「花見酒」(2006/01/27 (金) 21:35:39) の最新版変更点
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<p><font size="2">花見酒<br>
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近所の公園に着いてみれば、既に当然のように人が溢れていた。<br>
季節も変わり、気温が暖かくなったことで桜が満開になっていた。<br>
楽しそうに大騒ぎする大人たちを掻き分けて、皆を探す。<br>
いくら人が多くてもそんなに広い公園ではない。すぐに見つかった。<br>
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J「……で?」<br>
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見つけたときには既に遅かった。<br>
レジャーシートの上にずらりと並んだ酒類の数々。<br>
食い荒らされた弁当箱やおつまみ、そこに居座る人々の姿が惨状を物語っている。<br>
真紅、雛苺、翠星石、蒼星石、水銀燈、薔薇水晶、それと金糸雀。<br>
程度に差はあれ、恐らく全員が酔っ払っていた。いや、一人を除いて。<br>
ベ「来てしまったか。ここからが本当の地獄だ……」<br>
何故か疲労の色濃いベジータが顔面を腫らしている。<br>
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べ「皆を酔いつぶれさせればハーレムが出来ると思ったんだがな……」<br>
悔しそうに語るベジータ。あまり同情する気にはなれない。<br>
J「まさか、誰かに変なことを……」<br>
ベジータに限ってそんなことはあるまいと思ったが。<br>
ベ「……やろうと思ったが、酔っているのに皆俺のことは見間違えずに殴ってくれたんだ」<br>
疑って悪かったと思う。なんだか少し可哀想になってきた……。<br>
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さて、改めて現状を確認してみよう。<br>
真紅「……くんくん、犯人がわかったのだわ」(睡眠中<br>
雛苺「うにゅぅー……うにゅぅーがいっぱい押し寄せてくるのー」(同<br>
翠「や、やめるですの……人がいっぱい見て」<br>
蒼「いいじゃないか、こういうのが興奮するんだろう?」(絡み中<br>
薔薇「プハーッ、飲んだぜ」(楽しそうに深酒中<br>
銀「薔薇水晶……私の……妹になりなさぁい」(絡み中<br>
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ちなみに誰も僕が来たことに気付いてくれていない。ちょっと泣きそう。<br>
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金「……あーらー?じゅーんなのかしらー?」<br>
いや、一人気付いてくれた(ベジータは問題外なのでカウントしない)<br>
皆一様に顔を真っ赤に染めている中――薔薇水晶は普段どおりだが。<br>
呂律こそ回っていないが、他よりは顔色の良い金糸雀。<br>
J「お前らどれだけ飲んだんだよ、出来上がるの早過ぎないか?」<br>
約束の時間に遅れること30分。どう考えても早すぎる。<br>
金「うー?覚えてないのかしらーあははははははは」<br>
不安に思い、ベジータに視線を向ける。目を背けやがった。<br>
ベ「薔薇嬢……そろそろ飲むのやめた方が」<br>
薔「あんだとを!!」<br>
ベ「グエーッ!!」<br>
止めようとして殴られるベジータ……あれはあれで本望だろう。<br>
金「じゅんもーのーむかぁしらー?」<br>
J「いや、僕はいいよ……(未成年の飲酒は法律で略)」<br>
金「えんりょはいらないのかしらー?みっちゃんにもらってくるのかしらー?」<br>
言いながら身体をふらつかせ、金糸雀は走っていった。<br>
そういや近くに保護者一同も来ているらしい。<br>
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数十分後<br>
少し離れて一人桜を見ながら弁当の残りをつまむ。<br>
遠目に観察してみるが、どうやら薔薇水晶とベジータ以外眠ってしまったようだ。<br>
ベ「そ、そろそろヤバいぜ薔薇」<br>
薔「もうちょっと待ってねえ!!」<br>
ベ「グボァ!!」<br>
諌めようとする度にベジータが殴られている。楽しそうだなあ。<br>
泣くほど嬉しいらしい。来て良かったなあ、ベジータ。<br>
そんな遣り取りを効果音代わりに、桜を眺めていると……<br>
金「ま、待たせたの……かしら?」<br>
J「あ、お帰り。遅かった……な」<br>
振り向いてみて驚いた。金糸雀が、着物に着替えていた。<br>
金「みっちゃんに着替えさせられて……ど、どうなのかしら」<br>
開いた口がふさがらない。普段の印象と違いすぎて、上手く反応できない。<br>
シンプルな布地ではあったが、それだけに桜や月夜に良く映えている。<br>
顔を赤らめているのは酔いだけではなく、恥じらいの所為もあるのだろう。<br>
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J「あ、ああ。驚いた。意外だけど似合ってるな」<br>
金「ありがとう、お世辞でも嬉しいのかしら~」<br>
大人びて見えるが、楽しそうに跳ね回る姿は普段通り。<br>
金「さっき穴場を見つけたから一緒に行くのかしら~」<br>
そう言って、手を引っ張って走っていこうとする。<br>
急に手を握られたせいで、心臓がドキドキしはじめる。<br>
J「あ、ベジータ。僕たちちょっと行ってくるから」<br>
ベ「え、待て!!お前俺を置いていくぐわ!!」<br>
薔「ああ、持ってけ!!」<br>
意味不明の言葉を叫びながらベジータを殴る薔薇水晶。<br>
少しだけ悪いなと思いながら、手を引かれるままに走っていった。<br>
……というか、薔薇水晶は本当に酔っているのだろうか。<br>
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連れて行かれた先は、一番大きな桜の裏側。<br>
絶好の花見ポイントだというのに人はまばらだ。<br>
金「何故か人が全然いないのかしら~」<br>
理由に即座に気付いた。……薔薇学の教師一同が近くに居座っている。<br>
それもかなり酔っているらしい。暴れたんだろうなあきっと……<br>
J「ま、まあいいじゃん。折角だしこの辺でのんびりするか」<br>
金「それじゃあ余興代わりに演奏でもするのかしら~」<br>
そう言って立ち上がる金糸雀――をこれ以上行動させてはいけない。<br>
脳裏には彼女のバイオリンが奏でる不協和音が浮かぶ。<br>
J「ま、待て。酔った状態じゃあ満足に演奏できな」<br>
止めようとしたが、遅すぎた。金糸雀のバイオリンが音色を奏ではじめていた。<br>
……<br>
J「あれ?」<br>
予想外に、ガラスを引っ掻いたような超音波は聞こえてこない。<br>
バイオリンからは美しい、懐かしさを感じる和の旋律が響く。<br>
J「さくらさくら……か」<br>
耳は音楽に、視線は演奏する金糸雀を見たまま。<br>
こんな時間がずっと続けばいいとさえ思ってしまった。<br>
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演奏が終わる。そして、今日の楽しかった花見が終わる。<br>
金「どうだったのかしら~」<br>
拍手で応える。金糸雀が照れて笑う。<br>
酔いのせいか、本来はこんな綺麗な演奏ができるのかわからない。<br>
だが、間違いなく今宵の僕にとっては最高の演奏だった。<br>
笑いながら近づいてくる金糸雀が躓く。<br>
J「おっと」<br>
咄嗟に受け止める。まだ酔いが残っているのだろう。<br>
金「あ、あらーなのかしら。何だかふらついて……」<br>
J「負ぶうよ。さっきの演奏のお礼代わりだ」<br>
自分の状態はわかっているのか、素直に金糸雀は従った。<br>
<br>
帰り際、横目に映る薔薇学教員一同。<br>
考えたくないほどの惨状の中、唯一アーカード先生だけが素面のようだ。<br>
ア「いい月夜だな。気をつけて帰れ」<br>
最初から気付いていたらしい。顔もこちらに向けずに言ってくる。<br>
J「はい、失礼します。おい、金糸雀……」<br>
先生に挨拶をさせようとして気付く。<br>
金「すぅ……すぅ」<br>
J「寝ちゃったか。まあ結構飲んでたみたいだ……あ」<br>
ア「構わんよ。だが次からは気をつけろ」<br>
別段気にもしていない様子のアーカード先生に感謝しながら、その場を後にする。<br>
寝息が首筋に当たって少しくすぐったい。<br>
金「……ジュン……大好き……なのかしら……すぅ」<br>
J「んー?何か言ったかー?」<br>
よく聞こえなかったが、ただの寝言だろう。<br>
背中に暖かさを感じながら、日常へ戻ろう。<br>
皆を起こして、家に帰ろう――<br>
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ベ「お、遅かったな……こっちは本当の地獄だった……ぜ」<br>
ボロボロの体で、全てをやり遂げた男が倒れた。<br>
ああ、忘れてた。お疲れ様ベジータ……<br>
紅「なんだか頭が痛いのだわ……」<br>
雛「うにゅぅがぁ……うにゅぅに食べられるのぉ……」<br>
蒼「ふぅ……なんだかとてもいい夢を見たような(ニコニコ)」<br>
翠「な、なんだか気持ちいいような複雑なような夢を見た気が……」<br>
銀「さ、帰れる?薔薇水晶」<br>
薔「……ベジータ君、どうして倒れてるの?」<br>
雛苺を除いて皆起きている。状態にある程度差はあったが。<br>
<br>
それぞれがそれぞれの方向へと別れていく。<br>
寝ていた金糸雀は僕を掴んでなかなか離さなかったが。<br>
彼女の保護者――みっちゃんさんが、連れて帰った。<br>
花見なんて好きでもなかったが、決して悪くはなかった。<br>
いや――楽しかった。金糸雀の珍しい姿も見られた。<br>
宴は終わり。僕も家へと帰ろうとして――強い風が吹いた。<br>
<br>
桜の花びらが狂ったように舞い散る。<br>
桜の木からも花が散っていく。風が吹いていたのはほんの少しの時間。<br>
儚いだとか、寂しいだなんて感じられないくらいの壮観。<br>
そして、背中の方からあの元気な声がした。<br>
金「ジュンー!!また、明日なのかしらー!!」<br>
<br>
ああ、綺麗だなあ。そう思いながら手を振り、僕は走る。<br>
叶うならば、こんな幸せを、楽しさを、今日の夢にも見られますように。<br>
<br>
おしまい<br>
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おまけ<br>
ベ「……はっ!!ここは一体」<br>
周囲を見回す。誰もいない。置いて帰られたらしい。<br>
ベ「……本当の地獄だ」<br>
梅「ベジータ、なんだこの酒盛りの跡は!!」<br>
ベ「……ここからが本当の地獄だ!!」<br>
<br></font></p>
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