大切な人は誰ですか

このページを編集する    

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

大切な人は誰ですか


 下半身に走る鈍い痛みの理由が、折れた木枝にあると認識したのは何時頃だっただろうか。
 悪魔の如き戦闘能力を見せ付けて来た北崎との一戦から逃れ、気絶したまま――正確には、一度目覚めた後再度意識を手放した――東條悟の回復を三田村晴彦は待つ。
 逃げ込んだ先は有り触れた雑木林。靴裏が軽く振動する度に、敷き詰められたままの落ち葉が連続して旋律を響かせていた。

 ふと、本体から剥がれ落ちたクヌギの表皮を指先で掴んで、弄繰り回す。
 程無くして崩壊したそれが地に還る様子を眺め終えて、彼は正面に二つ並べられているデイパックに手を突っ込んだ。
 一通り中身を確認、半円を描く様にしてそれらを並べる。恐らくはゲームの参加者全員に与えられている共通の支給品類が二組に、飲食物、木製の箱、首輪、カード一枚。
 その中から、栓を開けられた形跡のないペットボトルを選択し、恐る恐るそれを掴んだ。
 ライダーに変身しての行動とは言え、一人の人間に二つのデイパックを抱えての全力疾走は喉にも堪えるものがある。
 乾きを水で潤しながら、横目でチラリと他の品々を見据える。
 食料は、デイパック毎に差異があるらしい。既にある程度食べられた形跡があるが、残っているものも晴彦の食した缶詰とは異なる。
 キャップを閉めてボトルを置くと、入れ替わりにカードを一枚手に取る。

「サバイブ…………?」

 survive。『生き残る』ことを示すそのカードに、強いメッセージと可能性を感じずにはいられなかった。
 実際問題、強大な力を秘めていることは間違いないのだろう。
 現在晴彦や北崎の所持しているデッキに納められているカード群と共通性を抱えていることは、疑いようがない事実だ。
 だが東條はこのカードを用いなかった。あるいは、使用不能だったのだろうか。
 木箱や首輪とは別のデイパックに所在していたことから、このカードを入手してから然程時間は経過していないのかも知れない。

 そして、二つの首輪。外装にこびりついている血が、嫌でも人の『死』を認識させた。
 無論この首輪の存在は、そのまま東條による殺害行為へと直結するというものではない。
 しかし放送で十数人もの名前がコールされた過去を塗り潰すような衝撃が、この首輪にはある。
 いよいよもって間近へ迫ってきた恐怖に背筋を凍らせながらも、晴彦は次へ視線を揺らす。

 木箱の中から取り出されたのは、長方形の刃をした薄刃包丁だった。
 この一品がどんな用途を想定して支給されたのか、殺人に用いることが可能なのかを考証する程、晴彦は調理器具に親しんではいない。
 形状の関係上、ナイフのように刺し殺すための起用は叶わない。だったら、斬り殺すのはどうだろうか。
 丁度目の前には、まな板に乗せられた食材を彷彿とさせる沈黙振りを見せる格好の『獲物』がいる。
 いくら病院暮らしが長かったとはいえ、青魚の首と胴、大根の葉と根が切り離されるビジョンを想像できない程、彼は愚鈍ではない。
 その気になれば、眠りについたままの東條の首を刎ねられるのではないか、と思考したところで、先程の首輪が目に入る。
 直後、疑念が点火した。――――こうして、二人殺したのか?
 勿論、ライダーへの変身能力を考慮していない訳ではない。が、この瞬間、『東條が二人の参加者を殺した』ことは彼の中で決定的となった。

 転じて、彼は自身へ向けて注がれる視線に身を震わせた。

「おおお、起きたのか」

 晴彦にとっては限りなく最悪に近いタイミングと呼べる中での、東條の目覚め。
 上半身を起き上がらせた彼を前にして、未だ包丁へ添えられたままの両手が、がくがくと脅えを見せる。
 焦りを伴いつつそれを木箱に乗せて、彼の反応を待つ。

「……僕が生きているのは、残念だったかな」

 張り詰めた雰囲気の中での第一声に、想定との猛烈なギャップを感じながらも、晴彦は次第に警戒を解いていく。
 今の東條には、自分を殺す術がないと判断したためだ。
 始めに横たわらせた直後何か隠し持っていないかチェックもしたし、デイパックや支給品も全て自分の掌中にある。
 完全に優位だと自覚したことで、詰まっていた返答が小さく開いた唇の合間から漏れる。

「な、なんで急にそんなことを……」

 あくまでも返答を搾り出せただけらしい。虚勢すら張れていない、酷く弱々しい応答。
 自分はこんなにまで弱気だったのか、などと内で嘆きつつも、晴彦は会話の続きを求めていた。
 東條との間になんとか協力態勢を継続して、次の目的を定める――――そんな形へ、話題を展開するために。

「別に。君なんかに話しても、無駄なんじゃないかな」

 どう返せば良いのか、咄嗟にはとるべき対応が思い浮かばなかった。言意というよりも、その暗いオーラに包まれたトーンに対して。
 これが幸いしてか、晴彦は先程感じたギャップの原因に気付く。大きな、読み誤りに。
 もやもやとした違和感が晴れていく課程を経て、彼は起き上がって以降、身を屈めたままの体勢を維持している東條の全体像を視界に収めた。
 たった一度の瞬きを境目として、印象がガラリと変わった。自分が無意識の内に生み出していたフィルターを、切り換えたかのような感覚に襲われる。

 元々は、北崎と同じ類に括られるような人間なのだと感じていた。
 どんな状況下にあっても必ず己は高い位置に構える自信家で、こちらを見下してくる。そんな奴なのだと。
 違いと言えば、北崎は自分と同様ヒトを越えた異型の存在であることが明らかなのに対し、東條は現時点ではただの人間として映ること。
 ただ一度共闘しただけの間柄である彼に晴彦がそんな感想を持ったのは、妥協を込めた願望が混じっていたからだろう。
 更には持って間も無い、『東條が二人の参加者を殺した』実績への確信。

 つまり、晴彦は東條に代役を求めていたのだ。同時に、北崎を裏切ったことを後悔している証でもある。
 だから裏切る前に状況を似せようとして、彼に期待を寄せた。再び他者に従属して、生存への路を開こうとした。
 だというのに、希望と反して彼は縮こまっている。これでは代役など期待の仕様がなかった。
 こうなったら殺すべきなのではないのか、と一考する中、葛藤に中断を持ち込む様に彼が口を開く。

「君は、三田村……だっけ?」
「そうだ。僕は、三田村……晴彦」

 名前を知っている理由を思い起こせば、『三田村君』というフレーズを多様してきた北崎の笑顔が真っ先に浮かぶ。
 ある時は龍人に、あるいは帝王に、更には金蟹に外見を変化させ、彼は晴彦に声を掛け続けた。東條の発言も、そこに由来があるのだろう。

「そう。僕の名前は……さっき話したっけ、三田村君?」
「ああ。凄く聞き取り難かったけど……東條悟だよな?」

 軽く首を縦に振りつつ、自分に聞き間違いがないか確認で聞き返した。
 『さっき』とは、ここに身を潜めて間もなくして東條が目覚めた時のことを指す。
 その際に晴彦は彼の名前を聞いたが、直後に彼が目を閉じたので会話はそこで中断されていたのだ。

「そう思ってくれて構わないよ。……で、あの北崎とか言う奴は倒せたの?」
「い、いや……それが……」

 簡単にこれまでの経緯を話す。と言っても、東條が気絶して以降の僅かな行動に過ぎない。負けて、逃げて、荷物を確認。それだけだ。
 確実に勝利を掴むことができるという触れ込みで彼に停戦を持ち掛けた晴彦なだけに、敗退の報告には息がつまる思いだった。

「あんな大口を叩いておいて、結局負けたんだ。しかも、大事なデッキまで……」

 東條はそう言うと、周辺に転がった幾本かのペットボトルを全て片方のデイパックに滑りこませる。理由を求められた彼は簡潔に可能性を語った。
 カードデッキ損壊によって無効となったミラーモンスターとの契約。それによって起こり得る事態――鏡面からの銀犀による奇襲。
 君がそれを使えばなんとかなるかもね、と虎の紋章が彫られた青のカードデッキが指差された時、晴彦はみるみる内に自身の顔が青く染まっていくのを感じていた。
 タイガへの変身を移動のために行使済だとあたふたしながら伝えるが、相変わらず表情を欠いたまま。
 戦力が包丁一本という状況への焦りや怒りも、あわてふためく眼前の青年への嘲笑も、姿を表すことがない。

「なあ、本当に……どうかしたのか?」
「君には関係のないことだよ」

 一蹴。問い掛けた晴彦も、これには思わずふさぎ込む。間を持たせられなくなった末に、小規模ながら散乱した食料品へと手を伸ばした。
 モンスターの襲撃を阻止するために戻されたペットボトルに習い、食料品を同じデイパックに、もう一方へ共通の支給品群を詰め込む。
 しばしの時を稼いでも無駄なのだと頭では理解しながらも、別の選択が過ぎらない現状を嫌悪していた。
 いや、選択肢などいくらでもあるのだ。殺すでも、引き連れていくのでも良い。
 初めて北崎と対峙した時も、後に裏切った時にも、殺す覚悟を抱いて戦に臨んでいた。
 ショッカーの支配下にあった頃は、幾人もの配下達を従えていたこともあった。
 そんな自分が、今更人間一人に引っ張られるのを望むことこそ筋違いと言える。
 正確には、今更決断一つ成せない己を憎むべきだった。それも分かっているのに、何故先へ進めないのか。
 震える手でサバイブのカードを掴む。閉ざされた唇の奥で噛み締められた歯がぎりぎりと音を立てていた。
 カードの中央に描かれた金色の翼が、背後でその威風を引き立てている烈火が、数刻前より輝いて、そして羨ましく映る。
 持ったカードをどうするか悩んだが、デイパックにわざわざ戻す必要のあるものでもない。
 暫定的な措置として、タイガのデッキにカードを滑り込ませる。次に変身する場面が訪れれば、カードの真価も見出せるだろう。

「ねえ」

 突如掛けられた声に異変を察知して、晴彦が思わず顔を向けた。

「今のカード、見せてくれないかな」

 東條の表情に、玩具の話をする北崎がダブって見えた。


 この島に、殺し合いに来るほんの少し前。東條悟は一人のライダーを殺した。
 実の所止めを刺したのは彼ではないのだが、彼に真相を知る由もない。
 何れにせよ、その勝利は敗戦を重ねていた彼に名誉挽回を齎した。
 更にこの島では、三人の参加者を殺した。仮面ライダーガイ、仮面ライダー二号、ギラファアンデッド。
 様々なシチュエーションで彼らの命を絶っていく内に、元の世界で失いかけていた自信は完全に取り戻されつつあった。
 自信が戻っていったが故に、気に入らない存在への憎悪も募っていった。
 変身不可能な状況であるにも関わらず、ライダーとなっていた自分を撃退した本郷猛は、既に死んでいる。
 残るは馬を模した異形や銀の装甲に赤のラインを駆け巡らせたライダーに変身する青年と、北崎というらしい龍人。
 彼の英雄観を打ち砕いた前者に加え、正面切っての戦闘で彼を圧倒した後者。
 両者共に、英雄までの道のりに避けては通れない存在だった。
 その筈が、必要条件として越えなければならない相手に負けた。
 スペック上では同等か、それ以下のデッキを用いられた際にまでもだ。
 本来ならば一人でも勝てて当然という解釈があった以上、三田村晴彦の吐血による攻撃失敗は、この場合問題ではない。
 遂には、事が終わった後に殺害しようとしていた相手に情けを掛けられて、無様に生き残っている。
 ようやく再構築されようかというところだった彼のプライドは、ズタズタに切り刻まれた状態に等しい。
 何か浮上する切欠はないのかと、沈んだ気持ちで物思いにふけっていた時。"ソレ"に彼の目線は固定された。

「ねえ、今のカード、見せてくれないかな」

 晴彦が深刻な表情で眺めていたカードは、城戸真司が所有している筈の『サバイブ』だった。
 神崎士郎がライダーバトルの進行を促すために一部のライダーへと与えた、戦闘力強化カード。
 サバイブがライダーに与える力の程は、東條も良く知る所だった。

(このカードが使えれば、北崎って奴も倒せる。もう一度、英雄を目指せるんだ)

 急に訪れた東條の変調に驚愕した晴彦は、拒否することなくデッキを渡してきた。
 話に寄れば、サバイブのカードはデイパックに入っていたらしい。

(確かこいつのデイパックは、奪われたままだったよね。つまりこれは……)

 東條自身のデイパックは包丁を取り出した際に隅々まで調べてあることから、島で最初に出会った芝浦の支給品ということになる。
 つまりは戦利品だ、自分の力で勝ち取ったものだ、と満足しつつ、カードが発見されたデイパックを晴彦の付近から引っ張り込む。
 もしかすれば、まだ何かが入っているかも知れない――期待を膨らませて、基本支給品の類を掻き分け彼の手は進む。

「それって、一体どんなカードなんだ」
「……これはね、タイガのデッキじゃ使えないみたいだ。使うには、城戸真司のデッキを奪うしかないね」

 『仮面ライダー龍騎をサバイブ態へ変身させる』とだけ書かれた紙切れを引っ張りだした東條が言い、少しばかり残念な表情を形作る。
 しかし、明らかにその表情は色と呼べるものを取り戻していた。
 指針を見出せず四苦八苦していた自分が余計に情けなく思えて、晴彦は思わず目を背けながら声を上げた。

「でも、その城戸真司って奴がデッキを持ってるとは……」
「彼は生きてるみたいだし、多分持ってるよ。僕も自分のデッキを支給されたしね。
 君みたいな弱い奴には、この島に来てない奴のデッキが渡されてるみたいだけど」
「そ、そうなのか……でも、そこまでして使う必要があるカードなのかな」
「性能は僕が保証するよ。あの力を手に入れれば、あの北崎を殺して英雄に近づくのも遠くない」
「英……雄?」

 不適に笑う東條に北崎とは一風違った狂気を感じつつ、晴彦は英雄について恐る恐る問う。

「そう、英雄。この戦いに勝ち残って、香川先生の前で、僕は皆から認められる英雄になるんだ。
 ……君は分かってくれるよね? 僕の、この英雄的行為の素晴らしさを」
「あ、ああ…………やっぱり、その香川先生っていう人も……」
「当然じゃないか。先生は僕に道を示してくれた大切な人さ。もう一回死んだ筈だけど、
 この島では先生がまだ生きてる。そんな先生を最後にもう一度殺した時、僕は真の英雄になれるんだ」

 溢れる笑みに歯止めをかけようともせず、東條は理想の展望を垂れる。
 香川なる人物が彼にどの様な影響を与えたかは定かではない。

(一回死んだ筈、か……)

 自分と同じ境遇の参加者がこの島にいる。それは即ち、スマートブレインの死者蘇生技術がいよいよ現実味を帯びてくることにもなる。
 死ぬ訳にはいかない。まして、せっかく生きながらえた大切な人を再び死に追いやろうとする、東條の様な人間に殺される訳にはいかない。

「じゃあ、そろそろ行こうか。君はまだ、殺さないでおくよ。荷物運び位にはなるよね?
 ……もしかしたら君も、僕にとって大切な人かも知れないし、ね」

 木箱に戻した包丁と首輪をデイパックに入れつつ、東條は立ち上がり、歩きだす。
 追従する晴彦はもう片方のデイパックを担ぎ、堂々たるその背中を見据えていた。
 今しばらくはこれでいい。相反する望みを持った二人の歩みがいつまで続くのか――その答えを知る者は、誰もいない。

状態表


【三田村晴彦@仮面ライダー THE FIRST】
【F-5 上部  川沿いの雑木林】【日中】
[時間軸]:原作での死亡直前から
[状態]:全身に中度の疲労、全身に強い痛み、不可解な衝動(リジェクション)への疑問、
    北崎に対する強い恐怖 、一時間タイガへ変身不能
[装備]:特殊マスク、鞭
[道具]:飲食物(二人分)
【思考・状況】
基本行動方針:彼女を救うために勝者となる。
1:当面は東條に従って行動する。
2:北崎とはできるだけ離れたい。
3:リジェクションへの不安。できるだけ早く原因を突き止めたい。
4:いざとなれば迷わない。
5:桐矢、海堂に僅かな罪悪感。
6:自身が改造人間(コブラ)であることは東條に黙っておく。
【備考】
※変身制限がある事を把握しました(正確な時間等は不明)
※リジェクションの間隔は次の書き手さんに任せます。(現状は頻繁ではない)

【東條悟@仮面ライダー龍騎】
[時間軸]:44話終了後
[状態]:中程度のダメージ。タイガに1時間変身不能。
[装備]:カードデッキ(タイガ・若干ひび割れ)+サバイブ烈火@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品×2(飲食物抜き)、首輪(芝浦、金居) 、田所包丁@仮面ライダーカブト
[思考・状況]
基本行動方針:全員殺して勝ち残り、名実共に英雄となる
1:『ある程度の力を持つ参加者を一人でも多く間引く』
2:できれば最後の仕上げは先生(香川)にしたい
3:龍騎のデッキを入手するため、城戸真司を探す。北崎と戦うのはその後。
4:三田村はとりあえず生かしておく。殺すタイミングは今後の動向次第。
5:殺した奴の首輪をコレクションするのも面白い。積極的に外す 。
6:木場(名前は知らない)に自分が英雄であることを知らしめる為、自らの手で闘って殺す。
※三田村が改造人間(コブラ)であることを知りません。



103:牙の本能 投下順 105:病い風、昏い道(前編)
101:藪をつついて黒龍を出す 時系列順 107:香川教授の事件簿
099:金色の戦士(後編) 三田村晴彦 106:龍哭(前編)
099:金色の戦士(後編) 東條悟 106:龍哭(前編)
|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|
  
- (T: - /Y: - )

投下順に読む

時系列順に読む

死亡者リスト

支給品一覧

その他




リンク





更新履歴