キックの鬼

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キックの鬼



駅ホームから立ち上がる煙を背に風見は歩く。その後ろを加賀美が追う。
二人の間に会話は無く、カツカツと歩く音だけが流れていく。
お互い会話をまったくしたくない、というわけではない。
加賀美は風見の気がほんの少しでも変われば、そう思えば言葉を交わしたい。
言葉だけで変わるとは思えないが、それでもやれる事はやりたかった。だが切っ掛けが無い。
風見は加賀美の持つ知りえる情報はできれば手に入れたい。多すぎて困るという事はないのだから。
だが下手な言葉を交わせば情が湧くのは間違いない。情報だけ手に入るような、そんな切っ掛けが欲しい。

それでも尚、会話が無いのはお互いが会話を切望してはいないからだ。
加賀美は会話が無くとも行動して示すつもりだし風見も情報が手に入らなくとも構わないと考えていた。
結果的に男二人は無言で歩く。風見が先を行き、加賀美がその後を追って…
駅から抜け、辺りに密集する建物の路地裏へと風見は入っていく。

「…なんだこれ」

後を追って路地裏に入り込んだ加賀美が目にした赤い、何か。

「見て分かりませんか?これは…」

加賀美の疑問に答えるように風見は赤い何かをチラッと見てから振り向き…

「バイクです」
「これがバイクかよ…」

トカゲか何かを模したボディに大きな翼。そして全身を包む朱色。二つのタイヤがかろうじてバイクという事を証明している。
風見は駅襲撃の際に赤きバイク、ジャングラーを路地裏に隠していた。
キーを差し込み、捻る。主の帰還を祝うかのようにジャングラーの緑の目がボウッと光る。
路地裏から抜け、さっそくジャングラーに跨ろうとする風見を加賀美が制する。

「なんのつもりですか?」
「俺には足がない。バイクで逃げられたら俺には追う手段がないからな…」

キッと睨んでいた風見は明らかに嫌味な笑顔で――

「後ろに乗ればいいじゃないですか」

それに対し加賀美は巨大なリアウイングを指差し――

「乗れると思うか?乗れると!」

ムッとした表情のまま加賀美は右ハンドルを掴む。
風見は肩をすくめ、左ハンドルを掴み、ジャングラーを二人で押す形で歩き出す。

「案外できるんじゃないですか?」
「…風間が強引に逃げるつもりなら俺も強引に乗り込むだろうけどな」

はぁ、と軽いため息が一つ漏れる。

「…馬鹿ですね」
「あぁ、俺は馬鹿だ」

ゆっくりとした動きでジャングラーは動いていく。

          *   *   *

再び会話が途切れるがそれもほんのつかの間の事。

「しかし、変わったバイクだよな。マシンゼクトロンっぽい面影はあるけど…」

少なくとも無視される事はないと踏んだ加賀美はジャングラーを手掛かりに言葉を続ける。
決して無駄な行為では無いと自分に言い聞かせながら。
しかし風見は特に反応する事も無く黙々と歩くのみ。
それに気分を悪くしている場合ではない、ここで再び途切れてしまうと次にいつチャンスが訪れるか、そもそも次があるかどうかも怪しい。

「パッと見だとバイクっていうよりは大きなゼクターだよな、これ」
「…ゼクター?」

風見がようやく加賀美へと顔を向ける。先ほどのマシンゼクトロンは話し方からバイクだろう、ではゼクターとは?そんな好奇心で。

「あぁ。まぁ何ゼクターかって聞かれたら答えづらいけど…」

無言で風見は話を聞くがゼクターの謎は解けない。ゼクターとは何だ?まぁ知らなくても問題はなさそうだが。
ゼクター…と風見が小声で呟くとカションカションと独特の音を鳴らして機械のバッタがどこからか現れ、風見の肩に乗り移る。
どういうわけかわからないが力となってくれているこのバッタ。このバッタがもしや加賀美の言うゼクターなのだろうか?

風見がホッパーゼクターを見つめゼクター、と呟くとホッパーゼクターはそれに答えるかのようにカションと音を鳴らした。

「風間…そのゼクターは何だ?ドレイクゼクターはどうしたんだよ?」

加賀美が驚きの表情で風見を見つめる。
どうやら『風間』はドレイクゼクターという物を使うらしい、とりあえずは風見は話を合わせる。

「ドレイクゼクターは何故かありませんでした。代わりに支給されたのがこの…」

とりあえず加賀美はこのゼクターの事を知らないらしい、とすれば仮に名前が違っていても問題はないはず。
バッタ、そのイメージで思い浮かぶ名前は一つしかない。

「ホッパーゼクターです」

ホッパー。本郷猛、一文字隼人…そして自分。バッタをモチーフにした改造人間達の総称。
同じバッタの姿をしたこの機械にホッパーの名を付けるのは悪い気分ではない。
ホッパーゼクターもその名を気に入ったのか肩の上で跳ねている。

「しかし、何だって風間には支給しなかったんだ?俺にはちゃんと支給されていたのに」
「…貴方には支給されたのですか?貴方のゼクターが」

加賀美がゼクターを使う保障はないが、今までの流れから考えれば使うと判断するのが妥当だろう。
仮に違っていてもどうとでも誤魔化せる。

「あぁ、ガタックゼクターがちゃんと支給された。にしても、妙だよな。なんで風間にだけ」
「他の参加者に支給されていればいいのですが…」
「仮に他の参加者に支給したとしても、意味があるのか?」

歩みを止め、お互いに見合わせる。

「他の参加者に支給しても、無意味と言いたいのですか?」
「だってそうだろ?ゼクターに選ばれない限り変身する事はできないんだ。それに風間がこうして目の前にいるって事は
 仮にドレイクゼクターが他の参加者に支給されたとしても選ばれる事はまず、ないと思う」
「…つまり例外があるのですか?」
「あぁ、ゼクターが見限って、別の資格者を選ぶ可能性はある」

現にザビーゼクターは矢車、自分、影山と転々と移っていった。他のゼクターにも当てはまるのか確証はないが可能性はあるだろう。

(お前も…俺以外を選んだりするのか?)

加賀美はそっとベルトに触れ、心の中でガタックゼクターに問いかける。
その声が聞こえたのだろうか?ガタックゼクターが空から飛来し、加賀美の肩に止まる。
ガチガチとハサミを開閉する仕草は何かを語りかけているようにも見えた。

風見は加賀美の肩に止まるガタックゼクターと腰に巻かれた銀のベルトを交互に見る。

(ゼクターは多少条件があるが、誰でも使えるというわけか…)

奪う事ができればもしかしたら自分にも使うことができるかもしれない、そう考えて。
しかし今の自分の状態はお世辞にも良いとは言えない。ナノマシンが身体の修復を進めてはいるがその動きは異状に遅い。
それになにより、加賀美に手を掛ける時は決着を付ける時だ。今はどう考えてもその時では無い――

ふと何かが気になり加賀美のベルトを凝視する。細部は違うがほぼ同じ物をほんの少し前に見た、気がする。
ロータリーで対峙した…あの少年のベルトだ。そういえばカブト虫のような物を用いて変身していた。
あれもやはりゼクターの一種なのだろうか?確認してみるのも悪くはないかもしれない。

「そういえば…先ほどカブトを見ましたね」
「…嘘だろ?」
「嘘、とは?」

風見が加賀美の顔を見ると…驚いてますと張り紙を張るよりも判りやすい驚きの表情を浮かべていた。

「だって、天道は…死んだって…」
「そういえば、そうでしたね」

風見は天道の事等知りはしない。だが今は話に付き合って、悲しい顔を浮かべてやる。
加賀美の方を見て見ると必死に何かを考えているようだった。

「どうしたんですか?」
「カブトはいる、天道は死んでいる。誰でも変身できるよう細工されて、天道にはカブトゼクターが支給されなかった?
 それとも、天道は実は生きているとか?」
「天道が負け、カブトゼクターを誰かに奪われた…そう考えるのが一番自然だとは思いますが?」

首を横に振り加賀美は風見の言葉を否定する。

「天道が、カブトが負けるなんて考えられない。それこそカブトゼクターが支給されなかったとか…
 或いは突然不意打ちを…いや、それもヒョイって避けそうだよな、あいつは」
「そんなに天道はすごかったのですか?」

今度は力強く縦に振り肯定する。風見の小さなため息を皮切りに加賀美は語りだす。

「あいつは悔しいけどすごい奴だ。何でも全部自分の思い通りになるって考えてて、実際そうなって、というかそうさせる奴で。
 正直天道が死んだなんて信じられないし、風間が見たカブトが実は天道なんじゃって、そんな考えさえ浮かんじまうくらい…」

でも天道は死んだ、と風見は心の中で呟く。あくまで想像だが、天道は見せしめに近い方法で殺されたのではないか?
天道を知る者に、これ以上は無いと思えるほどの絶望の種を植えるために。
もしも仮に天道が本当は生きていながら死んだと放送されたならば、それはつまるところ天道は主催者に早々にして勝ったと言えるだろう。
そんな危険な人物を参加させるだろうか?有り得る筈は無い。天道は主催者に勝ることは決して無く、どのような形であれ負けたのだ。
放送で嘘を吐く必要も無いだろう。全てが真実であり、そうでなければ…戦う意味が無い。
例えどこまで疑惑に溢れようとも、それが真実と妄信し優勝する。それが自分がちはるにできる、唯一の事なのだから。

そう、全てが真実で…放送も全てが真実、それなら…

――間違っても首輪を外してあげよう、なんて考えちゃ……だめですよ――

何故放送であのような事を言うのか?調べられたらまずいのか?外そうと思えば、外せるのか?この首輪は。
いや、既にいるのだ。外そうと考える参加者が、この戦いから脱出する為の第一歩を踏み出そうとする者が。
そうでなければわざわざ放送で首輪の事を話したりはしないはず。
もしも脱出者が出た場合…この戦いはどうなるのだ?逃げ出しちゃった人はいますが気にせず頑張りましょう、とでもなるのか?
続行か、中断か?その時になってみなければ分からない事だ。だが、もしも優勝の保障がされなくなった場合、自分は…ただの道化だ。
その可能性がほんの少しでもあるのならば…少しでも不安を感じるなら――

「風間、何をするつもりだ!」

風見はジャングラーに跨り、右ハンドルを握る加賀美の手をどかそうと力を入れる。

「放しなさい」
「どうしたんだ急に!訳を言え!」
「訳を言った所で放すつもりはないのでしょう?素直に放さないのであれば…」

デイパックから取り出されたデンガッシャーを加賀美の首筋に当てる。
つーっと垂れる血が加賀美の思考を加速させていく。
どういう訳か見当もつかないが風間は何か焦るようにどこかを目指そうとしている。
その先に待つのは間違いなく、戦い。なんとしても止めなくてはならない。
バイクをあえて解放し、ガタックに変身して力ずくで押さえつける、これが一番確実かもしれない。
だが制限があるらしいこの状況下で簡単に変身していくのはまずいという予感がある。何か別の手段は…

悩む加賀美の耳にガタンゴトンと聞きなれた音が聞こえてくる。
その音の正体にすぐにピンとくる――

「そうだ、どこかに向かうっていうなら電車を利用するのはどうだ?
 風間だって多少なりとも疲れてるんだろう?バイクだと常に周りに気を配りながらでないと移動はできない!
 その点電車での移動なら休みながら確実に移動できるはずだ!」
「結局の所、あなたが私から離れたくないからでしょう?」
「あぁそうだよ!悪いか!お前が戦うっていうなら、俺は絶対に止めてみせる!」

しばらく睨み合いが続いたが、やがて風見の方が折れジャングラーから降りる。

「…止められませんよ、あなたには」

そんな言葉を呟いて、風見は加賀美と共に駅へと引き返していく――

          *   *   *

「いや、風間さ」

駅内部に戻り、デネブの眠る場所をなんとも言えぬ表情で通り過ぎ、ホームで電車を待って数十分。
ようやく来た電車に乗り込む加賀美と風間と、ジャングラー。

「…何か?」
「…何でも無い」

貴重な移動手段なのだから手放すわけにはいかないのはわかるが、電車の中にバイクというのは違和感丸出しだ。
ジャングラーを固定させると風見は手すりに寄りかかり、じっと目をつぶる。
加賀美も風見とさほど離れていない座席に腰を下ろし、一息つく。
簡素なメロディーが流れ終わるとドアが閉まり、電車はゆっくりと動き出す。
二人が乗り込んだのは大学方面へと北上していく路線。
加賀美はてっきり人が集まりそうなショッピングセンターを目指すものと考えていたからこれには面食らった。

(風間の奴…何考えてるんだ?)

目を閉じ、電車の揺れに身を任せる風見の顔からは何もわからない。
やはり何か間違えてしまったのではないか、強引にでもやはり止めるべきだったのでは?
顔を落とす加賀美の目にふと、ジャングラーが目に入る。

(鍵、差しっぱなしじゃないか…)

再び風見の顔を見る。じっと目をつむるその姿は寝ているようにも見える。

(悪く思うなよ…)

音を立てないようにゆっくりと立ち上がり、差し込まれたままの鍵を引き抜き、懐に仕舞いこむ。
これで少なくともジャングラーを自由に扱う事はできないはずだ。罪悪感が加賀美を襲うが、手段は選んでいられない。
風見は気付く様子も無く目をつぶったままだ。

(で、結局風間はどこに向かうつもりなんだ?)

座り込んだ加賀美はこの電車の行く先をぼんやりと案じていた――

         *   *   *

バダーは畦道を走らせながら唇をゆがませる。
さきほどの男といいこのバイクの元々の持ち主といい…獲物に対して困る事はなさそうだ。
そしてその獲物はどれも、強い。一筋縄ではいかない相手なだけに轢き殺せた時の快感は想像するだけで身震いする。
他にはいないのか?他の獲物は。もっともっとと子供が親にせがむ様に、純粋にバダーは獲物を求めてバイクを走らせる。

ある程度走らせると整備された道路が目に入る。道路に進入していくと徐々にハリケーンが本来の速度を取り戻していく。
自由に走り回るハリケーン。自分の愛用のバイクであるバギブソンとは違う新鮮さがそこにはあった。
道沿いにずっと進んでいくと少しずつ人工的な建物が増え、施設が近い事を悟る。
少し速度を落とし、地図を確認しながら進んでいく。途中で男の死体を見かけたがデイパックも近くになさそうなので大した価値は無いと判断し、先を進む。
しばらく走らせると目的の場所を探し当てる事ができた。やれる内にやっておくべきなのだ、こういうことは。
コインをピンと弾きながら、バダーはハリケーンに給油する。少しずつハリケーンに生気が戻っていく、そんな錯覚さえ覚えてしまう。

給油を終え、次の行き先を考えていたバダーに僅かながら聞こえる駆動音。

「でんしゃ、か」

ハリケーンに跨り、駅へと走り出す。電車はここまで来る途中にも走る様子は見てきたし珍しいとは思わない。
だがマップにも載っている様な大型の駅周辺になら或いは獲物がいるのではないか?そんな期待を込めてバダーはハリケーンを走らせた。
しかしほんの少しだけ、遅れた。駅に近づいた時には既に電車は動き始めていた。
チッ、と舌打ちし目を凝らす。もし乗客がいるのならば或いは見つけることができるかもしれない。
しかし駅から動き出す電車は北上する物と南下する物の二つ。それらを交互に見やるのだ。とても細部までは見ていられない。
だがかろうじて、北上する路線の電車に人影が見えた、そんな気はした。だが北上する道は元来た道を戻る事になり、新たな獲物を見つられる可能性は低い。
期待できるのは電車に乗り込んでいる、かもしれない獲物に少し前に対峙したのほほんとした男くらいだろう。
だが、南下した所で新たな獲物を見つけられる保障も無い、それならば。

実際の所はバダーはそこまで考える前に既にハリケーンを北上する電車へと向けていた。
獲物らしき者がいるのならば、そちらを追う。
獰猛な狩人はもしかしたら匂いを感じたのかもしれない、獲物の匂いを。


加速していく電車に追いつき、並走する。品定めするかのようにゆっくりと電車の様子を窺う。
後ろから一両ずつ、順々に。ほとんど前を見ないでも安定した走りが可能なのはやはりバダーだから、と言うしかないのかもしれない。
そして遂に見つける。ドアの窓からほんの少しだけ見える獲物の影。
獲物を見つけたのならば、後は捉えるだけだ。バダーは加速し、電車を追い越していく。
少し前に通った道だ。何があるかは当然記憶している。バダーは目当ての場所で右折し、止まる。
カンカンカンカンという音と赤い光が点灯し、遮断機が下りてくる。踏み切り、だ。
エンジンを唸らせタイミングを窺う。まだ遠い、あと少しあと少し。驚くほどの集中力で、バダーはその時を待つ。


ハリケーンを急発進させ、赤いマフラーを棚引かせ、踏み切りへと加速していく。
踏み切り内に電車が入り、通過していく。バダーは構わず加速し、飛び上がる――

          *   *   *

突然の轟音に風見と加賀美は驚き、招かれざる侵入者を睨みつける。
ハリケーンの突撃によって開かれた大穴から風が容赦なく入り込み、バダーのマフラーをバサバサと揺らした。

「何だ、お前は…」
「そのバイクは…!」

加賀美は非常識すぎる乗り込みをしてきたバダーを警戒し、風見は自分の愛車が目の前にあるという事実に驚いていた。

「ほう、またあったな」

バダーは久々の再会に胸を躍らせる。
本来なら彼らは初対面である。だが加賀美が風間と風見を勘違いしたように、バダーも同じように勘違いしていた。

「そのバイクは私の物です。返してもらいますよ」
「ふん、やってみろ」

会話が成立していたのは勘違いしていたにしては、出来すぎだが。
バダーはハリケーンのエンジンを吹かし、ジャングラーの存在に気付く。

「…それは、バイクか」
「これも、私の「これは俺のだ!」…はい?」

風見の返答を遮り加賀美が前に出る。右手にジャングラーの鍵を持って。

「いつの間に…」
「悪い、ちょっと借りる」
「ふたりか…こうつごう、だ」

話は終わりだ、と告げるかのようにバダーはハリケーンを走らせる。
狭い車内を破壊するほどの轟音と共にバダーが二人に迫る。
加賀美はジャングラーを起動させ立ち向かう。
二台のバイクが通れるスペース等車内にあるわけ…厳密に言えば無くは無かったがジャングラーでは無理な相談であった。
ハリケーンとジャングラーが衝突し、ギリギリと鍔迫り合いのように押し合う。
バダーが前輪を持ち上げ、仕掛けてくるが加賀美もそれに合わせるように前輪を持ち上げ対抗する。
空中で前輪同士がぶつかり合い、火花を散らした。
らちが明かないと判断した加賀美はジャングラーを加速させる為に少しだけ引くがそこをバダーに衝かれた。
前輪を支点にハリケーンを半回転させ、後輪でジャングラー共々加賀美を弾き飛ばす。

「いっつ!」

ジャングラーから弾き飛ばされた加賀美は座席の手すりに頭をぶつけ呻く。
バダーが加賀美を押し潰そうとハリケーンの矛先を向けるが、その眼前に風見のとび蹴りが炸裂する。
不意をつかれ、バダーは思わずハンドルを放し床に転がる。
変身していないのにライダー顔負けのキックを放った風見はそのままハリケーンに跨り、発進させる。

「ま、待つんだ!風間!」

加賀美が頭を抑えながら立ち上がり、風間を止めようとする。

「言ったでしょう。あなたには私は止められない、と」

風間は大穴を利用し、バダーが入ってきたのと同じように車内から抜け出す。
着地した際に生じた強い衝撃を凌ぎ、走り続ける電車を見つめる。
開けられた大穴から加賀美が身を乗り出し、何か叫んでいるが電車はお構いなしに進んでいき、結局何と叫んでいたのか風見には分からなかった。

「さて…」

携帯を取り出し自分の現在位置を確認する。どうやらC-9にいるようだ。
悩み所かもしれない。
風見は脱出派の意図をつぶすつもりで研究所を目指す事にしていた。施設さえ破壊すれば首輪を解除するのはより困難になるはずだから。
だがそれも加賀美の協力があっての事。協力してくれるかどうかは微妙だったが少なくとも戦闘になれば戦力になるだろう、と期待はしていた。
その協力が得られない状況で単身研究所に侵入し、破壊できるだろうか?
放送の口ぶりから考えると、研究所内で首輪の解析をしている者は間違いなくいるはず。
返り討ちに遭う可能性は有り得る。だが研究所襲撃を遅らせると無駄に敵を研究所に集めてしまう事になるかもしれない。
様子を見るべきか、一気に突入すべきだろうか?
久々に味わう愛車の上で風見は一人、決断を迫られていた。


状態表


【風見志郎@仮面ライダーTHE NEXT】
【1日目 昼】
【現在地:C-9 】
【時間軸:】THE NEXT中盤・CHIHARU失踪の真実を知った直後
【状態】: 疲労回復、全身打撲、中。両腕、腹部にダメージ大。
【装備】:ハリケーン 、ホッパーゼクター+ゼクトバックルB、デンガッシャー
【道具】:不明支給品(未確認)0~3。基本支給品×2セット、ピンクの腕時計、FOX-7+起爆装置(残り4)
【思考・状況】
1:殺し合いに勝ち残り、優勝してちはるに普通の生を送らせる。
2:ショッカーに対する忠誠心への揺らぎ。
3:葦原涼が死んでいなかったことに驚きと僅かな安堵。
4:研究所施設を破壊し、脱出派の意図をつぶす or 破壊は後回しにし、様子見にする。
5:いずれあの男(加賀美)と決着を付ける。
【備考】
※モモタロスの死を受け止め、何か複雑な心境です。
※ホッパーゼクターを扱えます。
※FOX-7は基本的に、起爆装置を使った時にのみ爆発します。爆発の規模は使った量に比例します。
 起爆装置は全携帯が内蔵している専用アプリに起爆装置のコードを打ち込んで操作するもの。
 スイッチ式と時限式の両方の使い方ができます。


          *   *   *

「風間の奴…くそっ!」

加賀美は床に倒れたままのジャングラーを起こし、風間のように車内から飛び出そうとするが――
バダーがジャングラーの前に立ち、妨害する。

「どけっ!見失う前に追わないと…」
「そいつをよこせ」

風を切るような回し蹴りが加賀美の顔面に迫るが、すんでの所でジャングラーから飛び降り事なきを得る。
バダーは悠々とジャングラーを起こし…鍵が無い事に気付く。

「探し物は、これかな?」

加賀美が右手に持った鍵をチラチラと揺らす。だがバダーに焦る様子は無い。

バダーは右手を突き出し、ゆっくりと横に動かす。奇妙な音と共に異質な姿へと変化していく。
脅威のライダー、ゴ・バダー・バ の本来の姿。見た目で共有しているのは赤いマフラーくらいか。

「なっ、ワームなのか!?」

バダーは加賀美を無視し左肘の装飾品をジャングラーの鍵穴に差し込む。
が、バダーが望んだ変化は訪れず、ジャングラーは無反応のまま電車に揺られていた。

「…いまいましい」

ジャングラーから降り、加賀美を睨みつける。その睨みに臆する事無く加賀美は睨み返し――右手を突き上げる。

「いくぞ!ガタックゼクター!」

今の今まで加賀美の肩に止まっていたガタックゼクターはようやく出番か、とでも言うように身を震わせ、加賀美の右手に納まる。

「変身!」

電子音声が発せられ、マスクドフォームのアーマーが生成され、加賀美を戦いの神へと変えていく。
両拳を振り上げ、機械的に走り続ける車両の中、バダーと対峙する。

「カギをよこせ」
「断る!俺は風間を止めなきゃいけないんだ!邪魔をするなら、容赦はしない!」

両肩のガタックバルカンが火を噴き、イオンビーム光弾を連射する。
通常よりも威力、弾数ともに制限されているが狭い車内という状況のおかげで効果を…上げない。
強靭な脚力を生かし、壁や天井を地の如く扱いバダーは縦横無尽に跳び回る。
素早い動きに光弾の弾幕もついていけず、ダメージを与える事ができない。
勢いをさらにつけたバダーはドロップキックをガタックの顔面へと打ち込む。
バダーは身体を回転させ、足から床に着地し、地を這うような跳躍で後ろに吹き飛ばされたガタックを追う。
倒れこむ寸前のガタックの足首に接近したバダーが強烈な足払いで追い討ちをかける。

「ボソラグ(ノロマが)」

バダーが再び跳躍し、仰向けに倒れこんだガタックの顔面を踵で踏み付ける。
バキリと甲高い音が鳴り、バダーは勝負が決した事を確信する。


バキリという音はガタックの身体全体から鳴り響き…

「キャストオフ!」

――CAST OFF――

アーマーの破片が股下からバダーを襲う。
身体に食い込んだ破片に悶絶しながらバダーは転がっていく。
それを見ながらガタックがゆっくりと身体を起こし、雄々しき二本の角も起き上がる。

――Change Stag Beetle――

「うぉぉぉっ!」

ガタックはなんとか起き上がろうとするバダーにエルボースタンプを豪快に背中に打ち込み、起き上がらせない。
そのままバダーの背中に座り込み、顎をしっかりと掴んで反り上げる。
体勢のせいでバダーの振り回される腕はガタックにダメージを与えない、このままいけばバダーの背骨や腰骨が破壊されるだろう。
だがこのままで終るはずもなく。自由な両足を反り上げ、ガタックの胴体を挟み込む。
強靭な脚力による胴締めはガタックの力を確実に弱め、バダーは顎のホールドから脱出した。
そのまま振り下ろすようにガタックの身体ごと両足を下ろし、後頭部を強打させる。

「あぐぅっ!」

変身前にも同じ場所を強打していたガタックにこの一撃はかなり効いたらしくしばらく立ち上がることができない。
バダーは再度跳躍し、杭打ち機のように何度も何度もガタックの身体を踏み付けていく。
踏み付けるたびにガタックの身体が震える。何かを掴むかのように伸ばされた腕は少しずつ力を失っていく。
トドメの一撃を振り下ろすため、バダーは跳躍し、狙いをガタックの頭部に定め、急降下。

「クロック、アップ!」

――CLOCK UP――

ガタックの周りを包む時間がゆっくりとした進みになる。
窓から見える景色はゆっくりと進んでいき、バダーはパラシュートでも付けたかのようにゆっくりと降りてくる。
その間にガタックは身体をゴロゴロと転がし、バダーから距離を稼ぎだす。

――PUT ON――

両肩のガタックバルカンのみを元に戻し、構え…時が元に戻る。

――CLOCK OVER――

バダーからみれば突然ガタックが残像のみを残して移動し、着地して無防備な自分を
いつのまにか装備していた両肩のバルカンで撃ち抜くという理不尽極まりない状況だ。
ほとんどの光弾を喰らい、身体の所々が痛々しく焼けている。

――CAST OFF――

ガタックバルカンが吹き飛ばされ、その下に隠された二本の聖剣が姿を現す。
ガタックが両肩のプラスカリバー、マイナスカリバーを掲げ、合体させる。

――Rider Catting――

鋏がバダーの胴体を挟み込み、イオンエネルギーを流し込む事によって完成するガタックの必殺技の一つだ。
だがバダーはその挟み込む瞬間に飛び上がり、鋏の上に悠然と立っていた。

「嘘だろ!?」

行き場を失ったイオンエネルギーを両足に纏いながらバダーは驚きで硬直状態のガタックを蹴り上げる。

「ふんっ」

落ちてくるガタックを残りのイオンエネルギーと共に回し蹴りで吹き飛ばし、膝をつく。
ゴロゴロと転がったガタックはふらふらしつつもなんとか立ち上がり、両拳を構え、バダーを睨みつける。
バダーもそれに答えるように肩で息をしながら立ち上がり…側に転がっていたダブルカリバーを拾い上げる。
ダブルカリバーを解体し、プラスカリバーだけをガタックに投げつけ、マイナスカリバーを構えた。
ガタックもプラスカリバーを受け止め、対抗するように構える。

ゆらゆらと電車に揺られながら、ガタックとバダーは互いに機を窺う。
お互いかなり消耗し、もう長く戦闘することは不可能だ。お互いが、お互いを理解していた。
ガタン、と電車が大きく左に傾く。それを合図にガタックとバダーはそれぞれの得物を――投げつけた。

バダーはマイナスカリバーを投げつけると同時に膝を抱え、縦に回転しながら跳躍する。
ガタックはプラスカリバーを投げつけると同時に身体を横に捻り、横に回転しながら立ち向かう。


投げつけたお互いの得物がガシャンと音を立てて床に落ちる――


バダーはまるでバネを解放するかのように身体を引き伸ばす。
ガタックと目が合った。
右足を突き出し、蹴りこむ。脅威のライダーとしての誇りをのせて。


1、2、3とスイッチを順番に押し、ゼクターホーンを起き上がらせる。
バダーと目が合った。
ゼクターホーンを倒しこみ、蹴りこむ。戦いの神としての意地をのせて。


形は違うが二人の技はまさに…


――Rider Kick――


          *   *   *

永遠にも一瞬にも思えるエネルギーのぶつかり合いの果てに、二人は吹き飛ばされた。

衝撃で変身の解けた加賀美はバダーの姿を探すが見当たらない。
だがバダーが侵入してきた時に開けた穴の縁に肌色の何かが見えた。
バダーも加賀美と同じく衝撃に吹き飛ばされ、変身が解けていた。

穴の外は目まぐるしいほど景色が変わり、少なくとも生身のまま飛び出せば無事では済まない事を物語る。
縁を掴む手が離れてしまえば自分は死ぬ、そういう状況にも関わらずバダーの表情は普段のままだった。

加賀美は躊躇う。ここで手を差し出し、助け上げる事は間違いなのでは?
この男はワーム…じゃないにしても人間とは明らかに敵対している生命体だ。
それならばいっそ…そう考えている間にバダーの手が離れた。

瞬間、無意識の内に加賀美はバダーの手を掴み、間一髪でバダーの身体が地面と衝突する事は無かった。
だがバダーの身体は未だ車外に放り出されており、加賀美が手を離せば、バダーは死ぬ。

その状況でバダーが笑っていたのが、加賀美の神経を逆撫でした。

「馬鹿野郎っ!」

大声で叫び、どこにそんな力が残っていたのか不思議なほどの勢いで、バダーを車内に引きずり込む事に成功した。
肩で息をし、もはやどう足掻いても動けないという加賀美の胴体をバダーが軽く蹴りこむ。
加賀美の懐から一つの鍵が転がり落ち、バダーはそれを拾い上げるとジャングラーの元へと歩いていく。

待て、そう口にしたいが言葉にならない。口から漏れるのは熱い吐息だけ。

「ババババジャスバ、リント(なかなかやるな、リント)」

バダーは加賀美にそう言い残し、ジャングラーに乗って車外へと飛び出し何処へと走り去っていった。

残された加賀美は床の上で大の字で寝転がり、酸素を少しでも吸い込もうと大きな呼吸を続ける。
電車のスピードは徐々に緩まっていき、停車駅が近い事を加賀美に伝えていた――


状態表


【ゴ・バダー・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸:ゲゲル実行中(31-32話)】
【1日目 昼】
【現在地】C-7 道路
【状態】全身にダメージ、背中や腕部等に多少の火傷、右足にダメージ、グロンギ体に2時間変身不能
【装備】ジャングラー@仮面ライダーアマゾン
【道具】基本支給品 車両配置図 ラウズカード(ダイヤの7・8・10) ライダーブレス(コーカサス) 
【思考・状況】
基本行動方針:リントではなく自分の「ゲゲル」を完遂する。
1:クウガ、イブキ、ガタック、ドレイクはいずれ自分で倒す。
2:(スマートブレイン勢力も含めた)「ライダー」の探索と殺害。
3:グロンギ族に遭遇しても、このゲゲルを終え、ゲリザギバス・ゲゲルを続行する為に殺す。


※バダーは「乗り物に乗った敵を轢き殺す」ことにこだわっています。
 選択の余地がある状況ならば、上の条件に合わない相手は殺せる場合でも無視するかもしれません。
※「10分の変身継続時間」についての制限にはほぼ把握しましたが、
 「2時間の変身不能時間」についてはまだ完全には把握していません。
※用意されたすべてのバイクが出そろったため、車両配置図は詳細地図としての価値以外なくなりました。
※風見志郎の事を風間大介だと勘違いしています


【加賀美新@仮面ライダーカブト】
【1日目 昼】
【現在地:B-7 研究所駅停車予定の電車内】
[時間軸]:34話終了後辺り
[状態]:激しい疲労と痛み、脇腹に刺し傷、頭部に打撲、肩に裂傷、背中に複数の打撲、右足にダメージ
   強い怒りと悲しみ。ガタックに2時間変身不能
[装備]:ガタックゼクター、ライダーベルト(ガタック)
[道具]:基本支給品一式 ラウズカード(ダイヤQ、クラブ6、ハート6)不明支給品(確認済み)2個。
[思考・状況]
1:他の仲間、特に桜井侑斗と合流する。
2:危険人物である澤田と真魚、バダー(名前は知りません)を倒す。
3:風間(風見)を探しだしたい。
4:風間(風見)といずれは戦うことへの迷い。出来れば戦いたくない。
[備考]
※デネブが森林内で勝手に集めた食材がデイパックに入っています。新鮮です。
※首輪の制限について知りません。
※友好的であろう人物と要注意人物について、以下の見解と対策を立てています
味方:桜井侑斗(優先的に合流)
友好的:風間大介、影山瞬、モモタロス、ハナ(可能な限り速やかに合流)
要注意:牙王、澤田、真魚、バダー(警戒)
※風間大介(実際には風見志郎)が戦いに乗っていることを知りました。


075:牙と軍人と輝く青年 投下順 077:blood
071:希望と絶望と偽りの顔(前編) 時系列順 077:blood
064:果てなき願い 加賀美新 090:肯定/否定――my answer
064:果てなき願い 風見志郎 090:肯定/否定――my answer
067:リング・オブ・ローズ ゴ・バダー・バ 101:藪をつついて黒龍を出す

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