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指し手二人(前編)」(2008/06/23 (月) 00:46:23) の最新版変更点

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**指し手二人(前編)  空に浮かぶ雲の隙間から除く唯一無二の存在が、刻一刻とその輝きを増していく。  それは即ち、殺し合いが順調に進行を続けていることに等しい。  合わせる様にして明るさを取り戻し始めた青空の元、五代雄介は小屋へと足を返していた。  左手で小屋の扉を開けた五代の右手にいくつか握られていた果実が、やや小型のテーブルに並べられる。それらは精一杯自らの存在を主張するが、五代がそれに事は応えることは無い。  つい先程までベッドに横たわっていた青年――――葦原涼が、既にその場から姿を消していたからだ。  もっとも、小屋を出る前から涼の表情には兆候が見られていたから、大きな衝撃を五代へ与えるには至らない。  五代は右の掌に視線を滑らせながら確信を持つ。――――彼もまた、自分や剣崎と同じ「仮面ライダー」なのだと。  彼はまた戦いに行ったに違い無い。負傷程度で「仮面ライダー」は立ち止まらない。既に満身創痍の五代自身が彼の考えが正しいと示す何よりの証拠だった。  そして、「仮面ライダー」を止める術が無いことも五代は理解している。逆のパターンになっても、五代が止まることは無かっただろう。  だから無理にそれを引き戻す真似はしない。いずれ再開できることを願い、再び小屋を出る。  「一人でも多くの笑顔を守る」為、剣崎との誓いを守る為に、五代ももたもたしている訳にはいかなかった。    名残惜しい、といった雰囲気を醸し出す小屋を背にバイクへと歩を進める五代。吹き抜ける疾風が、その歩みを先導していく。  ヘルメットを被りシートに跨った彼を、携帯の電子音が襲ったのはその時だった。五代はポケットから支給された携帯を取り出す。殺し合いの進行度合いを発表する、放送。  女の口から語られる全てを、一句残らず耳に叩き込む。やがて放送が終わると、情報を一つずつ整理していく。 (…………一条さんっ…………)  放送の最初に行われた脱落者の発表。五代と同じ志を持った「仮面ライダー」剣崎一真だけでなく、彼以外にも8人の参加者が既に命を落としている。  その8人の中に一人だけ、五代の良く知る名があった。一条薫――この場に来る前に拾い上げた警察手帳の持ち主。  手帳と拳銃を拾った時点で、ある程度の覚悟はできていた。だからこそ五代は涙を流さず、取り出した手帳へと静かに目をやる。  幾つもの思い出が五代の脳内にフラッシュバックする。継ぐ遺志が、背負う魂がこれで一つ増えた。それが五代の決意をより一層強固なものへと変えていく。  優勝すれば、脱落者を蘇生させることが可能だとも放送では告げられた。が、五代に心境の変化は生まれない。  禁止エリアと列車の運行について説明されると、マップと合わせてそれらの関係する位置を確認する。  殺し合いが順調に進んでいることを思い知らされる五代。「戦いを止めたい」という思いは人一倍持っているつもりだったが、彼は力不足をその身で痛感している。  想いだけでは、どう足掻いても敵わない存在がいる。五代にとって何よりショックだったのは、本来持ち得る力を発揮しきれないことである。 (金の力が使えたなら……)  あの未確認生命体を倒せたかも知れない。そう考えるが、五代はすぐにその考えを否定する。  白い青年と出会う前に湧き上がったイメージで彼と対峙していたのは、「赤」でも「青」でも「緑」でも「紫」でもなければ、当然「白」でもない。  「黒」だったのだ。もっとも自身の中で弱き姿である「白」の、圧倒的力を持つ謎の未確認生命体の「白」の対極色。      ――なれたんだね。究極の力を、持つ者に。  イメージの最後に呟かれた言葉を回想すると、五代の背筋が凍り、その意識が闇に侵食される。  普段の彼ならば、周りがそれをいくら心配しようと、笑顔でそれを跳ね除けただろう。  だが今は違った。殺し合いを楽しむ参加者達への憎悪が、何度も何度も彼を支配しようとする。  それに苦しみながらも、バイクに鞭打ち、小屋から離れる。   (戦い抜きます、俺。どんなにこれが辛い道だとしても…………)  薄白色から少しずつ蒼付いていく空の下で、一人の仮面ライダーは疾走し続ける。 ◆ 「これは……何でしょうかね……」  ひんやりと冷たい感覚を指先に覚えながら、北條が首輪を撫でた。 「お願いですから、誤作動とかさせないでくださいよ」  苦笑いしながら、イブキが北條に話しかける。  北條が触れている首輪は、イブキの首に取り付けられたそれであった。  北條が首輪の調査をするにあたって、それに直接触れて、目に映して確認したいと考えるのは当然のことと言えた。  そこで問題となったのが、「誰の首輪を調べるか」という点である。サンプルが手元に無いからには、危険でも誰かしらのそれを使うしかない。  他の参加者から奪う、という手段もあるが、それは他の参加者を殺害することとイコールである。  北條が警察官である以上、何があろうと直接殺し合いに加担することは許されない。  既にアンノウンと遭遇している事実が示す通り、彼らにとっての「倒すべき敵」がいるのも事実だ。  それらを討つということも彼は考えたが、リスクが大きすぎた。  現在彼に同行している三人の中で、それらに対抗し得る戦闘能力を保有するのは二人。  残り一人が保護対象である一般人である以上、戦闘に立ち会わせる訳にはいかないし、最低一人は護衛を付けておきたいというのが本音だ。  そう考えた場合、運用できる戦力――――駒は一つとなる。  首輪が戦闘に支障を及ぼす制限を掛けている状態では、駒一つの単独運用にあまり期待はできない。  ――――駒が不足している現状、無茶は控えるべきだ。  結論として、ここにいるメンバーの首輪を可能な限り調査するしかない、ということになる。    まず北條自身の首輪は論外。直接見ることが敵わないからだ。  ――というのは口実で、正直な話、彼とていつ自分の身を滅ぼすか分からない危険な真似はしたくはない。    次に、長田結花。流石に北條としても一般人にその様な真似はとりたくないし、微妙に話しにくい節がある。  その隣で腕を組んで椅子に腰掛け、常に隙を見せないもう一人の女性――城光に対して北條がそんなことを提案すれば、直ぐに彼の首が飛んだことだろう。  そうなると、消去法で選択肢は一つしか残されていなかった。 「……そう思うなら、じっとしていてくださいよ……」  実に面倒臭そうな物言いで、イブキに返答する北條。発言中も彼の指先は絶えず金属製の首輪を這い纏わり続ける。  重点的に調べるのは用途不明の穴がある部分だ。もう一つの目立つ部分である赤い突起物については、ある程度の把握を既に済ませている。  ゲームの開始時に二人の参加者が死を迎えた際、彼らの首輪が赤く光っていたのが北條の把握を早めた結果となる。  それから数分間の間、北條はイブキの首輪を調べ続けるが、穴に関しては考えが纏まらない。  そんな二人の様子を光はつまらなそうに、結花はイブキを心配そうにしながら目に収めている。 「とりあえずこの位にしておきましょうか」  疲れた顔で北條がイブキから離れる。情報交換を終えてから首輪を調べ始める前に一時間程度休憩を挟んではいる。  しかしゲームへの召集からいきなりのアンノウンとの邂逅、短時間での登山に下山、研究所での情報交換――これらを極限までの緊張感を解かず行って、消耗しない筈が無い。  疲労を隠さず、調査前と同様に柔らかめの椅子に深く腰掛ける北條。  彼とて所詮一般人の域を出ない存在。不死生物――もっとも、ここではその常識は覆されるが――である光や、人間といっても鬼になるほど鍛えられているイブキと同じベクトルで動けはしない。 「何か分かりましたか?」 「それについては、考えが纏まってからお話します……」  北條の返答にイブキはそれ以上返そうとしない。彼なりの気遣いといえる。  イブキが続けて椅子に座り込むと、その物音を最後にロビーがしばらくの間静寂に包まれる。  永遠のものになろうかという沈黙を断ったのは、携帯から四つに――正確には五つなのだが――重なって流れ出した電子音だった。  四人がそれぞれの携帯電話を開く。画面に現れた派手な服装の女性、聞く者の不快感を煽り立てる声――  それらが現在行われている行為が「放送」だと理解させる。  放送が終わりを告げると、四者は四様の態度を見せた。  素早く脳のスイッチを切り替えた北條は禁止エリアと脱落者を漏らさずチェックし、地図に書き込みを行う。  イブキと結花は自分の知人が生存していることに安堵しつつも、参加者を殺害している存在達への怒りや恐怖を募らせる。  そして最後の一人――光が腕を組んだまま口を開く。 「ブレイド、死んだのか……」  他の三人からの視線が一斉に光へと集まる。 「あなたは、剣崎一真と面識があるのでしたね」 「それがどうした」  無愛想な返答に笑いを堪え、北條が続ける。 「彼はどれ程の実力者だったのかを知りたいのですが」 「何故そんなことを聞く」 「彼が死んだと聞いて、随分驚いていた様でしたから」  イブキと結花の視線が北條に移動する。二人には全く感じとれなかった異変を見逃さなかった彼の洞察力にイブキは関心する。  その一方で、結花は自分も見透かされているのではないか、という不安に駆られた。  光は答えを返そうとせず、そのまま表情を崩そうともしない。  北條にはそんな彼女の様子が、絶やすく射ぬける固定された的の様に感じられた。  立ち上がると、光の座り込む椅子に一歩一歩近付き、再び口を開く。 「イブキ君との戦いを見る限り、あなたは相当の実力者だ。そのあなたが今の質問に対する返答に困る以上、彼はそれだけの力を持っていた存在……ということですね?」  人間でありながらカテゴリーキングを始めとする上級のアンデッドを封印する程の力を持ち、それらと融合してジョーカーすら覚醒させる。  その剣崎が殺された。となると、確かに相当の実力者が参加していることになる。  若干の不安が、北條の言葉を通して光を包み始める。  相変わらず光が答えないので、北條は肯定と受け取りながら続けた。 「自分の知る強者が簡単に殺された……さすがのあなたも不安でしょう。ですが、安心してください」  北條の顔に自信に満ちた笑みが浮かぶ。 「私が首輪を解除すればあなたは全力で戦えるようになります。他の参加者を殺すことばかり考えて、首輪の存在を考慮しない愚かな者達には負けません」  それは“駒”を自分の戦力として確立する為の“指し手”に出来る最大限の牽制であり、皮肉。  光はこの戦いにおける単独行動の危険性を理解した筈だ。満足気に椅子へ戻る北條を黙って見つめる他無い三人である。 ◆ 「九人……か」  放送で発表された死亡者の人数に、思わず顔が緩む。  ゲームの開始と同時に死んだ二人を含め、これで11名。早くも五分の一が脱落したということになる。  その中には自分の知るライダーもいたのだろうか……等と考えるが、もしそうだとしても手を下す者が代わったにすぎない。  自分が差し向けた参加者がそれらに関与していたかは定かでは無いが、このペースなら十分だ。  積極的に動き回る必要は無く、首輪の解除に必要な“駒”を集めれば良い。  そして――変身の実験から得た首輪による制限時間――約二時間を迎えるまで、そう遠くはない。  最初の二人が軽く施設内を見て回った時や、餌が四人に増えた時点でこちらから仕掛けることも考えた。  しかし誰一人として施設内の詳細な探索に動かないことから、実験を行ったロビー近くの機材置場から移動するに留めた。  そして現在自分がいるのは研究室。餌達が迷い込んで来たロビー側の入口とは真逆にある、もう一つの出入り口に近い。  気配を絶つために明かりは点けていないが、もうその必要も感じられなかった。  太陽が昇ったらしく、施設内にも光が通っている。それはこの研究室とて変わらない。  壁に括り付けられた時計に目をやる。6時を過ぎたために、二本の針が生み出す角度は百八十度から変化し始めていた。 「朝食の時間は、近い様だな……」 ◆  北條による光への牽制が終わり、再び長い沈黙がロビーを襲っていた。  好機とばかりに疲れを癒す北條を尻目に、イブキが口を開く。 「あのバイク、どこにあったんですか?」 「道端に放置されていた。ご丁寧なことに自由に持っていけとも書かれていた。気になることでもあったのか?」  質問に先程までと打って変わりすばやく答える光。 「あれは僕のバイクなんですよ。物入れみたいなのに何か入ってませんでしたか?」 「ああ、それなら――――」  イブキの言う「物入れ」とは、サイドバッグのことを指している。それに光が答えようとしたのだが―――― 「は……入ってましたよ」  質問に答えたのは結花の方だった。何故彼女が答えたのかは二人共分からなかったが、答える必要の無くなった光は口を結び、イブキは結花の方へ向き直る。 「そうなんだ、ありがとう」  イブキの笑顔に釣られる様にして、結花も微笑を浮かべた。  それに頷き終えると、続けて立ち上がり、出入り口へ向かおうとする。 「どこへ行かれるつもりですか?」  合わせて北條も立ち上がり、イブキの肩に手を掛ける。 「『竜巻』の所です。探し物があって」 「では、私も付いて行きます。お二人は待っていてください」  二つの足取りが重なり、出口へと伸びる廊下が足音で鳴り響いた。 ◆  全く、針のむしろに座る思いとはこのことか――――。  手懐けるだけで一苦労の“駒”達。現在自分が腰掛けている椅子から向かって右の青年――イブキに、離れているテーブルとはいえ、視界の正面で堂々と腕を組む女――城光。  首輪の調査に放送内容のチェック、ようやく落ち着こうかという局面においても、この二人が場に撒き散らす対照的な雰囲気が、ロビーの居心地をギリギリのところまで悪化させている。  前者は、この様な理不尽な殺し合いの場にいるにも関わらず平然とリラックスしている。そののほほんとした態度にはちょっとした嫌悪感を覚えるしかない。  間接的に幾度か文句を口にしてみたが、頭が固いらしく意図が通じない。既に何度も感じているが、やはり嫌な意味であの男そっくりだ。  一方の後者は、下手な行動に移ればその場で殺されるのではないかと思うほど、体中から得体の知れない雰囲気――闘気とでも呼んでおくとする――を漲らせている。  この女、もう少しそれらしくして黙っていれば結構な美人に思えるが、雰囲気や口調、態度で全て台無しだ。そういった要因に限って言えば皮肉にも自分が一番良く知る女性に酷似していると言える。  両者の対照的雰囲気が中和という形となれば言うことは別に無い。だが現状このまま時を過ごすのは耐え難いものがある。  それだけでも手一杯なのに、更に厄介と言えるのが視界の左側で俯く一般人――長田結花。  自分が口を開く度、小刻みに震えるその姿や行動は、最早「自分の弱さに脅えている」だけでは説明がつく様には思えなかった。  どんな理由で脅えていようと、それが直接的被害を齎さないのであれば別に構いはしないのだが。  自分とて一人の人間。他者と比べて明らかに自身が避けられている、というのは気分の良いものではない。  いい加減に気分転換を行いところだ。荷物をとってきて朝食にでもしようか――等と考えていると、イブキと城光が会話し始めた。     「……そうなんだ、ありがとう」  会話に割り込んできた長田に会釈して立ち上がるイブキの肩に、慌てて手を掛ける。あくまでも、冷静を装ったままで、だ。 「どこへ行かれるつもりですか?」  ……正直な話、ここでイブキにだけ離れられる訳にはいかない。  両手に花、と言えば聞こえは良いかも知れない。が、明らかに違う。三百六十度を通り越して五百四十度別物だと断言できる。  二人の人間が歩くには少々広い廊下。一定間隔で輝くライトが目に入るが、既に日が昇っている。  別に点けておいても良いかと考えたが、イブキがスイッチの傾きを反対にした。前途の通り日光のおかげで支障は無い。  整備不足か、少々自動ドアの動きが鈍い。荷物を置きに初めて訪れた際は反対の入り口を使ったが、あちらよりも色々と汚い。  暗闇で詳しくは調べなかったが、駅らしきものを見つけたのもその時だった。こちらはサブで、メインで使われていたのがあちらの入り口だということだろう。  開いたドアを通り抜ける程度の時間では、その位のことを判断するのが精一杯だ。  触覚が澄んだ外気を、嗅覚は空気の匂いをそれぞれ感じ取る。そうなってしまうが最後、自我が緊張を緩ませ、可能な限りの休息を得ようとする。  室外へと歩を進めてまもなく、バイクが目に入る。これで目にするのは二度目だ。傍らを進んでいたイブキがいっきに歩行速度を速め、シートに手を付いている。  イブキが何かを取り出そうとしているサイドバッグへ焦点を合わし思考。「探し物」とは何なのか――確かに彼はこのバイクを初見時から「僕のバイク」と言っていた。 「あ、やっぱりっこにあったんだ~」  そう考えれば、現状を好転させる可能性を秘め得るものを心の底から期待する。程なくして腕が抜き取られ、その手先に掴まれているものは―――― 「いや、何ですかそれ」 「見ての通りです」  ――――トランペットだった。しかも色々と大事な部分が掛けていて演奏にも使えそうにない。 「いや、だから何故そんなものが入っているんですか……」  期待しない方が良かった。多大な期待を寄せた分、反動のショックは二倍、いや三倍に増幅された。 「これで戦うんです。おかしいですか?」 「おかしいです」  楽器で戦うなんて発想、何処の誰が思いつくものか――――思い起こせば、イブキは笛で変身していた気がするが。  アギトやG3シリーズを知らなければ、彼の変身をみた時点でそういった発想に至ったのかも知れない。  それにしても、変身は可能にしておきながら武器は与えないという主催者の意図は理解し難いものがある。  殺し合いを要求するなら、彼にしか使えそうに無いこの楽器状の武器は誰が使用するか分からないバイクとセットにするべきではないだろう。  実際バイクを見つけたのは城光だし、存在を気にも留めていなかった様だ。  まあ、考えても無駄か。とりあえず、ロビーに戻ろう。 ◆ 「早かったな…目当ての物は見つかったのか?」  視線すら合わさない光だが、イブキは別に気にせず返す。 「はい、これです」  右手にぶら下げていた音撃管・烈風を肩の高さまで持ち上げてみせると、ロビーが一瞬静まり返る。 「それ、トランペットみたいですけど……何に使うんですか?」  結花が微妙な顔で烈風を指差しながら質問する。まさかこんな時に演奏なんてする筈があるまい。  イブキが答えようとするが、彼の一歩前に進み出た北條が口を開く。コホン、と咳ばらいに続けて。 「彼の……武器だそうです」  再度の沈黙。変身する人間が使う武器と言えば、基本的に刃物や火器。悪くて悪趣味な杖や強化型の警棒。それが基本認識であった光や北條は口を慎む。  逆に、携帯電話で変身する知人を持つ結花と言えばそうでも無い。理解を示した顔を見せていた。  やれやれ、といった表情の北條が座り込むのと入れ替えに、今度は光が立ち上がる。 「今度はあなたですか。何をする気で?」 「飯を探しに行くだけだ。これは話にならん」  投げ捨てられた乾パンに目を通した後、光を見上げる北條。若干その表情には不安が塗られていた。  彼が目にした女性の表情が、人間や怪人というよりは、野生の肉食動物のそれに思えたからだ。  虎の先祖であるタイガーアンデッド、城光がこの程度で満足する筈も無いのは当然と言えた。 「じゃあ僕も、荷物取ってきますね」  変調をさらりと流し、イブキも立ち去ろうとする。自分の分も頼む、という意思表示をしておいて、北條はトランシーバーを二人に投げる。情報交換の際に預かったものだが、調度良い。 「何かあったら、連絡します」 「…………そいつは任せた」  トランシーバーをデイパックに押し込んで、去り際に光がイブキへと投げ掛ける。北條にしなかったのは、彼女なりに結花へできる最大限の配慮だろう。 「分かりました。……じゃあ、行こうか?」 「は、はい……」  結花は携帯に加え二つの支給品だけを持って、イブキへと付いて行く。  一つは、デイパックの奥に入っていたマニュアルによれば、「変身」を可能にするという純白のカードデッキ。もう一つは、光から貰ったバングル。こちらは腕に付けたままというだけなのだが。  三つの人影が消え、一人になった北條が呟く。 「やはり纏め役というのは、大変ですね」  呟きは虚しくロビーに響き渡るだけだった。 ◆ 「えーと、こっちかな」  横にも縦にも長い廊下を、二人の男女が狭い間隔をとりながら歩く。 「道、分からないんですか?」 「荷物を隠した時は、もう一つの入口から来たからね。その近くなんだけど……」  無理に強がりを言ったりしないイブキに結花は好感を持つ。加えて優くて、思いやりを持っている。  いつもメールで励ましてくれた啓太郎さん、志を同じくした木場さんや海堂さん、そしてこのイブキさん。人間が皆、こういう人達だったら――――。  そう考えて間もなく、彼女の視界には出口と外世界が映りこんだ。 「あ、あそこだ」  「更衣室」というプレートが示す扉を開くと、少々息苦しい世界が広がる。 「これ、持ってて」  ゆっくりとした口調と共にトランシーバーと音撃管を預け、イブキが隠していた荷物を回収する。  結花は預かったそれを返そうとも思ったが、デイパック二つを持っている相手に持たせるのも忍びなく、そのまま部屋を出た。 「じゃあ、帰ろうか――――!?」「はい―――えっ?」  扉を出て間もなく、二人が察知したのは足音。音源が角を曲がった先の研究室からだと気付いて間もなく、目を向けた角から長髪の男が現れる。 ◆  ようやく近づいてきた気配に接触を試みようと、部屋から歩を進める。散々待たせてくれたお陰で変身の制限も解けている。  歩き始めておおよそ百メートル、最初の角を右折。左折しては施設内から出ることになってしまう。  確認できたのは二人の人間。利用するに足るか、否か。試しに話し掛ける。 「おはよう……参加者の諸君。放送を聞いての気分はどうかな?」  男の方が即座に身構えた。「殺し合いに乗っている」とでも取られたのだろうか。だとすれば心外ではある。 「この首輪……これを外すだけの技術者ならば命までは奪わない」  則ち、「それが出来ないなら殺す」という意思表示。後は相手の出方で全て決まる。 「結花ちゃん、逃げて」  この場面で殿になってもう一人を逃がそうとする。確定だ。  こいつは首輪を外せない。できるだけの頭があるなら、こちらから誘った時点で交渉の余地有りと判断するだろうに。  男が荷物をその場に落とし、笛の様なものを取り出し、一吹き。良い音色ではある……が、場違いだ。  笛を額まで持ち上げた男は、辺りに巻き起こした竜巻を縦に切り、その姿を変える。 「ハアッ!!」    ライダーとは別の何か――鬼とでも言おうか――が、眼前に出現。  一方で女は手に持った楽器状の道具を鬼に渡すと、逃げ出そうとする。  ――逃がすものか。 「変……身」  予め装着済みのバックルに突き刺すは紫のデッキ。  扱いはマニュアルで可能な限り会得したつもりだが、感覚ばかりは実戦でなくては、な。  デッキから左手でカードを抜き取り、右手の杖――ベノバイザーというらしい――に叩き込む。  これにより何が起こるかは先の戦闘で確認済みだ。  カードに描かれていたサーベルが飛来、左腕を伸ばして掴む。  そして――――投擲。  狙いは走り去る女。ただし直接当てはしない。あくまでも釘付けにするだけだ。  女を塞ぐ様に壁へ刺さったサーベルを見て安堵。次いでその場に膝を付くのを確認。  もう一人を見捨てる勢いで走れば逃げ切れただろうに。つくづく人間が愚かだと実感する。  さて、後は鬼の方だ――――。 「ハッ!!」  手に持っていた楽器は――銃だったらしい。一度放つと瞬時に距離を取り再び掃射してくる。  だが大した威力ではない。別段捌く程の価値は無い。  それでも相手の有利なレンジで戦わせるのは不愉快だ。理想は接近戦。  しかしこちらの武器たるサーベルは……壁に刺さったままだ。  形勢不利――否、現状必要という訳でも無い。“これ”で十分だ。 「ハァァァァァァァァァァッ!!」    叫びと共に地を蹴る。鬼の前方へ着地後、返したバイザーの柄で一突き。  相手の体から散った火花がお互いの視界を曇らす内に、もう一度それを返しながら左を添える。  視界の復旧と共に最上段から蛇頭を頭部へと振り下ろす。確かな直撃の感触。  脳へのダメージが、管での銃撃を再開しようとした相手の腕を鈍らしたのを確認、右手一本でバイザーを短く握りなおし、追撃。  更に左腕は鬼の右腕に密着した管を押さえ込み、地へと叩き落とした。  投げ捨てたバイザーで管に地を滑らせ、強制的に距離を離す。互いに武器無しの状況。  ようやく出現した反撃。右手首を捻ることでそれを去なし、三日月を描く軌道で蹴り上げる。  数歩の後ずさりと、よろめき。それらが意味するのはしばしの間反撃不能という相手の状況。  存分に堪能させてもらうとする。右は全力、左はその半分に力を調整してのコンビネーション。  威力差を広げることで、本命の体感ダメージが広がることを期待する。  右、左、右、左、左、右――――リズムをあえて崩すことで、相手の対応を遅らせる。  全段の命中を確認するが、それでもこの鬼は倒れない。余程鍛えているらしい。  無能とも当初は思ったが、誤解だった。非常に優秀な人材だ。 (俺の餌、としてはな……)  一際強く踏み込み、蹴撃を突き刺す。遂に崩れ落ちる鬼。  それと同時に聴覚が反応を示す。そう、女が助けを呼ぶ声。  通信機を持っていたらしい。更に空いていた右手に握られたそれは、自分のそれと同型のカードデッキ。  通信機をその場において、女が立ち上がる。左手に持ち替えたデッキを窓に翳し――。  「へ……変身……」  例えるならその姿は――騎士。だが悲しいかな、その風格に中身が見合っていない。  おそらくこちらの見様見真似、変身できるかも半信半疑だったというところか。  うろたえるその様を見れば予想するのは容易。  ならば、精一杯足掻かせてから餌にしてやるまで、だ。 ◆  遠くから確かな戦闘音を耳に感じながら、北條が研究所の廊下を駆けていた。言うまでもなく、トランシーバーの通信を受けての行動である。  もしもの事態に備えて、彼のトランシーバーと結花のデイパックは置いて来ていた。  余裕があればデイパックにあったゼクトマイザーを携帯したかったが、マニュアルを読む暇など彼にありはしない。  文字通りの丸腰なのだが、まだ最後の武器がある――問題はそれを生かせる相手かどうか。戦闘狂で無いことを祈りつつ、北條が角を曲がった。  一層強くなった音を前に、北條は足を止める。次の角を曲がった先、そこでは間違い無く戦闘が行われている。  それを理解しているからこそ、簡単には踏み込まない。背面を壁に当てながら、一歩ずつ進む。  北條は六歩進んだところで、再び停止する。冷静に耳を研ぎ澄ますと、掛け声が三つ聞こえた。  北條はその内二つがイブキと結花によるものだと判断して、遂に顔を一瞬角から出す。  そして目にする。「鬼」と「騎士」と「蛇」の舞い踊る混沌の戦場を。 ◆  威吹鬼の手元に握られた音撃管が咆哮し、王蛇の装甲に着弾する。  ものともせずベノバイザーで突き掛かる王蛇の戦い方には、明らかな余裕が見て取れた。  威吹鬼が数歩後退すると、入れ代わる様にファムが王蛇の懐へと飛び込み、ブランバイザーを振るう。  型も何も無い力任せの振り方。振る者によっては強引に押し込めたかも知れないが、乃木の変身した王蛇と結花の変身したファムでは、技術も力も前者に軍配が上がる。  王蛇が回避しながらベノバイザーを当てに行く。二つのバイザーが拮抗した衝撃が空気を揺らし、様子を伺う北條にまでそれを感知させた。  態勢を立て直した威吹鬼が音撃管を構えるが、意図的に王蛇がファムと密着した為に攻撃できない。  無理して撃ったところで、王蛇の装甲にダメージを与えるには至らないことは威吹鬼も承知している。  清めの音にしても威吹鬼にとって未知の存在であるワーム――乃木に通用する保証が無い。鬼石を埋め込むことができるとも思えなかった。  威吹鬼は音撃管をその場に置くと、王蛇へ向けて駆け出す。肉弾戦は不得手だが、止むを得ない。  風を纏っての手足からの連撃が、王蛇の体を少しずつ裂いていく。そこにファムの追撃が加わり、いよいよ攻撃を捌き切れなくなる。 「思ったよりは粘るものだな……」  王蛇が壁に突き刺さったベノサーベルを抜き取り、威吹鬼に向けて先端を射抜く様に向ける。 「だが、それもここまでという訳だ」  北條は戦慄していた。明らかに態度を変えた王蛇に対して。こうなるなら先に仲裁へ入るべきだったと後悔するが、遅すぎた。今行うのは危険すぎる。  ――介入する次の機会は、戦局が落ち着いた時だ。  得物を構えた王蛇が威吹鬼とファムに向けて走り出す。威吹鬼が迎え撃つ中、ファムは一枚のカードを取り出す。  ――SWORD VENT――  思い出したかの様に差し込まれたカードの名を告げる電子音の後、飛来する薙刀――ウイングスラッシャー。  ベノサーベルが威吹鬼の鍛えられた肉体を切り刻む。威吹鬼の反撃も王蛇へと直撃するが、威力の差は両者の状態を見れば一目瞭然だ。  そこに背後から孤を描き迫る一刀。返す刀で王蛇は受け止めるが、体勢が悪かった。  振り下ろされたことで威力を増したファムの斬撃は、サーベルを弾き、余力で王蛇の胸板をも切り裂いた。  だがそれで終わる王蛇でも無い。すぐにファムの腹部へ二発、威吹鬼の頭部へ一発ずつ拳を浴びせると、距離を広げる。  数十メートルともなろうか――「必殺技を使う」のには十分な距離と言えた。  王蛇がカードを抜く前に――威吹鬼が接近さえしていなければの話だったのだが。  追い付いた威吹鬼が王蛇を押さえ込み、遠方のファムが一枚のカードを取り出す。  「滑稽だねぇ……」  それでも乃木怜治が怯まなかったのは、威吹鬼の行動がもう一人の追撃までの時間稼ぎにすぎないと理解していたからだ。  「自身の命を投げ打ってまでの足止め」ならばともかく、「自身の命を確保した上での時間稼ぎ」に、何を脅える価値があるだろうか――。  威吹鬼をバイザーで再び突き放し、カードを抜き取る。そこに一切の動揺も王蛇は見せない。  緩やかに、確実に「ファイナルベント」のカードを読み込ませようとした、その時。  「……なっ!! ……馬鹿な!!」    変身を解かれながらも、横転しながらイブキが使役した式神が、王蛇の指先からカードを弾く。  その火の鳥を睨む間も無く、遠方から勝敗を決しようとばかりに電子音声が鳴り響いた。  ――FINAL VENT――  ファムの契約モンスターブランウイングが、自動ドアから飛び出して王蛇の背後から突風で吹き飛ばす。  そう、これで無防備な王蛇が飛ばされて来たところを切り付けることで決着する。  イブキが、北條が、そして結花さえもが勝利を確信した一瞬、それを嘲笑うかの様に乾いた音声が廊下に鳴り響いた。  ――STEAL VENT――  北條が音声から何が起こるのか推測し終えるのと、突風の勢いに乗った王蛇がウイングスラッシャーでファムの装甲を深々と斬り付けたのは、ほぼ同時のことだ。  既に声の形を成していない叫びを上げて、ファムが結花の姿に戻る。 「つまらん。二人掛かりでこの程度か」  僅かな静寂を破り、結花の首輪に薙刀を突き付けた王蛇――乃木が嘲笑する。 「あ……あ…ぁ……」  結花の顔に浮かぶ紋様は、唯一それを目にした乃木に「長田結花は人間では無い」という事実を示唆しただけで、それ以上の意味を成さない。  王蛇の握力が落ちることは無く、死へのカウントダウンは継続する。  オルフェノク化して戦う気力があれば話は別だが、結花の精神はもう死を待つばかりだ。  不意に、結花は自身が助けを呼んでいたことを思い出す。  北條に関しては人間である上、情報交換の時点で戦力が無いと語っていたことから結花も当てにはしていない。  しかしもう一つの可能性を彼女は捨てていなかった。  城さんなら、城さんならきっと――――。  一方、乃木は一考する。今腰部に据え付けられたデッキに眠る「契約」カードの存在。  目の前に転がって放置された純白のデッキを踏み潰せば、解放されたブランウイングとの契約を行える。  上げ幅は不明だが、戦力が増すのは間違い無い。直接そのデッキを使うという選択肢もあったが、好んでファムに変身するのは女性だけだろう―――などということを。  ――結論から言えば、乃木は契約を断念した。理由は単純明快、「より強力なモンスターと契約する為」。  乃木の見た限り、白のデッキに他のデッキに対する優位性を誇示するカードが見られなかった為だ。  ならばより強力かつ、契約することで強力なカードを得ることのできるモンスターと結ぶべきだ。  デッキの処遇を決めたところで、乃木が再び視線を少女へ移す。  変身のリミットも近い。それでも、目的から逸脱すると理解しながらも、敢えてもう一度口を開く。 「…………助けが来ないな。君も所詮――――」  その先は、彼女には聞こえなかった。いや、聞かなかった。  彼女の視界に君臨していた紫の蛇が、涙によってその存在を曇らせる。  結花が心の奥に抱いた、不安。助けは来ない。自分はここで死ぬ――  ゲームに乗っていた危険な人間、剣崎のことで明らかに動揺していた。  彼女ももしかしたら――――マイナス思考は重なり続ける。  やがて全てが彼女の敵となる。――則ち、無機質な廊下の壁の香り、間隔が短くなるばかりの呼吸音以外何も聞こえない、空間の沈黙。  倒れ込んでいる彼女の背中が触れている床も、スイッチを切られて輝きを失ったライトも該当するだろう。 「さらばだ……」  振り上げられたスラッシャーは、その動作を巻き戻す様に同軌道を逆に進む。  イブキが立ち上がり、北條が交渉を行おうとしたのとタイミングは同時。  一人の少女が確信する。――――ああ、自分は舞台から降りるのだ――――、と。  その確信に間違いは無かった。そう、ただ退場の仕方が違うだけで。  角から飛び出そうとした北條を制し、神速で踏み込む影。右の一歩で王蛇の注意を引き、次の左による一歩が完了の踏み込み音を鳴らす前に右で手首を蹴り上げる。  天井に跳ね返り、降下したスラッシャーが影の手元に収まり、王蛇が左手のバイザーを握り直す。  その二本が互いの首輪に突き付けられるのと、突き付け合う二人の一方が城光その人だと結花が気付いたのはほぼ同時のことだ。 「ほう……遅れてきただけのことはあると言う訳だ」 「早く行け……」  光が流し目で立ち上がったイブキに視線を送る。同時に王蛇の変身が解け、長髪の男――乃木に戻る。  両者の首輪から脅威が去り、同時に二人が爆ぜる。  乃木の右ストレートに光が左腕で合わせると、返しの膝蹴りが腹部を襲う。  瞬時に退いた身が追撃に備え防御態勢へ変化するのを見届けるよりも先に光が左腕を振り抜く。  デイパック一つに音撃管を入れて走り出したイブキが、光の投げ捨てたものに気付く。  「竜巻」のキー。それは研究所からの脱出を求めるメッセージ。  身を屈めて掴むと、続けて結花に手を差し延べるイブキ。それを掴む以外の選択肢が彼女にあるだろうか。  必死に掴み立ち上がると、そのまま角を曲がる。様子を伺っていた北條に気付くと、イブキは頭を下げながら走り抜ける。  結花に至っては北條を気にする暇も無い。北條としても二人の無事を確認したという事実で十分だ。  乃木としては二人の生死などもはやどうでも良いこととなっていたが、それでも相手の思い通りに物事が進行するのに不快感を示す。  二人を追わせないとばかりに繰り出された光の殴撃を受け止め、左足で蹴り込むと、三メートル程間合いを広げられ躱される。  その間は乃木にはとって広すぎた位だ。彼の体がワームに変貌し、加速を開始しようとする。  光もアンデッドに変化するが、既に時遅し。クロックアップしたカッシスワームが駆け出し――  ――刹那、空を裂きながら一筋の矢がカッシスの背部に飛び込み、停止させる。  鈍い動きでカッシスが振り向き、視線の到達点がタイガーアンデッドのそれと重なる。その地点を同じ様に見た北條が驚愕する。  ひたすら道なりに移動した結果研究所に辿り着き、戦うべき相手を見つけた戦士がそこには立っていた。 「第……四号……」 |049:[[すべてのうつくしいものから]]|投下順|050:[[指し手二人(後編)]]| |049:[[すべてのうつくしいものから]]|時系列順|050:[[指し手二人(後編)]]| |034:[[不屈]]|[[五代雄介]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |033:[[ワインディング・ロード]]|[[北條透]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |033:[[ワインディング・ロード]]|[[長田結花]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |033:[[ワインディング・ロード]]|[[城光]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |033:[[ワインディング・ロード]]|[[和泉伊織]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |035:[[全ては思いのままに]]|[[乃木怜治]]|050:[[指し手二人(後編)]]|
**指し手二人(前編)  空に浮かぶ雲の隙間から除く唯一無二の存在が、刻一刻とその輝きを増していく。  それは即ち、殺し合いが順調に進行を続けていることに等しい。  合わせる様にして明るさを取り戻し始めた青空の元、五代雄介は小屋へと足を返していた。  左手で小屋の扉を開けた五代の右手にいくつか握られていた果実が、やや小型のテーブルに並べられる。それらは精一杯自らの存在を主張するが、五代がそれに事は応えることは無い。  つい先程までベッドに横たわっていた青年――――葦原涼が、既にその場から姿を消していたからだ。  もっとも、小屋を出る前から涼の表情には兆候が見られていたから、大きな衝撃を五代へ与えるには至らない。  五代は右の掌に視線を滑らせながら確信を持つ。――――彼もまた、自分や剣崎と同じ「仮面ライダー」なのだと。  彼はまた戦いに行ったに違い無い。負傷程度で「仮面ライダー」は立ち止まらない。既に満身創痍の五代自身が彼の考えが正しいと示す何よりの証拠だった。  そして、「仮面ライダー」を止める術が無いことも五代は理解している。逆のパターンになっても、五代が止まることは無かっただろう。  だから無理にそれを引き戻す真似はしない。いずれ再開できることを願い、再び小屋を出る。  「一人でも多くの笑顔を守る」為、剣崎との誓いを守る為に、五代ももたもたしている訳にはいかなかった。    名残惜しい、といった雰囲気を醸し出す小屋を背にバイクへと歩を進める五代。吹き抜ける疾風が、その歩みを先導していく。  ヘルメットを被りシートに跨った彼を、携帯の電子音が襲ったのはその時だった。五代はポケットから支給された携帯を取り出す。殺し合いの進行度合いを発表する、放送。  女の口から語られる全てを、一句残らず耳に叩き込む。やがて放送が終わると、情報を一つずつ整理していく。 (…………一条さんっ…………)  放送の最初に行われた脱落者の発表。五代と同じ志を持った「仮面ライダー」剣崎一真だけでなく、彼以外にも8人の参加者が既に命を落としている。  その8人の中に一人だけ、五代の良く知る名があった。一条薫――この場に来る前に拾い上げた警察手帳の持ち主。  手帳と拳銃を拾った時点で、ある程度の覚悟はできていた。だからこそ五代は涙を流さず、取り出した手帳へと静かに目をやる。  幾つもの思い出が五代の脳内にフラッシュバックする。継ぐ遺志が、背負う魂がこれで一つ増えた。それが五代の決意をより一層強固なものへと変えていく。  優勝すれば、脱落者を蘇生させることが可能だとも放送では告げられた。が、五代に心境の変化は生まれない。  禁止エリアと列車の運行について説明されると、マップと合わせてそれらの関係する位置を確認する。  殺し合いが順調に進んでいることを思い知らされる五代。「戦いを止めたい」という思いは人一倍持っているつもりだったが、彼は力不足をその身で痛感している。  想いだけでは、どう足掻いても敵わない存在がいる。五代にとって何よりショックだったのは、本来持ち得る力を発揮しきれないことである。 (金の力が使えたなら……)  あの未確認生命体を倒せたかも知れない。そう考えるが、五代はすぐにその考えを否定する。  白い青年と出会う前に湧き上がったイメージで彼と対峙していたのは、「赤」でも「青」でも「緑」でも「紫」でもなければ、当然「白」でもない。  「黒」だったのだ。もっとも自身の中で弱き姿である「白」の、圧倒的力を持つ謎の未確認生命体の「白」の対極色。      ――なれたんだね。究極の力を、持つ者に。  イメージの最後に呟かれた言葉を回想すると、五代の背筋が凍り、その意識が闇に侵食される。  普段の彼ならば、周りがそれをいくら心配しようと、笑顔でそれを跳ね除けただろう。  だが今は違った。殺し合いを楽しむ参加者達への憎悪が、何度も何度も彼を支配しようとする。  それに苦しみながらも、バイクに鞭打ち、小屋から離れる。   (戦い抜きます、俺。どんなにこれが辛い道だとしても…………)  薄白色から少しずつ蒼付いていく空の下で、一人の仮面ライダーは疾走し続ける。 ◆ 「これは……何でしょうかね……」  ひんやりと冷たい感覚を指先に覚えながら、北條が首輪を撫でた。 「お願いですから、誤作動とかさせないでくださいよ」  苦笑いしながら、イブキが北條に話しかける。  北條が触れている首輪は、イブキの首に取り付けられたそれであった。  北條が首輪の調査をするにあたって、それに直接触れて、目に映して確認したいと考えるのは当然のことと言えた。  そこで問題となったのが、「誰の首輪を調べるか」という点である。サンプルが手元に無いからには、危険でも誰かしらのそれを使うしかない。  他の参加者から奪う、という手段もあるが、それは他の参加者を殺害することとイコールである。  北條が警察官である以上、何があろうと直接殺し合いに加担することは許されない。  既にアンノウンと遭遇している事実が示す通り、彼らにとっての「倒すべき敵」がいるのも事実だ。  それらを討つということも彼は考えたが、リスクが大きすぎた。  現在彼に同行している三人の中で、それらに対抗し得る戦闘能力を保有するのは二人。  残り一人が保護対象である一般人である以上、戦闘に立ち会わせる訳にはいかないし、最低一人は護衛を付けておきたいというのが本音だ。  そう考えた場合、運用できる戦力――――駒は一つとなる。  首輪が戦闘に支障を及ぼす制限を掛けている状態では、駒一つの単独運用にあまり期待はできない。  ――――駒が不足している現状、無茶は控えるべきだ。  結論として、ここにいるメンバーの首輪を可能な限り調査するしかない、ということになる。    まず北條自身の首輪は論外。直接見ることが敵わないからだ。  ――というのは口実で、正直な話、彼とていつ自分の身を滅ぼすか分からない危険な真似はしたくはない。    次に、長田結花。流石に北條としても一般人にその様な真似はとりたくないし、微妙に話しにくい節がある。  その隣で腕を組んで椅子に腰掛け、常に隙を見せないもう一人の女性――城光に対して北條がそんなことを提案すれば、直ぐに彼の首が飛んだことだろう。  そうなると、消去法で選択肢は一つしか残されていなかった。 「……そう思うなら、じっとしていてくださいよ……」  実に面倒臭そうな物言いで、イブキに返答する北條。発言中も彼の指先は絶えず金属製の首輪を這い纏わり続ける。  重点的に調べるのは用途不明の穴がある部分だ。もう一つの目立つ部分である赤い突起物については、ある程度の把握を既に済ませている。  ゲームの開始時に二人の参加者が死を迎えた際、彼らの首輪が赤く光っていたのが北條の把握を早めた結果となる。  それから数分間の間、北條はイブキの首輪を調べ続けるが、穴に関しては考えが纏まらない。  そんな二人の様子を光はつまらなそうに、結花はイブキを心配そうにしながら目に収めている。 「とりあえずこの位にしておきましょうか」  疲れた顔で北條がイブキから離れる。情報交換を終えてから首輪を調べ始める前に一時間程度休憩を挟んではいる。  しかしゲームへの召集からいきなりのアンノウンとの邂逅、短時間での登山に下山、研究所での情報交換――これらを極限までの緊張感を解かず行って、消耗しない筈が無い。  疲労を隠さず、調査前と同様に柔らかめの椅子に深く腰掛ける北條。  彼とて所詮一般人の域を出ない存在。不死生物――もっとも、ここではその常識は覆されるが――である光や、人間といっても鬼になるほど鍛えられているイブキと同じベクトルで動けはしない。 「何か分かりましたか?」 「それについては、考えが纏まってからお話します……」  北條の返答にイブキはそれ以上返そうとしない。彼なりの気遣いといえる。  イブキが続けて椅子に座り込むと、その物音を最後にロビーがしばらくの間静寂に包まれる。  永遠のものになろうかという沈黙を断ったのは、携帯から四つに――正確には五つなのだが――重なって流れ出した電子音だった。  四人がそれぞれの携帯電話を開く。画面に現れた派手な服装の女性、聞く者の不快感を煽り立てる声――  それらが現在行われている行為が「放送」だと理解させる。  放送が終わりを告げると、四者は四様の態度を見せた。  素早く脳のスイッチを切り替えた北條は禁止エリアと脱落者を漏らさずチェックし、地図に書き込みを行う。  イブキと結花は自分の知人が生存していることに安堵しつつも、参加者を殺害している存在達への怒りや恐怖を募らせる。  そして最後の一人――光が腕を組んだまま口を開く。 「ブレイド、死んだのか……」  他の三人からの視線が一斉に光へと集まる。 「あなたは、剣崎一真と面識があるのでしたね」 「それがどうした」  無愛想な返答に笑いを堪え、北條が続ける。 「彼はどれ程の実力者だったのかを知りたいのですが」 「何故そんなことを聞く」 「彼が死んだと聞いて、随分驚いていた様でしたから」  イブキと結花の視線が北條に移動する。二人には全く感じとれなかった異変を見逃さなかった彼の洞察力にイブキは関心する。  その一方で、結花は自分も見透かされているのではないか、という不安に駆られた。  光は答えを返そうとせず、そのまま表情を崩そうともしない。  北條にはそんな彼女の様子が、絶やすく射ぬける固定された的の様に感じられた。  立ち上がると、光の座り込む椅子に一歩一歩近付き、再び口を開く。 「イブキ君との戦いを見る限り、あなたは相当の実力者だ。そのあなたが今の質問に対する返答に困る以上、彼はそれだけの力を持っていた存在……ということですね?」  人間でありながらカテゴリーキングを始めとする上級のアンデッドを封印する程の力を持ち、それらと融合してジョーカーすら覚醒させる。  その剣崎が殺された。となると、確かに相当の実力者が参加していることになる。  若干の不安が、北條の言葉を通して光を包み始める。  相変わらず光が答えないので、北條は肯定と受け取りながら続けた。 「自分の知る強者が簡単に殺された……さすがのあなたも不安でしょう。ですが、安心してください」  北條の顔に自信に満ちた笑みが浮かぶ。 「私が首輪を解除すればあなたは全力で戦えるようになります。他の参加者を殺すことばかり考えて、首輪の存在を考慮しない愚かな者達には負けません」  それは“駒”を自分の戦力として確立する為の“指し手”に出来る最大限の牽制であり、皮肉。  光はこの戦いにおける単独行動の危険性を理解した筈だ。満足気に椅子へ戻る北條を黙って見つめる他無い三人である。 ◆ 「九人……か」  放送で発表された死亡者の人数に、思わず顔が緩む。  ゲームの開始と同時に死んだ二人を含め、これで11名。早くも五分の一が脱落したということになる。  その中には自分の知るライダーもいたのだろうか……等と考えるが、もしそうだとしても手を下す者が代わったにすぎない。  自分が差し向けた参加者がそれらに関与していたかは定かでは無いが、このペースなら十分だ。  積極的に動き回る必要は無く、首輪の解除に必要な“駒”を集めれば良い。  そして――変身の実験から得た首輪による制限時間――約二時間を迎えるまで、そう遠くはない。  最初の二人が軽く施設内を見て回った時や、餌が四人に増えた時点でこちらから仕掛けることも考えた。  しかし誰一人として施設内の詳細な探索に動かないことから、実験を行ったロビー近くの機材置場から移動するに留めた。  そして現在自分がいるのは研究室。餌達が迷い込んで来たロビー側の入口とは真逆にある、もう一つの出入り口に近い。  気配を絶つために明かりは点けていないが、もうその必要も感じられなかった。  太陽が昇ったらしく、施設内にも光が通っている。それはこの研究室とて変わらない。  壁に括り付けられた時計に目をやる。6時を過ぎたために、二本の針が生み出す角度は百八十度から変化し始めていた。 「朝食の時間は、近い様だな……」 ◆  北條による光への牽制が終わり、再び長い沈黙がロビーを襲っていた。  好機とばかりに疲れを癒す北條を尻目に、イブキが口を開く。 「あのバイク、どこにあったんですか?」 「道端に放置されていた。ご丁寧なことに自由に持っていけとも書かれていた。気になることでもあったのか?」  質問に先程までと打って変わりすばやく答える光。 「あれは僕のバイクなんですよ。物入れみたいなのに何か入ってませんでしたか?」 「ああ、それなら――――」  イブキの言う「物入れ」とは、サイドバッグのことを指している。それに光が答えようとしたのだが―――― 「は……入ってましたよ」  質問に答えたのは結花の方だった。何故彼女が答えたのかは二人共分からなかったが、答える必要の無くなった光は口を結び、イブキは結花の方へ向き直る。 「そうなんだ、ありがとう」  イブキの笑顔に釣られる様にして、結花も微笑を浮かべた。  それに頷き終えると、続けて立ち上がり、出入り口へ向かおうとする。 「どこへ行かれるつもりですか?」  合わせて北條も立ち上がり、イブキの肩に手を掛ける。 「『竜巻』の所です。探し物があって」 「では、私も付いて行きます。お二人は待っていてください」  二つの足取りが重なり、出口へと伸びる廊下が足音で鳴り響いた。 ◆  全く、針のむしろに座る思いとはこのことか――――。  手懐けるだけで一苦労の“駒”達。現在自分が腰掛けている椅子から向かって右の青年――イブキに、離れているテーブルとはいえ、視界の正面で堂々と腕を組む女――城光。  首輪の調査に放送内容のチェック、ようやく落ち着こうかという局面においても、この二人が場に撒き散らす対照的な雰囲気が、ロビーの居心地をギリギリのところまで悪化させている。  前者は、この様な理不尽な殺し合いの場にいるにも関わらず平然とリラックスしている。そののほほんとした態度にはちょっとした嫌悪感を覚えるしかない。  間接的に幾度か文句を口にしてみたが、頭が固いらしく意図が通じない。既に何度も感じているが、やはり嫌な意味であの男そっくりだ。  一方の後者は、下手な行動に移ればその場で殺されるのではないかと思うほど、体中から得体の知れない雰囲気――闘気とでも呼んでおくとする――を漲らせている。  この女、もう少しそれらしくして黙っていれば結構な美人に思えるが、雰囲気や口調、態度で全て台無しだ。そういった要因に限って言えば皮肉にも自分が一番良く知る女性に酷似していると言える。  両者の対照的雰囲気が中和という形となれば言うことは別に無い。だが現状このまま時を過ごすのは耐え難いものがある。  それだけでも手一杯なのに、更に厄介と言えるのが視界の左側で俯く一般人――長田結花。  自分が口を開く度、小刻みに震えるその姿や行動は、最早「自分の弱さに脅えている」だけでは説明がつく様には思えなかった。  どんな理由で脅えていようと、それが直接的被害を齎さないのであれば別に構いはしないのだが。  自分とて一人の人間。他者と比べて明らかに自身が避けられている、というのは気分の良いものではない。  いい加減に気分転換を行いところだ。荷物をとってきて朝食にでもしようか――等と考えていると、イブキと城光が会話し始めた。     「……そうなんだ、ありがとう」  会話に割り込んできた長田に会釈して立ち上がるイブキの肩に、慌てて手を掛ける。あくまでも、冷静を装ったままで、だ。 「どこへ行かれるつもりですか?」  ……正直な話、ここでイブキにだけ離れられる訳にはいかない。  両手に花、と言えば聞こえは良いかも知れない。が、明らかに違う。三百六十度を通り越して五百四十度別物だと断言できる。  二人の人間が歩くには少々広い廊下。一定間隔で輝くライトが目に入るが、既に日が昇っている。  別に点けておいても良いかと考えたが、イブキがスイッチの傾きを反対にした。前途の通り日光のおかげで支障は無い。  整備不足か、少々自動ドアの動きが鈍い。荷物を置きに初めて訪れた際は反対の入り口を使ったが、あちらよりも色々と汚い。  暗闇で詳しくは調べなかったが、駅らしきものを見つけたのもその時だった。こちらはサブで、メインで使われていたのがあちらの入り口だということだろう。  開いたドアを通り抜ける程度の時間では、その位のことを判断するのが精一杯だ。  触覚が澄んだ外気を、嗅覚は空気の匂いをそれぞれ感じ取る。そうなってしまうが最後、自我が緊張を緩ませ、可能な限りの休息を得ようとする。  室外へと歩を進めてまもなく、バイクが目に入る。これで目にするのは二度目だ。傍らを進んでいたイブキがいっきに歩行速度を速め、シートに手を付いている。  イブキが何かを取り出そうとしているサイドバッグへ焦点を合わし思考。「探し物」とは何なのか――確かに彼はこのバイクを初見時から「僕のバイク」と言っていた。 「あ、やっぱりっこにあったんだ~」  そう考えれば、現状を好転させる可能性を秘め得るものを心の底から期待する。程なくして腕が抜き取られ、その手先に掴まれているものは―――― 「いや、何ですかそれ」 「見ての通りです」  ――――トランペットだった。しかも色々と大事な部分が掛けていて演奏にも使えそうにない。 「いや、だから何故そんなものが入っているんですか……」  期待しない方が良かった。多大な期待を寄せた分、反動のショックは二倍、いや三倍に増幅された。 「これで戦うんです。おかしいですか?」 「おかしいです」  楽器で戦うなんて発想、何処の誰が思いつくものか――――思い起こせば、イブキは笛で変身していた気がするが。  アギトやG3シリーズを知らなければ、彼の変身をみた時点でそういった発想に至ったのかも知れない。  それにしても、変身は可能にしておきながら武器は与えないという主催者の意図は理解し難いものがある。  殺し合いを要求するなら、彼にしか使えそうに無いこの楽器状の武器は誰が使用するか分からないバイクとセットにするべきではないだろう。  実際バイクを見つけたのは城光だし、存在を気にも留めていなかった様だ。  まあ、考えても無駄か。とりあえず、ロビーに戻ろう。 ◆ 「早かったな…目当ての物は見つかったのか?」  視線すら合わさない光だが、イブキは別に気にせず返す。 「はい、これです」  右手にぶら下げていた音撃管・烈風を肩の高さまで持ち上げてみせると、ロビーが一瞬静まり返る。 「それ、トランペットみたいですけど……何に使うんですか?」  結花が微妙な顔で烈風を指差しながら質問する。まさかこんな時に演奏なんてする筈があるまい。  イブキが答えようとするが、彼の一歩前に進み出た北條が口を開く。コホン、と咳ばらいに続けて。 「彼の……武器だそうです」  再度の沈黙。変身する人間が使う武器と言えば、基本的に刃物や火器。悪くて悪趣味な杖や強化型の警棒。それが基本認識であった光や北條は口を慎む。  逆に、携帯電話で変身する知人を持つ結花と言えばそうでも無い。理解を示した顔を見せていた。  やれやれ、といった表情の北條が座り込むのと入れ替えに、今度は光が立ち上がる。 「今度はあなたですか。何をする気で?」 「飯を探しに行くだけだ。これは話にならん」  投げ捨てられた乾パンに目を通した後、光を見上げる北條。若干その表情には不安が塗られていた。  彼が目にした女性の表情が、人間や怪人というよりは、野生の肉食動物のそれに思えたからだ。  虎の先祖であるタイガーアンデッド、城光がこの程度で満足する筈も無いのは当然と言えた。 「じゃあ僕も、荷物取ってきますね」  変調をさらりと流し、イブキも立ち去ろうとする。自分の分も頼む、という意思表示をしておいて、北條はトランシーバーを二人に投げる。情報交換の際に預かったものだが、調度良い。 「何かあったら、連絡します」 「…………そいつは任せた」  トランシーバーをデイパックに押し込んで、去り際に光がイブキへと投げ掛ける。北條にしなかったのは、彼女なりに結花へできる最大限の配慮だろう。 「分かりました。……じゃあ、行こうか?」 「は、はい……」  結花は携帯に加え二つの支給品だけを持って、イブキへと付いて行く。  一つは、デイパックの奥に入っていたマニュアルによれば、「変身」を可能にするという純白のカードデッキ。もう一つは、光から貰ったバングル。こちらは腕に付けたままというだけなのだが。  三つの人影が消え、一人になった北條が呟く。 「やはり纏め役というのは、大変ですね」  呟きは虚しくロビーに響き渡るだけだった。 ◆ 「えーと、こっちかな」  横にも縦にも長い廊下を、二人の男女が狭い間隔をとりながら歩く。 「道、分からないんですか?」 「荷物を隠した時は、もう一つの入口から来たからね。その近くなんだけど……」  無理に強がりを言ったりしないイブキに結花は好感を持つ。加えて優くて、思いやりを持っている。  いつもメールで励ましてくれた啓太郎さん、志を同じくした木場さんや海堂さん、そしてこのイブキさん。人間が皆、こういう人達だったら――――。  そう考えて間もなく、彼女の視界には出口と外世界が映りこんだ。 「あ、あそこだ」  「更衣室」というプレートが示す扉を開くと、少々息苦しい世界が広がる。 「これ、持ってて」  ゆっくりとした口調と共にトランシーバーと音撃管を預け、イブキが隠していた荷物を回収する。  結花は預かったそれを返そうとも思ったが、デイパック二つを持っている相手に持たせるのも忍びなく、そのまま部屋を出た。 「じゃあ、帰ろうか――――!?」「はい―――えっ?」  扉を出て間もなく、二人が察知したのは足音。音源が角を曲がった先の研究室からだと気付いて間もなく、目を向けた角から長髪の男が現れる。 ◆  ようやく近づいてきた気配に接触を試みようと、部屋から歩を進める。散々待たせてくれたお陰で変身の制限も解けている。  歩き始めておおよそ百メートル、最初の角を右折。左折しては施設内から出ることになってしまう。  確認できたのは二人の人間。利用するに足るか、否か。試しに話し掛ける。 「おはよう……参加者の諸君。放送を聞いての気分はどうかな?」  男の方が即座に身構えた。「殺し合いに乗っている」とでも取られたのだろうか。だとすれば心外ではある。 「この首輪……これを外すだけの技術者ならば命までは奪わない」  則ち、「それが出来ないなら殺す」という意思表示。後は相手の出方で全て決まる。 「結花ちゃん、逃げて」  この場面で殿になってもう一人を逃がそうとする。確定だ。  こいつは首輪を外せない。できるだけの頭があるなら、こちらから誘った時点で交渉の余地有りと判断するだろうに。  男が荷物をその場に落とし、笛の様なものを取り出し、一吹き。良い音色ではある……が、場違いだ。  笛を額まで持ち上げた男は、辺りに巻き起こした竜巻を縦に切り、その姿を変える。 「ハアッ!!」    ライダーとは別の何か――鬼とでも言おうか――が、眼前に出現。  一方で女は手に持った楽器状の道具を鬼に渡すと、逃げ出そうとする。  ――逃がすものか。 「変……身」  予め装着済みのバックルに突き刺すは紫のデッキ。  扱いはマニュアルで可能な限り会得したつもりだが、感覚ばかりは実戦でなくては、な。  デッキから左手でカードを抜き取り、右手の杖――ベノバイザーというらしい――に叩き込む。  これにより何が起こるかは先の戦闘で確認済みだ。  カードに描かれていたサーベルが飛来、左腕を伸ばして掴む。  そして――――投擲。  狙いは走り去る女。ただし直接当てはしない。あくまでも釘付けにするだけだ。  女を塞ぐ様に壁へ刺さったサーベルを見て安堵。次いでその場に膝を付くのを確認。  もう一人を見捨てる勢いで走れば逃げ切れただろうに。つくづく人間が愚かだと実感する。  さて、後は鬼の方だ――――。 「ハッ!!」  手に持っていた楽器は――銃だったらしい。一度放つと瞬時に距離を取り再び掃射してくる。  だが大した威力ではない。別段捌く程の価値は無い。  それでも相手の有利なレンジで戦わせるのは不愉快だ。理想は接近戦。  しかしこちらの武器たるサーベルは……壁に刺さったままだ。  形勢不利――否、現状必要という訳でも無い。“これ”で十分だ。 「ハァァァァァァァァァァッ!!」    叫びと共に地を蹴る。鬼の前方へ着地後、返したバイザーの柄で一突き。  相手の体から散った火花がお互いの視界を曇らす内に、もう一度それを返しながら左を添える。  視界の復旧と共に最上段から蛇頭を頭部へと振り下ろす。確かな直撃の感触。  脳へのダメージが、管での銃撃を再開しようとした相手の腕を鈍らしたのを確認、右手一本でバイザーを短く握りなおし、追撃。  更に左腕は鬼の右腕に密着した管を押さえ込み、地へと叩き落とした。  投げ捨てたバイザーで管に地を滑らせ、強制的に距離を離す。互いに武器無しの状況。  ようやく出現した反撃。右手首を捻ることでそれを去なし、三日月を描く軌道で蹴り上げる。  数歩の後ずさりと、よろめき。それらが意味するのはしばしの間反撃不能という相手の状況。  存分に堪能させてもらうとする。右は全力、左はその半分に力を調整してのコンビネーション。  威力差を広げることで、本命の体感ダメージが広がることを期待する。  右、左、右、左、左、右――――リズムをあえて崩すことで、相手の対応を遅らせる。  全段の命中を確認するが、それでもこの鬼は倒れない。余程鍛えているらしい。  無能とも当初は思ったが、誤解だった。非常に優秀な人材だ。 (俺の餌、としてはな……)  一際強く踏み込み、蹴撃を突き刺す。遂に崩れ落ちる鬼。  それと同時に聴覚が反応を示す。そう、女が助けを呼ぶ声。  通信機を持っていたらしい。更に空いていた右手に握られたそれは、自分のそれと同型のカードデッキ。  通信機をその場において、女が立ち上がる。左手に持ち替えたデッキを窓に翳し――。  「へ……変身……」  例えるならその姿は――騎士。だが悲しいかな、その風格に中身が見合っていない。  おそらくこちらの見様見真似、変身できるかも半信半疑だったというところか。  うろたえるその様を見れば予想するのは容易。  ならば、精一杯足掻かせてから餌にしてやるまで、だ。 ◆  遠くから確かな戦闘音を耳に感じながら、北條が研究所の廊下を駆けていた。言うまでもなく、トランシーバーの通信を受けての行動である。  もしもの事態に備えて、彼のトランシーバーと結花のデイパックは置いて来ていた。  余裕があればデイパックにあったゼクトマイザーを携帯したかったが、マニュアルを読む暇など彼にありはしない。  文字通りの丸腰なのだが、まだ最後の武器がある――問題はそれを生かせる相手かどうか。戦闘狂で無いことを祈りつつ、北條が角を曲がった。  一層強くなった音を前に、北條は足を止める。次の角を曲がった先、そこでは間違い無く戦闘が行われている。  それを理解しているからこそ、簡単には踏み込まない。背面を壁に当てながら、一歩ずつ進む。  北條は六歩進んだところで、再び停止する。冷静に耳を研ぎ澄ますと、掛け声が三つ聞こえた。  北條はその内二つがイブキと結花によるものだと判断して、遂に顔を一瞬角から出す。  そして目にする。「鬼」と「騎士」と「蛇」の舞い踊る混沌の戦場を。 ◆  威吹鬼の手元に握られた音撃管が咆哮し、王蛇の装甲に着弾する。  ものともせずベノバイザーで突き掛かる王蛇の戦い方には、明らかな余裕が見て取れた。  威吹鬼が数歩後退すると、入れ代わる様にファムが王蛇の懐へと飛び込み、ブランバイザーを振るう。  型も何も無い力任せの振り方。振る者によっては強引に押し込めたかも知れないが、乃木の変身した王蛇と結花の変身したファムでは、技術も力も前者に軍配が上がる。  王蛇が回避しながらベノバイザーを当てに行く。二つのバイザーが拮抗した衝撃が空気を揺らし、様子を伺う北條にまでそれを感知させた。  態勢を立て直した威吹鬼が音撃管を構えるが、意図的に王蛇がファムと密着した為に攻撃できない。  無理して撃ったところで、王蛇の装甲にダメージを与えるには至らないことは威吹鬼も承知している。  清めの音にしても威吹鬼にとって未知の存在であるワーム――乃木に通用する保証が無い。鬼石を埋め込むことができるとも思えなかった。  威吹鬼は音撃管をその場に置くと、王蛇へ向けて駆け出す。肉弾戦は不得手だが、止むを得ない。  風を纏っての手足からの連撃が、王蛇の体を少しずつ裂いていく。そこにファムの追撃が加わり、いよいよ攻撃を捌き切れなくなる。 「思ったよりは粘るものだな……」  王蛇が壁に突き刺さったベノサーベルを抜き取り、威吹鬼に向けて先端を射抜く様に向ける。 「だが、それもここまでという訳だ」  北條は戦慄していた。明らかに態度を変えた王蛇に対して。こうなるなら先に仲裁へ入るべきだったと後悔するが、遅すぎた。今行うのは危険すぎる。  ――介入する次の機会は、戦局が落ち着いた時だ。  得物を構えた王蛇が威吹鬼とファムに向けて走り出す。威吹鬼が迎え撃つ中、ファムは一枚のカードを取り出す。  ――SWORD VENT――  思い出したかの様に差し込まれたカードの名を告げる電子音の後、飛来する薙刀――ウイングスラッシャー。  ベノサーベルが威吹鬼の鍛えられた肉体を切り刻む。威吹鬼の反撃も王蛇へと直撃するが、威力の差は両者の状態を見れば一目瞭然だ。  そこに背後から孤を描き迫る一刀。返す刀で王蛇は受け止めるが、体勢が悪かった。  振り下ろされたことで威力を増したファムの斬撃は、サーベルを弾き、余力で王蛇の胸板をも切り裂いた。  だがそれで終わる王蛇でも無い。すぐにファムの腹部へ二発、威吹鬼の頭部へ一発ずつ拳を浴びせると、距離を広げる。  数十メートルともなろうか――「必殺技を使う」のには十分な距離と言えた。  王蛇がカードを抜く前に――威吹鬼が接近さえしていなければの話だったのだが。  追い付いた威吹鬼が王蛇を押さえ込み、遠方のファムが一枚のカードを取り出す。  「滑稽だねぇ……」  それでも乃木怜治が怯まなかったのは、威吹鬼の行動がもう一人の追撃までの時間稼ぎにすぎないと理解していたからだ。  「自身の命を投げ打ってまでの足止め」ならばともかく、「自身の命を確保した上での時間稼ぎ」に、何を脅える価値があるだろうか――。  威吹鬼をバイザーで再び突き放し、カードを抜き取る。そこに一切の動揺も王蛇は見せない。  緩やかに、確実に「ファイナルベント」のカードを読み込ませようとした、その時。  「……なっ!! ……馬鹿な!!」    変身を解かれながらも、横転しながらイブキが使役した式神が、王蛇の指先からカードを弾く。  その火の鳥を睨む間も無く、遠方から勝敗を決しようとばかりに電子音声が鳴り響いた。  ――FINAL VENT――  ファムの契約モンスターブランウイングが、自動ドアから飛び出して王蛇の背後から突風で吹き飛ばす。  そう、これで無防備な王蛇が飛ばされて来たところを切り付けることで決着する。  イブキが、北條が、そして結花さえもが勝利を確信した一瞬、それを嘲笑うかの様に乾いた音声が廊下に鳴り響いた。  ――STEAL VENT――  北條が音声から何が起こるのか推測し終えるのと、突風の勢いに乗った王蛇がウイングスラッシャーでファムの装甲を深々と斬り付けたのは、ほぼ同時のことだ。  既に声の形を成していない叫びを上げて、ファムが結花の姿に戻る。 「つまらん。二人掛かりでこの程度か」  僅かな静寂を破り、結花の首輪に薙刀を突き付けた王蛇――乃木が嘲笑する。 「あ……あ…ぁ……」  結花の顔に浮かぶ紋様は、唯一それを目にした乃木に「長田結花は人間では無い」という事実を示唆しただけで、それ以上の意味を成さない。  王蛇の握力が落ちることは無く、死へのカウントダウンは継続する。  オルフェノク化して戦う気力があれば話は別だが、結花の精神はもう死を待つばかりだ。  不意に、結花は自身が助けを呼んでいたことを思い出す。  北條に関しては人間である上、情報交換の時点で戦力が無いと語っていたことから結花も当てにはしていない。  しかしもう一つの可能性を彼女は捨てていなかった。  城さんなら、城さんならきっと――――。  一方、乃木は一考する。今腰部に据え付けられたデッキに眠る「契約」カードの存在。  目の前に転がって放置された純白のデッキを踏み潰せば、解放されたブランウイングとの契約を行える。  上げ幅は不明だが、戦力が増すのは間違い無い。直接そのデッキを使うという選択肢もあったが、好んでファムに変身するのは女性だけだろう―――などということを。  ――結論から言えば、乃木は契約を断念した。理由は単純明快、「より強力なモンスターと契約する為」。  乃木の見た限り、白のデッキに他のデッキに対する優位性を誇示するカードが見られなかった為だ。  ならばより強力かつ、契約することで強力なカードを得ることのできるモンスターと結ぶべきだ。  デッキの処遇を決めたところで、乃木が再び視線を少女へ移す。  変身のリミットも近い。それでも、目的から逸脱すると理解しながらも、敢えてもう一度口を開く。 「…………助けが来ないな。君も所詮――――」  その先は、彼女には聞こえなかった。いや、聞かなかった。  彼女の視界に君臨していた紫の蛇が、涙によってその存在を曇らせる。  結花が心の奥に抱いた、不安。助けは来ない。自分はここで死ぬ――  ゲームに乗っていた危険な人間、剣崎のことで明らかに動揺していた。  彼女ももしかしたら――――マイナス思考は重なり続ける。  やがて全てが彼女の敵となる。――則ち、無機質な廊下の壁の香り、間隔が短くなるばかりの呼吸音以外何も聞こえない、空間の沈黙。  倒れ込んでいる彼女の背中が触れている床も、スイッチを切られて輝きを失ったライトも該当するだろう。 「さらばだ……」  振り上げられたスラッシャーは、その動作を巻き戻す様に同軌道を逆に進む。  イブキが立ち上がり、北條が交渉を行おうとしたのとタイミングは同時。  一人の少女が確信する。――――ああ、自分は舞台から降りるのだ――――、と。  その確信に間違いは無かった。そう、ただ退場の仕方が違うだけで。  角から飛び出そうとした北條を制し、神速で踏み込む影。右の一歩で王蛇の注意を引き、次の左による一歩が完了の踏み込み音を鳴らす前に右で手首を蹴り上げる。  天井に跳ね返り、降下したスラッシャーが影の手元に収まり、王蛇が左手のバイザーを握り直す。  その二本が互いの首輪に突き付けられるのと、突き付け合う二人の一方が城光その人だと結花が気付いたのはほぼ同時のことだ。 「ほう……遅れてきただけのことはあると言う訳だ」 「早く行け……」  光が流し目で立ち上がったイブキに視線を送る。同時に王蛇の変身が解け、長髪の男――乃木に戻る。  両者の首輪から脅威が去り、同時に二人が爆ぜる。  乃木の右ストレートに光が左腕で合わせると、返しの膝蹴りが腹部を襲う。  瞬時に退いた身が追撃に備え防御態勢へ変化するのを見届けるよりも先に光が左腕を振り抜く。  デイパック一つに音撃管を入れて走り出したイブキが、光の投げ捨てたものに気付く。  「竜巻」のキー。それは研究所からの脱出を求めるメッセージ。  身を屈めて掴むと、続けて結花に手を差し延べるイブキ。それを掴む以外の選択肢が彼女にあるだろうか。  必死に掴み立ち上がると、そのまま角を曲がる。様子を伺っていた北條に気付くと、イブキは頭を下げながら走り抜ける。  結花に至っては北條を気にする暇も無い。北條としても二人の無事を確認したという事実で十分だ。  乃木としては二人の生死などもはやどうでも良いこととなっていたが、それでも相手の思い通りに物事が進行するのに不快感を示す。  二人を追わせないとばかりに繰り出された光の殴撃を受け止め、左足で蹴り込むと、三メートル程間合いを広げられ躱される。  その間は乃木にはとって広すぎた位だ。彼の体がワームに変貌し、加速を開始しようとする。  光もアンデッドに変化するが、既に時遅し。クロックアップしたカッシスワームが駆け出し――  ――刹那、空を裂きながら一筋の矢がカッシスの背部に飛び込み、停止させる。  鈍い動きでカッシスが振り向き、視線の到達点がタイガーアンデッドのそれと重なる。その地点を同じ様に見た北條が驚愕する。  ひたすら道なりに移動した結果研究所に辿り着き、戦うべき相手を見つけた戦士がそこには立っていた。 「第……四号……」 |049:[[すべてのうつくしいものから]]|投下順|050:[[指し手二人(後編)]]| |049:[[すべてのうつくしいものから]]|時系列順|050:[[指し手二人(後編)]]| |034:[[不屈]]|[[五代雄介]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |033:[[ワインディング・ロード]]|[[北條透]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |033:[[ワインディング・ロード]]|[[長田結花]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |033:[[ワインディング・ロード]]|[[城光]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |033:[[ワインディング・ロード]]|[[和泉伊織]]|050:[[指し手二人(後編)]]| |035:[[全ては思いのままに]]|[[乃木怜治]]|050:[[指し手二人(後編)]]|

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