クローズド・サーキット

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クローズド・サーキット


 カーキ色のジャケットは、僅かな星明かりだけでもその姿を夜の闇に浮かび上がらせる。高台に立つ彼の襟元には、鮮やかに朱いスカーフが夜風に煽られ、長くたなびいている。
 ――――リントたちも、ゲゲルをするとはな。
 彼は内心で、そう呟いた。
 彼はリントたちのゲゲルに乗るつもりはなかった。ゲゲルはあくまでグロンギのものだ。グロンギとして、グロンギの流儀で行ってこそ意味がある。
 そのためにはまず、彼の手足となるものを手に入れなくては。
 リントの生み出した『バイク』と言う名の馬を、ゴ・バダー・バは気に入っていた。戦いに赴く時に常にそれに跨がるほどに、である。
 バイクを入手するには、リントの住む場所に行かなければならない。
 高台の上から見下ろすと、暗く沈んだ夜景の中に幾つか灯りが点っている場所があるのが遠目にも見て取れる。南の灯りは数が多いがやや遠く、西の灯りは数こそ少ないが南のものよりは幾分近い。
 灯りのある場所にはリントの町があるはずだ。
 彼は冷徹な足取りで道を下り始めた。リントの姿で、リントのゲゲルの舞台を、リントの血で赤く染め上げるために。

          *   *   *

 海沿いの細い遊歩道を通ったのは、大介なりの女性たちへの心遣いのあらわれだったろう。とはいえ、星がわずかに輝くばかりの空では、景色も何も楽しめたものではなかったが。
 もっとも、昼だったら昼だったで、切り立った断崖絶壁は景観への感慨どころか、恐怖感を抱かせるだけだったかも知れない。
 特に難儀だったのは、なんといっても大げさなで奇天烈な衣装に身を包んだハナである。重さに加えて動きづらい格好のせいでどうにも足が遅くなる。すべての女性の味方を自認する大介だったが、この時代がかった格好には一歩引かざるを得なかった。
 途中、地図に記された地点をチェックしてみたが、バイクらしきものは見当たらなかった。信憑性はない、ということか。それでも他の参加者と合流するためには移動せざるを得ないし、移動の指針が何もないならば信憑性のない情報でも当てにせざるを得ない。
 せめてまともな服を来て、陽の下で化粧でもし直せば少しは変わるだろうに。そんなことを考える彼は、アルティメット・メイクアップとやらもかなり大げさで奇天烈なことを自覚していないのだが。
 それでもどうにか二人を連れ、バイクを押してたどり着いたのは、何軒かの店がまばらに見える集落と言っても良さそうな地域だった。その奥に佇む飾り気のない建物が、地図に乗っている保養所に違いない。
 すでにある程度の距離を歩いて来て、そろそろ疲れも出るころだ。一旦休憩を取るならああいう場所がいいだろう。
 二人の同行者に提案すると、ハナは疲れ切った様子で、あすかはやや苛立ち気味ながらも受け入れた。改造人間でもあるまいし、どれほど強い意志を持ってしても無制限の強行軍に耐えられるわけがないのだ。
 水仙が植えられた白いプランターの前にバイクを止め、鍵だけを持って洒落っ気のない灰色の建物に足を踏み入れる。くたびれた雰囲気のロビーの明かりは一部だけがついていて、立ち入った者をほんの少し不安にさせる。
 とりあえず、ソファで身体を休めるだけでも違うだろう。必要ならば部屋を借りるか――――そう考えた大介の腕を、あすかが引っ張る。
「風間さん、なにか……聞こえませんか」
 声を殺して囁く言葉に、大介は目を細めた。さりげなく懐に手をいれつつ、様子を伺う。
 背後では、着物の重さに疲れ果てたハナがソファに身を投げてぐったりしていた。その息づかいに混じって、遠くから男の声が聞こえて来る。

 ♪おうちにかえろ みんなでかえろ
 ♪グワ、グワ、グワ、グワ、かえるがなくからかえろ

 あれは聞き覚えのある童謡の旋律だ……が、そんな歌詞だったか?
 警戒心の前に素朴な疑問を覚えながら、声が聞こえて来る廊下の奥を注視する。
 スリッパを引きずるようなゆるい足音とともに現れたのは……。

「よぉ」
 並より体格が良い以外は、ごく普通の男だった。
 温泉旅館備え付けの浴衣を少し着崩したあたりは、実に粋な下町っ子、といった風情である。
 男は彼らに向かって笑うと、シュッ、とかなんとか口で言いながら指を振った。
 ……なにしてるんですか、あなた。
 内心浮かんだ疑問は、どうやら顔に出てしまったらしい。男は手ぬぐいで髪を拭きながら答えた。
「ん?いや、露天風呂入って来た」
「はいィ?」
 いつも冷静にして温和を気取る大介の声が思わずひっくり返ってしまったのも、今回ばかりは致し方ないだろう。一方、男は平然と続ける。
「気持ちいいよ?朝風呂。寝起きすっきり、って感じだよね」
「ねお……?」
 呆気にとられた大介の脇で、あすかが糾弾に近い口調で問い返す。
「寝てたんですか!この状況で!ええと……」
「響鬼です」
「ヒビノさん!」
「響鬼です。だって寝不足で戦ってもあんまいい結果でないでしょ」
 本気で言っているのか、冗談のつもりなのか、一向に判然としない口調だった。なおも狐につままれた状態の彼らに向かい、響鬼と名乗った男は続ける。
「君達、寝てないんじゃないの?なんだったら、俺が見張りでもしてるからさ、寝て来なよ」
 ……どうやら、本気で言っているらしい。
 緊迫感の欠片もない台詞だったが、大介は「見張り」という言葉を聞きとがめた。
 ただ温泉だの保養だのといったすっとぼけたことだけを考えているわけではない。となると、この男は恐ろしいことに、今これが戦いであることを理解している、ということになる。
「どうしたの、行って来なよ。そこの君、そんな格好で疲れてるんじゃないの?」
 響鬼はハナに声をかけた。ごく自然に、当たり前のようにそう振る舞われ、大介には言葉を差し挟む暇もない。ハナの腕を掴んで立たせ、一度軽く背中を押した。
「ほらほら、行って来な。露天風呂はあっち」
「……覗きませんよね?」低く訊ねるあすかの声からは、かすかに猜疑心が聞き取れた。
「覗かないよぉ」
 型通りに顔の前で手を振った男の前で、大介の表情は完全に硬直している。
 花を渡る風ともあろうものが、この男の前では完全に凪であった。

          *   *   *

 遥か向うに広がる波の音は、ここまでは届かない。代わりに心を和ませる僅かな水音が辺りを柔らかく包んでいるだけだった。
 キツい足袋から開放された指先を、ハナはゆっくりと湯船につけた。やけに痺れた感覚がするのは、慣れない草履で痛んだ足に熱い湯がかかったせいだろう。手桶を取って少しずつ身体を打たせると、現実感が僅かに戻って来る。
 汗ばんだ身体を蒸気が包み、肌を覆う重苦しい疲れを溶かしてゆくのが解る。思い切って全身に湯を浴び、滑るように石造りの湯船に身を沈める。
 裸電球の明かりでは、延ばした足の輪郭は濁った湯に隠れて見えない。ただ暖められたせいでそこに少しずつ血が通って行くのが、感覚的に解るばかりだ。
 肌が触れた岩肌の暖かさに、気持ちが和らぐ。
 ハナは肩口まで湯の中に沈めながら、ゆっくりと深く息を吐いた。

 あすかは服を脱ぎ、荷物と一緒に棚に押し込んだ。
 と、その手が一本の剣に触れる。
 奇妙な仮面が四つ寄せ集められている、重苦しい剣。切れるかどうかも解らない奇怪な代物だったが、これで人を殴ればただでは済むまい。
 柄の部分に手ぬぐいを巻き付けて両手で掴む。
 引きずるようにして湯船に近づくと、壁の鏡に映った自分の姿が目に入る。
 細い足は辛うじて木の床を踏みしめ、痩せた身体を支えている。鎖骨が目立つようになったのは、克彦を失ってからだ。前より頬がすっきりした、と言われたことがあるが褒め言葉には聞こえない。目が僅かに赤いのも、決して寝不足のせいだけではなかった。
 きっと、彼の仇を取れば、自分を内側から虚ろにしてゆくこの病とも訣別できる。
 心の中で改めて言い聞かせ、彼女は外へと歩を進めた。
 茅葺きの庇が吸い込んだ蒸気が、少しずつ水滴に変わって石畳を濡らしている。そこに足を置くと、かすかに湿った音が辺りを乱した。
「お湯の加減はどう?」
 訊ねながら、ゆっくり湯船に近づく。
「ちょっと熱めだけど、気持ちいいですよ」
 ハナは答えて、耳元に落ちて来た髪を軽く払った。長い髪を巻いて止めているせいで、白いうなじがはっきりと晒されている。
 あすかは両手に力を込めて剣を持ち上げ――――。

          *   *   *

「驚かなかったんですか」
 女湯ののれんの前で腰に手を当てて牛乳をあおる響鬼に、大介は呆れながらも訊ねた。
 腰掛け代わりに廊下に置かれた竹の縁台には、彼と並んで二人分の荷物が置かれている。
 響鬼はぷはっ、とかなんとか声を上げて中身を飲み干すと、空になった牛乳瓶を足下のケースに戻した。
「そりゃあ驚くよ。でも、人間って、もともといつどうやって死ぬかわからないじゃない。病気したりとか、事故にあったりとか」
「怪物に、襲われたりとか……ですか」
「ん、まあね」
 軽い肯定で流されたのは、響鬼が怪物に類するものと相当に戦い慣れているという意味だろう。
 大介自身、この状況に追い込まれて最初に抱いた感想は、純粋な衝撃ではなく「またか」という徒労感だった。既に、勝手にドレイクゼクターに選ばれ、強引に戦いを強いられている、という下地があったからだ。
 となれば、彼以上に戦い慣れている者――――たとえば、天道であるとか、影山だとか――――あたりは、響鬼同様、それほど驚いていないのかも知れない。
「……平常心、ですか」
「鍛えてますから」
 響鬼はこともなく答えて、側の冷蔵庫からもう一本牛乳を取る。
「いる?」
「結構です」
「あ、そう」
 響鬼は肩をすくめて、二本目の牛乳の栓を開けた。

          *   *   *

 ぽちゃり、と音を立てて、大振りな剣の刀身が湯の中に落ちる。
「……念のため、護身用にと思って」
 あすかは呟いて、そのすぐ脇に足を滑り込ませた。
 湯の中に沈む一瞬の間に、ハナはあすかの爪先を染める薄紅色のペディキュアが半分禿げていることに気づいた。
「用心深いんですね」
 ハナは直接ペディキュアには触れずに、そう言葉をかけた。
「ええ……だって、何も考えずにいたせいで、私、大切な人を失ったから」
 あすかはそれ以上は語らない。既に語るべきことは語り尽くしていたからだ。
 沈黙、はがれたペディキュア、剣を抱く手。そこに宿る思いを、ハナが感じないはずもない。
「わかります!私だって、絶対許せない。牙王とか、イマジンのやってることとか……」
 語尾が心なしか弱くなったのは、傍らのデンカメンソードに目が止まったからだった。
 デンライナーに巣食うセンスの悪いイマジンどもは、確かにある意味苛立を感じさせる存在ではあったが、同時に――――。

          *   *   *

 三本目の牛乳瓶をケースに戻して、響鬼がようやく縁台に腰を下ろす。
「牛乳が嫌なら、お茶飲む?おれの荷物の中に、道具が入ってたんだよね」
 響鬼は荷物を膝に乗せて中身を探った。手の動きに会わせ、なにやらからからと音がする。
「随分と、冷静なんですね」
 素直な感想を述べたのは、この男ならばそれで怒りはしないだろうという直感からだった。
「そりゃ、あんなの困るけどさ……だからって、あいつらに腹立てたって何も変わんないだろう。憎いとかさ、嫌いだとかさ。そういう気持ちがあると、本当の力って出ない気がするんだよね」
 ごく当たり前にそんなことを言う響鬼は、おそらく大介とは全く違う世界の住人なのだろう。見習うべきなのか、知らずにおくべきなのか。大介自身の感情は、知りたくもないと訴えているのだが。
「おれが思うに、力ってのはもともと何かを守るためにあるわけだよ。自分だったりとかさぁ、あとは家族とか、夢とか。守りたいって気持ちは力をくれるけど、奪いたいって気持ちはなんつかさ、肩に力入っちゃって却って動けなくなる、みたいな……まあ、おれもよくわかってないんだけどさぁ」
 どこか気取った台詞を吐いているようで、本人には微塵も照れがない。ごく自然にこんなことを言えるとすれば、響鬼という男はよほど悟っているのか、馬鹿か、もしくは嘘つきだろう。
「それで、あなたはどうするつもりですか」
 大介の問いに、響鬼はこともなげに答えた。
「そりゃ、戦うよ。そうしなきゃ帰れないなら、そうするしかないでしょ」
「……まさか、生き残りを?」
「ああ、俺は生き残るよ。皆と一緒にね」
 響鬼は言葉を切ると、大介の深刻な顔を覗き込んだ。
「なによ。俺が誰か殺すとか思ったわけ?やだなあ。俺はさ、ああいう会社に用はないから。今の、鬼って仕事に満足してるんだよね」
「鬼、ですか」
「鬼、だよ」
 大介のおうむ返しに、響鬼は面白そうに応じる。
「ははぁ、怖いか」
「そんなことはありません!」
 思わず語気を荒げてしまったせいで、却って不安が露見してしまったかも知れない。大介はいかんともしがたいやりづらさを感じて口を噤んだ。

          *   *   *

 古びた柱時計が午前五時を告げる。
 どうやら、縁台に座ったままうとうとしてしまっていたらしい。自分自身が打たれたように大介が顔を上げると、更衣室の中から話し声が聞こえて来た。
 のれんが揺れ、中からあすかとハナが出て来る。二人とも頬には色が刺し、心なしか元気を取り戻したように見えた。ことにハナの方は、息が詰まりそうな着物から浴衣に丹前という温泉スタイルに着替えたせいか、まるで別人だ。
「ああ、美しい。あなた方のような美しい女性が、こんな馬鹿げた戦いに巻き込まれるなんて、実に腹立たしい限りです。これぞまさしくひとつの、ええと……」
 いきなり歯が浮くような口上をおっぱじめ、しかも勝手に口ごもった大介を、三人はそれぞれに呆れをあらわにして見つめる。
「とにかく、行きましょう。ここでくつろいでいるばかりでは、他の人にも会えませんから」
「おれは君達と会えたけどね」
「いや、それは確かにそうですが」
 ボケだか突っ込みだか微妙な響鬼の言葉に、大介は毎度調子を崩されざるを得ない。響鬼の方は一向に気にせず、立ち上がって荷物を肩にかけた。
「とにかく、何処かへ行ってみようか。……といっても、どこに行ったら良いんだろうなあ」
「それでしたら、私の手元に面白いものがあります」
 大介はデイパックを開け、バイクの鍵とともに一枚の地図を引っ張り出した。
「信憑性のほどはわかりませんが、私の荷物にこんなものが入っていたんです」
 所々に印のつけられた地図。おそらくは、移動に使える車両の配置だろう――――その推測を告げると、首を傾げた。
「車か……」
「まずいですか?」
「いや、別に」
 どこかばつが悪そうな響鬼の表情だったが、それ以上は追及しないことにする。ともかくも、仲間探しをかねて地図の印を当たってみることに異議はなく、彼らは互いに荷物を持って建物の出口に向かった。
「けど気になるのがさ、どうも向うは俺たちのこと、結構よく知ってるみたいなんだよね。荷物の中に着替えが二着入ってたし、ほかにも……」
 響鬼の言葉を話半分に聞きながら,大介は入り口に止めておいたバイクに歩み寄った。
 地図と一緒に持っていた鍵を確かめようとした時、どこからともなく声がかかる。
「その、バイクは、おまえのものか」

 その言葉が質問なのか確認なのか、大介には解しかねた。抑揚のない発音と、ぎこちない言葉の区切り方のせいだ。
 返す言葉に躊躇う大介に向かい、男はつかつかと寄って来る。
 切れかけた蛍光灯の明かりでも,土気色の肌と,輪郭を覆う縮れた髪ははっきり見て取れる。カーキ色のジャケットの上に落ちた赤いマフラーが、目に痛いほどの鮮やかさだ。
 男は気圧された大介を押しのけ、その手から地図もろともバイクの鍵を奪い取る。
「おい、何をする」
 止めに入った響鬼を力任せに突き放し、バダーはエンジンをかけた。火の入ったバイクが低く猛々しい唸りを上げる。
「それを返せ!」
 大介の芸のない台詞に、バダーはにやりと口元を歪めた。
「やはり、おまえのものか」
 今更何を、という思いは声にならなかった。バダーは響鬼共々大介を蹴り飛ばして距離を取り、バイクを発進させる。
 そのまま走り去るのかと思いきや、ジャックナイフで一旦止まるとそのままこちらに車首を向ける。
「危ない!」
 慌てて飛び退いた大介のいた場所を、エンジン音を響かせてバイクが通り過ぎる。と、素早い切り返しからウイリーの体勢に入ったバイクが、高く掲げた前輪を彼にむけて叩き付けた。
 轢かれずに済んだのは、響鬼が素早く彼を突き飛ばしたからだった。呆然としている大介の前で響鬼は浴衣の袖から何かを取り出した。
 それを傍らの柱に打ち付け、額にかざす。
 街灯の弱い明かりの下、男の姿は異形の輪郭に包まれた。夜の闇で染め上げたその身を彩るのは炎の赤、そして額に宿るのは当人が口にした通り――――鬼の、その角に間違いない。
 その姿を見たバイクの男が、にやりと笑って手を掲げる。
 延ばされた人差し指と親指が、ゆっくりと横に滑って行く。左手を突き出すと、男の腰にくろがね色のバックルが現れ、その身も同じ褐色に変わって行く。
 次の瞬間、風に赤いマフラーを靡かせる異形のライダーがそこにいた。

 大介が目の前の状況を飲み下すまでには、しばらくの時間が必要だった。
 目の前で争う二つの異形。果たしてどちらに味方すべきなのか。あるいは、いずれも見捨てるべきなのか。
 もともと戦いなど好まない彼にとっては、肩入れし、戦わなければならないこと自体あまり心の晴れる考えではない。
 だが、どうしても戦いを選ばねばならないとしたら。
 美しい女性の歌声のように、女性の身を飾る銀の鈴が響かせるささやきのように。響鬼の持つ音叉が辺りを震わせる音は透き通り、清らかだった。
 こんな美しい音が、正しくないはずはない。
 彼の確信を後押しするように、どこからともなく現れたドレイクゼクターが彼の側を舞う。 
「援護します!」
 彼はそう宣言すると、ドレイクグリップを握って高く掲げた。自由なる魂が青い枝に舞い降り、彼に花を守るための鎧を与える。
「あなた方は下がっていてください」
 大介は二人の女性に呼びかけ、ゼクターを掲げてバイクに駆け寄った。

 響鬼が手にした音撃棒の先端には、二つの赤い珠玉が烈火の如く燃えたぎっている。牙をむく顎門を相手に打ち付けようと、響鬼は地を蹴った。
 が、バダーは巧みなハンドル裁きであっさりと響鬼を交わし、ドレイクへと車首を向ける。
 大介は素早くゼクターに手をかけた。
「キャストオフ」
 ゼクターの復唱とともに銀の鎧が弾ける。正面から向かって来たバイクは、飛来する装甲の破片にまっすぐ突っ込む羽目になった。僅かに勢いを殺された車体に煽られる前に煽られて飛び退くと、グリップを構えた。
 矢継ぎ早に放たれた光弾が、花弁の如く降る装甲をかいくぐってバダーへと迫る。背後からは音撃棒を手にした響鬼が駆け寄って来る。
 バダーはジャックナイフで停止すると、そのまま向きを変えた。
 一気の加速がすべてを置き去りにする。

 思いがけず始まった戦いの中で、バダーは奪ったばかりのバイクの乗り心地を堪能していた。
 強度、反応、操作性。いずれも期待の上を行く。バギブソンには及ばないが、決して悪くない。これがあれば、面白いゲゲルが実現できるだろう。
 ならばこそ、まずはこのバイクの乗り手を殺す。
 ヘッドランプに照らされる青と銀の戦士を見定め、アクセルを吹かす。響鬼は彼の眼中にはなく、ましてや入り口の柱の側で戦いを見つめる二人の女など視界にも入っていなかった。

 響鬼の吐く炎が湿った大気を焦がし、ゼクターから放たれる弾は雷光のように闇を引き裂く。昏い静寂は排気音に突き崩され、夜明け前の世界は三つの異形なるものに無惨にも踏みにじられていた。
 緑川あすかは、その手に剣を握ったままでライダーたちの戦いを見守る。
 戦いの仮面をつけた男の姿は、彼女にとって憎悪の対象だった。自分から人生の意味を奪い去った存在。なぜ、と問うても答えは与えられなかった。だから彼女は自分で答えを手に入れるしかない。
 復讐、という答えを。
 仮面ライダーだろうが怪人だろうが、彼女に取っては同じだった。どちらも所詮はその手を血に染めた存在、そうとしか思えない。
 彼女の心も、特大のゲームボードと化したこの空間も、すべては等しく閉じている。
 逃げ場もなく、ただぐるぐると同じ場所を巡り続けるしかない、クローズド・サーキットのようなものだ。

 ハナは目の前で戦うライダーたちの姿に、若干気圧されていた。
 電王として戦う良太郎の側にいて、覚悟は出来ていると思っていた。ゼロノスや牙王がいる以上、他のライダーがいても驚かないつもりだった。
 それでも、ただの軟派男やごく普通の中年が仮面ライダーになるとは……そしてここまで強いとは、予想の域を超えている。
 ――――野上が普通に強かったら、電王だってもっと強かったはずだろ。
 少し前、侑斗に投げつけられた揶揄がふと脳裏に蘇る。
 これだけ強いライダーがたくさんいるなら、きっとイマジンを全滅させることも、未来を取り戻すことだって無理じゃない。
 けれど彼女が未来を取り戻すことは、モモタロスや他のイマジンたちの未来を奪うことでもあり……。
 傍らであすかが握りしめたままのデンカメンソードが、嫌でも彼女の目に入る。

          *   *   *

 タイヤが鋭い轍をコンクリートに焼き付けたその直後、二人のライダーが標的を失って交錯したまま立ち止まる。慌てて振り返った響鬼の目の前に、黒々としたタイヤがぶつかって来る。
 ドレイクが素早く彼を庇ってグリップを振るうと、ウイリー状態のバイクが反動を殺すために一瞬止まる。反射的に数歩下がっていた響鬼が、背後で小さく驚きの声を挙げた。
 次の瞬間、彼の目の前でバダーがタイヤを下ろす。警戒より先に、大介は異変に気づいた。
 目の前でハンドルを握っている男は、人間の姿をしている。
 もし大介が戦い慣れた戦士であれば、この隙を逃さず相手にとどめを刺していたことだろう。
 ほんの一瞬、一瞬だけ銃口を向けるのが遅れたのが決定的だった。
 バダーは自分の身体から霊石の力が消えて行くのを感じ、すぐに車首を下ろしてアクセルを全開にした。三つ数える間に、すでに保養所の門を越えて姿を消している。
 大介が困惑しているうちに、硬質の羽ばたきの音が風を揺らした。ライダーシステムが解除される感覚に慌てて後ろを振り返る。

          *   *   *

 グロンギとしての真の姿と力を封じられたことは、さすがにバダーにとっても驚きだった。が、すぐにあることに思い至り、結論づける。
 これはリントのゲゲル。ならば戦う力のないはずのリントでも平等に戦えるように、リントなりのルールを仕組んだのだろう。
 それもまた、面白い。
 リントがリントのルールでゲゲルをするというなら、オレはオレのルールでゲゲルを完遂してやろう。リントに認められるためではなく、グロンギの戦いとは何かを、愉快なリントどもに知らしめるために。
 彼は先ほど鍵とともに手に入れた紙切れを開いた。
 何かリントの文字が書き込まれた地図だ。所々、「バ」という文字が読み取れる。
 「バ」はバダーのバ。バイクのバだ。
 面白い。くすんだ色の唇が、愉悦の形に歪む。

状態表

【ゴ・バダー・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸:ゲゲル実行中(31-32話)】
【1日目 早朝】
【現在地】B-3 道路
【状態】健康 グロンギ体に2時間変身不能
【装備】ハリケーン@仮面ライダーTHE NEXT
【道具】基本支給品 車両配置図 ラウズカード(ダイヤの7・8・10) ライダーブレス(コーカサス) 
【思考・状況】
基本行動方針:リントではなく自分の「ゲゲル」を完遂する。
1:地図を元にバイクを探し、乗っている人間を殺害する。

※バダーは「乗り物に乗った敵を轢き殺す」ことにこだわっています。
 選択の余地がある状況では、上の条件に合わない相手は殺せる場合でも無視するかもしれません。
※車両配置図はあくまで「配置予定」であり、印のついたすべての場所に車両があるとは限りません。

「まいったなあ」
 バイクで走り去る男を遠く見送りながら、響鬼は頭をかいた。何処か脱力するその様子に毒気を抜かれ、だがあることに気づいて大介は口を開く。
「一つ、言っていいですか」
 その言葉に振り返りそうになる響鬼の肩を慌てて押さえ、耳元で囁く。
「裸ですよね、今」
「ん?ああ。そうだよ」
「後ろで女性が見ているんですよ」
 建物から意識的に離れるように戦っていたせいで、保養所の入り口からは距離がある。それでも小声になってしまうのは、大介の理性というものだろう。
「おう。じゃ、俺の荷物取って来てよ。さっき脱いだ服、入れといたから」
 響鬼がぽんぽん、と青年の肩を叩いて笑う。
 夜が明ける前で良かった。大介はこのとき、心の底からそう思った。


状態表

【日高仁志(響鬼)@仮面ライダー響鬼】
【1日目 早朝】
【時間軸:最終回前】
【現在地】C-3 保養所前
【状態】軽い疲労。全裸。ちょっと寒い。鬼に2時間変身不能。
【装備】変身音叉・音角 音撃棒・烈火
【道具】基本支給品一式(着替え2着と元の服を含む) 野点篭(きびだんご1箱つき) ハイパーゼクター 不明支給品x1
【思考・状況】
基本行動方針:出来るだけ多くの仲間を守って脱出
1:服を着る
2:仲間を捜す


【風間大介@仮面ライダーカブト】
【1日目 早朝】
【時間軸:18話・ゴンと別れた後】
【現在地】C-3 保養所前
【状態】軽い疲労 ドレイクに2時間変身不能
【装備】ドレイクグリップ、ドレイクゼクター
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:戦いはなるべく回避し、できるだけ早く脱出する。
1:移動車両を探す
2:脱出派と合流
3:影山瞬に気をつける

【ハナ@仮面ライダー電王】
【1日目 早朝】
【時間軸:劇場版・千姫と入れ替わっているとき】
【現在地:A-4道路】
【状態】:健康 ほかほか
【装備】:冥府の斧@仮面ライダーアギト
【道具】:支給品一式、洗濯ばさみ、紙でっぽう 戦国時代の衣装
【思考・状況】
基本行動方針:脱出する
1:仲間を探す
2:イマジン、牙王への怒りを再確認。しかし……
3:本郷猛、牙王、影山瞬に気をつける
※浴衣と半纏に着替えました

【緑川あすか@仮面ライダーTHE FIRST】
【1日目 早朝】
【時間軸:本郷を疑っている時(トラック事故は見た)】
【現在地:A-4道路】
【状態】:健康 ほかほか
【装備】:デンカメンソード@仮面ライダー電王、釘数本、フルフェイスのヘルメット
【道具】:支給品一式、オロナミンC2本(ぬるめ)
【思考・状況】
基本行動方針:本郷殺害後、脱出するか生き残る
1:本郷をはじめとした仮面ライダーに復讐
2:護身のために仲間を増やす
3:牙王、影山瞬に気をつける

022:運命は未だ定まらず 投下順 024:桃の木坂分岐点
000:前の作品 時系列順 030:決断の刻は目の前に
006:そういう・アスカ・腹黒え 風間大介 031:激闘の幕開け
006:そういう・アスカ・腹黒え ハナ 031:激闘の幕開け
006:そういう・アスカ・腹黒え 緑川あすか 031:激闘の幕開け
--- 日高仁志 031:激闘の幕開け
--- ゴ・バダー・バ 047:キョクギンサギザザ(脅威のライダー)
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