犀虎の十分間

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犀虎の十分間


眠りから気が付いて呆然としていたのはほんの数分。
気合を入れて東條悟はまず真っ先に名簿を確認した。
強制的に眠らされる直前、あの広間で見かけた人物が本当に東條の知る人物なのかを確認する為だ。
見間違いを願う気持ちが半分、本物であってほしいという気持ちが半分。
名簿の中に広間で見かけた顔と一致する名前があった。東條がもっとも大事な人の名が。
「先生…生きて、いや、帰ってきてくれたんだぁ」
思わず涙がこぼれる。本当に、東條は嬉しいのだ。
「先生…僕、英雄になります。皆殺して、最後に先生を殺して…僕は英雄に、強い英雄になりますから…
 だから、それまで死なないで下さい。先生は必ず僕が殺しますから…」
東條の願い事は唯一つ、皆に好かれる英雄になる事。
以前のライダーバトルは仮に勝ち残ったとしても英雄になれるか確証はなかった。
だが今回は違う。あやふやな言い方ではなく、はっきりと財力で、権力で、科学の力で報酬を約束してくれたのだ。
東條にとってこれほど頼もしい事はない。必ず勝ち残り、そして英雄になる。
できれば先生と最後の二人になって、先生を仕上げとして英雄になりたい。東條はそう願った。
様々な思いが東條の心を駆け巡る中、手の中の携帯から音が鳴り名簿画面からどこかの上空の画面に切り替わった。

芝浦淳のテンションはかなり高くなっていた。
あのゾルダのエンドオブワールドで吹っ飛ばされたかと思えばあの広間、そして新たなゲームの説明。
しかも人数は以前のライダーバトルを遥かに超えている、名簿を確認すると54名もの名前があった。
54!それだけの大人数でこんなゲームを楽しめる!テンションも自然と上がるというものだ。
「54かぁ、これだけの大人数でライダーバトルなんてしたら…面白いだろうなぁ♪」
鼻歌まで歌いだしつつデイパックの中を漁る。まずは自分の状態を知ることが不可欠だ。
事前の説明通り地図に飲食料に筆記用具は見つかった。問題はゲームを楽しくするという道具だが…
「これは…アドベントカードか?」
炎と翼が描かれた見たこともないようなカードだ。ガイのデッキでは使えそうにない。
「これしかないの~?まったく、ハズレもいいとこだよ」
高めのテンションが少しさがりほどよい高さになったところで何かが鳴り響いた。
身体をまさぐるうちにポケットの中から携帯を確認し、画面を開いた。男女が映っていた。

          *   *   *

惨劇と警告が一通り終わったところで芝浦は息をついた。
「へぇ~、首輪はまさしく飼いならす為の首輪か。位置を把握する程度の物かと思ってたけどなぁ」
人が灰化するという異常な現象を目の当たりにしても芝浦のテンションは下がらない。
芝浦にとっては54から52になった程度の事なのだ。
「逃げ出すような奴は英雄になれないってことだね…」
東條には死んだ二人がとても哀れな存在に思えた。
こんなチャンス滅多に無いのにそこからわざわざ逃げ出すなんて正気の沙汰じゃない、東條にはそう思えた
「まぁこれはゲーム開始の合図ってとこだと思うけど、あんたはどうよ?」
芝浦はポケットからガイのデッキを取り出しながらアスファルトの上にペットボトルを置き、
5メートルほど離れた所にいる東條に声をかける。
「いいよ、僕はいつでも。安心してよ、楽に殺してあげるから」
タイガのデッキを取り出し、芝浦と同じようにペットボトルを傍に放りつつ、東條は芝浦を睨みつける。

二人の鏡の世界のライダーが送り込まれた地点はほぼ同じ場所であった、まるで戦闘を促すかのように。

「ふーん…俺と同じタイプなんだ。あの映像の二人を見るとどうも別のタイプのライダーもいるみたいでさ。
 あんたがそうだったらちょっとめんどくさいかなって思ってたけど…」
自らの強さを誇示するかのごとく、力強く右腕を曲げ…
「変身!」
鏡の世界から出現したVバックルにデッキを差し込むと多重の虚像が重なり合って一つとなる。
甲冑を身に纏ったようなサイの化身、仮面ライダーガイがそこにはいた。
「同じなら全然問題ないね。だって慣れてるし、それにあんた弱そうだもん」

「別に君がどう思おうと関係ないね、僕が強いことに変わりはないし。それに…」
左腕を前へと突き出し、右手にはデッキを持って…
「変身!」
鏡の世界から出現したVバックルにデッキを差し込むと多重の虚像が重なり合って一つとなる。
白と青の色彩が美しいトラの化身、仮面ライダータイガがそこにはいた。
「それに、君って多分脱落したライダーでしょ?そんなライダーに負けるわけないよ」
「脱落?何言っちゃってるわけ?英雄だかなんだか言ってたからちょっとアレかなぁ~?とか思ってたけどさ
 間違いだった。ちょっとどころか完全に頭いかれちゃってるよね、おたく」
頭を指差しつつ取り出したカードを左肩のメタルバイザーにベントインする。
――STRIKE VENT――
電子音声が鳴り響きガイの右腕にメタルゲラスの頭を模した手甲、メタルホーンが装備された。

「そっか、知らないならいいよ。でも君のモンスターは僕が知る限りでは他の人と契約してたけどね」
仮面の下で冷たい笑みを浮かべつつ斧の形をした召喚機、デストバイザーにカードをベントインする。
――STRIKE VENT――
電子音声が鳴り響きタイガの両腕にデストワイルダーの腕を模した手甲、デストクローが装備された。

一瞬のにらみ合いの後タイガがガイへと一気に詰め寄る。
「ハァッ!」
カウンター気味に突き出したメタルホーンの一撃がタイガの装甲を抉る。
しばしふらつき少し距離をおいたかと思えば再びタイガはガイへと一気に駆け寄ってきた。
「馬鹿が!」
またカウンターを狙ってガイがメタルホーンを突き出すのとタイガが飛び上がるのは同時であった。
突き出されたメタルホーンを足場代わりに両腕のデストクローがガイの装甲に傷を残す。

「へぇ、やるじゃん」
ガイが感嘆の声をあげ、二人のライダーは再び距離を置いた。
タイガの両腕にはいつのまにかデストクローが装備されていない。
「当たり前じゃない、僕は英雄になるんだもの。浅倉なんかに負けた君に負けるはずないよ」
「!?なんで俺が浅倉に負けたなんて言うかな?浅倉なんて只の殺人狂じゃないか。
 あんなのに負けたなんて言われると嘘でもむかつくんだけどな」
突然の言葉に流石のガイも驚きを隠せない、驚きはすぐに怒りへと変わったが。
「事実さ。だって君とよく似たモンスターを使ってる所、僕見たもの。
 君のモンスターは契約者が死んだらさっさと鞍替えするってわけだね」
話しつつ新たなカードをデストバイザーにベントインする。
――ADVENT――
内心タイガはほくそ笑んでいた。
相手の隙を誘い契約モンスターのデストワイルダーに背後を襲わせ一気に攻勢をかける。
タイガは正面からの戦法も得意としていたが奇襲戦法も得意なのだ。
(あとはトドメだけだ…っ!)
タイガがそう確信しガイの背後にデストワイルダーの爪が迫ったところで電子音声が鳴り響いた。
――CONFINE VENT――
電子音声と共にデストワイルダーは虚空へと消え去った。

タイガは一瞬自分の目を疑った。が、すぐに一つの可能性に気づき素早く別のカードをベントインする。
「こういうカードもある…って聞けよ人の話」
ガイが得意げに話す間にもタイガは新たなカードをベントインしていた。
――RETURN VENT――
(リターン…復帰!?)
ガイが咄嗟に振り向いてメタルホーンを突き出せたのは半ば奇跡に近かったかもしれない。
背後に迫っていたデストワイルダーはガイの一撃で吹っ飛ばされていた。

「驚いたな、コンファインベントに対抗するカードがあったんだ。まぁ、無くても不思議ではないけどさ…」
「僕も使うの初めてだったけどよかったよ、ちゃんと使えて」
コンファインベントで困惑させ、その間に一撃。それがガイの戦法だったのだろう。
今のガイは明らかに狼狽えている。少なくともタイガにはそう見えた。
「トドメ刺しちゃうね?ダラダラやっててもしょうがないし」
タイガが再びデストバイザーにカードをベントインさせようとした所で信じられないものが飛んで来た。
メタルホーンだ。ガイのメタルホーンがデストバイザーをセットしかけたカード毎吹き飛ばしたのであった。
狼狽えていたのが嘘のように素早い動きだ。タイガはガイに踊らされたというところだろうか。
「君みたいなタイプ見るたびに思ってたけどさ~。
 そういうバイザーが身体と一体化してないライダーって明らかにやばいよね~?こういう時」
ミラーワールドのライダーはバイザーにカードをベントインして初めて様々な能力を発動させる。
カードとバイザーはある意味命綱なのだ。カード自体は全てのライダーの腰にセットされており本体と離れることはまずない。
だがバイザーは違う。一部のライダー、即ちタイガ等はバイザーが身体と一体化していないため本体と離れてしまうのだ。
「こういう時どう?相手を追い込んで、さぁラストだって時に逆転されて、好きなように殴られるの。惨めだよねぇ~、あんた」
タイガが狼狽えた隙を逃さずガイはタイガに殴る蹴るの暴虐を一気に加える。タイガが倒れこんでもそれは続いた。
「くっ、デストワイルダー!ぼやぼやするな、早く助けろ!」
「させるかよ」
必死に助けを求めるタイガを嘲笑するかのようにガイの冷たい声と共に電子音声が響いた。
――ADVENT――
主を救わんとようやく立ち上がり駆け出すデストワイルダーをメタルゲラスが妨害した。
本来ならデストワイルダーの方がメタルゲラスをAPで多少は上回っているのだがガイの一撃でダメージを負っており二匹はほぼ互角であった。
その光景を確認してからガイは再びタイガへの暴虐を再開した。
「はは、どうだ?もう助けがないっていうこの状況、あんた今すっげー情けない顔してるだろ?仮面の下が透けて見えるぜ」
顔面を踏みにじられ、暴言をの嵐を浴びせられ、タイガはもう限界だった。
「ん?」
ふと見るとデストワイルダーから粒子が噴出していた、多少ダメージを負っているとはいえいくらなんでも早すぎる。
その状況に目を奪われたせいかガイの攻撃が緩んだ。ほんの一瞬だがタイガには充分な間であった。
ガイの攻撃から転がるように抜け出し、放り出されていたデストバイザーを手に取りカードをベントインする。
――FINAL VENT――
「はぁはぁ…これで、殺してあげるよ…。やれ!デストワイルダー!」
主の声を聞き、メタルゲラスを吹き飛ばし、粒子を噴出しながらデストワイルダーはガイへと迫る。
「最後の…最後に、逆転すれば、それでいいんだ。これで終わりだ!」
タイガが勝利の雄たけびを挙げつつデストワイルダーが獲物を引きずってくるのを待ち構える。
ガイは迫り来るデストワイルダーを気にも留めず冷静に左肩のメタルバイザーにカードをベントインした。
――CONFINE VENT――
無情な電子音声が鳴り響きデストワイルダーは虚空へと姿を消した。
「カードは一枚だけじゃない…ってね」
デストクローを装備して待ち構えていたタイガはがっくりと膝をつく。もはや万策は、尽きた。
「英雄なんて不相応なもん目指す奴はこんなもん、か。
 生かしておいてもこのゲーム楽しませてくれるとは思えないし。…もう死になよ」
口では余裕を演じつつ焦りながらガイは最後のカードをベントインする。
メタルゲラスから粒子が噴出しているのだ。先ほどのデストワイルダーといいどうも制限がかけられているらしい。
――FINAL VENT――
メタルホーンを右腕に装備したガイを背負い、メタルゲラスがタイガへと突進する。
「KILL YOU」
勝利を確信し呟くと同時にガイは見た。
タイガがデストバイザーを杖代わりにフラフラと立ち上がり、カードをベントインするその瞬間を。
そして聞いた。凍てつく電子音声を。
――FREEZE VENT――
狙ったわけではない。ただ最後の最後まで残ったのがこれだから、だからタイガはベントインした。

だから、今この瞬間、全てはカードの法則通り…

――FREEZE VENT――

メタルゲラスは瞬間的に凍りつき…

「なっ!?うぉわぁっ!」

メタルゲラスの突進エネルギーをそのまま受け継いだ形になったガイは放り出され…

デストバイザーを振りぬくタイガをガイは見た。

その状況はさながら野球のようでもあり…ガイはタイガの横を通り抜けた。

芝浦の頭と芝浦の身体はそうして別れた。

          *   *   *

「はぁ…はぁ…や、やっぱり僕は強くなってる…これなら、英雄に、なれる…」
息も絶え絶えに東條は芝浦のデイパックとガイのデッキを回収する。中の確認は後回しにしておく。
ついでに芝浦の首輪も回収しておく、これをもっていると自分で殺したという実感がふつふつと湧いてきたからだ。
「…そうだ、皆の首輪をこうやって集めるのも悪くないかも。ふ、ふふふ…」

東條は優勝へと歩き出した。英雄になる為に。その為に人を殺すのだ。迷い等ない。
「先生に首輪を見せたら、どんな顔するかなぁ?ふふふ…」

迷いは多分、無い。

【芝浦淳@仮面ライダー龍騎 死亡】
※芝浦淳の首と身体はH-4エリア道路近くに放置されています

【残り 50名】

状態表


【東條悟@仮面ライダー龍騎】
【1日目 深夜】
【現在地:H-4道路近くで休憩中】
[時間軸]:44話終了後。
[状態]:疲労大。タイガに2時間変身不能。
[装備]:タイガのデッキ
[道具]:基本支給品×2、特殊支給品(未確認)、サバイブ烈火@龍騎、ガイのデッキ、芝浦の首輪
[思考・状況]
1、全員殺して勝ち残り、名実共に英雄となる
2、できれば最後の仕上げは先生(香川)にしたい
3、殺した奴の首輪をコレクションするのも面白い
備考
1、東條はまだ芝浦の特殊支給品(サバイブ烈火)を確認していません

009:それが仕事な人たち 投下順 011:出るか?モモ獣人の必殺技!
009:それが仕事な人たち 時系列順 011:出るか?モモ獣人の必殺技!
東條悟 028:それぞれの場合/NEXT STAGE
芝浦淳

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