「鬼³」(2009/07/02 (木) 20:32:09) の最新版変更点
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*鬼³
日が昇りきり、一層強く暖かい陽射しが地上を照らす。
アスファルトから反射する光に目を細めつつ、歌舞鬼は一人道沿いを歩いていた。
特に当てがある訳でもない。誰かしらと出会えればそれでいい、そんな考えで。
人探しの目的は情報収集にある。歌舞鬼はあまりにもこの世界、ひいてはこの舞台の事を知らない。
時代が違うのだから当然といえば当然だが。他の参加者からどんな些細な事でも知りたい所だった。
勿論最終的に殺害する事になるのは間違いない、その覚悟は既にできている――はず。
そんな覚悟ができている一方で常に頭のどこかでアマゾン、京介、晴彦の事を考えるのは捨てきれない甘さ故だろうか。
自分が見ていない所で何処へと消えてしまったアマゾン。
半ば見捨ててしまったような形になる京介と晴彦。
アマゾンや京介はまだ楽観視できる部分があるが晴彦にいたってはあの凶悪な北崎と同行しているのだ、いつ殺されてもおかしくない。
北崎はいずれ倒す事は決めているがそれまでに無事な保障はどこにもない、北崎の気紛れと晴彦の幸運を願うしかないだろう。
(って俺が思うのは罰当たりか……)
自嘲的な笑いを浮かべながら歌舞鬼は自分に問い掛ける。
何を期待しているのか?既に戻れないように踏ん切りをつけたはずなのに。
(俺がこんなじゃいくらなんでも……いくらなんでも海堂が不憫すぎるよなぁ)
軽く首をふり、小さなため息一つ。
* * *
小奇麗だった民家が少しずつ姿を無くし、ポツンポツンと小さな煙が混ざりだす。
蹴り飛ばした小石がコロコロと転がり、カツンと大きなコンクリート片にぶつかった。
歌舞鬼は辺りを見渡し、どうやらとりあえずの目的地であるショッピングセンターに着いたことを確認した。
もっとも、歌舞鬼自身は『ショッピングセンター』が一体何をする所なのかは見当もつかないので確証は無いが。
建物が半壊し、火の粉もパチパチと舞うような現状ではどうしようもない所ではある。
一通り見て回ったが人がいそうな気配はどこにも無かった。
戦闘の傷跡が色濃く残る広場に出た所で歌舞鬼は足を止めた。
この辺りで北崎と出会い、そして連れて行ったのだ。自分が。
さしたる保障も無かったはずなのに、何故自分は北崎を引き入れようとしたのだろうか。
単純だ。要するに歌舞鬼は頼りたかったのだ、それは別に北崎でなくてもよかった。
それがたまたま北崎だった、それだけの話。
アマゾン、京介、晴彦の3人を自分一人で守りきる自信が無かった。
自分の自信の無さ、人を頼ろうとした性根の甘さが――あの分裂を生んだ。
拳をわなわなと震わし、己の心に刻み込むように歌舞鬼は呟く。
「俺はもう、頼らねぇ。俺は『独り』だ、それでいい……それがいい」
身体の力を抜き上を見上げると、壊れた天井の隙間から陽射しが差し込んでいた。
それを見ている内に歌舞鬼は再び笑みを浮かべ……いや、声を出して笑った。
覚悟を決めたのに、戻れないのに、たった今独りでいいと決め込んだのに。
陽射しを見ていたらふと3人の顔が浮かんでしまった。
「あっはははは……こりゃ、駄目だぁ――どうにもなんねぇかもしんねぇなぁ俺は!」
可笑しいのか哀しいのか自分でもわからない歌舞鬼は、ただ笑った。
歌舞鬼の笑いに重ねるように携帯電話が震え、女の声が聞こえだす。
「っと、もうそんな時間かい」
携帯電話を取り出し、必要な情報だけを記憶させるために耳を集中させた。
他のどうでもいい事は気にはしない。何人死んだか、禁止区域は?この2つだけが必要な情報。
海堂の名前が挙げられた時にほんの少しだけ目を細めたが、ただそれだけの事であった。
放送が終わり、画面が見飽きた表示に戻ると歌舞鬼は携帯を戻し、要点だけを頭の中で復唱する。
7人死んだ。これで前回の放送と合わせると残り人数は37人。比較しようがないが良いペースなのだろうか?
禁止エリアについては気になる所はE-7の封鎖くらいか。
E-5、F-7と少しずつショッピングセンターへの行き来するルートが限定されてきている。
E-6道路付近なら参加者と遭遇する可能性は高そうだった。
気にすべき情報はこれだけであり
『アマゾン、京介、晴彦の名前が挙げられなかった事にホッとなどしていない!』
と歌舞鬼は誰に言うでもなく否定していた。
いつまでもここに留まっていても進展が無いと判断し、歌舞鬼はE-6道路を目指そうと歩き始めた。
何が理由で気付いたのかは知れないが、何故『あいつ』は気付けなかったのかも解らないが……
歌舞鬼は瓦礫の山に放置されていた『モノ』を偶然見つけた。
『モノ』は馬よりかは少し小さく、犬よりは大きい大きさで。身体は鋼鉄でできているのだろうか?
さらに目立つ特徴として鉄でできた輪が前と後ろについていた。
何か使える予感がした歌舞鬼は『モノ』に近づき、引っ張りあげる。武器として使うには少しばかり重過ぎるようだ。
ペタペタと触ってみると基本的にはヒンヤリとしているが一部はホンノリと暖かかった。
よくよく見ると中央は凹んでいて革に似たような素材で出来ているのか知れないが柔らかく、馬鞍のように思えた。
仮にこれが馬鞍だとすれば二つの角のような突起は手綱になるのだろう、か?
思い切って乗っかってみる。
歌舞鬼の視界が90度傾き、瓦礫と『モノ』との挟み撃ちに遭い少しばかり痛かった。
「足ね、足で支えないと駄目だよな」
気を取り直して『モノ』の身体を起こし、今度はしっかり足で支える。
今度は倒れずに立つ事ができた。そのままの状態でいること数十秒。
『モノ』が動き出す気配は何一つ無かった。
「うーん?カラクリだと思ったんだが動かないのか?」
何かないかとキョロキョロと『モノ』の身体を見回していると何かの拍子で突然『モノ』が動き出した。
突然の動きに歌舞鬼は対応できず、後ろに放り出される。『モノ』はふらふらと走った後に派手に倒れこんだ。
歌舞鬼は倒れこんだ身体をむっくりと起こし、頭をポリポリと掻いた。
「俺には知らない事が多すぎるなぁ……だが、あれは上手く使えりゃ便利だ。間違いねぇ」
傷だらけになった『モノ』へと近づき、再びその身体を起こし乗り込む。
必ず乗りこなしてみせるという決意を胸に、歌舞鬼は再びこけたのであった。
* * *
数十分の格闘の末どうにかこうにか歌舞鬼は『モノ』……いや、『バイク』に乗れるようにはなっていた。
道を曲がる時等に派手にコケてしまう事もあり、ギリギリ運転できているという状態ではあったが。
代償として身体中に浅い傷ができたが歌舞鬼は満足だった。今までよりも速く移動できるというのはやはりありがたい。
あくまでそれは道路限定の話であり悪路や山道では今の歌舞鬼の運転技量を考えれば徒歩の方が間違いなく速く移動できる事には目をつぶる。
「さて、ぼちぼち行くか……あんま倒れたくねぇから一々現在位置確認する為に止まったりはしたくねぇな。まぁ、走ってりゃ誰かに会うだろ」
現在位置を確認し、E-6を目指して歌舞鬼はバイクに乗って走り出す。
眼前には市街地という名前の灰色の迷路が待ち受けていた……
* * *
彼の頭の中にはただ『追う』という事しか浮かばなかった。
木々の間を潜り抜け、土の地面がアスファルトに変わってもその走りは止まらなかった。
しかし周りが彼が未だ慣れぬ人工物で囲まれた所でようやく止まる。
肩を上下させ、荒い息を続けながら辺りを見渡す。ほんの少しでも手掛かりがあれば、と。
目に入るのは灰色やカーキ色、所によりベージュ。
耳に入るのは風の音くらいのもので怖いくらい静か。
鼻に入るのは……潮の匂いともう一つ、ここにきて何度か嗅いだ事のある臭い。
それが何なのかという所を彼は理解していないがその臭いを嗅ぐと心がざらついた。
その臭いに惹かれるように警戒しながら歩き出す。潮の匂いも強くなり、海が近い事が容易に想像できる。
何度目かの角を曲がった所で視界が開け、目の前に黄色の砂浜と青色の海が彼を出迎えた。
そして、黄色と青色の中に異様に目立つ赤い奴を見つけた時
彼は笑っていた。ここに他人がいたらそう思うだろう。それほどの顔をしていた。
息を大きく一つ吐き、手を大きく広げ、姿勢を低くする。
ぎらついた目で距離を測り、赤い奴の動きを冷静に観察する。
彼は獣ではあったが、我武者羅に突っ込むほど馬鹿ではなかった。
赤い奴はこちらに背を向けたままどういうわけか解らないが海を見つめていた。
こちらに振り返る様子は無い。
なら、行くべきだ。
既にこちらに気付いており罠を仕掛けているかもしれない。
ならば罠よりも速く動けばいいだけのこと。
覚悟はできた。あとは行動あるのみ。
息を少し吸い、再び大きく吐く。限界まで身体を縮め、飛び出す。
風が起こり、砂が舞う。彼は……アマゾンは駆け出した。ここで全ての決着をつけるため。
* * *
ゴルゴスはふらふらと移動しながらある物を探していた。
それは参加者の死体。もしくは非力な参加者。
ファイズとゼロノスによって刻まれた胸の一文字の傷がずきりと疼く。
この傷を治癒する為、体力の回復や空腹を満たす為にどんな代物でも良いから血が欲しいというのが本音だった。
「ちっ、死体の一つも落ちていないとは。ここは殺し合いの場のはずだというのに、腑抜けばかりか?」
ゴルゴスは知る由もないのだが参加者の遺体は灰や炭と化して原型を留めていなかったり、
カードに封印されたり埋葬されていたりと死体として表に出ない場合もある。野晒しの普通の死体はむしろ珍しい部類に入っていた。
そんな貴重な死体にもほんの少しの幸運があれば或いは出合えたかもしれないがゴルゴスにはその幸運が無かった。
「えぇい、キリがないわ」
ゴルゴスは市街地での死体探しを一時中断し、休息の取れそうな場所がなかったかどうか今までの記憶を辿り――海岸を選択する。
海岸ならば遮蔽物も無く、自分の力を100%発揮できるため仮に襲撃を受けても返り討ちにする事が可能だからだ。
砂浜に腰を……というか岩を下ろし、やる事もないので海を見つめる。
穏やかな海模様だった。波が微かな音を立てて砂浜を濡らしている。
空を見上げると太陽は丁度真上まで昇ってゴルゴスの身体を更に赤くしようとするかの如く照らしていた。
「昼、か――昼だと!?」
本来ならばあの耳障りな蒼女の声が聞こえてくる時間のはずだがその気配は未だに無い。
よくよく考えてみればどうも身体が軽い。自分の身体を調べてみてゴルゴスは確信する。
「デイパックを落とした……だと!?訳の分からんベルトについてはどうでもいい。
水や食料も俺様にとっては無用の代物。だが問題は、あの機械が入っていたという事だ!」
あの機械とはつまり携帯電話の事である。
影山が死神博士に説明していたようなしていなかったような曖昧な記憶があるがゴルゴス自身の認識としては小さなラジオ止まりだった。
だがそんな物でもこの場では重要な情報源だ。特に禁止エリアの情報が得られないのが痛い。
拳をわなわなと震わせ、どうするべきか考える。
「ふん、考える必要も無かったわ。無いなら奪うだけの事。お前の物は俺の物。俺の物は俺の物。
適当な奴から血を吸い上げるついでに奪い取ってくれるわ。ぐわぁはっはっは!」
そうと決まればあとは行動あるのみだ。いい加減海も見飽きたゴルゴスは再び市街地へ戻ろうと振り返る。
「うおっ!?」
眼前に突如として獣が現れたのには流石のゴルゴスもびびった。獣はそのままゴルゴスに飛びつき、首筋に噛み付いた。
能力を発揮していないせいか本来なら獣の牙など文字通り歯が立たないほどの強固な肌が傷つき、血が滲み出す。
「離せ!離さんか!このケダモノめ!」
獣の頭を両手で掴み、必死に離そうとする。獣は獣で離れまいと歯を立て爪を立て、必死に抵抗する。
バランスを崩したゴルゴスは倒れこみ、ゴロゴロと転がりだす。
砂浜の一部が整備され、水しぶきをあげはじめた所でようやく獣はゴルゴスから離れた。
ゴルゴスはこの時ようやく気付いたのだが相手は獣ではなかった。
「貴様は!?アマゾン!」
「ケケーッ!」
海水で濡れ、髪が垂れているため顔は見えない。だが髪の隙間から見える鋭い眼差し。
アマゾン以外有り得ない裸体。そして左腕でキラリと光るギギの腕輪。
間違いなくアマゾンその人であった。
「会いたかったぞアマゾンライダー!貴様を殺し、ギギの腕輪は俺様の物としてくれる!
残った血肉は俺様の腹の中に収めてやるわ、覚悟しろ!」
ゴルゴスの身体から溶岩のように熱い気迫が漲り、周りの空気がぐにゃりと曲がる。
異様な姿と発せられるプレッシャーは並の者ならすぐさま逃げ出すだろう。
だがアマゾンはそのプレッシャーに臆する事無くゴルゴスを睨みつける。
「ア~…」
両手を広げると身体の内から、ギギの腕輪から、アマゾンの身体に力が溢れ出す。
「マ~…」
両手を交差させ、溢れんばかりの力を凝縮させ……
「ゾーン!」
力を全て解き放ち、両目が真っ赤に光る。
解き放たれた力がまばゆい光となってアマゾンの身体を包み込み、その身体を変化させる。
肌の色は緑と赤のまだら色に変わり、
膨張した筋肉が盛り上がり、胸部を覆うような形に変化する。
頭部はオオトカゲを思わせる形に変わり、巨大な真っ赤な目と大きく開いた口から覗く牙がキラリと光る。
「ケァーーッ!」
奇声を発し、ゴルゴスに負けないほどのプレッシャーを放ちだす。
アマゾンライダーここにあり
この瞬間、アマゾンとゴルゴスの死闘が幕を開けた。
* * *
パシャ、パシャと水しぶきを上げながらアマゾンとゴルゴスはお互いに旋回しながら相手の出方を窺う。
アマゾンは時折腕を交差させ威嚇の音を発したりしている。
一方のゴルゴスはアマゾンから目を離さないようにしつつ、アマゾン対策を考えていた。
(アマゾンが人間体の時に見せた素早さは変身した後も健在、むしろパワーアップしているはず。
俺様の攻撃は威力は抜群だが当てるのは苦手だ。赤や緑、黄色のライダーを相手にして嫌というほど実感したわ。
とするとアマゾンにも同じように真正面から馬鹿正直に戦っては厳しい、か)
チラリと青く大きく広がる海のほうを確認する。岩などは無く波も無い。
ゴルゴスがにぃ、と嫌らしい笑みを浮かべる。
「くらえっ!」
様子見を続けていたゴルゴスは突然巨大岩の口から砲撃を開始した。
アマゾンは横に転がり回避しすぐに立ち上がる。が、ゴルゴスの姿が無い。
辺りを見回し、すぐに見つけることができた。
ゴルゴスは沖のほうへと移動しており、アマゾンがしばらく様子を見ているとゴルゴスが振り返り、叫んだ。
「アマゾンライダー!俺を恐れぬのならばここまで来い!来ないのならば貴様を腰抜けと見なす!
そんな腰抜け等相手にするだけ無駄だ、どこへでも逃げるがいいわ!」
ゴルゴスが挑発するが残念な事にアマゾンは今の言葉の1割も理解できていなかった。
だがゴルゴスが自分を呼んでいる、という事だけはなんとなく察した。さらにいえばここでゴルゴスを逃がす気などアマゾン自身無かった。
「ケケーッ!」
気合を入れ、バシャバシャと沖の方へと走り出し、海水が腰まで浸かろうかという所で飛び上がり、海へと潜り込んだ。
数秒の後に水面に浮かび上がり、両手足をフルに使い、海上で浮かぶゴルゴスへと泳いでいく。
ゴルゴスの狙いはまさにこれであった。アマゾンのスピードという武器を殺し、自分の攻撃を容易に当てられるようにする。
さらに海で浮かんだ状態でまともな攻撃など、ましてやゴルゴスは浮いているのだ。攻撃できるかどうかすら怪しいはず。
あとはアマゾンがこちらの誘いに乗ってくれるかどうかだけが問題だったがホイホイとついてきたのでゴルゴスは笑いを隠す事ができなかった。
ほとんどがゴルゴスの思い通りだったが一つだけ問題があった。
「アマゾンめ、思ったよりは速いではないか」
そう、アマゾンの海上での動きが思ったよりも速いのだ。だがあくまで思ったよりも、という程度の事だ。
真っ直ぐと向かってくるアマゾンに対して悠々と狙いを定め――
「さらばだアマゾン!」
砲撃をこれでもかとばかりに撃ち込んだ。
水柱があちこちに立ち上がり、静かな海を騒然とさせる。
流石にこれだけでアマゾンがやられるとはゴルゴスも思っていないがダメージは受けたはずと判断し、様子を見るため砲撃を中止する。
「むぅ?」
水しぶきがおさまり再び静かな海に戻りつつある中……どこにもアマゾンの姿は無かった。
まさか今の一撃で仕留めてしまい海中へと沈んでしまったのだろうか?と不安になる。
アマゾンの左腕にあるギギの腕輪が回収できないでは倒す意味が微塵も無くなってしまう為だ。
潜って確認すべきだろうかとゴルゴスは悩んでいた刹那
「ケケーッ!」
海を破るように飛び上がってきたアマゾンが右手で一振り、ゴルゴスの巨大岩を斬り付けた。
「ガハッ!き、貴様!」
反撃しようとするゴルゴスを無視し、一撃を与えたアマゾンは再び海へと潜り込む。
ゴルゴスがキョロキョロと辺りを見渡すが海には既に静寂が戻っており、アマゾンの気配は微塵も感じられない。
「どこだ!出て来い!」
苛立ちの声を上げるがその声は虚しく響くだけ……に終わらなかった。
その声に答えるようにゴルゴスの背後で水しぶきがあがる。
「そこかっ!」
素早く振り返り、水しぶきがあがった場所に撃ち込む。
その攻撃が捉えた物はアマゾンではなく小さな小石で、砲撃を受けた小石は粉々に砕け散った。
陽動だと気付いた時にはもう遅く、先ほどよりも大きな水しぶきがゴルゴスの背後であがり、背中に焼けるような痛みが走った。
振り向く前に再びアマゾンが水に潜る音が響き、静かな海が蘇る。
ここにきてゴルゴスは自分の作戦が過ちだった事に気付く。
自分が思っていたのとは反対にアマゾンは海中からでも問題なくこちらに反撃ができ、不意打ちを食らう分明らかに自分の方が不利だった。
さらに完全に潜られてしまうと砲撃も届かない。デメリットばかりだった。
「ちぃ……だが、貴様が攻撃できるのも俺が海上スレスレを飛んでいるからできる事よ」
ゴルゴスは砲撃による攻撃を諦め、高度をあげ海から徐々に距離をとる。
ある程度の所で停止し、海上をじっと見つめる。
「アマゾンライダー……貴様はモグラ叩きは好きかな?」
* * *
口の端から小さな泡を一つ吐き……ゆっくりと海中を泳ぎながらアマゾンは海上を見つめていた。
何度か攻撃を仕掛けたがどれもゴルゴスに致命傷に至る傷は与えてはいない。
だが次の攻撃には全力を使うつもりでいた。既に海に慣れつつあり、ゴルゴスの動きからイケルと判断した為である。
だが肝心のゴルゴスの姿が、見えない。
今までは海上スレスレを浮かぶゴルゴスが波間から見えたのだが今は歪んだ太陽と濃い青をした空しか見えなかった。
耐え切れなくなったアマゾンは海中から浮かび上がり、海上に顔を出し辺りを見渡した。
四方を見渡し、それから空を見上げる。海中からではわからなかったが太陽の一部が黒くなっていた。
太陽の眩しさに目を細めていると徐々に黒が大きくなっていく。
「!」
黒い物はゴルゴスであった。ゴルゴスが自分目掛けて落下してくる。
アマゾンは回避しようとするが気付くのが遅過ぎた。
「沈めぇぇーーっ!」
ゴルゴスの巨体を生かしたのしかかり攻撃がアマゾンに直撃し、そのまま沈み込む。
海中深くゴルゴスとアマゾンは潜っていく。
勢いに耐え切れずアマゾンの口から大きな泡が吐き出された。
(このまま海の底に叩き付けてくれるわ!)
ゴルゴスの勢いが衰える事は無く、このままでいけばアマゾンがぺしゃんこになるのは間違いなかった。
このままでいけば、であるが。
アマゾンの目がキラリと光り、されるがままだったゴルゴスの岩の底に手を当て、勢いから逃れようともがき出す。
(無駄な足掻きよ!)
だが、無駄ではなかった。海底へと激突する寸前にアマゾンは体勢を立て直し、即座に押し潰される事は無かった。
だが両手でゴルゴスを受け止め、両足は海底に少し沈みつつありすぐには身動きが取れない状況であった。
(ふん、まともに呼吸ができないのだ。いずれは力尽きるわ!)
これが他の参加者ならばゴルゴスの思い通りになったのだろう。だがゴルゴスにとって不運な事に相手はアマゾン。
アマゾンは――
(ケケーッ!)
えら呼吸ができる為、海中でも問題なく酸素を取り入れることが可能なのだ。
気力を取り戻し、半ば強引にゴルゴスを投げ飛ばす。
(ちぃ、これ以上海中にいると俺様の方がまいってしまうわ!)
起き上がったゴルゴスはそのまま浮上を開始する。
海中ではまともな攻撃手段がないうえにゴルゴスにはえら呼吸なんてものも備わっていないのだから。
当然浮上に集中している無防備なその姿は格好の標的となる。
(ケケーッ!)
ゴルゴスの周りを鮫のように泳ぎながら手足のヒレを用いて攻撃を加えていく。
組み付いて噛み付こうともするが抵抗にあい、なかなか上手く行かない。
だが海中での切り裂きの連続は決して無駄にはならず、ゴルゴスの身体のあちこちから赤い煙幕のように血が流れ出してきていた。
* * *
「ぶはぁっ!」
海からあがったゴルゴスが一気に酸素を取り込む。
海面を見ればすぐそこまでアマゾンが迫ってきていた。
(思った以上の深手を……ともかくここで戦うのはまずい!)
全速力で逃げるように、砂浜目掛けて飛行するゴルゴス。
一足遅く浮かび上がったアマゾンはすぐさま追跡を開始する。
下手な色気を出さずに全力で飛行したのが幸いしたのかアマゾンからの追撃は一回もなかった。
泳ぐのが困難なほどの浅瀬までくるとゴルゴスが立ち止まり、振り返る。
立ち上がったアマゾンが視線を受け、睨み返す。
ゴルゴスは全身傷だらけで所々から血は今も流れ出しており体力もかなり消耗している。
片やアマゾンの方も無傷とは言わないがそれでも傷らしい傷もなく体力は未だに健在。
今現在両者の優劣は誰が見ても明らかであった
アマゾンがゆっくりと右手を振りかぶり、背中のヒレがわなわなと動き出す。
ゴルゴスは両手をゆっくりとかき混ぜるように動かす。ゴルゴスの両目が妖しく光り始める。
「ケケーッ「ブラック・オン・ゴォォルド!」」
アマゾンが飛び掛る寸前にゴルゴスが叫び、次いで辺り一面が暗闇に覆われる。
目標を見失ったアマゾンの右手が虚しく振り下ろされた。
「…ッ!」
足元に海水の冷たさは感じる。潮の匂いや風の音も確かに感じる。
だが暗闇。足元も上も四方も全てが暗闇。唯一自分自身だけは暗闇に溶け込んではいなかった。
未知の体験にアマゾンは戸惑い、うろうろと歩き回る。
ゴルゴスの臭いは感じるのだが今までに流された血の臭いが邪魔で位置を特定することができずにいた。
そうしてしばらくしていると不意に、暗闇に光りが差し始めた。燃える炎の明るさが。
「!?」
本能的にアマゾンは何かがおかしいことを悟る。そう、海が燃えているのだ。近くに近づけば熱く、これが幻でない事を裏付けている。
炎は次々とあがり、やがて巨大な円となってアマゾンの周りを囲い込んだ。
炎に慣れていないアマゾンはなるべく距離を取ろうと円の中心から動かない、動けない。
そうしているうちに急激に足元が熱くなり、アマゾンはその場を離れる。
だがそこには炎は無く代わりに白い泡が浮かんでいた。
恐らく白い泡は海面を漂うように浮かんでいるのだろう。だがこの泡の意味は?
恐る恐る泡に触れた指先が熱くなり、すぐさま海水で洗い流す。
泡に触れた指先が焼けただれ、酷い痛みがアマゾンを襲う。
白い泡は徐々にその数を増やし、アマゾンの足元まで漂ってくる。
「ッ!」
触れてしまった足首がじゅうっと嫌な音をあげた。
アマゾンを囲う炎は未だ健在でありアマゾンを襲う白い泡はどんどん増えていき、ついにアマゾンの逃げ場は失われた。
「ア…ガッ…グッ…ッ!」
両足が白い泡に溶かされていくのを感じるが倒れる事は決してできない。
倒れてしまえば一巻の終わりなのだから。
周りは炎に囲まれ、飛び越えるのも困難なほど厚い層を形成しつつある。
水の中に潜ろうにもここは浅瀬であり身体を完全に沈めることなど不可能。
アマゾンはなんとかゴルゴスの位置を探らんと必死に考える。両足が使い物にならなくなるまで時間が無い。
* * *
ゴルゴスは燃える液体と人体を溶かす白い泡を次々と放出しつつアマゾンの出方を暗闇の一角で静かに窺っていた。
(咄嗟に思いついた割にはいい攻撃だなこれは……炎の円を形成できたのがやはり大きいな。
しかしアマゾンめ、しぶとい奴だ。必殺の攻撃をしてくるのは間違いない、だがその為にこちらの位置をどうやって探る?)
ゴルゴスは自分からは動かない。自分から動けばファイズ&ザビー戦の時のように思わぬ反撃を食らう事は学んでいるのだ。同じへまはしない。
そうやっている内についにアマゾンが膝をついた。倒れこむのを防ぐ為か咄嗟に左手をついてしまう。
「アグゥッ!」
新たな部分が溶ける痛みにアマゾンが悲痛な声をあげる。だがゴルゴスは白い泡を作り続けた。
(どうやら俺様の勝ちのようだな、アマゾン。貴様の全身が溶けるのを見届けてから俺様はゆっくり貴様のギギの腕輪を奪わせてもらうぞ……)
勝ちを確信しながらも、それでもゴルゴスは警戒心を解いてはいなかった。
何故なら両足、左手を溶かされかけても尚アマゾンの目は鋭く光っていたのだから。
「ケケーッ!」
アマゾンが驚異的な脚力で飛び上がる。その勢いから死力を尽くした最後の攻撃だという事は明らかだった。
(ここだ!ここでアマゾンの攻撃を退ければ俺様の勝ちだ!)
ゴルゴスが白い泡の放出をやめ、身構える。
飛び上がったアマゾンは両手足を広げ空中でヘリコプターのように回転を始めた。
その勢いでアマゾンの左手、両足に付着していた白い泡は四方八方に弾き飛ばされていく。
飛ばされた一部の泡がゴルゴスの身体にかかり、赤い肌を溶かした。
だがゴルゴスは歯を食いしばり、呻き声一つあげることなくその痛みに耐えたのだ。
(ふん今更傷の一つや二つで声などあげんわ!当てが外れたなアマゾンライダー!)
耐え切ったゴルゴスがアマゾンを見ると、目が合った。
いや、アマゾンには暗闇にしか見えないのだから目が合うという表現もおかしいのかもしれないが。
(何故位置がわかった!?……そうか、俺様に当たらなかった泡はそのまま下に落下するのみ。
だが俺様に当たった泡は奴から見れば空中に固定されたように見えたはず!それを目印にしたのか!
或いは肌が溶ける音を察知したのか……どちらにせよ、俺様の位置がわかったなら奴がする事は一つだ!)
「ケケーッ!」
アマゾンがゴルゴスの元へと飛び掛る。だがその動きはあまりにも直線的すぎた。
「馬鹿が!狙ってくださいと言ってる様なものよ!」
岩石の口からの砲撃がアマゾンを直撃し、アマゾンの勢いは殺され、ゆっくりと炎の輪の中へと落下しはじめた。
「勝ったっ!!!!」
勝利宣言をするゴルゴスの左腕に何かが撒き付く。
唯一無傷なアマゾンの右手にはロープに変化したコンドラーが握られ、その先端がゴルゴスの左腕に撒きついたのだ。
そのままブランコのように回転し、再びアマゾンは飛び上がった。ゴルゴスよりも、高く。
右手を振り上げ、背中のヒレが激しく動き出す。
「ケケケーーッ!!」
ゴルゴスは逃れようとしたが、一瞬の油断からその時間を失う。
振り下ろされたアマゾンの右腕が肩ごと自分の右腕を切断する瞬間をゴルゴスは見ているだけしかできなかった。
渾身の大切断が決まり、こうしてアマゾンとゴルゴスの決着はついたのであった。
* * *
飛沫をあげてアマゾンが着地し、そのまま崩れるように膝をつく。両足と左手の傷に海水や砂が触れるが痛みは感じなかった。
次いでガガの腕輪をつけたままのゴルゴスの右腕が浅瀬に沈む。
ゴルゴス自身は未だ飛行していたが右半身からの出血はもとよりガガの腕輪を失った事であと少しの命という状態であった。
「見事だアマゾン……そう言うしかあるまいな……ガハッ」
顔面岩の顔が次々と彫刻へと変わっていき、ゴルゴスの力が失いつつある事を現していた。
「だが、貴様もその傷だ……長くは、あるまい……グフッ、ぐわっはっは!!」
高笑いと共にゴルゴスが高度をあげ、空へと昇っていく。
「残念だったな!アマゾンライダー!俺様をここまで追い詰めたのは確かに貴様だ!だが俺様の命を消すのは貴様でも!」
制限の影響なのだろうかゴルゴスの首輪から甲高い音が発せられる。だがそれも予想の範囲内だったのかゴルゴスは自分の首輪に指を差す。
「ましてや訳の分からん者どもでもない!」
膝をついたアマゾンはただじっと空へと昇るゴルゴスを見つめていた。
「この俺様自身だ!俺様だけが!俺様の命を自由に扱える!貴様は最後の最後でツメを誤ったのだ、アマゾン!ぐわっはっはっは!!!」
ゴルゴスの身体が淡く光りだす。首輪の音の間隔は少しずつ短くなってきていた。
「見よ!アマゾンライダー!これが俺の最後だーーっ!!!」
叫びと共にゴルゴスの身体が爆発四散し、海一面に赤い肉片がボチャボチャと音を立てて沈んでいった。
はっきり言えばただの強がりである。間違いなくアマゾンはゴルゴスに勝利したのだ。
おまけにアマゾンは言葉がわからない。故にゴルゴスの最期の言葉も解らない。
だがそれでも、アマゾンの心の中には言い知れぬ悔しさが広がったのだった。
&color(red){【十面鬼ゴルゴス@仮面ライダーアマゾン:死亡確認】}
&color(red){【残り36人】}
* * *
変身を解いたアマゾンは沈んでいたガガの腕輪をゴルゴスの腕ごと回収し、引き摺る。
左手両足は変身を解いた途端に激痛に見舞われた。皮膚は溶け、足に至っては白い物が見えている。
それでもゆっくりととはいえ歩けるのはアマゾンの身体能力や治癒能力の高さの賜物だろう。
アマゾンの頭の中は空っぽだった。ただひたすらに休みたかった。
休んで、それから……
ここにきてようやくアマゾンは歌舞鬼に二人の少年の護衛を任せられていたことを思い出す。
流石のアマゾンも悪い事をした、というのは理解できた。まずは休み、それから謝りに行こう。そう結論付けた。
パチ パチ パチ パチ
何かの音に引かれ、アマゾンはゆっくりと顔をあげた。
『人』がいた。
黒いスーツに身を包み、胸と肩には茶色の鎧。肩からは金色の角のようなものが二つずつ生えている。
右膝には何かの動物を模したような飾り。
そしてなにより、表情の窺い知れぬ銀の面の左右には黄金の角が生えていた。
これはむしろ、『鬼』
『鬼』がいた。
『鬼』がアマゾンの健闘を称えるかのように拍手をしていたのだ。
アマゾンは何がなんだかわからずただ『鬼』を見つめていた。
『鬼』は拍手をやめ、じっとアマゾンを見つめた。
お互いの目と目が合っていたが、お互いに相手の考える事等解りようも無かった。
『鬼』が一度空を見やり、それから腰のベルトから何かカードの様な物を引き抜いた。
右膝をゆっくりとあげ、カードを動物の顔へと差し込む。
――SPIN VENT――
どこからともなく――巨大な角とも槍ともドリルとも思えるような――武器、ガゼルスタッブが飛来し『鬼』の右腕に装着される。
ここにきてようやくアマゾンは敵だと認識し、全身に力を入れる。
「アー……マー……ゾーンッ!」
だが身体は変わらない、信じられないといった表情でアマゾンが自分の身体を見つめる。
『鬼』は軽く首を振り……アマゾン目掛けて駆け出した。
アマゾンが立ち向かおうとするが両足の踏ん張りも利かず左手もまともに動かせず、できることはただ相手が迫るのを見つめるだけだった。
ガゼルスタッブの先端がアマゾンの胸に触れた所でピタリと止まる。
アマゾンは顔を上げ、『鬼』を睨みつける。
『鬼』がしばらくそうしていたが不意に――
「もう、やすめ」
そう呟き、ガゼルスタッブがアマゾンの身体を貫いた。
口から血が溢れ出し、アマゾンが唯一まともな右腕で『鬼』の面をゆっくりと、あがくように引っ掻いたがそれまでだった。
遂に右腕も垂れ下がり、アマゾンの眼も閉じられていく。
密林の王者は敵対する十面鬼が眠る海辺で、両足と左手を溶かされ、胸に大きな穴を二つ開けて、心も頭も空っぽな状態で殺された。
&color(red){【山本大介@仮面ライダーアマゾン:死亡確認】}
&color(red){【残り35人】}
* * *
まだまだ不慣れな運転に加え土地勘もまったくないせいか歌舞鬼は目指すべき方向とは真逆の方向へと進んでしまっていた。
それに気付いたのも潮の匂いに気付いてからというのだから人間不慣れな事は極力しないに限るものである。
だがある意味この瞬間に海に着いたのは幸運であり不運であった。
歌舞鬼が辿り付いたのは、ゴルゴスが水中から襲うアマゾンに苦戦している時だった。
戦っているのがアマゾンだと理解した瞬間に加勢に向かいそうになったが歌舞鬼はグッとこらえた。
これはチャンスだと、頭がそう判断した。歌舞鬼の中で迷いが生じるがそうこうしているうちに戦いの舞台は海中へと移っていった。
その間に歌舞鬼はバイクと共に身を隠し、決着を見守る事にした。アマゾンが勝てば見逃そう、赤いのが勝てば殺そう。この時はそう考えていた。
そしてゴルゴスが姿を現し、次いでアマゾンが姿を現す。この時ゴルゴスの身体は傷だらけでアマゾンの勝ちは揺るがない、はずだった。
だがゴルゴスの能力なのだろうか突如として一部分が暗闇に覆われたのだ。その空間だけポツンと黒くなった。
そしてその空間が破られたとき、決着はついていた。
ゴルゴスの右肩から先は無く、血も滝のように流れていた。
だが勝利の代償は大きく、アマゾンの両足左手は溶けて骨さえ露出していた。動ける事自体恐ろしいほどの傷だ。
そうしてゴルゴスは最期には自爆した。最後の最後まで嫌な奴という印象しか覚えなかった。
疲弊しきったアマゾンは何故かゴルゴスの右手を回収し、ゆっくりと歩き始めた。
「もう、いいだろ……」
もはや見てられなかった。仮に、このまま見逃した所で先は見えている。
(海堂の時もそうだったな……)
歌舞鬼は鬼に変身しようするが途中で止め、インペラーのデッキに持ち替えた。
(アマゾンは俺の事を、多分まだ信用してる。最後の最後で俺に裏切られたなんて後味があまりにも悪すぎる、だろ)
インペラーのデッキをバイクのサイドミラーに掲げる。説明書通り、銀色のバックルが腰に装着された。
「変身……」
デッキを差込、虚像が重なり合って変身が完了する。
(アマゾン、お前は何も解らなくていい。解らないままここで死ぬのが、お前の幸せなんだ)
歌舞鬼は『鬼』となり、アマゾンの前に立ちはだかった。
* * *
変身を解いた歌舞鬼は倒れこんだアマゾンの遺体を砂浜に仰向けで寝かせた。
近くに転がっていたゴルゴスの右腕。その右腕につけられた腕輪がアマゾンが左腕につけられた腕輪と形が似ていることに気付き、なんとなく悟った。
「大事な物、だったんだな。よかったな、取り戻せて」
ガガの腕輪をアマゾンの遺体の上に乗せ、手を合わせた。
しばしの黙祷の後に立ち上がり、歌舞鬼は海岸を後にする。
バイクにまたがり今度こそE-6を目指すため歌舞鬼は再び走り始めた。
誰に聞かせるでもなく、歌舞鬼は呟く。
「京介や晴彦も……つらい思いをしてるのか?苦しいのか?痛いのか?」
歌舞鬼を乗せたバイクは走る。
「なら俺に頼れ。俺が、楽に殺してやる」
歪み始めた愛情はどこへ向かうか
**状態表
【歌舞鬼@劇場版仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:G-6北部】
[時間軸]:響鬼との一騎打ちに破れヒトツミに食われた後
[状態]:健康 、バイク搭乗中、二時間変身不可能(インペラー)
[装備]:変身音叉・音角、音撃棒・烈翠
[道具]:基本支給品×3(ペットボトル1本捨て)、歌舞鬼専用地図、音撃三角・烈節@響鬼、GK―06ユニコーン@アギト、ルール説明の紙芝居、インペラーのカードデッキ@龍騎、KAWASAKI ZZR250
【思考・状況】
基本行動方針:優勝し、元の世界に戻って魔化魍と闘う。そして最後は……
1:桐矢、三田村がつらい思いをしているならば楽にしてやりたい
2:E-6は人が集まるはず。まずは情報収集
3:北崎はいつか倒す。
【備考】
※カードデッキの使い方は大体覚えました。
※E-6を目指してバイク搭乗中ですが運転に不慣れの為目指すべき場所までたどり着けない可能性があります
※何処へ向かうかは次の書き手さんにお任せします。
|091:[[信じるモノ]]|投下順|093:[[時の波]]|
|091:[[信じるモノ]]|時系列順|093:[[時の波]]|
|083:[[EGO(後編)]]|[[歌舞鬼]]|096:[[顔]]|
|080:[[出たぞ!恐怖の北崎さん]]|&color(red){山本大介}|---|
|078:[[零れ落ちる闇]]|&color(red){十面鬼ゴルゴス}|---|
*鬼³
日が昇りきり、一層強く暖かい陽射しが地上を照らす。
アスファルトから反射する光に目を細めつつ、歌舞鬼は一人道沿いを歩いていた。
特に当てがある訳でもない。誰かしらと出会えればそれでいい、そんな考えで。
人探しの目的は情報収集にある。歌舞鬼はあまりにもこの世界、ひいてはこの舞台の事を知らない。
時代が違うのだから当然といえば当然だが。他の参加者からどんな些細な事でも知りたい所だった。
勿論最終的に殺害する事になるのは間違いない、その覚悟は既にできている――はず。
そんな覚悟ができている一方で常に頭のどこかでアマゾン、京介、晴彦の事を考えるのは捨てきれない甘さ故だろうか。
自分が見ていない所で何処へと消えてしまったアマゾン。
半ば見捨ててしまったような形になる京介と晴彦。
アマゾンや京介はまだ楽観視できる部分があるが晴彦にいたってはあの凶悪な北崎と同行しているのだ、いつ殺されてもおかしくない。
北崎はいずれ倒す事は決めているがそれまでに無事な保障はどこにもない、北崎の気紛れと晴彦の幸運を願うしかないだろう。
(って俺が思うのは罰当たりか……)
自嘲的な笑いを浮かべながら歌舞鬼は自分に問い掛ける。
何を期待しているのか?既に戻れないように踏ん切りをつけたはずなのに。
(俺がこんなじゃいくらなんでも……いくらなんでも海堂が不憫すぎるよなぁ)
軽く首をふり、小さなため息一つ。
* * *
小奇麗だった民家が少しずつ姿を無くし、ポツンポツンと小さな煙が混ざりだす。
蹴り飛ばした小石がコロコロと転がり、カツンと大きなコンクリート片にぶつかった。
歌舞鬼は辺りを見渡し、どうやらとりあえずの目的地であるショッピングセンターに着いたことを確認した。
もっとも、歌舞鬼自身は『ショッピングセンター』が一体何をする所なのかは見当もつかないので確証は無いが。
建物が半壊し、火の粉もパチパチと舞うような現状ではどうしようもない所ではある。
一通り見て回ったが人がいそうな気配はどこにも無かった。
戦闘の傷跡が色濃く残る広場に出た所で歌舞鬼は足を止めた。
この辺りで北崎と出会い、そして連れて行ったのだ。自分が。
さしたる保障も無かったはずなのに、何故自分は北崎を引き入れようとしたのだろうか。
単純だ。要するに歌舞鬼は頼りたかったのだ、それは別に北崎でなくてもよかった。
それがたまたま北崎だった、それだけの話。
アマゾン、京介、晴彦の3人を自分一人で守りきる自信が無かった。
自分の自信の無さ、人を頼ろうとした性根の甘さが――あの分裂を生んだ。
拳をわなわなと震わし、己の心に刻み込むように歌舞鬼は呟く。
「俺はもう、頼らねぇ。俺は『独り』だ、それでいい……それがいい」
身体の力を抜き上を見上げると、壊れた天井の隙間から陽射しが差し込んでいた。
それを見ている内に歌舞鬼は再び笑みを浮かべ……いや、声を出して笑った。
覚悟を決めたのに、戻れないのに、たった今独りでいいと決め込んだのに。
陽射しを見ていたらふと3人の顔が浮かんでしまった。
「あっはははは……こりゃ、駄目だぁ――どうにもなんねぇかもしんねぇなぁ俺は!」
可笑しいのか哀しいのか自分でもわからない歌舞鬼は、ただ笑った。
歌舞鬼の笑いに重ねるように携帯電話が震え、女の声が聞こえだす。
「っと、もうそんな時間かい」
携帯電話を取り出し、必要な情報だけを記憶させるために耳を集中させた。
他のどうでもいい事は気にはしない。何人死んだか、禁止区域は?この2つだけが必要な情報。
海堂の名前が挙げられた時にほんの少しだけ目を細めたが、ただそれだけの事であった。
放送が終わり、画面が見飽きた表示に戻ると歌舞鬼は携帯を戻し、要点だけを頭の中で復唱する。
7人死んだ。これで前回の放送と合わせると残り人数は37人。比較しようがないが良いペースなのだろうか?
禁止エリアについては気になる所はE-7の封鎖くらいか。
E-5、F-7と少しずつショッピングセンターへの行き来するルートが限定されてきている。
E-6道路付近なら参加者と遭遇する可能性は高そうだった。
気にすべき情報はこれだけであり
『アマゾン、京介、晴彦の名前が挙げられなかった事にホッとなどしていない!』
と歌舞鬼は誰に言うでもなく否定していた。
いつまでもここに留まっていても進展が無いと判断し、歌舞鬼はE-6道路を目指そうと歩き始めた。
何が理由で気付いたのかは知れないが、何故『あいつ』は気付けなかったのかも解らないが……
歌舞鬼は瓦礫の山に放置されていた『モノ』を偶然見つけた。
『モノ』は馬よりかは少し小さく、犬よりは大きい大きさで。身体は鋼鉄でできているのだろうか?
さらに目立つ特徴として鉄でできた輪が前と後ろについていた。
何か使える予感がした歌舞鬼は『モノ』に近づき、引っ張りあげる。武器として使うには少しばかり重過ぎるようだ。
ペタペタと触ってみると基本的にはヒンヤリとしているが一部はホンノリと暖かかった。
よくよく見ると中央は凹んでいて革に似たような素材で出来ているのか知れないが柔らかく、馬鞍のように思えた。
仮にこれが馬鞍だとすれば二つの角のような突起は手綱になるのだろう、か?
思い切って乗っかってみる。
歌舞鬼の視界が90度傾き、瓦礫と『モノ』との挟み撃ちに遭い少しばかり痛かった。
「足ね、足で支えないと駄目だよな」
気を取り直して『モノ』の身体を起こし、今度はしっかり足で支える。
今度は倒れずに立つ事ができた。そのままの状態でいること数十秒。
『モノ』が動き出す気配は何一つ無かった。
「うーん?カラクリだと思ったんだが動かないのか?」
何かないかとキョロキョロと『モノ』の身体を見回していると何かの拍子で突然『モノ』が動き出した。
突然の動きに歌舞鬼は対応できず、後ろに放り出される。『モノ』はふらふらと走った後に派手に倒れこんだ。
歌舞鬼は倒れこんだ身体をむっくりと起こし、頭をポリポリと掻いた。
「俺には知らない事が多すぎるなぁ……だが、あれは上手く使えりゃ便利だ。間違いねぇ」
傷だらけになった『モノ』へと近づき、再びその身体を起こし乗り込む。
必ず乗りこなしてみせるという決意を胸に、歌舞鬼は再びこけたのであった。
* * *
数十分の格闘の末どうにかこうにか歌舞鬼は『モノ』……いや、『バイク』に乗れるようにはなっていた。
道を曲がる時等に派手にコケてしまう事もあり、ギリギリ運転できているという状態ではあったが。
代償として身体中に浅い傷ができたが歌舞鬼は満足だった。今までよりも速く移動できるというのはやはりありがたい。
あくまでそれは道路限定の話であり悪路や山道では今の歌舞鬼の運転技量を考えれば徒歩の方が間違いなく速く移動できる事には目をつぶる。
「さて、ぼちぼち行くか……あんま倒れたくねぇから一々現在位置確認する為に止まったりはしたくねぇな。まぁ、走ってりゃ誰かに会うだろ」
現在位置を確認し、E-6を目指して歌舞鬼はバイクに乗って走り出す。
眼前には市街地という名前の灰色の迷路が待ち受けていた……
* * *
彼の頭の中にはただ『追う』という事しか浮かばなかった。
木々の間を潜り抜け、土の地面がアスファルトに変わってもその走りは止まらなかった。
しかし周りが彼が未だ慣れぬ人工物で囲まれた所でようやく止まる。
肩を上下させ、荒い息を続けながら辺りを見渡す。ほんの少しでも手掛かりがあれば、と。
目に入るのは灰色やカーキ色、所によりベージュ。
耳に入るのは風の音くらいのもので怖いくらい静か。
鼻に入るのは……潮の匂いともう一つ、ここにきて何度か嗅いだ事のある臭い。
それが何なのかという所を彼は理解していないがその臭いを嗅ぐと心がざらついた。
その臭いに惹かれるように警戒しながら歩き出す。潮の匂いも強くなり、海が近い事が容易に想像できる。
何度目かの角を曲がった所で視界が開け、目の前に黄色の砂浜と青色の海が彼を出迎えた。
そして、黄色と青色の中に異様に目立つ赤い奴を見つけた時
彼は笑っていた。ここに他人がいたらそう思うだろう。それほどの顔をしていた。
息を大きく一つ吐き、手を大きく広げ、姿勢を低くする。
ぎらついた目で距離を測り、赤い奴の動きを冷静に観察する。
彼は獣ではあったが、我武者羅に突っ込むほど馬鹿ではなかった。
赤い奴はこちらに背を向けたままどういうわけか解らないが海を見つめていた。
こちらに振り返る様子は無い。
なら、行くべきだ。
既にこちらに気付いており罠を仕掛けているかもしれない。
ならば罠よりも速く動けばいいだけのこと。
覚悟はできた。あとは行動あるのみ。
息を少し吸い、再び大きく吐く。限界まで身体を縮め、飛び出す。
風が起こり、砂が舞う。彼は……アマゾンは駆け出した。ここで全ての決着をつけるため。
* * *
ゴルゴスはふらふらと移動しながらある物を探していた。
それは参加者の死体。もしくは非力な参加者。
ファイズとゼロノスによって刻まれた胸の一文字の傷がずきりと疼く。
この傷を治癒する為、体力の回復や空腹を満たす為にどんな代物でも良いから血が欲しいというのが本音だった。
「ちっ、死体の一つも落ちていないとは。ここは殺し合いの場のはずだというのに、腑抜けばかりか?」
ゴルゴスは知る由もないのだが参加者の遺体は灰や炭と化して原型を留めていなかったり、
カードに封印されたり埋葬されていたりと死体として表に出ない場合もある。野晒しの普通の死体はむしろ珍しい部類に入っていた。
そんな貴重な死体にもほんの少しの幸運があれば或いは出合えたかもしれないがゴルゴスにはその幸運が無かった。
「えぇい、キリがないわ」
ゴルゴスは市街地での死体探しを一時中断し、休息の取れそうな場所がなかったかどうか今までの記憶を辿り――海岸を選択する。
海岸ならば遮蔽物も無く、自分の力を100%発揮できるため仮に襲撃を受けても返り討ちにする事が可能だからだ。
砂浜に腰を……というか岩を下ろし、やる事もないので海を見つめる。
穏やかな海模様だった。波が微かな音を立てて砂浜を濡らしている。
空を見上げると太陽は丁度真上まで昇ってゴルゴスの身体を更に赤くしようとするかの如く照らしていた。
「昼、か――昼だと!?」
本来ならばあの耳障りな蒼女の声が聞こえてくる時間のはずだがその気配は未だに無い。
よくよく考えてみればどうも身体が軽い。自分の身体を調べてみてゴルゴスは確信する。
「デイパックを落とした……だと!?訳の分からんベルトについてはどうでもいい。
水や食料も俺様にとっては無用の代物。だが問題は、あの機械が入っていたという事だ!」
あの機械とはつまり携帯電話の事である。
影山が死神博士に説明していたようなしていなかったような曖昧な記憶があるがゴルゴス自身の認識としては小さなラジオ止まりだった。
だがそんな物でもこの場では重要な情報源だ。特に禁止エリアの情報が得られないのが痛い。
拳をわなわなと震わせ、どうするべきか考える。
「ふん、考える必要も無かったわ。無いなら奪うだけの事。お前の物は俺の物。俺の物は俺の物。
適当な奴から血を吸い上げるついでに奪い取ってくれるわ。ぐわぁはっはっは!」
そうと決まればあとは行動あるのみだ。いい加減海も見飽きたゴルゴスは再び市街地へ戻ろうと振り返る。
「うおっ!?」
眼前に突如として獣が現れたのには流石のゴルゴスもびびった。獣はそのままゴルゴスに飛びつき、首筋に噛み付いた。
能力を発揮していないせいか本来なら獣の牙など文字通り歯が立たないほどの強固な肌が傷つき、血が滲み出す。
「離せ!離さんか!このケダモノめ!」
獣の頭を両手で掴み、必死に離そうとする。獣は獣で離れまいと歯を立て爪を立て、必死に抵抗する。
バランスを崩したゴルゴスは倒れこみ、ゴロゴロと転がりだす。
砂浜の一部が整備され、水しぶきをあげはじめた所でようやく獣はゴルゴスから離れた。
ゴルゴスはこの時ようやく気付いたのだが相手は獣ではなかった。
「貴様は!?アマゾン!」
「ケケーッ!」
海水で濡れ、髪が垂れているため顔は見えない。だが髪の隙間から見える鋭い眼差し。
アマゾン以外有り得ない裸体。そして左腕でキラリと光るギギの腕輪。
間違いなくアマゾンその人であった。
「会いたかったぞアマゾンライダー!貴様を殺し、ギギの腕輪は俺様の物としてくれる!
残った血肉は俺様の腹の中に収めてやるわ、覚悟しろ!」
ゴルゴスの身体から溶岩のように熱い気迫が漲り、周りの空気がぐにゃりと曲がる。
異様な姿と発せられるプレッシャーは並の者ならすぐさま逃げ出すだろう。
だがアマゾンはそのプレッシャーに臆する事無くゴルゴスを睨みつける。
「ア~…」
両手を広げると身体の内から、ギギの腕輪から、アマゾンの身体に力が溢れ出す。
「マ~…」
両手を交差させ、溢れんばかりの力を凝縮させ……
「ゾーン!」
力を全て解き放ち、両目が真っ赤に光る。
解き放たれた力がまばゆい光となってアマゾンの身体を包み込み、その身体を変化させる。
肌の色は緑と赤のまだら色に変わり、
膨張した筋肉が盛り上がり、胸部を覆うような形に変化する。
頭部はオオトカゲを思わせる形に変わり、巨大な真っ赤な目と大きく開いた口から覗く牙がキラリと光る。
「ケァーーッ!」
奇声を発し、ゴルゴスに負けないほどのプレッシャーを放ちだす。
アマゾンライダーここにあり
この瞬間、アマゾンとゴルゴスの死闘が幕を開けた。
* * *
パシャ、パシャと水しぶきを上げながらアマゾンとゴルゴスはお互いに旋回しながら相手の出方を窺う。
アマゾンは時折腕を交差させ威嚇の音を発したりしている。
一方のゴルゴスはアマゾンから目を離さないようにしつつ、アマゾン対策を考えていた。
(アマゾンが人間体の時に見せた素早さは変身した後も健在、むしろパワーアップしているはず。
俺様の攻撃は威力は抜群だが当てるのは苦手だ。赤や緑、黄色のライダーを相手にして嫌というほど実感したわ。
とするとアマゾンにも同じように真正面から馬鹿正直に戦っては厳しい、か)
チラリと青く大きく広がる海のほうを確認する。岩などは無く波も無い。
ゴルゴスがにぃ、と嫌らしい笑みを浮かべる。
「くらえっ!」
様子見を続けていたゴルゴスは突然巨大岩の口から砲撃を開始した。
アマゾンは横に転がり回避しすぐに立ち上がる。が、ゴルゴスの姿が無い。
辺りを見回し、すぐに見つけることができた。
ゴルゴスは沖のほうへと移動しており、アマゾンがしばらく様子を見ているとゴルゴスが振り返り、叫んだ。
「アマゾンライダー!俺を恐れぬのならばここまで来い!来ないのならば貴様を腰抜けと見なす!
そんな腰抜け等相手にするだけ無駄だ、どこへでも逃げるがいいわ!」
ゴルゴスが挑発するが残念な事にアマゾンは今の言葉の1割も理解できていなかった。
だがゴルゴスが自分を呼んでいる、という事だけはなんとなく察した。さらにいえばここでゴルゴスを逃がす気などアマゾン自身無かった。
「ケケーッ!」
気合を入れ、バシャバシャと沖の方へと走り出し、海水が腰まで浸かろうかという所で飛び上がり、海へと潜り込んだ。
数秒の後に水面に浮かび上がり、両手足をフルに使い、海上で浮かぶゴルゴスへと泳いでいく。
ゴルゴスの狙いはまさにこれであった。アマゾンのスピードという武器を殺し、自分の攻撃を容易に当てられるようにする。
さらに海で浮かんだ状態でまともな攻撃など、ましてやゴルゴスは浮いているのだ。攻撃できるかどうかすら怪しいはず。
あとはアマゾンがこちらの誘いに乗ってくれるかどうかだけが問題だったがホイホイとついてきたのでゴルゴスは笑いを隠す事ができなかった。
ほとんどがゴルゴスの思い通りだったが一つだけ問題があった。
「アマゾンめ、思ったよりは速いではないか」
そう、アマゾンの海上での動きが思ったよりも速いのだ。だがあくまで思ったよりも、という程度の事だ。
真っ直ぐと向かってくるアマゾンに対して悠々と狙いを定め――
「さらばだアマゾン!」
砲撃をこれでもかとばかりに撃ち込んだ。
水柱があちこちに立ち上がり、静かな海を騒然とさせる。
流石にこれだけでアマゾンがやられるとはゴルゴスも思っていないがダメージは受けたはずと判断し、様子を見るため砲撃を中止する。
「むぅ?」
水しぶきがおさまり再び静かな海に戻りつつある中……どこにもアマゾンの姿は無かった。
まさか今の一撃で仕留めてしまい海中へと沈んでしまったのだろうか?と不安になる。
アマゾンの左腕にあるギギの腕輪が回収できないでは倒す意味が微塵も無くなってしまう為だ。
潜って確認すべきだろうかとゴルゴスは悩んでいた刹那
「ケケーッ!」
海を破るように飛び上がってきたアマゾンが右手で一振り、ゴルゴスの巨大岩を斬り付けた。
「ガハッ!き、貴様!」
反撃しようとするゴルゴスを無視し、一撃を与えたアマゾンは再び海へと潜り込む。
ゴルゴスがキョロキョロと辺りを見渡すが海には既に静寂が戻っており、アマゾンの気配は微塵も感じられない。
「どこだ!出て来い!」
苛立ちの声を上げるがその声は虚しく響くだけ……に終わらなかった。
その声に答えるようにゴルゴスの背後で水しぶきがあがる。
「そこかっ!」
素早く振り返り、水しぶきがあがった場所に撃ち込む。
その攻撃が捉えた物はアマゾンではなく小さな小石で、砲撃を受けた小石は粉々に砕け散った。
陽動だと気付いた時にはもう遅く、先ほどよりも大きな水しぶきがゴルゴスの背後であがり、背中に焼けるような痛みが走った。
振り向く前に再びアマゾンが水に潜る音が響き、静かな海が蘇る。
ここにきてゴルゴスは自分の作戦が過ちだった事に気付く。
自分が思っていたのとは反対にアマゾンは海中からでも問題なくこちらに反撃ができ、不意打ちを食らう分明らかに自分の方が不利だった。
さらに完全に潜られてしまうと砲撃も届かない。デメリットばかりだった。
「ちぃ……だが、貴様が攻撃できるのも俺が海上スレスレを飛んでいるからできる事よ」
ゴルゴスは砲撃による攻撃を諦め、高度をあげ海から徐々に距離をとる。
ある程度の所で停止し、海上をじっと見つめる。
「アマゾンライダー……貴様はモグラ叩きは好きかな?」
* * *
口の端から小さな泡を一つ吐き……ゆっくりと海中を泳ぎながらアマゾンは海上を見つめていた。
何度か攻撃を仕掛けたがどれもゴルゴスに致命傷に至る傷は与えてはいない。
だが次の攻撃には全力を使うつもりでいた。既に海に慣れつつあり、ゴルゴスの動きからイケルと判断した為である。
だが肝心のゴルゴスの姿が、見えない。
今までは海上スレスレを浮かぶゴルゴスが波間から見えたのだが今は歪んだ太陽と濃い青をした空しか見えなかった。
耐え切れなくなったアマゾンは海中から浮かび上がり、海上に顔を出し辺りを見渡した。
四方を見渡し、それから空を見上げる。海中からではわからなかったが太陽の一部が黒くなっていた。
太陽の眩しさに目を細めていると徐々に黒が大きくなっていく。
「!」
黒い物はゴルゴスであった。ゴルゴスが自分目掛けて落下してくる。
アマゾンは回避しようとするが気付くのが遅過ぎた。
「沈めぇぇーーっ!」
ゴルゴスの巨体を生かしたのしかかり攻撃がアマゾンに直撃し、そのまま沈み込む。
海中深くゴルゴスとアマゾンは潜っていく。
勢いに耐え切れずアマゾンの口から大きな泡が吐き出された。
(このまま海の底に叩き付けてくれるわ!)
ゴルゴスの勢いが衰える事は無く、このままでいけばアマゾンがぺしゃんこになるのは間違いなかった。
このままでいけば、であるが。
アマゾンの目がキラリと光り、されるがままだったゴルゴスの岩の底に手を当て、勢いから逃れようともがき出す。
(無駄な足掻きよ!)
だが、無駄ではなかった。海底へと激突する寸前にアマゾンは体勢を立て直し、即座に押し潰される事は無かった。
だが両手でゴルゴスを受け止め、両足は海底に少し沈みつつありすぐには身動きが取れない状況であった。
(ふん、まともに呼吸ができないのだ。いずれは力尽きるわ!)
これが他の参加者ならばゴルゴスの思い通りになったのだろう。だがゴルゴスにとって不運な事に相手はアマゾン。
アマゾンは――
(ケケーッ!)
えら呼吸ができる為、海中でも問題なく酸素を取り入れることが可能なのだ。
気力を取り戻し、半ば強引にゴルゴスを投げ飛ばす。
(ちぃ、これ以上海中にいると俺様の方がまいってしまうわ!)
起き上がったゴルゴスはそのまま浮上を開始する。
海中ではまともな攻撃手段がないうえにゴルゴスにはえら呼吸なんてものも備わっていないのだから。
当然浮上に集中している無防備なその姿は格好の標的となる。
(ケケーッ!)
ゴルゴスの周りを鮫のように泳ぎながら手足のヒレを用いて攻撃を加えていく。
組み付いて噛み付こうともするが抵抗にあい、なかなか上手く行かない。
だが海中での切り裂きの連続は決して無駄にはならず、ゴルゴスの身体のあちこちから赤い煙幕のように血が流れ出してきていた。
* * *
「ぶはぁっ!」
海からあがったゴルゴスが一気に酸素を取り込む。
海面を見ればすぐそこまでアマゾンが迫ってきていた。
(思った以上の深手を……ともかくここで戦うのはまずい!)
全速力で逃げるように、砂浜目掛けて飛行するゴルゴス。
一足遅く浮かび上がったアマゾンはすぐさま追跡を開始する。
下手な色気を出さずに全力で飛行したのが幸いしたのかアマゾンからの追撃は一回もなかった。
泳ぐのが困難なほどの浅瀬までくるとゴルゴスが立ち止まり、振り返る。
立ち上がったアマゾンが視線を受け、睨み返す。
ゴルゴスは全身傷だらけで所々から血は今も流れ出しており体力もかなり消耗している。
片やアマゾンの方も無傷とは言わないがそれでも傷らしい傷もなく体力は未だに健在。
今現在両者の優劣は誰が見ても明らかであった
アマゾンがゆっくりと右手を振りかぶり、背中のヒレがわなわなと動き出す。
ゴルゴスは両手をゆっくりとかき混ぜるように動かす。ゴルゴスの両目が妖しく光り始める。
「ケケーッ「ブラック・オン・ゴォォルド!」」
アマゾンが飛び掛る寸前にゴルゴスが叫び、次いで辺り一面が暗闇に覆われる。
目標を見失ったアマゾンの右手が虚しく振り下ろされた。
「…ッ!」
足元に海水の冷たさは感じる。潮の匂いや風の音も確かに感じる。
だが暗闇。足元も上も四方も全てが暗闇。唯一自分自身だけは暗闇に溶け込んではいなかった。
未知の体験にアマゾンは戸惑い、うろうろと歩き回る。
ゴルゴスの臭いは感じるのだが今までに流された血の臭いが邪魔で位置を特定することができずにいた。
そうしてしばらくしていると不意に、暗闇に光りが差し始めた。燃える炎の明るさが。
「!?」
本能的にアマゾンは何かがおかしいことを悟る。そう、海が燃えているのだ。近くに近づけば熱く、これが幻でない事を裏付けている。
炎は次々とあがり、やがて巨大な円となってアマゾンの周りを囲い込んだ。
炎に慣れていないアマゾンはなるべく距離を取ろうと円の中心から動かない、動けない。
そうしているうちに急激に足元が熱くなり、アマゾンはその場を離れる。
だがそこには炎は無く代わりに白い泡が浮かんでいた。
恐らく白い泡は海面を漂うように浮かんでいるのだろう。だがこの泡の意味は?
恐る恐る泡に触れた指先が熱くなり、すぐさま海水で洗い流す。
泡に触れた指先が焼けただれ、酷い痛みがアマゾンを襲う。
白い泡は徐々にその数を増やし、アマゾンの足元まで漂ってくる。
「ッ!」
触れてしまった足首がじゅうっと嫌な音をあげた。
アマゾンを囲う炎は未だ健在でありアマゾンを襲う白い泡はどんどん増えていき、ついにアマゾンの逃げ場は失われた。
「ア…ガッ…グッ…ッ!」
両足が白い泡に溶かされていくのを感じるが倒れる事は決してできない。
倒れてしまえば一巻の終わりなのだから。
周りは炎に囲まれ、飛び越えるのも困難なほど厚い層を形成しつつある。
水の中に潜ろうにもここは浅瀬であり身体を完全に沈めることなど不可能。
アマゾンはなんとかゴルゴスの位置を探らんと必死に考える。両足が使い物にならなくなるまで時間が無い。
* * *
ゴルゴスは燃える液体と人体を溶かす白い泡を次々と放出しつつアマゾンの出方を暗闇の一角で静かに窺っていた。
(咄嗟に思いついた割にはいい攻撃だなこれは……炎の円を形成できたのがやはり大きいな。
しかしアマゾンめ、しぶとい奴だ。必殺の攻撃をしてくるのは間違いない、だがその為にこちらの位置をどうやって探る?)
ゴルゴスは自分からは動かない。自分から動けばファイズ&ザビー戦の時のように思わぬ反撃を食らう事は学んでいるのだ。同じへまはしない。
そうやっている内についにアマゾンが膝をついた。倒れこむのを防ぐ為か咄嗟に左手をついてしまう。
「アグゥッ!」
新たな部分が溶ける痛みにアマゾンが悲痛な声をあげる。だがゴルゴスは白い泡を作り続けた。
(どうやら俺様の勝ちのようだな、アマゾン。貴様の全身が溶けるのを見届けてから俺様はゆっくり貴様のギギの腕輪を奪わせてもらうぞ……)
勝ちを確信しながらも、それでもゴルゴスは警戒心を解いてはいなかった。
何故なら両足、左手を溶かされかけても尚アマゾンの目は鋭く光っていたのだから。
「ケケーッ!」
アマゾンが驚異的な脚力で飛び上がる。その勢いから死力を尽くした最後の攻撃だという事は明らかだった。
(ここだ!ここでアマゾンの攻撃を退ければ俺様の勝ちだ!)
ゴルゴスが白い泡の放出をやめ、身構える。
飛び上がったアマゾンは両手足を広げ空中でヘリコプターのように回転を始めた。
その勢いでアマゾンの左手、両足に付着していた白い泡は四方八方に弾き飛ばされていく。
飛ばされた一部の泡がゴルゴスの身体にかかり、赤い肌を溶かした。
だがゴルゴスは歯を食いしばり、呻き声一つあげることなくその痛みに耐えたのだ。
(ふん今更傷の一つや二つで声などあげんわ!当てが外れたなアマゾンライダー!)
耐え切ったゴルゴスがアマゾンを見ると、目が合った。
いや、アマゾンには暗闇にしか見えないのだから目が合うという表現もおかしいのかもしれないが。
(何故位置がわかった!?……そうか、俺様に当たらなかった泡はそのまま下に落下するのみ。
だが俺様に当たった泡は奴から見れば空中に固定されたように見えたはず!それを目印にしたのか!
或いは肌が溶ける音を察知したのか……どちらにせよ、俺様の位置がわかったなら奴がする事は一つだ!)
「ケケーッ!」
アマゾンがゴルゴスの元へと飛び掛る。だがその動きはあまりにも直線的すぎた。
「馬鹿が!狙ってくださいと言ってる様なものよ!」
岩石の口からの砲撃がアマゾンを直撃し、アマゾンの勢いは殺され、ゆっくりと炎の輪の中へと落下しはじめた。
「勝ったっ!!!!」
勝利宣言をするゴルゴスの左腕に何かが撒き付く。
唯一無傷なアマゾンの右手にはロープに変化したコンドラーが握られ、その先端がゴルゴスの左腕に撒きついたのだ。
そのままブランコのように回転し、再びアマゾンは飛び上がった。ゴルゴスよりも、高く。
右手を振り上げ、背中のヒレが激しく動き出す。
「ケケケーーッ!!」
ゴルゴスは逃れようとしたが、一瞬の油断からその時間を失う。
振り下ろされたアマゾンの右腕が肩ごと自分の右腕を切断する瞬間をゴルゴスは見ているだけしかできなかった。
渾身の大切断が決まり、こうしてアマゾンとゴルゴスの決着はついたのであった。
* * *
飛沫をあげてアマゾンが着地し、そのまま崩れるように膝をつく。両足と左手の傷に海水や砂が触れるが痛みは感じなかった。
次いでガガの腕輪をつけたままのゴルゴスの右腕が浅瀬に沈む。
ゴルゴス自身は未だ飛行していたが右半身からの出血はもとよりガガの腕輪を失った事であと少しの命という状態であった。
「見事だアマゾン……そう言うしかあるまいな……ガハッ」
顔面岩の顔が次々と彫刻へと変わっていき、ゴルゴスの力が失いつつある事を現していた。
「だが、貴様もその傷だ……長くは、あるまい……グフッ、ぐわっはっは!!」
高笑いと共にゴルゴスが高度をあげ、空へと昇っていく。
「残念だったな!アマゾンライダー!俺様をここまで追い詰めたのは確かに貴様だ!だが俺様の命を消すのは貴様でも!」
制限の影響なのだろうかゴルゴスの首輪から甲高い音が発せられる。だがそれも予想の範囲内だったのかゴルゴスは自分の首輪に指を差す。
「ましてや訳の分からん者どもでもない!」
膝をついたアマゾンはただじっと空へと昇るゴルゴスを見つめていた。
「この俺様自身だ!俺様だけが!俺様の命を自由に扱える!貴様は最後の最後でツメを誤ったのだ、アマゾン!ぐわっはっはっは!!!」
ゴルゴスの身体が淡く光りだす。首輪の音の間隔は少しずつ短くなってきていた。
「見よ!アマゾンライダー!これが俺の最後だーーっ!!!」
叫びと共にゴルゴスの身体が爆発四散し、海一面に赤い肉片がボチャボチャと音を立てて沈んでいった。
はっきり言えばただの強がりである。間違いなくアマゾンはゴルゴスに勝利したのだ。
おまけにアマゾンは言葉がわからない。故にゴルゴスの最期の言葉も解らない。
だがそれでも、アマゾンの心の中には言い知れぬ悔しさが広がったのだった。
&color(red){【十面鬼ゴルゴス@仮面ライダーアマゾン:死亡確認】}
&color(red){【残り35人】}
* * *
変身を解いたアマゾンは沈んでいたガガの腕輪をゴルゴスの腕ごと回収し、引き摺る。
左手両足は変身を解いた途端に激痛に見舞われた。皮膚は溶け、足に至っては白い物が見えている。
それでもゆっくりととはいえ歩けるのはアマゾンの身体能力や治癒能力の高さの賜物だろう。
アマゾンの頭の中は空っぽだった。ただひたすらに休みたかった。
休んで、それから……
ここにきてようやくアマゾンは歌舞鬼に二人の少年の護衛を任せられていたことを思い出す。
流石のアマゾンも悪い事をした、というのは理解できた。まずは休み、それから謝りに行こう。そう結論付けた。
パチ パチ パチ パチ
何かの音に引かれ、アマゾンはゆっくりと顔をあげた。
『人』がいた。
黒いスーツに身を包み、胸と肩には茶色の鎧。肩からは金色の角のようなものが二つずつ生えている。
右膝には何かの動物を模したような飾り。
そしてなにより、表情の窺い知れぬ銀の面の左右には黄金の角が生えていた。
これはむしろ、『鬼』
『鬼』がいた。
『鬼』がアマゾンの健闘を称えるかのように拍手をしていたのだ。
アマゾンは何がなんだかわからずただ『鬼』を見つめていた。
『鬼』は拍手をやめ、じっとアマゾンを見つめた。
お互いの目と目が合っていたが、お互いに相手の考える事等解りようも無かった。
『鬼』が一度空を見やり、それから腰のベルトから何かカードの様な物を引き抜いた。
右膝をゆっくりとあげ、カードを動物の顔へと差し込む。
――SPIN VENT――
どこからともなく――巨大な角とも槍ともドリルとも思えるような――武器、ガゼルスタッブが飛来し『鬼』の右腕に装着される。
ここにきてようやくアマゾンは敵だと認識し、全身に力を入れる。
「アー……マー……ゾーンッ!」
だが身体は変わらない、信じられないといった表情でアマゾンが自分の身体を見つめる。
『鬼』は軽く首を振り……アマゾン目掛けて駆け出した。
アマゾンが立ち向かおうとするが両足の踏ん張りも利かず左手もまともに動かせず、できることはただ相手が迫るのを見つめるだけだった。
ガゼルスタッブの先端がアマゾンの胸に触れた所でピタリと止まる。
アマゾンは顔を上げ、『鬼』を睨みつける。
『鬼』がしばらくそうしていたが不意に――
「もう、やすめ」
そう呟き、ガゼルスタッブがアマゾンの身体を貫いた。
口から血が溢れ出し、アマゾンが唯一まともな右腕で『鬼』の面をゆっくりと、あがくように引っ掻いたがそれまでだった。
遂に右腕も垂れ下がり、アマゾンの眼も閉じられていく。
密林の王者は敵対する十面鬼が眠る海辺で、両足と左手を溶かされ、胸に大きな穴を二つ開けて、心も頭も空っぽな状態で殺された。
&color(red){【山本大介@仮面ライダーアマゾン:死亡確認】}
&color(red){【残り34人】}
* * *
まだまだ不慣れな運転に加え土地勘もまったくないせいか歌舞鬼は目指すべき方向とは真逆の方向へと進んでしまっていた。
それに気付いたのも潮の匂いに気付いてからというのだから人間不慣れな事は極力しないに限るものである。
だがある意味この瞬間に海に着いたのは幸運であり不運であった。
歌舞鬼が辿り付いたのは、ゴルゴスが水中から襲うアマゾンに苦戦している時だった。
戦っているのがアマゾンだと理解した瞬間に加勢に向かいそうになったが歌舞鬼はグッとこらえた。
これはチャンスだと、頭がそう判断した。歌舞鬼の中で迷いが生じるがそうこうしているうちに戦いの舞台は海中へと移っていった。
その間に歌舞鬼はバイクと共に身を隠し、決着を見守る事にした。アマゾンが勝てば見逃そう、赤いのが勝てば殺そう。この時はそう考えていた。
そしてゴルゴスが姿を現し、次いでアマゾンが姿を現す。この時ゴルゴスの身体は傷だらけでアマゾンの勝ちは揺るがない、はずだった。
だがゴルゴスの能力なのだろうか突如として一部分が暗闇に覆われたのだ。その空間だけポツンと黒くなった。
そしてその空間が破られたとき、決着はついていた。
ゴルゴスの右肩から先は無く、血も滝のように流れていた。
だが勝利の代償は大きく、アマゾンの両足左手は溶けて骨さえ露出していた。動ける事自体恐ろしいほどの傷だ。
そうしてゴルゴスは最期には自爆した。最後の最後まで嫌な奴という印象しか覚えなかった。
疲弊しきったアマゾンは何故かゴルゴスの右手を回収し、ゆっくりと歩き始めた。
「もう、いいだろ……」
もはや見てられなかった。仮に、このまま見逃した所で先は見えている。
(海堂の時もそうだったな……)
歌舞鬼は鬼に変身しようするが途中で止め、インペラーのデッキに持ち替えた。
(アマゾンは俺の事を、多分まだ信用してる。最後の最後で俺に裏切られたなんて後味があまりにも悪すぎる、だろ)
インペラーのデッキをバイクのサイドミラーに掲げる。説明書通り、銀色のバックルが腰に装着された。
「変身……」
デッキを差込、虚像が重なり合って変身が完了する。
(アマゾン、お前は何も解らなくていい。解らないままここで死ぬのが、お前の幸せなんだ)
歌舞鬼は『鬼』となり、アマゾンの前に立ちはだかった。
* * *
変身を解いた歌舞鬼は倒れこんだアマゾンの遺体を砂浜に仰向けで寝かせた。
近くに転がっていたゴルゴスの右腕。その右腕につけられた腕輪がアマゾンが左腕につけられた腕輪と形が似ていることに気付き、なんとなく悟った。
「大事な物、だったんだな。よかったな、取り戻せて」
ガガの腕輪をアマゾンの遺体の上に乗せ、手を合わせた。
しばしの黙祷の後に立ち上がり、歌舞鬼は海岸を後にする。
バイクにまたがり今度こそE-6を目指すため歌舞鬼は再び走り始めた。
誰に聞かせるでもなく、歌舞鬼は呟く。
「京介や晴彦も……つらい思いをしてるのか?苦しいのか?痛いのか?」
歌舞鬼を乗せたバイクは走る。
「なら俺に頼れ。俺が、楽に殺してやる」
歪み始めた愛情はどこへ向かうか
**状態表
【歌舞鬼@劇場版仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:日中】
【現在地:G-6北部】
[時間軸]:響鬼との一騎打ちに破れヒトツミに食われた後
[状態]:健康 、バイク搭乗中、二時間変身不可能(インペラー)
[装備]:変身音叉・音角、音撃棒・烈翠
[道具]:基本支給品×3(ペットボトル1本捨て)、歌舞鬼専用地図、音撃三角・烈節@響鬼、GK―06ユニコーン@アギト、ルール説明の紙芝居、インペラーのカードデッキ@龍騎、KAWASAKI ZZR250
【思考・状況】
基本行動方針:優勝し、元の世界に戻って魔化魍と闘う。そして最後は……
1:桐矢、三田村がつらい思いをしているならば楽にしてやりたい
2:E-6は人が集まるはず。まずは情報収集
3:北崎はいつか倒す。
【備考】
※カードデッキの使い方は大体覚えました。
※E-6を目指してバイク搭乗中ですが運転に不慣れの為目指すべき場所までたどり着けない可能性があります
※何処へ向かうかは次の書き手さんにお任せします。
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