラーを回収へと風見は向かう。  彼は……風見は修羅となる。妹を、ちはるを救うために。 □ 「ぶはっ!」  涼は辛うじて岩に手をかけて、身体を起こし、水を吐き出す。  ガタガタ震える身体に活を入れて、辛うじて土手へ向かって歩き出す。  足がバシャバシャ水音を立て、水の抵抗で足取りが重い。低い水温が身体から体温を奪う。  涼の視界はぶれて覚束ない。身体はフラフラと頼りなく左右に揺れている。  ようやく辿り着いた土手の芝生に、涼は身体を押し付ける。  この力を手にして以来、慣れ親しんだ感覚に身を委ねる。  このまま死ぬのかもしれない。死ぬわけにはいかないのだが、身体がいうことをきかない。  とたん、変身の反動だろう。涼の全身に激痛が走り、腕の皮が老人のようにしわくちゃになる。  もはや、涼は限界だ。 『志郎を頼む……』  立花の言葉を思い出し、少しだけ涼は力を込める。  一歩だけ、前に進めた。そこで涼の意識は閉じる。  今度風見と再会したのなら、殴ってやろうと考えて、闇へと涼は落ちた。 &color(red){【立花藤兵衛@仮面ライダーアマゾン 死亡】 } &color(red){【残り49人】} **状態票 【風見志郎@仮面ライダーTHE-NEXT】 【1日目 黎明】 【現在地:D-6 土手】 【時間軸:】THE-NEXT中盤・CHIHARU失踪の真実を知った直後 【状態】: 疲労、全身打撲、共に中程度。二時間変身不可 【装備】:ジャングラー 【道具】:不明支給品(未確認)2~5。基本支給品×2セット、ピンクの腕時計 【思考・状況】 1:殺し合いに勝ち残り、優勝してちはるに普通の生を送らせる。 2:ショッカーに対する忠誠心への揺らぎ。 【備考】 ※葦原を殺したと思っています。 【葦原涼@仮面ライダーアギト】 【1日目 黎明】 【現在地:D-7 北西川辺】 【時間軸:】第27話 死亡後 【状態】: 全身打撲(大)、疲労(大)、気絶中、二時間変身不可      全身ずぶ濡れ。変身の反動 【装備】:なし 【道具】:支給品一式、ホッパーゼクターのベルト 【思考・状況】 1:殺し合いには加担しない。脱出方法を探る。 2:立花藤兵衛の最後の言葉どおり、風見の面倒を見る? 3:自分に再び与えられた命で、救える者を救う。戦おうとする参加者には容赦しない。 4:立花を殺した犯人を放っては置けない。 【風のエル@仮面ライダーアギト】 【1日目 黎明】 【現在地:D-5 東】 [時間軸]:48話 [状態]:頭部にダメージ。行動原理に異常発生。二時間能力発揮不可。血の味を覚えた。 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式 不明支給品(未確認)1~3個。 [思考・状況] 1:優勝して還る。 2:帰還した時には、主に未知の力を報告。 3:人を殺すことに、快楽を覚えた。 4:誰でもいいから殺したい。 [備考] ※デネブの放送は距離と精神的動揺から聞こえていません。 |018:[[吼える]]|投下順|020:[[ダブルライダーVSカブトムシ男!!]]| |017:[[白い悪意]]|時系列順|024:[[桃の木坂分岐点]]| |013:[[仮面ライダーの称号]]|[[風見志郎]]|032:[[クライマックスは終わらない(前編)]]| |013:[[仮面ライダーの称号]]|[[葦原涼]]|034:[[不屈]]| |013:[[仮面ライダーの称号]]|&color(red){立花藤兵衛}|| |009:[[それが仕事な人たち]]|[[風のエル]]|034:[[不屈]]|
**想いを鉄の意志に変えて  星の明かりを頼りに、土手の景色が照らされている。  さらさらと静かな音をたてて流れる川。大小さまざまな石が並ぶ川沿い。  キャンプに適したような場所にて、小さな炎が光を作っていた。  炎の上には鍋があり、壮年の男性がお玉で中身をかき混ぜている。  肉、たまねぎ、にんじんを炒めて、水を注ぎ込む。  ぐつぐつ軽快な音を立てるのを十分程度待ち、再びお玉でかき混ぜる。  そろそろ頃合かと、男はカレールーを投入し同時にジャガイモを投入する。あまり早く煮すぎると、形が崩れるためだ。  かき混ぜてルーが解けていくと、カレー特有の匂いが鼻を刺激する。  その味を小皿に移して確認。カレールーよりもたらせた香辛料の刺激が舌に広がる。  鍋に煮込んだ野菜や肉の味がしみ、香辛料の刺激をまろやかに緩和させていた。  野菜もそれぞれ、一個ずつ取り出し、噛み砕いていく。  まずはにんじん。  にんじんにしみたカレーソースが吹き出て、にんじんの甘味との調和を生み出し、男の口を駆け巡る。  柔らかさも指でつつけばフニッと弾力を示すほど、煮込みきった。  続けては、ジャガイモ。  噛み砕いてみると、口の中で粉を吹いてあっさりと崩れ落ちる。  ジャガイモの味が、カレーソースに刺激され、男の舌を楽しませた。  充分なできに満足して、カレーをさらにかき混ぜる。ぐつぐつと美味しそうな音は男のすいた腹を鳴らしていた。  しばらくして、男はよし、と呟く。  飯ごうに入れた輝く白いご飯を三つ出した皿に盛り、カレーをかける。  男は振り返り、彼と道を共にする仲間に声をかけた。 「涼、志郎、できたぞ」  標なき道を共にする男が三人。  一人は金髪にナイフでそぎ落としたような痩躯――それでいながら、筋肉は無駄なくついていたが――の男。  チェックのシャツに茶色の革ジャンを着こなし、カレーを礼を言って受け取った。  彼の名は葦原涼。  一人は茶髪に涼しげな視線を持つ、一見やさな印象を見受ける男。  ただ、今は影を背負っている印象を見受ける。差し出されるカレーを拒否して、二人と距離をとった。  彼の名は風見志郎。  最後の一人は、白髪が多少混ざった、壮年の男性。  オレンジのライダースーツを身にまとい、二人にカレーを振る舞っている。  彼の名は立花藤兵衛。  三人はたまたま出発地点が近かった。ただそれだけの関係だ。  しかし、立花藤兵衛にとっては、風見志郎はそれだけではない。 「ほら、遠慮せずにちゃんと食え!」  立花はホカホカの湯気を立ち昇らせるカレーを風見に差し出す。  彼の知る『風見志郎』なら喜んで受け取ったが、目の前の『風見志郎』はやんわりと断る。 「いえ、今は食欲がないので……」 「そんなことじゃ身体は出来あがらないぞ。だいたい、ちゃんと飯を食っているのか? 涼をみてみろ。ガツガツ食っているじゃないか。作ったかいもあるってもんだ」  話を振られた涼は一旦スプーンをおき、立花に対して頭を下げた。  別に構わないと立花は右手で制し、再び風見へと向き直る。 「なあ、志郎。何を悩んでいるか、俺に打ち明けれくれないか? 俺に力になることなら、なんでもするからさ」 「いえ、特に。それに、あなたではどうしようもありませんよ」 「おい、お前。少しは……」 「いや、いいんだ、涼。そういや食後にはコーヒーが必要だよな……。 こいつらはあのスマートブレインという連中からの配給だし……さっき見た喫茶店で鍋だけじゃなく、豆とかも取っておくんだった」 「いや、そこまで気を使ってもらわなくても……」 「気にするな! 今からスマートブレインを叩き潰さないといけない。 そうなると、俺に出来ることっていったら、これくらいだしな。 俺には志郎や涼みたいに、仮面ライダーになれない。だがな、俺は諦めないぞ」  立花はニイッと、輝くような笑顔を二人へと向ける。  風見も涼も目を伏せたが、立花は涼の頬が僅かに上がっていたのを見逃さなかった。  立花は名簿を確認し、仮面ライダーがいることに希望を持っている。何より、久しぶりの再会だ。  本郷と一文字に会う日が待ち遠しい。もっとも、それぞれ二組名前が並んでいたのが気になるが。 「喫茶店でコーヒーを作ってくるから、ちょっと待っていてくれ」 「一人じゃ危ない。俺も一緒に……」 「大丈夫だ。いろんな悪の組織と渡り合ったんだぞ。それにだ……」  立花は涼を引き寄せ、耳打ちする。志郎を頼む、と。  涼は無言で頷き、その様子に安堵して立花は立ち上がる。 「じゃあ、待っていろよ。こう見えても喫茶店のマスターをやっていたんだぜ。 美味しいコーヒーを入れて戻ってくるからな」  立花はそういい残し、土手を駆け上がる。  きっと風見は、彼の知る風見と同じく、仮面ライダーとして戦い抜いてくれると信じて。 □  登山客用にまばらに雑貨店が立ち並ぶ街を影が一つ訪れる。  黒き青年、人が神とあがめる者の使い、風のエルが駆け続けていたのだ。  疾走する風のエルは、アギト以外の力を示す先ほどの男に戸惑っている。  自分たち、使いに対抗できるものは、忌々しい白い青年の力を宿す『アギト』だけのはずだった。  主は人間を殺すことを決意した。その張り裂けんばかりの痛みを身近に感じ、風のエルは静かに憤る。  たしかに、人は主の意思を拒絶し、力を得ていた。  アギトだと気づかれないような、異能をだ。  風のエルは憤慨する。人間は生み親を忘れ、彼を悲しませるような真似ばかりする。  主が人間を見捨てたのは正解だ。人間など、度し難い生き物。  自分が人間を殺し、アギトを殺し、少しでも主の心の痛みを和らげてやらねばならない。  だからこそ、早く優勝して帰らねばならない。  本来なら、彼らが持ちえない感情を、風のエルは持ってしまった。  かつて、頭部にダメージを受けて、無差別に人を殺すアンノウンが出たことがある。  風のエルは、威吹鬼の蹴りを頭部にくらい、その精神に変調をきたしていたのだ。  ふと、かすかなアギトの気配を感知して、立ち止まる。  本来ならすぐにアギトを感知して、駆けつけることができる風のエルの感覚が鈍っていた。  忌々しいことだと吐き捨てたくなったが、堪える。  今の自分は人を殺さねばならない。なら、人に発見される確率を上げるのはまずい。  思考している風のエルの視界に、人が入った。 「豆はどこだ? あいつらに美味しいコーヒーをやらんとな」  そう呟く壮年の男の背中を見つけ、風のエルはこっそりと近付く。  距離は二十メートル。間には机や椅子、カウンターが立ちふさがっていた。  人間を苦しめることは主は望まない。ゆえに、人を殺すことに風のエルは禁忌の感情を持っている。  手の甲にZ字に印を刻み、風のエルは右手を突き出し、立花へと向かって一直線に迫った。  瞬間、風のエルは立花のそばの鏡に自分が映っているのを知る。立花は身を捻って、避けようとする。  とっさに軌道修正をした風のエルの右突きは、立花の左腕を引き千切った。 「ぐぁぁぁ!!」  立花の悲鳴を聞きながら、風のエルは体勢を整える。身体に流れる立花の血が、温かかった。 「抵抗をするな。楽に殺してやる」 「グゥ……怪人のいうことなんか……聞けるか……」  風のエルは立花の声を無視して、一瞬で間を詰める。  振り下ろした手刀が、タックルを仕掛けた立花によって体勢が崩れ、立花の右脚を斬り裂く結果となる。  再度あがる悲鳴。先程よりも勢いよく血が風のエルの口元にかかる。  初めて味わう人の血は、鉄の味がした。  地面に転がって悲鳴をあげる立花を見下ろし、風のエルは初めて人を蔑むように見つめた。  醜い。主が愛する資格はない。  なら、主が愛するものが誰なのか、知らせる必要がある。  風のエルは、冷酷に立花の首に足を乗せる。 「アマ…………ゾ…………」  ゴキリ、と最後の言葉は、首の骨が折れる音に邪魔をされた。  ぴくぴく痙攣して、やがて動かなくなった立花の死体を前に、風のエルは身体を震わせる。  以前の彼なら、罪悪感ゆえに身体が震えたことだろう。  人を殺すことは、主から強く禁止されていた。  しかし、今は違う。風のエルは、鉄の味を舌で転がし、感情の宿らない瞳で死体を見ている。  無抵抗な相手をただ嬲るその行為。  風のエルは、ニタァ……と笑う。立花の手が千切れたとき、立花が悲鳴をあげたとき、どうしようもない快楽の電流が背筋を走ったのだ。  どんどん血が抜けていき、白くなっていく立花が気に入らず、顔を斬り裂く。  肌がめくりあがり、剥き出しになる筋肉。またも飛び散った血が風のエルの顔にかかる。  再び、風のエルは顔を流れる血を舐めとる。愉悦が彼の顔に浮かぶ。  この快楽を再び味わいたい。風のエルは瞬時に反転、人を求めようとして街を駆ける。  もっとも、身体に上手く力が入らないことは気づいていた。だからこそ、誰かを見つけたら尾行。  力を取り戻し次第、襲う。できれば、無抵抗な相手がいい。  そのほうが、己の快楽を満たせることができる。 (いや、違う。これは主のためなのだ。主のため、生き残る価値のない人間に引導を渡している。それだけだ……)  知らず、風のエルは低く笑っていた。返り血を浴び、凄惨な表情が浮かぶ。  そこには、ただ人の血を覚えた、飢えた獣がいた。 □  涼は静かに流れる川を見つめながら、背後の風見を警戒していた。  初めに会ったときは立花を襲い、今また何かと気にかけてくる立花に頑なな態度。  自分も心を開くのが苦手な方だが、風見は最初の行動もあり、隙を見せることができない。  やがて、風見のほうから口を開いた。 「奴らの言っていた人を生き返らせる……あれは真実だと思うか?」 「さあな」  興味ないと言いたげに涼は会話を終えようとする。  ふと振り返って風見の表情を見ると、桃色の腕時計を見つめながら、泣きそうな表情をしていた。  意外な表情に涼は驚き、風見の意外な面を見つける。  立花に頼む、といわれたことを思い出し、ため息を吐きながら風見に声をかける。 「真実かどうかは知らないが……少なくとも俺を生き返らせてはいる」 「な……に?」 「俺はここに来る前、たしかに殺されたはずだった。だが、今はなんともない……つまり、そういうことなんだろう」 「そうか」  それっきり、二人には沈黙が訪れた。  もともと涼は人と触れ合うことが苦手な性質だ。これ以上風見のことを気にかける必要もないとも思える。  風見もそう思うのだろう。こちらに声をかけてこない。  傍から見ると風見は迷っているようにも見受けられたが、こちらを襲う様子はない。  涼は立花の帰りを待った。 「遅すぎる……」  涼は呟いて、腰を上げて喫茶店のある方向を見つめた。  焦燥感に包まれ、いても立ってもいられない。かれこれ、立花が立ち去って一時間は経っている。  傍に止めてあったジャングラーに乗り込み、キーを回す。背後に体重を感じ振り返ると、風見が乗っていた。  涼は無言で前方を向き、アクセルグリップを回す。  排気音が土手に響き、唸りと共にギアをチェンジする。  タイヤが土砂を巻き上げて、坂を駆け上り涼ははやる気持ちを抑えてジャングラーを進ませる。  後輪が道路を噛んで、甲高い音をたてて滑りながら、ギアの回転を上げて再びギアをチェンジ。  スピードを次々上げていきながら、涼はジャングラーの馬力に感心する。  しかし、もたもたしていられない。 (無事でいてくれ……立花さん)  その願いが叶うように。  背後に乗る風見の様子すらも、気にかける余裕すら失うほどに。 □ 「クッ!」  その光景をなんといえばいいのか。  涼が喫茶店へと駆けつけたときには、立花は凄惨な死体となっていた。  血が温かい、ということはまだ犯人はそう遠くに行っていないのだろう。  ぬちゃ……と糸を引く血を手の平に、涼は憤る。  左腕と右脚が引き千切られ、それぞれバラバラに落ちている。  顔は引き裂かれ、筋肉が剥き出しになっている。まるで死体の尊厳を奪うかのような行為だ。  ここまでやられているなら、明らかにこの殺し合いを楽しむ外道がいる。  じっとはしていられない。立花の無念を晴らすために、下手人をすぐに探しに行かねば。  涼は軽く立花に黙祷して、振り返る。だが、ジャングラーの前に風見が涼の前に立ちふさがっていた。 「そこを退け」  風見は涼の言葉に数秒の沈黙。やがて迷うように、搾り出すように口を開いた。 「……すまないな」  呟いて、拳を涼の腹に打ち放つ。涼は喫茶店の壁に叩きつけられた。  急き込み、正面を見つめると、風見が強化スーツをまとい、V3のヘルメットを左腕に抱えている。 「どういう……つもりだ……」 「あれから何度……ベルトを起動させようとしたが、一向に起動しなかった。 どうやら、一度起動させるともう一度起動させるまで、二時間必要らしい」 「俺が言いたいのは!」 「お前も見ただろう。その人の死体を」 「だったら……どうした?」 「私も、この殺し合いに乗る」  宣言する風見を涼は睨みつける。風見の顔は、今にも泣き出しそうだった。  涼と対峙しながら、風見は妹のちはるのことを考える。  彼女は、風見の妹は国民的アイドルの地位を自分の力で得た。  そこのことを誇りにして、自分に嬉しそうに話しかけてきたことを覚えている。  売り上げの報告、アイドルとしての苦悩を打ち明け、相談に乗ったこともあった。  風見にとって、失いたくなかったたった一人の家族だった。  なのに、風見は彼女の苦悩を気づいてやれなかった。  ちはるはライバルのアイドル歌手の悪戯により、顔を醜く焼かれてこの世に絶望して命を絶った。  自分に知られるのを恐れたのだろう。親友だけに辛さを告白して、飛び降りたのだ。  自分がショッカーの一員として暗躍している間に。  これほど、自分を呪ったことはなかった。何が選ばれしショッカーの一員か。改造人間か。  妹一人を救えない人間が。  しかし、今は違う。主催者、村上は生き返らせることもできる、といった。  事実、涼は生き返ったといった。真実を確かめるすべはない。それでも、風見は縋る。  ちはるを救える。  ちはるの顔を元に戻してやれる。  ちはるに普通の女の子としての人生を歩ませてやれる。  すべては、自分しだいで。  この改造された身体を、妹のためだけに使う。風見はマスクを持ち上げ、ゆっくりと被る。  涙が流れていた。 (ちはる。ごめんな、駄目なお兄ちゃんで。俺が必ず救うから、待っていてくれ……)  カチャリと、クラッシャーを装着して、風見は修羅となる。  V3、ショッカーの改造人間でも、仮面ライダーでもない。  たった一人の兄として。涙を仮面に隠して。 (風見……お前……)  泣いている理由は知らない。風見が何を背負っているか知らない。  それでも、涼は風見を見つめる視線に、殺気だけでない感情を込める。 「お前が……生き返ることに何の価値を持っているかは知らない。 だが、これだけは言える。死んだ人間が生き返ったとして、それは本当に幸せか?」 「黙れ! あなたに何が分かる!!」  涼は答えず、静かに目をつぶる。瞼に映るのは、亜紀の笑顔。  自分は彼女を生き返らせるために、この殺し合いに乗るのか?  答えはNoだ。どんな環境だろうと、失っていく辛さがあろうとも、折れてはいけない。  失い続けても、折れずに理不尽と戦い続けた涼だからこそ、導けた答え。  涼は左右の腕を交差させると同時に、右隣に緑の異形が並ぶ。  昆虫のような複眼に、額には植物のように生えるY字の角。  生物的な緑のアーマーを黒い皮膚の上に被せる獣。  異形と涼の姿が重なり、変化を果たす。 「ウァァァァァァァァァァァッァァァァアァァァァ!!!」  アギトと同じく、白き青年の力を宿す未完成の獣。  ギルスの咆哮が、立花藤兵衛へのレクイエムとして轟いた。 □  V3は咆哮を上げるギルスの鋭い右ストレートを辛うじて捌く。  鋭い連撃を受け止めるので精一杯のため、V3は一旦距離をとる。  そのまま後方に跳躍、追撃してくるギルスを視線に入れながら、空中で体勢を整え、壁を蹴って飛び蹴りでギルスの胸を貫く。 「ガァッ!」  勢いよく吹き飛び、椅子や机を巻き込んで地面に叩きつけられたギルスに、V3は距離を詰める。  たたみ掛けるチャンスだ。V3は逃してたまるかと、踏み潰すように右脚を振り下ろす。  ギルスは両手で受け止めるが、衝撃に呻く。  V3は構わず、二撃、三撃と攻撃の手を緩めない。床が砕け、ギルスの身体が埋め込まれた。  V3は脚を引き上げようとするが、戸惑う。床の穴から出てきたギルスが、息も荒くこちらを睨みつけていた。 「ウォォォォオォォォォォォォォォォォ!!」  ギルスのクラッシャーが開き、耳をつんざくような咆哮が響く。  同時にV3の身体が浮き上がり、ギルスの手から抜け出す暇もなく壁へと叩きつけられた。  さらに咆哮。二度目の衝突をV3は身体を亀にして耐えた。  三度、四度とギルスの叩きつけは止まらない。五度目の叩きつけのとき、V3の瞳が光る。  V3は右手で叩きつけられる衝撃を吸収。続けて、反動で飛びあがり、脚を上に向けたまま、ギルスの顎を打ち貫く。  脳が揺さぶられて後退するギルスにそのまま手刀を咽に放つ。  体勢と勢いが崩れたギルスに、V3は容赦なく拳の連撃を身体に打ち続ける。  三発、四発、五発、六発。  一回一回拳の速さを上げながら、V3の連打は止まらない。止められない。  負けられないのだ。妹のため、ちはるのため、彼女の人生のため。  止まらない想いを拳にこめて、V3は正拳をギルスの腹に思いっきりぶち込む。  外へと吹き飛んでいくギルスは壁を破壊していく。逃がさないと、V3は後を追った。  移動しながらお互いに攻撃し、やがては再び、土手へ舞い戻る。  ギルスは咆哮と同時に地面を蹴り、爪を形成して切り裂きにかかる。  袈裟切りの刃を潜られ、懐に潜ったV3のアッパーがギルスの脳を揺らし、川原に背中から着地する。  激痛を感じながらも、ギルスは背筋を全力駆動させ、バネのように跳ね起きる。  すぐさま体勢を整えて、V3の疾風のような拳を捌き、右頬に拳を叩き込んだ。  V3は後ろに吹き飛びかけるが、耐え抜いてギルスに拳を叩き返す。  後方にたたらを踏む直前、ギルスは爪を逆袈裟に振り、V3の装甲に斜めの傷を作る。  しかし、一向にV3は怯まない。  死を恐れない進行に、鬼気迫る修羅の気迫に、ギルスは唾を飲み込む。  V3は、風見は本気でこの殺し合いを優勝するつもりなのだ。 「ちはるは……もっと痛がっていた」  悠然と近付くV3に、ギルスは拳を打ち放つ。  V3の歩みを止めるには、力不足だった。 「ちはるは……もっと絶望していた!」  ギルスは鞭のようにしなる蹴りを放ち、V3の脇腹を叩く。  V3は僅かに身じろぎをしながらも、さらに距離を詰める。 「ちはるは……もう、死んでいたんだ!!」  ギルスの右ストレートに合わせるように、V3も右ストレートを放つ。  拳と拳がぶつかり、力が拮抗するが、天秤はV3へと傾いた。  ギルスの右拳が弾かれ、額にV3の拳をまともにくらい、再び地面に叩きつけられる。  背中の痛みに悶えていると、V3の搾り出すような独白が聞こえてきた。 「私は……ちはるに何もしてやれなかった。ちはるの異常に気づいてやれなかった……教えてくれ、葦原。 私は……ちはるのためにここを優勝して生き返らせる以外……何をしてやれる?」 「スマートブレインと戦い、お前がお前として生きてやれ。たとえ生きるのが辛くても……俺たちは生きていかなくちゃいけないんだ」 「そんなのは……奇麗事だ!!」  V3は……風見は言い捨て、ベルトの風車を回す。  二つの風車に夜風が吸い込まれ、V3の身体を強化していく様が見て取れた。 「う……おぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!」  V3の咆哮が土手に響き、稲妻が轟いたような音が周囲に響く。  跳躍をしたV3の飛び蹴りが、ギルスの右胸を貫いたのだ。  全身をバラバラにするような衝撃に、ギルスは辛うじて耐える。  そのギルスを二度目の蹴りが襲う。V3が空中で、回転して再び蹴撃を放ったのだ。  再び右胸を貫く衝撃。  のけぞるギルスの身体。  足は耐え切れず、地面を離れ、身体は宙へと浮く。  視界が回転しながら、ギルスは川へと着水した。  懐かしい水の感覚を全身で感じながら。  予想以上に流れの早い川を見つめながら、風見はマスクを取る。  瞳に映る感情はなかった。いや、ちはるのことだけを、その瞳に映していた。  あれほど心酔していたショッカーに対する尊敬の念も、そのショッカーに対抗する本郷への関心も、今はない。  ちはるがショッカーの計画を阻止したがっていると知ったときに、ショッカーへの疑念は生まれていた。  本来の流れなら、ちはるのためにできることはショッカーの計画を阻止することだと悟るはずだった。  今の風見は、本来の流れの彼と違い、死者を蘇らせる手段を知った。  もっとも、主催者の甘言かもしれない。涼の勘違いかもしれない。  それでも妹の、ちはるの苦しみを、万分の一でも理解できるなら……そこまで考えて頭を振るい、必ずちはるを蘇らせると決意する。 「そして、今度こそ幸せに生きてくれ……ちはる。汚れ役は、血を被るのは私が……俺がすべて引き受けるから……」  夜空に吸い込まれそうなほど、か細い風見の呟き。  星は瞬き、赤いマスクを脇に抱える男を照らす。  踵を返し、ジャングラーを回収へと風見は向かう。  彼は……風見は修羅となる。妹を、ちはるを救うために。 □ 「ぶはっ!」  涼は辛うじて岩に手をかけて、身体を起こし、水を吐き出す。  ガタガタ震える身体に活を入れて、辛うじて土手へ向かって歩き出す。  足がバシャバシャ水音を立て、水の抵抗で足取りが重い。低い水温が身体から体温を奪う。  涼の視界はぶれて覚束ない。身体はフラフラと頼りなく左右に揺れている。  ようやく辿り着いた土手の芝生に、涼は身体を押し付ける。  この力を手にして以来、慣れ親しんだ感覚に身を委ねる。  このまま死ぬのかもしれない。死ぬわけにはいかないのだが、身体がいうことをきかない。  とたん、変身の反動だろう。涼の全身に激痛が走り、腕の皮が老人のようにしわくちゃになる。  もはや、涼は限界だ。 『志郎を頼む……』  立花の言葉を思い出し、少しだけ涼は力を込める。  一歩だけ、前に進めた。そこで涼の意識は閉じる。  今度風見と再会したのなら、殴ってやろうと考えて、闇へと涼は落ちた。 &color(red){【立花藤兵衛@仮面ライダーアマゾン 死亡】 } &color(red){【残り48人】} **状態票 【風見志郎@仮面ライダーTHE-NEXT】 【1日目 黎明】 【現在地:D-6 土手】 【時間軸:】THE-NEXT中盤・CHIHARU失踪の真実を知った直後 【状態】: 疲労、全身打撲、共に中程度。二時間変身不可 【装備】:ジャングラー 【道具】:不明支給品(未確認)2~5。基本支給品×2セット、ピンクの腕時計 【思考・状況】 1:殺し合いに勝ち残り、優勝してちはるに普通の生を送らせる。 2:ショッカーに対する忠誠心への揺らぎ。 【備考】 ※葦原を殺したと思っています。 【葦原涼@仮面ライダーアギト】 【1日目 黎明】 【現在地:D-7 北西川辺】 【時間軸:】第27話 死亡後 【状態】: 全身打撲(大)、疲労(大)、気絶中、二時間変身不可      全身ずぶ濡れ。変身の反動 【装備】:なし 【道具】:支給品一式、ホッパーゼクターのベルト 【思考・状況】 1:殺し合いには加担しない。脱出方法を探る。 2:立花藤兵衛の最後の言葉どおり、風見の面倒を見る? 3:自分に再び与えられた命で、救える者を救う。戦おうとする参加者には容赦しない。 4:立花を殺した犯人を放っては置けない。 【風のエル@仮面ライダーアギト】 【1日目 黎明】 【現在地:D-5 東】 [時間軸]:48話 [状態]:頭部にダメージ。行動原理に異常発生。二時間能力発揮不可。血の味を覚えた。 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式 不明支給品(未確認)1~3個。 [思考・状況] 1:優勝して還る。 2:帰還した時には、主に未知の力を報告。 3:人を殺すことに、快楽を覚えた。 4:誰でもいいから殺したい。 [備考] ※デネブの放送は距離と精神的動揺から聞こえていません。 |018:[[吼える]]|投下順|020:[[ダブルライダーVSカブトムシ男!!]]| |017:[[白い悪意]]|時系列順|024:[[桃の木坂分岐点]]| |013:[[仮面ライダーの称号]]|[[風見志郎]]|032:[[クライマックスは終わらない(前編)]]| |013:[[仮面ライダーの称号]]|[[葦原涼]]|034:[[不屈]]| |013:[[仮面ライダーの称号]]|&color(red){立花藤兵衛}|| |009:[[それが仕事な人たち]]|[[風のエル]]|034:[[不屈]]|

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