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切り札の在処は」(2008/05/18 (日) 22:46:50) の最新版変更点

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*切り札の在処は 少し、太陽が昇り始め周囲にほのかな光を齎す。 日光は様々な動植物に影響を与え、それが無ければエネルギー源となる有機物を生産できないものもいる。 生物分類上、動物界、脊椎動物門、哺乳網、霊長目、ヒト科、ヒト属、ヒト種に属する生物。 通称、『人間』または『ヒト』と呼ばれ、地球の誕生の歴史の中では極最近に頭角を現した者達にも日光は重要な意味を持っている。 いうなれば大自然が生み出す、必要不可欠な太陽の恵み。 その恵みの恩恵が除々に姿を見せ、『彼ら』を祝福するかのように光を惜しげもなく晒す。 そう。今はほんの少ししか姿を見せない、少し出番が早すぎる太陽の下で生命の鼓動を鳴らし続ける者達に向かって。 『バトルロワイアル』と称された殺し合いの舞台に立たされた者達に対して。 太陽は寂しげに視線を落とし続けていた。 ◇  ◆  ◇ しっかりとした足取りで南下する人影が二つ。 二人とも男性、見たところ歳は同じ位に見え、一人は黒色の短髪を生やし、もう一人は茶色の長髪を生やしている。 二人の肩に掛かっているもの、それはこの殺し合いでスマートブレインに支給されたデイバック。 参加者に有利となる支給品がランダムに同梱され、この殺し合いを生き抜くには必需品ともいえる品。 だが、彼ら二人――本郷猛、城戸真司が肩に、いや背負っているものはデイバックだけではない。 それはたとえ何があろうともこの殺し合いを止めるという、鋼鉄のように固き意志。揺ぎ無い意志、覚悟、信念に基づいた『使命』を背負っていた。 「ふぅ……結構歩いたよな。 まぁ仕事柄あちこち走り回ったからこのくらい何ともないけどさ」 茶髪の青年――城戸真司が一息つき、言葉を漏らす。 彼らは他の参加者と接触するために取り敢えず市街地を目指し、数十分以上は歩き続けていた。 だが、城戸の言葉が示す様に彼が浮かべる表情からはあまり疲労の色は見られない。 城戸はこの殺し合いに連れて来られるまで、OREジャーナルというネット上へのニュース配信会社に勤めていた。 但し、一人前とは言い難く、会社内ではあくまでも記者見習いという立場であったが。 だが、当然見習いであるから仕事が楽というわけではなく、よく現地へ取材のために急行を命じられていた。 そのため、城戸は体力に関しては人並み以上に良く培われているともいえ、今の彼は特に疲労している様子はなかった。 それに何より、城戸は只の一般人ではない。 鏡の中から人間を狙い、そして自らの餌として襲う存在――『ミラーモンスター』が生息する、通称『ミラーワールド』と呼ばれる世界。 そのミラーワールドに飛び込み、ミラーモンスターを自分と同じ存在達との闘い――『ライダーバトル』の糧とするために、倒す者達。 そう。カードデッキにより変身を行う者達――『仮面ライダー』として、今まで何度も闘い続けた男である。 過酷なライダーバトルに較べればあまりにも楽な作業である数十分の歩行などで、城戸の疲労を大きく誘う事は難しい。 「ああ、今は……もうD-4エリアに入っているな。この調子だと、問題なく市街地に着きそうだ」 そして、城戸が投げ掛けた言葉に黒髪の青年――本郷猛が冷静に答える。 支給された携帯電話を取り出し、自分達の現在位置を確認する本郷。 また、本郷も城戸と同じく特に疲労している様子は見られない。 それもそのはず、本郷も只の一般人ではなく、彼の身体は生身のものではないから。 全世界の征服を狙う秘密結社――『ショッカー』によって改造された存在。 バッタの遺伝子を用い、それが持つ跳躍力を得た異形の者――『ホッパー』という名を持つ改造人間。 仮面を被る事で己の正体を、感情を隠す事を余儀なくされた者達の一人――それが本郷猛だ。 現在位置の確認を終え、役目を終えた携帯を本郷はズボンのポケットに戻そうとする。 だが、携帯を握り締める本郷の手は何故か其処に届く事はなかった。 「……やっぱりおかしい」 「? どうしだんだ、本郷さん?」 「ああ、実は……」 心底不思議そうな表情で、本郷は言葉を漏らす。 対する城戸には本郷の言葉の真意がわからず、驚いたような顔をしている。 城戸が自分の言葉に反応している事に気づき、本郷は自分の言葉の意味を知ってもらうためにあるものを城戸に差し出す。 本郷によって差し出されたもの、それはこの殺し合いで支給されたもの――ある画面を映し出した携帯電話。 闇をひっそりと引き裂く光を放つ液晶画面に、数十人の名前が列挙された画面が城戸の視界に入る。 そう。本郷は自分達、参加者の名前が載せられた画面――名簿の画像を城戸に見せ、ある疑問を抱いていた。 「今まで見落としていたんだが……ここに俺と一文字の名前が二つもあるんだ」 「え? またまたそんなコト……あれ!? 本当だ……」 真剣そのものともいえる表情を浮かべる本郷の言葉を受け、城戸はほんの少しの疑いを持つが、直ぐに彼の表情も驚きに染まる。 これ以上は開かないといわんばかりに見開かれた城戸の両目には、確かに本郷猛、一文字隼人の名が二つ映っている。 そう。本郷は自分と一文字の名前が二つずつ存在している事実に気づき、困惑していた。 「んー……偶然同姓同名の人物が居るとか?」 「確かに俺もそう思ったけど……俺と一文字のそれぞれに居るなんて……ちょっと出来すぎてると思うな……」 「確かにそうだよなぁ……。 あ! もしかしたら未来の本郷さんが今の本郷さんを助けるためにここに潜入したとか!?」 「いや、流石にそんな昔のヒーロー番組の筋書きみたいなコトはないって」 「ははは……そうだよなぁ……」 自分達と同じ名前を持つ者が存在しているという事実。 幾らIQが優れているといえども本郷にはそのからくりがわからない。 やはり城戸がいうように同姓同名の人物が『偶然に』参加しているだけなのだろうか? あまりにも確立は低いが、確かに完全にはゼロとはいえない。 城戸の微妙に抜けた考えを涼しい顔で受け流しながら本郷は思考を走らせる。 だが、そんな時本郷はふとある事について考え始める。 (昔のヒーロー番組の筋書きか……はは、今の俺が言えた立場じゃなかったな……) つい先程、城戸に対して言った言葉の中の一節を本郷は振り返る。 普通の人間が口にすればなんら問題はない。 だが、言ってみた後に気づいたがどうに自分が言ってはなにか矛盾を感じてしまう。 そう。実際にまるでヒーロー番組の筋書きのような出来事に巻き込まれた自分が言っては。 ショッカーの尖兵として暗躍し、そして『美しいもの』を守るためにショッカーと闘った自分。 今の自分が本気でないにせよ城戸が考えた考えを無下に否定するのもなにか変な気もする。 どうにも自嘲する気持ちを抑え、本郷は思考を中断させた。 「まぁ、今はそんな難しいコト考えずに取り敢えず市街地を目指そうぜ!」 「ああ、そうだな」 気を取り直して、大声を上げる城戸に本郷が答える。 先程、本郷に考えを否定された城戸だが別に落ち込んでいる様子は全くない。 それもそのはず、先程城戸が言った考えはあまり考えずにちょっと冗談を言っただけに過ぎないからだ。 携帯電話を閉じ、こんどこそポケットに戻し、本郷は前を真っ直ぐ見据える。 視線の先に映るのは意気揚々と本郷の前を先導する城戸の歩く姿。 (そうだ、城戸さんも改造を受けていないのにこんなに頑張っている……。 俺も今は……歩くべきだな) 少し、はにかんだ表情を浮かべながら本郷は城戸の後ろをついていき、再び彼と共に市街地を目指し始める。 そんな時―― 「なっ! あんた、大丈夫か!?」 大声を上げ、城戸が本郷からみるみる内に離れ、ある方向を目指す。 城戸が一直線に向かう先に本郷は視線を流す。 其処には一人の痩せた男が道端に、うつ伏せになって倒れている姿があった。 とてつもない何かが到来する予感――それを誰が感じていた事かは知る由もない。 ◇  ◆  ◇ 「そっか、志村さん大変だったんだな……ごめんよ。俺達がもっと早く駆けつけてれば……」 「いや、気にしないでくれ、城戸さん。君達のせいじゃない。その気持ちだけで僕は嬉しいさ」 道端で三人の男が腰を下ろし、互いに話しをしている。 その内の二人は城戸と本郷。 そして、もう一人の男――先程うつ伏せに倒れ、城戸に助け起こされた男。 志村純一という名前を名乗った男だった。 「確か、白い怪人、そして剣崎一真……でしたっけ? 志村さんを襲った相手は?」 「ええ、その通りです、本郷さん。まぁ、剣崎一真の方は名乗っただけですので本名かどうかはわかりませんが……」 志村は城戸と本郷に自分は白いカミキリムシのような怪人に襲われ、そして剣崎一真という名乗った男に裏切られた事実を話した。 城戸と本郷には志村が嘘を付いているようには見えず、彼らは志村の話を信じた。 やがて、志村はあるものを彼ら二人の前に取り出す。 「それは……?」 「これはグレイブバックル。僕を仮面ライダーグレイブに変身させてくれるものです」 「なっ!? 志村さんもライダーなのかよ!?」 志村が取り出したものは奇妙な装飾が施された黄色のバックル――グレイブバックル。 橘朔也が再び復活したアンデットに対抗するために作り出したライダーシステムの一つ。 志村はそれを城戸と本郷の二人に見せ、城戸の驚きに満ちた声に黙って頷く。 そして、志村の視線は次第にグレイブバックルの方へ落ち始めた。 同時に志村の表情に確かな変化が移り始める。 「僕はこれで人間を……一人でも多くの人間を守るために仮面ライダーになりました。 でも、簡単に剣崎という人に裏切られ……本当に馬鹿みたいですよね。 けど、それだけなら……それだけならどんなによかったコトか……!」 「それだけなら? 一体どうしたっていうんだ、志村さん!?」 浮かべる表情は不甲斐無い自分自身に対する嫌悪感。 グレイブバックルをまるで割れろといわんばかりに握り締める志村。 志村に起きた事は先程、簡潔ではあるが聞いていたため、城戸と本郷には志村の悔しさがわかる。 だが、『それだけなら』という志村の意味深な言葉に心当たりはない。 志村を心配する城戸が慌てながら言葉を掛け、本郷は黙って志村の次の言葉に集中する。 やがて、ゆっくりとグレイブバックルから視線を離し、志村が顔を上げ始めた。 「最初に……スマートブレインに殺された二人の男女を覚えていますよね? あの二人は僕の仲間でした……共に仮面ライダーとして、人間を守るために闘おうと誓ったのに……。 僕は……僕は何も出来なかった……禍木と夏見を……僕は見殺しにしてしまった……」 両肩をワナワナと震わせ、一層と強張った表情を浮かべる志村。 其処に浮かび上がる感情は先程よりも更に激しいもの。 志村の両腕に握られたグレイブバックルが悲しそうに軋む。 城戸と本郷には何故か、その音が志村の悲しみを代弁する声のように感じた。 今にも感情が爆発しそうな志村。 そんな悲痛な様子を浮かべる志村に声を掛ける者は――――居た。 「志村さん! あんたが落ち込んでどうするんだよ! あんた、ライダーなんだろ? 人間を守るために闘うんだろ!? だったら……あんたには落ち込んでいる暇なんてないッ!!」 城戸が志村に近寄り、彼の肩に両手を乗せながら口を開く。 人間を守るためにライダーになった志村、そして彼は仲間の死をとても悲しんでいる。 そんな志村を城戸が放っておくわけがない。 そう。城戸も志村と同じように人間を守るためにライダーバトルの阻止にその身を費やしたのだから。 投じた闘いは違うといえども、本質的な目的は同じである事に間違いはない。 そのため、城戸は志村に確かな共感を感じ、彼に信頼を抱いていた。 こんなに苦しそうな志村が、演技などをしている事は城戸にはとても考えられない。 そのため、城戸は志村を一喝する。 「そうだ、俺達も協力する。俺達だけじゃない、一文字だって風見だって居るんだ。 禍木さんと三輪さんの分も……俺達がスマートブレインの奴らに思い知らせてやればいい。 俺達は……絶対に人間を守り通し、お前達を叩き潰すコトを……! だから――」 そして、本郷も城戸と同じく志村に対し言葉を掛ける。 自分の不甲斐無さで落ち込んだ様子を見せる志村。 だが、本郷は以前、ショッカーの尖兵として人間を傷つけた事がある。 そんな自分に較べれば志村が自分の行いをまるで償いきれない罪のように後悔する必要もない。 それでも、どうしても許せないなら闘いを始めればいい。 以前、自分がショッカーに対し、行った償いの闘いのように。 だから、本郷は志村に差し伸べる。 「進もう。俺達を待っている人達はきっといる。彼らを守るためにも……俺達は進めるんだ」 「そうさ! だから、志村さん。俺達と共に闘おう!」 志村に向かい、手を差し伸べる志村。 本郷だけではない。 城戸も志村へ手を差し伸べる。 二人が浮かべる表情には疑念の文字など気配すら見えない。 そんな二人の手を志村は―― 「ありがとう……城戸さん、本郷さん。僕、頑張ります……だって、僕も仮面ライダーですから……!」 固く握りしめ、彼らの言葉に答えた。 ◇  ◆  ◇ 城戸、本郷、志村の三人が歩を進める。 城戸と本郷が肩を並べ、志村は一人彼らの少し後ろをついている。 共にスマートブレインを倒すために手を組んだ仲間――ではない。 (まさか、これほどまでに上手くいくとはな……) 志村が先程、城戸と本郷に言った事――人間を守るために仮面ライダーになったという言葉。 勿論あれは嘘であり、あんな戯言のような言葉は志村には到底理解できない。 只、城戸と本郷の信頼を勝ち取るために言ってみただけの事。 そう。人間ではなくアルビノジョーカーとして、この殺し合いでの優勝を狙う志村にとっては。 また、どうやらその結果は上々で、彼ら二人が自分を疑っているような素振りはみられない。 そして、志村は自分の幸運に対し、更に確かな手ごたえを感じていた。 (城戸真司、本郷猛か……どうやら最適な人物だと見える。 あの橘チーフのように……利用しやすそうだな……後はどの程度まで闘えるかが気になるかな) 志村の前を、背中を向けて歩く城戸と本郷。 先程、周囲を隈なく警戒していたせいで二人の接近に一早く感づき、取り敢えず負傷者の振りをした志村。 そんな志村の姿を見て、城戸は直ぐに駆け寄り、彼を助け起こした。 その時、志村は確信していた。 名前は知らない目の前の男――城戸は利用できると。 そしてそれは城戸の後ろから心配そうに駆け寄ってきた本郷に対してもいえる。 何も疑いは持たずに自分を助け起こした城戸。 そんな城戸に自分が危険人物かどうか確かめるべきだと、警戒の言葉を掛ける事もなかった本郷。 恐らく二人とも、かなりのお人よしで、先ずは負傷者である自分を助けようと身体が動いたのだろう。 こういう手合いは利用しやすい。 きっと、彼ら自身の身が危険になろうとも自分を含め他人のために簡単に命を捨てる事が出来るだろう。 そう、BOARDの資料で見た、剣崎一真のような人物なら。 (市街地はあの長田という女に任せるコトにしよう。精々、一人くらいには伝えて欲しいものだが……) また、現在、志村は城戸と本郷に提案し、孤島の東側に向かっていた。 『長田結花と名乗る少女と出会ったが、自分が負傷していたため、彼女には他の参加者へメッセージを伝えるために申し訳ないが先に行って貰った。 恐らく、彼女は何か考えがあって東の方角へ行ったと思われる。 だから、自分達も彼女と合流するために東の方へ行こう』 と、志村はそんな事を言い、二人の了解をあっさりと取り付けていた。 元々確固たる理由もなく、それよりも一人で先行した少女を城戸と本郷が見過ごせるわけもない。 実際には志村からすれば長田は市街地の方へ向かっていたように見えた。 しかし志村がそのように嘘を交えて、提案した。。 それには先程、メッセージを託し、市街地へ向かっていったと思われる長田結花が関係している。 丁度良い手駒が二人も出来たので、志村は市街地の人間にメッセージを届けるのは彼女に任せ、自分達は東側に向かう事にしようと考えからだ。 もし、長田が実は東の方へ向かっていたとして、合流したとしても何食わぬ顔で合流すればよく、問題はない。 また、殺し合いが始まった直後に戦闘を行った五代という男、そして剣崎一真は時間的に考え、自分達より東側に居る可能性は低いと考えられる。 彼ら二人と直に接触をする事は、自分の偽の情報が見破られる恐れがあるため、なんとしてでも避けなければならない。 そのために志村は東の方へ行くのが安全だと考えを下した。 更に、勿論、そのメッセージとは『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』 『桜井侑斗は危険人物であり、デネブを殺した可能性が高い』の二つ。 それらに加え、デネブという参加者が流した奇妙な放送を長田から聞いた事も、志村は二人に話している。 只、デネブが言った内容ではなく、長田が自分に言った事を話しただけに留めておいたが。 その方が、参加者間で疑念が巻き上がると考えたからである。 (あとは……橘チーフは俺が剣崎一真を知っている事実は知らない。 俺は『ブレイド』というライダーシステム装着者の存在はチーフから聞いたが、『剣崎一真』という人物は彼から教えてもらっていない。 ならば、俺が剣崎一真と名乗った人物に襲われたと聞いても俺を疑う事はないだろう……。 まぁ、剣崎一真に対して、なんらかの疑念は抱いてくれるかもしれないがな) そして、志村は現在、合流を目指している人物――橘朔也の事について思考を走らせる。 確かに実力はあるらしいが、どうにも人が良く、利用しやすい事この上ない男。 きっと橘は自分と長田が流そうとする情報――剣崎一真が殺し合いに乗っているという事実に困惑するだろう。 四年前のアンデッドの闘いでは最終的に剣崎と橘は和解しているためだ。 しかし、その情報を流したのが橘に自分だと知られても何も心配はない。 自分は橘からは剣崎の名前は未だ知らされておらず、BOARDの資料を見て、彼の名前とブレイドである事を知っていたからだ。 橘からすれば剣崎を知らない自分が彼の名を名乗った人物に襲われたと聞いても、自分を疑う事など有り得ないだろう。 寧ろ、剣崎に少しでも疑念を抱いてくれる可能性もあり、メリットな事しかない筈。 そして、志村には未だ興味深い発見があった。 (しかし、ラウズカードが支給されているとは……これで剣崎がブレイドに変身できた理由も納得がいく。 そしてこれがあるという事は他のカードも……残りのカテゴリーKのカードがある可能性も出てくる。 ならば勿論、集めるべきだな……あの力のために……!) 未だ支給された支給品をチェックしていなかったため、城戸と本郷と出会う前に志村は確認した。 デイバックから探し当てたものを見て、思わず志村は眼を疑った。 志村の視界に入ってきたもの、それはクラブスートのカテゴリーK。 剣崎や橘が扱っていたライダーシステムに対応するラウズカードの一種。 確かに封印が解かれ、アンデットの姿に戻っていた筈だった一枚のカード。 だが、何故か再び封印され、自分に支給されているという事実。 この事実から恐らく、スマートブレインという奴らもライダーシステムのようなものを保持し、支給品として分配するために用意したのだろう。 そうでなければ剣崎がBOARDで保管していたブレイバックルを。 そして、四枚のカテゴリーKのカードはいつか、封印された力――『14』の力を我が物にするのに必要なもの。 厳密に言えば、四枚のカテゴリーKだけでは無理なのだが集めておくに越した事はない。 そのため、志村はカテゴリーKのカードの収集も新たな目的とした。 (そして、もう一つの支給品。 何故かジョーカーの力が制限されているこの状況、グレイブバックルにもなんらかの制限があるのかもしれない。 ならば、これは役に立つな……一瞬の隙をつけば、大抵の参加者は殺せる) 志村に支給されたもう一つの支給品。 それは志村の指に嵌められた特に変哲もない指輪。 だが、それはZECTの訓練生、高鳥蓮華が使用していた、特殊性のワイヤーが仕込まれた指輪である。 人の首を絞めるのには充分であり、殺傷能力にも優れているとマニュアルにも記載されている。 どうも、普段の力が完全には発揮できないこの状況ではきっと重宝する事だろう。 勿論、城戸と本郷に教える義理もないため、ラウズカードしか支給されなかったとしか話していないが。 一瞬の内に様々な事を考えた事で、小休止の意味も兼ねて志村は俯き気味だった頭を上げる。 暗みがかかった志村の視界に入るのは、依然、自分の前を歩き続ける城戸と本郷の二人。 そんな二人を志村は馬鹿にするような眼つきで眺める。 (さて……今までは上出来だが、これからだな……まぁ、俺のために闘ってもらうぞ、城戸真司、本郷猛。 俺がこの世界の頂点に立つために……精々、利用してやるまでだ) 共に自分の知らない変身機能を有し、闘う事が出来ると言っていた二人。 更に二人は変身を行う道具を二つずつ持っている。 そして二人とも、お人よしの性格の持ち主。 これほどまでにも、自分が捜し求めていた人材は居ないだろう。 二人の未だ知らない力に興味を、自分の野望への欲望を志村は静かに燃やし続ける。 「おい、志村さん。置いてっちゃうぜ?」 「志村さん、急ぎましょう」 そう。たった今、自分に何の疑いも持たない眼差しで言葉を掛けてきた二人に対して。 「ああ、すまない。今直ぐ行くさ」 今にも噴き出してしまいそうな衝動を志村は必死に抑え、彼らの言葉に答える。 悪意の欠片も見せない、清清しい笑顔で本当の心を隠しながら。 **状態表 【本郷猛@仮面ライダーTHE-NEXT】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:D-4 中心部】 [時間軸]:THE-NEXT終盤(ショッカー基地壊滅後) [状態]:健康 [装備]:特殊マスク@仮面ライダーTHE-NEXT [道具]:基本支給品一式、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎 [思考・状況] 1:城戸真司、志村純一と共に行動する。 2:戦いを止める。絶対に。 3:スマートブレインに対する強い怒り。 4:長田結花との合流を目指す 【備考】 ※志村を信用しています。また、彼から『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』という話を聞きました。 ※名簿に自分の名前と一文字の名前が二つずつある事に疑問を感じています。 【城戸真司@仮面ライダー龍騎】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:D-4 中心部】 [時間軸]:劇場版終盤(レイドラグーンへの特攻直前) [状態]:健康 [装備]:龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎 [道具]:基本支給品一式、デルタギア@仮面ライダー555 [思考・状況] 1:本郷猛(R)、志村純一と共に行動する。 2:戦いを止める。 絶対に。 3:スマートブレインに対する強い怒り。 4:長田結花との合流を目指す 【備考】 ※志村を信用しています。また、彼から『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』という話を聞きました。 ※名簿に手塚、芝浦、東條、香川の名前がある事に疑問を感じています。 【志村純一@仮面ライダー剣・Missing Ace】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:D-4 中心部】 【時間軸】剣崎たちに出会う前 【状態】封印エネルギーによる痛み(普通に動ける程度まで回復) 【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣・Missing Ace 【道具】支給品一式、ラウズカード(クラブのK)@仮面ライダー剣、蓮華のワイヤー内蔵型指輪@仮面ライダーカブト 【思考・状況】 基本行動方針:人間を装い優勝する。 1:移動して集団に紛れ込む。(市街地に拘らない) 2:橘チーフに合流。 3:『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』という情報を流す。 4:誰にも悟られず、かつ安全な状況でならジョーカー化して参加者を殺害or襲ってアルビノジョーカーの存在をアピールする。 5:当面は城戸と本郷を利用し、他の参加者と接触する。また、自分の身が危なくなれば彼らを見捨てる。 6:『14』の力復活のために、カテゴリーKのラウズカードを集める。 【備考】 ※デネブの放送について(長田が聞いた範囲で)知りました。 また桜井侑斗は危険人物(?)、デネブは生きていると考えています。 ※志村は橘から『仮面ライダーブレイド』の存在は聞いていますが、ライダーシステム資格者が『剣崎一真』という事は知りません。 ですが、志村は此処に連れてこられる前に独自に調査を行い、剣崎一真がブレイドであるいう事、彼の顔なども知っています。 ※城戸、本郷(R)に『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』と話しました。 ※『自分の協力者、長田結花が東方の人間に協力を求めるために行った』と城戸と本郷に話してあります。 ※長田結花は市街地の方へ向かったと思っています。 【共通備考】 ※市街地の方ではなく、東の方へ進んでいます。 |025:[[牙と知恵 Devil-Action]]|投下順|027:[[笑顔と君と(前編)]]| |025:[[牙と知恵 Devil-Action]]|時系列順|027:[[笑顔と君と(前編)]]| |018:[[吼える]]|[[本郷猛(R)]]|000:[[後の作品]]| |018:[[吼える]]|[[城戸真司]]|000:[[後の作品]]| |017:[[白い悪意]]|[[志村純一]]|000:[[後の作品]]|
*切り札の在処は 少し、太陽が昇り始め周囲にほのかな光を齎す。 日光は様々な動植物に影響を与え、それが無ければエネルギー源となる有機物を生産できないものもいる。 生物分類上、動物界、脊椎動物門、哺乳網、霊長目、ヒト科、ヒト属、ヒト種に属する生物。 通称、『人間』または『ヒト』と呼ばれ、地球の誕生の歴史の中では極最近に頭角を現した者達にも日光は重要な意味を持っている。 いうなれば大自然が生み出す、必要不可欠な太陽の恵み。 その恵みの恩恵が除々に姿を見せ、『彼ら』を祝福するかのように光を惜しげもなく晒す。 そう。今はほんの少ししか姿を見せない、少し出番が早すぎる太陽の下で生命の鼓動を鳴らし続ける者達に向かって。 『バトルロワイアル』と称された殺し合いの舞台に立たされた者達に対して。 太陽は寂しげに視線を落とし続けていた。 ◇  ◆  ◇ しっかりとした足取りで南下する人影が二つ。 二人とも男性、見たところ歳は同じ位に見え、一人は黒色の短髪を生やし、もう一人は茶色の長髪を生やしている。 二人の肩に掛かっているもの、それはこの殺し合いでスマートブレインに支給されたデイバック。 参加者に有利となる支給品がランダムに同梱され、この殺し合いを生き抜くには必需品ともいえる品。 だが、彼ら二人――本郷猛、城戸真司が肩に、いや背負っているものはデイバックだけではない。 それはたとえ何があろうともこの殺し合いを止めるという、鋼鉄のように固き意志。揺ぎ無い意志、覚悟、信念に基づいた『使命』を背負っていた。 「ふぅ……結構歩いたよな。 まぁ仕事柄あちこち走り回ったからこのくらい何ともないけどさ」 茶髪の青年――城戸真司が一息つき、言葉を漏らす。 彼らは他の参加者と接触するために取り敢えず市街地を目指し、数十分以上は歩き続けていた。 だが、城戸の言葉が示す様に彼が浮かべる表情からはあまり疲労の色は見られない。 城戸はこの殺し合いに連れて来られるまで、OREジャーナルというネット上へのニュース配信会社に勤めていた。 但し、一人前とは言い難く、会社内ではあくまでも記者見習いという立場であったが。 だが、当然見習いであるから仕事が楽というわけではなく、よく現地へ取材のために急行を命じられていた。 そのため、城戸は体力に関しては人並み以上に良く培われているともいえ、今の彼は特に疲労している様子はなかった。 それに何より、城戸は只の一般人ではない。 鏡の中から人間を狙い、そして自らの餌として襲う存在――『ミラーモンスター』が生息する、通称『ミラーワールド』と呼ばれる世界。 そのミラーワールドに飛び込み、ミラーモンスターを自分と同じ存在達との闘い――『ライダーバトル』の糧とするために、倒す者達。 そう。カードデッキにより変身を行う者達――『仮面ライダー』として、今まで何度も闘い続けた男である。 過酷なライダーバトルに較べればあまりにも楽な作業である数十分の歩行などで、城戸の疲労を大きく誘う事は難しい。 「ああ、今は……もうD-4エリアに入っているな。この調子だと、問題なく市街地に着きそうだ」 そして、城戸が投げ掛けた言葉に黒髪の青年――本郷猛が冷静に答える。 支給された携帯電話を取り出し、自分達の現在位置を確認する本郷。 また、本郷も城戸と同じく特に疲労している様子は見られない。 それもそのはず、本郷も只の一般人ではなく、彼の身体は生身のものではないから。 全世界の征服を狙う秘密結社――『ショッカー』によって改造された存在。 バッタの遺伝子を用い、それが持つ跳躍力を得た異形の者――『ホッパー』という名を持つ改造人間。 仮面を被る事で己の正体を、感情を隠す事を余儀なくされた者達の一人――それが本郷猛だ。 現在位置の確認を終え、役目を終えた携帯を本郷はズボンのポケットに戻そうとする。 だが、携帯を握り締める本郷の手は何故か其処に届く事はなかった。 「……やっぱりおかしい」 「? どうしだんだ、本郷さん?」 「ああ、実は……」 心底不思議そうな表情で、本郷は言葉を漏らす。 対する城戸には本郷の言葉の真意がわからず、驚いたような顔をしている。 城戸が自分の言葉に反応している事に気づき、本郷は自分の言葉の意味を知ってもらうためにあるものを城戸に差し出す。 本郷によって差し出されたもの、それはこの殺し合いで支給されたもの――ある画面を映し出した携帯電話。 闇をひっそりと引き裂く光を放つ液晶画面に、数十人の名前が列挙された画面が城戸の視界に入る。 そう。本郷は自分達、参加者の名前が載せられた画面――名簿の画像を城戸に見せ、ある疑問を抱いていた。 「今まで見落としていたんだが……ここに俺と一文字の名前が二つもあるんだ」 「え? またまたそんなコト……あれ!? 本当だ……」 真剣そのものともいえる表情を浮かべる本郷の言葉を受け、城戸はほんの少しの疑いを持つが、直ぐに彼の表情も驚きに染まる。 これ以上は開かないといわんばかりに見開かれた城戸の両目には、確かに本郷猛、一文字隼人の名が二つ映っている。 そう。本郷は自分と一文字の名前が二つずつ存在している事実に気づき、困惑していた。 「んー……偶然同姓同名の人物が居るとか?」 「確かに俺もそう思ったけど……俺と一文字のそれぞれに居るなんて……ちょっと出来すぎてると思うな……」 「確かにそうだよなぁ……。 あ! もしかしたら未来の本郷さんが今の本郷さんを助けるためにここに潜入したとか!?」 「いや、流石にそんな昔のヒーロー番組の筋書きみたいなコトはないって」 「ははは……そうだよなぁ……」 自分達と同じ名前を持つ者が存在しているという事実。 幾らIQが優れているといえども本郷にはそのからくりがわからない。 やはり城戸がいうように同姓同名の人物が『偶然に』参加しているだけなのだろうか? あまりにも確立は低いが、確かに完全にはゼロとはいえない。 城戸の微妙に抜けた考えを涼しい顔で受け流しながら本郷は思考を走らせる。 だが、そんな時本郷はふとある事について考え始める。 (昔のヒーロー番組の筋書きか……はは、今の俺が言えた立場じゃなかったな……) つい先程、城戸に対して言った言葉の中の一節を本郷は振り返る。 普通の人間が口にすればなんら問題はない。 だが、言ってみた後に気づいたがどうに自分が言ってはなにか矛盾を感じてしまう。 そう。実際にまるでヒーロー番組の筋書きのような出来事に巻き込まれた自分が言っては。 ショッカーの尖兵として暗躍し、そして『美しいもの』を守るためにショッカーと闘った自分。 今の自分が本気でないにせよ城戸が考えた考えを無下に否定するのもなにか変な気もする。 どうにも自嘲する気持ちを抑え、本郷は思考を中断させた。 「まぁ、今はそんな難しいコト考えずに取り敢えず市街地を目指そうぜ!」 「ああ、そうだな」 気を取り直して、大声を上げる城戸に本郷が答える。 先程、本郷に考えを否定された城戸だが別に落ち込んでいる様子は全くない。 それもそのはず、先程城戸が言った考えはあまり考えずにちょっと冗談を言っただけに過ぎないからだ。 携帯電話を閉じ、こんどこそポケットに戻し、本郷は前を真っ直ぐ見据える。 視線の先に映るのは意気揚々と本郷の前を先導する城戸の歩く姿。 (そうだ、城戸さんも改造を受けていないのにこんなに頑張っている……。 俺も今は……歩くべきだな) 少し、はにかんだ表情を浮かべながら本郷は城戸の後ろをついていき、再び彼と共に市街地を目指し始める。 そんな時―― 「なっ! あんた、大丈夫か!?」 大声を上げ、城戸が本郷からみるみる内に離れ、ある方向を目指す。 城戸が一直線に向かう先に本郷は視線を流す。 其処には一人の痩せた男が道端に、うつ伏せになって倒れている姿があった。 とてつもない何かが到来する予感――それを誰が感じていた事かは知る由もない。 ◇  ◆  ◇ 「そっか、志村さん大変だったんだな……ごめんよ。俺達がもっと早く駆けつけてれば……」 「いや、気にしないでくれ、城戸さん。君達のせいじゃない。その気持ちだけで僕は嬉しいさ」 道端で三人の男が腰を下ろし、互いに話しをしている。 その内の二人は城戸と本郷。 そして、もう一人の男――先程うつ伏せに倒れ、城戸に助け起こされた男。 志村純一という名前を名乗った男だった。 「確か、白い怪人、そして剣崎一真……でしたっけ? 志村さんを襲った相手は?」 「ええ、その通りです、本郷さん。まぁ、剣崎一真の方は名乗っただけですので本名かどうかはわかりませんが……」 志村は城戸と本郷に自分は白いカミキリムシのような怪人に襲われ、そして剣崎一真という名乗った男に裏切られた事実を話した。 城戸と本郷には志村が嘘を付いているようには見えず、彼らは志村の話を信じた。 やがて、志村はあるものを彼ら二人の前に取り出す。 「それは……?」 「これはグレイブバックル。僕を仮面ライダーグレイブに変身させてくれるものです」 「なっ!? 志村さんもライダーなのかよ!?」 志村が取り出したものは奇妙な装飾が施された黄色のバックル――グレイブバックル。 橘朔也が再び復活したアンデットに対抗するために作り出したライダーシステムの一つ。 志村はそれを城戸と本郷の二人に見せ、城戸の驚きに満ちた声に黙って頷く。 そして、志村の視線は次第にグレイブバックルの方へ落ち始めた。 同時に志村の表情に確かな変化が移り始める。 「僕はこれで人間を……一人でも多くの人間を守るために仮面ライダーになりました。 でも、簡単に剣崎という人に裏切られ……本当に馬鹿みたいですよね。 けど、それだけなら……それだけならどんなによかったコトか……!」 「それだけなら? 一体どうしたっていうんだ、志村さん!?」 浮かべる表情は不甲斐無い自分自身に対する嫌悪感。 グレイブバックルをまるで割れろといわんばかりに握り締める志村。 志村に起きた事は先程、簡潔ではあるが聞いていたため、城戸と本郷には志村の悔しさがわかる。 だが、『それだけなら』という志村の意味深な言葉に心当たりはない。 志村を心配する城戸が慌てながら言葉を掛け、本郷は黙って志村の次の言葉に集中する。 やがて、ゆっくりとグレイブバックルから視線を離し、志村が顔を上げ始めた。 「最初に……スマートブレインに殺された二人の男女を覚えていますよね? あの二人は僕の仲間でした……共に仮面ライダーとして、人間を守るために闘おうと誓ったのに……。 僕は……僕は何も出来なかった……禍木と夏見を……僕は見殺しにしてしまった……」 両肩をワナワナと震わせ、一層と強張った表情を浮かべる志村。 其処に浮かび上がる感情は先程よりも更に激しいもの。 志村の両腕に握られたグレイブバックルが悲しそうに軋む。 城戸と本郷には何故か、その音が志村の悲しみを代弁する声のように感じた。 今にも感情が爆発しそうな志村。 そんな悲痛な様子を浮かべる志村に声を掛ける者は――――居た。 「志村さん! あんたが落ち込んでどうするんだよ! あんた、ライダーなんだろ? 人間を守るために闘うんだろ!? だったら……あんたには落ち込んでいる暇なんてないッ!!」 城戸が志村に近寄り、彼の肩に両手を乗せながら口を開く。 人間を守るためにライダーになった志村、そして彼は仲間の死をとても悲しんでいる。 そんな志村を城戸が放っておくわけがない。 そう。城戸も志村と同じように人間を守るためにライダーバトルの阻止にその身を費やしたのだから。 投じた闘いは違うといえども、本質的な目的は同じである事に間違いはない。 そのため、城戸は志村に確かな共感を感じ、彼に信頼を抱いていた。 こんなに苦しそうな志村が、演技などをしている事は城戸にはとても考えられない。 そのため、城戸は志村を一喝する。 「そうだ、俺達も協力する。俺達だけじゃない、一文字だって風見だって居るんだ。 禍木さんと三輪さんの分も……俺達がスマートブレインの奴らに思い知らせてやればいい。 俺達は……絶対に人間を守り通し、お前達を叩き潰すコトを……! だから――」 そして、本郷も城戸と同じく志村に対し言葉を掛ける。 自分の不甲斐無さで落ち込んだ様子を見せる志村。 だが、本郷は以前、ショッカーの尖兵として人間を傷つけた事がある。 そんな自分に較べれば志村が自分の行いをまるで償いきれない罪のように後悔する必要もない。 それでも、どうしても許せないなら闘いを始めればいい。 以前、自分がショッカーに対し、行った償いの闘いのように。 だから、本郷は志村に差し伸べる。 「進もう。俺達を待っている人達はきっといる。彼らを守るためにも……俺達は進めるんだ」 「そうさ! だから、志村さん。俺達と共に闘おう!」 志村に向かい、手を差し伸べる志村。 本郷だけではない。 城戸も志村へ手を差し伸べる。 二人が浮かべる表情には疑念の文字など気配すら見えない。 そんな二人の手を志村は―― 「ありがとう……城戸さん、本郷さん。僕、頑張ります……だって、僕も仮面ライダーですから……!」 固く握りしめ、彼らの言葉に答えた。 ◇  ◆  ◇ 城戸、本郷、志村の三人が歩を進める。 城戸と本郷が肩を並べ、志村は一人彼らの少し後ろをついている。 共にスマートブレインを倒すために手を組んだ仲間――ではない。 (まさか、これほどまでに上手くいくとはな……) 志村が先程、城戸と本郷に言った事――人間を守るために仮面ライダーになったという言葉。 勿論あれは嘘であり、あんな戯言のような言葉は志村には到底理解できない。 只、城戸と本郷の信頼を勝ち取るために言ってみただけの事。 そう。人間ではなくアルビノジョーカーとして、この殺し合いでの優勝を狙う志村にとっては。 また、どうやらその結果は上々で、彼ら二人が自分を疑っているような素振りはみられない。 そして、志村は自分の幸運に対し、更に確かな手ごたえを感じていた。 (城戸真司、本郷猛か……どうやら最適な人物だと見える。 あの橘チーフのように……利用しやすそうだな……後はどの程度まで闘えるかが気になるかな) 志村の前を、背中を向けて歩く城戸と本郷。 先程、周囲を隈なく警戒していたせいで二人の接近に一早く感づき、取り敢えず負傷者の振りをした志村。 そんな志村の姿を見て、城戸は直ぐに駆け寄り、彼を助け起こした。 その時、志村は確信していた。 名前は知らない目の前の男――城戸は利用できると。 そしてそれは城戸の後ろから心配そうに駆け寄ってきた本郷に対してもいえる。 何も疑いは持たずに自分を助け起こした城戸。 そんな城戸に自分が危険人物かどうか確かめるべきだと、警戒の言葉を掛ける事もなかった本郷。 恐らく二人とも、かなりのお人よしで、先ずは負傷者である自分を助けようと身体が動いたのだろう。 こういう手合いは利用しやすい。 きっと、彼ら自身の身が危険になろうとも自分を含め他人のために簡単に命を捨てる事が出来るだろう。 そう、BOARDの資料で見た、剣崎一真のような人物なら。 (市街地はあの長田という女に任せるコトにしよう。精々、一人くらいには伝えて欲しいものだが……) また、現在、志村は城戸と本郷に提案し、孤島の東側に向かっていた。 『長田結花と名乗る少女と出会ったが、自分が負傷していたため、彼女には他の参加者へメッセージを伝えるために申し訳ないが先に行って貰った。 恐らく、彼女は何か考えがあって東の方角へ行ったと思われる。 だから、自分達も彼女と合流するために東の方へ行こう』 と、志村はそんな事を言い、二人の了解をあっさりと取り付けていた。 元々確固たる理由もなく、それよりも一人で先行した少女を城戸と本郷が見過ごせるわけもない。 実際には志村からすれば長田は市街地の方へ向かっていたように見えた。 しかし志村がそのように嘘を交えて、提案した。。 それには先程、メッセージを託し、市街地へ向かっていったと思われる長田結花が関係している。 丁度良い手駒が二人も出来たので、志村は市街地の人間にメッセージを届けるのは彼女に任せ、自分達は東側に向かう事にしようと考えからだ。 もし、長田が実は東の方へ向かっていたとして、合流したとしても何食わぬ顔で合流すればよく、問題はない。 また、殺し合いが始まった直後に戦闘を行った五代という男、そして剣崎一真は時間的に考え、自分達より東側に居る可能性は低いと考えられる。 彼ら二人と直に接触をする事は、自分の偽の情報が見破られる恐れがあるため、なんとしてでも避けなければならない。 そのために志村は東の方へ行くのが安全だと考えを下した。 更に、勿論、そのメッセージとは『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』 『桜井侑斗は危険人物であり、デネブを殺した可能性が高い』の二つ。 それらに加え、デネブという参加者が流した奇妙な放送を長田から聞いた事も、志村は二人に話している。 只、デネブが言った内容ではなく、長田が自分に言った事を話しただけに留めておいたが。 その方が、参加者間で疑念が巻き上がると考えたからである。 (あとは……橘チーフは俺が剣崎一真を知っている事実は知らない。 俺は『ブレイド』というライダーシステム装着者の存在はチーフから聞いたが、『剣崎一真』という人物は彼から教えてもらっていない。 ならば、俺が剣崎一真と名乗った人物に襲われたと聞いても俺を疑う事はないだろう……。 まぁ、剣崎一真に対して、なんらかの疑念は抱いてくれるかもしれないがな) そして、志村は現在、合流を目指している人物――橘朔也の事について思考を走らせる。 確かに実力はあるらしいが、どうにも人が良く、利用しやすい事この上ない男。 きっと橘は自分と長田が流そうとする情報――剣崎一真が殺し合いに乗っているという事実に困惑するだろう。 四年前のアンデッドの闘いでは最終的に剣崎と橘は和解しているためだ。 しかし、その情報を流したのが橘に自分だと知られても何も心配はない。 自分は橘からは剣崎の名前は未だ知らされておらず、BOARDの資料を見て、彼の名前とブレイドである事を知っていたからだ。 橘からすれば剣崎を知らない自分が彼の名を名乗った人物に襲われたと聞いても、自分を疑う事など有り得ないだろう。 寧ろ、剣崎に少しでも疑念を抱いてくれる可能性もあり、メリットな事しかない筈。 そして、志村には未だ興味深い発見があった。 (しかし、ラウズカードが支給されているとは……これで剣崎がブレイドに変身できた理由も納得がいく。 そしてこれがあるという事は他のカードも……残りのカテゴリーKのカードがある可能性も出てくる。 ならば勿論、集めるべきだな……あの力のために……!) 未だ支給された支給品をチェックしていなかったため、城戸と本郷と出会う前に志村は確認した。 デイバックから探し当てたものを見て、思わず志村は眼を疑った。 志村の視界に入ってきたもの、それはクラブスートのカテゴリーK。 剣崎や橘が扱っていたライダーシステムに対応するラウズカードの一種。 確かに封印が解かれ、アンデットの姿に戻っていた筈だった一枚のカード。 だが、何故か再び封印され、自分に支給されているという事実。 この事実から恐らく、スマートブレインという奴らもライダーシステムのようなものを保持し、支給品として分配するために用意したのだろう。 そうでなければ剣崎がBOARDで保管していたブレイバックルを。 そして、四枚のカテゴリーKのカードはいつか、封印された力――『14』の力を我が物にするのに必要なもの。 厳密に言えば、四枚のカテゴリーKだけでは無理なのだが集めておくに越した事はない。 そのため、志村はカテゴリーKのカードの収集も新たな目的とした。 (そして、もう一つの支給品。 何故かジョーカーの力が制限されているこの状況、グレイブバックルにもなんらかの制限があるのかもしれない。 ならば、これは役に立つな……一瞬の隙をつけば、大抵の参加者は殺せる) 志村に支給されたもう一つの支給品。 それは志村の指に嵌められた特に変哲もない指輪。 だが、それはZECTの訓練生、高鳥蓮華が使用していた、特殊性のワイヤーが仕込まれた指輪である。 人の首を絞めるのには充分であり、殺傷能力にも優れているとマニュアルにも記載されている。 どうも、普段の力が完全には発揮できないこの状況ではきっと重宝する事だろう。 勿論、城戸と本郷に教える義理もないため、ラウズカードしか支給されなかったとしか話していないが。 一瞬の内に様々な事を考えた事で、小休止の意味も兼ねて志村は俯き気味だった頭を上げる。 暗みがかかった志村の視界に入るのは、依然、自分の前を歩き続ける城戸と本郷の二人。 そんな二人を志村は馬鹿にするような眼つきで眺める。 (さて……今までは上出来だが、これからだな……まぁ、俺のために闘ってもらうぞ、城戸真司、本郷猛。 俺がこの世界の頂点に立つために……精々、利用してやるまでだ) 共に自分の知らない変身機能を有し、闘う事が出来ると言っていた二人。 更に二人は変身を行う道具を二つずつ持っている。 そして二人とも、お人よしの性格の持ち主。 これほどまでにも、自分が捜し求めていた人材は居ないだろう。 二人の未だ知らない力に興味を、自分の野望への欲望を志村は静かに燃やし続ける。 「おい、志村さん。置いてっちゃうぜ?」 「志村さん、急ぎましょう」 そう。たった今、自分に何の疑いも持たない眼差しで言葉を掛けてきた二人に対して。 「ああ、すまない。今直ぐ行くさ」 今にも噴き出してしまいそうな衝動を志村は必死に抑え、彼らの言葉に答える。 悪意の欠片も見せない、清清しい笑顔で本当の心を隠しながら。 **状態表 【本郷猛@仮面ライダーTHE-NEXT】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:D-4 中心部】 [時間軸]:THE-NEXT終盤(ショッカー基地壊滅後) [状態]:健康 [装備]:特殊マスク@仮面ライダーTHE-NEXT [道具]:基本支給品一式、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎 [思考・状況] 1:城戸真司、志村純一と共に行動する。 2:戦いを止める。絶対に。 3:スマートブレインに対する強い怒り。 4:長田結花との合流を目指す 【備考】 ※志村を信用しています。また、彼から『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』という話を聞きました。 ※名簿に自分の名前と一文字の名前が二つずつある事に疑問を感じています。 【城戸真司@仮面ライダー龍騎】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:D-4 中心部】 [時間軸]:劇場版終盤(レイドラグーンへの特攻直前) [状態]:健康 [装備]:龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎 [道具]:基本支給品一式、デルタギア@仮面ライダー555 [思考・状況] 1:本郷猛(R)、志村純一と共に行動する。 2:戦いを止める。 絶対に。 3:スマートブレインに対する強い怒り。 4:長田結花との合流を目指す 【備考】 ※志村を信用しています。また、彼から『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』という話を聞きました。 ※名簿に手塚、芝浦、東條、香川の名前がある事に疑問を感じています。 【志村純一@仮面ライダー剣・Missing Ace】 【1日目 現時刻:黎明】 【現在地:D-4 中心部】 【時間軸】剣崎たちに出会う前 【状態】封印エネルギーによる痛み(普通に動ける程度まで回復) 【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣・Missing Ace 【道具】支給品一式、ラウズカード(クラブのK)@仮面ライダー剣、蓮華のワイヤー内蔵型指輪@仮面ライダーカブト 【思考・状況】 基本行動方針:人間を装い優勝する。 1:移動して集団に紛れ込む。(市街地に拘らない) 2:橘チーフに合流。 3:『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』という情報を流す。 4:誰にも悟られず、かつ安全な状況でならジョーカー化して参加者を殺害or襲ってアルビノジョーカーの存在をアピールする。 5:当面は城戸と本郷を利用し、他の参加者と接触する。また、自分の身が危なくなれば彼らを見捨てる。 6:『14』の力復活のために、カテゴリーKのラウズカードを集める。 【備考】 ※デネブの放送について(長田が聞いた範囲で)知りました。 また桜井侑斗は危険人物(?)、デネブは生きていると考えています。 ※志村は橘から『仮面ライダーブレイド』の存在は聞いていますが、ライダーシステム資格者が『剣崎一真』という事は知りません。 ですが、志村は此処に連れてこられる前に独自に調査を行い、剣崎一真がブレイドであるいう事、彼の顔なども知っています。 ※城戸、本郷(R)に『白い怪物と剣崎一真は共に殺し合いに乗り、尚且つ組んでいる』『桜井侑斗は危険人物』と話しました。 ※『自分の協力者、長田結花が東方の人間に協力を求めるために行った』と城戸と本郷に話してあります。 ※長田結花は市街地の方へ向かったと思っています。 【共通備考】 ※市街地の方ではなく、東の方へ進んでいます。 |025:[[牙と知恵 Devil-Action]]|投下順|027:[[笑顔と君と(前編)]]| |025:[[牙と知恵 Devil-Action]]|時系列順|027:[[笑顔と君と(前編)]]| |018:[[吼える]]|[[本郷猛(R)]]|031:[[激闘の幕開け]]| |018:[[吼える]]|[[城戸真司]]|031:[[激闘の幕開け]]| |017:[[白い悪意]]|[[志村純一]]|031:[[激闘の幕開け]]|

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